【実施例】
【0033】
図1から
図5において、本例の軸受機構1は、円筒状の内周面2を有したハウジング3と、ハウジング3内に挿着されていると共に円筒状の外周面4を有したラック軸5と、ハウジング3の内周面2とラック軸5の外周面4との間に介在された滑り軸受6とを具備している。
【0034】
ハウジング3は、その内周面2に円環状の係止溝11を有しており、係止溝11は、ハウジング3の軸心Xに沿う方向である軸方向Aに対して直交する円環状の一対の壁面12及び13と、ハウジング3の軸心X周りの方向である円周方向Bに伸びる円環状の壁面14とで規定されている。
【0035】
軸方向Aに移動自在なラック軸5は、一方ではステアリングホイールに、他方では車輪に夫々連結機構を介して連結されており、斯かる連結機構は知られているので説明を省く。
【0036】
円筒状の内周面2を有すると共に内周面2に係止溝11を有したハウジング3の当該内周面2と、ハウジング3内に挿着されると共に円筒状の外周面4を有したラック軸5の当該外周面4との間に介在される滑り軸受6は、円筒状の軸受本体21と、軸受本体21の一方の端面22から軸方向Aであって軸受本体21の他方の端面23に向かって伸びて軸受本体21に設けられた六個のスリット24と、軸受本体21の他方の端面23から軸方向Aであって軸受本体21の一方の端面22に向かって伸びて軸受本体21に設けられた六個のスリット25と、軸受本体21の内側に設けられていると共にスリット24及び25により円周方向Bにおいて互いに離間した複数、本例では十二個の摺動面としての円弧状の凹面26と、軸受本体21の外面27に設けられた少なくとも一つ、本例では二つの装着溝28と、軸受本体21の外面27から突出すると共に軸受本体21を縮径させるように装着溝28の夫々に嵌装された弾性リング29と、ハウジング3の係止溝11に軸方向Aにおいて締め代をもって配されていると共にハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を規制する規制手段30とを具備している。
【0037】
軸受本体21及び凹面26は、合成樹脂、例えばポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性合成樹脂から一体成形されたものである。
【0038】
夫々が実質的にラック軸5の外周面4の曲率と同一の曲率を有する十二個の凹面26は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち30°の角度間隔に配されており、各凹面26は、軸受本体21の両端面22及び23から軸方向Aにおいて所定距離だけ離れた位置間であって軸方向Aにおいて二つの装着溝28を越えて軸受本体21の内側に設けられており、しかも、各凹面26の軸方向Aの中央部は、軸方向Aにおいて二つの装着溝28間に位置している。
【0039】
軸受本体21の内側は、凹面26に加えて、端面22から凹面26の軸方向Aの一端31まで伸びると共に徐々に縮径したテーパ面32と、端面23から凹面26の軸方向Aの他端33まで伸びると共に徐々に縮径したテーパ面34と、端面22から軸方向Aに伸びて各スリット25の軸方向Aの一端に接続された溝35と、端面23から軸方向Aに伸びて各スリット24の軸方向Aの一端に接続された溝36とを具備しており、各凹面26は、端面22及び23における軸受本体21の内径よりも小さい内径を有しており、端面22における軸受本体21は、端面23における軸受本体21の内径よりも小さい内径を有している。
【0040】
端面22側において開口する各スリット24は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち60°の角度間隔に配されていると共に、軸方向Aにおいて端面23側の装着溝28を超えて伸びており、端面23側において開口すると共に円周方向Bにおいてスリット24間に配された各スリット25もまた、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち60°の角度間隔に配されていると共に、軸方向Aにおいて端面22側の装着溝28を超えて伸びており、斯かるスリット24及び25は、円周方向Bにおいて互いに等間隔、即ち30°の角度間隔であって円周方向Bにおいて交互に配されている。
【0041】
スリット24及び25の夫々は、一個でもよいが、本例のように構成されていると、軸受本体21の縮径を均等に且つ容易に得ることができるので好ましい。
【0042】
軸受本体21の外面27に軸方向Aにおいて互いに離間されて設けられている二つの装着溝28は、軸受本体21の外面27側での環状の三つの突起37、38及び39により規定されており、突起37、38及び39における軸受本体21の外面27の径は、夫々互いに等しい一方、ハウジング3の内周面2の径より小さい。
【0043】
本例では、ハウジング3に対して自由端部となる部位、即ちハウジング3に係合しない端面23側の突起39の部位での軸受本体21の径方向の最大厚みTの0.3%から10%の幅(厚み)Dをもったクリアランス40がハウジング3の内周面2と軸受本体21の自由端部となる部位での外面27との間に生じるようになっており、これにより、ハウジング3の内周面2が軸受本体21の突起39の部位での外面27に接触することを回避できる上に、ハウジング3をラック軸5に対して正規の位置に確実に保持できる。
【0044】
Oリングからなる各弾性リング29は、ハウジング3の内周面2に嵌装されていない一方、装着溝28に装着されている状態で、ハウジング3の内周面2の径よりも大きい外径を有し、ハウジング3の内周面2に嵌装されていない上に、装着溝28にも装着されていない状態で、装着溝28の底面41の径よりも小さい内径を有しており、而して、軸受本体21の突起37、38及び39における外面27から突出すると共に軸受本体21を縮径させるように装着溝28に嵌装されている弾性リング29の夫々は、嵌装される装着溝28の容積よりも大きな体積を有しており、締め付けられて変形して隙間なしに装着溝28に充填されても部分的に外面27から突出するようになっている。
【0045】
各弾性リング29は、その外周面で締め代をもってハウジング3の内周面2に嵌装されており、軸受本体21は、その外面27とハウジング3の内周面2との間にクリアランス40をもってハウジング3の内周面2に配されていると共に凹面26を介してラック軸5を弾性リング29の弾性力をもって締め付けてラック軸5の外周面4に装着されている。
【0046】
規制手段30は、軸受本体21の端面22側の外面27に一体的に設けられていると共にハウジング3の内周面2の係止溝11に配された複数個、本例では六個の鍔42と、各鍔42に一体的に設けられた円柱状の突起43とを具備している。
【0047】
スリット24を間にして円周方向Bに配列された六個の扇状の鍔42の夫々は、当該鍔42の軸方向Aの一方の扇状の端面44及び他方の扇状の端面45のうちの少なくとも一方、本例では端面22と面一の端面44に凹所46を有している。
【0048】
鍔42の夫々は、壁面12に隙間47をもって対面している端面44と、壁面13に接触している端面45とに加えて、壁面14に円弧状の隙間48をもって対面すると共に円周方向Bに伸びる円弧状の外周面49を有している。
【0049】
凹所46の夫々は、鍔42の端面44と外周面49とに開口して端面44において鍔42に形成されている。
【0050】
各突起43は、対応の凹所46において鍔42に一体的に設けられており、鍔42の端面44において当該鍔42に一体的に設けられた突起43は、隙間47を維持するべく、若干の軸方向Aの弾性的圧縮変形をもってその軸方向Aの先端面50で壁面12に接触している。
【0051】
こうして、各鍔42は、対応の突起43の若干の軸方向Aの弾性的圧縮変形をもって当該突起43と協働してハウジング3の内周面2の係止溝11に軸方向Aの締め代をもって配されており、而して、規制手段30は、鍔42と弾性的圧縮変形された突起43とによりハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を規制するようになっている。
【0052】
以上の軸受機構1では、軸受本体21の外面27の装着溝28に弾性リング29を嵌装することにより、スリット24及び25を有する軸受本体21は、弾性リング29の弾性圧縮力により縮径され、軸受本体21が縮径された状態の滑り軸受6はハウジング3内に配置され、その後、軸受本体21の内側にラック軸5を挿入することにより、軸受本体21は弾性リング29の弾性圧縮力に抗してスリット24により拡径すると共にラック軸5はその外周面4で弾性リング29の弾性圧縮力をもって凹面26により締め付けられることになる一方、各弾性リング29は、その外周面で締め代をもってハウジング3の内周面2に接触されることになり、しかも、各突起43の軸方向Aの弾性的圧縮変形により鍔42と突起43とは軸方向Aにおいて壁面12及び壁面13に対して隙間なしに弾性的な締め代をもって係止溝11に配されることになる。
【0053】
したがって、凹面26とラック軸5との間のクリアランスは零となり、軸受本体21とラック軸5との間の衝突をなくし得、結果として運転者に不快音として伝達される衝突音の発生はなく、軸受本体21の装着溝28に嵌装された弾性リング29はハウジング3の内周面2に対して締め代をもっているので、弾性リング29は弾性変形し、当該弾性変形によりハウジング3の内径の真円度等の寸法誤差を吸収でき、しかも、規制手段30の鍔42と突起43とがハウジング3の係止溝11に弾性的な締め代をもって配されると共にハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を規制するために、弾性リング29とハウジング3の内周面2との間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受6の凹面26とラック軸5の外周面4との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸5の軸方向Aの直動開始時に滑り軸受6がラック軸5と共にハウジング3に対して軸方向Aに直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受6をハウジング3に対して保持でき、ラック軸5の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受6に対して軸方向Aにラック軸5が直動されることになり、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる上に、突起43が凹所46において鍔42に一体的に設けられているために、隙間47の軸方向Aの長さが僅かであっても、突起43の軸方向Aの弾性的圧縮変形を確実に得ることができ、ハウジング3に対する滑り軸受6の軸方向Aの弾性的直動阻止を効果的に得ることができる。
【0054】
上記の規制手段30では、突起43が端面44側に設けられているが、これに代えて
図6に示すように、突起61を鍔42の端面45の夫々に一体的に設けてもよい。即ち、
図6に示す規制手段30において、各突起61は、対応の鍔42の端面45において当該鍔42に一体的に設けられており、端面22と面一の鍔42の端面44は、壁面12に接触しており、鍔42の端面45は、壁面13に隙間62をもって対面しており、各鍔42の端面45において当該鍔42に一体的に設けられた突起61は、隙間62を維持するべく、若干の軸方向Aの弾性的圧縮変形をもってその軸方向Aの先端面63で壁面13に接触している。
【0055】
図6に示す軸受機構1でも、
図1から
図5に示す軸受機構1と同様の効果を得ることができ、しかも、突起61の軸方向Aの弾性的圧縮変形により鍔42と突起61とは軸方向Aにおいて壁面12及び13に対して隙間なしに弾性的な締め代をもって係止溝11に配されている結果、ハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を規制することができ、弾性リング29とハウジング3の内周面2との間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受6の凹面26とラック軸5の外周面4との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸5の軸方向Aの直動開始時に滑り軸受6がラック軸5と共にハウジング3に対して軸方向Aに直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受6をハウジング3に対して保持でき、ラック軸5の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受6に対して軸方向Aにラック軸5が直動されることになり、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる。
【0056】
図6に示す軸受機構1の規制手段30でも、端面45に凹所46と同様の凹所を設けて、斯かる凹所において突起61を鍔42に一体的に設けてもよく、この場合には、
図1から
図5に示す軸受機構1と同様に、隙間62の軸方向Aの長さが僅かであっても、突起61の軸方向Aの弾性的圧縮変形を確実に得ることができ、ハウジング3に対する滑り軸受6の軸方向Aの弾性的直動阻止を効果的に得ることができる。
【0057】
以上の軸受機構1の規制手段30では、突起を鍔42の端面44側又は端面45側に設けたが、これに代えて
図7から
図9に示すように、突起43を鍔42の端面44において、そして、突起61を鍔42の端面45において設けてもよい。即ち、
図7から
図9に示す規制手段30において、各突起43は、対応の凹所46において鍔42に一体的に設けられており、鍔42の端面44において当該鍔42に一体的に設けられた突起43は、隙間47を維持するべく、若干の軸方向Aの弾性的圧縮変形をもってその軸方向Aの先端面50で壁面12に接触しており、各突起61は、対応の鍔42の端面45において当該鍔42に一体的に設けられており、各鍔42の端面45において当該鍔42に一体的に設けられた突起61は、隙間62を維持するべく、若干の軸方向Aの弾性的圧縮変形をもってその軸方向Aの先端面63で壁面13に接触している。
【0058】
図7から
図9に示す軸受機構1でも、
図1から
図5及び
図6に示す軸受機構1と同様の効果を得ることができ、しかも、突起43及び61の軸方向Aの弾性的圧縮変形により鍔42と突起43及び61とは軸方向Aにおいて壁面12及び13に対して隙間なしに弾性的な締め代をもって係止溝11に配されている結果、ハウジング3に対する軸受本体21の軸方向Aの移動を規制することができ、弾性リング29とハウジング3の内周面2との間の静止摩擦抵抗よりも滑り軸受6の凹面26とラック軸5の外周面4との間の静止摩擦抵抗が大きい場合でも、ラック軸5の軸方向Aの直動開始時に滑り軸受6がラック軸5と共にハウジング3に対して軸方向Aに直動されることを弾性的に阻止できて滑り軸受6をハウジング3に対して保持でき、ラック軸5の直動開始時でも直動中と同様に滑り軸受6に対して軸方向Aにラック軸5が直動されることになり、ハンドルでの操舵感覚を向上できる上に、フラッター抑制効果を十分に維持できる上に、隙間47及び62の軸方向Aの長さが僅かであっても、突起43及び61の両方の軸方向Aの弾性的圧縮変形を得ることができ、ハウジング3に対する滑り軸受6の軸方向Aの弾性的直動阻止を効果的に得ることができる。
【0059】
上記では、鍔42の夫々の円弧状の外周面49を、壁面14に円弧状の隙間48をもって対面させたが、これに代えて、鍔42の夫々の円弧状の外周面49を、壁面14に接触させてもよい。即ち、鍔42は、壁面14に接触していると共に円周方向Bに伸びる外周面49を有していてもよい。
【0060】
また、上記では、各摺動面を凹面26で構成したが、これに代えて、各摺動面を円弧状の突面又は平坦面で構成してもよい。
【0061】
更に上記では、各鍔42に一個の突起43及び61のうちの少なくとも一方の突起を設けたが、これに代えて、各鍔42に複数個の突起43及び61のうちの少なくとも一方の複数個の突起を設けてもよく、この場合、複数個の突起43及び61のうちの少なくとも一方の複数個の突起は、円周方向Bにおいて等間隔に配されているとよい。