特許第5953846号(P5953846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953846ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953846
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20160707BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20160707BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20160707BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20160707BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20160707BHJP
   C08K 5/52 20060101ALI20160707BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C08L53/00
   C08L23/12
   C08L23/08
   C08L23/16
   C08K3/32
   C08K5/52
   C08L27/18
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-59846(P2012-59846)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-194077(P2013-194077A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 正之
(72)【発明者】
【氏名】中森 和伸
(72)【発明者】
【氏名】今村 五士
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256248(JP,A)
【文献】 特開2008−163157(JP,A)
【文献】 特開2009−173892(JP,A)
【文献】 特開2006−124505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L53/00−53/02
C08L23/02−23/16
C08L27/18
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物全量基準で、成分(A)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を10〜62重量%、成分(B)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分のプロピレン単独重合体を10〜25重量%、成分(C)のリン酸塩系難燃剤を18〜35重量%、成分(D)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を5〜15重量%および成分(E)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2g/10分のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを5〜15重量%含有し、さらに、成分(A)〜(E)の合計100重量部に対して、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を0又は0.01〜3重量部含有することを特徴とするブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
成分(A)〜(E)の合計100重量部に対して、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を0.01〜3重量部含有することを特徴とする請求項1に記載のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物をブロー成形してなることを特徴とする難燃性ブロー成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体に関し、さらに詳しくは、低比重、剛性、耐衝撃性、耐熱性、溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性に優れた大型ブロー成形体を成形するのに適し、かつ難燃性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロー成形等に用いられる樹脂は、おしなべて溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性に優れていることが必須である。一般に、ポリプロピレンは、耐熱性や平滑性・光沢等の表面品質には優れているが、ブロー成形時の耐ドローダウン性が不良であり、特に、長手方向の寸法が1.3m以上のような長尺成形体のブロー成形用材料に用いた場合には、ドローダウンに起因して成形品の肉厚が不均一になる問題が顕在化している。
従来より、成形体に高度な耐衝撃性を付与することが要求されていることから、ポリプロピレン樹脂に、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを配合したり、また、剛性や耐熱性を付与することが要求されていることから、無機充填材を配合したりすることが開示されている。(特許文献1、2等参照。)。
しかしながら、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを配合すると、剛性が低下したり、表面平滑性が悪化したりする問題があり、一方、無機充填材を配合すると、成形体の重量が増したり、耐ドローダウン性が悪化したりする問題があった。
【0003】
また、耐ドローダウン性、表面平滑性や塗装密着性を付与する方法として、ポリプロピレン樹脂に、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(SEBS等)を配合することが開示されている(特許文献3参照。)。
しかしながら、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を配合すると剛性の低下は避けられず、剛性の低下を補うための無機充填材の配合が必要であった。
上記の課題解決のために、特定の性状を有する結晶性プロピレン単独重合体等とプロピレンホモポリマー等とからなるポリプロピレン樹脂材料に対して、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物又は特定のエチレン重合体樹脂を配合することで、無機充填材の配合を控えても、剛性、耐熱性に優れ、無機充填材の配合が抑えられて低比重化が達成されるポリプロピレン樹脂組成物が開示されている(特許文献4、5参照。)。
また、特許文献6には、Mw/Mnが1〜9のプロピレンホモポリマー単体、又はこれにMw/Mnが5〜20かつ前記プロピレンホモポリマーよりも大きい結晶性プロピレン単独重合体を含むポリプロピレン樹脂材料に、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物、及びエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを配合した特定の特性を有するポリプロピレン組成物を使用することにより、高い溶融張力を保持しつつ、低密度、高剛性、耐熱性、塗装性が向上したブロー成形体が開示されている。
しかしながら、上記特許文献4〜6に開示されたポリプロピレン樹脂組成物も、難燃剤が配合されていないために難燃性が不十分であり、また、これらの樹脂に難燃剤を配合した場合の各種物性の挙動については、以下に記載の通り、何らかの性能の低下が起こることが予想されるが、これらの文献においては、何ら検証されていない。
【0004】
一方、前記の通り、プラスチック材料を原料とする成形体からなる製品では、使用における安全性などのために、難燃化の要請が以前から強くなされている。そのため、汎用性の高い熱可塑性樹脂(及びそのエラストマー)の難燃化には、大別して樹脂自体を難燃化するか、或いは樹脂への難燃剤を配合する方法が主に採用されており、その内でも、比較的簡易で難燃化が可能な難燃剤配合による方法が、広く用いられている。
【0005】
上記難燃剤としては、酸化アンチモンとハロゲン化物とを組み合わせたハロゲン系難燃剤、リン系などの有機系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム又はこれらと炭酸マグネシウムとの配合物などの無機系難燃剤等が、用途や要求性能に応じて使い分けられている。
ところが、近年では、ハロゲン系難燃剤では、火災時におけるハロゲン系の有害ガスが発生するという問題が、有機系難燃剤においては、成形体表面への難燃剤のブリードアウト(滲出)による外観品質の悪化等の問題が顕在化している。そして、いずれの難燃剤であっても、充分な難燃性を付与するためには、相応の配合量が必要となり、その結果、柔軟性、耐摩耗性、耐白化性、機械的強度(特に、引張破壊伸度)などの樹脂成分固有の諸性能が低下するといった欠点を生じている。
【0006】
上記の課題などの解決のために、本来、耐摩耗性や耐熱性などの諸特性に優れるポリプロピレン樹脂を用い、上記したような難燃処方を施したポリプロピレン系樹脂組成物について各種の提案がなされている(特許文献7、8など参照。)。
例えば、上記特許文献7には、プロピレン−エチレンブロックコポリマーとエチレン−酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物とを配合した耐摩耗性の難燃性樹脂組成物が開示されているが、可撓性等において、未だ十分であるとはいえるものではない。
また、上記特許文献8には、プロピレン−エチレンブロックコポリマーとポリオレフィン系エラストマーと金属水酸化物とを配合し、難燃剤の分散性をも良好にした難燃性で耐摩耗性の樹脂組成物も開示されているが、耐摩耗性の改善は、みられるとしても、大型ブロー成形体を成形するのに必要な物性である溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性を充分満足できるまでに至っていない。
【0007】
また、難燃性の評価基準には、樹脂自身が燃え難いという特性の他、燃焼あるいは溶融状態の樹脂がドリップしないこと、又はドリップして他の物に燃え広がり難いという特性(所謂、ドリップ防止性)が要求されている。
テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)は、熱可塑性樹脂に少量添加することにより、熱可塑性樹脂の難燃化におけるドリップ防止性(滴下防止効果)が大きくなることが知られている。一般に、熱可塑性樹脂に、PTFEを添加する場合は、PTFEの融点が熱可塑性樹脂の加工温度より高いためにPTFEの融点以下で混練される。PTFEは、せん断力を受けることにより容易に繊維化したり、凝集しやすく、熱可塑性樹脂に混練り添加されたPTFEは、ネットワーク状に繊維化して滴下防止などの効果を発揮すると、言われている。
特許文献9には、ポリオレフィンの難燃性を向上させるために、特定のリン酸塩系難燃剤と、PTFEなどのドリップ防止剤とを、組み合わせて使用する方法が開示されているが、この方法でも、十分な難燃性と剛性や大型ブロー成形体を成形するのに必要な物性である溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性を保持した組成物は、達成されていない。
【0008】
上記のように、ポリプロピレンの難燃性を充分に高めても、ブロー成形時の溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性と優れた曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性とを有するポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体は、未だ実現されず、その開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−197542号公報
【特許文献2】特開平3−59049号公報
【特許文献3】特開平7−316361号公報
【特許文献4】特開2009−173892号公報
【特許文献5】特開2009−173904号公報
【特許文献6】特開2011−256248号公報
【特許文献7】特開2000−86858号公報
【特許文献8】特開2000−26696号公報
【特許文献9】特開2003−26935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、低比重、剛性、耐熱性、溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性に優れた大型ブロー成形体を成形するのに適し、かつ難燃性に優れたブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、樹脂として、特定のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体(A)と特定のプロピレンホモポリマー(B)との特定の割合での組み合わせを用いて、さらに、配合材(剤)として、リン酸塩系難燃剤(C)、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)および特定のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)を、或いは、さらに、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)(F)を、それぞれ特定の割合で含有させてなるポリプロピレン系樹脂組成物により、ブロー成形時の溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性と、曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性に優れ、しかも、難燃性にも優れることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
特に、本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、リン酸塩系難燃剤(C)を所定量用いることにより、難燃性を付与した上で、更に各種機械的物性バランスが良好で、大型ブロー成形体を成形するのに必要な物性である溶融延展性及び耐ドローダウン性を低下させることなく、溶融張力を向上させることに、成功した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、樹脂組成物全量基準で、成分(A)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を10〜62重量%、成分(B)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分のプロピレン単独重合体を10〜25重量%、成分(C)のリン酸塩系難燃剤を18〜35重量%、成分(D)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を5〜15重量%および成分(E)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2g/10分のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを5〜15重量%含有し、さらに、成分(A)〜(E)の合計100重量部に対して、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を0又は0.01〜3重量部含有することを特徴とするブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(A)〜(E)の合計100重量部に対して、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を0.01〜3重量部含有することを特徴とするブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0014】
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明に係るブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物をブロー成形してなることを特徴とする難燃性ブロー成形体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、ブロー成形時の溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性と、曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性に優れ、また、難燃性にも優れる。そのため、低比重、剛性、耐熱性、溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性および難燃性に優れた大型ブロー成形体を成形するのに好適である。
また、本発明の難燃性ブロー成形体は、曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性に優れると共に、難燃性にも優れることから、大型ブロー成形体の用途であるパレット、自動車用バンパー、建機、農機用のルーフ、ボンネット、バッテリーケース、エンジンカバー、フェンダー、外装パネル等の部品、製品等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる難燃性ブロー成形体について、項目毎に詳細に説明する。
【0017】
I.ブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、樹脂組成物全量基準で、成分(A)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を10〜62重量%、成分(B)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分のプロピレン単独重合体を10〜25重量%、成分(C)のリン酸塩系難燃剤を18〜35重量%、成分(D)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を5〜15重量%および成分(E)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2g/10分のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを5〜15重量%含有すること、或いは、成分(A)〜(E)の合計100重量部に対して、さらに、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を0.01〜3重量部含有することを特徴とし、曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性と溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性、難燃性などに優れるものである。
【0018】
1.成分(A):プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体(A)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、樹脂成分の一つとして用いられる成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体(以下、成分(A)とも略称する。)は、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)(以下、MFRとも記載する。)が0.05〜2.5g/10分である限り、特に限定されず、一般的に、プロピレン系樹脂組成物に用いられる公知のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を使用することができる。
成分(A)のMFRは、0.05〜2.5g/10分、好ましくは0.1〜1.5g/10分、より好ましくは0.1〜1.0g/10分である。MFRが2.5g/10分を超えると、耐ドローダウン性が低下するおそれがある。一方、MFRが0.05g/10分未満であると、溶融延展性が低下する場合がある。
ここで、MFRは、JIS K7210:1999の「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、230℃、2.16荷重で測定した値である。
【0019】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体におけるα−オレフィンとしては、プロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンを用いるのが好ましく、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができ、好ましくは、エチレンである。
また、プロピレンと共重合させるプロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンであるコモノマーは、1種を用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の好ましい態様であるプロピレン・エチレンブロック共重合体は、結晶性プロピレン単独重合体部分40〜99重量%とプロピレンエチレンランダム共重合体部分1〜60重量%の割合で共重合したものが好ましい。ここでいう「結晶性プロピレン単独重合体部分」とは、所謂プロピレン単独重合体のみならず、微量のα−オレフィン、通常は7重量%以下、好ましくは5重量%以下のα−オレフィンをコモノマーとして用いて得られた結晶性プロピレン重合体も含めるものとする。プロピレン・エチレンブロック共重合体全体に対する結晶性プロピレン単独重合体部分の割合は、40〜99重量%が好ましく、60〜97重量%がより好ましく、さらに好ましくは70〜95重量%である。一方、プロピレンエチレン共重合体部分の割合は、1〜60重量%が好ましく、3〜40重量%がより好ましく、さらに好ましくは5〜30重量%である。結晶性プロピレン単独重合体部分40〜99重量%とプロピレンエチレン共重合体部分1〜60重量%の割合で共重合したものを用いることにより、溶融張力と溶融延展性のバランスが良好となるので好ましい。
【0021】
また、本発明において、成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン・α−オレフィン共重合体部分は、プロピレンと、プロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンをコモノマーとする共重合体であって、プロピレン含量が10〜40重量%(すなわちコモノマーであるα−オレフィンの含量が60〜90重量%)が好ましく、より好ましくはプロピレン含量が20〜35重量%(すなわちコモノマーであるα−オレフィンの含量が65〜80重量%)である。プロピレンとプロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンをコモノマーとする共重合体のプロピレン含量が10〜40重量%(すなわちコモノマーのα−オレフィン含量が60〜90重量%)であると、溶融延展性が良好となり好ましい。
【0022】
さらに、本発明において、成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、好ましくは曲げ弾性率が900〜1500MPaであり、より好ましくは1000〜1500MPa、さらに好ましくは1100〜1500MPaである。曲げ弾性率がこの範囲であれば剛性の低下がなく、耐衝撃性が低下しない。
ここで、曲げ弾性率は、JIS K7171:2008(ISO178)の「プラスチック−曲げ特性の求め方」に準拠して、測定した値である。
【0023】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、樹脂組成物全量基準で、成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の含有量は、10〜62重量%であり、好ましくは24〜58重量%、より好ましくは32〜53重量%である。成分(A)の含有量が10重量%未満であると、ドローダウン性及び溶融延展性が失われる場合があり、一方、62重量%を超えると、剛性が乏しくなるおそれがある。なお、成分(A)を使用するに際しての好ましい範囲は上記の通りであるが、後記の通り、成分(B)〜成分(E)の使用する範囲を各々好ましい範囲と変更した場合は、これら成分(B)〜成分(E)の合計量の残部に、成分(A)を使用し、成分(A)〜成分(E)の合計が100重量%となるようにする。
【0024】
2.成分(B):プロピレン単独重合体(B)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、成分(B)のプロピレン単独重合体(所謂、プロピレンホモポリマー)(以下、成分(B)とも略称する。)は、MFR(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2.5g/10分である限り、特に限定されず、一般的に、プロピレン系樹脂組成物に用いられる公知のプロピレン単独重合体を使用することができる。成分(B)のプロピレン単独重合体には、本発明の目的を著しく損なわない範囲で、エチレン、1−ブテン等のコモノマーが1重量%未満程度でもって共重合されたプロピレン系共重合体も、実質的に含まれる。
成分(B)のMFRは、0.05〜2.5g/10分、好ましくは0.1〜1.5g/10分、より好ましくは0.1〜1.0g/10分である。MFRが2.5g/10分を超えると、耐ドローダウン性が低下するおそれがある。一方、MFRが0.05g/10分未満であると、溶融延展性が低下する場合がある。
【0025】
尚、成分(A)や成分(B)のポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)の調整は、従来から公知の方法で可能であり、通常は、ポリプロピレン系樹脂の重合条件である温度や圧力を調節したり、重合時に添加する水素等の連鎖移動剤の添加量を制御することにより、容易に行うことができる。例えば、成分(A)のMFRを所定の範囲とするためには、通常は重合温度は40〜90℃、重合圧力は、大気圧に対する相対圧力で0.5〜4.0MPa、水素を連鎖移動剤とする場合には、使用するオレフィンの総量に対して水素を0.01〜1.0mol%の範囲とすればよく、成分(B)のMFRを所定の範囲とするためには、通常、重合温度は40〜90℃、重合圧力は、大気圧に対する相対圧力で0.5〜4.0MPa、水素を連鎖移動剤とする場合には、プロピレンに対して水素を0.01〜1.0mol%の範囲とすればよい。
また、成分(A)や成分(B)としては多くの会社から種々の製品(例えば、日本ポリプロ株式会社製、ノバテックPPシリーズ等)が市販されており、これら市販品の中から所望の物性を満足する製品を入手し、使用することもできる。
【0026】
また、本発明において、成分(B)のプロピレン単独重合体は、好ましくは曲げ弾性率が1800〜2600MPaであり、より好ましくは2000〜2600MPa、さらに好ましくは2200〜2600MPaである。曲げ弾性率がこの範囲であれば剛性の低下がなく、耐衝撃性が低下しない。
【0027】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、樹脂組成物全量基準で、成分(B)のプロピレン単独重合体の含有量は、10〜25重量%であり、好ましくは12〜24重量%、より好ましくは15〜23重量%である。成分(B)の含有量が10重量%未満であると、十分な剛性を発現することができない場合があり、一方、25重量%を超えると、耐衝撃性、溶融延展性が乏しくなるおそれがある。
【0028】
3.成分(C):リン酸塩系難燃剤(C)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、成分(C)のリン酸塩系難燃剤(以下、成分(C)とも略称する。)は、リン酸塩系難燃剤であれば、特に限定されず、一般的にポリオレフィン用の難燃剤として用いられるものであれば、いずれも用いることができる。本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、リン酸塩系難燃剤(C)を所定量用いることにより、難燃性を付与した上で、更に各種機械的物性バランスが良好で、大型ブロー成形体を成形するのに必要な物性である溶融延展性及び耐ドローダウン性を低下させることなく、溶融張力を向上させることに成功した。
具体的には、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、ポリリン酸メラミン塩、オルトリン酸メラミン塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のリン酸塩化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0029】
上記リン酸塩化合物の例示において、メラミン、ピペラジンの代わりに、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、エチレンジジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−ジエチルエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3−ヘキシレンジメランミン等を置き換えた化合物も、同様に使用できる。
市販品としては、株式会社ADEKA製のアデカスタブFP2000、FP2100、FP2100J、FP2200、FP2200J、およびポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0030】
特に、難燃性の面では、(ポリ又はピロ)リン酸とジアミンの塩と、リン酸・トリアジン誘導体塩やリン酸アンモニウム塩化合物とを、組み合わせたものが好ましい。上記のリン酸・ジアミン塩の好ましいものとしては、リン酸ピペラジン塩が挙げられ、具体的には、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、ポリリン酸ピペラジン塩等が挙げられる。また、上記リン酸・トリアジン誘導体塩は、好ましくはリン酸・トリアジン化合物塩であり、例えば、リン酸メラミン塩の場合は、リン酸とメラミンを任意の反応比率で反応させて得ることができる。本発明で好ましく使用されるリン酸メラミン塩の具体例としては、オルトリン酸メラミン塩、ピロリン酸メラミン塩、ポリリン酸メラミン塩などが挙げられる。
この組み合わせたものの市販品としては、例えば、アデカスタブFP2100J、FP2200J(商品名、ADEKA(株)製)がある。
【0031】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、樹脂組成物全量基準で、成分(C)のリン酸塩系難燃剤の含有量は、18〜35重量%であり、好ましくは18〜30重量%、より好ましくは18〜25重量%である。成分(C)の含有量が18重量%未満であると、十分な難燃効果が得られず、一方、35重量%を超えると、難燃効果が飽和するので添加量に対して得られる効果が少なくなるうえに、樹脂組成物の機械的物性が悪くなるおそれがある。
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、リン酸塩系難燃剤(C)を上記の範囲で用いることにより、難燃性を付与した上で更に各種機械的物性バランスが良好で、大型ブロー成形体を成形するのに必要な物性である溶融延展性及び耐ドローダウン性を低下させることなく、溶融張力を向上させることができる。
なお、これらのリン酸塩系難燃剤(C)は、多くの会社から種々の製品が販売されており(例えば、ADEKA社製、アデカスタブ等)が市販されており、これら市販品の中から所望の物性を満足する製品を入手し、使用することもできる。
【0032】
4.成分(D):スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物に用いられる成分(D)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(以下、成分(D)とも略称する。)は、共役ジエンとして、ブタジエン、イソプレン等を使用したブロック共重合体の水素添加物であり、例えば、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)やスチレン・エチレン・プロピレン・スチレン(SEPS)の他、スチレンとブタジエン及びイソプレンの併用ブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。ここでスチレンとしては、α−メチルスチレンやp−メチルスチレン等のスチレン誘導体を使用することもできる。
【0033】
本発明において、成分(D)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物は、特に制限はないが、JIS K7112での密度が0.90〜0.92g/cmであり、スチレン含有量が31〜40重量%、BMS0380法による粘度が1.5Pa・s程度であるものが望ましい。
これらスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物を添加することにより、溶融張力が向上して、ブロー成形での耐ドローダウン性が改善され、大型ブロー成形に非常に有効である。ただし、この成分(D)を含有することによって、溶融破断速度が低下し、伸びにくくなるため、深絞り形状や複雑な形状の金型などブロー比が大きい中空成形の場合、パリソン破れや成形品が偏肉するなどの延展性が低下することがあるので、組成物の経済性が損なわれない程度に、配合することが好ましい。
【0034】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、樹脂組成物全量基準で、成分(D)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物の含有量は、5〜15重量%であり、好ましくは5〜10重量%、より好ましくは6〜8重量%である。成分(D)の含有量が5重量%未満であると、十分な耐ドローダウン性が得られない場合があり、一方、15重量%を超えると、溶融延展性が悪くなるおそれがある。
なお、これらのスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)は、多くの会社から種々の製品が販売されており(例えば、クレイトンポリマーズ製、クレイトンシリーズ等)が市販されており、これら市販品の中から所望の物性を満足する製品を入手し、使用することもできる。
【0035】
5.成分(E):エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、用いられる成分(E)のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(以下、成分(E)とも略称する。)は、メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が0.05〜2g/10分である限り、特に限定されず、一般的に、プロピレン系樹脂組成物に用いられる公知のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを使用することができる。
本発明において用いられる成分(E)のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムは、α−オレフィンとして、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を使用した共重合体ゴムであって、第三成分として、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン,1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエンを含有成分とする三元共重合体ゴムであってもよい。
【0036】
これらエチレン・α−オレフィン系重合体ゴム(E)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、0.05〜2g/10分であり、好ましくは0.1〜1.5g/10分、より好ましくは0.5〜1.0g/10分である。
MFRが上記範囲であれば、樹脂組成物の耐ドロ−ダウン性が低下することが抑えられるので好ましい。本発明において使用するエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)は、密度が好ましくは0.800〜0.880g/cm、より好ましくは0.850〜0.870g/cmである。
なお、これらのエチレン・α−オレフィン系重合体ゴム(E)は、多くの会社から種々の製品が販売されており(例えば、ダウケミカル日本製、エンゲージシリーズ等)が市販されており、これら市販品の中から所望の物性を満足する製品を入手し、使用することもできる。
【0037】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、樹脂組成物全量基準で、成分(E)のエチレン・α−オレフィン系重合体ゴムの含有量は、5〜15重量%であり、好ましくは7〜12重量%、より好ましくは8〜12重量%である。成分(E)の含有量が5重量%未満であると、耐衝撃性、溶融延展性の効果が乏しくなる場合があり、一方、15重量%を超えると、溶融張力及び剛性が低下する傾向となり、更に、経済的に不利である。
【0038】
6.成分(F):テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)(F)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、所望により、用いられる成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)(以下、成分(F)とも略称する。)は、燃焼時のドリップ性(滴下防止性)等の一層の改良が期待できるために、樹脂組成物に、好ましく配合され、テトラフルオロエチレンの単独重合体またはテトラフルオロエチレンを主成分とする共重合体である。
【0039】
テトラフルオロエチレンと共重合するコモノマーとしては、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10重量%以下であることが好ましい。
テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)の市販品としては、ダイキン工業製・ポリフロンFA500、三菱レイヨン製メタブレンA3000等、が挙げられる。
【0040】
また、ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液の市販原料としては、旭硝子フロロポリマー社製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業社製のポリフロンD−1、D−2、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J等を代表例として挙げることができる。
PTFE粒子の水性分散液は、含フッ素界面活性剤を用いる乳化重合法によって、テトラフルオロエチレンモノマーと、要すれば適宜のコモノマーを重合することにより得られる。PTFE粒子の水性分散液の粒子径は0.05〜1.0μmが好ましい。
【0041】
PTFE粒子の水性分散液は、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固した後に乾燥するか、スプレードライにより粉体化することができる。得られた粉体を、酸化防止剤、安定剤、滑剤等の成形助剤と共にポリプロピレンなどのマトリクス樹脂に配合し、溶融混練することによって、PTFEマスターバッチを調整することができる。
本発明においては、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)は、PTFE単独の粉状体として使用することもできるが、均一分散が困難である場合、後述するPTFEマスターバッチとして用いることが好ましい。
【0042】
場合によっては、PTFE粒子の水性分散液中で重合性ビニル化合物を重合することによって、PTFEを変性することができる。この際に得られるPTFE変性物は、PTFEとビニル化合物の重合体との均一な混合物を形成しており、ポリプロピレンとの混合性を向上する上に効果的である。
【0043】
上記重合性ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン単量体等を挙げることができる。なかでも極性基を有する(メタ)アクリルモノマーが好ましい。
これらの単量体は、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。変性PTFE中のPTFE含有量は、通常1〜90重量%の範囲から選択される。
【0044】
アクリルモノマーで変性されたPTFEの市販品としては、三菱レイヨン社製の熱可塑性樹脂用改質剤(メタブレンA−3000)などが挙げられる。
【0045】
PTFEは、成分(A)や成分(B)のポリプロピレン系樹脂材料との溶融混練に際し、せん断力によりフイブリル化し繊維状のネットワーク構造を採るので、溶融樹脂の溶融張力を向上させる作用がある。このフイブリルを効率よく発生、分散させるためにPTFEを特殊なアクリル樹脂で変性した物が好ましい。
【0046】
本発明において、PTFEは、マトリクス樹脂と共に溶融混練したマスターバッチの形態で使用されることもできる。マスターバッチとしないで、PTFE単独の粉状体として使用した場合は、ポリプロピレン系樹脂材料との複合時に成形体全体に均一分散されないため、有効に滴下防止効果が発揮されないおそれがある。
マスターバッチは、ポリプロピレン樹脂等のマトリクス成分に、変性された、或いは変性されていないPTFE粉状品とを、適当量混合し、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーで混合した後、二軸押し出し機等を用いて適当な溶融条件下でペレット化することで製造される。この際、酸化防止剤、滑剤、光安定剤など各種添加剤を同時に配合することができる。
【0047】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物では、成分(F)のテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)の含有量は、前記の成分(A)〜(E)の合計100重量部に対して、PTFE単独の粉状体またはPTFEマスターバッチなどの形態で、PTFEとして、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.1〜1.0重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部である。PTFEの含有量が0.01重量部未満では、燃焼時のドリップ性の改良効果や十分な溶融張力の発現が不十分な場合があり、一方、3重量部を超えると、機械物性の低下や外観を悪化させる傾向があり、経済的にも不利である場合が多い。
【0048】
7.その他の添加剤(G)
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、通常、ポリプロピレン系樹脂に用いられる任意成分である添加剤(G)を、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜配合することができる。
添加剤(G)としては、例えば、造核剤、分子量調節剤、発泡剤、顔料、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、中和剤、金属不活性化剤、安定剤、抗菌剤、無機充填剤等を挙げることができる。
【0049】
例えば、上記無機充填剤としては、具体的に、タルク、硫酸バリウム、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラス繊維、ウイスカー等を挙げることができる。
上記無機充填剤を、単独又は併用して添加することにより、例えば、ポリプロピレン系樹脂材料100重量部に対して、無機充填剤1〜250重量部、好ましくは5〜200重量部の範囲で添加することにより、ポリプロピレン系樹脂組成物に、剛性、重質感及び耐衝撃性を付与することができる。
【0050】
8.ブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の調製方法
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の調製方法としては、成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体と成分(B)のプロピレン単独重合体からなるポリプロピレン系樹脂材料のパウダーまたはペレットに、直接、所定量のリン酸塩系難燃剤(C)、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)、および所望により、PTFE(またはそのマスターバッチ)(F)、さらに、必要に応じて用いる添加剤(G)を加える方法、或いは、ポリプロピレン系樹脂材料(A+B)のパウダー、リン酸塩系難燃剤(C)、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)、および所望により、PTFE(F)、さらに必要に応じて用いる添加剤(G)を含有するマスターバッチをあらかじめ調製しておき、該マスターバッチを、ポリプロピレン系樹脂材料(A+B)のペレットに、加える方法等を挙げることができる。
【0051】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、成分(A)のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体と成分(B)のプロピレン単独重合体からなるポリプロピレン系樹脂材料(A+B)、リン酸塩系難燃剤(C)、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)、および所望により、PTFE(またはそのマスターバッチ)(F)、さらに、必要に応じて用いる添加剤(G)を混合した後、溶融混練することによって得られる。
混合には、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリューブレンダー、リボンブレンダーなどの公知の方法が適用できる。溶融混練は、例えば、溶融押出機、バンバリーミキサーなどを用い、ポリプロピレン系樹脂材料(A+B)の融点以上の温度で溶融混練する方法であれば、特に限定されない。
【0052】
II.難燃性ブロー成形体およびその用途
本発明の難燃性ブロー成形体は、前記のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を公知のブロー成形機を用いたブロー成形によって得ることができる。
ブロー成形の成形条件としては、成形温度が120〜250℃、吹込圧力2〜10kg/cm、ブロー比が1.2〜5.0の条件下で実施されることが好ましい。
【0053】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、大型で複雑な形状品のブロー成形に適したものであるので、それから得られる本発明の難燃性ブロー成形体は、曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性に優れると共に、難燃性にも優れることから、大型ブロー成形体の用途であるパレット、自動車用バンパー、バッテリーケース、建機、農機用のルーフ、ボンネット、エンジンカバー、フェンダー、外装パネル等の部品、製品等に好適である。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、以下に示す実施例は、本発明の実施態様の一例であり、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した原材料の各成分の名称、物性等を下記に示した。
【0055】
<使用した原材料>
1.ポリプロピレン系樹脂材料
PP1:日本ポリプロ社製、ノバッテクPP「EC9」(MFR0.5g/10分、融点161℃、曲げ弾性率1200MPa、結晶性プロピレン単独重合体部分95重量%、プロピレンエチレンランダム共重合体部分5重量%、コモノマー中のα−オレフィン含量が70重量%のプロピレン・エチレンブロック共重合体。)
PP2:日本ポリプロ社製、ノバッテクPP「BC5CW」(MFR3.0g/10分、曲げ弾性率1500MPa、プロピレン・エチレンブロック共重合体。)
PP3:日本ポリプロ社製、ノバテックPP「EA9FT」(MFR0.5g/10分、融点168℃、曲げ弾性率2300MPaのプロピレンホモポリマー。)
【0056】
2.リン酸塩系難燃剤(C)
C−1:ADEKA社製のアデカスタブ「FP2100J」(ピロリン酸ピベラジン/ピロリン酸メラミン=60/40重量比)
【0057】
3.スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(D)
D−1:密度が0.91g/cm、スチレン含有量32重量%、BMS0380法による粘度1.5Pa・sであるスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(クレイトンポリマーズ製、クレイトンG1651)
【0058】
4.エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(E)
E−1:MFR(230℃、2.16kg)が1g/10分、MFR(190℃、2.16kg)が0.5g/10分で、密度が0.868g/cmのエチレン・オクテン共重合体ゴム(EOR、ダウケミカル日本製エンゲージ8150)
【0059】
5.テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)(F)
F−1:テトラフルオロエチレン樹脂(四フッ化エチレン粉体)の粉末(PTFE、ダイキン社製、「ポリフロンFA500」)
【0060】
6.その他の添加剤(G)
ポリプロピレン系樹脂組成物には、ポリプロピレン系樹脂(A+B)100重量部に対して、更に、付加的添加剤として、酸化防止剤(G−1:BASF社製、イルガノックス1010)を0.1重量部、リン系熱安定剤(G−2:BASF社製、イルガホス168)を0.1重量部それぞれ配合した。
【0061】
以下の実施例及び比較例におけるポリプロピレン系樹脂組成物の調製は、下記の通りである。
ヘンシェルミキサーに、表1,2に示す所定量の各成分(A)〜(F)、及び任意成分(G)を一括して投入し、3分間、充分に撹拌混合を行った。得られた配合組成物を、押出機(日本製鋼社製、径30mm2軸押出機)を用いて、設定温度200℃、樹脂温度200℃で溶融混練し、ペレット状のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0062】
以下の実施例及び比較例における物性評価方法は、下記の通りである。
(1)メルトフローレート(MFR)[単位:g/10分]:
JIS K7210:1999「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。
【0063】
(2)難燃性(燃焼試験)
樹脂温度220〜240℃で成形した射出成形シート(東芝社製、IS100射出成形機を用いて、125mm×15mm×3mmtに成形)を用いて、UL94V試験(アンダーライター・ラボラトリーズコーポレイテッド)の「機器の部品用プレスチック材料の燃焼試験」に規定された垂直燃焼試験方法に準拠して、難燃性を評価した。
(3)滴下性(ドリップ性):
樹脂温度220〜240℃で成形した射出成形シート(東芝社製、IS100射出成形機を用いて、125mm×15mm×3mmtに成形)を用いて、UL94V試験(アンダーライター・ラボラトリーズコーポレイテッド)の「機器の部品用プレスチック材料の燃焼試験」に規定された垂直燃焼試験方法に準拠し、下記の基準で評価した。
◎:滴下物なし。
○:滴下物あり、但し、綿を着火させない。
×:綿を着火する塊状滴下物あり。
【0064】
(4)溶融張力(MT)(単位;cN):
(株)東洋精機製キャピログラフを使用して、温度190℃に加熱した直径10mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10.0mm/minで溶融樹脂を直径2.095mm、長さ8mmのオリフィスから押し出した樹脂を速度4.0m/minで引き取り、溶融張力を測定し、耐ドローダウン性の指標とした。13cN以上であれば、良好と評価した。
(5)溶融延展性(単位;m/min):
上記(株)東洋精機製キャピログラフを用いて巻取り速度を増速し、破断時の巻取り速度を測定した。
MaxDrawが30m/min以上であれば、良好と評価した。
【0065】
(6)耐ドローダウン性:
(株)プラコー製DA−100型大型ブロー成形機を使用して、樹脂温度220℃で、長さ2.2m、幅0.4m、重さ8kgの自動車用バンパーを成形した時に、成形体下部肉厚と上部肉厚を測定し、成形体下部肉厚に対する上部肉厚の比が0.8〜1.0のものを良好(○)、0.8未満であるか又は成形不良若しくは成形不能のものを不良(×)とした。
【0066】
(7)曲げ弾性率(単位;MPa):
JIS K7171に準拠して23℃で測定した。成形品の寸法は、90×10×4mmを用いた。1400MPa以上であれば、良好と評価した。
単位:MPa。
(8)衝撃値(単位;kJ/m):
JIS K7110に準拠し、−30℃で、アイゾット(IZOD)衝撃強度を測定した。5kJ/m以上であれば、良好と評価した。
【0067】
[実施例1〜7(実施例6は参考例)
ポリプロピレン系樹脂及び各配合成分を表1に示す割合で配合し、溶融混練し、ペレット化し、物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
[比較例1〜6]
ポリプロピレン系樹脂及び各配合成分を表2に示す割合で配合し、溶融混練し、ペレット化し、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例及び比較例の評価結果の考察
(1)実施例1〜7:
実施例1〜7の評価結果(表1)から、本発明で規定した所定の各成分(A)〜(E)、または成分(A)〜(F)を含有することにより、比較例1〜6と対比して、燃焼性(難燃性)、溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性、曲げ弾性率、低温衝撃性などで、バランス良く、良好であることがわかる。
(2)比較例1〜6:
比較例1〜6の評価結果(表2)から、特に、実施例2と比較例4の対比から、比較例4では、耐ドローダウン性が悪く、樹脂組成物の樹脂成分として、特定のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体(A)と特定のプロピレンホモポリマー(B)との特定の割合での組み合わせを用いることが有効であることがわかり、また、成分(E)のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有しない比較例3では、溶融延展性や低温衝撃性が悪く、さらに、成分(C)のリン酸塩系難燃剤を含有しているものの、その含有量が本発明の規定範囲外である比較例5、6では、溶融延展性や低温衝撃性が悪いか、或いは難燃性が劣り、これらからも、樹脂組成物の配合剤として、特定の添加剤成分の特定量の含有が有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のブロー成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、ブロー成形時の溶融張力、溶融延展性及び耐ドローダウン性と、曲げ弾性率や耐衝撃性などの機械特性に優れ、しかも、難燃性にも優れることから、耐ドローダウン性および難燃性に優れた大型ブロー成形体を成形するのに好適であり、大型ブロー成形体の用途であるパレット、自動車用バンパー、建機、農機用のルーフ、ボンネット、エンジンカバー、バッテリーケース、フェンダー、外装パネル等の部品、製品等の用途に、好適に用いることができる。