特許第5953544号(P5953544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5953544-圧力感受性酵母の作出方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953544
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】圧力感受性酵母の作出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20160707BHJP
   C12G 1/08 20060101ALN20160707BHJP
   C12G 3/02 20060101ALN20160707BHJP
   C12C 11/02 20060101ALN20160707BHJP
   A21D 8/04 20060101ALN20160707BHJP
   A21D 6/00 20060101ALN20160707BHJP
   C12H 1/00 20060101ALN20160707BHJP
   A23L 11/20 20160101ALN20160707BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20160707BHJP
【FI】
   C12N1/16 J
   C12N1/16 B
   !C12G1/08
   !C12G3/02 119G
   !C12C11/02
   !A21D8/04
   !A21D6/00
   !C12G3/02 119S
   !C12H1/00
   !A23L1/202 107
   !A23L1/202 113
   !A23L1/238 103A
   !A23L1/238 104Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-86975(P2011-86975)
(22)【出願日】2011年4月11日
(65)【公開番号】特開2012-217393(P2012-217393A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年4月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 第51回高圧討論会講演要旨集(平成22年10月11日)日本高圧力学会発行第80頁に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条に適用を受ける特許
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593201958
【氏名又は名称】越後製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 彬
(72)【発明者】
【氏名】小林 正義
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤
(72)【発明者】
【氏名】川村 麻梨子
(72)【発明者】
【氏名】福田 雅夫
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−159853(JP,A)
【文献】 国際公開第99/016860(WO,A1)
【文献】 第61回日本生物工学会大会講演要旨集, 2009, p.186
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集, 2010, Vol.2010, p.190
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集, 2011.03, Vol.2011, p.267
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集, 2011.03, Vol.2011, p.231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生酵母菌株または突然変異処理を施した酵母菌株について、1MPa以上200MPa以下の圧力処理を行い、この圧力処理後に少なくとも3日間以上培養し、その間に増殖してコロニーを形成した酵母のうち、早期にコロニーが形成されず、遅れてコロニーが形成された前記酵母を生育遅延酵母としてスクリーニングすることを特徴とする圧力感受性酵母の作出方法。
【請求項2】
野生酵母菌株または突然変異処理を施した酵母菌株について、1MPa以上200MPa以下の圧力処理を行い、この圧力処理後に少なくとも3日間以上培養し、その間に増殖してコロニーを形成した酵母のうち、早期にコロニーが形成されず、遅れてコロニーが形成された前記酵母を生育遅延酵母としてスクリーニングするスクリーニング工程を、複数回行うことを特徴とする圧力感受性酵母の作出方法。
【請求項3】
少なくとも最後に行う前記スクリーニング工程の圧力処理の圧力値を、最初に行うスクリーニング工程の圧力処理の圧力値より低くすることを特徴とする請求項記載の圧力感受性酵母の作出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって殺菌可能となる圧力感受性酵母の作出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌、醤油、酒などの発酵・醸造食品はいずれも酵母の発酵作用を利用して製造されている。
【0003】
また、これらの発酵・醸造食品は、通常一定の発酵・熟成期間を経過した後、過発酵などを防ぐために濾過や加熱処理により酵母または乳酸菌の分離・殺菌または静菌が行われる。
【0004】
例えば、味噌は50〜70℃で60分、醤油は70〜85℃で10〜30分の加熱処理が行われる。また、清酒ではおり引き、濾過した生酒を60〜70℃で10分間加熱して殺菌と酵素の失活を行う。
【0005】
しかし、このような従来の分離・殺菌方法では、加熱処理を伴うことで食品の有用成分が変質したり、食品の風味、色合い、食感が変化してしまう恐れがある上、加熱処理後には速やかに冷却する必要があるなど、手間も要するものであった。
【0006】
さらに均一な加熱処理が必要であり、この加熱処理が不十分であると、残存する酵母による過発酵や、炭酸ガスの発生によりパック詰めされた製品の膨れが生じたり、残存する乳酸菌が産生する酸の増加によるpHの低下(酸味の増加)が起こったりして商品価値が失われるなどの問題もある。
【0007】
一方、従来から、非加熱で微生物の殺菌や静菌が可能な圧力処理(高圧処理とも称される)を用いた殺菌方法が提案されている。
【0008】
この圧力処理は、およそ100MPa以上の圧力を加えて食品の加工・殺菌を行う技術で、従来から、ジャム、米飯、めんつゆ、加工玄米等のほかに、味噌、醤油などの発酵食品の製造にも用いられているという実績がある。
【0009】
出願人は、非加熱殺菌技術であるこの圧力処理を発酵食品に施せば、食品の有用成分を変質させず、且つ食品の風味、色合い、食感も損なわずに酵母または乳酸菌を殺菌できるのはないかと着目し、特開2009−159853号(特許文献1)を提案している。
【0010】
この特許文献1は、低耐圧性(圧力感受性)の酵母を作出するための方法であって、この作出方法で作出した低耐圧性酵母で発酵食品を製造すれば、発酵・熟成後の食品に対して上記のような悪影響の生じない低圧力値での圧力処理により酵母を殺菌することが可能となるため、発酵食品用として非常に利用価値が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−159853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1で示した低耐圧性酵母の作出方法は、膨大な数のコロニーに対して圧力耐性を調査しなければならず、選抜にかかる労力や時間は膨大なものであった。
【0013】
出願人は、これまでに圧力処理をテーマに、食品に対する様々な研究・実験を行っており、上記特許文献1を開発後も、圧力処理に対する集積した知見をもとに、より少ない労力で且つ確実に低耐圧性の酵母を得る方法はないかと試行錯誤するうちに、例えば、酵母に200MPa以下の圧力処理を施すと、ほとんどのコロニーが規定の培養時間内に出現するが、規定培養時間の経過後も同じ温度で培養を続けると少数のコロニーが遅れて出現する現象に注目した。
【0014】
このような生育遅延株は、圧力に対する耐性が弱いために、圧力処理によって損傷を受けて生育が遅れるのではないかと出願人は着眼し、この着眼点に基づいて実験を行ったところ、圧力処理後に発生する生育遅延株が圧力感受性を有していることを確認した。また、この作出方法によれば、上記特許文献1よりも簡単に行うことができるだけでなく、非常に効率的に圧力感受性酵母を取得できることも実験により確認して本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明は、非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって殺処理可能となる圧力感受性酵母を簡易に且つ効率的に作出可能な作出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0017】
野生酵母菌株または突然変異処理を施した酵母菌株について、1MPa以上200MPa以下の圧力処理を行い、この圧力処理後に少なくとも3日間以上培養し、その間に増殖してコロニーを形成した酵母のうち、早期にコロニーが形成されず、遅れてコロニーが形成された前記酵母を生育遅延酵母としてスクリーニングすることを特徴とする圧力感受性酵母の作出方法に係るものである。
【0018】
た、野生酵母菌株または突然変異処理を施した酵母菌株について、1MPa以上200MPa以下の圧力処理を行い、この圧力処理後に少なくとも3日間以上培養し、その間に増殖してコロニーを形成した酵母のうち、早期にコロニーが形成されず、遅れてコロニーが形成された前記酵母を生育遅延酵母としてスクリーニングするスクリーニング工程を、複数回行うことを特徴とする圧力感受性酵母の作出方法に係るものである。
【0019】
また、少なくとも最後に行う前記スクリーニング工程の圧力処理の圧力値を、最初に行うスクリーニング工程の圧力処理の圧力値より低くすることを特徴とする請求項記載の圧力感受性酵母の作出方法に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1,記載の発明は上述のように構成したから、非加熱殺菌処理の利点を損ねない圧力値での圧力処理によって殺菌可能であって、且つ例えば発酵食品の賞味期限を既製品より延長したり、旨味を向上させるための用途にも利用できる圧力感受性酵母を効率良く作出可能となる極めて実用性に優れた画期的な圧力感受性酵母の作出方法となる。
【0021】
また、本発明においては、圧力処理後に少なくとも3日間以上培養し、その間に増殖してコロニーを形成した酵母のうち、早期にコロニーが形成されず、遅れてコロニーが形成された前記酵母を生育遅延酵母としてスクリーニングするから、比較的短期間のうちに圧力感受性酵母を作出可能となる一層実用性に優れた圧力感受性酵母の作出方法となる。
【0022】
また、特に請求項記載の発明においては、複数回のスクリーニング工程を経ることによって、より高い圧力感受性を有する酵母を作出可能となる極めて実用性に優れた圧力感受性酵母の作出方法となる。
【0023】
また、請求項記載の発明においては、少なくとも最後に行うスクリーニング工程の圧力処理の圧力値を、最初に行うスクリーニング工程の圧力処理の圧力値より低くしたことにより、一層低い圧力値での圧力処理で殺菌処理が可能になる圧力感受性酵母を確実に作出可能となる極めて実用性に優れた圧力感受性酵母の作出方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1,実施例2で選抜した酵母の異なる圧力における死滅挙動を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0026】
・請求項1記載の発明
野生酵母菌株または突然変異処理を施した酵母菌株について、殺菌圧力値と想定した圧力値(例えば、対象の酵母が殺菌可能な圧力値)よりも低い圧力値で圧力処理を行う。
【0027】
例えば酵母は、300MPaの圧力処理でほとんど死滅する性質を有しているので、300MPaより低い圧力値で圧力処理を行う。
【0028】
この圧力処理によって酵母は死滅することはないが、圧力に対する耐性が弱いものは殺菌されたり、損傷を受ける。
【0029】
続いて、この圧力処理後に培養し、この培養により増殖してコロニーを形成する酵母のうち、このコロニーの形成が所定期間より遅れる生育遅延酵母をスクリーニングする。
【0030】
例えば、酵母の培養は、通常2日間程度行われるが、この通常培養期間内に増殖してコロニーを形成するものは除外し、前記圧力処理後に少なくとも3日間以上の培養期間を経てようやく増殖してコロニーを形成するようなものを前記生育遅延酵母としてスクリーニングする。尚、出願人の実験では、7日間程度の培養により十分に生育遅延株が確認できている。
【0031】
このようにしてスクリーニングされた生育遅延酵母は、少なくとも前記殺菌圧力値と想定している圧力値の圧力処理を施すことによって殺菌されることが出願人の実験により確認されている。
【0032】
即ち、圧力に対して耐性のある酵母は、殺菌圧力値と想定した圧力値よりも低い圧力値での圧力処理では損傷を受けにくく、生育が遅れることはないが、圧力に対する耐性が弱い酵母(圧力感受性酵母)は、この殺菌圧力値と想定した圧力値よりも低い圧力値での圧力処理でも大きな損傷を受け、この損傷の修復に時間を要するために、圧力耐性のある酵母と比較しコロニーの形成(生育)が所定期間より遅れてくるという特性を有することを見い出し、この特性を利用して圧力感受性酵母(生育遅延酵母)をスクリーニングすることに成功した。
【0033】
この作出方法によれば、圧力処理の圧力値の設定変更によって、酵母を作用(例えば発酵)させたい食材に対して、有用成分の低下や、色合いや食感の変化を生じない低圧力での圧力処理(殺菌処理)が可能となる圧力感受性酵母を作出することが可能となる。
【0034】
従って、非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって殺菌が可能な酵母を作出可能となる極めて実用性に優れた画期的な圧力感受性酵母の作出方法となる。
【0035】
また、この作出方法は、上記特許文献1での作出方法に比べて、著しく簡単に行える上、前記圧力処理の圧力値を適切に設定することによって非常に効率良く圧力感受性酵母を取得可能であることが出願人の実験により確認されている。
【0036】
また、本発明の作出方法で作出した圧力感受性酵母は、野生酵母と比べて生育速度が遅いため、例えば、発酵食品を発酵させるためにこの圧力感受性酵母を用いる場合には、発酵速度も遅くなることが出願人の実験により確認されている。
【0037】
このことは、生産効率の面からすると、野生酵母菌株を用いた場合より若干劣るということであるが、添加する酵母濃度を高くしたり、圧力感受性酵母の生育が最適になるような条件で発酵させることで補うことも可能である。
【0038】
また、生育の遅さは、発酵などの最適時期を長く取れるというメリットにも繋がるので、この生育の遅さをあえて利用することによっておいしく食することができる期間を長くすることができ、賞味期限を既製品より延長することも可能となり、更に、発酵食品の種類によっては、長時間発酵させることにより遊離アミノ酸が増加して旨味を増すものもあるので、このような用途にも本発明で作出した圧力感受性酵母は非常に有用となる。
【0039】
・請求項記載の発明
野生酵母菌株または突然変異処理を施した酵母菌株について、殺圧力値と想定している圧力値よりも低い圧力値で圧力処理を行い、この圧力処理後に培養して増殖しコロニーを形成する酵母のうち、このコロニーの形成が所定期間より遅れる生育遅延酵母をスクリーニングする。
【0040】
この一連のスクリーニング工程を経て取得した酵母に対し、同様のスクリーニング工程を更に1回乃至複数回繰り返して行う。即ち、請求項1記載の発明の圧力感受性酵母の作出方法を前記スクリーニング工程として、このスクリーニング工程を複数回行う。
【0041】
このスクリーニング工程を繰り返すと、回を重ねるにつれてスクリーニングされる酵母の数は減少する傾向が見られる。
【0042】
このようにして複数回のスクリーニング工程を経て取得した生育遅延酵母は、スクリーニング工程を1度しか経ない生育遅延酵母に比べてより高い圧力感受性を有するものであることが出願人の実験により確認されている。
【0043】
即ち、本発明によれば、より確実に高い圧力感受性を示す酵母を作出できる。
【0044】
また、例えば、少なくとも最後に行う前記スクリーニング工程の圧力処理の圧力値を、最初に行うスクリーニング工程の圧力処理の圧力値より低くしたり、スクリーニング工程の回数を増すにつれて徐々に圧力処理の圧力値を低くするようにすれば、より圧力感受性の高い(低い圧力値の圧力処理で殺処理が可能になる)圧力感受性酵母を容易に且つ確実に作出可能となる。
【実施例1】
【0045】
本発明の具体的な実施例1について説明する。
【0046】
本実施例における対象菌株としては、例えば、Saccharomyces属に属する酵母菌株で、突然変異処理をしていない野生菌株とする。
【0047】
また、本実施例に使用する培地としては、炭素源、窒素原、無機イオン、さらに必要に応じて有機微量栄養素を含有する通常の培地が使用できる。例えば、YPD寒天培地(酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、グルコース、寒天、蒸留水、pH5〜6)等が用いられる(液体培地では寒天を除く)。培養方法として、例えば30℃、3日間培養し、遠心分離(12000rpm、10分)にて集菌後、生理食塩水で2回洗浄し、適当な菌濃度になるように生理食塩水に懸濁する。
【0048】
培養は一般的な条件でよく、培養温度は一般に20〜30℃、好ましくは30℃前後、培養日数は1〜7日間、好ましくは3日間程度である。
【0049】
韓国産キムチより単離したSaccharomyces servazziiをYM培地にて30℃、24時間初期培養を行った。
【0050】
菌体を12000rpm、10分間の遠心分離により回収した後、pH4.5のMES溶液を添加して洗浄した。
【0051】
この洗浄操作を2回繰り返した後、適当な濃度となるようにpH4.5のMES溶液に懸濁した。
【0052】
調整した懸濁液に1次スクリーニングとして150MPaの圧力処理を行う。
【0053】
懸濁液を希釈した後、寒天培地上にプレーティングした。また、プレート上に形成されるコロニー数が200程度となるように接種した。
【0054】
このプレートを30℃で7日間程度培養を行い、コロニー形成の有無を経時的に日々確認した。
【0055】
その結果、他のコロニーと比較して形成が遅いコロニー(生育遅延株)が複数個得られ、そのコロニーを白金耳にて釣菌(採取)し、YM寒天培地にてレプリカを作製した。
【0056】
この際に、増殖が遅れてくるコロニーが見られない場合は処理圧力を若干高くすると良い。
【0057】
その後、増殖が遅れたコロニーについて2次スクリーニングとして150MPaの圧力処理を行い、夫々について耐圧性を評価し、圧力感受性株を取得した。
【0058】
図1は、選抜(スクリーニング)した酵母の異なる圧力における死滅挙動を示したグラフである。
【0059】
この結果(1回目選抜酵母)から、200MPaでの圧力処理においても、野生株に比べて高い殺菌効果があることが確認された。
【0060】
尚、ここでいう圧力処理は、水などの液体を媒体とした静水圧処理を示す。
【0061】
また、出願人の実験によると、X線、UV照射、エチルメタンスルホン酸(EMS)、ニトロソグアニジン(NTG)処理など何らかの方法で突然変異処理を行った株を対象としても、圧力感受性の酵母が得られることが確認されている。
【実施例2】
【0062】
本発明の具体的な実施例2について説明する。
【0063】
本実施例は、前記実施例1の作出方法で取得した酵母について、更に同様の作出方法(スクリーニング工程)を複数回繰り返して酵母を選抜する場合である。
【0064】
このようにして取得した圧力感受性株の異なる圧力における死滅挙動を図1に示す。
【0065】
2回選抜(スクリーニング工程)を繰り返した酵母(図1中の2回目選抜酵母)は、200MPaで最終圧力処理した場合においても、実施例1(図1中の1回目選抜酵母)に比べて高い殺菌効果、即ち高い圧力感受性を示すことが確認された。
【0066】
また、3回選抜(スクリーニング工程)を繰り返した酵母(図1中の3回目選抜酵母)は、200MPaで最終圧力処理を行った場合に、2回選抜を繰り返して得た圧力感受性株よりも高い殺菌効果、即ち高い圧力感受性を示すことが確認された。
【0067】
尚、本実施例では、複数回行うスクリーニング工程のいずれの圧力処理も、同一の圧力値(150MPa)で行っているが、回数を重ねるにつれて圧力値を徐々に低くしたり、最後に行う圧力処理の圧力値を他の圧力処理の圧力値より低くしても良く、このようにすると、より低い圧力に感受性を持つ(より低い圧力で殺菌される)酵母を取得(作出)できることが出願人の実験により確認されている。
【0068】
本発明の主目的は、できるだけ圧力感受性の高い(低い圧力値で殺される)酵母を得ることであり、前記圧力処理の圧力値を低く設定すれば、このような圧力感受性の高い酵母を作出可能となる可能性が高くなる。
【0069】
しかし、圧力処理の圧力値が低すぎると、圧力感受性株も含めて大半の株がコロニーを形成してしまうために(圧力処理で殺菌されない株が大半であるために)、膨大な数の培養を行う必要が生じてスクリーニング操作に難が出てしまう(逆に、圧力処理の圧力値を殺圧力値(酵母の場合300MPa程度)に達しない範囲で可及的に高い圧力値に設定すると、この圧力処理で大半の株が殺されるために圧力感受性株のスクリーニング操作が非常に楽になる半面、取得できる株は圧力感受性が低いものとなってしまう可能性が高くなる。)。
【0070】
そこで、1回目のスクリーニング工程の圧力処理は、ある程度殺菌が期待できる圧力値(例えば、本実施例のように150MPa)で圧力処理を行い、2回目のスクリーニング工程での圧力処理は1回目より圧力値を低くし、更に3回目のスクリーニング工程での圧力処理は2回目より圧力値を低くするというように、徐々に圧力値を下げて圧力感受性株を絞り込んでいくにようにすれば、作業性を損なわずに、より高い圧力感受性株を取得することが可能になる。
【0071】
尚、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【実施例3】
【0072】
実施例は、前記実施例1若しくは前記実施例2で取得した圧力感受性酵母を用いた発酵食品の製造方法である。
【0073】
この圧力感受性酵母を用いて、定法に従い食材を発酵させて清酒、ビール、ワイン、パン、醤油、味噌等各種の発酵食品を製造可能である。
【0074】
続いて、この発酵食品に200MPa以下の圧力処理を行うことで酵母を殺菌し、過発酵を防止する。
【0075】
このような圧力値での圧力処理は、既存の圧力処理設備で問題なく行うことができるので、追加の設備投資を必要とせず、また、食品の変質・色合いや食感の変化なども生じない。
【0076】
従って、新たに大型で高額な設備を要せずとも、有用成分を変質させず、色合いや食感を損なわずに発酵食品中の酵母だけを選択的に殺菌できる。
【0077】
また、本実施例で用いる圧力感受性酵母は、野生酵母と比べて生育速度が遅いため、発酵速度も遅くなることが出願人の実験により確認されている(野生酵母菌株を用いた場合より若干生産効率が劣る)。
【0078】
このことは、添加する酵母濃度を高くしたり、圧力感受性酵母の生育が最適になるような条件で発酵させることで補うことが可能であるが、この生育の遅さをあえて利用することによっておいしく食することができる期間を長くすることも可能である。即ち、賞味期限を既製品より延長することが可能である。
【0079】
更に、発酵食品の種類によっては、長時間発酵させることにより、遊離アミノ酸が増加して旨味を増すものもあるので、このようにして旨味を増した発酵食品とすることも可能である。
図1