【実施例】
【0018】
以下本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。図中符号1で示すものが本発明の嫌湿性病害虫の防除装置(以下、防除装置1と称する。)であって、このものは圃場Fの一例である畝成形された茶園における嫌湿性病害虫の寄生環境の至近位置に、濡れ程度センサ5を設け、この濡れ程度センサ5の検出値に応じ、圃場Fに散水を行い、嫌湿性病害虫の忌避状況および/または生存しにくい状況を現出させるように構成されたものである。
そして前記防除装置1は、散水装置2と、制御装置3と、濡れ程度センサ5とを具えて構成されるものであり、以下、これらの構成要素について説明する。
【0019】
まず前記散水装置2は、一例として立ち上り式のスプリンクラーが適用されるものであり、茶樹が連なるように植えられた茶畝Pの長手方向に沿って給水管2bが設置され、この給水管2bの適宜の間隔で枝管2cを垂直状態に分岐させ、この枝管2cの上端に散水ヘッド2aを設けて構成される。なお前記枝管2cは
図2(a)に示すように非給水時には収縮し、一方、給水時に水圧がかかると
図2(b)に示すように伸長して、樹冠を抜けて立ち上るものである。
またこの実施例では一例として、前記散水ヘッド2aとしてインパクトタイプのもの(共立金属工業株式会社製15FJK3−2−1.8)を採用したが、樹冠を抜けることのできる他の形式のヘッドを採用してもよい。
更にまたこの実施例では
図2(b)に示すように、伸長時の散水ヘッド2aが地表から100cmの高さに位置するように設定した。
【0020】
また
図2においては、給水管2bを茶畝P中の地表上に設けるようにしたが、この位置で給水管2bを地中に埋設したり、給水管2bを畝間Hの地表上または地中に設けるようにしてもよい。因みに給水管2bを茶畝P中あるいは畝間Hの地中に設けることにより、自走式茶刈機の畝間Hでの走行の際に、給水管2bが障害物とならない。
更にまたこの実施例では
図3に示すように、四条の茶畝P毎に給水管2bを設けるようにした(給水管2bが設けられた茶畝P間に、給水管2bが設けられていない茶畝Pが三条位置する状態とした。)が、このような給水管2bの設置間隔については適宜変更することができる。またこの実施例では平面視において、給水管2bが設けられた隣り合う茶畝Pにおける散水ヘッド2aの設置位置が、互い違いにずれるように設置した。
【0021】
次に前記制御装置3は、濡れ程度センサ5の検出値に応じて、前記散水装置2の作動を指令する装置であり、測定部と制御部とが具えられている。
まず前記測定部は、濡れ程度センサ5の正極5aと負極5bとの間に流れる電流値(交流電流)を計測することにより、濡れ程度を測定するものである。
また前記測定部は、測定感度の変更が可能とされ、一例として0(低)から10(高)までの感度(濡れ程度)設定が可能とされている。
なおこの「濡れ程度」と、「樹冠内湿度」との間には相関関係があることが、本出願人により確認されている。
次に前記制御装置3は、前記測定部によって測定された濡れ程度の値に応じて、散水装置2における給水管2bに接続される電磁弁(図示省略)に開閉の指令を送信するものである。
【0022】
次に前記濡れ程度センサ5は、一例としてピンチ状に形成されるものであり、ピンチの挟持部分に導電性が高い金属板で形成された正極5aと負極5bが設けられており、これら正極5a及び負極5bにそれぞれ、前記制御装置3に接続されたリード線が接続される。
またこの実施例では一例として、
図3に示すように三つの濡れ程度センサ5を一つの制御装置3に接続して一ユニットを構成するようにしたが、この濡れ程度センサ5の数を適宜増減してもよい。また
図3においては、給水管2bが設けられる茶畝Pの間に位置する隣接した三条の茶畝Pに、濡れ程度センサ5を設置したが、適宜間隔を開けて隣接しない茶畝Pに濡れ程度センサ5を設置するようにしてもよい。更にまた給水管2bが設けられる茶畝Pに濡れ程度センサ5を設置するようにしてもよい。
【0023】
本発明の防除装置1は、一例として上述したように構成されるものであり、以下、この装置を用いた本発明の嫌湿性病害虫の防除方法について説明する。
なお以下の説明にあっては、茶品種として「さきみどり」が植えられた同一の圃場Fにおいて、相互に影響を与えないように区画された三つの試験区の比較を行うものであり、背景技術で述べたスプリンクラーを利用して時間制御により散水を行う「時間制御区」と、本発明の嫌湿性病害虫の防除方法が実施される「濡れ程度制御区」と、散水が行われない「無散水区」との比較を行う(試験期間16日)。
【0024】
〔濡れ程度制御区〕
まず制御装置3の濡れ程度の測定感度を「3」に設定し、次いで
図2(c)に示すように、茶畝Pの横断面において、茶畝Pの中央であって、地表から50cmの高さに位置する平均的な太さ(直径1cm)の枝Bや茎等の茶樹要素に対して、これを挟持するように濡れ程度センサ5を設置する。
そして制御装置3による制御が開始されると、この際、測定される濡れ程度は設定値の「3」以下であるため、散水装置2による散水が開始されるものであり、制御装置3からの指令によって給水管2bに接続された電磁弁が開放される。次いでポンプ起動することにより、
図2(a)に示すように非給水時に収縮していた枝管2cが、水圧がかかることにより
図2(b)に示すように伸長するとともに、散水ヘッド2aから平面視で360°の方向に水が放出される。
なおこの実施例では散水圧力を0.25MPaとした。
【0025】
上記散水によって茶畝Pに降りかかった水は、葉L及び枝Bを伝って茶畝P全体を湿潤状態とするものであり、その濡れ程度が制御装置3と濡れ程度センサ5とによって測定されており、濡れ程度が「3」以上であることが検出された時点で、電磁弁が閉鎖されて散水装置2による散水が停止される。
この状態で制御装置3と濡れ程度センサ5とによる濡れ程度の測定は係属されており、時間とともに徐々に減少する濡れ程度が「3」以下となったことが検出された時点で、散水装置2による散水が再開される。
この実施例ではこのような操作を、9時00分から17時00分の間行った。
また実際の防除装置1運用の際には不要であるが、この実施例では、茶畝Pにおける前記濡れ程度センサ5の近傍に湿度計を設置し、湿度のデータ収集を24時間行った。なおこのような湿度のデータ収集を、下記時間制御区及び無散水区においても行った。
【0026】
〔時間制御区〕
比較例としての時間制御による防除では、前記濡れ程度制御区と同じ散水装置2を用い、散水圧力を0.25MPaとし、15分散水、20分止水の繰り返しを、9時00分から17時00分の間行った。
【0027】
〔結果の比較と考察〕
まずクワシロカイガラムシの防除効果の比較を行うと、下表1に示すように、雄繭発生率は濡れ程度制御区、時間制御区ともに16%となり、同程度の防除効果であることが確認された。なお無散水区の雄繭発生率は66%となっており、濡れ程度制御、時間制御ともに良好な防除効果が発揮できるものであるといえる。
【0028】
【表1】
【0029】
また、湿度計を用いて測定した茶樹(茶畝P)の樹冠内湿度を比較すると、
図4に示すように濡れ程度制御区及び時間制御区は、常時、略90%以上を維持しており、一方、無散水区では夜間こそ90%以上になるものの、日中は60〜80%程度となっており、このことからも上記防除効果の相違が裏付けられている。
【0030】
そして試験期間全日(16日間)の総散水量と一日当たりの散水量は下表2に示すとおりであり、濡れ程度制御区における散水量は、時間制御区における散水量の37%となっており、同等の防除効果を奏しながらも、散水量の大幅な削減が達成されていることが確認された。
【0031】
【表2】
【0032】
本発明は上述した実施例を基本となる実施例とするものであるが、本発明の技術的思想に基づいて以下に示すような実施例を採ることも可能である。
まず本発明の適用対象としては、上述した茶樹の圃場Fの他、嫌湿性病害虫が発生する野菜、果樹、花卉等の圃場Fとすることもできる。
また本発明による防除対象としては、上述したクワシロカイガラムシ等のカイガラムシ類の他、嫌湿性病害虫であるダニ類、ヨコバイ類、アザミウマ類、更にはうどんこ病の原因菌等とすることができる。
更にまた散水装置2としては、上述したスプリンクラー以外にも、散水チューブ等を採用することもできる。