(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953619
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】溶液移送冷却装置
(51)【国際特許分類】
F28G 13/00 20060101AFI20160707BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20160707BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20160707BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
F28G13/00 Z
C08F2/00 E
F28D7/16 A
F28F21/08 F
F28F21/08 A
F28F21/08 E
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-201472(P2014-201472)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-70611(P2016-70611A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2014年10月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514248606
【氏名又は名称】春山 秀之
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100082821
【弁理士】
【氏名又は名称】村社 厚夫
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】春山 秀之
【審査官】
西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−011437(JP,A)
【文献】
実開昭61−121393(JP,U)
【文献】
特開平04−332396(JP,A)
【文献】
特開昭54−152261(JP,A)
【文献】
特開昭61−168797(JP,A)
【文献】
特開平06−199912(JP,A)
【文献】
特開2009−062552(JP,A)
【文献】
特開平07−279657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28G 13/00
F28F 19/06,21/08
F28D 7/16
C08F 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性冷媒外筒の内部に、複数の剛性溶液外筒を互いに平行に配置した溶液移送冷却装置において、
前記剛性溶液外筒の内部に、常温常圧で前記剛性溶液外筒の内径より小さい外径を有し、移送される溶液の温度上昇及び圧力増加の少なくとも一方によって膨張して前記剛性溶液外筒の内面に接し、前記溶液の冷却または圧力低下によって、前記剛性溶液外筒の内周面と薄肉内筒の間に空間ができるように縮径する前記薄肉内筒を配置したことを特徴とする溶液移送冷却装置。
【請求項2】
前記薄肉内筒が、SUS300系ステンレス鋼によって製造されていることを特徴とする請求項1に記載の溶液移送冷却装置。
【請求項3】
前記薄肉内筒が、アルミニュウム合金によって製造されていることを特徴とする請求項1に記載の溶液移送冷却装置。
【請求項4】
前記薄肉内筒が、銅合金によって製造されていることを特徴とする請求項1に記載の溶液移送冷却装置。
【請求項5】
前記溶液が、溶剤と重合生成物の混合溶液であることを特徴とする請求項1に記載の溶液移送冷却装置。
【請求項6】
重合反応装置と、該重合反応装置の重合生成物出口部に連結された冷却流路部(熱交換器)を有する重合体製造装置であって、
前記冷却流路部は、剛性冷媒外筒の内部に、複数の剛性溶液外筒を互いに平行に配置し、前記剛性溶液外筒の内部に、常温常圧で前記剛性溶液外筒の内径より小さい外径を有し、移送される溶液の温度上昇及び圧力増加の少なくとも一方によって膨張して前記剛性溶液外筒の内面に接し、前記溶液の冷却または圧力低下により、前記剛性溶液外筒の内周面と薄肉内筒の間に空間ができるように縮径する前記薄肉内筒を配置したことを特徴とする重合体製造装置。
【請求項7】
前記薄肉内筒が、SUS300系ステンレス鋼によって製造されていることを特徴とする請求項6に記載の重合体製造装置。
【請求項8】
前記薄肉内筒が、アルミニュウム合金によって製造されていることを特徴とする請求項6に記載の重合体製造装置。
【請求項9】
前記薄肉内筒が、銅合金によって製造されていることを特徴とする請求項6に記載の重合体製造装置。
【請求項10】
前記薄肉内筒が,その端部を前記剛性溶液外筒にかしめられていることを特徴とする請求項6に記載の重合体製造装置。
【請求項11】
前記溶液が、溶剤と重合生成物の混合溶液であることを特徴とする請求項6に記載の重合体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液移送冷却装置に関する。
さらに詳しくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体製品を製造する際、例えばノルマルヘキサン等の溶媒の中で触媒とエチレンとを反応させてポリエチレンをつくる重合体反応器の内壁への重合体の付着や、重合体反応器からペレット化等の後処理装置に溶剤と重合生成物混合溶液を冷却しながら移送するための移送手段の内壁への重合体の析出付着、いわゆる重合体ファウリングが発生する。本発明は、この重合体ファウリング等を容易且つ効率的に除去することができる溶液移送冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン等の重合では、重合体反応器内での重合反応によって反応熱が発生する。この反応熱を効率的に除去すなわち冷却しないと、運転条件のコントロールができず、重合反応物の物性が著しく変化し、重合体反応器の運転停止を余儀なくされる場合もある。
一方、反応熱を除去するために、重合体反応器の内壁及び重合体反応器からペレット化等の後処理装置に冷却しながら移送するための移送手段に、シェルアンドチューブ熱交換器を設定する場合がある。この場合、冷却剤と溶媒中に含まれる重合体とを離隔する金属管内壁に重合体ファウリングが形成される。この重合体ファウリングは、熱伝導率が金属管に比し約二桁低いことから、重合体ファウリングが、前記反応熱の除去の除去すなわち冷却を著しく低下させる。同時に、実質的管径が細くなることにより、輸送ポンプの負荷が増加し、輸送ポンプの損傷や流量低減の弊害が発生する。
【0003】
この重合体ファウリングの発生増大を防止するために、
(1)反応器内及び移送管内の流速を上げること
(2)反応器内及び移送管内表面の凹凸をできるだけ小さくすること
(3)重合体ファウリングの起点が触媒及び重合体粒子の静電付着であるという説に基づく静電除去剤を添加すること
(4)エチレンフィードノズルの構造を改良すること
(5)フランジのギャップ等にポリマーが対流しないような構造を改良すること
が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
従来技術の重合体ファウリング防止方法として、特定の一般式で表される数平均分子量が、30000以下のポリオキシレン系重合体を含むファウリング防止剤を、重合装置内又は後行程の溶剤重合物溶液内成分に添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
他の従来技術の重合体ファウリング防止方法、すなわち重合反応器への触媒スラリー供給系の閉塞を防止し、連続運転を可能とするオレフィン重合方法として、オレフィン重合方法であって、固体に担持した予備重合触媒を含む触媒スラリーを、オレフィンの本重合を行う気相反応器に供給するに際して、該予備重合触媒1gに対して、0.3〜3.0mgの有機アルミニウム化合物を同伴させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
他の従来技術の重合体ファウリング防止方法として、高温のプロセスストリームに曝される金属チューブ熱交換装置に腐蝕および腐蝕に誘導されるファウリングに対する抵抗性を賦与するために、内側表面および外側表面を有するプロセスストリームを加熱又は冷却するための伝熱装置10であって、前記伝熱装置10は、X、YおよびZを含むスチール合金で形成されるチューブであり、前記チューブは、40マイクロインチ(1.1μm)未満の算術平均表面粗さを有するスチール合金からなる基材層、内側表面および外側表面の少なくとも一方の上に形成された10〜40重量%のクロムを含有するクロム富化酸化物層、硫化物、酸化物、酸硫化物またはそれらの混合物を含む前記クロム富化酸化物層、の3層を含む伝熱装置10等の表面上に形成された表面保護層を設けることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
上述した技術によっても重合体ファウリングの発生は、産業上の要求を満たす程度に有効に防止も減少もさせることができないため、さらに他の方法、技術が提案されている。すなわち、金属配管の内壁に、薬液又は所要のガスにより除去され得る薄膜を被着形成することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
他の重合体ファウリング発生防止技術として、内壁に樹脂皮膜を形成させた容器を用いて化学的操作又は物理的操作を行い、該操作の工程中に容器内壁に生成したスケールを前記樹脂皮膜と共に除去するスケール除去方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0009】
さらに他の重合体ファウリング発生防止技術として、液体又はペースト状の流動物を送液する配管内に配設するチューブにおいて、チューブを配管内に貫通して載置し、一方の端辺を封鎖した該チューブの他端から該チューブ内に送気して該チューブを膨らませて管路内に密着させた後に該チューブ、両端をチューブの内側から配管の端部に密着固定する配管用インナーチューブの設置方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「ポリエチレン技術読本」松浦一雄・三上尚孝編著、株式会社工業調査会2001年7月1日発行
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5399478号公報
【特許文献2】特開2010−006988号公報
【特許文献3】特開2013−011437号公報
【特許文献4】特開平10−204668号公報
【特許文献5】特開平05−093001号公報
【特許文献6】特開2012−232512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
重合体ファウリングは、非特許文献1に示されるように、物理的には高速で通過させること、接触面での保護層の形成、滞留発生阻止、化学的には静電気防止剤を添加すること等のよって解消できるように考えられている。
しかし、現実的には、前記特許の重合体ファウリング対策のいずれも不完全で、重合体ファウリングの発生による冷却効率の低下や、重合体ファウリングによる流路の狭隘化すなわち流量の減少が、産業界の大きな障害となったままである。
【0013】
一方、特許文献4及び5によって提案された技術は、既に内壁に形成された薄膜や樹脂皮膜が運転条件変更等により溶解したり剥離したりして、新しく生成した重合体中に混入する恐れが極めて高く、品質管理上受け入れられない問題を含んでいる。
【0014】
特許文献6によって提案された技術は、柔軟で巻き状態で保管されたインナーチューブは、円柱筒を束ねた移送装置の各円柱筒、例えば、約10メートルのものの全長に装着することが極めて困難であり、工業上の実施が実質上不可能であると推定される。
【0015】
本発明者が確認した重合体ファーリングが発生する実際の例として、重合体移送冷却装置は、直径170センチメートルの円形断面に、外直径25.4ミリメートル、肉厚1.2ミリメートル、長さ10メートルのSUS304製円筒管の約1500本を均等ピッチで固定して円柱管束を形成している。
この円柱管束は、全体を耐圧シェル内に取付け、シェル内下部入口から冷媒を圧入することによって、冷媒が円柱管束の間に流入する。冷媒は、各円筒管の周囲を流れて各円筒管内の溶媒と重合物の混合溶液を冷却する。
【0016】
冷却されることによって過飽和状態となった重合体は、溶媒から析出分離し、一部は管壁に付着成長しファウリングを形成する。その結果、液体固体の混合液は、流路が細った円筒管内を流動するようになり、定圧ポンプの流量が低下し、定常運転ができなくなってしまう。
【0017】
この重合体移送冷却装置は圧力容器であり、規則により定期点検が義務付けられている。
前述した重合体溶液移送冷却装置は、通常24時間連続運転される。その場合、約6ヶ月〜1年経過後には、円柱管内壁に析出堆積した重合体ファウリングが累乗的に増加し、重合体生成物溶液の流動を著しく妨げるようになる。その結果、定圧ポンプの吐出量が低下し、定常な運転条件が確保できなくなり、冷却装置の作動を停止して重合体ファウリングの除去をしなければならない。
【0018】
このような従来技術では避けることができない重合体移送装置の重合体ファーリングの除去作業は、産業上ほとんどの場合、高圧水洗浄で行なわれている。
高圧水洗浄は、往復動ポンプにより加圧した高圧水をノズルから噴射させ、噴射衝撃エネルギーにより堆積した重合体ファーリングを管壁から剥離し、粉砕し、排出・除去する。
【0019】
該高圧の値は、例えば高圧7MPa以上30MPa、超高圧30MPa以上100MPa、超超高圧100MPa以上の250MPaでも行われている。公益社団法人日本洗浄技術技能開発協会発行の「産業洗浄(高圧洗浄作業)安全衛生管理指針」によれば、高圧水洗浄は、特定の検定を受けた作業者が行い、監視者を置き、頑丈な足場を作らなければならない。
一つの重合体移送冷却装置の洗浄には、足場設置等から検査終了までに二週間以上を要する場合がある。その上、高圧水洗浄を行っている間は、重合体製造を停止しなければならないのであるから、不稼働損を生じ、産業活動上きわめて影響の大きな障害である。
【0020】
(発明の目的)
本発明は、従来技術のいずれによっても解決されていない重合体製造ライン等における溶液移送冷却装置の上述した問題点に鑑みてなされたものであって、溶液移送冷却装置内の固形分の堆積を、従来技術に比較して極めて簡易な作業設備によって、少数の現場作業者によって短時間に、しかも高圧水洗浄等の危険作業を行うことなく、ファウリング堆積物を除去することができる溶液移送冷却装置を提供することを目的とする。
【0021】
本発明はまた、生成された液体固体混合物等の溶液に望ましくない重合物等の管付着物が混入する恐れの少ない溶液移送冷却装置を提供することを目的とする。
【0022】
本発明はさらに、従来技術の高圧水洗浄によって発生する産業廃棄物の排出量に比較して極めて少ない産業廃棄物の排出量である溶液移送冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、
剛性冷媒外筒の内部に、複数の剛性溶液外筒を互いに平行に配置した溶液移送冷却装置において、
前記剛性溶液外筒の内部に、常温常圧で前記剛性溶液外筒の内径より小さい外径を有し、移送される溶液の温度上昇及び圧力増加の少なくとも一方によって
膨張して前記剛性溶液外筒の内面に接し、前記
溶液の冷却または圧力低下によって
、前記剛性溶液外筒の内周面と薄肉内筒の間に空間ができるように縮径する
前記薄肉内筒を配置したことを特徴とする溶液移送冷却装置
である。
【0024】
本発明は、また、
重合反応装置と、該重合反応装置の重合生成物出口部に連結された冷却流路部(熱交換器)を有する重合体製造装置であって、
前記冷却流路部は、剛性冷媒外筒の内部に、複数の剛性
溶液外筒を互いに平行に配置し、前記剛性
溶液外筒の内部に、常温常圧で前記剛性
溶液外筒の内径より小さい外径を有し、移送される溶液の温度上昇及び圧力増加の少なくとも一方によって
膨張して前記剛性
溶液外筒の内面に接し、前記溶液
の冷却または圧力低下により
、前記剛性溶液外筒の内周面と薄内筒の間に空間ができるように縮径する
前記薄肉内筒を配置したことを特徴とする重合体製造装置
である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液体移送冷却装置によれば、液体移送装置内のポリマー等などの固形分の堆積を、従来技術に比較して極めて簡易な作業設備によって、少数作業者によって短時間に且つ安全に除去することができるという効果を得ることができる。
【0026】
本発明の溶液移送冷却装置によればまた、新しく生成されたポリマー溶液等の被移送冷却流体に、管内面に付着した既存ポリマー等の望ましくない不純物が混入する恐れがないという効果を得ることができる。
【0027】
本発明の液体移送装置によればさらに、従来の高圧水洗浄技術に比較して産業廃棄物の排出が極めて少ないという効果を得ることができる。
【0028】
本発明の液体移送装置を好適に実施できるものとして、重合体の製造における重合反応、架橋反応等の化学的操作、脱溶剤、混合等の物理的操作の工程中の溶液移送が挙げられる。また、塗料、接着剤等の重合体を主成分とする組成物の製造等における重合体と他の成分の混合、脱溶剤等の物理的操作の工程中の溶液移送等にも適用できる。
本発明は、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ウレタン系重合体、塩化ビニル系重合体、塩化ビニリデン系重合体、SBR、酢酸ビニル系重合体等の重合体、或いはこれらを構成する単量体の共重合体の製造時の溶液移送に適用され、ウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン等のマルジョンにおける溶液移送にも好ましく適用できるものである。
【0029】
(発明の実施態様)
前記本発明において、前記薄肉内筒が、SUS300系ステンレス鋼、アルミ合金、銅合金等によって製造されていることを特徴とする。
【0030】
前記本発明において、また、前記薄肉内筒が,その端部を薄肉内筒支持円板にかしめられていることを特徴とする。
【0031】
前記本発明において、また、前記溶液が、溶剤と重合生成物の混合溶液であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】第1実施形態の溶液移送冷却装置の部分的に切り開いた正面図である。
【
図3】
図1の点線IIIで示す領域の拡大図である。
【
図4】剛性溶液外筒及び薄肉内筒の固着説明図である。
【
図5】本発明の原理説明のための説明参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態の溶液移送冷却装置を図に基づいて説明する。実施形態の説明における数値は、全て例示である。
【0034】
本発明の実施形態の溶液移送冷却装置1は、熱交換機能を有し、ポリエチレン中低圧重合法を実施する圧力容器に使用するシェルアンドチューブ型の装置である。シェルアンドチューブ型の熱交換器としては、固定管板式、遊動頭式、U字管式の3タイプが知られている。溶液移送冷却装置1は、遊動頭式であって、被熱交換流体の高温・高圧による長尺の熱交換チューブの伸縮を遊動頭蓋の移動によって吸収する。
【0035】
溶液移送冷却装置1は、
図1に示すように、胴体すなわちシェル10内をチューブシート12によって区切ることによって、被熱交換流体室14と冷媒室16を形成している。
被熱交換流体Rを収容する被熱交換流体室14は、シェル10の端部をシェルカバー20によって塞いで形成されている。シェル10の被熱交換流体室14のある部分において、下側に被熱交換流体入口22が配置され、上側に被熱交換流体出口24が形成されている。被熱交換流体室14は、区切り板40によって、下側の被熱交換流体室高温部14aと下側の被熱交換流体室低温部14bとに分けられている。
被熱交換流体Rとして、ノルマヘキサンと重合体の混合体が例示される。
冷却水等の冷媒Wを収容する冷媒室16は、シェル10の端部を冷媒室蓋30によって塞がれ、内部に例えば約2000本の熱交換チューブ32が互いに平行に配置されている。冷媒室16内において、チューブシート12の反対側には、遊動頭蓋34が配置されている。冷媒室16には、冷媒Wを攪拌するための邪魔板36が配置されている。
【0036】
溶液移送冷却装置1の熱交換チューブ32は、
図2に示すように、冷媒を流通させるための鉄製の剛性冷媒外筒100の内部に、溶媒の中に生成物を含む混合溶液を流通させるためのSUS304製の剛性
溶液外筒102を互いに平行に配置して構成される。
剛性冷媒外筒102の冷媒流通部分の長さは10メートルであり、
図3に示すように、外径が25.4ミリメートル、肉厚が2.0ミリメートルであり、内径が21.4ミリメートルである。
【0037】
剛性溶液外筒102は、
図1に示すように、
図4に示すように、剛性溶液外筒102の両端部近傍の内部に固着された剛性溶液外筒支持板104に溶接106によって固着されている。
【0038】
剛性
溶液外筒102のそれぞれの内部には、
図3及び
図4に示すように、薄肉内筒110が配置されている。薄肉内筒110は、内径が21.30ミリメートルであり、肉厚が0.04ミリメートルである。薄肉内筒110の両端部は、
図4に示すように、かしめられて、剛性
溶液外筒102の端部の上に固着される。
【0039】
以下に、薄肉内筒110が、移送される溶液、例えば反応生成物と溶媒の混合液の温度及び圧力で伸張し、破断することなく剛性溶液外筒102の内面に接し、さらに除圧すなわち溶液を除去することにより薄肉内筒110が縮径して元の直径に戻ること、及び、移送される溶液すなわち液体固体混合物の温度及び圧力で伸張した時、薄肉内筒110が剛性溶液外筒102によりバックアップされるすなわち薄肉内筒110が剛性溶液外筒102によって周囲が支えられることを、演算によって説明する。
【0040】
薄肉円筒110のフープ力すなわち周方向の引っ張り応力σ
iN/m
2は、
図5に示すように、内径Dmm、肉厚tmm、長さlmm、内圧Pパスカルとするとき、
σ
i=pDl/2tl=PD/2t ・・・・・ (1)
である。例えば、株式会社技術評論社平成24年5月25日発行「入門材料力学」(有光隆著)第70頁第8行の「円周方向に発生する引張り応力」に記載されているとおりである。
ここで、SUS304の許容引張り応力は、JISG4303によると、40℃において194メガパスカル、75℃において180メガパスカル、100℃において171メガパスカルである。
【0041】
工業上多く見られるような、被熱交換流体室高温部14aの温度が70℃、1.20メガパスカルであり、被熱交換流体室低温部14bの温度が57℃、1.14メガパスカルであることを考慮し、以下の値により演算する。
剛性溶液外筒102の肉厚は、2.0ミリメートルである。剛性溶液外筒102の内径は、21.40ミリメートルである。薄肉内筒110は、外径が21.37ミリメートルである。薄肉内筒110の肉厚は、0.04ミリメートルである。薄肉内筒110の内圧は、1.20メガパスカルである。剛性溶液外筒102及び薄肉内筒110の材料であるSUS304のヤング率は、200ギガパスカルである。
剛性溶液外筒102の内面と薄肉内筒110の外面のクリアランスすなわち間隔は、0.03ミリメートルの半分の0.015ミリメートルである。
【0042】
(薄肉内筒が剛性溶液外筒に密着)
フープ力 σ
i=PD/2t
=(1.2MPa×21.30mm)/(2×0.04mm)
=319.5(メガパスカル)
フックの法則により
歪みε=応力σ
i /ヤング率
=319.5MPa/200GPa
=0.0016(0.16%)
従って、薄肉内筒110の外径は、内圧によって
21.37mm×0.0016=0.034mm
増加することになる。この値は、内圧によって薄肉内筒110が剛性溶液外筒102に密着する可能性を示す。
【0043】
(剛性溶液外筒の薄肉内筒膨張のバックアップ)
剛性溶液外筒102に、内圧1.20メガパスカルが負荷されたと仮定する。
フープ力 σ
i=PD/2t
=(1.2MPa×23.40mm)/(2×2.0mm)
=7.02MPa
フックの法則により
歪みε=応力σ
i /ヤング率
=7.02 MPa/200GPa
=0.000
従って、剛性溶液外筒102に、内圧1.20メガパスカルが負荷されたとしても、剛性溶液外筒102はほとんど伸張せず、薄肉内筒110のバックアップが可能である。
【0044】
(薄肉内筒の縮径)
「東京都立産業技術研究センター研究報告、第5号、2010年」(第78頁)等に記載された「0.2%耐力」は、ある圧力を負荷して除圧した時の残留歪みが0.2%以内であることを示す。同論文によると、SUS304の0.2%耐力は、314MPaである。すなわち、314MPaは、SUS304においては、降伏値以上の値である。ただし、本実施形態において、剛性溶液外筒102と薄肉内筒110のクリアランスが0.2%以内であれば、クリープ現象や金属疲労によって残留歪みが発生したとしても0.2%以内に留まる。仮に、剛性溶液外筒102と薄肉内筒110のクリアランスが0.1%以内であれば、薄肉内筒110は、剛性溶液外筒102に密着し、剛性溶液外筒102にバックアップされ、除圧後回復して原寸に戻る。
【0045】
次に、本発明の溶液移送冷却装置1の使用方法について説明する。最初に、剛性
溶液外筒102に薄肉内筒110を挿入する。この際、薄肉内筒110が例えば514グラムと軽いことに加えて、剛性
溶液外筒102の内面と薄肉内筒110の外面との間に空間があることから、例えば10メートルに及ぶ長いものでも容易に挿入することができる。挿入された薄肉内筒110は、そのままでも良いが、好ましくは、かしめ加工等によって薄肉内筒110の両端部を剛性
溶液外筒102の両端部に固着する。
【0046】
この状態で薄肉内筒110内に重合生成物を流入させれば、重合生成物の圧力によって薄肉内筒110が伸張して、薄肉内筒110の全外周面が剛性
溶液外筒102の内周面に接する。その結果、薄肉内筒110の全外周面が剛性
溶液外筒102の内周面によって支えられる。さらに、薄肉内筒110の全外周面が剛性
溶液外筒102の内周面に接することにより、薄肉内筒110内を移送される重合生成物は、剛性
溶液外筒102と剛性冷媒外筒100の間を流動する冷媒によって効率的に冷却することができる。
【0047】
溶液移送
冷却装置1の長期間の連続作動により、薄肉内筒110内に重合体ファウリングが形成された場合、
溶液移送
冷却装置1への重合生成物の流入を止める。これにより薄肉内筒110は、常圧に戻り、薄肉内筒110が縮小し、元の直径に戻る。この結果、剛性
溶液外筒102の内周面と薄肉内筒110の外周面の間に空間ができ、薄肉内筒110を剛性
溶液外筒102から容易に取り出すことができる。
【0048】
取り出した薄肉内筒110は、工場等作業しやすい場所で重合体ファウリングを除去する。重合体ファウリングを除去された薄肉内筒110は、上述した方法によって剛性
溶液外筒102に入れる。
予備の薄肉内筒110を準備して、重合体ファウリングが形成された薄肉内筒110を該予備の薄肉内筒110に置換することは、重合体ファウリングの高所除去作業を安全に且つ短時間に行うことであり、重合体の生産効率を高めるために極めて有効である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、鉱油を地下から取り出すための配管等のように大きな温度変化はなく、圧力のみが変化する場合においても実施でき、その詰まりを効率的に排除することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 溶液移送冷却装置
100 剛性冷媒外筒
102 剛性溶液外筒
104 剛性溶液外筒支持板
106 溶接
110 薄肉内筒