(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953362
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20160707BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
C09K3/14 520G
C09K3/14 520M
C09K3/14 530G
C09K3/14 520L
F16D69/02 G
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-251547(P2014-251547)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-113505(P2016-113505A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年3月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 渉
(72)【発明者】
【氏名】矢動丸 雄次
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−029653(JP,A)
【文献】
特開2005−233283(JP,A)
【文献】
特開2003−113368(JP,A)
【文献】
特開2006−290938(JP,A)
【文献】
特開2008−201930(JP,A)
【文献】
特開2000−344901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機繊維、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、無機充填材を含む摩擦材組成物を成型してなり、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材において、前記摩擦材組成物は、劈開性物質を含まず、結合材としてフェノール系熱硬化性樹脂を摩擦材組成物全量に対し8〜12重量%と、有機摩擦調整材としてカシューダストを摩擦材組成物全量に対し9〜18重量%、ゴム粒子を摩擦材組成物全量に対し6〜12重量%、かつ、カシューダストとゴム粒子を合計で摩擦材組成物全量に対し18〜25重量%と、無機摩擦調整材としてアルミニウム粒子を摩擦材組成物全量に対し4〜10重量%含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記フェノール系熱硬化性樹脂はストレートノボラックフェノール樹脂単独から成ることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記ゴム粒子の一部または全部として未加硫のNBR粒子を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車のドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材組成物を成型した摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の制動装置として、ドラムブレーキが使用されており、その摩擦部材として、鋼鉄等の金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたブレーキシューが使用されている。
【0003】
ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材はブレーキライニングと呼ばれ、繊維基材、結合材、潤滑材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、充填材等を所定量配合した摩擦材組成物を成型して製造される。
【0004】
近年、ブレーキには高い静粛性が要求されており、制動時に発生する高周波ノイズのみでなく、グー音とも呼ばれる低周波ノイズについても、その発生を低減することが求められている。
【0005】
低周波ノイズは、制動の繰り返しによって摩擦材の成分が相手材の摺動面に移着して被膜が形成され、その被膜と摩擦材との間でスティックスリップが起こることによって生じる100〜1000Hz程度の騒音である。
【0006】
低周波ノイズの発生を低減した摩擦材を提供するため、摩擦材組成物の改良が行われている。
【0007】
引用文献1には、金属繊維、有機繊維、無機繊維及び結合剤を含み、かつ全組成物中に黒鉛を2〜10重量%及び層間で劈開し易い板状構造の鉱物を1〜25重量%含有せしめてなる摩擦材組成物および、該組成物を混合した後加熱加圧成形し、次いで焼成することを特徴とする摩擦材が記載されている。
【0008】
引用文献1の発明によれば、摩擦材組成物に黒鉛、及び、マイカやバーミキュライト等の層間で劈開し易い板状構造の鉱物を所定量添加することにより、低周波ノイズを抑制することができる。
【0009】
引用文献2には、繊維基材と、樹脂結合剤と、雲母及びその他の充填剤とを含む摩擦材において、前記雲母は、合成フッ素雲母からなることを特徴とする摩擦材が記載されている。
【0010】
引用文献2の発明によれば、スティックスリップの発生の原因となる摩擦材と相手材との凝着が、摩擦材中に充填された雲母が鱗片状に劈開し、剥離して滑性の表面を形成することにより抑制されて回避される。その結果、低周波ノイズを低減することが可能となる。
【0011】
このように低周波ノイズを抑制するため、黒鉛、マイカ、バーミキュライト等の劈開性を有する物質を摩擦材組成物に添加することは当業界の技術的常識となっている。
【0012】
しかし、これら劈開性物質を添加することにより得られる効果はディスクブレーキのディスクブレーキパッドに使用される摩擦材において顕著に表れるものであり、ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材においては効果が表れず、逆に低周波ノイズが発生しやすくなる傾向にある。
【0013】
これは、ディスクブレーキのディスクブレーキパッドに使用される摩擦材とドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材の使用環境の違いによるものと推定される。
【0014】
ディスクブレーキは主に乗用車の前輪用のブレーキ装置として採用されており、ディスクブレーキパッドの摩擦材は、高温・高負荷の厳しい環境下で使用されることが多い。そのため摩擦材は摩耗しやすく、摩擦材の摩擦面は常に新しい状態が保たれることになる。その結果、劈開性物質の作用効果を継続的に得ることができ、低周波ノイズの抑制効果が持続する。
【0015】
一方、ドラムブレーキは主に乗用車の後輪用のブレーキ装置として採用されており、ブレーキシューの摩擦材にかかる負荷は比較的小さく、摩擦材の摩耗が進行しにくい。摩擦材の摩擦面が新しいうちは劈開性物質が摩擦材の摩擦面に存在するため、低周波ノイズの抑制効果を得ることができるが、劈開性物質が摩擦材の摩擦面から消失し、且つ、摩擦材の摩耗が進行しないという状態が維持されると、劈開性物質による低周波ノイズの抑制効果が得られなくなる。
【0016】
さらに、劈開性物質が摩擦材の摩擦面から消失した状態となったときにドラムブレーキが使用され、摩擦材に強いせん断力が加わると、摩擦材の内部に存在する劈開性物質の層間に瞬間的にズレが生じ、スティックスリップが発生しやすくなる。その結果、低周波ノイズが発生しやすくなるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平3−239784号公報
【特許文献2】特開平9−71768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、結合材、繊維基材(有機繊維)、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、無機充填材を含む摩擦材組成物を成型した、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材において、継続的に低周波ノイズの発生を低減し、効きと耐摩耗性が良好な摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の機構から、結合材、有機繊維、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、無機充填材を含む摩擦材組成物を成型した、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材において、継続的に低周波ノイズを低減するには、意外にも、従来低周波ノイズを抑制する効果があると考えられていた黒鉛、マイカ、バーミキュライト等の劈開性を有する原料を摩擦材組成物から除くことが最も効果的であることを知見し、さらに、結合材としてフェノール系熱硬化性樹脂を特定量と、有機摩擦調整材としてカシューダストおよびゴム粒子を特定量と、無機摩擦調整材の一部としてアルミニウム粒子を特定量含有する摩擦材組成物を使用することにより、低周波ノイズを抑制しつつ、効きの良好な摩擦材を提供できることを知見し、発明の完成に至った。
【0020】
本発明は、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される、摩擦材組成物を成型した摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0021】
(1)結合材、有機繊維、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、無機充填材を含む摩擦材組成物を成型してなり、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材において、前記摩擦材組成物は、劈開性物質を含まず、結合材としてフェノール系熱硬化性樹脂を摩擦材組成物全量に対し8〜12重量%と、有機摩擦調整材としてカシューダストを摩擦材組成物全量に対し9〜18重量%、ゴム粒子を摩擦材組成物全量に対し6〜12重量%、かつ、カシューダストとゴム粒子を合計で摩擦材組成物全量に対し18〜25重量%と、無機摩擦調整材としてアルミニウム粒子を摩擦材組成物全量に対し4〜10重量%含有することを特徴とする摩擦材。
【0022】
(2)フェノール系熱硬化性樹脂はストレートノボラックフェノール樹脂である(1)記載の摩擦材。
【0023】
(3)ゴム粒子の一部または全部が未加硫のNBR粒子である(1)または(2)に記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材において、継続的に低周波ノイズの発生を低減し、効きと耐摩耗性が良好な摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において結合材として使用するフェノール系熱硬化性樹脂としては、ストレートノボラックフェノール樹脂や、フェノール樹脂をニトリルゴムやアクリルゴム等の各種エラストマー、カシューオイルやシリコーンオイル等の各種オイルで変性した樹脂、フェノール類とアラルキルエーテル類とアルデヒド類とを反応させて得られるアラルキル変性フェノール樹脂、フェノール樹脂に各種エラストマー、フッ素ポリマー等を分散させた熱硬化性樹脂等の摩擦材に通常用いられる樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
その中でも、ストレートノボラックフェノール樹脂を単独で使用すると、低周波ノイズを効果的に抑制できるので好ましい。
【0027】
これは、ストレートノボラックフェノール樹脂の硬化物の弾性が、エラストマーで変性されたフェノール樹脂やエラストマーを分散したフェノール樹脂の硬化物の弾性よりも低く、ドラムブレーキの使用時に摩擦材が相手材に対するスティックスリップが発生しにくくなるからであると推定される。
【0028】
有機摩擦調整材としてのカシューダストは、カシューナッツシェルリキッドまたはその重合体をフルフラール、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類で硬化させ、粉砕して得られるカシューダスト、或いはカシューナッツシェルリキッドまたはその重合体をヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤によって硬化させ、粉砕したカシューダストを単独または組み合わせて使用することができる。カシューダストの含有量は、摩擦材組成物全量に対し9〜18重量%とする。
【0029】
また、有機摩擦調整材としてのゴム粒子は、タイヤトレッドゴムの粉砕粉、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末を使用することができる。
【0030】
その中でも、未加硫のニトリルゴム粉末を使用するのが好ましく、ゴム粒子の一部または全部として未加硫のNBR粒子を添加することにより、低周波ノイズの抑制効果が向上する。
【0031】
ゴム粒子の含有量は、摩擦材組成物全量に対し6〜12重量%とし、かつ、カシューダストとゴム粒子を合計で摩擦材組成物全量に対し18〜25重量%とする。
【0032】
無機摩擦調整材の一部にアルミニウム粒子を使用する。アルミニウム粒子を添加することにより、ブレーキドラムの摺動面にアルミニウムの被膜が形成され、低周波ノイズの原因となるスティックスリップの発生を抑制することができる。
【0033】
アルミニウム粒子は、アトマイズ法で製造された平均粒子径が50〜300μmのアルミニウム粒子を使用するのが好ましい。
【0034】
なお、本発明においては、平均粒子径として、レーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いた。
【0035】
本発明の摩擦材は、上記のフェノール系熱硬化性樹脂、カシューダスト、ゴム粒子、アルミニウム粒子の他に、通常摩擦材に使用される繊維基材(有機繊維)、無機摩擦調整材、pH調整材、無機充填材をさらに含む摩擦材組成物から成る。
【0036】
繊維基材としては、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリアクリロニトリル繊維等、通常摩擦材に使用される有機繊維を使用することができる。有機繊維の含有量は、摩擦材の強度を確保するため、摩擦材組成物全量に対し5〜10重量%とするのが好ましい。
【0037】
上記のアルミニウム粒子以外の無機摩擦調整材として、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化ケイ素、αアルミナ、γアルミナ、四三酸化鉄等の粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性人造鉱物繊維、ロックウール等の繊維状無機摩擦調整材や、銅粒子、真鍮粒子、青銅粒子、亜鉛粒子等の金属粒子または合金粒子が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
銅粒子、真鍮粒子、青銅粒子等の銅成分は摩耗粉として放出されることにより、自然環境への影響が懸念されることから摩擦材組成物に添加しないことが好ましい。
【0039】
無機摩擦調整材の含有量は、上記のアルミニウム粒子と合わせて、摩擦材組成物全量に対して7〜15重量%とするのが好ましい。
【0040】
pH調整材として水酸化カルシウム等の通常摩擦材に使用されるpH調整材を使用することができる。
pH調整材の含有量は摩擦材組成物全量に対して3〜15重量%とするのが好ましい。
【0041】
上記の結合材、有機繊維、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、pH調整材の残部として、無機充填材を使用する。無機充填材としては、ブレーキドラムの材質である鋳鉄に対する研削性が小さい、重質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、木節粘土等の無機粒子が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明の乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物を熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。
【0043】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0045】
[実施例1〜13・比較例1〜13の摩擦材の製造方法]
表1、表2に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、予備成型金型内で10MPaにて20秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で6分間成型した後、180℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して摩擦面を形成し、ブレーキライニングを作製した(実施例1〜13、比較例1〜13)。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1〜13、比較例1〜13のブレーキライニングについて、低周波ノイズ、効き、耐摩耗性を評価した。評価基準を表3に、評価結果を表4、表5に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、乗用車ドラムブレーキのブレーキシューに使用される摩擦材において、継続的に低周波ノイズの発生を低減し、効きと耐摩耗性が良好な摩擦材を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。