(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953905
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】多列ころがり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 27/08 20060101AFI20160707BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
F16C27/08
F16C19/38
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-100061(P2012-100061)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-228035(P2013-228035A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】宮地 武志
【審査官】
稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−241519(JP,A)
【文献】
特開2002−89554(JP,A)
【文献】
特開昭50−148738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
27/08
33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に外輪軌道が形成された複数の外輪部材と、外周に内輪軌道が形成された複数の内輪部材と、前記各外輪軌道と前記各外輪軌道に対峙する各内輪軌道の間で回転自在に介在する複数の転動体とで軸方向剛性の等しい多列の軸受部を構成し、前記複数の外輪部材の軸方向中間部に介在する外輪間座と、前記複数の内輪部材の軸方向中間部に介在する内輪間座を有する多列ころがり軸受であって、
前記外輪間座及び前記内輪間座は互いに同一の材質で形成されており、
前記外輪間座の軸方向幅と径方向の断面積の比率は、前記内輪間座の軸方向幅と径方向の断面積の比率に等しく、
前記外輪間座および前記内輪間座の軸方向剛性が等しいことを特徴とする多列ころがり軸受。
【請求項2】
前記外輪間座および前記内輪間座の軸方向少なくとも一方側の側面に樹脂部を有する請
求項1に記載の多列ころがり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多列ころがり軸受に係わり、より詳しくは、圧延機のロールネック等に使用される4列円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な多列ころがり軸受である4列円すいころ軸受は4列の軸受部と外輪間座、内輪間座から構成され、圧延機のロールネック等に使用される。圧延機において圧延により発生する荷重は常に一定ではなく、圧延の状況によっては圧延機のロールネックの軸受にラジアル荷重、モーメント荷重、スラスト荷重の合成荷重として作用することがわかっている。
【0003】
前述の合成荷重の条件において、4列円すいころ軸受の各列の軸受部への負荷は不均一となり、一部の列の軸受部の寿命が極端に短くなることがある。この対策として、各列の軸受部の剛性を調整して、各列の軸受部の負荷を均等にすることを目的とした多列ころ軸受装置が提案されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−175312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の各列の軸受部の剛性を調整した多列ころ軸受装置も軸受部の剛性には配慮されているが、軸受装置を構成する外輪間座、内輪間座の剛性については何ら配慮されていない。スラスト荷重が作用する用途における多列ころ軸受装置は、外輪間座、内輪間座の軸方向剛性の差によって剛性の高い間座を介して負荷される列の軸受部の負荷は剛性の低い間座を介して負荷される列の軸受部の負荷より大きくなる。この結果、負荷の大きい1列の軸受部の寿命は極端に短くなる。
【0006】
この発明の目的は、スラスト荷重が作用する用途において、外輪間座、内輪間座の軸方向剛性を等しくすることによって、各列のスラスト荷重の負荷を均等化し、寿命の優れた多列ころがり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内周部に外輪軌道が形成された複数の外輪部材と、外周に内輪軌道が形成された複数の内輪部材と、前記各外輪軌道と前記各外輪軌道に対峙する各内輪軌道の間で回転自在に介在する複数の転動体とで
軸方向剛性の等しい多列の軸受部を構成し、前記複数の外輪部材の軸方向中間部に介在する外輪間座と、前記複数の内輪部材の軸方向中間部に介在する内輪間座を有する多列ころがり軸受であって、
前記外輪間座及び前記内輪間座は互いに同一の材質で形成されており、前記外輪間座の軸方向幅と径方向の断面積の比率は、前記内輪間座の軸方向幅と径方向の断面積の比率に等しく、前記外輪間座および前記内輪間座の軸方向剛性が等しいことである。
【0008】
前記外輪間座および前記内輪間座を配置した状態でスラスト荷重が作用すると、各列の軸受部に負荷が生じ軸方向に変形すると同時に、前記外輪間座および前記内輪間座は軸方向に圧縮される。本発明の構成によると、前記外輪間座と前記内輪間座の軸方向剛性が等しく、スラスト荷重が負荷された前記外輪間座および前記内輪間座の軸方向変形量は等しくなり、スラスト荷重は2列以上の軸受部に略均等に負荷される。
【0009】
前記の課題を解決するため、請求項2に係る発明の構成上の特徴は、前記外輪間座および前記内輪間座の軸方向少なくとも一方側の端面に樹脂部を有することである。
【0010】
原則的には、前記外輪間座の軸方向長さは前記複数の外輪部材の軸方向中間部の間隔に等しく、前記内輪間座の軸方向長さは前記複数の内輪部材の軸方向中間部の間隔に等しい。しかし実際には、前記外輪間座および前記内輪間座の軸方向長さの製作上の誤差によって、前記複数の外輪部材と前記外輪間座の間、または前記複数の内輪部材と前記内輪間座の間に隙間が発生する。
【0011】
本発明の構成によると、スラスト荷重受圧面である、前記外輪間座および前記内輪間座の端面に剛性の低い樹脂部を有するため、スラスト荷重が負荷される側の端面は容易に圧縮され、他方の前記複数の外輪部材と前記外輪間座の間、または前記複数の内輪部材と前記内輪間座の間の隙間は消滅し、スラスト荷重は2列以上の軸受部に均等に負荷される。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、スラスト荷重が作用する用途において、外輪間座と内輪間座の軸方向剛性を等しくすることによって、各列のスラスト荷重の負荷が均等化され、寿命の優れた多列ころがり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の多列ころがり軸受の断面図である。
【
図2】
図1の多列ころがり軸受における外輪間座の拡大断面図である。
【
図3】
図1の多列ころがり軸受における内輪間座の拡大断面図である。
【
図4】
図1の多列ころがり軸受の使用例を説明する説明図である。
【
図5】(A)
図1の多列ころがり軸受の他の組込み例を説明する説明図である。 (B)
図1の多列ころがり軸受の他の組込み例の作用を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の多列ころがり軸受の断面図である。
図1において多列ころがり軸受である4列円すいころ軸受1は3個の外輪部材である外輪2A、2B、2Cと2個の内輪部材である内輪3A、3Bと4列の複数の円すいころ4と2個の外輪間座5A、5B、および内輪間座6で構成される。
【0016】
外輪2Aは、円環状で、外周面2Abは円筒形状で、内周部に円錐面形状の外輪軌道2Aaが形成されており、外輪軌道2Aaは所定の硬さに硬化されている。外輪軌道2Aaの大径側端部から小端面2Acが、外輪軌道2Aの小径側端部から大端面2Adがそれぞれ径方向外方に外周面2Abまで延在している。
【0017】
外輪2Bは、円環状で外周面2Bcは円筒形状で、内周部に外輪軌道2Aaの円錐角と等しい円錐角の2列の円錐面形状の外輪軌道2Ba、2Bbが軸方向中心部側を小径側として対峙して形成されており、外輪軌道2Ba、2Bbは所定の硬さに硬化されている。両外輪軌道2Ba、2Bbの大径側両端部から径方向外方に外周面2Bcまで延在して小端面2Bd、2Beが形成されている。
【0018】
外輪2Cは、円環状で、外周面2Cbは円筒形状で、内周部に外輪軌道2Aaの円錐角と等しい円錐角の円錐面形状の外輪軌道2Caが形成されており、外輪軌道2Caは所定の硬さに硬化されている。外輪軌道2Caの大径側端部から小端面2Ccが、外輪軌道2Caの小径側端部から大端面2Cdがそれぞれ径方向外方に外周面2Cbまで延在している。
【0019】
内輪3Aは、内周部に円筒形状の内周面3Ac、外周部に大径側を対峙して形成された2列の円すい面形状の内輪軌道3Aa、3Abと内輪軌道3Aa、3Abの間に径方向外方に突出して形成された大鍔3Ad、内周面3Acの両端部から径方向外方に延在する小端面3Ag、3Ahを有している。大鍔3Adの両端面が内輪軌道3Aa、3Abの大径側端部から径方向外方に内輪軌道3Aa、3Ab側に傾斜して延在する大鍔面3Ae、3Afとなっている。内輪軌道3Aa、3Abおよび大鍔面3Ae、3Afは所定の硬さに硬化されている。
【0020】
内輪3Bは、内周部に円筒形状の内周面3Bc、外周部に大径側を対峙して形成された2列の円すい面形状の内輪軌道3Ba、3Bbと内輪軌道3Ba、3Bbの間に径方向外方に突出して形成された大鍔3Bd、内周面3Bcの両端部から径方向外方に延在する小端面3Bg、3Bhを有している。大鍔3Bdの両端面が内輪軌道3Ba、3Bbの大径側端部から径方向外方に内輪軌道3Ba、3Bb側に傾斜して延在する大鍔面3Be、3Bfとなっている。内輪軌道3Ba、3Bbおよび大鍔面3Be、3Bfは所定の硬さに硬化されている。
【0021】
複数の円すいころ4は円すい面形状の転動面4aと大端面4bを有し、各外輪軌道と内輪軌道の間に転動面4aを各外輪軌道、内輪軌道に接し、大端面4bをそれぞれ大鍔面に接して転動自在に配置されている。
【0022】
ここで、外輪軌道2aと内輪軌道3aと1列の複数の円すいころ4とで軸受部A、外輪軌道2aと内輪軌道3aと1列の複数の円すいころ4とで軸受部B、外輪軌道2aと内輪軌道3aと1列の複数の円すいころ4とで軸受部C、外輪軌道2aと内輪軌道3aと1列の複数の円すいころ4とで軸受部Dをそれぞれ構成している。また、軸受部A,B,C,Dを構成する各列の円すいころ4の数は等しいため、軸受部A,B,C,Dの軸方向剛性は等しい。
【0023】
図2は
図1の多列ころがり軸受1における外輪間座の拡大断面図である。
図3は
図1の多列ころがり軸受1における内輪間座の拡大断面図である。外輪間座5Aおよび5Bは材質、寸法とも同一であり、各部の符号は同一である。
【0024】
外輪間座5A、5Bは母材部5eがS25C等の鋼材からなる中空の円筒形状の円環であり、軸方向両端部に繊維強化ポリアミド等からなる樹脂層5f、5gを有している。内周面5dと外周面5cは同心で、内周面5dの両端部から径方向外方に端面5a、5bが外周面5cまで延在する。
【0025】
内輪間座6は母材部6eがS25C等の鋼材からなる中空の円筒形状の円環であり、軸方向両端部に外輪間座5A、5Bの樹脂層5f、5gと同じ繊維強化ポリアミド等からなる樹脂層6f、6gを有している。内周面6dと外周面6cは同心で、内周面6dの両端部から径方向外方に端面6a、6bが外周面6cまで延在する。
【0026】
ここで、外輪間座5A、5Bの軸方向幅L5と樹脂層の厚さδ5との比率は内輪間座6の軸方向幅L6と樹脂層の厚さδ6との比率に等しい。また、外輪間座5A、5Bの軸方向幅L5と断面積の比率は内輪間座6の軸方向幅L6と断面積の比率に等しい。すなわち外輪間座5A、5Bの内周面5dの直径をd5、外周面5cの直径をD5、軸方向幅L5、内輪間座6の内周面6dの直径をd6、外周面6cの直径をD6、軸方向幅L6とすると、
L5/(D5
2−d5
2)=L6/(D6
2−d6
2)の関係にある。
【0027】
通常、円筒部材の軸方向荷重に対する軸方向剛性は半径方向断面の面積と、軸方向形状、軸方向幅、および材料の弾性率によって決定される。外輪間座5A、5Bと内輪間座6は同一材質で同一形状に形成されており、前述の関係を満足することにより、外輪間座5A、5Bと内輪間座6の軸方向剛性は等しくなる。
【0028】
図1に示すように、外輪間座5Aは外輪2Aの小端面2Acと外輪2Bの小端面2Bdの間に端面5a、5bを接して配置され、外輪間座5Bは外輪2Bの小端面2Beと外輪2Cの小端面2Ccの間に端面5a、5bを接して配置されている。また内輪間座6は内輪3Aの小端面3Ahと内輪3Bの小端面3Bgの間に端面6a、6bを接して配置されている。
【0029】
図4は
図1の多列ころがり軸受1の使用例を説明する説明図である。
図4は
図1の多列ころがり軸受1が圧延機のロールネックに組込まれた状態を示している。スラスト荷重はロール7からスラストリング8を介して内輪3Aに入力し、2つの経路でハウジング9に伝わり、外輪2Cにハウジング9からのスラスト反力が作用する。一方の経路は内輪3Aから軸受部B,外輪2B,外輪間座5B、外輪2Cを経由し、他方の経路は内輪3Aから内輪間座6、内輪3B、軸受部D,外輪2Cを経由しハウジング9に伝わる。
【0030】
ここで、本発明の実施形態においては、外輪間座5Bと内輪間座6の軸方向剛性が等しいため、外輪間座5Bを経由する経路の軸受部Bのスラスト荷重の負荷と、内輪間座6を経由する経路の軸受部Dのスラスト荷重の負荷は等しくなる。すなわち、本発明の実施形態の多列ころがり軸受1はスラスト荷重が作用する用途において、一列の両軸受部のみ負荷が大きくなることによって寿命が低下することはない。
【0031】
図5(A)は
図1の多列ころがり軸受1の他の組込み例を説明する説明図である。
図5(B)は
図1の多列ころがり軸受1の他の組込み例の作用を説明する説明図である。
図5(A)は、外輪間座5A,5Bを組込んだ状態の多列ころがり軸受1の状態を示している。外輪間座5A,5Bの加工誤差による幅寸法のばらつきによって、内輪3Aの小端面3Ahと内輪3Bの小端面3Bgの間の間隔lより内輪間座6の軸方向幅L6が小さくなり、内輪間座6と内輪3A、3Bの間に軸方向の隙間Δが介在している。
【0032】
図5(A)の状態において、内輪1Aにスラスト荷重、外輪2Cにスラスト反力が作用すると、軸受部B,外輪間座5Bの経路のみに軸方向の負荷が生じ、
図5(B)に示すように外輪間座5Bは軸方向に圧縮され、内輪3Aと外輪2Bは軸方向に内輪3Bの方向に移動する。移動する量は前記外輪間座5Bの圧縮の量と軸受部Bの軸方向変形量の和に等しい。前記移動の量が隙間Δと等しくなると、内輪間座6と内輪3A、3Bの間の軸方向の隙間Δは消滅し、軸受部Bと軸受部Dの両軸受部にスラスト荷重による負荷が発生する。
【0033】
このとき、外輪間座5Bは両端面に金属にくらべ剛性の低い樹脂層5f、5gを有しており、隙間Δに等しい軸方向の圧縮量に相当するスラスト荷重による負荷は金属材料のみの外輪間座の場合よりはるかに小さい。その結果負軸受部Bと軸受部Dの負荷の差は金属材料のみの外輪間座の場合より小さくなり、軸受部全体の寿命は向上する。
【0034】
上述の実施形態の多列ころがり軸受は4列円すいころ軸受であるが、本発明においては他の形式の多列ころがり軸受であってもよい。
【0035】
上述の実施形態の多列ころがり軸受において、外輪間座、内輪間座は両端部に樹脂層を有する構造であるが、本発明において外輪間座、内輪間座は、片側端部のみに樹脂層を有する構造であっても良い。
【0036】
上述の実施形態の多列ころがり軸受において、外輪間座、内輪間座は母材が鋼材で両端部に樹脂層を有する構造であるが、本発明において外輪間座、内輪間座は金属材料のみ、または樹脂のみで形成されていても良い。
【0037】
上述の実施形態の多列ころがり軸受は、断面積と軸方向幅で剛性を調整し軸方向の剛性を等しくした外輪間座、内輪間座で構成されているが、本発明においては、形状等他の剛性調整方法で軸方向の剛性を等しくした外輪間座、内輪間座で構成された多列ころがり軸受であっても良い。
【符号の説明】
【0038】
10 ‥4列円すいころ軸受(多列ころがり軸受)
2A、2B、2C ‥外輪部材
2Aa、2Ba、2Bb、2Ca ‥外輪軌道
3A、3B ‥内輪部材
3Aa、3Ab、3Ba、3Bb ‥内輪軌道
4 ‥円すいころ(転動体)
A、B、C、D ‥軸受部
5A、5B ‥外輪間座
5f、5g、6f、6g ‥樹脂部
6 ‥内輪間座