(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
紙媒体への印刷方法として、平版印刷版を用いたオフセット印刷、凸版印刷版を用いた活版印刷やフレキソ印刷、凹版印刷版を用いたグラビア印刷、孔版印刷版を用いたスクリーン印刷、インクジェット法によるインクジェット印刷等が挙げられる。これらの印刷方法のうち、平版印刷は水と油が本質的に混じり合わない性質を利用した印刷方法であり、油性のインクと水性の湿し水との反発により印刷物を得る方式であるため、インクのみでなく湿し水の性能が良好な印刷物を得る上で重要となる。
【0003】
湿し水に要求される性能としては、版トレを起こさず、動的表面張力低下能に優れ、低泡性であることが挙げられる。版トレとは、印刷版上におけるインクの供給される画像領域が侵食され剥がれる現象である。版トレが起こると、画線部となるべきところに湿し水が供給されてしまい、良好な印刷物を得ることができない。また、ローラーに取り付けられて高速で回転する印刷版上の細かい非画像領域へ均一に素早く湿し水を供給するために、湿し水は動的表面張力低下能に優れ、かつ、低泡性であることが要求される。版トレ防止、低泡性、動的表面張力低下能は、いずれも良好な印刷物を得るために必要であり、これらのうち一つでも劣る場合は、良好な印刷物を得ることができない。
【0004】
そのため、表面張力の高い水をそのまま湿し水として用いることが困難である。そこで、動的表面張力を低下させることを目的として、従来よりイソプロピルアルコール水溶液が使用されてきた。しかし、イソプロピルアルコールは揮発しやすいため、ローラー上や印刷版上に湿し水が供給されてもイソプロピルアルコールが揮発してしまい、湿し水として十分な効果を発揮することができず、良好な印刷物を得ることが困難であることや、湿し水中のイソプロピルアルコール濃度を一定に保つために特殊な装置が必要であることが問題となっていた。加えて、環境や人体に与える影響が懸念されるようになり、次第にイソプロピルアルコールを使用しない湿し水にシフトしつつある。
【0005】
そこで、動的表面張力低下能に優れ、イソプロピルアルコールと比較して揮発しにくい成分として、湿潤剤と呼ばれる界面活性剤を用いた湿し水が使用されるようになった。この湿潤剤に求められる性能としては、保管時や使用時の成分の分離を防止するために透明な湿し水を得ることができ、版トレを防止するために界面活性剤の一般的な性能である乳化性や洗浄性を有さず、かつ、上述のように低泡性であり、動的表面張力低下能に優れることである。
【0006】
これまで動的表面張力低下能に優れた湿潤剤として、アルキルスルホコハク酸塩等に代表される陰イオン性界面活性剤が使用されてきた。しかし、陰イオン性界面活性剤は動的表面張力低下能には優れているが、起泡性が高く、特に高速印刷には不向きであった。そこで、陰イオン性界面活性剤と比較して低泡性である、アルキレンオキシド誘導体に代表される各種非イオン性界面活性剤が提案され、使用されるようになった。
【0007】
また、近年、印刷の品質を損なうことなく、さらに生産性の向上、生産コスト及び環境負荷の低減が求められるようになった。そのために例えば、これまで以上の高速印刷を行うことや、湿し水濾過装置を導入し、使用後の湿し水に含まれる紙粉やインキ成分等を除去した後、湿し水を再利用することが挙げられる。しかし、これまで以上の高速印刷を行う場合、元の印刷速度と比較して起泡しやすい問題があった。また、湿し水濾過装置の導入により同一の湿し水を長時間利用するにつれて、湿し水中の成分が経時劣化を引き起こすことが原因となり、使用初期と比較して例えば起泡しやすくなる等の問題があった。湿し水が起泡すると、本来、湿し水が付着するべき印刷版の非画線領域に湿し水が付着せずにインクが付着してしまい、良好な印刷物が得られない原因となる。
【0008】
そのため、これまで以上に高速印刷を行うことや、湿し水濾過装置を導入して同一の湿し水を長時間利用した際も成分が経時劣化を引き起こしにくい安定な湿し水の使用が望まれている。
【0009】
例えば、分岐を有する脂肪族アルコールにアルキレンオキシドを付加して得られる非イオン性界面活性剤からなる湿潤剤が提案されている(特許文献1)。この界面活性剤は、動的表面張力低下能に優れているが、湿し水用の湿潤剤として用いた場合に版トレが起こり、また、使用直後または経時での低泡性にも劣るため、良好な印刷物が得られない問題があった。
【0010】
また、1以上の炭素側鎖を有する炭素数9のアルコールにエチレンオキシドとブチレンオキシドをこの順にブロック付加させた非イオン性界面活性剤が提案されている(特許文献2)。この界面活性剤は、湿し水用湿潤剤として用いた場合に版トレを起こしにくい。しかし、動的表面張力低下能に劣ることや、使用直後または経時での低泡性に劣るため、これまで以上の高速印刷する際や、湿し水濾過装置の導入により同一の湿し水を繰り返し使用する際に、印刷版上の細かい非画像領域へ湿し水を素早く供給できないことから、良好な印刷物が得られず、生産性を向上させることが困難だった。
【0011】
さらに、アセチレングリコール酸化エチレン付加物を含む平版印刷用濃縮湿し水組成物が提案されている(特許文献3)。この界面活性剤は、版トレを起こしにくく、且つ、動的表面張力低下能に優れている。しかし、使用直後または長時間使用時の低泡性に劣るため、これまで以上の高速印刷をする際や、湿し水濾過装置の導入により同一の湿し水を繰り返し使用する際に、印刷版上の細かい非画像領域へ湿し水を素早く供給できないことから良好な印刷物が得られず、生産性を向上させることが困難だった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(式(1)で表される化合物)
R
1は、1個以上の側鎖を有する平均炭素数9〜11のアルキル基であり、すなわち、1個以上の側鎖を有する平均炭素数9〜11のアルコールから水酸基を除いた残基である。平均炭素数が8以下のアルコールを使用した場合には、表面張力が高くなったり、使用直後または長時間使用時の低泡性に劣るため好ましくない。また、側鎖を有さない平均炭素数9〜11のアルコールを使用した場合には、湿潤剤として作用するため界面に配向する際に、側鎖を有するアルコールを使用したものと比較して密に詰まる必要があることから、配向速度が遅くなり、結果として動的表面張力低下能に劣る。平均炭素数が11より大きいアルコールを使用した場合には、乳化性や洗浄性が強くなり、平版印刷湿し水用添加剤として用いた場合に版トレを引き起こす。
【0019】
本発明の観点からは、R
1の平均炭素数は、9〜10がさらに好ましい。また、R
1が有する側鎖は一個以上であるが、二個以上であることがさらに好ましく、三個以上であることがもっとも好ましい。また、R
1が有する側鎖の上限は六個であるが、四個以下が好ましい。また、R
1を構成する側鎖は、メチル基かエチル基が好ましく、メチル基がもっとも好ましい。
【0020】
具体的には、R
1を構成するアルキル基としては、プロピレン、ブテン、イソブチレンを用いてオキソ法によって製造される分岐型の飽和一級アルコール由来のアルキル基であり、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基、1個以上の側鎖を有する分岐ノニル基、1個以上の側鎖を有する分岐デシル基、1個以上の側鎖を有する分岐ドデシル基が挙げられ、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基が特に好ましい。
【0021】
潤滑剤を構成する式(1)の化合物は、単一化合物であってよく、あるいは、複数の式(1)の化合物の混合物であってよい。混合物の場合には、各化合物におけるR
1を構成するアルキル基の炭素数に、各化合物のモル分率を乗算し、平均炭素数を算出する。
【0022】
式(1)の化合物を得る原料アルコールは、平均して1個以上の側鎖を有する炭素数9〜11の脂肪族第1級アルコールが好ましく、2個以上の側鎖を有する炭素数9の脂肪族第1級アルコールがより好ましい。また、1個以上の側鎖を有する炭素数9〜11のアルコールは、炭素数が単一であっても、炭素数の異なるアルコールの混合物であってもよく、アルコールの化学構造は単一であっても、複数の異性体からなる混合物であってもよい。具体的なアルコールの例として、プロピレン、ブテン、イソブチレンを用いてオキソ法によって製造される、分岐型の飽和1級アルコールが挙げられる。該製法によって得られる市販品として、例えば、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1個以上の側鎖を有する1級分岐ノニルアルコール異性体、1個以上の側鎖を有する1級分岐デシルアルコール異性体、1個以上の側鎖を有する1級分岐ドデシルアルコール異性体が挙げられ、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1個以上の側鎖を有する1級ノニルアルコール異性体が好ましく、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノールが特に好ましい。なお、1個以上の側鎖を有する1級ノニルアルコール異性体、1個以上の側鎖を有する1級デシルアルコール異性体、1個以上の側鎖を有する1級ドデシルアルコール異性体はそれぞれ「イソノナノール」、「イソデカノール」、「イソドデシルアルコール」という化学名の異性体混合物にて各メーカーより販売されている。
【0023】
式(1)において、オキシエチレン基EOはエチレンオキシド由来の基である。
aは、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、3〜5が好ましい。aが3より小さい場合は、炭素数9〜11のアルキル基の性能が強くなることで乳化能が向上し、併せて後述の式(2)で表される化合物を用いる際にも透明な溶液を得られず、保管時や使用時に成分が分離したり、平版印刷湿し水用添加剤として用いた場合に版トレを引き起こしたりする。また、aが5より大きい場合は、親水性が強くなるため透明な溶液が得られるが、親水性が強くなりすぎることで、後述の式(2)で表される化合物を用いた際にも動的表面張力低下能が劣る。本発明の観点からは、aは3〜4がさらに好ましい。
【0024】
BOはオキシブチレン基であり、具体的には1,2−ブチレンオキシド由来のオキシブチレン基(1−エチルオキシエチレン基)または2,3−ブチレンオキシド由来のオキシブチレン基(1,2−ジメチルオキシエチレン基)である。BOは、特に好ましくは、1−エチルオキシエチレン基である。
【0025】
bは、オキシブチレン基BOの平均付加モル数を示す。bの範囲は、1〜2であり、1が特に好ましい。bが1より小さい場合は、使用直後または長時間使用時の起泡性が高くなるため好ましくない。また、bが2より大きい場合は、乳化性や洗浄性が強くなり、併せて後述の式(2)で表される化合物を用いる際にも透明な溶液を得られず、保管時や使用時に成分が分離したり、平版印刷湿し水用添加剤として用いた場合に版トレを引き起こしたりする。
【0026】
本発明の湿潤剤を水性インクや湿し水等に用いる場合、そのまま使用しても良いが、必要に応じて式(2)で表される化合物を水との相溶化剤として用いることが好ましい。
【0027】
(相溶化剤)
式(2)で表される相溶化剤を用いることにより、透明な濃縮溶液が得られ、保管時や使用時の成分の分離が防止され、また、平版印刷湿し水用添加剤として用いた場合に版トレを起こしにくくなるため好ましい。
【0028】
【化2】
(式(2)中、R
2は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、c=1〜3である。)
【0029】
R
2は、水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基である。炭素数1〜4のアルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0030】
式(1)で表される化合物や水との相溶性の観点から、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基である。オキシエチレン基はエチレンオキシド由来の基、オキシプロピレン基はプロピレンオキシド由来の基であり、好ましくはオキシエチレン基である。
【0031】
cは、炭素数2または3のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、AOが2種以上の場合は、合計平均付加モル数を示す。cの範囲は1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1がさらに好ましい。cが3より大きい場合、起泡性が高くなり、且つ水性インクや湿し水に用いる場合に粘度が高くなりすぎるため、好ましくない。
【0032】
式(2)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下を例示できる。
エチレングリコールおよびそのエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル)
ジエチレングリコールおよびそのエーテル(ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル)
トリエチレングリコールおよびそのエーテル(トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル)
プロピレングリコールおよびそのエーテル(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル)
ジプロピレングリコールおよびそのエーテル(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル)
トリプロピレングリコールおよびそのエーテル(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル)
【0033】
これらの中で、エチレングリコールのエーテル(特にエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−sec−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、プロピレングリコールのエーテル(特にプロピレングリコールモノメチルエーテル)、ジプロピレングリコールのエーテル(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)がより好ましく、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルが最も好ましい。これらは、単一でも2種以上を併用しても良い。
【0034】
(湿潤剤組成物)
また、上記式(2)で表される相溶化剤を併用する場合は、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び水の合計重量が100重量%となるように、各成分を配合することで、印刷用湿潤剤の機能を発現するが、各成分の配合比は下記が好ましい。
【0035】
すなわち、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び水の合計重量を100重量%としたとき、式(1)で表される化合物の含有量は、水及び式(2)で表される化合物との相溶性の観点から、0.5〜5重量%が好ましく、1〜4重量%がより好ましく、1〜3%がさらに好ましい。
【0036】
式(2)で表される化合物の含有量は、水及び式(1)で表される化合物との相溶性、粘度、起泡性の観点から、10〜50重量%が好ましく、15〜40重量%がより好ましく、15〜25重量%がさらに好ましい。
【0037】
式(2)で表される化合物及び水の合計重量を100重量%としたとき、水の含有量は、式(1)及び(2)で表される化合物の重量の残部である。一例を述べると、式(1)及び(2)で表される化合物との相溶性の観点から、45〜89.5重量%が好ましく、56〜84重量%がより好ましく、72〜84重量%がさらに好ましい。
【0038】
また、本発明の湿潤剤は平版印刷用の湿し水として
用いる。
更に、本発明の湿潤剤に対して、または上述の湿潤剤組成物に対して、他の添加剤を更に添加することもできる。こうした添加剤としては、アラビアガム、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子化合物、有機酸、無機酸およびこれらの塩等のpH調整剤、ブロモニトロアルコール系化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物等の防腐剤、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性の界面活性剤、エチレンジアミンテトラ酢酸およびその塩等のキレート化剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、シリコーン化合物等の消泡剤を例示できる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、合成品の分析は、
1H NMR測定により行った。
【0040】
以下に、表1に示す。各化合物の合成例を示す。
(化合物1)
5Lオートクレーブに、ノナノール(商品名、協和発酵ケミカル(株)製3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール)433g(3mol)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素置換後、撹拌しながら120℃に昇温した。次に滴下装置によりエチレンオキシド529g(12mol)を滴下し、1時間反応させた。続いて滴下装置により1,2−ブチレンオキシド216g(3mol)を滴下し、2時間反応させた。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過により塩を除去して、1060gの化合物1を得た。
【0041】
(化合物2、3、6、9)
上記合成例1に準じて、下記の表1に示す化合物2、3、6、及び9を合成した。
【0042】
(化合物4)
5Lオートクレーブに、オクタノール(商品名、協和発酵ケミカル(株)製2−エチルー1−ヘキサノール)391g(3mol)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素置換後、撹拌しながら120℃に昇温した。次に滴下装置によりエチレンオキシド529g(12mol)を滴下し、1時間反応させた。続いて滴下装置により1,2−ブチレンオキシド216g(3mol)を滴下し、2時間反応させた。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過により塩を除去して、1020gの化合物5を得た。
【0043】
(化合物5)
5Lオートクレーブに、ノナノール(商品名、協和発酵ケミカル(株)製3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール)433g(3mol)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素置換後、撹拌しながら120℃に昇温した。次に滴下装置によりエチレンオキシド529g(12mol)を滴下し、1時間反応させた。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過により塩を除去して、914gの化合物5を得た。
【0044】
(化合物10)
上記化合物4の合成例において、オクタノールの代わりにHDオセノール90/95V(商品名、コグニス社製オレイルアルコール)805gを用いた以外は同様の操作にて、1390gの化合物10を得た。
【0045】
また、その他の化合物として、下記の表1に示す化合物7及び8を用いた。
【0046】
【表1】
【0047】
(溶液調製と動的表面張力の測定)
表1の化合物、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル(ETB)、イオン交換水を表2に記載の比にて混合して濃縮液を調整した。調製した濃縮液をイオン交換水にて50倍に希釈して試験溶液を得た。
【0048】
また、表1に示した化合物を印刷用湿し水として用いた際に、湿し水の細かい非画像領域への供給され易さの指標として、試験溶液を用いて動的表面張力の測定を行った。
KRUSS社製バブルプレッシャー型動的表面張力計クルスBP−2を用いて、試験溶液の25℃における界面寿命10ms、100ms、1000msにおける試験溶液の表面張力を測定した。結果を表2に示す。
【0049】
(試験1:印刷版浸漬試験)
表1に示した化合物を印刷用湿し水として用いた際の版トレの有無を確認する指標として、試験溶液を用いて印刷版浸漬試験を下記の要領で行った。
50mLスクリュー管に試験溶液を35g入れ、15mm×70mmに裁断したサーマルCTP版(Kodak社製エクスサーモTP−W)の試験片を浸し、密封して40℃の恒温槽で4時間静置後、試験片を取り出し、剥がれ(版トレ)の有無を目視にて確認した。
【0050】
(試験2:起泡試験)
表1に示した化合物を印刷用湿し水として用い、印刷機を稼動させた際の起泡性を確認するモデル手段として、試験溶液を用いた起泡試験を下記の要領で行った。なお、起泡試験は印刷中、常に新たな界面が形成されることを考慮し、ディフーザーストーンを用いて一定時間経過後の発生した泡の体積を測定する方法によった。
【0051】
1リットル容トールメスシリンダーに、試験溶液200gを入れ、ディフーザーストーンを先端に取り付けた吹込み管をセットし、40℃で10分間保持した。その後、流量計を用いてディフーザーストーンより空気を毎分300mLで吹き込み、各時間における泡の上面の目盛りを測定し、表1に示した化合物を添加しなかったコントロールとの差を、発生した泡の体積とした。なお、起泡性が認められる場合、泡の体積は0cm
3より大きくなり、好ましくないことを示す。
【0052】
【表2】
【0053】
本発明の式(1)で表される化合物を用いた実施例1及び2は、いずれも透明な濃縮液が得られ、版トレも起こさず、優れた初期及び経時における低泡性と動的表面張力低下能を示した。
【0054】
比較例1では、式(1)のオキシエチレン基の平均付加モル数が本発明の範囲外のため、経時における低泡性が劣っていた。
比較例2では、式(1)のアルコールの炭素数が本発明の範囲外のため、経時における低泡性が劣っていた。
比較例3では、式(1)のオキシブチレン基を含んでいないため、初期及び経時における低泡性が劣っていた。
比較例4では、式(1)のオキシエチレン基の平均付加モル数が本発明の範囲外のため、経時における低泡性が劣っていた。
比較例5及び6では、式(1)の化合物を用いないため、初期及び経時における低泡性が劣っていた。
比較例7では、式(1)のオキシブチレン基の平均付加モル数が本発明の範囲外のため、透明な濃縮液が得られず版トレが確認された。
比較例8では、式(1)のアルコールの炭素数が本発明の範囲外のため、透明な濃縮液が得られず版トレが確認された。