(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953467
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】人体部位防水カバー
(51)【国際特許分類】
A61F 13/00 20060101AFI20160707BHJP
A61F 13/10 20060101ALI20160707BHJP
A41D 13/08 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
A61F13/00 F
A61F13/10 S
A41D13/08
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-262920(P2011-262920)
(22)【出願日】2011年11月11日
(65)【公開番号】特開2013-103116(P2013-103116A)
(43)【公開日】2013年5月30日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】309035626
【氏名又は名称】有限会社 エルテック
(72)【発明者】
【氏名】長澤 潤二
【審査官】
北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−019969(JP,A)
【文献】
米国特許第06210352(US,B1)
【文献】
実開昭55−025094(JP,U)
【文献】
実開平07−007618(JP,U)
【文献】
欧州特許出願公開第00115773(EP,A1)
【文献】
西独国特許出願公開第02832347(DE,A)
【文献】
仏国特許出願公開第07914358(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00 − 13/14
15/00 − 17/00
A41D 13/00 − 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体部位に間隔をあけて嵌着し皮膚に接触する周溝を設けた2個の円環弾性体と、円環弾性体の外周に挿嵌する両側開口の筒状防水カバーと、前記円環弾性体の周溝部分に当接する両端の筒状防水カバー部分に嵌着して固定する輪ゴムにより構成した事を特徴とする人体部位防水カバー。
【請求項2】
人体部位に嵌着し皮膚に接触する周溝を設けた円環弾性体と、円環弾性体の外周に挿嵌する片側開口の筒状防水カバーと、前記円環弾性体の周溝部分に当接する一端の筒状防水カバー部分に嵌着して固定する輪ゴムにより構成した事を特徴とする人体部位防水カバー。
【請求項3】
円環弾性体の周溝を複数条設けた事を特徴とする請求項1および2に記載の人体部位防水カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴用針の穿刺部や包帯で保護された疾病患部等が、入浴、洗顔、シャワー等において水に濡れる事を防ぐための人体部位防水用保護カバーであり、円環弾性体と薄膜フィルムと筒状防水カバーの装着・脱去の簡易性、密着性、気密性を図る事を目的としている。
【背景技術】
【0002】
看護師等医療従事者が、患者に点滴用針を人体の部位に留置する必要のある治療や検査を行う場合、例えば、人体の前腕部に針を刺すが、点滴の薬液から延びるチューブと結合するための短いチューブが、針に接続した状熊で留置される。(以下、穿刺部という)。患者がシャワーを浴びたり入浴したりする際、従来は事前に、点滴用針の穿刺部を水漏れから保護するために、食品用ラップのようなものを二層以上巻き付け、ラップの両端を水が浸入しないように、粘着テープでしっかりと固定する方法が用いられている。
【0003】
この様な食品用ラップを使用する方法は、穿刺部に直接触れるため、患者に痛みや不快感などのストレスを与えるので、作業に慎重になり時間も掛かるため、装着に従事する看護師等がストレスを感じてしまうという影響が報告されている。この方法は、患者自身で行うのは困難なため、看護師等が主となり上記の穿刺部防水対策を行っている。看護師が患者一人当たりの装着に掛かる処置時間は、約5分であるという。
【0004】
従来のこの種の人体部位防水カバーは、合成樹脂を筒状皮膜に成形して両端に輪ゴムを入れ熱接着して腕カバーとしたものや、吸水体で覆った後、防水弾性体で覆う二重構造のものや、不織布と透明フィルムの複合素材の保護シーツ等が利用されている。防水腕カバーは、衣服の濡れ、汚れ防止に適し、安価であるが、輪ゴムの収縮により発生する筒状皮膜の皴から毛細管現象により水が浸入してしまい防水性に問題がある。同方法による更なる防水性能向上には、適正を超えた収縮による締付け力が要求され、痛みや不快感を余儀なくされる。疾病患部快適入浴カバーは、疾病患部の蒸れを回避でき、防水性も高いが、片手で腕などの包帯をした患部や穿刺部への接触なしに装着するのが困難である。手首用水侵入防止ガードは、手首からの水の浸入防止には効果大だが、手首限定で利用範囲が狭い。保護フィルム付防水シーツは、不織布による吸水性の高さで防水性能は高いが、患者自身による正確かつ効果的な装着が困難であり、接着タイプとした場合、再利用が効かず、使い捨てとなる事から、経済的な負担が増す事になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の人体部位防水カバーは、装着・脱去に医療関係者の介助を必要としたり、装着の精度にばらつきが生じ、防水性が初期の品質を確保できない場合があること、使い捨て利用用途としては高いこと、また密着性の不足による水の進入による安全性の不足、ゴム等の弾性体の強度による圧迫感等の問題も指摘されているとなど、簡便性、安全性、確実性、経済性において、いくつかの課題を有している。従来の人体防水性カバーを分析すると、防水性ばかりに主眼を置かれているため、装着が面倒であったり、装着時の運動阻害感や穿刺部への接触などが発生したり、また安価な粘着シートで保護する場合は穿刺部に貼り付くため、剥がす時に痛みを感じる事などの欠点があった。
【0006】
それ故に圧迫感や緊張感を軽減し、浸水の安全性の確保、介助の必要なく簡単に脱着でき、何時でも、どこでも、目的に応じて対応でき、携帯も可能なものが求められている。従って、患者個人での穿刺部の防水処置が可能となれば、医師や看護師等、医療従事者の長時間勤務や受け持ち患者数増加による労働負荷の軽減に寄与する事ができる。
【0007】
本発明は、これら従来の欠点を解消したものであり、簡易な装着方法により、誰にでも補助なく着脱が可能であり、また、専門性を要しない装着方法、確実性において特に優れている。利用者それぞれのより細かな要望に応えるため、防水カバーはそれぞれに両側開口と片側開口の筒状に構成されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る人体部位防水カバーは、人体部位に嵌着し皮膚に接触する周溝を設けた円環弾性体と、円環弾性体の外周に挿嵌する両側開口又は片側開口の筒状防水カバーと、前記円環弾性体の周溝部分に当接する両側又は片側の筒状防水カバー部分に嵌着して固定する輪ゴムにより構成され、これら円環弾性体と筒状防水カバーと輪ゴムをそれぞれ分割して構成する事を特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、低硬度の円環弾性体を浸水防止のシールに使用することによって、患者が自分自身で防水対処箇所である穿刺部や包帯をした患部を包含する人体部位に簡単に装着できる。装着後は弾性体の形状追従性で皮膚接触面側からの水の浸入防止が可能となり、輪ゴムの伸縮性固定用バンドにより、容易に円環弾性体とその外周に挿嵌する薄層部材との間からの浸水の防止ができる。
【0010】
円環弾性体は、柔らかな熱可塑性エラストマーであり、硬さはE5〜A30の範囲の材料が最適な引張り応力や伸びを有していて腕への装着性が良く、さらに防水性に必要な防水薄膜チューブで構成される筒状防水カバーとの密着性の維持に優れている。
【0011】
嵌着させる輪ゴムの位置決めの容易さ、ズレや円環弾性体からの脱落防止と密着性(気密性)をさらに向上させるために、円環弾性体の外周に周溝を設ける。
【0012】
円環弾性体の周溝は、1条又は複数条設ける。周溝がない場合、輪ゴムは円環弾性体の幅が広ければ広いほど、円環からの脱落の危険性は減ってくるが、反対に巾の大きさに応じて装着時の拡張力がより必要となり、使用可能な人が限定されてしまう。またシャワーなどの入浴時、腕をある程度自由に激しく動かした場合に、円環弾性体上からズレて脱落し、防水の確保ができなくなる危険性が出てくるので周溝は有効となる。
【0013】
点滴針の留置(穿刺部)が手の甲にある場合、円筒防水カバーは片側のみ開口部を有する袋状(たとえば手袋状)のものの方が両側開口部を有するチューブ状より好ましく、踝(豆状骨)を避けた手首周辺または、肘部周辺までの間で円環弾性体を装着感の良い任意の場所に装着する事ができる。
【0014】
円筒防水カバーは、必要に応じて透明性チューブ(薄層部材)を使用する。下側の円環弾性体の硬さがA50に硬くなっても、厚みを約1mmなどと薄くすれば、前述した防水性は保たれ防水カバーとして機能するが、装着拡張時に硬度上昇に伴いより力を必要とするため、老若男女を対象とした患者向けとは言い難く、A30以下の材料を使用する事が装着性や防水性を満足する形状の自由度が高くなるので望ましい。
【0015】
樹脂製薄膜のチューブの筒状防水カバーの厚みが100μmを超えると、材料の持つ腰の強さにより、接着タイプでは円環弾性体が防水に必要とされる大きさまで収縮し難くなり、皮膚と接触した面の気密性を確保する事が困難になる。また非接着の輪ゴムを嵌着するタイプでは、嵌着部の皺の大きさや隙間が広くなるので円環弾性体と筒状防水カバー間の浸水を防止するためにはかなり強い締付け力が必要となり、装着時により力が必要となるばかりでなく、装着部位に圧迫感が生ずる。老若男女を対象とした患者のためには、筒状防水カバーを構成する防水薄膜チューブ又は袋の厚みは100μm以下のものが望ましい。
【実施例】
【0016】
図1及び
図2は、外周に1条の周溝2を設けた円環弾性体1,1’を示し、
図1は斜視図、
図2は縦断面図である。円環弾性体は使用する人体部位の太さに対応させて、大径円環弾性体1と小径円環弾性体1’がある。
【0017】
図3は周溝2を2条設けた円環弾性体1,1’の正面図を示す。周溝2を広中溝とするか、狭中溝とするかの設定により、溝巾に対応してこの周溝2位置に嵌着する
図4に示す輪ゴム3の幅を設定する。
図5は両側開口の筒状防水カバー6の斜視図を示し、
図6は
図1及び
図2に示した円環弾性体1及び1’と
図4に示した輪ゴム3と、両側開口の筒状防水カバー6を使用した実施例の斜視図である。
【0018】
次に本発明の代表的使用方法を
図6について述べる。先ず、1個の輪ゴム3を間隔をあけて、防水を要する点滴針留置き部位又は包帯処置部位等の人体部位4の腕部5に嵌め、次に大径円環弾性体1を指先から手首、患部や針の留置き穿刺部等の順に通過させ、肘周辺の輪ゴム3の手前に装着する。次に小径円環弾性体1’を指先から入れ手の踝(豆状骨)を避けた手首周辺に装着する。この2個の円環弾性体1、1’が腕の皮膚に均一な圧力が掛かるように歪を取り除き、形状を整える。
【0019】
次に透明な両側開口の筒状防水カバー6を、患部や穿刺部等に接触しないよう注意しながら両円環弾性体1及び1’に渡るように被せ、最初に嵌めた輪ゴム3を大径円環弾性体1の周溝2の位置に筒状防水カバー6の上から嵌着し、次に小径円環弾性体1’の周溝2の位置に輪ゴム3を筒状防水カバー6の上からを嵌着する。両輪ゴムが両円環弾性体の周溝の位置にしっかり嵌っているのを確認する。
【0020】
図7は袋状の片側開口の筒状防水カバー7の斜視図である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】 本発明を構成する円環弾性体の1実施例の斜視図である。
【
図3】 周溝を複数条設けた円環弾性体の他の実施例の正面図である。
【
図5】 本発明を構成する両側開口の筒状防水カバーの斜視図である。
【
図6】 両側開口の筒状防水カバーを使用した場合の本発明の使用例を示す一部切開斜視図である。
【
図7】 本発明を構成する片側開口の筒状防水カバーの斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 大径円環弾性体
1’ 小径円環弾性体
2 周溝
3 輪ゴム
4 点滴針留置き部位又は包帯処置部位等の人体部位
5 腕部
6 両側開口の筒状防水カバー
7 片側開口の筒状防水カバー