特許第5953475号(P5953475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5953475-リン酸塩系固化材を用いた表面施工方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953475
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】リン酸塩系固化材を用いた表面施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20160707BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   E04F13/08 A
   E04F15/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-136915(P2012-136915)
(22)【出願日】2012年6月18日
(65)【公開番号】特開2014-1547(P2014-1547A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】500054695
【氏名又は名称】株式会社シーアールティー・ワールド
(73)【特許権者】
【識別番号】507311876
【氏名又は名称】株式会社イーグル・ヴィジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】陸田 秀之
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−235243(JP,A)
【文献】 特開昭62−235244(JP,A)
【文献】 特開昭62−235245(JP,A)
【文献】 特開平02−009741(JP,A)
【文献】 特開昭51−002727(JP,A)
【文献】 特開平09−100153(JP,A)
【文献】 特開2010−208879(JP,A)
【文献】 特開2007−326775(JP,A)
【文献】 特開2013−032633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/08
E04F 15/02
E04F 13/14
E04F 13/21
E04F 15/08
C04B 9/04
C04B 12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面仕上げ材として、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材と水とを混合してなる固化スラリーの硬化済み成型体を用い、
この成型体を、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材と水とを混合してなる固化スラリーを接着剤として対象表面に貼り付け、対象表面を前記成型体で覆う、
ことを特徴とするリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【請求項2】
前記成型体として、前記接着剤と異なる色に着色されたものを使用する、請求項1記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【請求項3】
前記成型体を複数並設するとともに、目地に、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材と水とを混合してなる固化スラリーを詰め、この目地詰めした固化スラリーが硬化した後、前記成型体の表面及び前記目地の表面を一体的に研磨し、前記成型体の表面及び前記目地の表面を面一にする、請求項1又は2記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【請求項4】
前記リン酸塩系固化材は、前記酸化物として酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、及び酸化亜鉛の群から選択される一種又は複数種を20〜40wt%、前記リン酸塩として一価のアルカリ金属リン酸塩、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素アルミニウム及びリン酸水溶液の群から選択される一種又は複数種を25〜45wt%、それぞれ含有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【請求項5】
前記対象表面は、床面、内壁面、外壁面、天井面、及び屋根表面の少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材(例えば特許文献1〜3参照)は、水と混合することにより硬化するものであり、その硬化物は、コンクリートやモルタル等のセメント系固化材と比べて、強度(圧縮強度、曲げ強度及び引張強度)、並びに耐久性(すりへり・衝撃摩耗性、耐火・耐熱性、対塩・耐薬品性、塩素イオン低透過度、耐酸・耐アルカリ性、鉄筋耐食性)に優れるだけでなく、硬化収縮が実質的に無く、対象表面に対する付着性に極めて優れるという特徴を有している。
【0003】
また、上記固化スラリーの硬化物は、靭性(曲げに対して撓んで元に戻る)、低吸水性、不透水性、断熱性、無臭性(無機のため)にも優れる。
【0004】
さらに、上記固化スラリーは、打設後に実用強度に達するまでの時間が非常に短い(早強性)、氷点下・水中でも施工可能である、プライマーなしでプラスチック、ステンレス以外のほとんどのものに強固に付着する等の特徴も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−208879号公報
【特許文献2】特開2010−208880号公報
【特許文献3】特開2010−209390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、上記リン酸塩系固化材には次の問題点があることを知見した。すなわち、リン酸塩系固化材は、硬化が速いため表面均しに熟練を要するだけでなく、完全硬化前に表面に水が付着すると、理由は定かではないが水付着部分が白化(白く濁る)し、見栄えが悪化するという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、施工の容易化及び付着水による白化を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
<請求項1記載の発明>
表面仕上げ材として、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材と水とを混合してなる固化スラリーの硬化済み成型体を用い、
この成型体を、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材と水とを混合してなる固化スラリーを接着剤として対象表面に貼り付け、対象表面を前記成型体で覆う、
ことを特徴とするリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【0009】
(作用効果)
本発明によれば、対象表面は予め硬化済みの成型体で覆われ、現場で打設する固化スラリーは成型体の裏側に隠れるため、現場で硬化中の固化スラリーに水分が付着して白化しても、それが表面に現れることは殆ど無く、目地に現れる可能性はあるものの、その場合であっても見栄えが悪化するようなことはない。また、広範囲に渡る表面均しはなくなるため、施工も熟練を要せず容易である。
【0010】
しかも、成型体及び接着剤がリン酸塩系固化材であるため、両者は完全に一体化(成型体を剥がそうとしても界面破壊ではなく、母材破壊となる程度)するため、現場で固化スラリーを打設して対象表面を覆うのと変わりがなく、前述したような優れた特徴の一体的な表層が形成される。この点はセメント系固化材とは大きく異なる。また、タイル張りのように下地処理やプライマーも不要である。それでいて、成型体の製造に際して顔料等をスラリーに混合したり、あるいは成型体の表面を塗装したり、表面に模様凹凸を付与しておけば、タイル同様に装飾性の高い表面仕上げを行うことができる。
【0011】
また、本発明では、成型体及び接着剤から形成される表層が、前述したリン酸塩系固化材特有の強度等の特徴を有することになるため、対象表面を有する部分(床、壁、柱等)の補強効果も発揮される。
【0012】
<請求項2記載の発明>
前記成型体として、前記接着剤と異なる色に着色されたものを使用する、請求項1記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【0013】
(作用効果)
これにより、タイル同様に装飾性の高い表面仕上げを行うことができる。
【0014】
<請求項3記載の発明>
前記成型体を複数並設するとともに、目地に、リン酸塩及び酸化物を固化成分として含むリン酸塩系固化材と水とを混合してなる固化スラリーを詰め、この目地詰めした固化スラリーが硬化した後、前記成型体の表面及び前記目地の表面を一体的に研磨し、前記成型体の表面及び前記目地の表面を面一にする、請求項1又は2記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【0015】
(作用効果)
成型体及び目地材がリン酸塩系固化材であると、両者は完全に一体化(成型体を剥がそうとしても界面破壊ではなく、母材破壊となる程度)するため、上述のように、目地剤の硬化後に成型体とともに研磨することで、目地が実質的に無い平滑な表面仕上げを行うことができる。
【0016】
<請求項4記載の発明>
前記リン酸塩系固化材は、前記酸化物として酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、及び酸化亜鉛の群から選択される一種又は複数種を20〜40wt%、前記リン酸塩として一価のアルカリ金属リン酸塩、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素アルミニウム及びリン酸水溶液の群から選択される一種又は複数種を25〜45wt%、それぞれ含有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【0017】
(作用効果)
本発明ではこのような固化材の使用が特に好ましい。
【0018】
<請求項5記載の発明>
前記対象表面は、床面、内壁面、外壁面、天井面、及び屋根表面の少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸塩系固化材を用いた表面施工方法。
【0019】
(作用効果)
本発明はこのような対象表面の仕上げに適している。
【発明の効果】
【0020】
以上のとおり、本発明によれば、施工の容易化及び付着水による白化を防止できる、等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】施工手順を概略的に示す断面図である。
図2】施工手順を概略的に示す断面図である。
図3】施工手順を概略的に示す断面図である。
図4】施工手順を概略的に示す断面図である。
図5】施工手順を概略的に示す断面図である。
図6】施工手順を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照しながら詳説する。
<リン酸塩系固化材>
本発明において、成型体、接着剤又は目地剤として使用するリン酸塩系固化材は、リン酸塩及び酸化物を固化成分とするものであり、水に混合して固化スラリーとして使用する。この固化スラリーは下記反応式(酸化物が酸化マグネシウムで、リン酸塩がリン酸二水素カリウムの場合)で例示される反応によりリン酸塩水和物のセラミックを形成し、硬化する。
MgO + KH2PO4 + 5H2O → MgKPO4・6H2O ・・・(1)
【0023】
リン酸塩としては、例えば一価のアルカリ金属リン酸塩(リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素カリウム)、リン酸水素アンモニウム、及びリン酸水素アルミニウムの群から一種又は複数種を適宜選択して使用することができる。また、酸化物としては、例えば二価の酸化物の群から一種又は複数種を適宜選択して使用することができ、IIA族の酸化物である酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウムの他、IIB族酸化物である酸化亜鉛を用いることもできる。
【0024】
より緻密で滑らかな固化体を形成するために、珪酸塩を追加し、珪酸塩セラミック(例えば珪酸カリウム)を混成させるのも好ましい形態である。珪酸塩としては、例えば、IIA族の珪酸塩である珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸バリウムや、IA族の珪酸塩である珪酸ナトリウム、珪酸リチウムの群から一種又は複数種を適宜選択して使用することができる。珪酸塩の使用は、塗装や研磨等の仕上げ処理を省略する場合に好適である。
【0025】
また、固化スラリーを作成するにあたり、必要に応じて、フィラー、骨材(細骨材、粗骨材)、陶器の粉砕物やスラグ、アルミナ等の産業廃棄物からなる再利用骨材、顔料等の着色剤、合成繊維等の繊維、シリカヒューム微粉末、カオリナイト、繋ぎ用ポリマ、乳化剤、凝集防止剤等の添加物を添加することができる。
【0026】
固化成分であるリン酸塩、酸化物及び珪酸塩の使用量は適宜定めることができるが、乾燥粉末の状態で、固化成分全量に対して20〜40wt%を酸化物とし、25〜45wt%をリン酸塩とし、15〜55wt%を珪酸塩とするのが好ましい。また、固化スラリーを製造する際には、固化材17〜35重量部に添加物を必要量(例えば15〜33重量部程度)添加し、さらに水を必要量添加して、最終的な固化スラリーの水分量が15〜23wt%程度となるようにするのが望ましく、ASTM C1437に基づく試験によるフロー度(flowability)が40〜140%程度とするのが好ましい。
【0027】
<成型体>
本発明の成型体は、上述のリン酸塩系固化材の固化スラリーを型枠に流しこみ硬化させる等、公知の成型手法により製造することができる。
【0028】
成型体としては、タイルやパネル、サイディングボード等のような板状のものが好ましいが、ある程度厚みのあるブロック状のものとしても良い。大きさは特に限定されず、例えば床面の処理を行う場合、縦×横×厚さが50mm〜600mm×50mm〜600mm×3mm〜30mm程度のものとすることができ、また例えば壁面の処理を行う場合、縦×横×厚さが50mm〜900mm×50mm〜2000mm×3mm〜30mm程度のものとすることができる。
【0029】
成型体の製造に際して顔料等をスラリーに混合したり、あるいは成型体の表面を塗装したりすることにより、成型体を着色することができる。この場合、成型体を貼り付けるための接着剤とは異なる色とする他、同じ色とすることもできる。
【0030】
また、成型体の製造に際して表面に模様や文字等の凹凸を付与することもできる。そして、このような成型体を使用することにより、タイル同様に装飾性の高い表面仕上げを行うことができる。
【0031】
<施工>
本発明は、上述のリン酸塩系固化材による硬化済み成型体を、上述のリン酸塩系固化材の固化スラリーを接着剤として対象表面に貼り付け、対象表面を成型体で覆う。本発明は、対象表面に限定されるものではないが、建設物の表面、例えば床面、内壁面、外壁面、天井面、屋根表面等を形成するために用いることができる。
【0032】
施工に際しては、その手順は適宜定めることができる。例えば、(1)図1に示すように、固化スラリー3を成型体2の裏面に塗布して対象表面1に圧着することを繰り返して成型体2を並設する、(2)図2に示すように、固化スラリー3を対象表面1のある程度の範囲に塗布した後、その上に成型体2を並べて圧着する、(3)図3に示すように、固化スラリー3を対象表面1のある程度の範囲に塗布した後、裏面に固化スラリー3を塗布した成型体2を並べて圧着する、といった手法の他、(4)図4に示すように、対象表面1に対向する成型体保持具5(型枠等)を設置し、この保持具に成型体2を取り付けた後に、成型体2と対象表面1との間に固化スラリー3を打設する(この手法は壁面に適している)、といった手法を採用することもできる。なお、図面は理解を容易にするため、圧着時の固化スラリー3のはみ出しまでは示していないが、図1〜3に示す例においても圧着により成型体2の周囲に固化スラリー3が回り込み、多少は成型体2が固化スラリー3に埋もれることがありうる。
【0033】
施工後には、対象表面1は予め硬化済みの成型体2で覆われ、現場で打設する固化スラリー3は成型体2の裏側に隠れるため、現場で硬化中の固化スラリー3に水分が付着して白化しても、それが表面に現れることは殆ど無く、目地に現れる可能性はあるものの、その場合であっても見栄えが悪化するようなことはない。なお、図中の符号3sは固化スラリーの硬化後の部分を示している。また、広範囲に渡る表面均しはなくなるため、施工も熟練を要せず容易である。しかも、成型体2及び接着剤がリン酸塩系固化材であるため、両者は完全に一体化(成型体2を剥がそうとしても界面破壊ではなく、母材破壊となる程度)するため、現場で固化スラリー3を打設して対象表面1を覆うのと変わりがなく、前述したような優れた特徴の一体的な表層が形成される。この点はセメント系固化材とは大きく異なる。また、タイル張りのように下地処理やプライマーも不要である。それでいて、成型体2の製造に際して顔料等をスラリーに混合したり、あるいは成型体2の表面を塗装したり、表面に模様凹凸を付与しておけば、タイル同様に装飾性の高い表面仕上げを行うことができる。
【0034】
成型体2を並設する場合、図6に示すように、目地詰めを行うことが望ましいが、図5に示すように、成型体2を固化スラリー3に埋める等により目地詰めを省略することもできる。特に、目地詰めの充填剤4として上述のリン酸塩系固化材の固化スラリー3を使用すると、成型体2と接着剤だけでなく、目地までが完全に一体化するため好ましい。さらにこの場合、図6(c)に示すように目地詰めした充填剤4が硬化した後、図6(d)に示すように成型体2の表面及び目地の表面を一体的に研磨し、成型体2の表面及び目地の表面を面一にすることで、目地が実質的に無い平滑な表面仕上げを行うことができる。なお、図中の符号4sは充填剤の硬化後の部分を示している。
【0035】
また、図示しないが、成型体を隙間なく貼り付けて目地無くす又は目地詰めを省略することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、建設物等の表面を形成するために適用できるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…対象表面、2…成型体、3…固化スラリー、4…充填剤、5…成型体保持具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6