特許第5953746号(P5953746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953746
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】クローポール型モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/14 20060101AFI20160707BHJP
   H02K 41/03 20060101ALI20160707BHJP
   H02K 21/14 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   H02K1/14 C
   H02K41/03 A
   !H02K21/14 M
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-288708(P2011-288708)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-138573(P2013-138573A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】有賀 信雄
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−160285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00− 1/16
H02K 1/18− 1/26
H02K 1/28− 1/34
H02K21/00−21/48
H02K41/00−41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子または固定子のいずれか一方の磁極面を形成しつつ、前記可動子の回転または移動方向に並置された複数のティースと、
これらのティースと対向して配置されたヨークと、
前記ティースと前記ヨークとを接続しつつ、これらのティースおよびヨークとともに可動子の回転または移動方向に連通するスロットを形成する複数の磁路形成壁と、
前記スロット内に少なくとも一部が収容され、各々360°/n(nは3以上の整数)ずつ位相を異ならせたn相の交流電圧を印加する少なくともn個のコイルとを具備し、
前記ヨークとの間で接続する磁路形成壁の位置を異ならせることで、各コイルにより生じる磁界の向きを異ならせた正相のティースと逆相のティースとによって前記複数のティースを構成したものであって、
前記n相の交流電圧により流れる電流と同相の磁界を生じる各ティースが、交流電源に対して正相の電流を流すコイルの左右何れかに隣接する磁路形成壁を通じて前記ヨークと接続されることで構成され、前記n相の交流電圧により流れる電流と逆相の磁界を生じる各ティースが、上記を除く磁路形成壁を通じて前記ヨークと接続されることで構成されていることを特徴とするクローポール型モータ。
【請求項2】
前記可動子の回転または移動方向と直交する方向に前記スロットがn−1個連続して形成されているとともに、これらのスロットが隣接する境界位置と両端位置を合わせたn箇所の位置に前記磁路形成壁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のクローポール型モータ。
【請求項3】
前記可動子の回転または移動方向と直交する方向に並べられた状態で、前記各スロットの内部に2個ずつコイルが設けられており、
前記可動子の回転または移動方向と直交する方向より第1番目の磁路形成壁と隣接させて正向きに電源と接続した第1相のコイルを設け、
第n番目の磁路形成壁と隣接させて逆向きに電源と接続した第n逆相のコイルを設け、
第m番目(mは2以上n未満の整数)の磁路形成壁の両側面に、正向きに電源と接続した第m相のコイルと、逆向きに電源と接続した第m逆相のコイルとを設けたことを特徴とする請求項2に記載のクローポール型モータ。
【請求項4】
前記n相の交流電圧により流れる電流と同相の磁界を生じるティースが、前記第1〜第n相およびこれらと逆相のコイルと隣接する一個の磁路形成壁のみによって前記ヨークと接続されることで構成されており、
前記n相の交流電圧により流れる電流と逆相の磁界を生じるティースが、前記第1〜第n相およびこれらと逆相のコイルと隣接する一個の磁路形成壁以外の全ての磁路形成壁によって前記ヨークと接続されることで構成されていることを特徴とする請求項3に記載のクローポール型モータ。
【請求項5】
前記複数のティースを同一の円周面上に配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のクローポール型モータ
【請求項6】
前記複数のティースを直線状に並べて配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のクローポール型モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動子と固定子間に生じる磁場を電気的に制御することによって可動子を回転または移動させるクローポール型モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子と可動子とを有し、双方の間の磁場を電気的に制御することで可動子に所定の動作を行わせることができるクローポール型モータが数多く開示されている。
【0003】
クローポール型モータは、内部に備えるコイルの形成方法が容易でコンパクトな構成にすることができるものとして一般によく知られている。
【0004】
その中で、例えば、特許文献1に記載されたクローポール型モータのように内部に3相のコイルを備えたものがある。このものは、120°ずつ位相をずらした交流電圧を与えられるU、V、W相のコイルを円筒状の固定子の内部に備えており、固定子の内周面に周方向に隣接して配置した磁極歯においてU、V、W相の各交流電圧により流れる電流と同相であるU、V、W相の磁界を発生させることができる。こうすることで、各磁極歯で生じる磁界が合成された回転磁界を生じさせ、当該固定子の内部に設けた可動子を回転させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−20981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように位相をずらして生じさせる磁界により合成磁界を形成し、その合成磁界の変化によって可動子に推力を発生させる場合、合成磁界の変化が滑らかになっていなければ、可動子に与える推力が変動することで、移動速度の変動や振動が発生して動作安定性が損なわれることになる。
【0007】
本発明は、このような課題を有効に解決することを目的としており、具体的には、複数の磁界を合成させた合成磁界を滑らかに変化させることが可能なクローポール型モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0009】
すなわち、本発明のクローポール型モータは、可動子または固定子のいずれか一方の磁極面を形成しつつ、前記可動子の回転または移動方向に並置された複数のティースと、これらのティースと対向して配置されたヨークと、前記ティースと前記ヨークとを接続しつつ、これらのティースおよびヨークとともに可動子の回転または移動方向に連通するスロットを形成する複数の磁路形成壁と、前記スロット内に少なくとも一部が収容され、各々360°/n(nは3以上の整数)ずつ位相を異ならせたn相の交流電圧を印加する少なくともn個のコイルとを具備し、前記ヨークとの間で接続する磁路形成壁の位置を異ならせることで、各コイルにより生じる磁界の向きを異ならせた正相のティースと逆相のティースとによって前記複数のティースを構成するようにしたものであり、前記n相の交流電圧により流れる電流と同相の磁界を生じる各ティースが、交流電源に対して正相の電流を流すコイルの左右何れかに隣接する磁路形成壁を通じて前記ヨークと接続されることで構成され、前記n相の交流電圧により流れる電流と逆相の磁界を生じる各ティースが、上記を除く磁路形成壁を通じて前記ヨークと接続されることで構成されていることを特徴とする。
【0010】
このように構成すると、簡単でコンパクトな構成としながら、2×n相分の位相の異な
る磁界を磁極面に形成することができるようになり、これらの多数の磁界によって生じる
合成磁界を細かく滑らかに変化させつつ制御を行うことが可能となる。そのため、この合
成磁界によって動作する可動子の速度変動や振動を抑えて動作安定性を高めることが可能
となる。また、磁路形成壁の選択のみで、ティースに対して簡単に正相と逆相の磁界を形成することができる。
【0011】
また、上記の効果を得つつ、コイルを収容するスロットを少なくしてより簡単な構成とするためには、前記可動子の回転または移動方向と直交する方向に前記スロットがn−1個連続して形成されているとともに、これらのスロットが隣接する境界位置と両端位置を合わせたn箇所の位置に前記磁路形成壁が設けられているように構成することが好適である。
【0012】
また、簡単な構成としながら、各ティースに2×n相分の多数の異なった磁界を生じさせることをできるようにするためには、前記可動子の回転または移動方向と直交する方向に並べられた状態で、前記各スロットの内部に2個ずつコイルが設けられており、前記可動子の回転または移動方向と直交する方向より第1番目の磁路形成壁と隣接させて正向きに電源と接続した第1相のコイルを設け、第n番目の磁路形成壁と隣接させて逆向きに電源と接続した第n逆相のコイルを設け、第m番目(mは2以上n未満の整数)の磁路形成壁の両側面に、正向きに電源と接続した第m相のコイルと、逆向きに電源と接続した第m逆相のコイルとを設けるように構成することが好適である。
【0013】
また、磁路形成壁の選択のみで、ティースに対して簡単に正相と逆相の磁界を形成することを可能とするには、前記n相の交流電圧により流れる電流と同相の磁界を生じるティースが、前記第1〜第n相およびこれらと逆相のコイルと隣接する一個の磁路形成壁のみによって前記ヨークと接続されることで構成されており、前記n相の交流電圧により流れる電流と逆相の磁界を生じるティースが、前記第1〜第n相およびこれらと逆相のコイルと隣接する一個の磁路形成壁以外の全ての磁路形成壁によって前記ヨークと接続されることで構成することが好適である。
【0014】
また、可動子が回転運動を行う回転モータとして構成して、ティースにより生じる合成磁界を回転磁界として滑らかに変化させ、可動子の回転動作の安定性を高めるようにするためには、前記複数のティースを同一の円周面上に配置するように構成することが好適である。
【0015】
また、回転モータとする構成に代えて、可動子が直線運動を行うリニアモータとして構成して、可動子の直線方向への移動を滑らかに行わせるようにするためには、前記複数のティースを直線状に並べて配置するように構成することが好適である。
【発明の効果】
【0016】
以上説明した本発明によれば、複数の磁界を合成した合成磁界を滑らかに変化させることが可能なクローポール型モータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るクローポール型モータを模式的に示した正面図。
図2図1におけるX1−X1およびX2−X2の位置における断面を、外径方向を上向きにして示した断面図。
図3図1におけるX3−X3およびX4−X4の位置における断面を、外径方向を上向きにして示した断面図。
図4図1におけるX5−X5およびX6−X6の位置における断面を、外径方向を上向きにして示した断面図。
図5図2図4に示した断面図を合成した模式的な断面図。
図6】本発明の第2実施形態に係るクローポール型モータを模式的に示した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
【0019】
この第1実施形態に係るクローポール型モータ1は、図1に示すように、大きくは円筒状に構成した固定子2と、その内部に設けた可動子8より構成して、いわゆるインナーロータ型の回転モータとして構成している。可動子8は回転軸体として構成しており、軸方向(紙面奥行き方向)の両端部に設けた軸受によって支持され、固定子2の内周面と一定の隙間を形成した状態で回動可能にしている。
【0020】
このクローポール型モータ1は、図示しない電源と接続されて3相の交流電圧を与えられることによって固定子2内で可動子8が回転できるようになっている。3相の電圧はそれぞれ120°ずつ位相を異ならせた第1相としてのU相の交流電圧、第2相としてのV相の交流電圧、第3相としてのW相の交流電圧より構成されている。
【0021】
固定子2の内周面および可動子8の外周面には各々磁極面2a、8aが形成されており、固定子2側の磁極面2aは周方向に6つに分割され、U相、−V相、W相、−U相、V相および−W相の6つの異なる位相の磁界を発生させるティース21〜26として形成している。他方、可動子8の磁極面8aは、周方向に2分割するようにして形成しており、1/2円筒状の永久磁石81、82を貼り付けて構成することによって、それぞれ表面がN極とS極の磁性を有するようにしている。
【0022】
ティース21〜26は可動子8の回転方向に対して併置されることで、固定子2の内周面を構成している。また、ティース21〜26は、円筒部材を周方向に分割した一部分をなす形にそれぞれ形成されており、同一断面のまま固定子2の軸方向に延在させた形態としている。ここで、ティース21〜26の中には、後に詳述するように、軸方向に一部を分割した複数のティース要素22a、22b(図2(b)参照)24a、24b(図3(b)参照)、26a、26b(図4(b)参照)より構成する場合もあるが、協働して所定の磁界を発生するとの一個の機能を有することから、これらを併せて「ティース」と称す。
【0023】
さらに、固定子2の外周側を構成しつつ、ティース21〜26と各々対向するようにヨーク31〜36が設けられている。ヨーク31〜36もティース21〜26と同様に、円筒部材を周方向に分割した一部分をなす形にそれぞれ形成されており、同一断面のまま固定子2の軸方向に延在させた形態としている。
【0024】
そして、ティース21〜26とヨーク31〜36との間隙によって形成される環状のスロットに、4個のコイル51〜54を設けている。コイル51〜54は固定子2の軸方向、すなわち図中の紙面奥行き方向に対して並べて配置されており、それぞれ上述した3相の交流電圧が印加される。
【0025】
ここで、図中に記載したU相、−U相、V相、−V相、W相および−W相に対応する切断線X1−X1〜X6−X6の各位置における断面を図2(a)〜図4(b)に示す。なお、各切断位置における形状の比較を容易にするために、上記の断面図は全て、固定子2の外径方向を上側に、中心方向を下側になるようにして記載している。
【0026】
図2(a)〜図4(b)における各断面形状の説明を行うのに先駆けて、これらの断面を合成して模式的に表した断面図を図5に示し、この図を基にして主となる断面構成を説明しておく。
【0027】
上述したように、固定子2は内周面側にティース21〜26と、外周面側にヨーク31〜36を有し、これらの間隙にコイル51〜54を備えている。コイル51〜54は全て同一の巻方向に形成しており、同じ向きに電圧を印加した場合には全て同方向に磁界を発生するようにしてある。そして、ティース21〜26はヨーク31〜36との間で交流電圧の相数と同じ3箇所に設けた磁路形成壁41〜43によって接続されている。磁路形成壁41〜43は図中右側より順に、第1番目の磁路形成壁43、第2番目の磁路形成壁42および第3番目の磁路形成壁41としている。これら3箇所の磁路形成壁41〜43のうち、両端の第1番目と第3番目の磁路形成壁43、41は固定子2の両端面を形成し、内側の第2番目の磁路形成壁42はこれらの中間に設けられている。こうすることで、磁路形成壁41〜43はティース21〜26およびヨーク31〜36とともに2つの環状のスロット2b、2cを形成している。このスロット2b、2cは可動子8の回転方向と同じように、円周方向に連通するよう形成されている。また、別の見方をすると第2番目の磁路形成壁42はスロット2b、2cの境界位置に形成されているものということができる。
【0028】
上記のスロット2b、2cのうち一方のスロット2bにはコイル51、52が収納され、他方のスロット2cにはコイル53、54が収納されるようにしている。こうすることで、片方の端面に位置する磁路形成壁41にはコイル51が隣接し、他方の端面に位置する磁路形成壁43にはコイル54が隣接するようにしている。そして、中間の磁路形成壁42は、コイル52、53に隣接しつつこれらのコイル52、53の間で挟まれるように構成している。
【0029】
コイル51〜54には上述した電源(図示せず)より3相の交流電圧を与えることを可能に構成している。具体的には、コイル54は正向きに電源と接続してU相の交流電圧が与えられるようにしている。ここで、「正向きに電源と接続」とは、コイル54に対して正の電圧が印加されたときにコイル54の内部で正の方向に電流が流れる向きに接続することを意味している。そして、コイル52は正向きに電源と接続して、U相よりも120°位相が遅れたV相の交流電圧が与えられるようにしている。また、上記のように正向きに電源と接続されたコイルを「正相のコイル」または「U、V、W相のコイル」と称す。
【0030】
そして、コイル53は逆向きに電源と接続しつつV相の交流電圧が与えられるようにしている。すなわち、コイル53の両端と電源との接続関係が、コイル52の場合と逆になるように接続しており、同一の電圧を印加しても、コイル52とは逆方向に電流が流れて逆向きの磁界を発生させるようにしている。さらに、コイル51は逆向きに電源と接続しつつ、V相よりも120°位相が遅れたW相の交流電圧が与えられるようにしている。これらのように逆向きに電源と接続されたコイルを「逆相のコイル」または「−U、−V、−W相のコイル」と称す。
【0031】
上記のように、隣接する磁路形成壁41〜43に対して、図の左側に位置するコイル52、54は正相のコイルとしてU、V相の交流電圧をそのままの方向で与えられ、右側に位置するコイル51、53は逆相のコイルとしてV、W相の交流電圧が逆方向に与えられるようにしている。なお、以下においては、U、V、W相の各交流電圧によって流れる電流と同相の磁界を単にU、V、W相の磁界として称す。
【0032】
磁路形成壁41〜43に対して左側に位置するコイル52、54は、磁路形成壁41〜43に対して印加電圧に応じて流れる電流と同相の磁界を与え、磁路形成壁41〜43に対して右側に位置するコイル51、53は、磁路形成壁41〜43に対して印加電圧に応じて流れる電流と逆相の磁界を与えるように構成している。すなわち、コイル51、53は逆相のコイルとはいえ、隣接する磁路形成壁41、42に対してV、W相の交流電圧によって流れる電流と同相の磁界を与えるようになっている。
【0033】
上記のようにコイル51〜54に3相交流電圧を印加することで、ヨーク31〜36および磁路形成壁41〜43との組み合わせに応じて、所定の磁界をティース21〜26に生じさせることができるようにしている。
【0034】
例えば、図1に記載した切断線X1−X1の位置においては、固定子2は図2(a)のように構成されている。外周面のヨーク31と内周面のティース21とは磁路形成壁43のみによって接続されている。そのため、磁路形成壁43に隣接するコイル54に印加する交流電圧に従ってティース21に磁界が発生する。すなわち、ティース21にはU相の交流電圧によって流れる電流と同相であるU相の磁界が形成される。このように、交流電圧により流れる電流と同相の磁界を生じるものを「正相のティース」と称し、これに対して逆相となる磁界を生じるものを「逆相のティース」と称す。
【0035】
また、図1に記載した切断線X3−X3の位置においては、固定子2は図3(a)のように構成されており、外周面のヨーク33と内周面のティース23とは磁路形成壁42のみによって接続されている。そのため、磁路形成壁42に隣接するコイル52、53に印加する交流電圧に従ってティース23に磁界が発生する。この場合、コイル54と磁路形成壁43(図2参照)との関係と同様に、磁路形成壁42に対して図中左側に位置したコイル52は印加する電圧により流れる電流と同相の磁界を発生するものとなり、逆の関係にある図中右側に位置したコイル53は印加する電圧により流れる電流と逆相の磁界を発生するものとなる。すなわち、コイル52、53が協働してティース23にV相の磁界が形成される。
【0036】
また、図1に記載した切断線X5−X5の位置においては、固定子2は図4(a)のように構成されており、外周面のヨーク35と内周面のティース25とは磁路形成壁41のみによって接続されている。そのため、磁路形成壁41に隣接するコイル51に印加する交流電圧に従ってティース25に磁界が発生する。この場合、コイル54と磁路形成壁43(図2参照)との関係とは逆に、磁路形成壁41に対して図中右側に位置したコイル51は印加する電圧により流れる電流と逆相の磁界を発生するものとなる。すなわち、ティース25にはW相と同じ位相を有する磁界が形成される。
【0037】
さらに、本実施形態においては、図1のように、上記のU相、V相およびW相の磁界を発生する正相のティース21、23、25と対向する箇所に、それぞれの磁界の正負を逆転させた−U相、−V相および−W相の磁界を発生する逆相のティース22、24、26を構成している。以下、これらの磁界を発生させるための構成について説明を行う。
【0038】
まず、図1に記載した−U相の磁界を生じさせる切断線X2−X2の位置においては、固定子2は図2(b)のように構成されており、ティース22は固定子2の軸方向に分割された2つのティース要素22a、22bによって構成されている。そして、各ティース要素22a、22bは各々外周面のヨーク32との間で、磁路形成壁43(図2(a)参照)を除いた磁路形成壁41、42によって接続されている。磁路形成壁43(図2(a)参照)は上述したようにコイル54の働きによってU相の磁界を形成するものであり、これを除く磁路形成壁41、42を用いることで、U相の磁界を正逆反転させた−U相を構成することができる。ティース22は2つのティース要素22a、22bに分断されてはいるが、固定子2の軸方向に対する同じ位置に設けられていることによって、協働して一個の−U相のティース22として機能する。
【0039】
次に、図1に記載した−V相の磁界を生じさせる切断線X4−X4の位置においては、固定子2は図3(b)のように構成されており、ティース24は固定子2の軸方向に分割された2つのティース要素24a、24bによって構成されている。そして、各ティース要素24a、24bは各々外周面のヨーク34との間で、磁路形成壁42(図3(a)参照)を除いた磁路形成壁41、43によって接続されている。磁路形成壁42(図3(a)参照)は上述したようにコイル52、53の働きによってV相の磁界を形成するものであり、これを除く磁路形成壁41、43を用いることで、V相の磁界を正逆反転させた−V相を構成することができる。ティース24は2つのティース要素24a、24bに分断されてはいるが、協働して一個の−V相のティース24として機能する。
【0040】
さらに、図1に記載した−W相の磁界を生じさせる切断線X6−X6の位置においては、固定子2は図4(b)のように構成されており、ティース26は固定子2の軸方向に分割された2つのティース要素26a、26bによって構成されている。そして、各ティース要素26a、26bは各々外周面のヨーク36との間で、磁路形成壁41(図4(a)参照)を除いた磁路形成壁42、43によって接続されている。磁路形成壁41(図4(a)参照)は上述したようにコイル51の働きによってW相の磁界を形成するものであり、これを除く磁路形成壁42、43を用いることで、W相の磁界を正逆反転させた−W相を構成することができる。ティース26は2つのティース要素26a、26bに分断されてはいるが、協働して一個の−W相のティース26として機能する。
【0041】
上述したように、概ね図5のような断面構造を採る固定子2はコイル51〜54を除いて、強磁性体である金属により一体成形して製作してもよいが、こうするとスロット2b、2c内へのコイル51〜54の収容作業が難しくなるため、磁路形成壁41〜43の位置に合わせて軸方向に3分割する構成として形成しておき、コイル51〜54をスロット2b、2c内に収容した後で一体化するように製作することが好適である。
【0042】
上記のように構成したクローポール型モータ1は、図1のように、コイル51〜54に対してU相、V相、W相として120°ずつ位相をずらした3相の交流電圧を与えることによって、固定子2の内周面の磁極面2aを形成するティース21〜26に所定の磁界を生じさせることができる。具体的には、コイル54に対して正向きにU相の電圧を与え、コイル53には逆向きにV相の電圧を与え、コイル52には正向きにV相の電圧を与え、コイル51には逆向きにW相の電圧を与えることによって、ティース21、23、25は正相のティースとしてU、V、W相の交流電圧により流れる電流と同相のU、V、W相の磁界を各々発生し、ティース22、24、26は逆相のティースとしてU、V、W相の交流電圧により流れる電流と逆相となる−U、−V、−W相の磁界を各々発生する。
【0043】
こうしたティース21、26、23、22、25、24によって、図中の反時計回りにU、−W、V相、−U相、W相、−V相の順で磁界を発生させることによって、これらによって各々生じる磁界を合成した合成磁界を、大きさを等しく保ちながら図中のθ方向に回転するいわゆる回転磁界として形成することができる。そして、この回転磁界によって、固定子2の内部に設けた可動子8を回転させることができる。
【0044】
このクローポール型モータ1は、U相、V相、W相に加えて、これらと逆位相の−U相、−V相、−W相の磁界が生じ、これら2×3相分の位相の異なる多数の磁界が協働して一個の回転磁界を形成するために、磁界の強さを変動させることなくより滑らかに回転させることができるようになっている。そのため、この回転磁界の変化に従って動作する可動子8は、速度の変動や振動が少なく、動作安定性を良好に維持することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態におけるクローポール型モータ1は、固定子2の磁極面2aを形成しつつ、可動子8の回転方向に並置された複数のティース21〜26と、これらのティース21〜26と対向して配置されたヨーク31〜36と、前記ティース21〜26と前記ヨーク31〜36とを接続しつつ、これらのティース21〜26およびヨーク31〜36とともに可動子8の回転方向に連通するスロット2b、2cを形成する磁路形成壁41〜43と、前記スロット2b、2c内に少なくとも一部が収容され、各々360°/3ずつ位相を異ならせた3相の交流電圧を印加する4個のコイル51〜54とを具備し、前記ヨーク31〜36との間で接続する磁路形成壁41〜43の位置を異ならせることで、各コイル51〜54により生じる磁界の向きを異ならせた正相のティース21、23、25と逆相のティース22、24、26とによって前記複数のティース21〜26を構成したものである。
【0046】
このように構成しているため、簡単な構造としながら、2×3相分の位相の異なる磁界を磁極面に形成することができるために、これらの多数の磁界によって生じる合成磁界を細かく、滑らかに制御を行うことが可能となり、この合成磁界によって動作する可動子8の速度変動や振動を抑えて動作安定性を高めることが可能となる。
【0047】
また、前記可動子8の回転方向と直交する方向に前記スロット2b、2cが2個連続して形成されているとともに、これらのスロット2b、2cが隣接する境界位置と両端位置を合わせた3箇所の位置に前記磁路形成壁41〜43を設けるように構成しているため、コイル51〜54を収容するためのスロット2a、2bを少なくして、より簡単な構成とすることができる。
【0048】
また、前記可動子8の回転方向と直交する方向に並べられた状態で、前記各スロット2b、2cの内部に2個ずつコイル51〜54が設けられており、前記可動子8の回転方向と直交する方向より第1番目の磁路形成壁43と隣接させて正向きに電源と接続した第1相(U相)のコイル54を設け、第3番目の磁路形成壁41と隣接させて逆向きに電源と接続した第3逆相(−W相)のコイル51を設け、第2番目の磁路形成壁42の両側面に、正向きに電源と接続した第2相(V相)のコイル52と、逆向きに電源と接続した第2逆相(−V相)のコイル53とを設けるように構成しているため、簡単な構成を採りつつも、各ティース21〜26に2×3相の位相の異なる磁界を生じさせることができる。
【0049】
また、前記3相の交流電圧により流れる電流と同相の磁界を生じるティース21、23、25が、前記第1〜第3相(U、V、W相)およびこれらと逆相(−U、−V、−W相)のコイル51〜54と隣接する一個の磁路形成壁41〜43によって前記ヨーク31〜36と各々接続されることで構成されており、前記3相の交流電圧により流れる電流と逆相の磁界を生じるティース22、24、26が、前記第1〜第3相(U、V、W相)およびこれらと逆相(−V、−W相)のコイル51〜54と隣接する一個の磁路形成壁41〜43以外の全ての磁路形成壁41〜43によって前記ヨーク31〜36と接続されることで構成するようにしているため、磁路形成壁41〜43の選択のみという簡単な構成で逆相のティースを形成することができる。
【0050】
さらには、前記複数のティース21〜26を同一の円周面上に配置するように構成しているため、可動子8が回転運動を行う回転モータとして構成することができるとともに、ティース21〜26により生じる合成磁界を回転磁界として滑らかに変化するように形成して、可動子8に安定した回転運動を行わせることが可能となる。
<第2実施形態>
【0051】
図6に、本発明の第2実施形態に係るクローポール型モータ101を示す。このクローポール型モータ101は、固定子102と可動子108の各磁極面102a、108aを平面状に構成し、これらの磁極面102a、108aと平行な方向に可動子108を往復動可能に構成したリニアモータ型のものである。
【0052】
可動子108は、第1実施形態において回転軸体として構成した可動子8(図1参照)を基にして、その外周面を平面状に展開した形態としている。そのため、平面状の磁極面108aには、互いに異なる磁極を表面に有する永久磁石181、182が可動子108の移動方向に隣接するように設けられている。
【0053】
同様に固定子102も、第1実施形態において円筒状に構成した固定子2(図1参照)を基にして、その内周面を平面状に展開した形態としている。そのため、平面状の磁極面102aに沿って、それぞれU相、−W相、V相、−U相、W相、−V相の磁界を発生するティース121、126、123、122、125、124が直線状に並べて配置されており、これらのティース121〜126と対向しつつ間隙を形成するようにしてヨーク131〜136が形成されている。そして、この間隙には、環状のコイル151〜154が扁平にされた形態で約半周分が収まるようにして収納されている。
【0054】
可動子108は、固定子102との間で互いの磁極面108a、102aを近接して対向させた状態で、図中の左右方向に直線状に移動可能に支持されており、固定子102より生じる合成磁界の変化によって推力を与えられて移動できるように構成されている。
【0055】
上記のティース121〜126、ヨーク131〜136およびコイル151〜154は、図中に記載した切断線Y1−Y1〜Y6−Y6の位置における各断面が、第1実施形態における切断線X1−X1〜X6−X6(図1図5参照)の位置における各断面と同じになるように構成している。すなわち、上記第1実施形態と同様の方法によって、ティース121〜126とヨーク131〜136とを磁路形成壁41〜43(図2図5参照)によって接続し、コイル151〜154に第1実施形態におけるコイル51〜54(図1図5参照)と同じように3相の交流電圧を印加するようにしている。
【0056】
こうすることで、第1実施形態と同様に、各コイル151〜154に印加するU相、V相、W相の交流電圧により流れる電流と同相の磁界をティース121、123、125に発生させ、これらと逆相の−U相、−V相、−W相の磁界をティース122、124、126に発生させるようにしている。
【0057】
このように構成することで、第1実施形態と同様、可動子108の移動方向に沿って、順にU、−W相、V相、−U相、W相、−V相の磁界をティース121、126、123、122、125、124によって発生させ、これらによる磁界が合成された合成磁界を生じさせることができる。そして、このような2×3相の多数の磁界によって合成磁界を形成することで、この合成磁界を滑らかに変化させることができる。こうすることで合成磁界の変化に従って直線方向に動作する可動子108を、より細かく滑らかに動作させることが可能となっている
【0058】
また、固定子102はU相、−W相、V相、−U相、W相、−V相の磁界を発生するティース121、126、123、122、125、124を、同じ並び順で繰り返して配置させている。このようにすることで、可動子102の可動範囲を延長させることが可能である。
【0059】
以上のように構成することにより、本実施形態におけるクローポール型モータ101は、第1実施形態の場合とは、可動子102の移動方向が異なるものの、ほぼ同一の効果を得ることが可能となる。
【0060】
さらに、本実施形態におけるけるクローポール型モータ101は、複数のティース121〜126を直線状に並べて配置するように構成しているため、可動子108が直線運動を行うリニアモータとして構成することができるとともに、直線状に合成磁界を滑らかに変化させることが可能であるため、速度変動や振動を抑制して動作安定性を高めることが可能となる。
【0061】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0062】
例えば、上述の第1および第2実施形態においては、コイル51〜54(151〜154)により磁界を発生するティース21〜26(121〜126)を固定子2(102)側に形成していたが、電源の供給が可能である限り可動子8(108)側に構成することも可能である。また、上記の実施形態では、ティース21〜26(121〜126)と対向する相手側の磁極面8a(108a)を永久磁石81,82によって形成していたが、ティース21〜26(121〜126)により生じる磁界によって誘導磁界を生じさせて推力を生じさせる構成とする場合には、導体バーと鉄心または導体プレートと鉄心構造により誘導機を構成して、磁極面8aに永久磁石81、82を用いないようにすることも可能である。
【0063】
また、上述の第1実施形態では可動子8が固定子2の内部にあるいわゆるインナーローター型モータとして構成したが、互いの磁極面8a、2aの構成を同様にしたままで、可動子8を円筒状に構成して固定子2の外部に設けたアウターロータ型モータとして構成することも可能である。
【0064】
また、上述の実施形態においては、コイル51〜54(151〜154)に3相の交流電圧を印加して合成磁界を生じさせる構成としていたが、この構成を展開して、さらに多くの相数からなる交流電圧を印加する構成とすることも可能である。例えば、360°/n(nは3以上の整数)ずつ位相を異ならせたn相の交流電圧を与えることを前提とした場合、コイルを収容する環状のスロットはn−1個構成し、各々に2個ずつ計2×(n−1)個のコイルを収容するようにすれば良い。そして、スロットの各境界位置および両端面の位置にティースとヨークとを接続する計n個の磁路形成壁を形成し、一方の端面側より第1番目となる磁路形成壁と隣接して第1相のコイルを設け、第n番目の磁路形成壁と隣接して正負逆の電流が流れるよう第n逆相のコイルを設ける。さらに、第m番目(mは2以上n未満の整数)の磁路形成壁を挟むようにして第m相のコイルと、第m逆相のコイルを設ける。このように第n番目の磁路形成壁によってティースとヨークとを接続することで、当該箇所においてティースに第n相の交流電圧により流れる電流と同相である第n相の磁界を生じさせることができる。さらに、第n番目以外の全ての磁路形成壁によってティースとヨークとを接続することで、ティースに第n相の磁界を反転させた逆相の磁界を生じさせることができる。このように構成することで、3相を越える多くの相数を有するものであっても、上述の実施形態と同一の思想の基で製作することができ、同様に2×n相の異なる位相の磁界を生じさせることで、より滑らかな合成磁界を形成することができる。
【0065】
なお、各磁路形成壁と隣接するコイルを1個ずつにして、上記n相の場合であれば合計n個のみのコイルで構成することも可能である。この場合には、各コイルによる磁界の干渉が生じやすくなるため、これを防ぐためには、上記のように境界位置における磁路形成壁は両側より互いに逆位相のコイルで挟み込むように構成し、合計2×(n−1)個のコイルを備えるように構成することが好適である。
【0066】
また、上述の実施形態では、U、V、W相の磁界と、これに対する逆相である−U、−V、−W相の磁界を生じさせるように各ティース21〜26(121〜126)を構成していたが、これらのティース21〜26(121〜126)の長さ(図2図5における左右方向への長さ)を変更することによって、上記とは異なる位相の磁界を発生させるように構成することも可能である。すなわち、U、V、W、−U、−V、−W相の位相をずらすことで等価的に分布巻の効果が得られて、さらに滑らかな合成磁界を形成させることも可能である。
【0067】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…クローポール型モータ
2…固定子
2a…(固定子側)磁極面
2b、2c…スロット
8…可動子
8a…(可動子側)磁極面
21〜26…ティース
31〜36…ヨーク
41〜43…磁路形成壁
51〜54…コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6