特許第5953655号(P5953655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953655
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】車両用運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-103185(P2011-103185)
(22)【出願日】2011年5月2日
(65)【公開番号】特開2012-234408(P2012-234408A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(72)【発明者】
【氏名】竹村 和紘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 由貴
(72)【発明者】
【氏名】原 利宏
(72)【発明者】
【氏名】菅野 崇
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄策
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英輝
【審査官】 柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−089661(JP,A)
【文献】 特開2003−291688(JP,A)
【文献】 特開平10−096775(JP,A)
【文献】 特開2008−027309(JP,A)
【文献】 特開2011−210102(JP,A)
【文献】 特開2011−084106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 − 99/00
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方に認知エリアを設定する認知エリア設定手段と、
車両前方で前記認知エリアの内側に、該認知エリアよりも前後長が短くされた判断エリアを設定する判断エリア設定手段と、
車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、
前記障害物検出手段によって前記認知エリア内で検出された障害物に対して運転者の視線を誘導する視線誘導手段と、
前記障害物検出手段によって前記判断エリア内で障害物が検出されたとき、衝突警報または衝突回避制御を行う衝突回避手段と、
あらかじめ設定された所定条件に応じて、前記認知エリアをその前後長を含めて変更する一方、前記判断エリアの変更を禁止するかまたは該認知エリアの変更度合よりも小さい変更度合でもって該判断エリアをその前後長を含めて変更するエリア変更手段と、
を備えていることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定条件が、車速以外とされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記所定条件が、乗員による障害物の発見のしにくさに関連する第1条件と、衝突回避操作に伴う車両の追従性に関連する第2条件と、乗員の反応遅れの可能性に関連する第3条件とのうち、少なくとも1つの条件とされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記所定条件が、周囲の明るさ、天候状態、車両重量、路面状態、車内騒音、アクセル操作状況のうち、少なくとも1以上とされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、
前記所定条件が、乗員による障害物の発見のしにくさに関連した条件とされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、
前記所定条件が、衝突回避操作に伴う車両追従性に関連した条件とされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2において、
前記所定条件が、乗員の反応遅れの可能性に関連した条件とされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、
前記所定条件に応じた前記判断エリアの変更が禁止される、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、
前記障害物検出手段がレーダとされている、ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用運転支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、交差点における自車両と他車両の位置予測に基づいて算出された接近最小距離から衝突危険度を判定するものが開示されている。特許文献1のものでは、他車両の運転者が自車両を認知していない場合に、その衝突危険度を高め、あるいは衝突危険度のしきい値を下げるようにしている。
【0003】
特許文献2には、運転者の不注意方向と衝突危険度とに基づいて警報を発するタイミングを決定するものが開示されている。特許文献2のものでは、検出された運転者の顔の向きに応じて警報しきい値を設定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−241729号公報
【特許文献2】特開2007−128430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、障害物との衝突(接触)回避のためには、自車両の前方に存在する障害物を、運転者が余裕をもった状態であらかじめ明確に認識していることが重要となる。このため、例えばレーダやカメラ等によって前方の障害物を検出するための認知エリアを設定して、この認知エリアで障害物が検出されたときに、運転者の視線を障害物に誘導することが考えられる。このようにすることによって、運転者が例えば左方を注視している状態で、認知エリア内の右方側に障害物が検出されたときに、この検出された障害物に運転者の視線を誘導して、余裕をもった状態において障害物を運転者に認識させることが可能になる。
【0006】
また、車両前方に、衝突回避のための判断エリアを設定して、この判断エリア内で障害物が検出されたときは、衝突警報、あるいは自動ブレーキや自動操舵等の衝突回避制御を行うことが考えられる。このような判断エリアと認知エリアとの両方のエリア設定によって、障害物との衝突回避の上でより一層好ましいものとなる。
【0007】
上記のように認知エリアおよび判断エリアを設定する場合、各エリアをどのような範囲でもって設定するか、ということが問題となる。すなわち、安全のために認知エリアをあまりに広く(大きく)設定すると、不必要に多くの障害物を検出して、運転者の視線を誘導する機会が増大し過ぎて、運転者にとって大きな負担となる。逆に、認知エリアを狭く(小さく)設定し過ぎると、接触の可能性のある障害物を検出しないということになりかねない。また、判断エリアをあまりに広く設定すると、衝突警報や衝突回避制御が不必要に行われてしまう事態をまねいて好ましくないものとなる。逆に。判断エリアを狭く設定し過ぎると、衝突警報や衝突回避制御による衝突回避を確実に行う、という点で問題が残る。
【0008】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、認知エリアと判断エリアとを適切に設定できるようにした車両用運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
車両前方に認知エリアを設定する認知エリア設定手段と、
車両前方で前記認知エリアの内側に、該認知エリアよりも前後長が短くされた判断エリアを設定する判断エリア設定手段と、
車両前方の障害物を検出する障害物検出手段と、
前記障害物検出手段によって前記認知エリア内で検出された障害物に対して運転者の視線を誘導する視線誘導手段と、
前記障害物検出手段によって前記判断エリア内で障害物が検出されたとき、衝突警報または衝突回避制御を行う衝突回避手段と、
あらかじめ設定された所定条件に応じて、前記認知エリアをその前後長を含めて変更する一方、前記判断エリアの変更を禁止するかまたは該認知エリアの変更度合よりも小さい変更度合でもって該判断エリアをその前後長を含めて変更するエリア変更手段と、
を備えているようにしてある。
【0010】
上記解決手法によれば、認知エリア内に障害物が検出されたときに、運転者の視線が検出された障害物に誘導されるので、障害物に衝突する可能性が高まる前に運転者は余裕をもって障害物を明確に認識することができる。また、車両により近い位置となる判断エリア内で障害物が検出されたときは、衝突警報あるいは衝突回避制御によって、衝突が回避されることになる。そして、認知エリアは、所定条件に応じて変更されるので、障害物への視線誘導を適切に行うことができる。また、判断エリアについては、変更されないかまたは変更されたとしても認知エリアほど大きく変更されないので、衝突警報や衝突回避制御を安定して行う上で好ましいものとなる。
【0011】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記所定条件が、車速以外とされている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、車速以外の所定条件に応じて各エリアを適切に設定することができる。特に、車速に応じて各エリアを基本設定した場合に、所定条件に応じた変更を基本設定からの補正として、各エリアの設定をより適切に行うことができる。
【0012】
前記所定条件が、乗員による障害物の発見のしにくさに関連する第1条件と、衝突回避操作に伴う車両の追従性に関連する第2条件と、乗員の反応遅れの可能性に関連する第3条件とのうち、少なくとも1つの条件とされている、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、所定条件の具体的な内容が提供される。特に、第1条件については、乗員が視認可能な距離範囲を考慮したエリア設定とすることができる。また、第2条件としては、衝突回避のためにブレーキ操作やハンドル操作したときに生じる車両の追従性の相違(止まりやすさ、曲がりやすさ)を考慮したエリア設定とすることができる。第3条件としては、乗員による衝突回避の操作に遅れを生じる可能性を考慮したエリア設定とすることができる。
【0013】
前記所定条件が、周囲の明るさ、天候状態、車両重量、路面状態、車内騒音、アクセル操作状況のうち、少なくとも1以上とされている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、前記第1条件〜第3条件に対応したより具体的な条件が提供される。すなわち、周囲の明るさや天候状態は前記第1条件となり、車両重量や路面状態は前記第2条件となり、車内騒音やアクセル操作状況は前記第3条件となる。
【0014】
前記所定条件が、乗員による障害物の発見のしにくさに関連した条件とされている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、乗員による障害物の発見のしにくさを考慮した適切なエリア設定とすることができる。
【0015】
前記所定条件が、衝突回避操作に伴う車両追従性に関連した条件とされている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、衝突回避操作に伴う車両追従性を考慮した適切なエリア設定とすることができる。
【0016】
前記所定条件が、乗員の反応遅れの可能性に関連した条件とされている、ようにしてある(請求項7対応)。この場合、乗員の反応遅れの可能性を考慮した適切なエリア設定とすることができる。
【0017】
前記所定条件に応じた前記判断エリアの変更が禁止される、ようにしてある(請求項8対応)。この場合、衝突警報あるいは衝突回避制御を安定して行う上で、制御系の負担軽減の上で好ましいものとなる。
前記障害物検出手段がレーダとされている、ようにしてある(請求項9対応)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、認知エリアと判断エリアの設定を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】認知エリア、判断エリア、物理限界エリアの設定例を示す図。
図2】本発明が適用された車両の簡略平面図。
図3】本発明の制御系統例を示すブロック図。
図4】車速に応じて認知エリアと判断エリアを変更する例を示す図。
図5】本発明の制御例を示す全体フローチャート。
図6】認知エリア設定例を示すフローチャート。
図7】認知エリアの補正例を示すフローチャート。
図8】判断エリアの設定例を示すフローチャート。
図9】判断エリアの補正例を示すフローチャート。
図10】認知エリアの変更例を示す図。
図11】基本の認知エリアと判断エリアとを示す図。
図12図11の状態から、認知エリアを左方へ拡大した状態を示す図。
図13図11の状態から、認知エリアを前方へ縮小し、左方へ大きく拡大し、右方へ小さく拡大した状態を示す図。
図14図11の状態から、認知エリアを前方へ縮小し、左右両方向へほぼ同程度に拡大した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、車両(実施形態では自動車)Vの周囲のうち特に前方に設定される3つのエリアP1、P2、P3を示す。P1は認知エリアP1であり、P2は判断エリアであり、P3は物理限界エリアとされる。各エリアP1〜P3は、障害物の検出範囲となるもので、各エリアP1〜P3内に障害物が検出されると、検出された障害物が位置するエリアに応じた危険回避の制御が実行される。認知エリアP1は、もっとも外側(遠方)に設定されたエリアで、前後長がもっとも長くて遠方の障害物を検出可能であり、その左右幅ももっとも大きくなっている。判断エリアP2は、認知エリアP1の内側に設定されて、その前後長が認知エリアP1よりも短く、かつ左右幅も認知エリアP1よりも小さく設定されている。物理限界エリアP3は、判断エリアP2の内側に設定されて、前後長が判断エリアP2よりも短くかつ左右幅も判断エリアP2よりも小さく設定されている。このような各エリアP1〜P3はレーダやカメラあるいはその組み合わせによって形成される。なお、車両Vを上方から見たときの各エリアP1〜P3の基本的な形状は、車両Vの前方に向かうにつれて徐々に幅広くなった後、途中から徐々に幅が狭くなるように設定されて、左右対称形状となる略楕円形状とされる。そして、この基本形状および大きさが、後述のようにして、種々変更される。なお、障害物検出用のレーダやカメラによる障害物の最大検出範囲内において、その検出範囲を限定することにより、前記各エリアP1〜P3の設定、変更が行われる。
【0021】
危険回避の制御例について説明すると、認知エリアP1内に障害物が検出されると、車両Vの運転者の視線が検出された障害物に向かうように誘導する制御が実行される。視線誘導制御は、例えば、音声によって「右前方に障害物が存在します」というように音声案内したり、障害物が存在する方向から警報音を発声するようにしたり(障害物までの距離が近いほど警報音量を大きくする)、フロントウインドガラスのうち障害物が位置する方向に対応した位置に障害物表示(例えばヘッドアップディスプレイによる前方への虚像表示や点滅表示)することができ、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできる。なお、上記した制御は一例であって、乗員の視線誘導を行うことができるような適宜の制御を採択することができる。図3には、上述した視線誘導を行うための装置が視線誘導装置9として示される。
【0022】
判断エリアP2内に障害物が検出されたときは、衝突警報が行われる。衝突警報は、運転者の視線が障害物に向かうように誘導する場合よりもより積極的な警報で、例えば、大きな音量で「衝突の危険があります」というように音声案内したり、操舵反力やペダル反力を大きくしたり、ハンドルやペダルに振動を与えたり、自動操舵装置によって障害物を避ける方向へ操舵したり、自動ブレーキ装置によって減速したりする等の制御や、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできる。上記の制御は、障害物との衝突を回避できる可能性が高いときであるので、この接触回避のための制御としては上記の場合に限らず、適宜の制御を採択することができる。上記警報を行う警報装置が図3において警報装置6として示され、また衝突回避のための各種の車両制御を行う車両制御装置が図3において車両制御装置10として示される。
【0023】
物理限界エリアP3内に障害物が検出されたときは、もはや障害物との衝突は避けられないときであるとして、車両Vの乗員の安全を確保する制御が行われる。例えば、自動ブレーキ装置によって急制動したり、自動操舵装置によって少しでも障害物からずれるように大きく自動操舵したり、シートベルトを強制的に引き込み操作して乗員をシートバックに強く押し付ける等の制御が行われ、これらの制御を組み合わせた制御を行うこともできる。なお、各エリアP1〜P3のうち2あるいは3以上のエリアで障害物が検出されたときは、障害物が検出されたエリアのうちもっとも内側にあるエリアに対応した制御が優先的に行われる。この衝突対応のための車両制御を行う装置が、図3において車両制御装置10として示される。なお、車両制御装置10は、判断エリアP2での障害物検出時と物理限界エリアP3での障害物検出時との両方に対応したものとなっているが、各エリアP2、P3毎に独立した制御装置を設けるようにしてもよい。
【0024】
図2は、車両Vに搭載された各種機器類を示すものである。この図2において、車両前方の障害物検出するために、車両Vの前部にレーダ1が設けられると共に、運転席の前方高い位置に外界カメラ2が設けられる。レーダ1と外界カメラ2とが、障害物検出センサを構成しているが、いずれか一方のみを設けたものであってもよい。車両Vは、ナビゲーション装置におけるGPS3と地図データ4とを装備している。車両Vのバックミラー付近あるいはインストルメントパネルには、運転者の視線(視線方向)を監視するための視線監視カメラ5が装備されている。さらに、車両Vには、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)7が装備されると共に、前述した警報装置6および、視線誘導装置9、車両制御装置10が装備されている。
【0025】
図3は、コントローラ7における制御系統例を示すものである。このコントローラ7には、前述した各種機器類1〜5からの信号が入力される他、車速センサ8で検出された車速信号が入力される。また、コントローラ7は、警報装置6、視線誘導装置9、車両制御装置10を制御する。なお、図3において、Sは、既述のセンサ以外の各種のセンサやスイッチあるいは機器類をまとめてセンサ群として示すものであり、このセンサ群Sからの信号は、後述する認知エリアP1や判断エリアP2の設定や変更のために用いられる。
【0026】
図4は、車速に応じた認知エリアP1および判断エリアP2の変更を説明するための図である。図4中、実線が、低速時での認知エリアP1と判断エリアP2を示し、基本の設定となる。また、一点鎖線が高速時での認知エリアP1と判断エリアP2を示す。認知エリアP1については、高速時は低速時に比して、前方へ延長される(前後長の拡大)と共に左右長が縮小される。そして、認知エリアP1の面積は、高速時は低速時に比して不変か小さくされる(実施形態では面積小とされる)。このような認知エリアP1の変更は、車速の増大に応じて連続可変的に行うようにしてもよく、例えば3段階、4段階というように段階的に変更するようにしてもよい。
【0027】
判断エリアP2も、高速時は低速時に比して、前方へ延長される(前後長の拡大)。また、判断エリアP2の左右長は、車速の増大に応じて不変か、あるいは前後長の拡大割合(延長割合)よりも小さい割合で拡大するようにしてもよい。このような判断エリアP2の変更は、車速の増大に応じて連続可変的に行うようにしてもよく、例えば3段階、4段階というように段階的に変更するようにしてもよい。
【0028】
次に、図5図9を参照しつつ、コントローラ7による制御例について、特に認知エリアP1と判断エリアP2との設定、変更に着目して説明することとする。なお、以下の説明でQはステップを示す。
【0029】
まず、全体制御を示す図5のQ1において物理限界エリアP3が作成される。この後、Q2において認知エリアP1が作成され、Q3において判断エリアP2が作成される。なお、認知エリアP1および判断エリアP2の作成については後に詳述する。この後、Q4において、レーダ1,カメラ2によって、車両前方の障害物の検出が行われる。Q4の後、Q5において、障害物が存在するか否か(検出されたか否か)が判別される。このQ5の判別でNOのときは、Q1に戻る。
【0030】
Q5の判別でYESのときは、Q6において、障害物の位置が算出される。この後、Q7において、障害物の移動速度と進行方向とが算出され、Q8において、所定時間後の障害物の位置が算出される。Q8の後、Q9において、Q8で算出された障害物の位置が、物理限界エリアP3内であるか否かが判別される。このQ9の判別でYESのときは、衝突回避は不可能であるとして、Q10において、衝突に備えて、プリクラッシュセーフティが作動される(シートベルトを引き戻し操作して、乗員をシートバックに押しつける)。
【0031】
前記Q9の判別でNOのときは、Q11において、Q8で算出された障害物の位置が、判断エリアP2内であるか否かが判別される。このQ11の判別でYESのときは、Q12において、既述のように衝突警報と衝突回避の制御との少なくとも一方が行われる。
【0032】
前記Q11の判別でNOのときは、Q13において、Q8で算出された障害物の位置が、認知エリアP1内であるか否かが判別される。このQ13の判別でYESのときは、Q14において、運転者の視線を障害物に向かわせる誘導制御が行われる。Q13の判別でNOのときは、リターンされる。なお、認知エリアP1については、検出した障害物毎に、例えば、障害物の種類(例えば、歩行者、2輪車、他車両、固定物等)と、車両Vへの接近速度と、エリアの内側へ向かう方向へ移動しているのか外側へ向かう方向へ移動しているのかというエリアへの接近速度(待避速度はマイナスの接近速度とみる)と、に基づいて障害物毎に危険度合を判定して、ある一定以上の危険度のある障害物のみを危険障害物と最終判断して、この危険障害物の位置のみを、Q13の判別で用いる障害物の位置とするようにしてもよい(運転者に認識させるべき障害物の数があまり多くなり過ぎないようにする)。また、視線誘導する障害物の数を、危険度の高い方から優先的に所定数(例えば2個)以下に限定する等して、運転者の負担が大きくならないようにすることもできる。
【0033】
前記Q2での認知エリアP1の作成の詳細が、図6に示される。すなわち、まずQ21において、車速Vが検出される。この後Q22において、認知エリアP1の前後長が、「前後長=K1+V・k1」として算出される。すなわち、K1はベース値であり、k1は車速Vに比例した比例項となる(ただし、K1>0、k1>0)。このように、認知エリアP1の前後長(車両Vからの前方延長長さ)は、車速Vが増大するほど大きくなるように設定される。
【0034】
Q22の後、Q23において、認知エリアP1の左右長が、「左右長=W1−V・w1」として算出される。すなわち、W1はベース値であり、w1は車速Vに比例した比例項となる(ただし、W1>0、w1>0)。このように、認知エリアP1の左右長は、車速Vの増大するほど小さくされる(縮小)。
【0035】
Q23の後、Q24において、認知エリアP1の左右長が補正される。このQ23での補正は、例えば次のような内容とされる。まず、地図データ4に基づいて得られる道路環境に応じて補正される。この道路環境としては、歩道を有しない一般道を基本(補正なし)として、歩道を有する一般道の場合は左右長が短くなるように補正され、また高速道路ではさらにより左右長が短くなるように補正される。また、乗員心理状況に応じて補正される。例えば心拍数が所定値以上のときは緊張状態であるとして、またまばたき数の少ないときは眠気をもよおしていて注意力散漫となっているときであるとして、それぞれ左右長を大きくする方向へ補正される(心理状況を検出するセンサは図3のセンサ群S中に含まれる)。先行車両(先行他車両)の有無に応じて補正され、先行車両が存在しないときは補正なしとされ、先行車両が存在するときは、先行車両に視線が向きがちになることから、左右長が長くなる方向に補正される。減速状況に応じて補正され、車両Vが減速しているときは左右長が小さくなる方向に補正される(その他のときは補正なし)。周囲の明るさに応じて補正され、暗いほど左右長が長くなるように補正される(明るさセンサは図3のセンサ群Sに含まれる)。ウインカの操作状況に応じて補正され、ウインカの作動状態では左右長が大きくなるように補正される(ウインカが作動していないときは補正なし)。地図データ4に基づいて得られる走行地域に応じて補正され、郊外のように歩行者が少なくて交通量も少ない地域では左右長が短くなるように補正され、市街地のように交通量が多くかつ歩行者も多い地域では、左右長が長くなるように補正される。
【0036】
Q24の後、Q25において、Q21の〜Q24の処理によって設定、補正された前後長および左右長を有するように認知エリアP1が設定される。Q25の後、Q26において、後述するように認知エリアP1の補正が行われる。この後、Q27において、夜間であるか否かが判別される(例えばヘッドライトの点灯有無や照度センサの出力に基づいて判断)。このQ27の判別でNOとき(昼間のとき)は、Q28において、運転者の視線が検出される。この後、Q29において、運転者が見ていない方向についてのみ左右長を拡大する(例えば2割拡大で、例えば図12の状態)。Q27の判別でYESのとき、つまり夜間のときは、Q29での認知エリアP1の拡大は行われないが、これは、夜間のときは運転者の視認距離範囲に限界があることから、拡大を行わないようにしたものである。なお、夜間のときも、拡大割合を昼間のときよりも小さくして拡大するようにしてもよい。
【0037】
Q29後、あるいはQ27の判別でNOのときは、Q30において、地図データ4に基づいて、交差点付近(交差点手前から交差点内)であるか否かが判別される。このQ30の判別でYESのときは、Q31において、認知エリアP1の前後長が縮小される。この後、Q32において、認知エリアP1の左右長が拡大される(例えば図13図14の状態)。
【0038】
Q32の後、Q33において、目的地への経路誘導中であるか否かが判別される。このQ33の判別でYESのときは、Q34において、交差点を右折あるいは左折するときであるか否かが判別される。このQ34の判別でYESのときは、Q35において、交差点での進行方向(曲がり方向)について認知エリアP1の左右長を拡大する。この後、Q36において、曲がり方向とは逆方向についても、認知エリアP1の左右長が拡大される。Q36での拡大処理された後の認知エリアP1の状態が、例えば図14の状態となる。
【0039】
Q36の後、Q30の判別でNOのとき、Q33の判別でNOのとき、Q34の判別でNOのときは、それぞれリターンされる。なお、図12図14については、後述する。
【0040】
図6のQ26における認知エリアの補正の詳細が、図7に示される。すなわち、Q41において、車両Vの周囲の明るさが検出された後、Q42において、周囲が暗いか否か(照度が所定値以下であるか否か)が判断される。このQ42の判別でYESのときは、Q43において、認知エリアP1の前後長が拡大され(例えば2割拡大)、左右長は不変とされる。
【0041】
Q43の後、あるいはQ42の判別でNOのときは、Q44において、天候つまり視界の善し悪しの程度が検出される。この後、Q45において、視界の悪くなる悪天候(例えば霧、雨)であるか否かが判別される(例えばワイパの作動状態、フォグランプの作動状態、あるいは狭い地域毎の天候情報等から判断)。このQ45の判別でYESのときは、Q46において、認知エリアP1の前後長が拡大され(例えば1割拡大)、また左右長は不変とされる。
【0042】
Q46の後、あるいはQ45の判別でNOのときは、Q47において、車両重量が検出される。この後、Q48において、車両重量が所定値以上となる重量大であるか否かが判別される。このQ48の判別でYESのときは、Q49において、認知エリアP1の前後長が拡大され(例えば1割拡大)、また左右長も拡大される(例えば1割拡大)。
【0043】
Q49の後、あるいはQ48の判別でNOのときは、Q50において、路面状態、つまり路面の滑り易さが検出される(例えばABS制御やトラクション制御で検出されるタイヤのスリップ値に基づいて判断)。この後、Q51において、路面状態が悪化状態であるか否か(滑り易い状態であるか否か)が判別される。このQ51の判別でYESのときは、Q52において、認知エリアP1の前後長が拡大され(例えば3割拡大)、また左右長も拡大される(例えば2割拡大)。
【0044】
Q52後、あるいはQ51の判別でNOのときは、Q53において、車内騒音が検出される。この後、Q54において、車内騒音が所定値以上となる騒音大であるか否かが判別される。このQ54の判別でYESのときは、Q55において、認知エリアP1の前後長が拡大され(例えば1割拡大)また左右長も拡大される(例えば0.5割拡大)。
【0045】
Q55の後、あるいはQ54の判別でNOのときは、Q56において、アクセルの操作状態が検出される。この後、Q57において、アクセルが踏み込み操作されているか否かが判別される。このQ57の判別でYESのときは、ブレーキペダル操作する際に遅れを伴う状況であるとして、Q58において、認知エリアP1の前後長が拡大され(例えば2割拡大)、また左右長は不変とされる。Q58後、あるいはQ57の判別でNOのときは、リターンされる。
【0046】
以上述べた周囲の明るさと天候は、乗員による障害物の発見しにくさの要因を考慮した補正となる。また、車両重量と路面状態は、車両の止まりにくさや曲がりにくさ等、車両操作系を操作したときの車両の追従性の相違を考慮した補正となる。さらに、車内騒音とアクセル操作状況は、乗員の反応遅れの可能性を考慮した補正となる。また、最終的な補正後の前後長と左右長についてそれぞれ、下限値と上限値とを設定するようにしてもよく、あるいは認知エリアP1の面積についても上限値と下限値を設定するようにしてもよい。
【0047】
図5のQ3での判断エリアP2の作成の詳細が、図8に示される。すなわち、まずQ61において、車速Vが検出される。この後Q62において、判断エリアP2の前後長が、「前後長=K2+V・k2」として算出される。すなわち、K2はベース値であり、k2は車速Vに比例した比例項となる(ただし、K1>K2>0、k1>k2>0)。このように、判断エリアP2の前後長は、車速Vが増大するほど大きくなるように設定される。ただし、k1>k2に設定してあることから、判断エリアP2の前後長拡大割合は、認知エリアP1の前後長拡大割合よりも小さくされる。
【0048】
Q62の後、Q63において、判断エリアP2の左右長が、「左右長=W2−V・w2」として算出される。すなわち、W2はベース値であり、w2は車速Vに比例した比例項となる。ただし、「W1−V・w1」(認知エリアP1の左右長)>W2>0かつw2=0とされるか、または、k1/k2>w1/w2、W2>0、w2>0とされる。これにより、判断エリアP2は、が認知エリアP1の内側(狭い面積)となるように設定される。このように、判断エリアP2の左右長は、不変かあるいは車速の増大に応じて縮小されるが、縮小度合は、認知エリアP1の左右長の縮小度合よりも小さくされる。
【0049】
Q63の後、Q64において、Q62ので設定された前後長、Q63で設定された左右長を有するように、判断エリアP2が設定される。Q64の後、Q65において、後述するように判断エリアP2の補正が行われる。この後、Q66において、地図データ4に基づいて、交差点付近(交差点手前から交差点内)であるか否かが判別される。このQ66の判別でYESのときは、Q67において、判断エリアP2の前後長が縮小される(縮小度合は、図6のQ31における認知エリアP1の縮小度合よりも小さくされる)。この後、Q68において、判断エリアP2の左右長が拡大される(拡大度合は、図6のQ32における認知エリアP1の拡大度合よりも小さくされる)。
【0050】
Q68の後、Q69において、目的地への経路誘導中であるか否かが判別される。このQ69の判別でYESのときは、Q70において、交差点を右折あるいは左折するときであるか否かが判別される。このQ70の判別でYESのときは、Q71において、交差点での進行方向(曲がり方向)について判断エリアP2の左右長が拡大される(拡大度合は、図6のQ35における認知エリアP1の拡大度合よりも小さくされる)。この後、Q72において、曲がり方向とは逆方向についても、判断エリアP2の左右長が拡大される(拡大度合は、図6のQ36における認知エリアP1の拡大度合よりも小さくされる)。
【0051】
Q72の後、Q66の判別でNOのとき、Q69の判別でNOのとき、Q70の判別でNOのときは、それぞれリターンされる。
【0052】
図8のQ65における判断エリアの補正の詳細が、図9に示される。この図9で示すQ81〜Q92の処理は、図7のQ47〜Q58に対応しているので、図7と相違する部分についてのみ説明する。まず、図7のQ55に対応したQ89では、前後長の拡大割合が認知エリアP1についての拡大割合よりも小さくされ、また左右長については不変とされる。また、図7のQ58に対応したQ92では、前後長の拡大割合が認知エリアP1についての拡大割合よりも小さくされる。
【0053】
なお、判断エリアP2についても、最終的な補正後の前後長と左右長についてそれぞれ、下限値と上限値とを設定するようにしてもよく、あるいは判断エリアP2の面積についても上限値と下限値を設定するようにしてもよい。
【0054】
図10は、認知エリアP1の変更例を分かりやすく示すものである。図10中、実線は、補正前のベース状態である。図10中一点鎖線は、運転者が視線を向けていない方向へ左右長を拡大するときの拡大例を示す(左右いずれか一方向への拡大となる)。また、図10中破線は、交差点付近において、前後長を縮小すると共に、左右長を左右両方向に等しく拡大した例を示す。
【0055】
認知エリアP1の変更例について、図11図14を参照しつつさらに説明する。まず、図11は、ベース状態である。図12は、運転者の視線が右方を向いているために、左方へのみ左右長を拡大した例を示す(前後長はベース状態から不変)。また、図13は、図14は、交差点付近において、前後長をベース状態から縮小すると共に、左右長を拡大してある。特に、図13の場合は、左方については、過去の事故データ等によって危険性の高い方向であるとして、左方への拡大度合を大きく、かつ右方への拡大度合を小さくしてある。また、図14では、曲がり方向となる左方へは運転者が注意する一方、曲がり方向とは反対方向となる右方へは運転者の注意が行き届かないということから、右方への拡大割合を大きく、かつ左方への拡大割合を中程度としたものである。
【0056】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。車両としては、自動車に限らず、二輪車、電車等であってもよい。認知エリアP1の拡大、縮小に応じて、判断エリアP2を認知エリアP1と同一方向に拡大、縮小するようにしてもよく、この場合、判断エリアP2の拡縮割合は認知エリアP1の拡縮割合よりも小さくするのが、衝突警報や衝突回避制御を安定的に行う等の上で好ましい。また、判断エリアP2は、車速に応じてのみ変更可能で、その他の条件では変更しないようにしてもよい。認知エリアP1、判断エリアP2共に、車速に応じた変更を行わないようにすることもできる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば自動車の運転支援の上で好ましいものとなる。
【符号の説明】
【0058】
V:車両
P1:認知エリア
P2:判断エリア
P3:物理限界エリア
1:レーダ(障害物検出用)
2:カメラ(障害物検出用)
3:GPS
4:地図データ
5:視線監視カメラ
6:警報装置
7:コントローラ
8:車速センサ
9:視線誘導装置
10:車両制御装置(衝突回避、衝突対応用)
図1
図2
図3
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図5
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図14