【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0026】
実施例
乳がん発症患者、及び非発症患者に対して自記式質問票及び面接法により、ラクトバチルス・カゼイ含有組成物の習慣的摂取を調査した。また、同様に大豆イソフラボンの摂取も調査した。
【0027】
1.対象
ケース:40歳以上55歳以下の女性で、乳がん発症患者(術後1年以内)306例
コントロール:ケースと性別、年齢、地域をマッチングさせた乳がん非発症者662例(なお、コントロール1例は調整因子の欠損のため、解析から除外した。)
対象の背景を表1に示す。表中のデータは、n数(%)もしくは平均値(標準偏差)である。
【0028】
【表1】
【0029】
2.ラクトバチルス・カゼイ含有組成物
「ヤクルト」(ヤクルト本社製)
「ラクトバチルス・カゼイを含むジョア・ソフールなどのヨーグルト」
上記製品(ヤクルト、ジョア、ソフール)はいずれもラクトバチルス・カゼイ YIT 9029の生菌を含有している。
【0030】
3.大豆由来成分
大豆イソフラボンを含む食品として、以下の9つの食品について摂取頻度と1回当たりの摂取目安量の調査を行っている。
・みそ汁 ・豆腐(みそ汁の具)
・豆腐(湯豆腐・冷奴など) ・高野豆腐、しみとうふ
・生揚げ、厚揚げ ・あぶらあげ
・なっとう ・豆乳
・大豆イソフラボンの健康食品、サプリメント
【0031】
4.主要評価項目の解析(ラクトバチルス・カゼイ(以下カゼイ)の摂取と乳がん発症の関連性の検討)
(i)カゼイ摂取量の定義
カゼイを含む食品・飲料(以下、「食品」)として、前記の2つについて摂取頻度と1回当たりの摂取目安量の調査を行っている。
これらの食品から、一般的に初経を迎えていると想定される小学校高学年以降で、カゼイによる曝露の有無(カゼイを摂取したことがあるかどうか)の2値変数を定義する。すなわち、カゼイの平均的摂取が週4回未満の場合を「曝露なし」、「小学校高学年(10〜12歳)の頃」、「20歳頃」、「15〜10年ほど前」において、シロタの平均的摂取が週4回以上の場合を「曝露あり」とする。
また、乳がん発症の有無とカゼイ摂取の用量反応関係について検討するため、「食べていない(飲んでいない)」、「月1〜3回」、「週1〜3回」、「週4回以上」の4カテゴリとした検討も行う。なお、以上のカゼイ摂取頻度のカテゴリ化の方法は、「小学校高学年(10〜12歳)の頃」、「20歳頃」、「15〜10年ほど前」における摂取頻度を、以下のようにスコア化し、分類する。
【0032】
<スコア化の方法>
(1)各食品・各時期の摂取頻度について、原則としてカゼイの摂取頻度を1日1回、1ヶ月を28日(=7日/週×4週)で摂取することとして、カゼイの摂取日数を以下のようにスコア化する。なお、幅をもって尋ねている期間については、その期間の中央値となる期間を採用する。
毎日2回以上=56(=2回/日×28日/月)
毎日1回=28(=1回/日×28日/月)
週4〜6回=20(=1回/日×5日/週×4週/月)
週2〜3回=10(=1回/日×2.5日/週×4週/月)
週1回=4(=1回/日×1日/週×4週/月)
月2〜3回=2.5(=1回/日×2.5日/月)
月1回=1(=1回/日×1日/月)
飲んでいない=0
(2)各時期・各食品の(1)のスコアを全て合計して{時期の数(3時期)×1ヶ月の週数(4週間)}で割った値、すなわち、1週間の平均的な摂取頻度(以下、「平均スコア」)を算出する。なお平均スコアは、小数点第1位で四捨五入する。
(3)平均スコアから、「飲んでいない」、「週1回未満」、「週1〜3回」、「週4回以上」となるよう、カテゴリ化を行う。
【0033】
(ii)解析方法
まずカゼイ摂取の有無と乳がん発症の有無についてオッズ比及びWald検定により推定した95%信頼区間を算出する。なお、帰無仮説の検定はMcNemar検定を用いる。
次に、地域と年齢のマッチング因子及び複数の調整因子を考慮した条件付ロジスティック回帰分析によりオッズ比及びWald検定により推定した95%信頼区間を算出する。調整因子は、連続データは初経年齢、摂取エネルギー量、運動量、出産数、20歳頃のBody Mass Index、カテゴリデータは、婚姻状況、最終学歴、喫煙の有無、女性ホルモン剤使用の有無、乳腺症罹患の有無、家族の乳がん罹患の有無、授乳経験の有無、出生時体重である。
また、マッチング因子は地域のみで、年齢は連続変数としてその他の複数の調整因子と同様に考慮した条件付きロジスティック回帰分析によりオッズ比及びWald検定により推定した95%信頼区間を算出する。
さらに、マッチング因子は地域のみで、年齢を40歳代・50歳代としてカテゴリ化してその他の複数の調整因子と同様に考慮した条件付きロジスティック回帰分析によりオッズ比及びWald検定により推定した95%信頼区間を算出する。
なお、以上の解析はマッチングを考慮した解析と考慮しない解析の2通りで行う。また、閉経の有無別の解析も行う。
【0034】
5.カゼイの摂取期間の長さと乳がん発症の関連性の検討
(i)カゼイの摂取期間の長さの定義
カゼイ摂取期間の長さを「摂取していない」、「5年未満」、「5年以上10年未満」、「10年以上」の4つに分類し、乳がん発症の有無とカゼイ摂取期間の長さについて用量反応関係の検討を行う。
(ii)解析方法
解析方法は、前記と同様に行う。
【0035】
6.大豆イソフラボンの摂取と乳がん発症の関連の検討
(i)大豆イソフラボン摂取量の定義
四分位点を基準に4カテゴリに分類し、乳がん発症の有無と大豆イソフラボン摂取量の用量反応関係について検討する。
(ii)大豆イソフラボン摂取量の計算方法
以下の計算方法を用いて大豆イソフラボン摂取量を計算する。
<大豆イソフラボン・計算方法>
・大豆製品の摂取量
(1)各食品の摂取頻度の選択肢のカテゴリに以下の数値を当てはめる。
月に1回未満=0
月に1〜3回=2/30
週に1〜2回=1.5/7
週に3〜4回=3.5/7
週に5〜6回=5.5/7
毎日1回=1
毎日2〜3回=2.5
毎日4〜6回=5
毎日7回以上=8
【0036】
(2)目安量の選択肢のカテゴリに以下の数値を当てはめる。
目安量より少ない=1/2
目安量と同じ=1
目安量より多い=3/2
(3)大豆製品の摂取量の計算
豆腐(味噌汁の具)の摂取量(g/day)=(1)の値*(2)の値*20
豆腐(湯豆腐・冷奴など)の摂取量(g/day)=(1)の値*(2)の値*75
高野豆腐・しみとうふの摂取量(g/day)=(1)の値*(2)の値*60
生揚げ・厚揚げの摂取量(g/day)=(1)の値*(2)の値*60
あぶらあげの摂取量(g/day)=(1)の値*(2)の値*2
なっとうの摂取量(g/day)=(1)の値*(2)の値*50
【0037】
・豆乳の摂取量
(4)豆乳の摂取頻度のカテゴリに以下の数値を当てはめる。
週に1回未満=0
週に1〜2回=1.5/7
週に3〜4回=3.5/7
週に5〜6回=5.5/7
毎日1杯=1
毎日2〜3杯=2.5
毎日4〜6杯=5
毎日7〜9杯=8
毎日10杯以上=11
【0038】
(5)豆乳の摂取量の計算
豆乳の摂取量(g/day)=(4)の値*200
・味噌汁の摂取量
(6)味噌汁の摂取頻度のカテゴリに以下の数値を当てはめる。
ほとんど飲まない=0
月に1〜3日=2/30
週に1〜2日=1.5/7
週に3〜4日=3.5/7
週に5〜6日=5.5/7
毎日飲む=1
【0039】
(7)味噌汁を飲む量のカテゴリに以下の数値を当てはめる。
1杯未満=0.5
1杯=1
2杯=2
3杯=3
4杯=4
5杯=5
6杯=6
7〜9杯=8
10杯以上=11
(8)味噌汁の味付けのカテゴリに以下の数値を当てはめる。
かなりうすめ=0.5
ややうすめ=0.75
ふつう=1
ややこいめ=1.25
かなりこい=1.5
(9)味噌汁の摂取量の計算
味噌汁の摂取量(g/day)=(6)の値*(7)の値*(8)の値*150
【0040】
(10)イソフラボン摂取量の計算
(3)、(5)、(9)の値を用いて
ゲニステイン(mg/day)
=豆腐(味噌汁の具)の摂取量(g/day)*(27mg/100g)
+豆腐(湯豆腐・冷奴など)の摂取量(g/day)*(27/100)
+高野豆腐・しみとうふの摂取量(g/day)*(9/100)
+生揚げ・厚揚げの摂取量(g/day)*(26/100)
+あぶらあげの摂取量(g/day)*(18/100)
+なっとうの摂取量(g/day)*(61/100)
+豆乳の摂取量(g/day)*(16/100)
+味噌汁の摂取量(g/day)*(2/100)
ダイゼイン(mg/day)=
豆腐(味噌汁の具)の摂取量(g/day)*(17/100)
+豆腐(湯豆腐・冷奴など)の摂取量(g/day)*(17/100)
+高野豆腐・しみとうふの摂取量(g/day)*(3/100)
+生揚げ・厚揚げの摂取量(g/day)*(15/100)
+あぶらあげの摂取量(g/day)*(8/100)
+なっとうの摂取量(g/day)*(37/100)
+豆乳の摂取量(g/day)*(8/100)
+味噌汁の摂取量(g/day)*(2/100)
イソフラボン(mg/day)=ゲニステイン(mg/day)+ダイゼイン(mg/day)
(iii)解析方法
解析方法は、前記と同様に行う。
【0041】
7.カゼイとイソフラボンの交互作用の検討
カゼイ摂取と大豆イソフラボン摂取の交互作用についても検討を行う。交互作用の検討では、カゼイ2カテゴリ(週4回未満・週4回以上)と大豆イソフラボン4カテゴリ(四分位点)の8つの組み合わせで、カゼイ摂取週4回未満・大豆イソフラボン摂取していない群を基準カテゴリとして、各群のオッズ比を推定する。このとき使用する解析モデルは、前記と同様に行う。
【0042】
8.ヤクルトの摂取と乳がん発症の関連性の検討
(i)ヤクルト摂取量のカテゴリ化の定義
ヤクルトの摂取量は、主要評価項目の曝露因子である「カゼイ」と同じ方法で調査されている。そのため、ヤクルト摂取量のカテゴリ化の定義は、前記と同様とする。
(ii)解析方法
解析方法は、前記と同様に行う。
【0043】
9.結果
(i)カゼイを含む食品を週4回以上摂取することにより、摂取していない人と比べて乳がん発症のオッズ比は0.647(95%信頼区間(CI)0.420−0.997、p=0.0483)であった(
図1)。とくに、20歳頃にカゼイを含む食品を週4回以上摂取することにより、摂取していない人と比べて乳がん発症のオッズ比は0.583(95%CI 0.371−0.915、p=0.0190)であった。閉経別で解析すると、閉経前ではカゼイを含む食品を週4回以上摂取することにより、摂取していない人と比べて乳がん発症のオッズ比は0.779(95%CI 0.460−1.321、p=0.3542)、閉経後ではカゼイを含む食品を週4回以上摂取することにより、摂取していない人と比べて乳がん発症のオッズ比は0.429(95%CI 0.186−0.985、p=0.0461)であった。また、カゼイを含む食品を10年以上摂取している人は摂取していない人と比べて乳がん発症のオッズ比は0.815(95%CI 0.539−1.234)であった。
カゼイを含む食品を週4回以上摂取、又は10年以上摂取することにより、乳がん発症を下げる傾向がみられた。
(ii)ヤクルトを週4回以上摂取することにより、摂取していない人と比べて乳がんの発症のオッズ比は0.742(95%CI 0.397−1.389、p=0.3515)で、乳がん発症を下げる傾向がみられた。
(iii)大豆(大豆製品)摂取では、乳がん発症のオッズ比は摂取していない人(18.76mg/日未満)と比べて、低摂取群(18.76〜28.81mg/日)で0.763(95%CI 0.517−1.126)、中摂取群(28.81〜43.75mg/日)で0.532(95%CI 0.352−0.805)、高摂取群(43.75mg/日以上)で0.476(95%CI 0.311−0.727)で、乳がん発症を下げる傾向がみられた(直線性p=0.0002)(
図1)。
大豆摂取が乳がん発症リスクを低下させることは他の調査でも報告されており、本調査の正確性を担保する結果であり、習慣的なヤクルトを含めたカゼイを含む食品の摂取が乳がん発症リスクを低下させるという結果の信頼性を高めるものである。
(iv)カゼイ摂取と大豆由来成分との組み合せは、カゼイを含む食品を週4回以上摂取することで乳がん発症のオッズ比が低下する傾向がみられ、特に、大豆由来成分の摂取が少ない人ではその傾向が顕著に表れ、カゼイを摂取することで、さらに乳がん発症リスクを低下させる傾向がみられた(
図2)。
(v)以上は、マッチング因子は地域のみで、年齢を40歳代・50歳代としてカテゴリ化してその他の複数の調整因子と同様に考慮した条件付きロジスティック回帰分析による結果である。また、前記ラクトバチルス・カゼイの摂取と乳がん発症の関連性の検討についての(ii)解析方法に記載した複数のモデルで解析を行い、結果の頑健性を確認した。