特許第5953434号(P5953434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953434
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】電子音響変換器
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   H03H9/145 Z
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-524701(P2015-524701)
(86)(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公表番号】特表2015-523828(P2015-523828A)
(43)【公表日】2015年8月13日
(86)【国際出願番号】EP2013064726
(87)【国際公開番号】WO2014019831
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年3月30日
(31)【優先権主張番号】102012107049.0
(32)【優先日】2012年8月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ダドガー ヤヒド, ゴラムレザ
(72)【発明者】
【氏名】エプナー, トーマス
【審査官】 ▲高▼橋 義昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−509430(JP,A)
【文献】 特開昭54−019634(JP,A)
【文献】 特開2001−189637(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0040421(US,A1)
【文献】 特表2003−526240(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0057805(US,A1)
【文献】 特開平07−231238(JP,A)
【文献】 特開平05−055862(JP,A)
【文献】 米国特許第05331247(US,A)
【文献】 特開平11−330895(JP,A)
【文献】 米国特許第06075426(US,A)
【文献】 特開昭61−006917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その上に電極フィンガー(EF)が配設された圧電基板(PSU)と、
N個の電極フィンガー(EF)を有する長さλのセルと、を備えた電子音響変換器であって、
前記λは、音響波の波長の波長であり、
前記セルの前記N個の電極フィンガーは、前記音響波の伝搬方向に沿って配設されたグループ(複数)に分割されており、
第1のグループはn1個のフィンガー(EF)を備え、当該第1のグループ内の電極間隔はD1となっており、当該第1のグループと第2のグループの間の間隔はΔ1となっており、
前記第2のグループはn2個のフィンガー(EF)を備え、当該第2のグループ内の電極間隔はD2となっており、当該第2のグループと第3のグループの間の間隔はΔ2となっており、
前記第3のグループはn3個のフィンガー(EF)を備え、当該第3のグループ内の電極間隔はD3となっており、当該第3のグループと第4のグループの間の間隔はΔ3となっており、
前記第4のグループはn4個のフィンガー(EF)を備え、当該第4のグループ内の電極間隔はD4となっており、
n1+n2+n3+n4=Nとなっており、
Δ2は、Δ1と等しくなっておらず、あるいはΔ2は、Δ3と等しくなっておらず、
D1=D2=D3=D4=Δ2となっており、
Nはk≧の整数kの4倍となっている、ことを特徴とする電子音響変換器。
【請求項2】
Δ2<Δ1かつΔ2<Δ3であることを特徴とする、請求項1に記載の電子音響変換器。
【請求項3】
前記セルの前に1つの先行フィンガー(EF)が配設されており、当該先行フィンガー(EF)と前記第1のグループとの間の距離は、Δ1より小さいことを特徴とする、請求項1または2に記載の電子音響変換器。
【請求項4】
前記セルの前に1つの先行フィンガー(EF)が配設されており、当該先行フィンガー(EF)と前記第1のグループとの間に、励起中心(EC)が配設されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【請求項5】
前記セルの後に1つの後続フィンガー(EF)が配設されており、前記第4のグループと当該後続フィンガー(EF)との間の距離は、Δ3より小さいことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【請求項6】
前記セルの後に1つの後続フィンガー(EF)が配設されており、前記第4のグループと当該後続フィンガー(EF)との間に、励起中心(EC)が配設されていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【請求項7】
前記第2のグループと前記第3のグループとの間に励起中心(EC)が配設されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【請求項8】
n1=n2=n3=n4となっていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【請求項9】
Δ1=Δ3となっていることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【請求項10】
kは、2,3,または4であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電子音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子音響変換器に関し、たとえば音響波で動作するフィルターに用いることができる電子音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子音響変換器は、電磁的な高周波信号を音響波に変換し、またこの逆の変換を行う。このような変換器は、たとえばモバイル通信装置用のバンドパスフィルタまたはバンド阻止フィルタで使用するのに適している。
【0003】
特許文献1には、スプリットフィンガー構造の電子音響変換器が開示されており、この電子音響変換器はそのパラメータである反射係数,挿入損失,およびその放射方向の指向性が特定の要求仕様に最適化されている。
【0004】
音響波で動作する変換器に対するアプリケーション分野は広い。このアプリケーション分野には、上記のパラメータや他のパラメータの選択可能な最適化を必要とする、他の要求仕様を有するアプリケーションがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開公報2003/0057805A1号 本発明の課題は、したがって1つの選択可能な変換器構造を提示することである。
【0006】
上記の課題は、請求項1に記載の電気音響変換器によって解決される。従属項は本発明の有利な実施例を提示する。
【0007】
音響変換器は、電極フィンガー(複数)を有する圧電基板を備え、これらの電極フィンガーはこの圧電基板の上に配設されている。この変換器は特に、長さλの1つのセルを備え、このセルはn個の電極フィンガーを含む。ここでλは、この変換器の動作周波数での音響波の波長である。このセルのn個の電極フィンガーは、この音響波の伝搬方向に沿って配設された4個のグループに分割されている。第1のグループはn1個のフィンガーを含む。この第1のグループ内のフィンガーの間隔は、D1となっている。この第1のグループと第2のグループとの間の間隔、すなわちこの第1のグループのフィンガー(複数)とこの第2のグループのフィンガー(複数)との間の間隔はΔ1となっている。この第2のグループは、n2個のフィンガーを含む。この第2のグループ内のフィンガーの間隔はD2となっている。この第2のグループと第3のグループの間の間隔はΔ2となっている。この第2のグループはn3個のフィンガーを含む。この第3のグループ内のフィンガーの間隔はD3となっている。この第3のグループと第4のグループの間の間隔はΔ3となっている。この第4のグループは、n4個のフィンガーを含む。この第4のグループ内のフィンガーの間隔はD4となっている。さらに、n1+n2+n3+n4=Nが成り立っている。その他に、以下のことが成り立っている。Δ2はΔ1と等しくなく、Δ2はΔ3と等しくない。Nはk≧1の整数kの4倍である。
【0008】
1つの実施形態においては、以下のことが成り立っている。Δ2は、Δ1より小さく、Δ2は、Δ3より小さくなっている。
【0009】
セル当たりのフィンガーの数の最も小さいものは、k=1に対してN=4となっている。グループ当たりのフィンガーの最小数は、1となっている。k=1かつN=4の場合は、全てのグループは、1個のフィンガーから成っている。
全てのグループが只1個のフィンガーを備えるので、1つのグループ内でのフィンガーの間隔は存在しない。このため1つのグループにおけるフィンガーの間隔は、k≧2で漸く定義される。しかしながら、k=1の場合に、1つのグループ内でフィンガーの間隔が定義されないことは、以下の考察において何等問題とならない。特に全てのk,n1,n2,n3,n4およびN≧4に対して、Δ1,Δ2,およびΔ3は良好に定義される。
【0010】
1つの電極フィンガーが属するグループは、このフィンガーがどのバスバーと電気的に導通して接続されているかを決定する。この際、逆極性に設定されたバスバーと接続されている、隣接した電極フィンガーが存在する。このような電極フィンガーの間には、音響波の1つの励起中心(Anregungszentrum)が存在する。これに対して、同じバスバーに回路接続された2つの電極フィンガーの間の空間は実質的に電場が無く、このためこれらのフィンガー間では実質的に音響波の励起が全く起こらない。
【0011】
以上のように個々のグループ間の間隔Δ1,Δ2,およびΔ3が上記で説明したように設定されると、上記の変換器のセルは、音響波に対し有限な反射率を備えることになる。これにより、本発明のセルは、殆ど反射率がゼロの従来のスプリットフィンガー構成が記載された上記の特許文献1の図3に示されるセルと異なっている。有限であり、かつ特に調整可能な反射能力を有するこのようなセルを音響経路に合わせて配設することにより、多様な最適化の可能性がもたらされる。
【0012】
さらに、異なるバスバーに回路接続されている電極フィンガーであって、かつこの結果これらの電極フィンガー間に音響波の励起中心がある場合、これらの電極フィンガー間の距離は変化されている。これに対応して、セル自体の全長の延長あるいは開口部またはフィンガー数の変更を行う必要無しに、上記のセルの静電容量は変化する。
【0013】
上記のフィンガーのグループ間で異なる間隔を設けることにより、電子音響変換器の開発における、これらの変換器に対する特定の要求を満たすためのさらなる自由度が得られる。
【0014】
上記の変換器は、多数のセルを備えてよい。これらのセルは周期的な構造あるいは部分的に周期的な構造で、次々に配設されてよい。
【0015】
1つの実施形態においては、このセルの前に先行するフィンガーが配設されている。この先行するフィンガーと上記の第1のグループとの間の距離は、Δ1より小さい。またこの第1のグループと第1のグループに先行するフィンガーとの間の距離は、上記の第1のグループと第2のグループとの間の距離より小さくなっている。この先行するフィンガーと第1のグループとの間に励起中心があると、この部位での静電容量は大きくされる。
【0016】
本発明の変換器は、正確には1つ以上または多数の上記のセルを備えてよい。これに対応して上記の音響波の伝搬方向に沿った局所的な静電容量を調整することができる。
【0017】
1つの実施形態においては、セルの後に1つの後続フィンガーが配設されており、上記の第4のグループとこの後続フィンガーとの間の距離はΔ3より小さくなっている。
【0018】
周期的に配設されたセルが次々にあると、1つのセルに先行するフィンガーは、これに先行するセルの最後のフィンガーに対応し、また現在のセルの最後のフィンガーに対しても同様である。後続のフィンガーに対しても同様に成り立っている。セル(複数)は周期的に次々に配設されていてよいが、必ずこのようになっていなくともよい。この周期的配設の最初および最後では、この周期性が破られていてよい。
【0019】
1つの実施形態においては、さらに上記の第4のグループとその後続のフィンガーとの間に1つの励起中心が配設される。
【0020】
1つの実施形態においては上記の第2のグループと上記の第3のグループとの間に1つの励起中心が配設されている。また上記の第2のグループのフィンガー(複数)が2つのバスバーの一つと回路接続されていてよく、これに対し上記の第3のグループのフィンガーは、他のバスバーと回路接続されている。
【0021】
1つの実施形態においては、全てのグループにおけるフィンガーの数は同じである。すなわちn1=n2=n3=n4が成り立っている。
【0022】
1つの実施形態においては、1つのグループのフィンガーが2以上である場合、異なるグループの内部のフィンガーの間隔は同一である。すなわち、D1=D2=D3=D4が成り立っている。
【0023】
1つの実施形態においては、上記の第1のグループと上記の第2のグループとの間の距離は、上記の第3のグループと上記の第4のグループとの間の距離に等しく、Δ1=Δ3である。この距離は上記の第2のグループと上記の第3のグループとの間の距離Δ2より大きくてよく、Δ1=Δ3>Δ2である。
換言すれば、全ての励起中心に対し、以下のことが成り立っている。励起中心を画定する異なる極性の電極フィンガーは、従来の反射の無い、スプリットフィンガー型変換器と比較して、互いにずらされている。それぞれのフィンガーグループでの対応する他のフィンガー(複数)は、フィンガーグループ内の間隔が同じになるように相応して移動される。たとえば1つのグループの第1のフィンガーが、励起中心に向かって距離dだけ移動されると、このグループの残りのフィンガーは、このグループ内のフィンガーの番号が大きいほどこの励起中心に向かって移動される。
【0024】
この際その値は正でも負でもよい。正の値は、上記のフィンガー(複数)が上記の励起中心に向かって移動されることを意味する。負の値は、上記のフィンガー(複数)が上記の励起中心から離れるように移動されることを意味する。
【0025】
ここで上記のグループの番号ならびに1つのグループ内のフィンガーの番号は、「左から右」となるように示されている。特に上記のセルが、その中心点に対して点対称である場合、この変換器をどの側から見るかは意味が無いことである。これに対応するグループおよびフィンガーの番号付は良好に規定される。
【0026】
1つの実施形態においては、kは1,2,3または4であるか、あるいはさらに大きい自然数である。
【0027】
さらに1つのグループD1,D2,D3,およびD4内のフィンガー間隔を上記の第2のグループと第3のグループとの間の距離Δ2と等しくしてもよい。この距離は、上記の第1のグループとこのセルの先行するフィンガーとの間の距離、および上記の第4のグループとこのセルの後続のフィンガーとの距離に等しくしてもよい。
【0028】
1つの実施形態においては、本発明による音響変換器は、音響表面波(SAW=surface acoustic wave)またはガイド音響体積波(GBAW=guided bulk acoustic waves)によって動作する。
【0029】
以下では、概略実施例と図を参照して、本発明による音響変換器を詳細に説明する。ここで異なる図は、本発明の異なる態様を示すが、これらの態様は互いに排他的ではなく、むしろ組み合わせることが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】波長λ当たり4個のフィンガーを有する1つの実施形態を示す。
図2】波長λ当たり8個のフィンガーを有する1つの実施形態を示す。
図3】計算された伝達関数S21を、1つの励起中心の2つの電極フィンガーの間の距離を狭めたもの(実線の曲線)、および1つの励起中心のフィンガー間の距離を拡大したもの(点線の曲線)に対して示す。
図4】変換器の入力ポートにおける計算された反射係数S11を、距離を狭めたもの(実線の曲線)、および距離を拡大したもの(点線の曲線)に対して示す。
図5】出力ポートにおける反射係数S11を、距離を狭めたもの(実線の曲線)、および距離を拡大したもの(点線の曲線)に対して示す。
図6】変換器のアドミッタンスの実数部を、距離を狭めたもの(実線の曲線)、および距離を拡大したもの(点線の曲線)に対して示す。
図7】変換器のアドミッタンスの虚数部を、距離を狭めたもの(実線の曲線)、および拡張された間隔(点線の曲線)に対して示す。
図8】変換器のアドミッタンスの大きさを、狭小とされた間隔(実線の曲線)、および距離を拡大したもの(点線の曲線)に対して示す。
【0031】
図1は、第1の音響経路AT1における長さλの音響変換器の従来の(スプリットフィンガー型)セルを、音響経路AT2における第2の変換器の長さλの最適化されたセルと比較して示す。上記の経路AT1の変換器セルは、実質的に、たとえば上記の特許文献1に記載された、従来のスプリットフィンガー型変換器セルである。Δ1は、唯一つの電極フィンガーを備えた上記の第1のグループと、同様に1つの電極フィンガーを備えた上記の第2のグループとの間の距離を表している。Δ2は、上記の第2のグループと上記の第3のグループの唯一つのフィンガーとの間の距離を表している。Δ3は、この第3のグループの唯一つのフィンガーと上記の第4のグループの唯一つのフィンガーとの間の距離を表している。
【0032】
上記とは対照的に、音響経路AT2の変換器構造は、最適化されたフィンガー配置となっており、第1のグループのフィンガーは、励起中心に向けて左方向にdの大きさだけシフトされている。第2のグループのフィンガーは、励起中心に向けて右方向にdの大きさだけシフトされている。第3のグループのフィンガーは、上記の第2のフィンガーと上記の第3のフィンガーとの間の励起中心に向けて左方向に大きさdだけシフトされている。第4のグループのフィンガーは、上記の第4のフィンガーとその後続のフィンガーとの間の励起中心に向けて右方向に大きさdだけシフトされている。すなわちまとめると、それぞれのグループの全てのフィンガーは、その最も近くにある励起中心に向けてシフトされている。上記の第2のグループと上記の第3のグループとの間の距離Δ2は、上記の第1のグループと上記の第2のグループとの間の距離Δ1より小さく、また上記の第3のグループと上記の第4のグループとの間の距離Δ3より小さい。
【0033】
これはセルの数およびセル当たりのフィンガーの数に依存せず、Δ1=Δ3およびΔ2=Δ2が成り立っている。
【0034】
上記の4つのグループは全て唯1つのフィンガーを備えているので、1つのグループ内でのフィンガーの間隔は存在しない。
【0035】
図1とは対照的に、図2は、4つのグループがすべてちょうど2つの電極フィンガーを備えた2つのセルを示している。これよりこれら全てのグループにおいて、まさに第1のフィンガーと第2のフィンガーとの間の距離が存在している。このグループ内の間隔は、それぞれD1,D2,D3およびD4で示されている。Δ1,Δ2およびΔ3の大きさは上記と同様にそれぞれのグループ間の距離を表している。音響経路AT1のフィンガー配置は、グループの間隔が等しい1つの変換器の、長さλの1つのセルを示している。これに対して音響経路AT2は、励起中心ECに隣接するフィンガーがこの励起中心に向けて大きさdだけシフトされているフィンガー配置を備えている。1つのグループの残りのフィンガーは、それぞれ同様にこの励起中心の方向にシフトされているが、その大きさは3dである。
【0036】
グループ当たり3以上のフィンガーを有するセルの構成の場合は、励起中心に隣接するフィンガーは大きさdだけシフトされる。同じグループで上記のフィンガーの次のフィンガーは、大きさ3dだけシフトされる。1つのグループの3番目のフィンガーは、大きさ5dだけシフトされる。一般的に、1つのグループのi番目のフィンガーは、このグループの最も近くにある励起中心の方向に大きさ(2i−1)dだけシフトされる。このことは、全てのグループでのフィンガー間隔が同じ大きさであり、かつ上記の第2のグループと上記の第3のグループとの距離Δ2がそれぞれ設定されたフィンガー間隔と等しくD1=D2=D3=D4となっている場合に成り立っている。こうしてまさにさらなるパラメータ、すなわちdが得られ、このパラメータから個々の電極フィンガーのそれぞれのオフセット(2n−1)dが与えられる。長さλの1つのセルの全ての電極フィンガーの配置は、このようにして1つの単一のパラメータによって十分規定される。まとめると、1つの変換器が得られ、この変換器はその反射率およびその電気的容量に関して最適化されている。こうしてそれぞれのセルは、変換器の最適化のプロセスにおいて個々のパラメータを変化させることによって調整することができる。さらに以下のことが成り立っている。与えられたフィンガー間の最小間隔dによって、等しいグループ間距離D1=D2=...を有するセルは、最大の静電容量および最大の反射率を有する。
【0037】
このオフセットdは、励起中心に隣接する1つのフィンガーがこの励起中心の方向にシフトされる場合は正の値である。このフィンガーが反対方向、すなわちこの励起中心から離れるようにシフトされのであれば、このオフセットdは負の値である。
【0038】
図3は、伝達関数S21を正の値のd(実線の曲線)と負の値のd(点線の曲線)に対して示す。波長λに対応するこのセルの絶対的な長さは維持されるが、通過帯域(Durchlassbereich)の低周波数側のスロープの特性周波数がシフトされている。このように正の値のdでは、低周波数側のスロープは、小さな遷移帯域(Ubergangsbreite)を備える。さらにこの通過帯域(Passband)におけるうねりが低減され得る。
【0039】
図4は、正の値のd(実線の曲線)および負の値のd(点線の曲線)それぞれに対応して構成された変換器の反射係数S11を示す。図4の左側には、周波数依存のインピーダンスがスミスチャートで示されている。図4の右側の部分には、通過帯域の領域の周波数に対して、この変換器が実質的に透明であることがを示されている。ここでもこれらの曲線は、上記の電極フィンガーがどの方向にシフトされているかによって異なっている。
【0040】
図5は、出力ポートにおける反射係数S22を、図4と同様に示す。
【0041】
これらの図3,4,および5は、メタライズ部の厚さが200nm、中間部のフィンガー周期(ピッチ)が5μm、およびメタライズ比ηが0.5のラダー型フィルターのものである。
【0042】
図6は、対応する変換器のアドミッタンスの実数部を、正のd(実線の曲線)、および負のd(点線の曲線)に対して示す。
【0043】
図7は、図6とは対照的に、このアドミッタンスの虚数部を示す。
【0044】
図8は、このアドミッタンスの大きさを、正の値のd(実線の曲線)と負の値のd(点線の曲線)に対して示す。
【0045】
これらの図6,7,および8は、メタライズ部の厚さが400nm、ピッチが5.0μm、およびメタライズ比ηが0.3のラダー型フィルターのものである。
【0046】
図3〜8の全ての図は、λ当たり4個のフィンガーを有するセルを備えた変換器のものであり、すなわちこれらは、図1で音響経路AT2に示されているようなセル構造のものである。
【0047】
本発明による電子音響変換器は、上記で説明した実施形態例の1つに限定されない。圧電基板上、または電極フィンガー上に、または電極フィンガーと圧電基板との間に、音響波を音響経路に導くことに寄与する追加のセルおよび追加のメタライズ構造または層構造を有する変換器も、同様に本発明による実施形態例である。
【符号の説明】
【0048】
AT1,AT2 : 音響経路
BB : バスバー
d : 励起中心に隣接する電極フィンガーのオフセット
D1,D2,D3,D4: 第1,第2,第3,および第4のグループ内のフィンガーの間隔
EC : 励起中心
EF : 電極フィンガー
F : 周波数
PSU : 圧電基板
S11 : 入力ポートでの反射係数
S21 : 伝達関数
S22 : 出力ポートでの反射係数
Δ1,Δ2,Δ3 : 第1,第2,第3,および第4のフィンガーグループの間の距離
λ : 音響波の波長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8