【文献】
デフォルト相関係数のインプライド推計,FSAリサーチ・レビュー2004(第1号),日本,金融庁,2004年12月,P.62-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記倒産可能性判定手段は、前記企業Bが倒産したときに前記企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値が企業Cが倒産したときに前記企業Aが倒産する条件付き倒産確率の値を超える場合は前記企業Bが倒産したときのみ前記企業Aが倒産する可能性があるとする判定結果の整理を行うとして、複数の前記企業に対して前記判定結果の整理を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の財務リスク管理装置。
前記条件付き倒産確率演算手段は、前記企業Bが倒産したときに前記企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率を演算する場合の前記企業Bの倒産条件を前記企業Bの総資産額が前記企業Bの負債総額と同額になったときとしたとき、前記倒産条件に基づき複数の前記企業に対して前記条件付き倒産確率を演算する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の財務リスク管理装置。
前記視覚化手段は、前記企業を任意形状により示すとともに前記企業の財務的特徴に応じてその大きさや色その他の図形的特徴が変化する企業図形と、2つの前記企業図形間において前記判定結果に基づく倒産伝播方向を示す倒産方向示唆図形と、を用いて前記判定結果を視覚化する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の財務リスク管理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は融資債権全体から生じる債務不履行の総額を管理していたので、債務不履行がどの順で発生するか不明であるという問題があった。
【0006】
債務不履行の発生順は管理対象企業の倒産の流れを理解する上では極めて重要である。なぜならば、ある企業が倒産した場合、その倒産企業と同業種の他企業やその倒産企業の債権を有する他企業が倒産するといった順で連鎖的に倒産が発生するからである。
【0007】
また、上記問題に対処するために、銀行などの金融機関に所属する従事者が債務不履行の発生順などの複数企業の相互関係を手作業で図形化処理することも考えられる。この場合、金融機関の非顧客企業から企業情報を入手することが困難であるといった問題や、顧客企業及び非顧客企業を含めた管理企業数が膨大であるために作業負担が大きすぎるといった問題や、膨大な作業を手作業で進めるために従事者の人為的ミスが誘発されやすいといった問題など、種々の問題が生じるおそれがあった。
【0008】
そこで本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであり、企業の倒産リスクに係るつながりを機械的に可視化することにより、銀行などの金融機関が顧客企業の融資債権に関する財務リスクを容易に管理することができる財務リスク管理装置、財務リスク管理プログラム及び記憶媒体を提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)前述した目的を達成するため、本発明の財務リスク管理装置は、複数の企業の各株価に基づき前記企業間の相関係数をそれぞれ演算する相関係数演算手段と、ある企業Aの総資産額が負債総額以下又は未満となる確率をある企業Aの個別倒産確率として、前記株価に基づき前記複数の企業に対して前記個別倒産確率を演算する個別倒産確率演算手段と、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する確率を条件付き倒産確率として、前記相関係数に基づき前記複数の企業に対して前記条件付き倒産確率を演算する条件付き倒産確率演算手段と、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値が前記ある企業Aの前記個別倒産確率の値を超える場合は前記ある企業Bが倒産したときに前記ある企業Aが倒産する可能性があると判定するとして、前記複数の企業に対して前記判定を行う倒産可能性判定手段と、前記倒産可能性判定手段による判定結果を視覚化する視覚化手段と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
これにより、本発明の財務リスク管理装置は、融資先企業間の相関係数に基づいて、融資先企業間の条件付き倒産確率を機械的に演算することができる。また、本発明の財務リスク管理装置は、企業同士の倒産伝播における関連性を示す条件付き倒産確率のうち最も重要な関連性のみを機械的に比較することで判定することができる。そのため、本発明の財務リスク管理装置は、ある企業の倒産が他の企業の倒産に影響を及ぼす倒産方向性を可視化することにより、企業全体の連鎖倒産の関連性を把握することができる。
【0011】
(2)また、本発明の財務リスク管理装置において、前記倒産可能性判定手段は、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値がある企業Cが倒産したときに前記ある企業Aが倒産する条件付き倒産確率の値を超える場合は前記ある企業Bが倒産したときのみ前記ある企業Aが倒産する可能性があるとする判定結果の整理を行うとして、前記複数の企業に対して前記判定結果の整理を行うことが好ましい。
【0012】
これにより、本発明の財務リスク管理装置は、企業同士の倒産伝播における関連性を示す条件付き倒産確率のうち最も重要な関連性を示す条件付き倒産確率のみを機械的に視覚化するので、企業全体の連鎖倒産の関連性を容易に把握することができる。
【0013】
(3)また、本発明の財務リスク管理装置において、前記条件付き倒産確率演算手段は、前記企業Bが倒産したときに前記企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率を演算する場合の前記企業Bの倒産条件を前記企業Bの総資産額が前記企業Bの負債総額と同額になったときとしたとき、前記倒産条件に基づき前記複数の企業に対して前記条件付き倒産確率を演算することが好ましい。
【0014】
これにより、本発明の財務リスク管理装置は、演算処理数を大幅に減少させることができるので、演算処理の負担軽減及び高速化を実現することができる。
【0015】
(4)また、本発明の財務リスク管理装置において、前記相関係数演算手段、前記個別倒産確率演算手段及び前記条件付き倒産確率演算手段は、マートン・モデルに基づき演算することが好ましい。
【0016】
これにより、本発明の財務リスク管理装置は、金融工学において一定の手法及び評価が確立しているマートン・モデルの利用を根拠として、その判定結果及び視覚化の信頼性を担保することができる。
【0017】
(5)また、本発明の財務リスク管理装置において、前記視覚化手段は、リスク管理対象の全ての企業を任意形状により示すとともに前記企業の財務的特徴に応じてその大きさや色その他の図形的特徴が変化するネットワーク図形と、2つの前記ネットワーク図形間において前記判定結果に基づく倒産伝播方向を示す倒産方向示唆図形とを用いて前記判定結果を視覚化する、ことが好ましい。
【0018】
これにより、本発明の財務リスク管理装置は、各々の企業の信用状態(倒産の可能性)を表す図形における大きさ等の図形的特徴及び倒産方向示唆図形による倒産伝播方向を図形的に解釈することによって、財務リスクを容易に管理することができる。
【0019】
(6)また、前述した目的を達成するため、本発明の財務リスク管理プログラムは、上記した本発明の財務リスク管理装置としてコンピュータを機能させるプログラムであることが好ましい。
【0020】
これにより、本発明の財務リスク管理プログラムは、企業間の相関係数に基づいて、企業間の条件付き倒産確率を機械的に演算することができる。また、本発明の財務リスク管理プログラムは、倒産可能性判定手段において、条件付き倒産確率を比較し、最も重要なもののみを残すので視認性を高め、ある企業の倒産が他の企業の倒産に影響を及ぼす倒産方向性を把握することができる。
【0021】
(7)また、前述した目的を達成するため、本発明の記憶媒体は、上記した本発明の財務リスク管理プログラムを記憶したコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体であることが好ましい。
【0022】
これにより、本発明の記憶媒体は、企業間の相関係数に基づいて、企業間の条件付き倒産確率を機械的に演算することができる。また、本発明の記憶媒体は、ある企業間の条件付き倒産確率を比較することにより、一方の企業が倒産したときの他方の企業の倒産可能性を判定することができる。そのため、本発明の記憶媒体は、ある企業の倒産が他の企業の倒産に影響を及ぼす倒産方向性を把握することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の財務リスク管理装置、財務リスク管理プログラム及び記憶媒体によれば、企業の倒産リスクに係るつながりを機械的に可視化することにより、銀行などの金融機関が顧客企業の融資債権に関する財務リスクを容易に管理することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、各図を用いて、本実施形態の財務リスク管理装置、財務リスク管理プログラム及び記憶媒体を説明する。
【0026】
[1]本実施形態の構成
[1−1]財務リスク管理装置1
図1は、本実施形態の財務リスク管理装置1の全体構成を示す概念図である。
【0027】
本実施形態の財務リスク管理装置1は、相関係数演算手段12と、個別倒産確率演算手段13と、条件付き倒産確率演算手段14と、倒産可能性判定手段15と、視覚化手段16と、を備えている。
【0028】
上記した相関係数演算手段12等の各手段12〜16は、CPUなどの処理装置、RAMなどの記憶装置、HDDやSSDなどの補助記憶装置、キーボードやディスプレイなどの入出力装置、インターネット接続装置などの通信装置その他のコンピュータを構成する一般的な構成要素に基づいて構成されている。
【0029】
[1−2]財務リスク管理プログラム2
本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、本実施形態の財務リスク管理装置1としてコンピュータを機能させるためのスタンドアローン・アプリケーションソフトウェア又はウェブ・アプリケーション・ソフトウェアである。本実施形態の財務リスク管理プログラム2がコンピュータ上で動作すると、そのコンピュータの一般的な構成要素の一部又は全部が上記した相関係数演算手段12等の各手段12〜16となるため、そのコンピュータは本実施形態の財務リスク管理装置1として機能する。
【0030】
[1−3]記憶媒体3
本実施形態の記憶媒体3は、本実施形態の財務リスク管理プログラム2を記憶している。また、本実施形態の記憶媒体3は、その記憶媒体3に記憶された本実施形態の財務リスク管理プログラム2がコンピュータに読み取り可能となるように構成されている。本実施形態の記憶媒体3の具体例としては、CD、DVD、USBメモリなどが挙げられる。
【0031】
[2]本実施形態の処理フロー
[2−1]処理フローの全体構成
図2は本実施形態の財務リスク管理プログラムにより実行される処理フローを示すフローチャートである。
【0032】
本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、
図2に示すように、上記した相関係数演算手段12等の各手段12〜16により実行される以下記載の各工程S21,S31,S41,S51,S61により構成された処理フローに基づいて、各処理を行う。
【0033】
また、本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、本実施形態の財務リスク管理装置1に手動で入力された手入力データやインターネットなどを介して自動的に収集された自動収集データに基づき、企業名、株価、総資産額、負債総額その他の処理フローに必要な各財務データを入手する。
【0034】
なお、相関係数演算手段12、前記個別倒産確率演算手段13及び前記条件付き倒産確率演算手段14は、企業間の相関関係、企業の個別倒産確率、企業間の条件付き倒産確率を算出可能な演算モデルに基づき、演算することができる。特に、本実施形態の相関係数演算手段12、前記個別倒産確率演算手段13及び前記条件付き倒産確率演算手段14は、マートン・モデルに基づき演算することが好ましい。
【0035】
[2−2]相関係数演算手段12
相関係数演算手段12は、リスク管理対象である複数の企業の各株価に基づき企業間の相関係数をそれぞれ演算する相関係数演算工程S21を行う。
【0036】
以下、相関係数ρを求めるまでの演算過程が示される。
【0037】
[2−2−1]株価収益率の算出
時刻における企業の株価ならびに総資産額は、同一のパラメータにより構成されており、以下の数式1及び2に示す通り、対数正規分布に従う。
【0040】
また、企業Aの株価収益率は、数式3のように示される。
【0042】
このとき、相関係数演算手段12は、入手した企業の株価及び数式4を用いて、株価収益率の標本平均を演算する。数式4は標本平均の基本公式である。
【0044】
[2−2−2]標準偏差(分散の正の平方根)の算出
次に、相関係数演算手段12は、数式5を用いて、株価の標準偏差(ボラティリティ)σを演算する。数式5は標準偏差σの基本公式である。
【0046】
[2−2−3]共分散の算出
次に、相関係数演算手段12は、以下の数式6を用いて、共分散を演算する。数式6は共分散の基本公式である。
【0048】
[2−2−4]相関関係の算出
次に、相関係数演算手段12は、数式7を用いて、相関係数を演算する。
【0050】
ここで、相関係数は|ρ
AB|≦1を満たす。|ρ
AB|が0に近いと企業AB間の相関は弱く、|ρ
AB|が1に近いと企業AB間の相関は強い。数式7の右辺に示された変数はすべて実数に置き換えられるので、企業AB間の相関係数(数式7の左辺)は実数値になる。
【0051】
また、企業数がM個のとき、相関係数の個数はM(M―1)/2個となる。例えば、企業数Mが100である場合、相関係数を求めるための演算回数は4950回である。
【0052】
[2−3]個別倒産確率演算手段13
個別倒産確率演算手段13では、ある時刻におけるある企業Aの総資産額が負債総額以下又は未満となる確率をある企業Aの個別倒産確率として、前記株価に基づき前記複数の企業に対して前記個別倒産確率を演算する個別倒産確率演算工程S31を行う。なお、本明細書における株価とは、株価収益率をも含む意味である。また、上記「負債総額以下又は未満」と記載している理由は、どちらであっても本実施形態の効果与える影響は極めて小さいからである。
【0053】
以下、個別倒産確率の演算過程が示される。
【0054】
[2−3−1]ドリフトの算出
上記した離散時刻の各区間におけるある企業Aの株価収益率は、数式8〜10に示す通り、正規分布に従う。
【0058】
数式10の右辺は、期待値が(μ−1/2σ
2)Δt、分散がσ
2Δtとなる正規分布を表すことから、数式10に示す株価収益率は、正規分布に従うことがわかる。
【0059】
ドリフトμ
Aを計算するには、まず株価収益率の分散を計算し、時間間隔で割ることでボラティリティσ
Aの二乗を得る。つぎに、株価収益率の平均値を計算すれば、それは数式10に示された正規分布の期待値となるので、その平均値に対してボラティリティと時間間隔Δtを代入し、ドリフトを得ることができる。これらは、企業Aの総資産額を特徴づけるパラメータとして利用される。
【0060】
[2−3−3]個別倒産確率の算出
次に、個別倒産確率演算手段13は、上記で算出したパラメータ及び数式11を用いて、時刻t=Tにおける個別倒産確率を演算する。
【0062】
ここで、数式11の右辺の基礎となるN(x)は、標準準正規分布の累積分布関数を表しているため、数式12の通りに示される。
【0064】
数式11の右辺に示される変数は、株価から得られるパラメータ(ドリフトやボラティリティ等)や、企業の決算書から得られる財務データ(総資産額や負債総額)によって算出することができる。つまり、それらの値はいずれも実数になるため、数式11の左辺に示される個別倒産確率は実数値で表される。
【0065】
[2−4]条件付き倒産確率演算手段14
条件付き倒産確率演算手段14は、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する確率を条件付き倒産確率として、前記相関係数に基づき前記複数の企業に対して前記条件付き倒産確率を演算する条件付き倒産確率演算工程S41を行う。以下、条件付き倒産確率の演算過程が示される。
【0066】
[2−4−1]基準化(スチューデント化)
条件付き倒産確率演算手段14は、数式13に示すように、数式2における企業Aの総資産額を基準化するため、標準正規分布に従う企業Aの確率変数を演算する。
【0068】
また、条件付き倒産確率演算手段14は、数式14に示すように、数式11の右辺に基づいて倒産判定閾値などを演算する。標準正規分布に従う確率変数及び倒産判定閾値は倒産判定に用いられる。
【0070】
企業Bの個別倒産確率は、数式13及び数式14で求めた標準正規分布に従う企業の確率変数及び倒産判定閾値を用いて、数式15の通りに示すことができる。また、企業Aが倒産したときに企業Bが倒産する条件付き倒産確率は、上記と同様、数式16の通りに示すことができる。
【0073】
[2−4−2]条件付き倒産確率の算出
次に、条件付き倒産確率演算手段14は、数式16から数式20に基づいて、条件付き倒産確率を演算する。
【0078】
つまり、企業Aの確率変数が企業Aの倒産判定閾値以下又は未満となるときに企業Bの確率変数が企業Bの倒産判定閾値以下又は未満となる条件付き倒産確率は、数式21に示す通りとなる。
【0080】
なお、数式21を離散化すると数式22となる。
【0082】
したがって、条件付き倒産確率演算手段14は、数式22に基づいて、条件付き倒産確率を演算する。
【0083】
[2−4−3]条件付き倒産確率の算出簡略化
数式22において、区間分割幅mを広くとり、計算工程の減少を図ったとしても、1つの条件付き倒産確率の計算に長時間を要してしまう。
【0084】
また、企業数がM個の場合、条件付き倒産確率の演算回数はM(M−1)回である。例えば、企業数Mが100である場合の演算回数は9900回である。つまり、管理対象の企業数Mが多くなるほど、条件付き倒産確率演算手段14の演算時間や演算負担が膨大となる。
【0085】
その一方、企業が倒産した場合の債権回収率は0%又は100%のどちらかになることが多いことが経験上知られている。このことは、企業が倒産した後の相関係数に変化があることを示唆している。つまり、倒産前の相関係数の値を起点としたとき、倒産後の相関係数は0に向かって減衰することが経験上知られている。
【0086】
以上を踏まえて、条件付き倒産確率演算手段14は、数式23の相関係数を演算する。
【0088】
ただし、数式23に示す定数Cは、数式24に示す通りである。
【0090】
数式23は、企業が倒産した場合、倒産前の相関係数を起点として倒産後の相関係数が0になるまで減衰することを表す関数式となっている。この数式23及び数式24を用いることにより、条件付き倒産確率演算手段14は、倒産後の相関係数の変化を考慮した条件付き倒産確率を演算することができる。以上を踏まえて、条件付き倒産確率演算手段14は、次の数式25に基づいて条件付き倒産確率を演算する。
【0092】
以上の通り、条件付き倒産確率演算手段14は、数式25により条件付き倒産確率を演算することにより、倒産前後における企業間の相関係数の変動を反映させることができるだけでなく、その演算負荷を大幅に低減させることができる。
【0093】
なお、条件付き倒産確率演算手段14は、演算負担軽減の観点から、前記企業Aが倒産したときに前記企業Bが倒産する前記条件付き倒産確率を演算する場合の前記企業Aの倒産条件を前記企業Aの総資産額が前記企業Aの負債総額と同額とすることが好ましい。そして、この倒産条件に基づき、条件付き倒産確率演算手段14が複数の企業に対して前記条件付き倒産確率を演算することが好ましい。つまり、条件付き倒産確率演算手段14は、「P(ξ
B<D
B|ξ
A<D
A)」を「P(ξ
B<D
B|ξ
A=D
A)」に置き換えて、前記企業Aが倒産したときに前記企業Bが倒産する条件付き倒産確率を演算することが好ましい。
【0094】
[2−5]倒産可能性判定手段15
倒産可能性判定手段15は、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値が前記ある企業Aの前記個別倒産確率の値を超える場合は前記ある企業Bが倒産したときに前記ある企業Aが倒産する可能性があると判定するとして、前記複数の企業に対して前記判定を行う倒産可能性判定工程S51を行う。つまり、この倒産可能性判定手段15は、倒産の方向性を決定する。
【0095】
[2−5−1]倒産方向性の判定結果
例えば、企業Aの個別倒産確率をP(A
A<D
A)、企業Bが倒産したときに企業Aが倒産する条件付き倒産確率をP(A
A<D
A|A
B<D
B)とする。P(A
A<D
A|A
B<D
B)>P(A
A<D
A)の場合、企業Bが倒産したときに企業Aが倒産する可能性があると倒産可能性判定手段15は判定する。
【0096】
[2−5−2]判定結果の整理
倒産可能性判定手段15が全ての企業に対して単純に判定した場合、複数の企業間で互いに倒産する関係性が成立することが多く、全ての判定結果を視覚化すると視覚量が多すぎてしまうことがある。その結果、判定結果を視覚化したとき、重要でない判定結果に埋もれて重要な判定結果が視覚的に不明確になることがある。
【0097】
そのため、例えば、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値が、ある企業Cが倒産したときに前記ある企業Aが倒産する条件付き倒産確率の値を超える特定の条件を検討する。この条件を満たした場合、倒産可能性判定手段15は、前記ある企業Bが倒産したときのみ前記ある企業Aが倒産する可能性があるとする前記判定結果の整理を行うことが好ましい。そして、倒産可能性判定手段15は、この判定結果の整理を全ての企業に対して行うことが好ましい。
【0098】
すなわち、倒産可能性判定手段15は、企業間の条件付き倒産確率を比較することにより最も高い値の条件付き倒産確率が倒産の関連性として最も重要であると判定し、それ以外の条件付き倒産確率については視覚上考慮しない(いわゆる「刈込む」)ことにより、企業の倒産関係性を整理する。
【0099】
この判定結果の整理について以下に詳細に説明する。例えば、企業A,企業B,企業Cの三社間で演算する条件付き倒産確率は、以下の6タイプである。
(A)企業B倒産の場合に企業Aが倒産する場合:P(A
A<D
A|A
B<D
B)
(B)企業C倒産の場合に企業Aが倒産する場合:P(A
A<D
A|A
C<D
C)
(C)企業A倒産の場合に企業Bが倒産する場合:P(A
B<D
B|A
A<D
A)
(D)企業C倒産の場合に企業Bが倒産する場合:P(A
B<D
B|A
C<D
C)
(E)企業A倒産の場合に企業Cが倒産する場合:P(A
C<D
C|A
A<D
A)
(F)企業B倒産の場合に企業Cが倒産する場合:P(A
C<D
C|A
B<D
B)
【0100】
このうち、企業Aが連鎖倒産する可能性を倒産可能性判定手段15が判定するためには、倒産可能性判定手段15はタイプ(A)及びタイプ(B)の条件付き倒産確率の大小を比較すればよい。すなわち、P(A
A<D
A|A
B<D
B)>P(A
A<D
A|A
C<D
C)であるときは、企業Bが倒産したときに企業Aが倒産する可能性があると倒産可能性判定手段15は判定する。つまり、企業Bから企業Aへの倒産の方向性を付与する。また、企業Cから企業Aへの倒産の可能性は相対的に低いため、企業Cが倒産したときに企業Aが倒産する可能性はないと倒産可能性判定手段15は判定の整理を行う。つまり、倒産可能性判定手段15は、企業Cから企業Aの向きでの倒産の方向性を視覚上付与しない。
【0101】
企業B及び企業Cが連鎖倒産する可能性を倒産可能性判定手段15が判定する場合、上記と同様、タイプ(C)〜(F)を参考にして、上記判定及び方向性付与作業を行う。
【0102】
なお、企業Aが倒産した場合に企業Bが倒産する可能性がある場合と、企業Bが倒産した場合に企業Aが倒産する可能性がある場合が同時に存在することもある。
【0103】
[2−6]視覚化手段16
視覚化手段16は、前記倒産可能性判定手段15による判定結果を視覚化する視覚化工程S61を行う。
【0104】
図3は管理対象企業が企業A,企業B,企業Cの場合において倒産可能性判定手段が判定結果を視覚化した状態の一例を示す視覚化概念図である。
図3において点線で示された矢印は、判定結果の整理によって視覚化されなかった倒産可能性の方向を示す判定結果である。
図4は管理対象企業が多数の場合において倒産可能性判定手段が判定結果を視覚化した状態の一例を示す視覚化概念図である。
【0105】
例えば、企業は、
図3及び
図4に示すように、円形や四角形などの任意形状により構成された企業図形を用いて示される。また、倒産可能性の方向を示す判定結果は、企業間を接続する線や矢印線その他の判定結果に基づき倒産伝播方向を示す倒産方向示唆図形を用いて示される。
【0106】
ここで、企業図形は、企業の株価、総資産額、負債総額、個別倒産確率などの企業の財務的特徴に応じて、その大きさや色その他の図形的特徴を変化させることが好ましい。
【0107】
なお、
図3に示すように、企業Aが倒産した場合に企業Bが倒産する可能性がある場合と、企業Bが倒産した場合に企業Aが倒産する可能性がある場合とが同時に存在することもあることから、倒産方向示唆図形の向きが片側だけでなく両側になることもある。
【0108】
以上の通り、本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、以上の処理フローを行った後、処理を終了する。
【0109】
[3]本実施形態の効果
次に、本実施形態の財務リスク管理装置1、財務リスク管理プログラム2及び記憶媒体3の作用及び効果を説明する。
【0110】
(1)本実施形態の財務リスク管理装置1は、複数の企業の各株価に基づき前記企業間の相関係数をそれぞれ演算する相関係数演算手段12と、ある企業Aの総資産額が負債総額以下又は未満となる確率をある企業Aの個別倒産確率として、前記株価に基づき前記複数の企業に対して前記個別倒産確率を演算する個別倒産確率演算手段13と、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する確率を条件付き倒産確率として、前記相関係数に基づき前記複数の企業に対して前記条件付き倒産確率を演算する条件付き倒産確率演算手段14と、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値が前記ある企業Aの前記個別倒産確率の値を超える場合は前記ある企業Bが倒産したときに前記ある企業Aが倒産する可能性があると判定するとして、前記複数の企業に対して前記判定を行う倒産可能性判定手段15と、前記倒産可能性判定手段15による判定結果を視覚化する視覚化手段16と、を備えていることを特徴とする。
【0111】
これにより、本実施形態の財務リスク管理装置1は、融資先企業間の相関係数に基づいて、融資先企業間の条件付き倒産確率を機械的に演算することができる。また、本実施形態の財務リスク管理装置1は、ある企業の倒産が他の企業の倒産に影響を及ぼす倒産方向性を可視化することにより、企業全体の連鎖倒産の関連性を把握することができる。
【0112】
(2)また、本実施形態の財務リスク管理装置1において、前記倒産可能性判定手段15は、ある企業Bが倒産したときにある企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率の値がある企業Cが倒産したときに前記ある企業Aが倒産する条件付き倒産確率の値を超える場合は前記ある企業Bが倒産したときのみ前記ある企業Aが倒産する可能性があるとする前記判定結果の整理を行うとして、前記複数の企業に対して前記判定結果の整理を行うことが好ましい。
【0113】
これにより、本実施形態の財務リスク管理装置1は、企業同士の倒産伝播における関連性を示す条件付き倒産確率のうち最も重要な関連性を示す条件付き倒産確率のみを機械的に視覚化するので、企業全体の連鎖倒産の関連性を容易に把握することができる。
【0114】
(3)また、本実施形態の財務リスク管理装置1において、前記条件付き倒産確率演算手段14は、前記企業Bが倒産したときに前記企業Aが倒産する前記条件付き倒産確率を演算する場合の前記企業Bの倒産条件を前記企業Bの総資産額が前記企業Bの負債総額と同額になったときとしたとき、前記倒産条件に基づき前記複数の企業に対して前記条件付き倒産確率を演算することが好ましい。
【0115】
これにより、本実施形態の財務リスク管理装置1は、演算処理数を大幅に減少させることができるので、演算処理の負担軽減及び高速化を実現することができる。
【0116】
(4)また、本実施形態の財務リスク管理装置1において、前記相関係数演算手段12、前記個別倒産確率演算手段13及び前記条件付き倒産確率演算手段14は、マートン・モデルに基づき演算することが好ましい。
【0117】
これにより、本実施形態の財務リスク管理装置1は、金融工学において一定の手法及び評価が確立しているマートン・モデルの利用を根拠として、その判定結果及び視覚化の信頼性を担保することができる。
【0118】
(5)また、本実施形態の財務リスク管理装置1において、前記視覚化手段16は、前記企業を任意形状により示すとともに前記企業の財務的特徴に応じてその大きさや色その他の図形的特徴が変化する企業図形と、2つの前記企業図形間において前記判定結果に基づく倒産伝播方向を示す倒産方向示唆図形と、を用いて前記判定結果を視覚化する、ことが好ましい。
【0119】
これにより、本実施形態の財務リスク管理装置1は、各々の企業図形における大きさ等の図形的特徴及び倒産方向示唆図形による倒産伝播方向を図形的に解釈することによって、財務リスクを容易に管理することができる。
【0120】
(6)また、前述した目的を達成するため、本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、上記した本実施形態の財務リスク管理装置1としてコンピュータを機能させるプログラムであることが好ましい。
【0121】
これにより、本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、企業間の相関係数に基づいて、企業間の条件付き倒産確率を機械的に演算することができる。また、本実施形態の財務リスク管理プログラム2は、企業間の条件付き倒産確率を比較することによって、最も重要性の高い連鎖倒産の関係性のみを残して整理し、これにより連鎖倒産の方向を付与することができる。
【0122】
(7)また、前述した目的を達成するため、本実施形態の記憶媒体3は、上記した本実施形態の財務リスク管理プログラム2を記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体3であることが好ましい。
【0123】
これにより、本実施形態の記憶媒体3は、企業間の相関係数に基づいて、企業間の条件付き倒産確率を機械的に演算することができる。また、本実施形態の記憶媒体3は、ある企業の個別倒産確率及び条件付き倒産確率を比較することにより、一方の企業が倒産したときの他方の企業の倒産可能性を判定することができる。そのため、本実施形態の記憶媒体3は、ある企業の倒産が他の企業の倒産に影響を及ぼす倒産方向性を把握することができる。
【0124】
すなわち、本実施形態の財務リスク管理装置1、財務リスク管理プログラム2及び記憶媒体3によれば、企業の倒産リスクに係るつながりを機械的に可視化することにより、銀行などの金融機関が顧客企業の融資債権に関する財務リスクを容易に管理することができるという効果を奏する。
【0125】
なお、本実施形態は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【課題】銀行などの金融機関における連鎖倒産の可能性を機械的に可視化することにより、金融機関が融資先同士の連鎖倒産リスクを容易に管理することができる財務リスク管理装置、財務リスク管理プログラム及び記憶媒体を提供する。
【解決手段】本発明の財務リスク管理装置1は、相関係数演算手段12と、個別倒産確率演算手段13と、条件付き倒産確率演算手段14と、企業間の条件付き倒産確率が個別倒産確率を超える場合は倒産の関係性があると判定する倒産可能性判定手段15と、倒産可能性判定手段15による判定結果を視覚化する視覚化手段16とを備える。財務リスク管理プログラム2は財務リスク管理装置1にインストールされている。記憶媒体3は財務リスク管理プログラム2を記憶する。