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特許5953437血管内血流動態の画像処理方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953437
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】血管内血流動態の画像処理方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0265 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   A61B5/02 810
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-537973(P2015-537973)
(86)(22)【出願日】2014年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2014074801
(87)【国際公開番号】WO2015041312
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2016年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-194898(P2013-194898)
(32)【優先日】2013年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】399081213
【氏名又は名称】インフォコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】林 英昭
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−220926(JP,A)
【文献】 特開2013−003495(JP,A)
【文献】 特開2013−039223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/026 − 5/0295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定量の蛍光造影剤が注入された血管の一部を撮像対象として、赤外光により動画撮像をし、
該動画撮像した画像出力の輝度値時間変化曲線の形状を画像解析し、
該画像解析の結果に基づいて、血液量又は血流量の非定量データを算出し、
前記血管の一部を測定対象として、電磁血流量計により血流量を測定し、
この測定結果と前記非定量データとに基づいて、血液量又は血流量の定量データを算出することを特徴とする血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項2】
前記血液量又は血流量の定量データから解析画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項3】
前記解析画像に代えて、解析動画を生成することを特徴とする請求項2に記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項4】
前記血管の一部を自然光により動画撮像し、該自然光により動画撮像した出力画像と前記解析画像とを融合させることを特徴とする請求項1または2に記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項5】
前記蛍光造影剤がインドシアニングリーンである請求項1ないし4のいずれかに記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項6】
前記蛍光造影剤がフルオレセインである請求項1ないし5のいずれかに記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項7】
一定量の蛍光造影剤が注入された血管の一部を赤外光により動画として撮像する赤外光撮像装置と、
前記血管の一部を測定対象として、血流量を測定する電磁血流計と、
該撮像装置により撮像された画像出力の輝度値時間変化曲線の形状を画像解析し、該画像解析の結果に基づいて血液量又は血流量の非定量データを算出し、前記測定された血流量と前記非定量データとに基づいて、血液量又は血流量の定量データを算出する画像解析装置と、を備えることを特徴とする血管内血流動態の画像処理システム。
【請求項8】
前記画像解析装置において、非定量データに代えて、定量データを算出する画像解析装置を備えることを特徴とする請求項7に記載の血管内血流動態の画像処理システム。
【請求項9】
前記血液量又は血流量の定量データから解析画像を生成する解析画像生成装置をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載の血管内血流動態の画像処理システム。
【請求項10】
前記血管の一部を自然光により動画として撮像する自然光撮像装置と、
該自然光撮像装置の出力画像と前記解析画像生成装置から生成された解析画像とを融合させる画像融合装置と、を備えることを特徴とする請求項9に記載の血管内血流動態の画像処理システム。
【請求項11】
定量化換算式を用いて血液量又は血流量の非定量データを定量データへ換算することを特徴とする請求項1に記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【請求項12】
電磁血流計補正式及び血管径換算式を用いて血液量又は血流量の非定量データを定量データへ換算することを特徴とする請求項1に記載の血管内血流動態の画像処理システムの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内血流動態の画像処理方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤やもやもや病などの脳血管疾患において、その疾患の診断や治療結果の判定をするために、様々な検査が行われている。例えばCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)検査やMRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)検査では、断層画像やその画像を再構成した画像を利用し、血管造影検査(Angiography)では、カテーテルから造影剤を注入することで血管を描出し、連続で撮影することで得られる画像を元に、脳実質の状態や血管の走行、血液の流れを観察する。
【0003】
血管外科手術の診断において、臓器や血管の形態を画像として観察し、虚血部位や範囲、発症からの経過時間などを判定するだけでなく、血管に流れる血流の状態を画像化、数値化することで、疾患の診断や治療結果の効果を定量的、定性的に判定することが可能である。
【0004】
パーフュージョンイメージング(Perfusion Imaging)法は、組織の毛細血管あるいはそれに準ずる機能血管系の血流(灌流)に、動脈側で血流に何らかの目印(トレーサ)をつけ、トレーサが血流にのって組織を通過してゆく様子を観察する撮影方法で、毛細血管レベルの組織血流を定量的、あるいは半定量的に画像化することが可能となっており、このような方法で撮影した画像をパーフュージョンイメージと言う。パーフュージョンイメージング法は組織(毛細血管)の解析法である。
【0005】
また、血流の判定を行うための指標としては、到達時間(AT:Arrival Time)、最大振幅までの時間(TTP:Time To Peak)、血流量(BF:Blood Flow)、血液量(BV:Blood Volume)、平均通過時間(MTT:Mean Transit Time)などが利用される。例えば、診断画像を用いて血流量を定量評価する場合、トレーサ物質による画像の経時的濃度変化を示すTime Density Curve(TDC)を算出し、それを解析することで上記の評価値を算出する。さらに、これらの評価値及び、TDCの解析に基づき、BF、BV、MTTの各定性画像を作成し、臨床評価に利用している。
【0006】
血流状態を画像化・数値化することが可能な検査には、以下のようなものがある。
<CT装置、若しくはMRI装置を利用する方法>
CT装置を用いて撮影する方法をCT Perfusion、MRI装置を用いて撮影する方法をMRI Perfusionと呼ぶ。CT及びMRIを用いたパーフュージョンイメージは、血管を強調して撮影するために造影剤をトレーサとして急速静注し、同一断面画像を連続で撮影を行い、得られた断層画像の個々のピクセルの経時的な濃度変化を表すTDCを算出し、解析することで得られる。CT Perfusion及びMRI Perfusionは共に組織(毛細血管)の解析法である。
CT PerfusionはX線の被曝があり、血液脳関門(Blood Brain Barrier)に異常をみる病態で定量性を求める場合には特別の配慮が必要となるが、標準的なCT装置及び解析ソフトウェアがあれば簡単に測定することが可能である。一方、MRI Perfusionは体内に磁性体を埋め込む手術を行った患者は適応外で、造影剤濃度と信号強度の間の線形性が保証されないため、定量的データは得にくいという欠点がある。また、CT Perfusion、MRI Perfusionは共に造影剤にアレルギーを持った患者には、トレーサを静注することができないため、適応できない。
【0007】
<Xe CTを利用する方法>
非放射性Xe(Xenon)ガスをトレーサとして利用する方法で、Xeガスを吸入しCT装置にて断層像を継時的に得るとXeが脳組織に拡散され、CT画像の組織濃度(CT値)が軽度上昇することを利用する。この継時的なCT値の上昇からTDCを算出し血流状態を画像化する。
Xeガスには興奮作用、麻酔作用があり利用しにくく、ガスを供給する閉鎖回路装置が必要で、X線被曝にも配慮が必要である。
【0008】
<SPECT装置、若しくはPET装置を利用する方法>
放射性同位元素を含んだ薬品(以後RI薬品と呼ぶ)をトレーサとして利用する方法で、RI薬品を抹消静脈に注射若しくは吸入し、RI薬品の体内分布を継時的にSPECT装置(Single Photon Emission Computed Tomography)やPET装置(Positron Emission Tomography)を利用して体外から計測することでTDCを算出し、血流状態を画像化する撮影方法である。
PETを利用した検査は、現在利用可能なパーフュージョンイメージング法で最も定量性に優れており、酸素摂取率やエネルギー代謝率などを同時に測定できる利点がある。しかし、SPECT、PET撮影は共にRI薬品を扱うための核医学設備が必要で、検査による被曝も多い。
【0009】
<血管造影検査を利用する方法>
鼠径部、肘、手首などの動脈からカテーテルを目的血管に誘導し、造影剤を血管内に注入してX線透視撮影することで、血管の走行や狭窄部位などを観察する方法であり、この手法を用いて治療を同時に行うことができる。デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィー法(DSA)で撮影され、造影剤が注入された血管のみを高いコントラストで観察可能となる。撮影されたDSA画像の評価したい血管にROIを設定し、設定されたROI内に存在する血管(造影剤)のTDCを解析することで、血流状態を画像化することができる。
血管造影検査は、血管内手術前後の効果判定を簡単に行うことができるが、X線による被曝があり、さらに、造影剤にアレルギーを持った患者は、検査適応外となる。また、血管内にカテーテルを直接挿入するため、検査室及び検査機器には手術室に準ずる清潔度が要求される。また、術後は止血のため数時間は絶対安静が必要で、基本的には入院が必要な検査である。
【0010】
血管疾患における診断は、血流状態を画像化するだけでなく、血流状態、血流量を定量的、定性的に数値化することでも行われる。これらの情報は、前記の画像の経時的濃度変化グラフを解析して算出する方法と、超音波を利用した超音波ドップラー、電磁血流計(Electromagnetic Blood Flow Meter)による血流計測機器を利用する方法がある。
【0011】
<超音波ドップラーを利用した方法>
超音波検査装置のカラードップラー法(Color Doppler Imaging)を利用すると、リアルタイムに生体内の血行動体に色を付け、2次元断層画像であるBモード画像上に重ね合わせて血行状態を得ることができる。カラードップラー法は、超音波のドップラー効果により、反射した音波の周波数が変化することを利用し、目的の物体(血液)が探触子(プローブ)に近づいているのか、遠ざかっているのかを判定し画像化する技術である。
超音波プローブチップは大きいため小さな血管の評価はできず、血流計測も血管径とプローブサイズが異なると不可能であるが、場所を選ばず簡単に検査ができ、多方向からの観察が可能で、リアルタイムに結果を観察することができる。
【0012】
<電磁血流計を利用した方法>
磁界中で導体が動くと起電力が発生するフレミングの法則に基づくもので、血流を電流と見なし、血流と磁界の両方の直角方向に起電力が発生することを利用して、瞬時血流量、平均血流量、一回拍出量などを測定する。
電磁血流計を利用した方法は、手術中の血流量計測に用いられ、リアルタイムな計測結果を測定することができる。しかし電磁血流計は、プローブを直接血管に装着する必要があり、目的血管を露出させないと計測ができない。
【0013】
さらに、血流の評価は、血液の流れ自体を観察することでも行われる。
<術中蛍光血管撮影法を利用した方法>
トレーサとして静脈内投与された蛍光血管造影剤から励起される近赤外領域の蛍光を、手術用顕微鏡の近赤外領域光下でビデオ撮影することで血流を評価する方法である。
血管内の蛍光血管造影剤の状態(血流の有無)を把握することはできるが、血流状態、血流量など詳細に信号変化を解析することは不可能である。撮影には目的血管を手術用顕微鏡装置の近赤外光下でビデオ撮影する必要があるが、術中に血流状態をリアルタイムに確認することが可能である。
【0014】
上記のように、血管疾患における血流の評価には様々な種類の検査や測定法が存在するが、臨床現場においては、患者の病態や用途、診断タイミングに応じて、最も適切な検査、測定法を検討し、採用している。例えば、動脈瘤クリッピング後の血流状態の評価を行う場合、手術中にリアルタイムで血流の評価を行うことが要求される。この時、例えばCTやMRI、血管造影検査など、手術室に備え付けられていない専門の装置を必要とする検査は適応できず、電磁血流計や術中蛍光血管造影法を利用した血流の評価が選択される。
【0015】
さらに、使用する装置で取得可能な情報の種類によっても、その検査、測定法利用の可否が決まる。例えば、電磁血流計では瞬時血流量、平均血流量、一回拍出量などが測定可能であるが、出力されるデータは数値データ(グラフ)であり、術中蛍光血管撮影法では、目視でAT、TTP画像は推定可能であるが、BV、BF、MTTデータ及びそれらの情報を付加した血流評価画像の作成は不可能である。そのため、術者は術後の評価に必要な情報を得ることができる計器を、その測定可能なデータ内容からも適宜選択し、手術の評価を行う必要がある。つまり、例えばBV、BF、MTTの値、及び血流評価画像を得たい場合、例えば、患者の病状の落ち着いた手術数日後にCT Perfusion Imageを撮影し、さらに撮影した画像を解析する必要がある。つまり、手術中リアルタイムにBV、BF、MTTの値、及び血流評価画像を得るのは困難である。
【0016】
例えば、特許文献1には、特定の波長の放射線を放射する蛍光イメージング剤を用いて、バイパスグラフト手術などを受けた血管の開存性を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2011−147797号公報
【発明の概要】
【0018】
しかしながら、従来の技術においては、術中蛍光血管撮影法からBV(Blood Volume:血液量)、BF(Blood Flow:血流量)、MTT(Mean Transit Time:平均通過時間)などの所望の情報を推定することは非常に困難であった。
本発明では、術中顕微鏡で撮影される蛍光造影剤の動画データに関する解析技術が提供され、BV、BF、MTTなどの情報を推定可能なパーフュージョン(Perfusion)解析方法を蛍光造影剤解析へ応用する事で、蛍光造影剤解析でも、BV、BF、MTTなどの情報、血管壁厚などを推定することを可能とする方法およびシステムを提供することを課題とする。
【0019】
本発明に係る血管内血流動態の画像処理方法は、一定量の蛍光造影剤が注入された血管の一部を撮像対象として、赤外光により動画撮像をし、該動画撮像した画像出力の輝度値時間変化曲線の形状を画像解析し、該画像解析の結果に基づいて、血液量又は血流量の非定量データを算出することを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様によれば、前記非定量データに代えて、前記血液量又は血流量の定量データを算出する。
【0021】
本発明の一態様によれば、前記血管の一部を測定対象として、電磁血流量計により血流量を測定し、この測定結果と前記非定量データとに基づいて、血液量又は血流量の定量データを算出する。
【0022】
本発明の一態様によれば、前記血液量又は血流量の定量データから解析画像を生成する。また、前記解析画像に代えて、解析動画を生成する。
【0023】
本発明の一態様によれば、前記蛍光造影剤がインドシアニングリーン、あるいはフルオレセインである。
【0024】
本発明の一態様によれば、前記血管の一部を自然光により動画撮像し、該自然光により動画撮像した出力画像と前記赤外光により動画撮像した出力画像とを融合させることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る血管内血流動態の画像処理システムは、一定量の蛍光造影剤が注入された血管の一部を赤外光により動画として撮像する赤外光撮像装置と、該撮像装置により撮像された画像出力の輝度値時間変化曲線の形状を画像解析し、該画像解析の結果に基づいて血液量又は血流量の非定量データを算出する画像解析装置と、を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様によれば、前記画像解析装置において、非定量データに代えて、定量データを算出する画像解析装置を備える。
【0027】
本発明の一態様によれば、前記血液量又は血流量の定量データから解析画像を生成する解析画像生成装置をさらに備える。
【0028】
本発明の一態様によれば、前記血管の一部を自然光により動画として撮像する自然光撮像装置と、該自然光撮像装置の出力画像と前記解析画像生成装置から生成された解析画像とを融合させる画像融合装置と、を備える。
【0029】
本発明に係る血管内血流動態の画像処理方法及びシステムでは、BV、BF、MTTなどの情報、血管壁厚などを推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態に係る方法のフロー図である。
図2】システム構成の一例を示す図である。
図3】第1実施形態の画像解析における出力パラメータ画像の定義を説明する図である。
図4】ROIの作成位置を説明する図である。
図5】第1実施形態の画像解析における出力パラメータ画像の定義を説明する図である。
図6】第2実施形態の画像解析における出力パラメータ画像の定義を説明する図である。
図7】BFの算出方法を説明するフロー図である。
図8】BFと血管断面積との関係を説明する図である。
図9】第2実施形態のBFの算出方法を説明する図である。
図10】第3実施形態のBFの算出方法を説明する図である。
図11】バイパス手術の前後における解析画像の変化を示す図である。
図12】画像フュージョン処理を含む方法のフロー図である。
図13】画像フュージョン処理の処理手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の血管内血流動態の画像処理方法及びシステムを実施するための形態について説明する。本実施形態では、脳血管のバイパス手術において、手術室中でBVおよびBF定量画像を算出して診断する方法を例として説明する。
なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではないことは自明である。
【0032】
以下の実施形態において、用語と略語(解析出力画像名)は以下のように対応している。
AT: Arrival Time 到達時間 [sec]
TTP: Time To Peak 最大振幅までの時間 [sec]
MTT: Mean Transit Time 平均通過時間 [sec]
MFV: Mean Flow Velocity 定量血流速度 [cm/sec]
BV: Blood Volume 定量血液量 [ml]
BF: Blood Flow 定量血流量 [ml/min]
rMFV: relative Mean Flow Velocity 非定量血流速度
rBV: relative Blood Volume 非定量血液量
rBF: relative Blood Flow 非定量血流量
eBF: 電磁血流計を用いて計測した定量血流量 [ml/min]
Peak: 最大振幅画像
Kbf: 定量化換算係数
S: 血管断面積(内側) [mm*mm]
Fusion: 画像重ね合わせ
ROI: Region of Interest 関心領域
ICG: Indocyanin green インドシアニングリーン
FITC: Fluorescein isothiocyanate フルオレセイン
なお本実施形態において、画像出力とは、画像、動画、あるいは動画のコマから抽出された画像による出力を意味する。
【0033】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係る血管内血流動態の画像処理のシステムの構成について説明する。本実施形態に係るシステムは、図1に示すように、血管を赤外光により動画として撮像する赤外光撮像装置100と、赤外光撮像装置100から出力されるビデオ信号を変換して動画ファイルを作成する動画変換装置102と、動画変換装置102によって変換された動画ファイルを解析し、該画像解析結果に基づいて血液量又は血流量の非定量データを算出する画像解析装置104と、画像解析装置104で得られた血液量又は血流量の定量データから解析画像を生成する解析画像生成装置106とを備える。
【0034】
これらの装置は、たとえば、一つのパーソナル・コンピュータ内部に設けられていてもよい。あるいは、個別の装置としてもよい。あるいは、ソフトウェアの形態でパーソナル・コンピュータや測定機器、表示装置、分析装置などに、その一部または全部の機能が組み込まれていてもよい。
【0035】
図2には、本実施形態に係るシステムの構成の一例が示されている。図2では、マイクロ・サージャリー(顕微鏡を使って行う手術)における、本実施形態に係る発明の構成の一例が記載されている。
【0036】
本実施形態に係る方法の実施手順は以下の通りである。
【0037】
[蛍光造影剤の投与]
蛍光造影剤としてインドシアニングリーンを投与する。経静脈、または経動脈経路で投与を行う。例)インドシアニングリーン25mgを10mlに希釈して一回2ml投与する。
【0038】
蛍光造影剤としては、インドシアニングリーン(ICG: Indocyanin green)、フルオレセイン(FITC: Fluorescein isothiocyanate)などを用いることができる。ICGは血液内でα−リポプレテインと重合することで赤外線光に対して、モノクロの蛍光を発色する。本現象を利用して眼科分野では眼底蛍光血管撮影に応用されている。FITCは蛍光色素であり、紫外線を当てると緑色の光を出す。
上記の蛍光造影剤以外にも、たとえば、特定の波長の光を照射することにより、特定の波長の光を放出するような薬剤であれば適宜用いることができる。
【0039】
[電磁血流計を用いた定量BF値の計測]
電磁血流計(Electromagnetic Blood Flow Meter)を用いてある1つの特定の血管位置の定量血流値を計測する。この定量計測値をeBF(ROI)と定義する。実際の電磁血流計を用いた計測操作はバイパスグラフトを含む血管構造を電磁血流計プローブで挟んで行う。
【0040】
[動画撮像]
赤外光撮像装置100で撮像を行う。赤外光撮像装置100としては、赤外光撮影が可能な一般的な手術中顕微鏡を用いることができる。
【0041】
[動画ファイル変換]
赤外光撮像装置100で撮像したアナログ(コンポジット)ビデオ信号を動画変換装置102のビデオキャプチャー装置を用いてビデオ信号のアナログ-デジタル変換する。デジタルビデオ信号はパソコンを用いてローカルディスクに動画ファイルとして取り込む。動画ファイルは、MPEGやMOVなどの汎用動画ファイルであってよい。
【0042】
[動画ファイルの定量解析]
画像解析装置104においては、以下の手順により、動画撮像した画像出力の解析を行う。
【0043】
ここでは、血管手術前に術中視野内に見える、ある1つの特定の血管に対して電磁血流計を用いた定量BF値を計測することと並行して、手術中に蛍光血管撮影薬を用いたPerfusion解析のFirst Moment法計算処理を行う事で、定量MTTデータと非定量rBV、rBFデータとを算出する。
【0044】
まず、時間経過とともに、画像の中の血管の1点(1ピクセル)をモニターする。これにより、当該血管の1点(1ピクセル)の輝度値の変化の情報を得ることができる。ここで、輝度値の変化の情報を得る対象を1ピクセルとしてもよいし、複数ピクセルの各輝度値の平均値の情報を用いてもよい。
輝度値時間変化曲線を解析する事で、ICG薬剤が塊で血管を通過する状態を定量分析可能である。図3に示す定量解析を動画画像の全ピクセルで実行する。解析結果が時間(X軸)単位で算出されるAT、TTP、MTTは定量画像データとして求まる。解析結果が輝度値(Y軸)の積分値から算出されるrBV、rBFは非定量画像データとして求まる。
【0045】
蛍光造影剤の動画データをガイド画像として見ながら電磁血流計で計測した特定の血管位置と同一の血管位置にROIを作成する(図4)。次に、rBF画像に対するROI統計処理を行う。ROI統計処理により算出された平均非定量血流値をrBF(ROI)と定義する。eBF(ROI)とrBF(ROI)の間に成り立つ換算係数値:Kbfを算出する。
eBF(ROI) = Kbf * rBF(ROI)
【0046】
ここでROIとは、関心領域(ROI:Region of Interest)である。ROI作成とは、観測する画像上の関心領域を2次元閉曲線で囲む関心領域作成処理である。ROI統計とは、ROI形状内部の単位ピクセルあたりの平均画像値を算出する画像処理である。
【0047】
特定の血管位置(ROI)で成り立つ定量化換算式
eBF(ROI) = Kbf * rBF(ROI)
は、画像空間全体位置に対しても成り立つ定量化換算式であると仮定する。
すなわち、下記式のように、Perfusion解析のFirst Moment法計算処理から算出した非定量rBF画像全体に乗じる事で定量BFへ変換することができる。
BF = Kbf * rBF
【0048】
Perfusion解析のFirst Moment法計算で成り立つ関係式
rBF = rBF / MTT、BF = BV / MTT
と、非定量rBF画像を定量BF画像へ変換する定量化換算式
BF = Kbf * rBF
が成立する事から、下記のような非定量rBV画像を定量BV画像へ変換する定量化換算式が成り立つ。
BV = Kbf * rBV
【0049】
なお上記のパラメータは、以下に示す関係にある。
rBF = rBV / MTT : 非定量関係式
BF = BV / MTT : 定量関係式
eBF(ROI) = Kbf * rBF(ROI) : 特定の血管位置(ROI)で成立する定量化換算式
BF = Kbf * rBF : 画像全体で成立するrBFとBFの間の定量化換算式
BV = Kbf * rBV : 画像全体で成立するrBVとBVの間の定量化換算式
【0050】
画像解析の出力パラメータ画像は、図5に示すような血管の1点の輝度値の変化の情報から得られた輝度値時間変化曲線の形状より抽出することができ、各パラメータの関係は図5に示すような関係にある。
【0051】
バイパス手術の前後における解析画像の一例を図11に示す。この例では、バイパス手術後に、ATが短縮し(血流が早くなった)、画像中央部で色の濃い部分が増えた事がわかる。
【0052】
定量的な術中蛍光血管撮影解析を行うためには、蛍光造影剤の静脈注射をするタイミングにより、安定した結果を得ることが困難である。輝度値時間変化曲線から積分値を求め面積重心を求めることで、注射タイミングに依存しない安定したBF、BV、MTTを求めることができる。また、電磁血流計によるグラフト血流を参考にすることで、グラフト血管径、蛍光造影剤の投与量なども考慮して、より正確なBFを算出することもできる。必要に応じては、頚動脈に蛍光造影剤を注入することで一定のタイミングで検査を繰り返すことができる。
【0053】
上記のように、本実施形態に係る方法では、電磁血流計を用いて特定血管の定量BF値を計測することで、血管手術前あるいは後の血管の状態を診断することが可能となり、特に視覚的に認識しやすい形態で提供することができる。
【0054】
また、組織(毛細血管)の解析法として用いられる CT Perfusion及びMRI Perfusionのパーフュージョン解析のFirst Moment法では、カーブ下面積が非定量rBVと定義され、各ピクセル毎の非定量rBV画像は容易に求める事ができる。また、AT時間を原点ゼロ[sec]と定義した場合の面積重心時間が定量MTTと定義される。各ピクセル毎の定量MTT画像も容易に求める事ができる。
【0055】
従来のPerfusion解析方法では非定量rBVと非定量rBFの間には、rBF = rBV / MTT という計算式から成り立つ事が解っている。従来のPerfusion解析のFirst Moment法だけでは、定量BV、BF画像は推定不可能であるが、本実施形態に係る方法によれば、rBF = rBV / MTT という計算式を用いる事でピクセル毎の非定量rBV画像と定量MTT画像から非定量rBF画像を容易に求める事ができる。
【0056】
<第2実施形態>
第2実施形態の方法では、第1実施形態の「動画ファイルの定量解析」における計算手法が異なるが、システムの構成、方法に係る他のステップなどは第1実施形態と同様である。
【0057】
以下では、組織(毛細血管)の解析法であるCT Perfusion及びMRI Perfusion用のパーフュージョンイメージ法(First Moment法)を、術中蛍光血管撮影(顕微鏡カメラを用いた)データを用いて血管の解析法で使用した場合の計算手法について説明する。
【0058】
パーフュージョンイメージ法(First Moment法)を用いた組織(毛細血管)解析では、AT時間を原点ゼロ[sec]と定義した場合の面積重心時間が定量MTTと定義され、カーブ下面積が非定量rBVと定義される。非定量rBVと非定量rBFと定量MTTの間には、次の関係式が成立している。
rBF = rBV / MTT
【0059】
組織(毛細血管)解析法の電磁血流計補正式を考える。非定量rBFは電磁血流計を用いて特定血管位置の定量BF[ml/min]を計測する事で、BF[ml/min]画像へ定量値換算できる。
BF[ml/min] = Kbf * rBF : 電磁血流計補正式
ここでBF[ml/min]は「単位組織あたりを流れる」定量血流量(Blood Flow)である。
【0060】
組織(毛細血管)解析からは、BF[ml/min]及びBV[ml]が直接算出できる。血管解析では「単位組織あたりを流れる」との概念は適切では無い事が予想できる。血管解析ではある1本の血管を流れるBF[ml/min]及びBV[ml]を算出する事が求められている。
【0061】
パーフュージョンイメージ法(First Moment法)を用いた組織(毛細血管)解析を血管解析に適応した場合の厳密解について考察する。血管解析ではAT時間を原点ゼロ[sec]と定義した場合の面積重心時間が定量MTTと定義される。この関係式は組織(毛細血管)解析法と変わらない。
【0062】
定量MTTは組織解析、血管解析共に同じ概念で定義できる算出量である。カーブ下面積をrβと定義する。非定量rβと定量MTTそれとrMFV:非定量平均血流速度(Mean Flow Velocity)の間には、
rMFV = rβ / MTT
関係式が成立している。この実施形態では、前述した図3のrBFがrβに相当する。
【0063】
上記の関係式の説明を図6に示す。この関係式は血管径を変えて行ったファントム実験のデータ解析から導き出す事が出来た。ファントム実験の結果rβ/MTTはrBFには比例していなかった。実験からは、「rβ/MTT」が「rBF/S」に比例する結論を示していた。
【0064】
血管解析法の電磁血流計補正式を考える。非定量rMFVは電磁血流計を用いて特定血管位置の定量MFV[cm/sec]を計測する事でMFV[cm/sec]画像へ定量値換算できる。
MFV[cm/sec] = Kbf * rMFV : 電磁血流計補正式
【0065】
MFV[cm/sec]は「単位空間あたりを流れる」平均血流速度である。ここで単位空間の空間とは血管と組織(毛細血管)の両方を示していると考えられる。
血管解析法の血管径換算式を考える。最終的に算出したい定量値はBF[ml/min]であるため定量BFを算出する方法を考える。定量MFVと定量BFの間には次の血管径換算式が成立する。
BF[ml/min] = S[mm*mm] * MFV[cm/sec] : 血管径換算式
【0066】
BFの算出過程の概要を図7のフロー図に示す。
また、図8に示すように、Sは、ある血管位置での内側血管断面積と定義する。
【0067】
この血管径換算式は、各血管の位置で内側血管断面積Sを測定できれば、定量BFを算出可能である事を意味している。内側血管断面積Sは1つの値で無い事が重要な事実である。血管の太さ(血管断面積)は血管毎に異なる。また厳密に考えると1本の血管でも位置が異なるとで血管の太さ(血管断面積)は異なる。これらの違いは内側血管断面積Sが厳密には画像で与えられる事を意味している。
【0068】
パーフュージョンイメージ(First Moment法)血管解析法を使用すると、直接得られる物理量は非定量rMFVである。この非定量rMFVから、電磁血流計補正式(MFV = Kbf * rMFV)と血管径換算式(BF= S * MFV)を用いる事で定量BFを算出することができる(図9)。
【0069】
第2実施形態の方法によって、より厳密なBFの値を算出することが可能となる。
【0070】
<第3実施形態>
第3実施形態の方法では、第2実施形態とはBFの算出式が異なるが、システムの構成、方法に係る他のステップなどは第1実施形態と同様である。
【0071】
BFを厳密に算出するためには、内側血管断面積:S[mm*mm]を厳密に計測する必要がある。しかし、現実には内側血管断面積:S[mm*mm]を厳密に計測する事は難しい。
【0072】
電磁血流計補正を行う段階では、ある1ヶ所の血管位置の血流速度(血流量)を測定している。この1ヶ所の血管位置での血管径;R[mm]は計測する事は可能である。計測した血管径;R[mm]から内側血管断面積:Sを求める。初めの近似は電磁血流計で計測した同じ1本の血管では内側血管断面積:Sは同一と近似する。
【0073】
電磁血流計では計測してない別の血管の内側血管断面積:Sについても同一と近似する。この近似により、厳密計測が難しかった内側血管断面積:S画像は、定数として取り扱う事が可能になる。
【0074】
第3実施形態の方法によって、パーフュージョンイメージ(First Moment法)血管解析法が近似的に算出可能となる。
【0075】
<第4実施形態>
第4実施形態として、電磁血流計測定を行わずとも、手術条件を定めることにより、第1から第3実施形態と同様の解析を行うことができる方法について説明する。第4実施形態においては、電磁血流計測定を行わずに手術条件を定めること以外は、上記第1から第3実施形態と同様である。
【0076】
電磁血流計測定を毎回行う事は簡単では無い。電磁血流計測定の計測操作は血管構造を損傷するリスクを含むため、できるかぎり回避したいのが現状である。手術毎に、電磁血流計を用いなくても手術条件をそろえる事で、定量BV、BF画像を近似的に算出できる。ここで、手術条件とは、顕微鏡カメラの感度、顕微鏡カメラの倍率、顕微鏡カメラのWorking Distance(ワーキング・ディスタンス)、顕微鏡カメラのAngle(アングル)、蛍光造影剤(ICG、FITC)の投与量などである。
【0077】
Working Distance(ワーキング・ディスタンス)とは顕微鏡カメラの対物レンズの先端から焦点があっている被写体までの距離の事である。Angle(アングル)とは、顕微鏡カメラが被写体を見ている角度の事である。
蛍光造影剤の投与量とは、蛍光造影剤(ICG、FITC)を腕の静脈から注射するときの、注射する薬の量の事である。一般的には、蛍光造影剤を注射しやすいように希釈する。希釈の状態を同じくする事と希釈後の注射薬を同じ量だけ注射する事を意味する。なお手術条件をそろえるための具体的な条件は、例えば病院などの機関ごとに決定されても良い。
【0078】
第4実施形態に係る方法では、電磁血流計を用いる事で定量BV、BF画像を算出可能にする技術と電磁血流計を用いなくとも手術条件をそろえる事で、定量BV、BF画像を近似算出可能にすることができる。このため、バイパスグラフトが組織に供給できる血流量、長期にわたるバイパスの開存度の予測といった具体的な効果がある。
【0079】
[血管壁厚の計測]
脳動脈瘤、頚動脈狭窄病変においては、その厚さ情報は動脈瘤の破れやすさ、狭窄病変からの血栓遊離など手術操作に関わるリスクへの情報を提供できる。
ICGはその蛍光周波数から10mmの深部を透見することができる。血管壁は0.1-10mm程度であり、手術の際にはその血管壁の性状が重要である。ICG輝度は血管壁厚により変化するため、投与量、顕微鏡カメラ感度、観察する対象物までの距離、倍率を一定に保つことで壁厚を推定することができる。
【0080】
FITCはその蛍光周波数から5mmの深部を透見することができる。比較的薄い血管壁を有している血管病変、バイパスの開存などの観察が可能である。
【0081】
本方法では脳の組織ではなく、血管自体の血流量(BV)、血液量(BF)、平均通過時間(MTT)、さらに信号輝度から血管壁厚を知ることを目的としている。
【0082】
[画像フュージョン処理]
上記の蛍光造影剤解析結果の出力パラメータ画像データのみでは、動脈・静脈、脳溝などの解剖学的位置の関係は不明瞭である。解剖学的画像(動画)データの上に蛍光造影剤解析結果の出力パラメータ画像データを画像重ね合わせ処理(画像フュージョン処理)することで、解剖学的位置の関係を把握することできる。
【0083】
画像フュージョン処理は、組織(毛細血管)の解析法であるが、血管の解析法を必要としている。上記の血管内血流動態の画像処理の結果を利用することができる。画像フュージョン処理を含む血管内血流動態の画像処理方法に係るシステムは、図12のような構成となっている。
【0084】
画像フュージョン処理を含む血管内血流動態の画像処理においては、赤外光撮像装置100での撮像とともに、自然光撮像装置108でも撮像を行う。ここでは、自然光による撮像が行われ、画像または動画データが録画される。
【0085】
画像融合装置110では、血管の一部を自然光により動画として撮像する自然光撮像装置108と、該自然光撮像装置108の出力画像と解析画像(動画)生成装置106から生成された解析(動画)画像とを融合させる。
【0086】
画像フュージョン処理では、次の(A)、(B)および(C)の画像(動画)データを利用する。
(A)自然光のM枚動画データ(カラー画像)
(B)蛍光造影剤のN枚動画データ(グレースケール画像)
(C)解析結果の静止画データ(カラースケール画像)[BF、BV、MTTなどの複数のデータを含むものがある]。
【0087】
ここで(グレースケール画像)とは、グレースケールのカラーテーブルを参照する事で表示色を当てはめるバリュータイプ画像(主に医療画像ではMRI、CTで利用)の意味である。
(カラースケール画像)とは、レインボーカラー等のカラーテーブルを参照する事で表示色を当てはめるバリュータイプ画像(主に医療画像では核医学で利用)の意味である。
(カラー画像)とは写真のようにカラー色が固定されている画像の意味である。
【0088】
ここでN枚動画データとは、時間軸方向にN枚のアニメーションに成る画像の意味である。静止画データとは、1枚の写真のような画像の意味である。
【0089】
上記実施形態1または2の技術にかかる蛍光造影剤解析は、(B)から(C)を導き出す処理である。重要な点は、蛍光造影剤解析だけの処理では(A)は使わない点、(B)動画から(C)静止画を作り上げるため(B)と(C)は同じ位置関係にある点である。(B)と(C)の画像フュージョン処理は同一位置なので位置関係は必ず一致する。
【0090】
(A)と(B)、(C)が同じ位置関係にあるかは、使用する機器によって異なる。自然光動画と赤外光動画の撮像位置が異なる機器と位置が同じ機器が存在する。また、自然光動画のアニメーション枚数Mと蛍光造影剤の動画のアニメーション枚数Nは、一般的には異なる。また、自然光動画を撮影したタイミングと蛍光造影剤の動画を撮影したタイミングが同一時間に撮影したものか否かも顕微鏡機器によって異なる。これらを同一時間に撮影したか否かは、当該画像フュージョン処理の必須の条件ではない。上記の
本実施形態では、次の3種類の画像フュージョン処理を説明する。
【0091】
(I)画像フュージョン処理I(掛け算型の画像フュージョン処理):蛍光造影剤の動画データから計算したPeak静止画データ(グレースケール画像)と(C)画像解析の出力パラメータ静止画データ(カラースケール画像)を画像フュージョン処理して画像フュージョン静止画データ(カラー画像)を作成する画像フュージョン処理I。
この処理では、(1枚のグレースケール画像)と(1枚のカラースケール画像)の組み合わせから(1枚のカラー画像)を作成する。
【0092】
(II)画像フュージョン処理II(掛け算型の画像フュージョン処理):(B)蛍光造影剤の動画データ(グレースケール画像)と(C)画像解析の出力パラメータ静止画データ(カラースケール画像)を画像フュージョン処理して画像フュージョン動画データ(カラー画像)を作成する画像フュージョン処理II。
この処理では、(N枚のグレースケール画像)と(1枚のカラースケール画像)の組み合わせから(N枚のカラー画像)を作成する。
【0093】
(III)画像フュージョン処理III(自然光動画と画像フュージョン処理):画像フュージョン処理で作成できた画像フュージョン動画データ(カラー画像)と(A)自然光の動画データ(カラー画像)または(A)自然光の静止画データ(カラー画像)を画像フュージョン処理して画像フュージョン動画データ(カラー画像)を作成する画像フュージョン処理III。
この処理では、(N枚のカラー画像)と(M枚または1枚のカラー画像)の組み合わせから(N枚のカラー画像)を作成する。
【0094】
図13には、画像重ね合わせ処理(画像フュージョン処理)の処理手順の一例が示されている。この処理手順は、画像フュージョン処理II及び画像フュージョン処理IIIを行い、(N枚のカラー画像)と(M枚または1枚のカラー画像)の組み合わせから(N枚のカラー画像)を作成する手順を示すものである。
【0095】
画像フュージョン処理Iと画像フュージョン処理IIは同じ掛け算型の画像フュージョン処理を行っている。画像フュージョン処理Iと画像フュージョン処理IIの違いは(I)は、(グレースケール画像)が1枚であるのに対して、(II)は(グレースケール画像)がN枚であることである。(C)画像解析の出力パラメータ静止画データ(カラースケール画像)は共に1枚である。
画像フュージョン処理Iは掛け算型の画像フュージョン処理を1回だけ行っている。画像フュージョン処理IIは蛍光造影剤の動画データ(グレースケール画像)を変えながらN回分処理する。画像フュージョン処理の結果画像では画像フュージョン処理Iは静止画となり、画像フュージョン処理IIは動画となる。
【0096】
ここで、画像フュージョン処理Iと画像フュージョン処理IIで共通に使う掛け算型の画像フュージョン処理の詳細を説明する。掛け算型の画像フュージョン処理の利点は、グレースケール画像とカラー画像の双方の色を確実に再現できる点にある。
【0097】
以下に、掛け算型の画像フュージョン処理の具体的な処理手順をグレースケール画像1枚とカラースケール画像1枚の場合で説明する。はじめに、足し算型の画像フュージョン処理は最適でない事を説明する。
【0098】
足し算型の画像フュージョン処理は、次のような基本的な式から算出できる。
カラースケール画像1の色=(Red1、Green1、Blue1)
カラースケール画像2の色=(Red2、Green2、Blue2)
画像フュージョン処理結果画像の色=(FusionRed、FusionGreen、FusionBlue)
α:合成比率は、0.0〜1.0の間の数字で表される値である。
FusionRed = α*Red2 + (1.0-α)*Red1
FusionGreen = α*Green2 + (1.0-α)*Green1
FusionBlue = α*Blue2 + (1.0-α)*Blue1
足し算型の画像フュージョン処理式は、2つの画像の色を足しているため、足し算型の画像フュージョン処理式と名付けた。
【0099】
足し算型の画像フュージョン処理式で、グレースケール画像1枚とカラースケール画像1枚の場合は、
カラースケール画像1の色=(Red1、Green1、Blue1)を
グレースケール画像の色=(Gray、Gray、Gray)へ置き換える。
カラースケール画像2の色=(Red2、Green2、Blue2)を
カラースケール画像の色=(Red、Green、Blue)へ置き換える。
FusionRed = α*Red + (1.0-α)*Gray
FusionGreen = α*Green + (1.0-α)*Gray
FusionBlue = α*Blue + (1.0-α)*Gray
足し算型の画像フュージョン処理式では、カラースケール画像の色(Red、Green、Blue)を再現出来ていない事が解る。
【0100】
この様に、足し算型の画像フュージョン処理は、カラースケール画像の色(Red、Green、Blue)を確実には再現出来ない手法である。これに対して、掛け算型の画像フュージョン処理式は、2つの画像の色を掛け算するため、掛け算型の画像フュージョン処理式と名付けた。
【0101】
掛け算型の画像フュージョン処理式を用いれば、カラースケール画像の色(Red、Green、Blue)を確実に再現することができる。グレースケール画像が黒い位置は、フュージョン処理後のカラースケール画像を必ず黒くできる。グレースケール画像が白い位置は、フュージョン処理後のカラースケール画像を元画像のカラースケール画像の色(Red、Green、Blue)と同じくできる。
【0102】
自然光のM枚動画データの中から、特定の時間の自然光の1枚静止画だけを使用するケースがある。動画にすると複雑な場合など、自然光の1枚静止画だけを用いる事で簡単化できる。
【0103】
以上に本発明の実施形態を説明した。第1実施形態の方法の一部を、第4実施形態に置き換えることが可能である。また、第1実施形態の方法の一部を、第2実施形態又は第3実施形態に置き換えることが可能である。すなわち、上記の実施形態を組み合わせることが可能である。
【0104】
以上説明したように、血管外科手術においては、術中に血流状態を把握できることが極めて重要である。脳血流遮断が完璧か、吻合血管の提供する血液量が十分かなどの血管手術の治療効果判定が重要である。上記に説明した実施形態に係る発明では、蛍光造影剤解析では従来把握できなかったBF、BV、MTTを安定して把握、さらに信号輝度変化より血管壁厚の推定、自然光と融合(fusion)による解剖学的オリエンテーションを提供する。蛍光造影剤解析結果を自然光の下で撮像された画像に融合(fusion)することで、解剖学的な位置関係も容易に把握することができる。
【0105】
特に、グラフトの長期開存度の予測、グラフトからの血流評価を含む過灌流に陥るリスクの予測が可能となり、脳表の血流変化状態を把握することで、脳機能反応に由来するBV、BF変化の検出もできる。さらにモノクロ動画編集は蛍光造影剤解析のみならず、通常の血管撮影のようなグレースケール動画も同様な解析に応用できる可能性がある。血管手術前の状態と血管手術後の状態を定量BV、BF、MTT画像を用いて定量比較する事で血管手術の直後に治療効果判定を行う事が可能である。
【0106】
従来の手法においては、蛍光造影剤の静脈注射の量とタイミングが重要であり、蛍光造影剤は肝臓で代謝されるため、肝機能によりその蛍光造影剤の輝度の減衰経過にも変化する。上記実施形態に係る発明から算出される定量BV、BF、MTT画像は蛍光造影剤を注射するタイミングがずれてもずれの影響は最小限にすることができる。このため、治療効果判定に有効な解析方法に成っている。
【0107】
また、バイパス手術後に血流の過潅流による症状が出る場合がある。このようなケースでは、バイパス手術後のBV、BF定量画像を観測する事で予測診断が可能である。過灌流は出血、痙攣などのリスクがあるため、術中からこの症候を予測できことは極めて有用である。従来の技術で提供された、AT、TTPのみの情報では、この症候の予測診断が困難であったが、上記実施形態に係る発明ではこのような予測にも対応することができる。
【0108】
また、フュージョン画像を利用することで、その領域について過灌流が起こりやすいかをも予測することができる。
【0109】
なお本発明に係る方法およびシステムは、術中顕微鏡が使用される脳神経外科手術、整形外科手術、眼科手術分野の血管外科手術に適応できるが、特にこれらに限定されるものではなく、多様な血管手術に応用することができる。
【符号の説明】
【0110】
100 赤外光撮像装置
102 動画変換装置
104 画像解析装置
106 解析画像(動画)生成装置
108 自然光撮像装置
110 画像(動画)融合装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13