(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目的変数は、前記コード層が有する補強コードのコード角度及び前記タイヤの周方向に延在する前記補強コードの初期張力である、請求項1から6のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
前記補強コードの材料が金属繊維材料の場合には−0.01≦ε≦0.01、前記補強コードの材料が有機繊維材料の場合には−0.10≦ε≦0.10、前記補強コードの材料が無機繊維材料の場合には−0.01≦ε≦0.01の範囲で、前記補強コードのモデルの弾性率を前記引張弾性率の値と前記圧縮弾性率との値との間で変化させる、請求項9に記載のタイヤのシミュレーション方法。
請求項1から10のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法を前記コンピュータに実行させることを特徴とするタイヤのシミュレーション用コンピュータプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態において、タイヤは空気入りタイヤを例として説明するが、本実施形態の適用対象は空気入りタイヤに限定されるものではない。
【0021】
赤道面とは空気入りタイヤのタイヤ回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤの幅方向における中心を通る平面を意味する。空気入りタイヤの幅方向(幅方向)とは空気入りタイヤの回転軸と平行な方向を意味し、幅方向内側とは空気入りタイヤの幅方向において赤道面に向かう側、幅方向外側とは空気入りタイヤの幅方向において赤道面から離れる側を意味する。空気入りタイヤの径方向(径方向)とは空気入りタイヤの回転軸と直交する方向を意味し、径方向内側とは空気入りタイヤの径方向において空気入りタイヤの回転軸に向かう側、径方向外側とは、空気入りタイヤの径方向において回転軸から離れる側を意味する。空気入りタイヤの周方向(周方向)とは空気入りタイヤの回転軸を中心軸とする周方向を意味する。
【0022】
(実施形態1)
図1は、空気入りタイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。
図1に示すように、空気入りタイヤ(以下、必要に応じてタイヤという)1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、強化材であるカーカス2、ベルト3及びベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料部分を有する構造体である。ここで、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維又は有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層を、コード層という。
【0023】
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
【0024】
ベルト3の接地面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の接地面G側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法(以下、必要に応じてシミュレーション方法という)を実行する装置について説明する。
【0025】
図2は、実施形態1に係るタイヤのシミュレーション装置を示す説明図である。タイヤのシミュレーション装置(以下、適宜シミュレーション装置という)50は、本実施形態に係るシミュレーション方法を実行する。本実施形態において、シミュレーション装置50は、コンピュータであり、処理部50pと記憶部50mと入出力部50ioとを含む。処理部50pは、モデル作成部51と、特性設定部52と、解析部53とを含む。これらが本実施形態に係るシミュレーション方法を実行する。また、シミュレーション装置50には、入出力部50ioに入出力装置60が接続されており、これに入力装置61及び表示装置62が接続される。入出力装置60は、入出力部50ioを介してタイヤモデルの作成及び作成したタイヤモデルを用いたシミュレーション等に必要な情報を処理部50p又は記憶部50mへ入力する。
【0026】
モデル作成部51は、シミュレーションの対象となるタイヤの解析モデル、すなわち、タイヤモデルを作成する。解析モデルとは、有限要素法又は有限差分法等の数値解析手法を用いて、シミュレーションの対象に対して転動解析、騒音解析又は振動解析等を行うために用いるモデルで、コンピュータで解析可能なモデルであり、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。解析モデルは、コンピュータが取り扱うことのできる数値データの集合体である。本実施形態では、作成されたタイヤモデルを用いたシミュレーション等に用いる解析手法として、有限要素法を使用する。解析手法に有限要素法を用いる場合、解析モデルは、シミュレーションの対象を複数の節点で構成された有限個の要素に分割して作成される。
【0027】
特性設定部52は、モデル作成部51が作成したタイヤモデルタイヤモデルが有するコード層のモデルを構成するコードのモデルの特性
値を設定する。このとき、特性設定部52は、タイヤのコードの特性に対応した目的変数とタイヤの幅方向の位置との関係を示す近似式から、コードのモデルを構成する複数の要素それぞれの代表位置のうち少なくとも1つに対応する目的変数を求め、得られた目的変数を、代表位置における特性値として設定する。解析部53は、特性
値が設定されたタイヤモデルに対して、転動解析又は振動解析等を実行する。
【0028】
記憶部50mには、本実施形態に係るシミュレーション方法の処理手順を含むコンピュータプログラム及び各種のデータ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置、あるいはこれらの組合わせにより構成することができる。また、処理部50pは、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成することができる。
【0029】
上述したコンピュータプログラムは、処理部50pが備えるモデル作成部51又は特性設定部52等へ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係るシミュレーション方法の処理手順を実現できるものであってもよい。また、このシミュレーション装置50は、上述したコンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、処理部50pが備えるモデル作成部51と、特性設定部52と、解析部53との機能を実現するものであってもよい。次に、本実施形態に係るシミュレーション方法(を説明する。本実施形態に係るシミュレーション方法は、シミュレーション装置50によって実現される。
【0030】
図3は、実施形態1に係るシミュレーション方法のフローチャートである。
図4は、実施形態1に係るシミュレーション方法における特性設定工程の詳細を示すフローチャートである。
図5は、タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す図である。
図6は、タイヤモデルが有する要素の一例を示す図である。
図7は、タイヤモデルの子午断面を示す一部断面図である。
図7は、赤道面RPに対して一方の子午断面を示している。ステップS1において、
図2に示すシミュレーション装置50の処理部50pが有するモデル作成部51は、タイヤモデル及び路面モデルを作成する。ステップS1は、本実施形態に係るシミュレーション方法のモデル作成工程に相当する。モデル作成工程では、少なくともタイヤモデルが作成されればよい。
【0031】
モデル作成工程において、モデル作成部51は、本実施形態に係るシミュレーションの対象となるタイヤを有限個の要素Eに分割して、例えば、
図5に示すタイヤモデル10を作成する。要素Eは、
図6に一例を示すように、例えば、複数の節点N1〜N4を有しており、これらの節点N1〜N4から形成される。
図7は、タイヤモデル10の子午断面の一部であり、要素E1、E2・・・Enが、コード層のモデルを構成する補強コードのモデルである。補強コードのモデルは、タイヤモデル10の周方向に向かって、複数配置される。タイヤモデル10の周方向に向かって複数配置された補強コードのモデルは、複数の要素で構成されている。モデル作成部51は、タイヤモデル10の元となるデータ、例えば、設計データからタイヤモデル10を作成する。モデル作成部51は、路面モデル20をタイヤモデル10と同様に作成してもよいし、三次元離散化モデルとして作成してもよいし、サーフェスモデルとして作成してもよい。
【0032】
モデル作成部51は、作成したタイヤモデル10及び路面モデル20を記憶部50mに保存する。タイヤモデル10等が有する要素Eは、例えば、3次元体では四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで取り扱い得る要素とすることが望ましい。このようにして分割された要素は、シミュレーションの過程においては、3次元モデルでは3次元座標や円筒座標を用いて逐一特定される。
【0033】
次に、ステップS2において、
図2に示すシミュレーション装置50の処理部50pが有する特性設定部52は、シミュレーションの対象となるタイヤの材料特性を、ステップS1で作成されたタイヤモデル10に設定する。材料特性は、例えば、シミュレーションの対象となるタイヤのゴム層の材料特性及び補強コードとしてのカーカス2、ベルト3又はベルトカバー4等の材料特性等である。材料特性は、例えば、弾性率、密度及び線膨張係数等がある。
【0034】
次に、ステップS3において、処理部50pの特性設定部52は、タイヤモデル10が有するコード層のモデルを構成する補強コードのモデルの特性
値を設定する。ステップS3は、本実施形態に係るシミュレーション方法の特性設定工程に対応する。次に、
図4を用いて特性設定工程について説明する。
【0035】
特性設定工程において、まず、ステップS301で、処理部50pの特性設定部52は、シミュレーションの対象となるタイヤの幅方向位置と、目的変数との近似式を設定する。目的変数については後述するが、本実施形態においては、例えば、タイヤ1のコード層が有する補強コードのコード角度及びタイヤ1の周方向に延在する補強コードの初期張力等が目的変数として設定される。目的変数は、予め測定されて、シミュレーション装置50の記憶部50mに記憶されている。
【0036】
図8は、目的変数としてのコード角度の計測値とタイヤの幅方向位置との関係の一例を示す図である。
図9は、コード角度の測定値と幅方向位置との関係の近似式F(W)を示す図である。
図10は、コード角度の計測値と
図9に示す近似式F(W)とを示す図である。コード角度とは、タイヤ1又はタイヤモデル10の周方向に対する補強コードの傾斜角度であり、タイヤ1又はタイヤモデル10の赤道面と平行な面に対する補強コードの傾斜角度でもある。幅方向位置とは、タイヤ1又はタイヤモデル10の幅方向、すなわち、回転軸(Y軸)と平行な方向におけるタイヤ1又はタイヤモデル10の位置である。本実施形態においては、赤道面における幅方向位置を0とする。
【0037】
図8に示す例は、乗用車用215/65R15 96Hのタイヤの1番ベルト(径方向の最も内側に配置されるベルト)を構成する補強コードを対象とし、タイヤの幅方向の9箇所で、1番ベルトのコード角度を計測した例である。1番ベルトのコード角度は、タイヤのキャップトレッド及びベルトカバー等を除去して計測される。目的変数として補強コードの初期張力を用いる場合、補強コードの伸びと応力との関係を予め計測しておく。そして、補強コードがタイヤに取り付けられているときと、補強コードをタイヤから取り外したときとにおける補強コードの長さの変化と、補強コードの伸びと応力との関係とから、補強コードの初期張力を求める。
【0038】
図8の結果から分かるように、1番ベルトのコード角度は、幅方向外側から内側に向かって小さくなっている。それぞれのコード角度の計測値は、それぞれが計測された幅方向位置と対応付けられて記憶部50mに記憶されている。上述したステップS301において、特性設定部52は、記憶部50mに記憶されているコード角度と幅方向位置とを読み出して、
図9の実線で示すような近似式F(W)を作成する。コード角度をθ、幅方向位置をWとすれば、θ=F(W)となる。特性設定部52は、作成した近似式F(W)を記憶部50mに記憶させる。
図9に示す近似式F(W)は、コード角度θを幅方向位置Wの二次関数で近似して得られた二次の多項式の例であり、θ=a×W
2+b×W+cとなる(a、b、cは定数)。近似式θ=F(W)は、例えば、最小二乗法等を用いて求められる。コード角度θと幅方向位置との関係を示す近似式としては、例えば1次〜n次(nは最大4程度)の多項式、三角関数、指数関数又はこれらを組み合わせた関数があるが、これらの例に限られるものではなく、他の関数でもよい。
【0039】
図9に示す近似式θ=F(W)は、9箇所で計測したコード角度θ及び幅方向位置のうち、5箇所の値を用いて求めているが、近似式θ=F(W)を求める際に用いる値はこれに限定されるものではない。
図10に示すように、本実施形態において、5箇所の値に基づいて求めた近似式θ=F(W)は、すべてのコード角度θの計測値を精度よく近似している。補強コードの目的変数(本実施形態ではコード角度θ)を計測する幅方向位置は、少なくとも3箇所以上、5箇所以上とすることがより好ましい。このようにすれば、上述したように、近似式の精度が確保できる。ステップS301において近似式θ=F(W)が求められたら、ステップS302に進み、特性設定部52は、代表位置を設定する。
【0040】
図11から
図13は、要素の代表位置を説明するための図である。代表位置は、補強コードのモデルを構成する要素を代表する位置である。
図11には、節点Na、Nbを含む要素の代表位置Pdが示されている。
図11に示す例は、要素Enの代表位置Pdが1箇所である。この場合、要素Enの代表位置Pdは、例えば、要素Enの積分点を用いることができるが、これに限定されるものではない。要素Enの代表位置Pdが1箇所である場合、1箇所の代表位置Pdで目的変数を算出し、1箇所の代表位置Pdに要素Enの目的変数が設定される。
【0041】
図12に示す例は、要素Enは、2個の代表位置Pda、Pdbを有している。この場合、例えば、要素Enは2個の積分点を有しており、それぞれの積分点の位置を代表位置Pda、Pdbとしている。要素Enが2箇所の代表位置Pda、Pdbを有する場合、2箇所の代表位置Pda、Pdbで目的変数を算出し、2箇所の代表位置Pda、Pdbに、それぞれ要素Enの目的変数が設定される。また、
図13に示す例は、要素Enの1箇所の代表位置Pdhに要素Enの目的変数が設定される場合であり、2箇所の代表位置Pda、Pdbで目的変数を算出し、1箇所の代表位置Pdhに、2箇所の代表位置Pda、Pdbにおける目的変数の平均値が要素Enの目的変数として設定される。この場合、代表位置Pdhの座標は、2箇所の代表位置Pda、Pdbそれぞれの座標の平均値とすることができる。要素Enの代表位置は、1箇所又は2箇所に限定されるものではない。
【0042】
図14は、
図9に示す近似式を用いて、補強コードのモデルを構成する要素に目的変数を設定した結果を示す図である。代表位置が設定されたら、ステップS303に進み、特性設定部52は、目的変数(本実施形態ではコード角度θ)の近似値を、ステップS302で設定された要素の代表位置について算出する。このとき、特性設定部52は、ステップS301で作成した近似式θ=F(W)と、幅方向位置302で設定した要素の代表位置とを記憶部50mから読み出す。そして、要素の代表位置を近似式θ=F(W)の幅方向位置Wに与えて、代表位置に対応するコード角度θ(近似値)を求める。次に、ステップS304に進み、特性設定部52は、ステップS303で求めた目的変数(近似値)、すなわちコード角度θ(近似値)を、ステップS302で設定した代表位置に対応する要素の補強コードの特性として設定する。その後、ステップS305に進み、補強コードのモデルを構成する複数の要素のうち、対象とするすべての要素についてコード角度θが設定されていない場合(ステップS305、No)、特性設定部52は、対象とするすべての要素についてコード角度θが設定されるまで、ステップS302からステップS305を繰り返す。対象とするすべての要素についてコード角度θが設定された場合(ステップS305、No)、特性設定部52は、特性設定工程を終了し、処理を
図3に示すステップS4に進める。なお、対象とするすべての要素について目的変数としてのコード角度θが設定されると、
図14に示すように、代表位置におけるコード角度θは、近似式θ=F(W)上に乗ることになる。
【0043】
特性設定工程においては、補強コードのモデルを構成する複数の要素それぞれの代表位置のうち、少なくとも1つに対応する目的変数(本実施形態ではコード角度θ)が設定されればよい。すなわち、補強コードのモデルを構成する複数の要素のうち、すべての要素に対して目的変数を設定する必要はない。なお、補強コードのモデルを構成する複数の要素のうち、すべての要素に対して目的変数を設定すれば、シミュレーションの精度が向上する。このように、特性設定工程においては、複数の要素で構成される補強コードのモデルについて、そのうちの少なくとも1つの要素、好ましくはすべての要素に対して、目的変数が設定される。
【0044】
ステップS4において、
図2に示すシミュレーション装置50の処理部50pが有する解析部53は、シミュレーションの条件として、例えば、タイヤモデル10の走行条件を設定する。ステップS4において設定される条件は、シミュレーションの種類によって異なる。例えば、タイヤモデル10の転動解析を実行する場合、本実施形態のように、タイヤモデル10の走行条件がシミュレーションの条件として設定される。次に、ステップS5に進み、解析部53は、ステップS4で設定した走行条件で、タイヤモデル10のシミュレーション(本実施形態では転動シミュレーション)を実行し、ステップS6で評価値を算出する。このようにして、本実施形態に係るシミュレーション方法が実行される。
【0045】
本実施形態に係るシミュレーション方法は、補強コードの特性値の少なくとも1つを目的変数とし、この目的変数と幅方向位置との関係の近似式を求め、この近似式を用いて補強コードの特性値を設定する。このため、補強コードの特性値(例えば、目的変数であるコード角度θ又は補強コードの初期張力等)の測定及び設定を煩雑化することなく、幅方向に向かってに滑らかに変化している補強コードの特性値を再現して、前記補強コードのモデルを構成する要素毎に設定することができるため、シミュレーションの精度を向上させることができる。また、近似式を用いることにより、簡便にすべての要素に対して特性値(目的変数)を設定できるので、タイヤを簡便にモデル化してタイヤモデルを作成することができる。
【0046】
(実施形態2)
図15は、実施形態2に係るシミュレーション方法における特性設定工程の詳細を示すフローチャートである。
図16は、中間変数とタイヤの幅方向位置との関係の一例を示す図である。
図17は、コード角度の測定値と中間変数との関係の第2近似式を示す図である。
図18は、コード角度の計測値と幅方向位置との関係示す第3近似式を示す図である。
図19は、
図18に示す第3近似式を用いて、補強コードのモデルを構成する要素に目的変数を設定した結果を示す図である。
【0047】
実施形態2に係るシミュレーション方法は、特性設定工程が実施形態1に係るシミュレーション方法とは異なる。具体的には、本実施形態の特性設定工程において、目的変数(例えば、コード角度θ)と説明変数(例えば、幅方向位置W)との近似式は、中間変数を介した2組以上の近似式を含む。本実施形態に係るシミュレーション方法は、
図2に示すシミュレーション装置50によって実現される。
【0048】
本実施形態に係るシミュレーション方法における特性設定工程について説明する。次に説明する例においては、説明変数としての幅方向位置Wと中間変数との関係を示す第1近似式と、中間変数と目的変数としてのコード角度θとの関係を示す第2近似式とを用いる。ステップS311において、
図2に示すシミュレーション装置50の処理部50pが有する特性設定部52は、説明変数としての幅方向位置Wと中間変数との関係を示す近似式(第1近似式)F1(W)を設定する。中間変数は、例えば、リフト率Lが挙げられる。リフト率Lは、加硫後における補強コードの半径R/成型工程における補強コードの半径R0(L=R/R0)である。
【0049】
図16に示す第1近似式L=F1(W)は、シミュレーションの対象となるタイヤの幅方向において5箇所の位置で計測したリフト率Lの結果を用いて作成された。計測されたリフト率Lは、幅方向位置Wに対応付けられて
図2に示すシミュレーション装置50の記憶部50mに記憶されている。シミュレーションの対象となるタイヤは、実施形態1で説明した、乗用車用215/65R15 96Hのタイヤである。
図16に示す第1近似式L=F1(W)は、リフト率Lを幅方向位置Wの四次関数で近似して得られた四次の多項式の例であり、L=d×W
4+e×W
3+f×W
2+g×W+hとなる(d、e、f、g、hは定数)。第1近似式L=F1(W)は、例えば、最小二乗法等を用いて求められる。特性設定部52は、記憶部50mからリフト率Lと幅方向位置Wとを読み出して第1近似式L=F1(W)を作成し、記憶部50mに保存する。
【0050】
次に、ステップS312に進み、特性設定部52は、中間変数としてのリフト率Lと目的変数としてのコード角度θとの関係を示す近似式(第2近似式)F2(W)を設定する。
図17に示す第2近似式θ=F2(L)は、シミュレーションの対象となるタイヤの幅方向において5箇所の位置で計測したコード角度θの結果を用いて作成された。計測されたコード角度θは、幅方向位置Wに対応付けられて記憶部50mに記憶されている。シミュレーションの対象となるタイヤは、上述したものと同一である。
図17に示す第2近似式θ=F2(L)は、コード角度θを幅方向位置Wの一次関数で近似して得られた一次の多項式の例であり、θ=i×L+jとなる(i、jは定数)。第2近似式θ=F2(L)は、例えば、最小二乗法等を用いて求められる。特性設定部52は、記憶部50mからリフト率Lと幅方向位置Wとを読み出して第2近似式θ=F2(L)を作成し、記憶部50mに保存する。
【0051】
次に、ステップS313に進み、特性設定部52は、代表位置を設定する。代表位置の設定は、実施形態1で説明した通りなので説明を省略する。次に、ステップS314に進み、特性設定部52は、中間変数(本実施形態ではリフト率L)の近似値を、ステップS313で設定された要素の代表位置について算出する。このとき、特性設定部52は、ステップS311で作成した第1近似式L=F1(W)と、幅方向位置313で設定した要素の代表位置とを記憶部50mから読み出す。そして、要素の代表位置を第1近似式L=F1(W)の幅方向位置Wに与えて、代表位置に対応するリフト率L(近似値)を求める。
【0052】
次に、ステップS315に進み、特性設定部52は、目的変数(本実施形態ではコード角度θ)の近似値を、ステップS314で求めたそれぞれの中間変数、すなわちリフト率Lについて算出する。このとき、特性設定部52は、ステップS312で作成した第2近似式θ=F2(L)と、幅方向位置314で求めたリフト率Lとを記憶部50mから読み出す。そして、リフト率Lを第2近似式θ=F2(L)のリフト率Lに与えて、リフト率Lに対応するコード角度θ(近似値)を求める。このようにして得られたコード角度θは、中間変数としてのリフト率Lを介して幅方向位置Wと対応付けられる。したがって、幅方向位置Wに対してコード角度θが一対一で対応する。このようにして得られたコード角度θと幅方向位置Wとの関係は、
図18に示す実線F3(W)のようになる。
【0053】
ステップS314、ステップS315は、第1近似式L=F1(W)と第2近似式θ=F2(L)とを連立してθについて解くことになる。両者を連立してθについて解くと、θ=i×(d×W
4+e×W
3+f×W
2+g×W+h)+j=i×d×W
4+i×e×W
3+i×f×W
2+i×g×W+i×h+jとなる。
図18に示す実線F3(W)は、i×d×W
4+i×e×W
3+i×f×W
2+i×g×W+i×h+jで表されるWの四次関数である。θ=F3(W)を第3近似式とする。
図18は、シミュレーションの対象となるタイヤについて、9箇所の幅方向位置Wでコード角度θを計測した実測値を示している。
図18の黒丸のシンボルがコード角度θの実測値である。この結果から分かるように、第3近似式θ=F3(W)は、実測値を精度よく近似しているといえる。
【0054】
ステップS315が終了したらステップS316に進み、特性設定部52は、ステップS315で求めた目的変数(近似値)、すなわちコード角度θ(近似値)を、ステップS313で設定した代表位置に対応する要素の補強コードの特性
値として設定する。その後、ステップS317に進み、補強コードのモデルを構成する複数の要素のうち、対象とするすべての要素についてコード角度θが設定されていない場合(ステップS317、No)、特性設定部52は、対象とするすべての要素についてコード角度θが設定されるまで、ステップS313からステップS316を繰り返す。対象とするすべての要素についてコード角度θが設定された場合(ステップS317、No)、特性設定部52は、特性設定工程を終了し、処理を
図3に示すステップS4に進める。なお、対象とするすべての要素について目的変数としてのコード角度θが設定されると、
図19に示すように、代表位置におけるコード角度θは、第3近似式θ=F3(W)上に乗ることになる。
【0055】
上記説明においては、中間変数を1個としたが、本実施形態において、中間変数の数は限定されない。例えば、2個の中間変数を用いて、説明変数(例えば幅方向位置W)と第1中間変数との近似式、第1中間変数と第2中間変数との近似式及び第2中間変数と目的変数(例えばコード角度θ)との近似式を用いて、補強コードのモデルを構成する要素に目的変数を設定してもよい。また、n個(nは3以上の整数)の中間変数を用いて、説明変数(例えば幅方向位置W)と第1中間変数との近似式、第1中間変数と第2中間変数との近似式、・・・第n中間変数と目的変数(例えばコード角度θ)との近似式を用いて、補強コードのモデルを構成する要素に目的変数を設定してもよい。
【0056】
(変形例)
図20は、実施形態2の変形例に係るシミュレーション方法における特性設定工程の詳細を示すフローチャートである。本変形例に係るシミュレーション方法は、実施形態2のシミュレーション方法と同様であるが、特性設定工程において、説明変数(例えば幅方向位置W)を用いず、中間変数(例えばリフト率L)と目的変数(例えばコード角度θ)との近似式から目的変数を算出する点が異なる。
【0057】
本変形例に係るシミュレーション方法は、
図2に示すシミュレーション装置50によって実現される。本変形例に係るシミュレーション方法の特性設定工程は、補強コードのモデルを構成する複数の要素それぞれの代表位置のうち少なくとも1つについて中間変数を求め、求めた中間変数と目的変数との近似式から目的変数を算出する。
【0058】
本変形例に係るシミュレーション方法における特性設定工程では、まず、ステップS321において、特性設定部52は、中間変数としてのリフト率Lと目的変数としてのコード角度θとの関係を示す近似式(第2近似式)F2(L)を設定する(
図17参照)。ステップS321は、上述した実施形態2のステップS312と同様である。次に、ステップS322に進み、特性設定部52は、代表位置を設定する。代表位置の設定は、実施形態1で説明した通りなので説明を省略する。
【0059】
次に、ステップS323に進み、特性設定部52は、中間変数(本実施形態ではリフト率L)を求める。中間変数は、補強コードのモデルを構成する複数の要素それぞれについてそれぞれ求められる。中間変数は、例えば、成型時における寸法とステップS1で作成したタイヤモデル10の寸法とから、それぞれの要素の代表位置について求める。中間変数を求める別の方法としては、例えば、シミュレーション等によって求めた、成型時における寸法と加硫終了後における寸法とから、それぞれの要素の代表位置について求めてもよい。次に、ステップS324に進み、特性設定部52は、ステップS323で求めた中間変数から目的変数(近似値)を、ステップS322で設定した要素の代表位置について算出する。このとき、特性設定部52は、ステップS321で設定した第2近似式θ=F2(L)と、幅方向位置323で求めた中間変数とを記憶部50mから読み出す。そして、要素の代表位置における中間変数を第2近似式θ=F2(L)に与えて、要素の代表位置に対応する目的変数としてのコード角度θ(近似値)を求める。
【0060】
ステップS324が終了したらステップS325に進み、特性設定部52は、ステップS324で求めた目的変数(近似値)、すなわちコード角度θ(近似値)を、ステップS322で設定した代表位置に対応する要素の補強コードの特性
値として設定する。その後、ステップS326に進み、補強コードのモデルを構成する複数の要素のうち、対象とするすべての要素についてコード角度θが設定されていない場合(ステップS326、No)、特性設定部52は、対象とするすべての要素についてコード角度θが設定されるまで、ステップS322からステップS326を繰り返す。対象とするすべての要素についてコード角度θが設定された場合(ステップS326、No)、特性設定部52は、特性設定工程を終了し、処理を
図3に示すステップS4に進める。
【0061】
中間変数を用いる場合、複数の近似式(第1近似式及び第2近似式等)を用いるが、複数の近似式のうち、少なくとも1つの中間変数の寸法に関する要因(サイズファクター)を正規化した無次元数とし、近似式を一般化することで、サイズ又は断面形状が異なるタイヤに対しても汎用性がある近似式が設定可能になる。このため、個々のタイヤ毎に補強コードの特性値を測定しなくてもよくなる。サイズファクターを正規化した無次元数の中間変数としては、例えば、上述したリフト率Lが挙げられる。一般化した近似式の例としては、成型工程における目的変数の初期値をV
0とし、加硫終了後における目的変数をVとすると、例えば、式(1)から式(3)に示すような例が挙げられる。式(1)のCは定数である。式(3)は、リフト率Lを第1間変数、Vを第2中間変数とし、目的変数をUとした近似式の例である。U
0は、目的変数の初期値である。
【0065】
近似式は、補正係数eを含んでいてもよい。近似式の中に補正係数を導入することにより、より精度のよい近似が可能となるため、シミュレーションの精度をより向上させることができる。補正係数eを含む近似式の例としては、例えば、式(4)、式(5)に示すようなものが挙げられる。式(4)は、成型工程における目的変数の初期値をV
0とし、加硫終了後における目的変数をVとし、中間変数をリフト率Lとしたものである。式(5)は、式(4)のリフト率Lを第1中間変数とし、Vを第2中間変数とし、Uを目的変数としたものである。式(5)において、V
0は、成型工程における第1中間変数の初期値であり、U
0は、目的変数の初期値である。
【0068】
目的変数をコード角度θとすることにより、幅方向に滑らかに変化しているコード角度θを精度よく再現したタイヤモデル10を作成することができる。このようなタイヤモデル10を用いてシミュレーションすることにより、精度を向上させることが可能となる。目的変数をコード角度θ及び周方向に巻かれた補強コードの初期張力とすることにより、幅方向に滑らかに変化しているコード角度θと補強コードの初期張力とを精度よく再現したタイヤモデル10を作成することができる。このようなタイヤモデル10を用いてシミュレーションすることにより、精度を向上させることが可能となる。目的変数の1つに、単位幅あたりの補強コードの数を含んでもよい。このようにすることで、部位によって滑らかに変化している単位幅あたりの補強コードの数を精度よく再現したタイヤモデルを作成することができる。このようなタイヤモデル10を用いてシミュレーションすることにより、精度を向上させることが可能となる。
【0069】
前記シミュレーション工程において、前記補強コードのモデルのひずみεが正の場合には引張弾性率を与え、前記補強コードのモデルのひずみεが負の場合には前記引張弾性率よりも小さい値の圧縮弾性率を与えてもよい。引張弾性率Etと圧縮弾性率EcとをEt>Ecとなるように別々の値として与えることにより、補強コードに圧縮ひずみが生ずる場合であっても、精度のよいシミュレーションが可能となる。
【0070】
この場合、補強コードの材料が金属繊維材料の場合には−0.01≦ε≦0.01、補強コードの材料が有機繊維材料の場合には−0.10≦ε≦0.10、補強コードの材料が無機繊維材料の場合には−0.01≦ε≦0.01の範囲で、補強コードのモデルの弾性率を引張弾性率の値と圧縮弾性率との値との間で変化させることが好ましい。このように、引張弾性率Etと圧縮弾性率EcとをEt>Ecとなるように別々の値として与え、微小ひずみの範囲で弾性率を変化させるため、補強コードに微小な圧縮ひずみが生じる場合又は変形によりひずみεが引張から圧縮若しくは圧縮から引張に移行する場合であっても、精度のよいシミュレーションが可能となる。
【0071】
(評価例)
本実施形態に係るシミュレーション方法を評価した。評価例1は、周方向補強層がなく、ベルトのコード角度を目的変数とした例である。評価例1における評価対象のタイヤのタイヤサイズは、175/70R14 84S、リムは14×5J、内圧は230kPa、負荷荷重は3.50kNとした。
【0072】
評価例2は、ベルト層の径方向外側に周方向補強層があり、ベルトのコード角度と周方向補強層が有する有機繊維の補強コードの初期張力とを目的変数とした例である。評価例2における評価対象のタイヤのタイヤサイズは、215/65R15 96H、リムは15×6.5JJ、内圧は230kPa、負荷荷重は5.90kNとした。
【0073】
図21は、シミュレーションによって求めたタイヤモデルの接地形状の一例を示す平面図である。評価においては、比較例及び本実施形態に係るシミュレーション方法によりタイヤモデルを作成し、作成したタイヤモデルを用いて接地シミュレーションを実行した。前述した負荷荷重をタイヤモデルに負荷した際の接地形状を取得し、接地幅Wcを20等分する位置の接地端部を除く19箇所についてそれぞれ接地長(接地端Ce1、Ce2間の周方向における接地長さ、タイヤモデル接地長)Lmを取得する。測定位置が周方向溝内にある場合、その測定位置におけるタイヤモデル接地長Lmは測定しない。タイヤモデル接地長Lmを式(6)に与えて求めた精度指標aを、シミュレーションの精度の評価値とする。精度指標aは、100に近い方が精度は高い。式(5)のLtは実際のタイヤにおける接地長であり、Lmはタイヤモデルにおける接地長であり、nはタイヤモデル接地長Lmのデータ数である。評価例1の評価結果を表1に、評価例2の評価結果を表2に示す。
【0077】
評価例1は、比較例1、比較例2と、実施例1から実施例3である。評価例2は、実施例4から実施例6である。実施例1から実施例6は、上述した実施形態1又は実施形態2に係るシミュレーション方法を適用した例である。比較例1は、補強コードのモデルを構成する複数の要素すべてに一定値の特性値(目的変数であり、評価例1ではコード角度θ)を設定した例である。比較例2は、補強コードのモデルを幅方向に3個の領域に分割し、それぞれの領域における特性値の平均値をそれぞれの領域の各要素に設定した例である。実施例1から実施例3は、上述した実施形態1又は実施形態2に係るシミュレーション方法を適用した例である。実施例1は、補強コードのモデルを構成する複数の要素それぞれに、近似式から求めた特性値を設定した例である。実施例2は、実施例1に加え、中間変数を介した近似式から求めた特性値を用いた例である。実施例3は、実施例2に加え、補正係数を導入した目的変数の近似式から求めた特性値を用いた例である。実施例4は、コード角度θについては実施例1と同様であり、初期張力(特性値)については、周方向補強層の補強コードのモデルを構成する複数の要素すべてに一定値を設定した例である。実施例5は、コード角度θについては実施例1と同様であり、初期張力については、周方向補強層の補強コードのモデルを幅方向に3個の領域に分割し、それぞれの領域における初期張力の平均値をそれぞれの領域の各要素に設定した例である。実施例6は、コード角度θについては実施例1と同様であり、初期張力については、周方向補強層の補強コードのモデルを構成する複数の要素それぞれに、中間変数を介した近似式から求めた値を設定した例である。実施例6は、ベルト層のコード角度θについては実施形態1、周方向補強層の初期張力については実施形態2を適用した例である。
【0078】
表1の結果から、実施例1から実施例3は、比較例1及び比較例2に対してシミュレーションの精度が向上していることが分かる。表2の結果から、コード角度θ及び初期張力の両方について、実施形態1、2に係るシミュレーション方法を適用することにより、シミュレーションの精度が向上することが分かる。このように、実施形態1、2によれば、タイヤのシミュレーションの精度を向上させることができる。
【0079】
以上、実施形態1、2について説明したが、上述した内容により本実施形態が限定されるものではない。また、上述した実施形態の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、上述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更を行うことができる。