(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるフォークリフト100の概略図である。
【0011】
本発明の第1実施形態によるフォークリフト100は、エンジン1と、エンジン1の出力を車輪4に伝達するための複数の部品からなら駆動系2と、制動装置3と、運転者によって操作される走行レバー51、アクセルペダル52、ブレーキペダル53及びインチングペダル54と、エンジン1及び駆動系2の各部品を制御するコントローラ6と、を備える。
【0012】
エンジン1は、フォークリフト100の走行及び荷役作業に必要な動力を発生する。
【0013】
駆動系2は、トルクコンバータ21と、変速機22と、プロペラシャフト23と、終減速差動装置24と、ドライブシャフト25と、を備える。
【0014】
トルクコンバータ21は、エンジン1の動力を、流体を介して変速機22に伝達する。
【0015】
変速機22は、変速段を運転者によって選択された変速段に自動的に切り替え、トルクコンバータ21を介して伝達されたエンジン1の動力を、選択された変速段に応じて増減させて出力する。
【0016】
変速機22の内部には、前進用ソレノイドバルブ7によってトルク容量が連続的に変化させられる湿式多板の前進クラッチ221と、後進用ソレノイドバルブ8によってトルク容量が連続的に変化させられる湿式多板の後進クラッチ222と、が設けられる。トルク容量とは、前進クラッチ221及び後進クラッチ222が伝達可能な上限トルクのことである。前進クラッチ221及び後進クラッチ222は、トルク容量を変化させることで、締結状態、半クラッチ状態(スリップ状態)及び解放状態の3つの状態に制御される。前進クラッチ221を締結することで、フォークリフト100の前進走行が可能となり、後進クラッチ222を締結することで、フォークリフト100の後進走行が可能となる。
【0017】
前進用ソレノイドバルブ7は、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ9から供給された作動油の油圧を、所望の油圧に調節して前進クラッチ221に供給する。前進用ソレノイドバルブ7によって前進クラッチ221への供給油圧を制御することで、前進クラッチ221のトルク容量が制御される。
【0018】
後進用ソレノイドバルブ8は、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ9から供給された作動油の油圧を、所望の油圧に調節して後進クラッチ222に供給する。後進用ソレノイドバルブ8によって後進クラッチ222への供給油圧を制御することで、後進クラッチ222のトルク容量が制御される。
【0019】
プロペラシャフト23は、変速機22の出力軸と終減速差動装置24の入力軸とを接続する。
【0020】
終減速差動装置24は、終減速装置と差動装置とを一体化したものであり、プロペラシャフト23の回転を減速させた上で左右のドライブシャフト25に伝達する。また、カーブ走行時など、左右のドライブシャフト25の回転速度に速度差を生じさせる必要があるときには、自動的に速度差を与えて円滑な走行ができるようにする。左右のドライブシャフト25の先端にはそれぞれ車輪4が取り付けられる。
【0021】
制動装置3は、ブレーキブースタ31と、マスタシリンダ32と、ドラムブレーキ33と、ブレーキ液圧センサ34と、を備える。
【0022】
ブレーキブースタ31は、ブレーキペダル53に接続され、エンジン1の吸入負圧を利用してブレーキペダル53を操作するために必要な力を軽減する。
【0023】
マスタシリンダ32は、ブレーキペダル53の踏み込み量(以下「ブレーキ操作量」という。)に応じて、ドラムブレーキ33を作動させるための液圧(以下「ブレーキ液圧」という。)を発生させる。ブレーキ操作量が大きくなるほどブレーキ液圧は大きくなる。
【0024】
ドラムブレーキ33は、車輪4と共に回転するドラムに、摩擦材が貼り付けられたブレーキシューを押し付けることで車輪4の回転速度を低下させ、制動力を発生させる。マスタシリンダ32からドラムブレーキ33に供給されるブレーキ液圧が高くなるほど、ブレーキシューの押し付け力が大きくなるので、フォークリフト100の制動力は大きくなる。
【0025】
ブレーキ液圧センサ34は、マスタシリンダ32からドラムブレーキ33に供給されるブレーキ液圧を検出する。
【0026】
走行レバー51は、フォークリフト100の進行方向を選択するレバーである。走行レバー51を前進位置に切り替えると前進クラッチ221が締結状態、後進クラッチ222が解放状態となる。一方、走行レバー51を後進位置に切り替えると、前進クラッチ221が解放状態、後進クラッチ222が締結状態となる。また、走行レバー51を中立位置に切り替えると、前進クラッチ221及び後進クラッチ222が解放状態となる。走行レバー51には、走行レバー51の位置を検出するレバー位置検出センサ511が設けられる。
【0027】
アクセルペダル52は、エンジン出力を調整するペダルである。アクセルペダル52には、アクセルペダル52の踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出するアクセルストロークセンサ521が設けられる。
【0028】
ブレーキペダル53は、フォークリフト100の制動力を調整するペダルである。
【0029】
インチングペダル54は、前進クラッチ221及び後進クラッチ222のうち、締結中のクラッチ(以下「締結クラッチ」という。)のトルク容量を調整するペダルである。インチングペダル54には、インチングペダル54の踏み込み量(以下「インチング操作量」という。)を検出するインチングストロークセンサ541が設けられる。
【0030】
また、インチングペダル54は、ブレーキペダル53と機械的に連結されており、インチングペダル54を所定の操作量以上踏み込むと、インチングペダル54と連動して自動的にブレーキペダル53が踏み込まれるようになっている。
【0031】
つまり、インチングペダル54を踏み込むと、インチング操作量に応じて締結クラッチ(前進クラッチ221又は後進クラッチ222)への供給油圧が制御され、締結クラッチが締結状態、半クラッチ状態及び解放状態の3つの状態に制御されると共に、インチング操作量に応じてブレーキ液圧が変化し、ブレーキ液圧に応じた制動力が発生する。このインチング操作量と、締結クラッチへの供給油圧及びブレーキ液圧と、の関係については、
図2を参照して後述する。
【0032】
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ6には、前述したブレーキ液圧センサ34、レバー位置検出センサ511、アクセルストロークセンサ521及びインチングストロークセンサ541の他にも、フォークリフト100を制御するために必要な各種センサからの信号が入力される。
【0033】
コントローラ6は、アクセル操作量に応じてエンジン出力を制御する。
【0034】
また、コントローラ6は、走行レバー51の位置及びインチング操作量に応じて、前進用ソレノイドバルブ7及び後進用ソレノイドバルブ8を制御し、前進クラッチ221及び後進クラッチ222への供給油圧を制御する。これにより、前進クラッチ221及び後進クラッチ222のトルク容量が制御されて、前進クラッチ221及び後進クラッチ222が、締結状態、半クラッチ状態(スリップ状態)及び解放状態の3つの状態に制御される。
【0035】
図2は、インチング操作量に対する締結クラッチ(前進クラッチ221又は後進クラッチ222)への供給油圧の変化特性と、インチング操作量に対するブレーキ液圧の変化特性と、を示した図である。
【0036】
まず、インチング操作量に対する締結クラッチへの供給油圧の変化特性について説明する。
【0037】
図2に示すように、インチング操作量が第2操作量未満のときは、インチングペダル54が踏み込まれた状態であっても、締結クラッチへの供給油圧は所定の締結油圧に維持される。締結油圧は、前進クラッチ221及び後進クラッチ222を締結状態にするために必要な油圧である。
【0038】
インチング操作量が第2操作量になると、締結クラッチへの供給油圧が締結油圧から所定のスリップ油圧に向けて低下させられ、その後は、インチング操作量が第3操作量になったときに締結クラッチへの供給油圧が所定の解放油圧となるように、インチング操作量の増加に応じて締結クラッチへの供給油圧が徐々に低下させられる。締結クラッチは、供給油圧がスリップ油圧以下になると半クラッチ状態となり、供給油圧が解放油圧以下になると解放状態となる。
【0039】
このように、インチング操作量が第2操作量になるまでは、締結クラッチが締結状態となるように供給油圧が制御される。インチング操作量が第2操作量から第3操作量までの間は、締結クラッチが半クラッチ状態となるように供給油圧が制御される。そして、インチング操作量が第3操作量以上のときは、締結クラッチが解放状態となるように供給油圧が制御される。
【0040】
次に、インチング操作量に対するブレーキ液圧の変化特性について説明する。
【0041】
図2に示すように、インチング操作量が第1操作量以上になると、インチングペダル54に連動して自動的にブレーキペダル53が踏み込まれ始め、インチング操作量の増加に応じて徐々にブレーキ液圧が増加していく。そして、ブレーキ液圧が所定のブレーキ作動液圧以上になると、ドラムブレーキ33による制動力が発生する。
【0042】
ここで、フォークリフト100の納品時などの初期状態では、少なくともインチング操作量が第3操作量よりも大きくなってから、ブレーキ液圧がブレーキ作動液圧以上となるように、ブレーキ液圧の変化特性が設定されている。つまり、締結クラッチが解放状態になってから制動力が発生するように、インチング操作量に応じてブレーキ液圧が増加するようになっている。
【0043】
このように、第3操作量と、ブレーキ液圧がブレーキ作動液圧になるインチング操作量(以下「ブレーキ作動操作量」という。)と、の間には、第3操作量よりもブレーキ作動操作量が常に大きくなるように、アンダーラップ代が確保されるようにしておきたい。なお、アンダーラップ代とは、駆動力と制動力とが同時に発生せず、それぞれが重なり合わない領域のことである。
【0044】
しかしながら、ブレーキ液圧の変化特性は経時的に変化しやすく、また、個体バラつきも大きいので、インチング操作量が第3操作量になる前に、ブレーキ液圧がブレーキ作動液圧以上になってしまうことがある。つまり、締結クラッチが半クラッチ状態のときに、ドラムブレーキ33による制動力が発生してしまうことがある。
【0045】
インチングペダル54は、荷役作業を行いながらフォークリフト100の速度を調整するときに使用されるペダルなので、締結クラッチが半クラッチ状態のときに制動力が発生してしまうと、締結クラッチやブレーキシューの摩擦材の磨耗が促進されると共に、締結クラッチが発熱してオーバーヒートし、フォークリフト100の耐久性も悪化する。
【0046】
そこで本実施形態では、インチング操作量とブレーキ液圧とに応じて、締結クラッチへの供給油圧を制御することにした。以下、この供給油圧制御について、
図3を参照して説明する。
【0047】
図3は、本実施形態による供給油圧制御について説明する図である。
【0048】
図3に示すように、インチング操作量が第3操作量になる前にブレーキ液圧がブレーキ作動液圧になったときは、その時点で締結クラッチへの供給油圧を解放油圧まで低下させる。
【0049】
これにより、ブレーキ液圧の増加特性の変化にかかわらず、締結クラッチが解放状態になってから制動力を発生させることができる。よって、前述したフォークリフト100の操作性及び耐久性の悪化を抑制することができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、締結クラッチへの供給油圧の変化特性を必要に応じて変更することができるようにした点で、第1実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。なお、以下に示す各実施形態では前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
【0051】
図4は、本発明の第2実施形態によるフォークリフト100の概略図である。
【0052】
フォークリフト100での作業時には、木材や土石、溝等の障害物を乗り越えるために、ショックを伴う発進が必要になることがある。そこで、本発明の第2実施形態によるフォークリフト100は、ショックを伴う発進を可能とするために、ショック発生スイッチ55をさらに備える。
【0053】
ショック発生スイッチ55は、運転者によって操作されるスイッチである。ショック発生スイッチ55のON−OFF信号は、コントローラ6に入力される。ショック発生スイッチ55をONにすることで、インチングペダル操作時の前進クラッチ221又は後進クラッチ222への供給油圧の変化特性が、
図5に示すように変化する。
【0054】
図5は、ショック発生スイッチ55をONにしたときの、締結クラッチへの供給油圧の変化特性を示した図である。
【0055】
図5に示すように、ショック発生スイッチ55をONにした場合は、インチング操作量が第2操作量になったときに、締結クラッチへの供給油圧が、ステップ的に締結油圧からゼロに変化するように、締結クラッチへの供給油圧の変化特性を変更する。
【0056】
これにより、インチングペダル54を第2操作量以上踏み込んだ状態からインチングペダル54を戻すことで、解放状態にある締結クラッチを一気に締結状態にすることができるので、ショックを伴う発進が可能となる。
【0057】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0058】
例えば、上記実施形態では産業車両の例としてフォークリフトを挙げて説明したが、フォークリフト以外の産業車両に本発明を適用しても良い。また、制動装置3としてドラムブレーキ33を使用したが、ディスクブレーキを使用しても良い。
【0059】
また、上記第2実施形態では、インチング操作量が第2操作量になったときに、締結クラッチへの供給油圧をゼロにしていたが、少なくとも解放油圧以下になるように制御すれば良い。