特許第5953797号(P5953797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953797
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】半導体発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20160707BHJP
【FI】
   H01L33/50
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-32367(P2012-32367)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-168599(P2013-168599A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】定国 広宣
(72)【発明者】
【氏名】松村 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正裕
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−258281(JP,A)
【文献】 特開2007−103901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子の発光面に蛍光体シートを備えた半導体発光装置の製造方法であって、25℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であり、かつ100℃での貯蔵弾性率が0.1MPa未満である蛍光体シートを回路基板上に形成された複数の半導体発光素子に加熱しながら一括して貼り付ける工程、および前記複数の半導体発光素子の個片化と同時に一括して前記蛍光体シートを切断する工程を含む半導体発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体シートと前記半導体発光素子との間に接着層を含まない請求項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子の上部に蛍光体シートを被せた半導体発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED、Light Emitting Diode)は、その発光効率の目覚ましい向上を背景とし、低い消費電力、高寿命、意匠性などを特長として液晶ディスプレイ(LCD)のバックライト向けや、車のヘッドライト等の車載分野ばかりではなく一般照明向けでも急激に市場を拡大しつつある。
【0003】
LEDの発光スペクトルは、半導体発光素子(以後LEDチップと呼ぶ)を形成する半導体材料に依存するためその発光色は限られている。そのため、LEDを用いてLCDバックライトや一般照明向けの白色光を得るためにはLEDチップ上にそれぞれのチップに適合した蛍光体を配置し、発光波長を変換する必要がある。具体的には、青色発光するLEDチップ上に黄色蛍光体を設置する方法、青色発光するLEDチップ上に赤および緑の蛍光体を設置する方法、紫外線を発するLEDチップ上に赤、緑、青の蛍光体を設置する方法などが提案されている。これらの中で、LEDチップの発光効率やコストの面から青色LED上に黄色蛍光体を設置する方法、および青色LED上に赤および緑の蛍光体を設置する方法が現在最も広く採用されている。
【0004】
LEDチップ上に蛍光体を設置する具体的な方法の1つとして、LEDチップ上に、蛍光体シートを貼り合わせる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。この方法は、従来実用化されている蛍光体を分散した液状樹脂をLEDチップ上にディスペンスして硬化する方法と比較して、一定量の蛍光体をLEDチップ上に配置することが容易であり、結果として得られる白色LEDの色や輝度を均一にできる点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−233552号公報
【特許文献2】特開2009−94262号公報
【特許文献3】特許2011−222852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蛍光体シートをLEDチップに貼り合わせる方法は、前述のように液状蛍光体樹脂を用いるよりも色や輝度の安定化のためには優れた方法ではあるが、加工の難しさという問題を含んでいる。蛍光体シートをLEDチップの大きさに個片化するための切断加工が煩雑となる恐れがあり、また、LEDチップ上の電極部などに相当する部分には予め孔開け加工などを施す必要がある。そのために、加工性に優れる蛍光体シート材料を開発することが重要となる。
【0007】
一方で、半導体発光装置(以後LED装置と呼ぶ)において、蛍光体シートがLEDチップが発光している部分を完全に覆ってLEDチップからの光漏れを防止することが必須であり、かつ、蛍光体の使用量を最小限にすることが経済的に好ましい。
【0008】
特許文献1では、フリップチップ実装したLEDチップに、接着層を介して蛍光体シートを貼り付ける方法が開示されている。しかし、ここで開示された方法では、蛍光体シートとLEDチップとの位置合わせが難しいため、LEDチップの発光部分を蛍光体シートで完全に被覆できないということが起こりうる。
【0009】
また、特許文献2では、蛍光体シートでLEDチップの発光面に加えて側面まで覆う構成が開示されている。しかし、この構成では、蛍光体の使用量が増えてしまうため、発光装置の費用が高くなってしまう。
【0010】
さらに特許文献3では、接着層を介して蛍光体シートとLEDチップ、もしくはBステージの蛍光体シートとLEDチップとを貼り合わせた状態で、ダイシングで切断する方法が開示されている。しかし、接着層やBステージの蛍光体シートの室温での弾性率は低いと考えられ、室温での機械加工性は不明である。
【0011】
このように、LEDチップからの光漏れを防止し、かつ、蛍光体の使用を最小限に抑えられるLED装置を得ることは困難であった。本発明はかかる特性を両立するLED装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明は、半導体発光素子の発光面に蛍光体シートを備えた半導体発光装置の製造方法であって、25℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であり、かつ100℃での貯蔵弾性率が0.1MPa未満である蛍光体シートを回路基板上に形成された複数の半導体発光素子に加熱しながら一括して貼り付ける工程、および前記複数の半導体発光素子の個片化と同時に一括して前記蛍光体シートを切断する工程を含む半導体発光装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蛍光体シートがLEDチップを完全に覆うために、LEDチップからの光漏れを防止することができる。また蛍光体シートの面積を抑制することができるので、LED装置における蛍光体の使用量を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】蛍光体シートがLEDチップに積層された状態の上面図。
図2】蛍光体シートがLEDチップに積層された状態の側面図。
図3】本発明の樹脂積層シートによるLED装置製造工程の例。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における蛍光体シートは、LEDチップに波長変換層として貼り付けられて使用される。フリップチップ実装されたLEDチップにおいては、蛍光体シートがLEDチップの表面を完全に覆う状態となっているのが好ましい。一方、ワイヤーボンディングにて実装されたLEDチップにおいては、LEDチップの表面にワイヤーを接続させる電極が存在するため、蛍光体シートがLEDチップの電極部分を除く表面をより完全に覆う状態となっているのが好ましい。どちらのLED装置でも、LEDチップの縁が蛍光体シートに覆われていない長さmは、5μmを上回らないものであることが好ましく、1μmを上回らないものがより好ましい。
【0017】
LEDチップの縁が蛍光体シートに覆われていない長さmとは、図1に示したように、LEDチップの上面において、蛍光体シートの端部からLEDチップの辺に垂線を引いたときの距離と定義される。長さmは、LEDチップの周囲全体において5μmを上回らないものであることが好ましく、1μmを上回らないものがより好ましい。
【0018】
上記のようにLEDチップの表面を覆うことによって、LEDからの光漏れを防止することができる。
【0019】
また、蛍光体シートの縁がLEDチップからはみ出す長さnは、どちらの実装のLEDチップにおいても、5μmを上回らないものが好ましく、1μmを上回らないものがより好ましい。
【0020】
蛍光体シートのはみ出している部分は、波長変換に寄与する効果が期待できない上、蛍光体シートとLEDチップが、透明樹脂で封止される構成の時には、蛍光体シートのはみ出している部分が樹脂の封止を妨害して気泡が生じる場合があることから、はみ出す長さnはより短いことが好ましい。
【0021】
蛍光体シートの縁がLEDチップからはみ出す長さnとは、図2に示したように、蛍光体シートが積層されたLEDチップを各方向の側面から観察した時に、蛍光体シートの縁がLEDチップからはみ出す長さと定義される。長さnは、LEDチップの周囲全体において5μmを上回らないものであることが好ましく、1μmを上回らないものがより好ましい。
【0022】
LEDからの光漏れや、LED内部に気泡が生じると、LEDを点灯させたときの色合いが変化してしまうため、LEDの色温度ばらつきの原因となる。m及びnの値を上記の範囲内にすることによって、LEDの色温度ばらつきを抑制することができる。
本発明のLED装置に用いられる蛍光体シートは、主として樹脂と蛍光体を含むものであれば、特に限定されることなく様々なものを使用することが可能である。必要に応じその他の成分を含んでいても良い。本発明に使用される樹脂は、蛍光体を内部に含有させる樹脂であり、最終的にシートを形成する。よって、内部に蛍光体を均質に分散させられるものであり、シート形成できるものであれば、いかなる樹脂でも構わない。具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート樹脂、PET変性ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、変性アクリル、ポリスチレン樹脂及びアクリルニトリル・スチレン共重合体樹脂等が挙げられる。本発明においては、透明性の面からシリコーン樹脂やエポキシ樹脂が好ましく用いられる。更に耐熱性の面から、シリコーン樹脂が特に好ましく用いられる。
【0023】
本発明で用いられるシリコーン樹脂としては、硬化型シリコーンゴムが好ましい。一液型、二液型(三液型)のいずれの液構成を使用してもよい。硬化型シリコーンゴムには、空気中の水分あるいは触媒によって縮合反応を起こすタイプとして脱アルコール型、脱オキシム型、脱酢酸型、脱ヒドロキシルアミン型などがある。また、触媒によってヒドロシリル化反応を起こすタイプとして付加反応型がある。これらのいずれのタイプの硬化型シリコーンゴムを使用してもよい。特に、付加反応型のシリコーンゴムは硬化反応に伴う副成物がなく、硬化収縮が小さい点、加熱により硬化を早めることが容易な点でより好ましい。
【0024】
付加反応型のシリコーンゴムは、一例として、ケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する化合物と、ケイ素原子に結合した水素原子を有する化合物のヒドロシリル化反応により形成される。このような材料としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、プロペニルトリメトキシシラン、ノルボルネニルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン等のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する化合物と、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン-CO-メチルハイドロジェンポリシロキサン、エチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン-CO-メチルフェニルポリシロキサン等のケイ素原子に結合した水素原子を有する化合物のヒドロシリル化反応により形成されるものが挙げられる。また、他にも、例えば特開2010−159411号公報に記載されているような公知のものを利用することができる。
【0025】
これらの樹脂を適宜設計することで、室温(25℃)での貯蔵弾性率と高温(100℃)での貯蔵弾性率を制御し、本発明の実施に有用な樹脂が得られる。
【0026】
また、市販されているものとして、一般的なLED用途のシリコーン封止材から適切な貯蔵弾性率を持つものを選択して使用することも可能である。具体例としては、東レ・ダウコーニング社製のOE−6630A/B、OE−6520A/Bなどがある。
【0027】
また、添加剤として塗布膜安定化のための分散剤やレベリング剤、シート表面の改質剤としてシランカップリング剤等の接着補助剤等を添加することも可能である。また、蛍光体沈降抑制剤としてシリコーン微粒子等の無機粒子を添加することも可能である。
【0028】
これらの樹脂に、蛍光体を分散させた蛍光体シートの貯蔵弾性率を、25℃で0.5MPa以上、100℃で0.1MPa未満にすることが本発明において必須である。より望ましくは、25℃で0.5MPa以上、100℃で0.05MPa未満である。
【0029】
ここで言う貯蔵弾性率とは、動的粘弾性測定を行った場合の貯蔵弾性率である。動的粘弾性とは、材料にある正弦周波数で剪断歪みを加えたときに、定常状態に達した場合に現れる剪断応力を歪みと位相の一致する成分(弾性的成分)と、歪みと位相が90°遅れた成分(粘性的成分)に分解して、材料の動的な力学特性を解析する手法である。ここで剪断歪みに位相が一致する応力成分を剪断歪みで除したものが、貯蔵弾性率G’であり、各温度における動的な歪みに対する材料の変形、追随を表すものであるので、材料の加工性や接着性に密接に関連している。
【0030】
本発明における蛍光体シートについての場合は、25℃で0.5MPa以上の貯蔵弾性率を有することにより、室温(25℃)での金型打ち抜きによる孔開け加工や、刃体による切断加工にといった早い剪断応力に対してもシートが周囲の変形無しに孔開け、切断されるので高い寸法精度での加工性が得られる。室温における貯蔵弾性率の上限は本発明の目的のためには特に制限されないが、LED素子と貼り合わせた後の応力歪みを提言する必要性を考慮すると1GPa以下であることが望ましい。蛍光体シートの貯蔵弾性率が25℃で0.5MPa未満の場合、シート切断工程においてシートの周囲が変形する可能性があることから、半導体発光素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmや、半導体発光素子の縁において前記蛍光体シートがはみ出す長さnが5μmを上回る可能性が高くなる。
【0031】
また、100℃において貯蔵弾性率が0.1MPa未満であることによって、60℃〜250℃での加熱貼り付けを行えばLEDチップ表面の形状に対して素早く変形して追従し、高い接着力が得られるものである。100℃において0.1MPa未満の貯蔵弾性率が得られる蛍光体シートであれば、室温から温度を上げて行くに従い貯蔵弾性率が低下し、100℃未満でも貼り付け性は温度上昇と共に良好となるが実用的な接着性を得るためには60℃以上が好適である。またこのような蛍光体シートは100℃を超えて加熱することでさらに貯蔵弾性率の低下が進み、貼り付け性が良好になるが、250℃を超える温度では通常、樹脂の熱膨張、熱収縮や熱分解の問題が発生しやすい。従って好適な加熱貼り付け温度は60℃〜250℃である。100℃における貯蔵弾性率の下限は本発明の目的のためには特に制限されないが、LED素子上への加熱貼り付け時に流動性が高すぎると、貼り付け前に切断や孔開けで加工した形状が保持できなくなるので、0.001MPa以上であることが望ましい。
【0032】
蛍光体シートとして上記の貯蔵弾性率が得られるのであれば、そこに含まれる樹脂は未硬化または半硬化状態のものであってもよいが、以下の通りシートの取扱性・保存性等を考慮すると、含まれる樹脂は硬化後のものであることが好ましい。樹脂が未硬化、もしくは半硬化状態であると、蛍光体シートの保存中に室温で硬化反応が進み、貯蔵弾性率が適正な範囲から外れる恐れがある。これを防ぐためには樹脂は硬化完了しているかもしくは室温保存で1ヶ月程度の長期間、貯蔵弾性率が変化しない程度に硬化が進行していることが望ましい。
【0033】
蛍光体は、LEDチップから放出される青色光、紫色光、紫外光を吸収して波長を変換し、LEDチップの光と異なる波長の赤、橙色、黄色、緑色、青色領域の波長の光を放出するものである。これにより、LEDチップから放出される光の一部と、蛍光体から放出される光の一部とが混合して、白色を含む多色系のLEDが得られる。具体的には、青色系LEDにLEDからの光によって黄色系の発光色を発光する蛍光体を光学的に組み合わせることによって、単一のLEDチップを用いて白色系を発光させることができる。
【0034】
上述のような蛍光体には、緑色に発光する蛍光体、青色に発光する蛍光体、黄色に発光する蛍光体、赤色に発光する蛍光体等の種々の蛍光体がある。本発明に用いられる具体的な蛍光体としては、有機蛍光体、無機蛍光体、蛍光顔料、蛍光染料等公知の蛍光体が挙げられる。有機蛍光体としては、アリルスルホアミド・メラミンホルムアルデヒド共縮合染色物やペリレン系蛍光体等を挙げることができ、長期間使用可能な点からペリレン系蛍光体が好ましく用いられる。本発明に特に好ましく用いられる蛍光物質としては、無機蛍光体が挙げられる。以下に本発明に用いられる無機蛍光体について記載する。
【0035】
緑色に発光する蛍光体として、例えば、SrAl:Eu、YSiO:Ce,Tb、MgAl1119:Ce,Tb、SrAl1225:Eu、(Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1以上)Ga:Euなどがある。
【0036】
青色に発光する蛍光体として、例えば、Sr(POCl:Eu、(SrCaBa)(POCl:Eu、(BaCa)(POCl:Eu、(Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1以上)Cl:Eu,Mn、(Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1以上)(POCl:Eu,Mnなどがある。
【0037】
緑色から黄色に発光する蛍光体として、少なくともセリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム酸化物蛍光体、少なくともセリウムで賦括されたイットリウム・ガドリニウム・アルミニウム酸化物蛍光体、少なくともセリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット酸化物蛍光体、及び、少なくともセリウムで賦活されたイットリウム・ガリウム・アルミニウム酸化物蛍光体などがある(いわゆるYAG系蛍光体)。具体的には、Ln12:R(Lnは、Y、Gd、Laから選ばれる少なくとも1以上である。Mは、Al、Caの少なくともいずれか一方を含む。Rは、ランタノイド系である。)、(Y1−xGa(Al1−yGa12:R(Rは、Ce、Tb、Pr、Sm、Eu、Dy、Hoから選ばれる少なくとも1以上である。0<Rx<0.5、0<y<0.5である。)を使用することができる。
【0038】
赤色に発光する蛍光体として、例えば、YS:Eu、LaS:Eu、Y:Eu、GdS:Euなどがある。
【0039】
また、現在主流の青色LEDに対応し発光する蛍光体としては、Y(Al,Ga)12:Ce,(Y,Gd)Al12:Ce,LuAl12:Ce,YAl12:CeなどのYAG系蛍光体、TbAl12:CeなどのTAG系蛍光体、(Ba,Sr)SiO:Eu系蛍光体やCaScSi12:Ce系蛍光体、(Sr,Ba,Mg)SiO:Euなどのシリケート系蛍光体、(Ca,Sr)Si:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSiAlN:Eu等のナイトライド系蛍光体、Cax(Si,Al)12(O,N)16:Euなどのオキシナイトライド系蛍光体、さらには(Ba,Sr,Ca)Si:Eu系蛍光体、CaMgSi16Cl:Eu系蛍光体、SrAl:Eu,SrAl1425:Eu等の蛍光体が挙げられる。
【0040】
これらの中では、YAG系蛍光体、TAG系蛍光体、シリケート系蛍光体が、発光効率や輝度などの点で好ましく用いられる。
【0041】
上記以外にも、用途や目的とする発光色に応じて公知の蛍光体を用いることができる。
【0042】
蛍光体の粒子サイズは、特に制限はないが、D50が0.05μm以上のものが好ましく、3μm以上のものがより好ましい。また、D50が30μm以下のものが好ましく、20μm以下のものがより好ましい。ここでD50とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算が50%となるときの粒子径のことをいう。D50が前記範囲であると、蛍光体シート中の蛍光体の分散性が良好で、安定な発光が得られる。
【0043】
本発明では、蛍光体の含有量が蛍光体シート全体の53重量%以上であることが好ましく、57重量%以上であることがより好ましく、60重量%であることがさらに好ましい。蛍光体シート中の蛍光体含有量を前記範囲とすることで、蛍光体シートの耐光性を高めることができる。なお、蛍光体含有量の上限は特に規定されないが、作業性に優れた蛍光体シートが作成しやすいという観点から、蛍光体シート全体の95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましく、85重量%以下であることがさらに好ましく、80重量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
本発明における蛍光体シートの膜厚は、蛍光体含有量と、所望の光学特性から決められる。蛍光体含有量は上述のように作業性の観点から限界があるので、膜厚は10μm以上あることが好ましい。また、本発明における蛍光体シートは蛍光体含有量が多いことから、膜厚が厚い場合でも耐光性に優れる。一方で、蛍光体シートの光学特性・耐熱性を高める観点からは、蛍光体シートの膜厚は1000μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。蛍光体シートを1000μm以下の膜厚にすることによって、バインダ樹脂による光吸収や光散乱を低減することができるので、光学的に優れた蛍光体シートとなる。
【0045】
本発明における蛍光体シートの膜厚は、JIS K7130(1999)プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法における機械的走査による厚さの測定方法A法に基づいて測定される膜厚(平均膜厚)のことをいう。
【0046】
耐熱性とはLEDチップ内で発生した熱に対する耐性を示す。耐熱性は、LEDを室温で発光させた場合と高温で発光させた場合の輝度を比較し、高温での輝度がどの程度低下するかを測定することによって評価することができる。
【0047】
LEDは小さな空間で大量の熱が発生する環境にあり、特に、ハイパワーLEDの場合、発熱が顕著である。このような発熱によって蛍光体の温度が上昇することでLEDの輝度が低下する。したがって、発生した熱をいかに効率良く放熱するかが重要である。本発明においては、シート膜厚を前記範囲とすることで耐熱性に優れたシートを得ることができる。また、シート膜厚にバラツキがあると、LEDチップごとに蛍光体量に違いが生じ、結果として、発光スペクトル(色温度、輝度、色度)にバラツキが生じる。従って、シート膜厚のバラツキは、好ましくは±5%以内、さらに好ましくは±3%以内である。なお、ここでいう膜厚バラツキとは、JIS K7130(1999)プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法における機械的走査による厚さの測定方法A法に基づいて膜厚を測定し、下記に示す式にて算出される。
【0048】
より具体的には、機械的走査による厚さの測定方法A法の測定条件を用いて、市販されている接触式の厚み計などのマイクロメーターを使用して膜厚を測定して、得られた膜厚の最大値あるいは最小値と平均膜厚との差を計算し、この値を平均膜厚で除して100分率であらわした値が膜厚バラツキB(%)となる。
【0049】
膜厚バラツキB(%)={(最大膜厚ズレ値*−平均膜厚)/平均膜厚}×100
*最大膜厚ズレ値は膜厚の最大値または最小値のうち平均膜厚との差が大きい方を選択する。
【0050】
本発明における蛍光体シートの作製方法を説明する。なお、以下は一例であり蛍光体シートの作製方法はこれに限定されない。まず、蛍光体シート形成用の塗布液として蛍光体を樹脂に分散した溶液(以下「シート作成用蛍光体分散」という)を作製する。シート作成用蛍光体分散樹脂は蛍光体と樹脂を適当な溶媒中で混合することによって得られる。付加反応型シリコーン樹脂を用いる場合は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する化合物と、ケイ素原子に結合した水素原子を有する化合物を混合すると、室温でも硬化反応が始まることがあるので、さらにアセチレン化合物などのヒドロシリル化反応遅延剤をシート作成用蛍光体分散樹脂に配合して、ポットライフを延長することも可能である。また、添加剤として塗布膜安定化のための分散剤やレベリング剤、シート表面の改質剤としてシランカップリング剤等の接着補助剤等をシート作成用蛍光体分散樹脂に混合することも可能である。また、蛍光体沈降抑制剤としてアルミナ微粒子、シリカ微粒子、シリコーン微粒子等をシート作成用蛍光体分散樹脂に混合することも可能である。
【0051】
流動性を適切にするために溶媒を加えて溶液とすることもできる。溶媒は流動状態の樹脂の粘度を調整できるものであれば、特に限定されない。例えば、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、アセトン、テルピネオール等が挙げられる。
【0052】
これらの成分を所定の組成になるよう調合した後、ホモジナイザー、自公転型攪拌機、3本ローラー、ボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル等の撹拌・混練機で均質に混合分散することで、シート作成用蛍光体分散樹脂が得られる。混合分散後、もしくは混合分散の過程で、真空もしくは減圧条件下で脱泡することも好ましく行われる。
【0053】
次に、シート作成用蛍光体分散樹脂を基材上に塗布し、乾燥させる。塗布は、リバースロールコーター、ブレードコーター、スリットダイコーター、ダイレクトグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、リバースロールコーター、ブレードコーター、キスコーター、ナチュラルロールコーター、エアーナイフコーター、ロールブレードコーター、バリバーロールブレードコーター、トゥーストリームコーター、ロッドコーター、ワイヤーバーコーター、アプリケーター、ディップコーター、カーテンコーター、スピンコーター、ナイフコーター等により行うことができる。蛍光体シート膜厚の均一性を得るためにはスリットダイコーターで塗布することが好ましい。また、本発明における蛍光体シートはスクリーン印刷やグラビア印刷、平版印刷などの印刷法を用いても作製することもできる。印刷法を用いる場合には、特にスクリーン印刷が好ましく用いられる。
【0054】
シートの乾燥は熱風乾燥機や赤外線乾燥機等の一般的な加熱装置を用いて行うことができる。シートの加熱硬化には、熱風乾燥機や赤外線乾燥機等の一般的な加熱装置が用いられる。この場合、加熱硬化条件は、通常、40〜250℃で1分〜5時間、好ましくは100℃〜200℃で2分〜3時間である。
【0055】
基材としては、特に制限無く公知の金属、フィルム、ガラス、セラミック、紙等を使用することができる。具体的には、アルミニウム(アルミニウム合金も含む)、亜鉛、銅、鉄などの金属板や箔、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、アラミドなどのプラスチックのフィルム、前記プラスチックがラミネートされた紙、または前記プラスチックによりコーティングされた紙、前記金属がラミネートまたは蒸着された紙、前記金属がラミネートまたは蒸着されたプラスチックフイルムなどが挙げられる。また、基材が金属板の場合、表面にクロム系やニッケル系などのメッキ処理やセラミック処理されていてもよい。これらの中でも、蛍光体シートをLED素子に貼りつける際の密着性から、基材は柔軟なフィルム状であることが好ましい。また、フィルム状の基材を取り扱う際に破断などの恐れがないように強度が高いフィルムが好ましい。それらの要求特性や経済性の面で樹脂フィルムが好ましく、これらの中でも、経済性、取り扱い性の面でPETフィルムが好ましい。また、樹脂の硬化や蛍光体シートをLEDに貼り合わせる際に200℃以上の高温を必要とする場合は、耐熱性の面でポリイミドフィルムが好ましい。シートの剥離のし易さから、基材は、あらかじめ表面が離型処理されていてもよい。
【0056】
基材の厚さは特に制限はないが、下限としては25μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。また、上限としては1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。
【0057】
本発明ではLEDチップにシートを貼り付ける際に、加熱して貼り付ける。加熱温度は、60℃以上250℃以下が望ましく、より望ましくは60℃以上150℃以下である。60℃以上にすることで、室温と貼り付け温度での弾性率差を大きくするための樹脂設計が容易となる。また、250℃以下にすることで、基材および蛍光体シートの熱膨張、熱収縮を小さくすることができるので、貼り合わせの精度を高めることができる。特に、蛍光体シートに予め孔開け加工を施して、LED素子上の所定部分と位置合わせを行う場合などには貼り合わせの位置精度は重要である。貼り合わせの精度を高めるためには150℃以下で貼り合わせることがより好適である。さらに、本発明によるLED装置の信頼性向上のためには、蛍光体シートとLEDチップの間に応力歪みが無いことが好ましい。そのため、貼り合わせ温度はLED装置の動作温度近辺、好ましくは動作温度の±20℃以内にしておくことが好ましい。LED装置は、点灯時には80℃〜130℃まで温度が上昇する。よって、動作温度と貼り合わせ温度を近づける意味でも、貼り合わせ温度は60℃以上150℃以下が望ましい。従って、100℃で十分に低貯蔵弾性率化するように設計された蛍光体シートの特性が重要である。
【0058】
本発明においては、蛍光体シート自身が接着層としての役割をはたすために、これとは別に接着層を用意する必要がない。また、接着層をあえて用いる場合は、蛍光体シートと貯蔵弾性率を合わせることが好ましい。
【0059】
蛍光体シートをLEDチップに貼り合わせる方法としては、蛍光体シートを個片に切断してから、個別のLEDチップに貼り合わせる方法と、ウェハレベル等、複数のLED素子に蛍光体シートを貼り付けてからウェハのダイシング等、素子の個片化と同時に一括して蛍光体シートを切断する方法があるが、本発明においては、複数のLED素子に蛍光体シートを貼り付けてから素子の個片化と同時に一括して蛍光体シートを切断する方法が好適に用いられる。この方法を用いることにより、切断プロセス短縮化のみならず、蛍光体シートとLED素子との位置合わせが必要ないので、m及びnの値を少なくとも5μmを上回らないようにすることが可能である。もちろん、もっと小さい値、例えば1μmを上回らないようにすることも可能であるし、特に精度を高めればほぼ0にすることも可能である。位置合わせを含むプロセスでは、5〜10μm程度の位置合わせばらつきを生じる可能性が高くなる。
【0060】
以下、ウェハレベルのLEDチップを用いた例によりその方法を具体的に説明する。ウェハレベルのLEDチップに蛍光体シートを一括して貼り付ける際には、100mm角程度の加熱部分を有する加熱圧着ツールなどで貼り合わせ、高温で蛍光体シートをLEDチップに熱融着させてから、室温まで放冷し、基材を剥離する。本発明のような温度と弾性率の関係を持たせることで、熱融着後に室温まで放冷却したあとの蛍光体シートはLED素子に強固に密着しつつ、基材から容易に剥離することが可能となる。
【0061】
蛍光体シートを切断加工する方法について説明する。蛍光体シートは、前述のとおり、ウェハレベルのLED素子に蛍光体シートを貼り付けてからウェハのダイシングと同時に一括して蛍光体シートを切断する。レーザーによる加工は、高エネルギーが付与されるので樹脂の焼け焦げや蛍光体の劣化を回避することが非常に難しく、刃物による切削が望ましい。刃物で切断する上で加工性を向上するために、蛍光体シートの25℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが非常に重要となる。刃物での切削方法としては、単純な刃物を押し込んで切る方法と、回転刃によって切る方法があり、いずれも好適に使用できる。回転刃によって切断する装置としては、ダイサーと呼ばれる半導体基板を個別のチップに切断(ダイシング)するのに用いる装置が好適に利用できる。ダイサーを用いれば、回転刃の厚みや条件設定により、分割ラインの幅を精密に制御できるため、単純な刃物の押し込みにより切断するよりも高い加工精度が得られる。
【0062】
蛍光体シートとウェハを貼り合わせ後に一括してダイシングする工程の一例を図3に示す。図3の工程には、複数のLED素子に蛍光体シートを加熱して一括して貼り付ける工程、および蛍光体シートとLED素子を一括ダイシングする工程が含まれる。図3の工程では、本発明における蛍光体シート1は予め切断加工することなく、図3の(a)に示すように蛍光体シート1の側をダイシング前のLED素子が設けられたウェハ3に対向させて位置合わせする。次に(b)に示すように、加熱圧着ツール6により蛍光体シート1とダイシング前のLED素子ウェハ3を圧着する。このとき、蛍光体シート1とLED素子3の間に空気を噛み込まないように、圧着工程は真空下あるいは減圧下で行うことが好ましい。圧着後に室温まで放冷し、(c) に示すように基材5を剥離した後、ウェハ3をダイシングすると同時に、蛍光体シート1を切断して個片化し、(d)に示すように個片化された蛍光体シート付きLEDチップを得る。
【0063】
LEDチップを回路基板上にワイヤーボンディングにて実装する場合には、電極部分の蛍光体シートを除去するために蛍光体シートの貼り合わせ前に予めその部分に孔開け加工をしておくことが望ましい。孔開け加工はレーザー加工、金型パンチングなどの公知の方法が好適に使用できるが、レーザー加工は樹脂の焼け焦げや蛍光体の劣化を引き起こすので、金型によるパンチング加工がより望ましい。パンチング加工を実施する場合、蛍光体シートをLEDチップに貼り付けた後ではパンチング加工は不可能であるので、蛍光体シートには貼り付け前にパンチング加工を施すことが必須となる。金型によるパンチング加工は、貼り合わせるLEDチップの電極形状などにより任意の形状や大きさの孔を開けることができる。孔の大きさや形状は金型を設計すれば任意のものが形成できるが、1mm角内外のLEDチップ上の電極接合部分は、発光面の面積を小さくしないためには500μm以下であることが望ましく、孔径はその大きさに合わせて500μm以下で形成される。また、ワイヤーボンディングなどを行う電極はある程度の大きさが必要であり、少なくとも50μm程度の大きさとなるので、孔径はその大きさに合わせて50μm程度である。孔の大きさは電極より大きすぎると、発光面が露出して光漏れが発生し、LED発光装置の色特性が低下する。また、電極より小さすぎると、ワイヤーボンディング時にワイヤーが触れて接合不良を起こす。従って、孔開け加工は孔径50μm以上500μm以下という小さい孔を±10%以内の高精度で加工する必要があり、パンチング加工の精度を向上するためにも、蛍光体シートの25℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが非常に重要となる。
【0064】
孔開け加工を施した蛍光体シートを、LED素子ウェハに位置合わせして貼り合わせる場合には、光学的な位置合わせ(アラインメント)機構を持つ、貼り合わせ装置が必要となる。このとき、蛍光体シートとLED素子ウェハを近接させて位置合わせすることは作業的に難しく、実用的には蛍光体シートとLED素子ウェハを軽く接触させた状態で位置合わせを行うことが良く行われる。このとき、蛍光体シートが粘着性を持っていると、LED素子ウェハに接触させて動かすことは非常に困難である。本発明における蛍光体シートであれば、室温で位置合わせを行えば粘着性がないので、蛍光体シートとLED素子ウェハを軽く接触した位置合わせを行うことが容易である。
【0065】
LEDチップを回路基板上にフリップチップ実装する場合には、LEDチップの底面と回路基板をバンプ等を通じて接合するため、上記のような孔開け加工をする必要がない。したがって、ワイヤーボンディングによる実装よりも工程を短縮することができる。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
<シリコーン樹脂>
シリコーン樹脂1:OE6520(東レ・ダウコーニングシリコーン)
シリコーン樹脂2:OE6630(東レ・ダウコーニングシリコーン)
シリコーン樹脂3:X−32−2528(信越化学工業)
シリコーン樹脂4:KER6075(信越化学工業)
<動的弾性率測定>
測定装置 :粘弾性測定装置ARES−G2(TAインスツルメンツ製)
ジオメトリー:平行円板型(15mm)
ひずみ :1%
角周波数 :1Hz
温度範囲 :25℃〜140℃
昇温速度 :5℃/分
測定雰囲気 :大気中
<動的粘弾性測定の測定サンプル調整>
シリコーン樹脂1〜4それぞれを30重量部、蛍光体“NYAG−02”(Intematix社製:CeドープのYAG系蛍光体、比重:4.8g/cm、D50:7μm)を70重量部で混合した蛍光体シート用樹脂液を、“セラピール”BLK(東レフィルム加工株式会社製)を基材として、スリットダイコーターで塗布して厚さ100μmの膜を成膜した。この作業をシリコーン樹脂1〜4のそれぞれについて行った。成膜温度はシリコーン1,2,4は120℃で1時間。シリコーン3は、半硬化状態で使用するシリコーン接着剤であるので120℃で10分加熱した。
【0068】
得られた厚さ100μmの膜を8枚積層し、100℃のホットプレート上で加熱圧着して800μmの一体化した膜(シート)を作製し、直径15mmに切り抜いて測定サンプルとした。
【0069】
各シート(蛍光体70重量%含有)の室温(25℃)、100℃、140℃における貯蔵弾性率を表1に示した。
【0070】
<接着性試験>
基材に積層した蛍光体シートを、LED素子に100℃または150℃で貼り合わせて所定の時間圧着後に、室温に戻し、基材を剥がしたとき、蛍光体シートが全てLED素子に接着して基材上に残らない最小の時間を接着可能時間とした。加熱圧着時間が100℃、10分以内で蛍光体シートが全てLED素子に接着して基材上に残らないものを接着性Aとし、100℃、10分以内で接着しないが150℃にて10分以内で接着するものを接着性Bとし、150℃で10分より加熱圧着してもLED素子上に接着しないかあるいは部分的に接着しても一部が基材上に残るような場合は、接着性C(接着不良)とした。
【0071】
(実施例1)
容積300mlのポリエチレン製容器を用いて、シリコーン樹脂1を30重量%、蛍光体として“NYAG−02”(Intematix社製:CeドープのYAG系蛍光体、比重:4.8g/cm、D50:7μm)を70重量%の比率で混合した。
【0072】
その後、遊星式撹拌・脱泡装置“マゼルスターKK−400”(クラボウ製)を用い、1000rpmで20分間撹拌・脱泡してシート作成用蛍光体分散樹脂を得た。スリットダイコーターを用いてシート作成用蛍光体分散樹脂を、基材として“セラピール”BLK(東レフィルム加工株式会社製)上に塗布し、120℃で1時間加熱、乾燥して膜厚90μm、100mm角の蛍光体シートを得た。
【0073】
100mm角の蛍光体シートを、青色LED素子4インチウェハ表面に蛍光体シート面が接触するように配置した。基材側から100℃の加熱プレートで8分間圧着させた試料を室温に戻した後、基材を剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED上に完全に接着し、基材には蛍光体シートが全く残ること無くきれいに剥がすことができ、接着性は良好であった。
【0074】
次いで、青色LED素子のウェハを、裏面(蛍光体シートを貼り付けた面の反対面)から、ダイシング装置(DISCO製)で、ウェハと蛍光体シートを一括して1mm角の大きさにダイシングした。切断面はバリや欠けが無い良好な形状であり、切断箇所の再付着なども発生しなかった。
【0075】
同様に作製した1mm角の蛍光体シート付LEDチップサンプル10個に関して、SEMを用いて上方、および側方4方向から各チップサンプルの端部を観察し、LED素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmと、LED素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さnを求め、10個のサンプルにおいてその平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0076】
LEDチップを、バンプを通じて基板と接合した後、同一の蛍光体シート付LEDを透明樹脂で封止したものを10個作成し、直流電源につないで点灯させ、10個全てが点灯することを確認した。色彩照度計(コニカミノルタCL200A)で10個のサンプル全ての相関色温度(CCT)を計測し、その最大値と最小値の差を色温度ばらつきとして評価した。結果を表2に示す。
【0077】
(実施例2)
実施例1と同様にして蛍光体シートを得た。その後、蛍光体シートに金型パンチング装置(UHT社製)で直径200μmの孔を打ち抜いたところ、孔開け加工性は良好であった。100mm角の蛍光体シートを、青色LED素子4インチウェハ表面に蛍光体シート面が接触するように配置した。蛍光体シートの孔とLEDチップの表面電極を位置合わせして、基材側から100℃の加熱プレートで8分間圧着させた試料を室温に戻した後、基材を剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED上に完全に接着し、基材には蛍光体シートが全く残ること無くきれいに剥がすことができ、接着性は良好であった。
【0078】
次いで、青色LED素子のウェハを、裏面(蛍光体シートを貼り付けた面の反対面)から、ダイシング装置(DISCO製)で、ウェハと蛍光体シートを一括してダイシングした。切断面はバリや欠けが無い良好な形状であり、切断箇所の再付着なども発生しなかった。
【0079】
同様に作製した1mm角の蛍光体シート付LEDチップサンプル10個に関して、SEMを用いて上方、および側方4方向から各チップサンプルの端部を観察し、LED素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmと、LED素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さnを求め、10個のサンプルにおいてその平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0080】
LEDチップの表面電極をワイヤーボンディング後、同一の蛍光体シート付LEDを透明樹脂で封止したものを10個作成し、直流電源につないで点灯させ、10個全てが点灯することを確認した。色彩照度計(コニカミノルタCL200A)で10個のサンプル全ての相関色温度(CCT)を計測し、その最大値と最小値の差を色温度ばらつきとして評価した。結果を表2に示す。
【0081】
(実施例3)
シリコーン樹脂1の代わりにシリコーン樹脂2を用いて実施例1と同様にして蛍光体シートを得た。100mm角の蛍光体シートを、青色LED素子4インチウェハ表面に蛍光体シート面が接触するように配置した。基材側から100℃の加熱プレートで8分間圧着させた試料を室温に戻した後、基材を剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED上に完全に接着し、基材には蛍光体シートが全く残ること無くきれいに剥がすことができ、接着性は良好であった。
【0082】
次いで、青色LED素子のウェハを、裏面(蛍光体シートを貼り付けた面の反対面)から、ダイシング装置(DISCO製)で、ウェハと蛍光体シートを一括してダイシングした。切断面はバリや欠けが無い良好な形状であり、切断箇所の再付着なども発生しなかった。
【0083】
同様に作製した1mm角の蛍光体シート付LEDチップサンプル10個に関して、SEMを用いて上方、および側方4方向から各チップサンプルの端部を観察し、LED素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmと、LED素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さnを求め、10個のサンプルにおいてその平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0084】
LEDチップを、バンプを通じて基板と接合した後、同一の蛍光体シート付LEDを透明樹脂で封止したものを10個作成し、直流電源につないで点灯させ、10個全てが点灯することを確認した。色彩照度計(コニカミノルタCL200A)で10個のサンプル全ての相関色温度(CCT)を計測し、その最大値と最小値の差を色温度ばらつきとして評価した。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例1)
シリコーン樹脂1の代わりにシリコーン樹脂3を用いて、シート作成用蛍光体含有シリコーン樹脂を作製し、基材として“セラピール”BLK(東レフィルム加工株式会社製)上に塗布し、120℃で10分加熱、乾燥して膜厚90μm、100mm角の蛍光体シートを得た。実施例2と同様にして蛍光体シートに直径200μmの孔を打ち抜いたところ、シリコーン樹脂3の室温での弾性率が低すぎて粘着性を有するために金型に付着し、これにより加工後の孔の直径平均値は設計に対して大幅に小さくなった。
【0086】
実施例2と同じダイボンディング装置を用い青色LED素子上に100℃で10秒間熱圧着を行い、基材を剥離し、150℃で30分間の熱硬化を行った。室温に戻した後、基材を剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED上に完全に接着し、基材には蛍光体シートが全く残ること無くきれいに剥がすことができ、接着性は良好であった。
【0087】
次いで、青色LED素子のウェハを、裏面(蛍光体シートを貼り付けた面の反対面)から、ダイシング装置(DISCO製)で、ウェハと蛍光体シートを一括してダイシングしたところ、切断面はバリが発生している箇所が半数ほどあり、切断箇所が再付着している部分もあった。
【0088】
同様に作製した1mm角の蛍光体シート付LEDチップサンプル10個に関して、SEMを用いて上方、および側方4方向から各チップサンプルの端部を観察し、LED素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmと、LED素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さnを求め、10個のサンプルにおいてその平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0089】
LEDチップの表面電極をワイヤーボンディングしたところ、予め蛍光体シートに加工してある孔のサイズが小さく、一部のワイヤーボンダーが接触した。ワイヤーボンディング後に樹脂封止したものを10個作成し、直流電源につないで点灯させたが、10個のうち3つが接合不良で点灯できなかった。サンプルの作製個数を増やし、正常に点灯する蛍光体シート付きLED発光装置を10個得て、色彩照度計(コニカミノルタCL200A)で10個のサンプル全ての相関色温度(CCT)を計測し、その最大値と最小値の差を色温度ばらつきとして評価した。結果を表2に示したとおり、mの値は5.4μm、nの値は6.1μmと5μmを上回り、その結果、色温度ばらつきも110Kと大きくなってしまった。
【0090】
(比較例2)
シリコーン樹脂1の代わりにシリコーン樹脂4を用いてシート作成用蛍光体含有シリコーン樹脂を作製し、基材として“セラピール”BLK(東レフィルム加工株式会社製)上に塗布し、120℃で10分加熱、乾燥して膜厚90μm、100mm角の蛍光体シートを得た。
【0091】
実施例1と同じダイボンディング装置を用い、100mm角の蛍光体シートを、青色LED素子4インチウェハ表面に蛍光体シート面が接触するように配置し、150℃で10分間熱圧着させた。室温に戻した後、ベースフィルムを剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED素子ウエハとの接着が不完全で、基材と共にLED素子ウエハ上から剥がれてしまい、LEDチップとしての評価は不可能であった。
【0092】
(比較例3)
シリコーン樹脂1の代わりにシリコーン樹脂4を用いて実施例1と同様に蛍光体シートを得た。その上に蛍光体を含まないシリコーン樹脂3をスリットダイコーターで塗布し、120℃で10分加熱、乾燥し、膜厚90μmの蛍光体シートの上に、膜厚10μmの接着層を形成した積層型の蛍光体シートを得た。
【0093】
青色LED素子4インチウェハ表面に、100mm角の蛍光体シートを配置し、8分間圧着した。基材を剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED上に完全に接着し、基材には蛍光体シートが全く残ること無くきれいに剥がすことができ、接着性は良好であった。
【0094】
次いで、青色LED素子のウェハを、裏面(蛍光体シートを貼り付けた面の反対面)から、ダイシング装置(DISCO製)で、ウェハと蛍光体シートを一括してダイシングしたところ、切断面はバリが発生している箇所が半数ほどあり、切断箇所が再付着している部分もあった。
【0095】
同様に作製した1mm角の蛍光体シート付LEDチップサンプル10個に関して、SEMを用いて上方、および側方4方向から各チップサンプルの端部を観察し、LED素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmと、LED素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さnを求め、10個のサンプルにおいてその平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0096】
LEDチップを、バンプを通じて基板と接合した後、同一の蛍光体シート付LEDを透明樹脂で封止したものを10個作成し、直流電源につないで点灯させ、10個全てが点灯することを確認した。色彩照度計(コニカミノルタCL200A)で10個のサンプル全ての相関色温度(CCT)を計測し、その最大値と最小値の差を色温度ばらつきとして評価した。結果を表2に示したとおり、mの値は5.1μm、nの値は6.3μmと5μmを上回り、その結果、色温度ばらつきも105Kと大きくなってしまった。
【0097】
(比較例4)
実施例1と同様にして蛍光体シートを得た。次に、蛍光体シートをカッティング装置(UHT社製GCUT)により1mm角×10000個に個片化した。蛍光体シート、基材を共に切断して完全に個片化した。切断面はバリや欠けが無い良好な形状であり、切断箇所の再付着なども発生しなかった。1mm角にカットした蛍光体シートを、同様にあらかじめ1mm角にカットされた青色LEDチップが実装された基板のチップ表面に、蛍光体シート面が接触するように配置した。ダイボンディング装置(東レエンジニアリング製)を用いて、蛍光体シートとLEDチップの表面電極を位置合わせして、基材側から100℃の加熱ヘッドで押圧して接着したところ、接着可能時間は8分間であった。8分間圧着した試料を室温に戻した後、基材を剥がしたところ、蛍光体シートは青色LED上に完全に接着し、基材には蛍光体シートが全く残ること無くきれいに剥がすことができ、接着性は良好であった。
【0098】
同様に作製した1mm角の蛍光体シート付LEDチップサンプル10個に関して、SEMを用いて4方向から各チップサンプルの端面を観察し、LED素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さmと、LED素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さnを求め、10個のサンプルにおいてその平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0099】
同一の蛍光体シート付LEDを透明樹脂で封止したものを10個作成し、直流電源につないで点灯させ、10個全てが点灯することを確認した。色彩照度計(コニカミノルタCL200A)で10個のサンプル全ての相関色温度(CCT)を計測し、その最大値と最小値の差を色温度ばらつきとして評価した。結果を表2に示したとおり、蛍光体シートとLEDチップの位置合わせがばらついたことによって、mの値は6.8μm、nの値は6.7μmと5μmを上回り、その結果、色温度ばらつきも115Kと大きくなってしまった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【符号の説明】
【0102】
1 蛍光体シート
2 半導体発光素子の縁において蛍光体シートに覆われていない長さm
3 ウェハ
4 半導体発光素子の縁において蛍光体シートがはみ出す長さn
5 基材
6 加熱圧着ツール
図1
図2
図3