特許第5953735号(P5953735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • 5953735-プラズマ光源 図000002
  • 5953735-プラズマ光源 図000003
  • 5953735-プラズマ光源 図000004
  • 5953735-プラズマ光源 図000005
  • 5953735-プラズマ光源 図000006
  • 5953735-プラズマ光源 図000007
  • 5953735-プラズマ光源 図000008
  • 5953735-プラズマ光源 図000009
  • 5953735-プラズマ光源 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953735
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】プラズマ光源
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20160707BHJP
   H05G 2/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   G03F7/20 503
   H05G2/00 K
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-279552(P2011-279552)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-131604(P2013-131604A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】桑原 一
【審査官】 松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−147231(JP,A)
【文献】 米国特許第07115887(US,B1)
【文献】 Daisuke Nunotani et al.,"Plasma Dynamics Study on Counter-facing Plasma Focus System for Repetitive and E?cient EUV source",Research Report NIFS-PROC Series,2011年 4月28日,NIFS-PROC 87,pp.12-15
【文献】 桑原 一,”高変換効率極端紫外線光源の研究開発”,IHI技報,2012年,Vol.52,No.4,pp.56-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20−7/24、9/00−9/02
H05G 2/00
Science Direct
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1及び第2の同軸状電極と、前記第1及び第2の同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、前記第1及び第2の同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、前記第1及び第2の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記第1及び第2の同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、中心電極とガイド電極の間に位置しその間を絶縁するリング状の絶縁体とからなり、
前記第1及び第2の同軸状電極の各中心電極は、前記同一の軸線上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置し、
前記第2の同軸状電極は、前記第1の同軸状電極に対して電気的浮動状態であるが、前記第1及び第2の同軸状電極間に単一のプラズマが形成されると、前記第1及び第2の同軸状電極が導通状態となり、前記第1及び第2の同軸状電極を含む構成において整合がとれるように前記第1の同軸状電極から前記第2の同軸状電極に電荷が移動し、前記第2の同軸状電極の電位は前記第1及び第2の同軸状電極の中心電極及びガイド電極を順方向に電流が流れるように自然に定まる、ことを特徴とするプラズマ光源。
【請求項2】
前記第2の同軸状電極は、前記第1の同軸状電極に対して電気的に絶縁されている、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項3】
前記放電環境保持装置は、第1及び第2の同軸状電極を保持するチャンバーを含み、前記第2の同軸状電極と前記チャンバーの間に絶縁部材が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項4】
前記電圧印加装置は、前記第1及び第2の同軸状電極の一方の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記第1及び第2の同軸状電極の他方の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項5】
前記放電環境保持装置は、放電の発生を促進する放電発生アシストガスを供給するガス供給手段を含むことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV放射のためのプラズマ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代半導体の微細加工のために極端紫外光源を用いるリソグラフィが期待されている。リソグラフィとは回路パターンの描かれたマスクを通して光やビームをシリコン基盤上に縮小投影し、レジスト材料を感光させることで電子回路を形成する技術である。光リソグラフィで形成される回路の最小加工寸法は基本的には光源の波長に依存している。従って、次世代の半導体開発には光源の短波長化が必須であり、この光源開発に向けた研究が進められている。
【0003】
次世代リソグラフィ光源として最も有力視されているのが、極端紫外光源(EUV:Extreme Ultra Violet)であり、およそ1〜100nmの波長領域の光を意味する。この領域の光はあらゆる物質に対し吸収率が高く、レンズ等の透過型光学系を利用することができないので、反射型光学系を用いることになる。また極端紫外光領域の光学系は非常に開発が困難で、限られた波長にしか反射特性を示さない。
【0004】
現在、13.5nmに感度を有するMo/Si多層膜反射鏡が開発されており、この波長の光と反射鏡を組み合わせたリソグラフィ技術が開発されれば30nm以下の加工寸法を実現できると予測されている。さらなる微細加工技術の実現のために、波長13.5nmのリソグラフィ光源の開発が急務であり、高エネルギー密度プラズマからの輻射光が注目されている。なお、プラズマ光源については、特許文献1に記載されている。
【0005】
光源プラズマ生成はレーザー照射(LPP:Laser Produced Plasma)方式とパルスパワー技術によって駆動されるガス放電(DPP:Discharge Produced Plasma)方式に大別できる。LPP方式のEUV光源については、特許文献2に記載されている。
【0006】
EUVリソグラフィ光源には、高い平均出力、微小な光源サイズ、飛散粒子(デブリ)が少ないこと等が要求される。現状では、EUV発光量が要求出力に対して極めて低く、高出力化が大きな課題の一つであるが、一方で高出力化のために入力エネルギーを大きくすると熱負荷によるダメージがプラズマ生成装置や光学系の寿命の低下を招いてしまう。従って、高EUV出力と低い熱負荷の双方を満たすためには、高いエネルギー変換効率が必要不可欠である。
【0007】
プラズマ形成初期には加熱や電離に多くのエネルギーを消費するうえに、EUVを放射するような高温高密度状態のプラズマは一般的に急速に膨張してしまうため、放射持続時間τが極端に短い。従って、変換効率を改善するためには、プラズマをEUV放射のために適した高温高密度状態で長時間(μsecオーダーで)維持することが重要になる。
【0008】
SnやLi等の常温固体の媒体はスペクトル変換効率が高い反面、プラズマ生成に溶融、蒸発等の相変化を伴うため、中性粒子等のデブリ(放電に伴う派生物)による装置内汚染の影響が大きくなる。そのため、ターゲット供給、回収システム強化も同様に要求される。
【0009】
現在の一般的なEUVプラズマ光源の放射時間は100nsec程度であり出力が極端に足りない。産業応用のため高変換効率と高平均出力を両立させる為には1ショットで数μsecのEUV放射時間を達成する必要がある。つまり、高い変換効率を持つプラズマ光源を開発するためには、それぞれのターゲットに適した温度密度状態のプラズマを数μsec(少なくとも1μsec以上)拘束し、安定したEUV放射を達成する必要がある。
【0010】
さらに、従来のキャピラリー放電では、プラズマがキャピラリー内に閉じ込められてしまうため、有効な放射立体角が小さいという欠点もあった。
【0011】
そこで、本願の発明者らは、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができ、構成機器の熱負荷によるダメージが小さく、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくでき、プラズマ媒体を連続して供給することができることを目的として、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」(特許文献3)を創案した。
【0012】
図1は、上記プラズマ光源の実施形態図であり、対称面51に対して対向配置された1対の同軸状電極50を備え、1対の同軸状電極50にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、この面状放電により各同軸状電極50の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成することにより、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−226244号公報、「極端紫外光源及び半導体露光装置」
【特許文献2】特開2011−54376号公報、「LPP方式のEUV光源とその発生方法」
【特許文献3】特開2010−147231号公報、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記プラズマ光源においては、同軸状電極における電位の制御が困難であり、したがって各同軸状電極50間の面状放電の管状放電への繋ぎ換えの制御も困難であった。
【0015】
本発明は、上述した問題を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、1対の同軸状電極において面状放電を発生させ、この面状放電を各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するプラズマ光源において、面状放電から管状放電への繋ぎ換えを容易にするようなプラズマ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、対向配置された第1及び第2の同軸状電極と、前記第1及び第2の同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、前記第1及び第2の同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、前記第1及び第2の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記第2の同軸状電極は、前記第1の同軸状電極に対して電気的浮動状態である、ことを特徴とするプラズマ光源が提供される。
【0017】
前記第2の同軸状電極は、前記第1の同軸状電極に対して電気的に絶縁されている、ことが好ましい。
【0018】
前記放電環境保持装置は、第1及び第2の同軸状電極を保持するチャンバーを含み、前記第2の同軸状電極と前記チャンバーの間に絶縁部材が設けられている、ことが好ましい。
【0019】
前記第1及び第2の同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極を一定の間隔を隔てて囲む管状のガイド電極と、中心電極とガイド電極の間に位置しその間を絶縁するリング状の絶縁体とからなり、
前記第1及び第2の同軸状電極の各中心電極は、前記同一の軸線上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する、ことが好ましい。
【0020】
前記電圧印加装置は、前記第1及び第2の同軸状電極の一方の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記第1及び第2の同軸状電極の他方の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことが好ましい。
【0021】
前記放電環境保持装置は、放電の発生を促進する放電発生アシストガスを供給するガス供給手段を含む、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
上記本発明の装置によれば、対向配置された1対の同軸状電極を備え、1対の同軸状電極にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、該面状放電により各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで前記面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えて前記プラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0023】
また、従来のキャピラリー放電や真空放電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマが形成され、かつエネルギー変換効率を大幅に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0024】
また、1対の同軸状電極の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマが形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0025】
さらに、面状放電から管状放電への電流経路の繋ぎ替えを容易にすることにより、管状放電を確実に形成することができる。
【0026】
さらにまた、ガス供給部によって放電アシストガスを供給することにより、面状放電から管状放電への電流経路の繋ぎ替えを確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来のプラズマ光源の実施形態図である。
図2】本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
図3】本発明によるプラズマ光源の動作説明図である。
図4】変形例を示す図である。
図5】第1比較例を示す図である。
図6】第1比較例における電位分布を示す図である。
図7】第2比較例を示す図である。
図8】第2比較例における電位分布を示す図である。
図9】第3比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0029】
図2は、本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
【0030】
この図において、本発明のプラズマ光源は、第1及び第2の同軸状電極10、10´、チャンバー20、及び電圧印加装置30を備える。
【0031】
第1及び第2の同軸状電極10、10´は、対称面1を中心として対向するように、チャンバー20に配置されている。
【0032】
この例では、第1の同軸状電極10は、チャンバー20に直接に取り付けられ、チャンバー20と電気的に接続している。これに対して、第2の同軸状電極10´は、リング状の絶縁体18を介してチャンバー20に取り付けられ、チャンバー20とは電気的に絶縁されている。
【0033】
第1の同軸状電極10は、棒状の中心電極12、管状のガイド電極14及びリング状の絶縁体16からなる。同様に、第2の同軸状電極10´は、棒状の中心電極12´、管状のガイド電極14´及びリング状の絶縁体16´からなる。
【0034】
棒状の中心電極12、12´は、単一の軸線Z−Z上に延びる導電性の電極である。
【0035】
この例において、中心電極12、12´の対称面1に対向する端面は円弧状になっている。なお、この構成は必須ではなく、端面に凹穴を設け、後述する面状放電2と管状放電4を安定化させるようにしてもよく、或いは平面でもよい。
【0036】
管状のガイド電極14、14´は、中心電極12、12´を一定の間隔を隔てて囲み、その間にプラズマ媒体を保有するようになっている。プラズマ媒体は、Liのガスであることが好ましいが、Xe,Snのガスであってもよい。また、ガイド電極14、14´の対称面1に対向する端面は、円弧状でも平面でもよい。
【0037】
リング状の絶縁体16、16´は、中心電極12、12´とガイド電極14、14´の間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、中心電極12、12´とガイド電極14、14´の間を電気的に絶縁する。
【0038】
絶縁体16、16´において、中心電極12、12´とガイド電極14、14´の間の表面には、中心電極12、12´とガイド電極14、14´との間の面状放電2によってLiがガスを生成するようにLiまたはLi化合物の薄膜17が形成されている。
【0039】
なお、絶縁体16、16´の形状はこの例に限定されず、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0040】
リング状の絶縁体18は、第2の同軸状電極10´のガイド電極14´とチャンバー20間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、ガイド電極14´とチャンバー20の間を電気的に絶縁する。
【0041】
なお、絶縁体18の形状はこの例に限定されず、第2の同軸状電極10´のガイド電極14´とチャンバー20の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0042】
上述した第1及び第2の同軸状電極10、10´は、各中心電極12、12´が同一の軸線Z−Z上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する。
【0043】
チャンバー20は、放電環境保持装置を構成し、第1及び第2の同軸状電極10、10´内にプラズマ媒体を供給し、かつプラズマ発生に適した温度及び圧力に第1及び第2の同軸状電極10、10´を保持する。チャンバー20は、排気管22によって真空ポンプに接続され、所定の圧力に維持されている。
【0044】
チャンバー20は、金属からなることが好ましく、接地されることが好ましい。また、チャンバー20には、プラズマ光8(EUV)を取り出すために、所定の開口窓を設けることが好ましい。
【0045】
チャンバー20及び第1の同軸状電極10に対して、第2の同軸状電極10´は、放電が形成されていない状態では、絶縁体18によって隔てられ、電気的に接続されていないので、電気的浮動状態にある。後述するように、放電が形成されることにより、第2の同軸状電極10´の電位は、第1の同軸状電極10及びチャンバー20に対して一定のものとなる。
【0046】
電圧印加装置30は、第1及び第2の同軸状電極10、10´に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0047】
電圧印加装置30は、正電圧源32、負電圧源34及びトリガスイッチ36からなる。
【0048】
この例では、正電圧源32及び負電圧源34は、それぞれ高電圧充電器(HV Charging Device)とコンデンサからなる。トリガスイッチ36は、遅延パルス生成器(Delay Pulse Generator)、高圧パルス発生器(HV Pulser)及びギャップスイッチからなる。なお、この例では、遅延パルス生成器は、遅延のないトリガパルスを発生している。
【0049】
正電圧源32は、第1の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より高い正の放電電圧を印加する。
【0050】
負電圧源34は、第2の同軸状電極10´の中心電極12´にそのガイド電極14´より低い負の放電電圧を印加する。
【0051】
なお、本実施形態では、便宜上、正電圧源32が第1の同軸状電極10に電圧を印加し、負電圧源34が第2の同軸状電極10´に電圧を印加するものとしたが、本発明はこれに限定されない。正電圧源32が第2の同軸状電極10´に電圧を印加し、負電圧源34が第1の同軸状電極10に電圧を印加してもよい。
【0052】
正電圧源32及び負電圧源34には、中心電極12、12´に供給される電流をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察するため、誘導結合された線路が設けられている。
【0053】
トリガスイッチ36は、正電圧源32と負電圧源34を同時に作動させて、それぞれの同軸状電極12、12´に同時に正負の放電電圧を印加する。
【0054】
この構成により、本発明のプラズマ光源は、第1及び第2の同軸状電極10、10´間に管状放電(後述する)を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるようになっている。
【0055】
図3は、図2のプラズマ光源の作動説明図である。この図において、(A)は面状放電の発生時、(B)は面状放電の移動中、(C)はプラズマの形成時、(D)は電荷移動時、(E)はプラズマ封込み磁場の形成時を示している。
【0056】
以下、この図を参照して、本発明のプラズマ光源の動作を説明する。
【0057】
本発明のプラズマ光源は、第1及び第2の同軸状電極10、10´を対向配置し、放電チャンバー20により第1及び第2の同軸状電極10、10´内にプラズマ媒体を供給しかつプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持し、電圧印加装置30により第1及び第2の同軸状電極10、10´に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0058】
図3(A)に示すように、この電圧印加により、第1及び第2の同軸状電極10、10´に絶縁体16、16´の表面でそれぞれ面状の放電電流(以下、面状放電2と呼ぶ)が発生する。面状放電2は、2次元的に広がる面状の放電電流であり、後述する実施例では「電流シート」とも呼ぶ。
【0059】
このような面状放電2により、第1及び第2の同軸状電極10、10´において、絶縁体16表面に形成されたLiまたはLi化合物薄膜17の表面が蒸発し、Liガスを発生する。
【0060】
なおこの際、第1の同軸状電極10の中心電極12は正電圧(+)、ガイド電極14は負電圧(−)に印加され、第2の同軸状電極10´の中心電極12は負電圧(−)、そのガイド電極14´は正電圧(+)に印加されている。
【0061】
図3(B)に示すように、面状放電2は、自己磁場によって電極から排出される方向(図で中心に向かう方向)に移動する。
【0062】
図3(C)に示すように、面状放電2が第1及び第2の同軸状電極10、10´の先端に達すると、1対の面状放電2の間に挟まれたプラズマ媒体6が高密度、高温となり、第1及び第2の同軸状電極10、10´の対向する中間位置(中心電極12、12´の対称面1)に単一のプラズマ3が形成される。
【0063】
図3(D)に示すように、第1及び第2の同軸状電極10、10´の先端から延びた面状放電2が接触すると、第1及び第2の同軸状電極10、10´は導通状態となる。
【0064】
これによって、電気的に浮動状態であった第2の同軸状電極10´には第1の同軸状電極10から電荷が移動し、第2の同軸状電極10´の電位は、第1及び第2の同軸状電極10、10´の中心電極12、12´及びガイド電極14、14´を順方向に電流が流れるように自然に定まる。
【0065】
電荷の移動は、第1及び第2の同軸状電極10、10´を含む構成において整合がとれるように自然に調整される。ここで、第2の同軸状電極10´の電位は、第1及び第2の同軸状電極10、10´を含む系全体が最も安定になる順方向に電流が流れる状態となるので、外部から制御する必要はない。
【0066】
このような電荷の移動によって、対向する1対の中心電極12、12´は、正電圧(+)と負電圧(−)となり、同様に対向する1対のガイド電極14、14´も、正電圧(+)と負電圧(−)となるので、図3(E)に示すように、面状放電2は対向する1対の中心電極12同士、及び対向する1対のガイド電極14、14´の間で放電する管状放電4に繋ぎ換えられる。ここで、管状放電4とは、軸線Z−Zを囲む中空円筒状の放電電流を意味する。
【0067】
この管状放電4が形成されると、図に符号5で示すプラズマ封込み磁場(磁気ビン)が形成され、プラズマ3を半径方向及び軸方向に封じ込むことができる。
【0068】
すなわち、磁気ビン5はプラズマ3の圧力により中央部は大きくその両側が小さくなり、プラズマ3に向かう軸方向の磁気圧勾配が形成され、この磁気圧勾配によりプラズマ3は中間位置に拘束される。さらにプラズマ電流の自己磁場によって中心方向にプラズマ3は圧縮(Zピンチ)され、半径方向にも自己磁場による拘束が働く。
【0069】
この状態において、プラズマ3の発光エネルギーに相当するエネルギーを電圧印加装置30から供給し続ければ、高いエネルギー変換効率で、プラズマ光8(EUV)を長時間安定して発生させることができる。
【0070】
上述した本発明のプラズマ光源によれば、対向配置された第1及び第2の同軸状電極10、10´を備え、第1及び第2の同軸状電極10、10´にそれぞれ面状の放電電流(面状放電2)を発生させ、面状放電2により第1及び第2の同軸状電極10、10´の対向する中間位置に単一のプラズマ3を形成し、次いで面状放電2を第1及び第2の同軸状電極10、10´間の管状放電4に繋ぎ換えてプラズマ3を封じ込めるプラズマ封込み磁場5(磁気ビン5)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0071】
また、従来のキャピラリー放電や真空光電金属プラズマと比較すると、第1及び第2の同軸状電極10、10´の対向する中間位置に単一のプラズマ3が形成され、かつエネルギー変換効率を大幅(10倍以上)に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0072】
また、第1及び第2の同軸状電極10、10´の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマ3が形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0073】
さらに、本発明では、第2の同軸状電極10´は、チャンバー20に対して絶縁体18を介して取り付けられ、第1の同軸状10及びチャンバー20に対して電気的浮動状態にある。しかしながら、第1及び第2の同軸状電極10、10´間の放電により第1の同軸状電極10から第2の同軸状電極10´に電荷が移動し、電気的に浮動状態であった第2の同軸状電極10´には第1の同軸状電極10から電荷が移動し、第2の同軸状電極10´の電位は、第1及び第2の同軸状電極10、10´の中心電極12、12´及びガイド電極14、14´を順方向に電流が流れるような電位に自然に定まる。
【0074】
このように、本発明によると、第1及び第2の同軸状電極10、10´の中心電極12、12´及びガイド電極14、14´の電位が、順方向に電流が流れるように自然に調整される。したがって、第1及び第2の同軸状電極10、10´間の面状放電2の管状放電4への繋ぎ換えが容易になり、管状放電4を確実に提供することができる。
【0075】
〔変形例〕
図4は、本実施形態の変形例を示す図である。この変形例は、図2に示した実施形態において、放電アシストガスを供給するガス供給部40をさらに設けたものである。
【0076】
この変形例においては、ガス供給部40が放電アシストガスとして水素をチャンバー20に供給し、チャンバー20内が数mTorrから数Torrの水素で満たされるようにする。チャンバー20に供給された水素は、EUVを放出または吸収することなく、電子供給源として作用する。
【0077】
この変形例においては、図3(A)に示したように第1及び第2の同軸状電極10、10´に電圧を印加して絶縁体16、16´の表面に沿面放電が生成されるとき、絶縁体16、16´表面から蒸発したLiに加えてガス供給部40が供給した水素も電離してプラズマとなるので、図2に示した実施形態と比べると水素の寄与によりプラズマ密度が増加する。
【0078】
また、図3(B)に示したように面状放電2が第1及び第2の同軸状電極10、10´から排出される方向に移動するとき、進行経路の水素が次第に累積されて面状放電2のプラズマシートの密度が増加するいわゆる雪掻き効果が発生する。
【0079】
このとき、水素の存在により、面状放電2のプラズマシート先端部にブレーキがかかり、プラズマシートが厚さ方向に圧縮され、プラズマシートの密度が増加する。また、面状放電2のプラズマシートの密度増加により、プラズマシートのインピーダンスが低下し、プラズマシート以外の部分を流れるリーク電流が相対的に減少する。
【0080】
図3(C)に示したように面状放電2が第1及び第2の同軸状電極10、10´の先端に達するとき、面状放電2のプラズマ放電の密度が確保されている。面状放電2のプラズマシートを通過する放電電流の増加により、図3(D)に示したようにプラズマによる電荷移動による第2の同軸状電極10´の電位調整が行われる。ここで、水素の導入により、面状放電2のプラズマシートの面内均一性が改善され、電流繋ぎ変え効率が向上する。
【0081】
なお、この変形例においては、放電アシストガスとして水素を例示したが、放電アシストガスは水素に限られない。例えば水素に換わってヘリウムを採用することもできる。
【0082】
〔比較例1〕
図5は、第1の比較例を示す。第1の比較例は、図2に示した実施形態において、絶縁体18を除き、第2の同軸状電極10´を直接にチャンバー20に取り付けるとともに、チャンバー20のフランジ部を接地したものである。
【0083】
他の構成は、図2に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0084】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12、12´からガイド電極14、14´へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0085】
図6は、第1の比較例における、第1及び第2の同軸状電極10、10´に面状放電2が形成されている状態(図3(B)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0086】
正電圧源32の正側電位点Pにおける電位Vから、中心電極12の放電発生位置Pにおける電位V、ガイド電極14の放電発生位置Pにおける電位Vを介して、チャンバー20の接地点Pにおける電位Vに至るまで、電位V、V、V、Vは次第に低下している。
【0087】
同様に、負電圧源33の負側電位点P´における電位V´から、中心電極12´の放電発生位置P´における電位V´、ガイド電極14´の放電発生位置P´における電位V´を介して、チャンバー20の接地点P´における電位V´に至るまで、電位V´、V´、V´、V´は次第に上昇している。
【0088】
チャンバー20の接地点P、P´における電位V、V´は、接地電位となっている。
【0089】
ここで、第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´先端の電位(第1及び第2のガイド電極14、14´の放電発生位置P、P´における電圧V、V´が相当する。)については、第1の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位Vが第2の同軸電極10´のガイド電極14´先端の電位V´より高くなっている。
【0090】
このような第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´先端の電位配置は、管状放電4が形成された状態における、第2の同軸状電極10´のガイド電極14´から第1の同軸状電極10のガイド電極14へ電流が向う流れにおけるものとは逆方向である。
【0091】
すなわち、管状放電4が形成された状態においては、第1の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位は、第2の同軸状電極10´のガイド電極14´の先端の電位より低くなる必要がある。
【0092】
したがって、第1の比較例においては、面状放電2(図3(C)が相当する。)から管状放電4(図3(E)が相当する。)への繋ぎ換えは、このような逆方向の電位配置のため困難である。
【0093】
〔比較例2〕
図7は、第2の比較例を示す。第2の比較例は、図2に示した実施形態において、絶縁体18を除き、第2の同軸状電極10´を直接にチャンバー20に取り付けるとともに、チャンバー20のフランジ部を接地し、さらに第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´の先端を金属部材19で接続(結線)したものである。
【0094】
金属部材19は、軸線Z−Zに回転対称になるように、3方向、4方向などに取り付けることができる。
【0095】
他の構成は、図2に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0096】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12、12´からガイド電極14、14´へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0097】
図8は、第1の比較例における、第1及び第2の同軸状電極10、10´に面状放電2が形成されている状態(図3(B)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0098】
正電圧源32の正側電位点Pにおける電位Vから、中心電極12の放電発生位置Pにおける電位V、ガイド電極14の放電発生位置Pにおける電位Vを介して、チャンバー20の接地点Pにおける電位Vに至るまで、電位V、V、V、Vは次第に低下している。
【0099】
同様に、負電圧源33の負側電位点P´における電位V´から、中心電極12´の放電発生位置P´における電位V´、ガイド電極14´の放電発生位置P´における電位V´を介して、チャンバー20の接地点Pにおける電位V´に至るまで、電位V´、V´、V´、V´は次第に上昇している。
【0100】
第2の比較例では、チャンバー20を接地点P、P´で接地したのみならず、第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´の先端を接続部材19で接続したため、第1の比較例より電位配置は複雑になっている。
【0101】
すなわち、第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´における放電発生点P、P´間の電位差は第1の比較例よりも縮小したが、第1の同軸状電極10を通る経路におけるチャンバー20の接地点Pでの電位Vは、第2の同軸状電極10´を通る経路におけるチャンバー20の接地点P´での電位V´より低下している。
【0102】
第2の比較例においても、第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´先端の電位(第1及び第2のガイド電極14、14´の放電発生位置P、P´における電圧V、V´が相当する。)については、第1の比較例よりも電位差は小さくなったものの、第1の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位Vが第2の同軸状電極10´のガイド電極14先端の電位V´より高くなっている。
【0103】
このような第1及び第2の同軸状電極10、10´のガイド電極14、14´先端の電位配置は、管状放電4が形成された状態における、第2の同軸状電極10´のガイド電極14´から第1の同軸状電極10のガイド電極14へ電流が向う流れにおけるものとは逆方向である。
【0104】
すなわち、管状放電4が形成された状態においては、第1の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位は、第2の同軸状電極10´のガイド電極14´の先端の電位より低くなる必要がある。
【0105】
したがって、第2の比較例においても、第1の比較例と同様に、面状放電2(図3(C)が相当する。)から管状放電4(図3(E)が相当する。)への繋ぎ換えは、このような逆方向の電位配置のため困難である。
【0106】
〔比較例3〕
図9は、第3の比較例を示す。第3の比較例は、図2に示した実施形態において、リーク電流が発生した状態を示すものである。
【0107】
図2に示した実施形態では、図3(A)に示したような第1及び第2の同軸状電極10、10´に電圧を印加して絶縁体16、16´の表面に生成される沿面放電は、絶縁体16表面から蒸発したLiガスによるものである。
【0108】
図3(B)に示したように面状放電2が第1及び第2の同軸状電極10、10´から排出される方向に移動するとき、面状放電2のプラズマ総量は沿面放電により発生したプラズマに限られている。この面状放電2の移動は、高真空中での電磁加速であり、プラズマの拡散によって面状放電2のプラズマシート厚が増加し、面状放電2のプラズマ密度は低下する。
【0109】
第1及び第2の同軸電極10、10´内においては、プラズマ密度の低下による面状放電2のインピーダンス低下とともに、面状放電2のプラズマシートから拡散したプラズマによって、面状放電2以外の部分を流れる放電52によるリーク電流が発生し、面状放電2を流れる電流が減少することがある。
【0110】
図9においては、第1及び第2の同軸電極10、10´内に拡散したプラズマ53、リーク電流による放電52、第1及び第2の同軸電極10、10´から進んだ面状放電2が対称面1において衝突してできた単一のプラズマ51が示されている。
【0111】
このようなリーク電流の発生は、前述した変形例に示したように、ガス供給部40によってチャンバー20内に放電アシストガスを供給することによって防止することができる。
【0112】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0113】
1 対称面、2 面状放電、3 プラズマ、
4 管状放電、5 プラズマ閉込め磁場、6 プラズマ媒体、
7 レーザー光、8 プラズマ光(EUV)、
10 第1の同軸状電極、10´ 第2の同軸状電極
12、12´ 中心電極、
14、14´ ガイド電極
16 絶縁体、
20 チャンバー、
30 電圧印加装置、32 正電圧源、
34 負電圧源、36 トリガスイッチ、
40 ガス供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9