特許第5953947号(P5953947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953947耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953947
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 18/00 20060101AFI20160707BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20160707BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   B32B18/00 A
   C04B41/89 A
   C04B41/87 G
   C04B41/87 J
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-126867(P2012-126867)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-248852(P2013-248852A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中田 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕茂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 康智
(72)【発明者】
【氏名】中村 武志
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−032165(JP,A)
【文献】 特開2011−046598(JP,A)
【文献】 特開2006−028015(JP,A)
【文献】 特開2008−247722(JP,A)
【文献】 特開平09−201894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C04B 41/00−41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品であって、
珪化物を含むセラミックス基複合材料で形成される基材と、
前記基材の表面に積層される炭化珪素層と、
前記炭化珪素層の表面に積層される珪素層と、
前記珪素層の表面に積層されるムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層と、
前記混合層の表面に積層される酸化物層と、
を備えることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記珪酸イッテルビウムは、YbSiOまたはYbSiであることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記炭化珪素層の膜厚は、10μm以上50μm以下であり、
前記珪素層の膜厚は、50μm以上140μm以下であり、
前記混合層の膜厚は、75μm以上225μm以下であることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記珪素層の膜厚は、50μm以上100μm以下であることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記酸化物層は、酸化ハフニウム、珪酸ハフニウム、珪酸ルテチウム、珪酸イッテルビウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、珪酸アルミニウムおよびルテチウムハフニウム酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを主成分とする酸化物で形成されることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項6】
請求項5に記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記酸化物層は、単斜晶の酸化ハフニウムで形成されていることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1つに記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記基材は、炭化珪素繊維に炭化珪素マトリックスを複合化したセラミックス基複合材料で形成されていることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1つに記載のセラミックス基複合材料部品であって、
前記セラミックス基複合材料部品は、部品表面温度が1200℃から1400℃、水蒸気分圧が30kPaから140kPaの環境下で使用されることを特徴とするセラミックス基複合材料部品。
【請求項9】
耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品の製造方法であって、
珪化物を含むセラミックス基複合材料で基材を形成する基材形成工程と、
前記基材の表面に炭化珪素層を化学蒸着法で積層する炭化珪素層積層工程と、
前記炭化珪素層の表面に珪素層を減圧溶射法で積層する珪素層積層工程と、
前記珪素層の表面にムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層を減圧溶射法で積層する混合層積層工程と、
前記混合層の表面に酸化物層を大気溶射法で積層する酸化物層積層工程と、
を備えることを特徴とするセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記炭化珪素層積層工程は、前記炭化珪素層を10μm以上50μm以下の膜厚で積層し、
前記珪素層積層工程は、前記珪素層を50μm以上140μm以下の膜厚で積層し、
前記混合層積層工程は、前記混合層を75μm以上225μm以下の膜厚で積層することを特徴とするセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記珪素層積層工程は、前記珪素層を50μm以上100μm以下の膜厚で積層することを特徴とするセラミックス基複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品及びその製造方法に係り、特に、水蒸気を含む高温ガス環境下で使用されるジェットエンジンやロケットエンジン等の高温部品に用いられるセラミックス基複合材料部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水蒸気を含む高温ガス環境下で使用されるジェットエンジンのタービン部品やシュラウド部品、ロケットエンジンのスラスタや燃焼ガスチューブ等の高温部品として、ニッケル合金等の耐熱合金よりも耐熱性に優れかつ高温域での比強度の大きいセラミックス基複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composite)が注目されている。
【0003】
一方、高温ガス中の水蒸気はSi含有材料の減肉反応を引き起こすことが知られており、高温部品の基材として珪化物を含むセラミックス基複合材料を選択する場合には、耐酸化性と耐水蒸気性とを確保する必要がある。
【0004】
特許文献1には、ケイ素含有材料からなる基材と、基材に重なる環境バリヤー層と、環境バリヤー層に重なる遷移層と、遷移層に重なるトップコートとから構成されるガスタービンエンジンの燃焼器部品等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4901192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ジェットエンジンのタービン部品等の高温部品は、水蒸気を含む高温ガス環境下(例えば、燃焼ガスに含まれる水蒸気分圧が30kPaから140kPa)において、高温(例えば、部品表面温度が1200℃から1400℃)と、低温(例えば、部品表面温度が600℃以下)とを繰り返す熱サイクルに曝される。
【0007】
耐酸化性と耐水蒸気性とを高温部品に備えるために、珪化物を含むセラミックス基複合材料の表面に、例えば特許文献1に記載されているような多層被膜を被覆する場合には、各層間の密着性が低い場合や熱サイクルによる繰り返しの熱応力等により多層被膜が短時間で略全面剥離して、高温部品の耐酸化性と耐水蒸気性とを損なう可能性がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、水蒸気を含む高温ガス環境下で熱サイクルに曝される場合でも、耐酸化性と耐水蒸気性とをより向上させた耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品は、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品であって、珪化物を含むセラミックス基複合材料で形成される基材と、前記基材の表面に積層される炭化珪素層と、前記炭化珪素層の表面に積層される珪素層と、前記珪素層の表面に積層されるムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層と、前記混合層の表面に積層される酸化物層と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記珪酸イッテルビウムは、YbSiOまたはYbSiであることが好ましい。
【0011】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記炭化珪素層の膜厚は、10μm以上50μm以下であり、前記珪素層の膜厚は、50μm以上140μm以下であり、前記混合層の膜厚は、75μm以上225μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記珪素層の膜厚は、50μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記酸化物層は、酸化ハフニウム、珪酸ハフニウム、珪酸ルテチウム、珪酸イッテルビウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、珪酸アルミニウムおよびルテチウムハフニウム酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを主成分とする酸化物で形成されることが好ましい。
【0014】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記酸化物層は、単斜晶の酸化ハフニウムで形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記炭化珪素層は、化学蒸着膜で形成されており、前記珪素層と前記混合層とは、減圧溶射法による溶射皮膜で形成されており、前記酸化物層は、大気溶射法による溶射皮膜で形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品において、前記基材は、炭化珪素繊維に炭化珪素マトリックスを複合化したセラミックス基複合材料で形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品は、部品表面温度が1200℃から1400℃、水蒸気分圧が30kPaから140kPaの環境下で使用されることが好ましい。
【0018】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品の製造方法は、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品の製造方法であって、珪化物を含むセラミックス基複合材料で基材を形成する基材形成工程と、前記基材の表面に炭化珪素層を化学蒸着法で積層する炭化珪素層積層工程と、前記炭化珪素層の表面に珪素層を減圧溶射法で積層する珪素層積層工程と、前記珪素層の表面にムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層を減圧溶射法で積層する混合層積層工程と、前記混合層の表面に酸化物層を大気溶射法で積層する酸化物層積層工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品の製造方法において、前記炭化珪素層積層工程は、前記炭化珪素層を10μm以上50μm以下の膜厚で積層し、前記珪素層積層工程は、前記珪素層を50μm以上140μm以下の膜厚で積層し、前記混合層積層工程は、前記混合層を75μm以上225μm以下の膜厚で積層することが好ましい。
【0020】
本発明に係るセラミックス基複合材料部品の製造方法において、前記珪素層積層工程は、前記珪素層を50μm以上100μm以下の膜厚で積層することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上記構成の耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品およびその製造方法によれば、珪化物を含むセラミックス基複合材料で形成される基材の表面に、炭化珪素層と、珪素層と、ムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層と、酸化物層とを順に積層して被覆することにより、各層間の密着性を高めると共に、基材から酸化物層に向けて各層の熱膨張係数を傾斜させて熱サイクルによる繰り返しの熱応力を緩和しているので、セラミックス基複合材料部品が水蒸気を含む高温ガス環境下で熱サイクルに曝される場合でも被膜の剥離を抑え、耐酸化性と耐水蒸気性とをより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態において、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品の構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態において、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態において、溶射皮膜の熱膨張特性を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態において、水蒸気曝露試験装置の構成を示す模式図である。
図5】本発明の実施の形態において、実施例1の供試体における水蒸気曝露試験後の外観を示す写真である。
図6】本発明の実施の形態において、実施例2の供試体における水蒸気曝露試験後の外観を示す写真である。
図7】本発明の実施の形態において、バーナーリグ試験の概略を示す図である。
図8】本発明の実施の形態において、実施例1の供試体における4000サイクル後のバーナーリグ試験結果を示す写真である。
図9】本発明の実施の形態において、実施例2の供試体における1000サイクル後のバーナーリグ試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品10の構成を示す断面図である。セラミックス基複合材料部品10は、基材12の表面に、炭化珪素層14と、珪素層16と、ムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層18と、酸化物層20とが順に積層されて被覆されている。
【0024】
基材12は、珪化物を含むセラミックス基複合材料で形成されている。セラミックス基複合材料は、強化繊維と、セラミックスマトリックスとから構成される。
【0025】
強化繊維には、例えば、炭化珪素繊維(SiC繊維)、窒化珪素繊維(Si繊維)、炭素繊維、グラファイト繊維等の長繊維、短繊維、ウイスカが用いられる。プリフォームには、例えば、強化繊維のフィラメントを数百から数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることにより得られる3次元構造を備える繊維織物や、平織りや朱子織り等の2次元構造を備える織物や、一方向材(UD材)等が用いられる。また、セラミックスマトリックスには、例えば、炭化珪素、窒化珪素等が用いられる。
【0026】
強化繊維及びセラミックマトリックスの少なくとも一方は、珪化物で形成されており、強化繊維及びセラミックマトリックスの両方が珪化物で形成されていてもよい。また、強化繊維とセラミックスマトリックスとは、同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。なお、珪化物には、炭化珪素や窒化珪素等の珪素化合物だけでなく、珪素も含まれる。
【0027】
セラミックス基複合材料には、例えば、炭化珪素繊維と炭化珪素マトリックスからなるSiC/SiC複合材料,炭化珪素繊維と窒化珪素マトリックスからなるSiC/Si複合材料,窒化珪素繊維と窒化珪素マトリックスからなるSi/Si複合材料等が用いられる。なお、SiC/SiC複合材料の熱膨張係数は、3.0×10−6/℃から4.0×10−6/℃である。
【0028】
炭化珪素層14は、基材12の表面に積層されている。炭化珪素は耐酸化性に優れていることから、基材12の表面を炭化珪素層14で被覆することにより、基材12の耐酸化性を向上させることができる。また、炭化珪素層14は、珪化物を含む基材12との化学的親和性が高いので、基材12と炭化珪素層14との密着力が高められる。
【0029】
更に、基材12がSiC/SiC複合材料で形成されている場合には、基材12と炭化珪素層14との熱膨張差を小さくできるので熱応力がより緩和されて、炭化珪素層14の割れの発生が抑制される。なお、炭化珪素の熱膨張係数は、3.0×10−6/℃から4.0×10−6/℃である。
【0030】
炭化珪素層14の膜厚は、10μm以上50μm以下であることが好ましく、20μm以上40μm以下であることがより好ましい。この理由は、炭化珪素層14の膜厚が10μmより小さくなると、酸素や水蒸気等の透過が大きくなり耐酸化性や耐水蒸気性が低下するからであり、炭化珪素層14の膜厚が50μmより大きくなると、炭化珪素が脆性材料であることから炭化珪素層14に割れが生じやすくなるからである。また、炭化珪素層14の膜厚を20μm以上40μm以下とすることにより、最も酸素や水蒸気等の透過が抑制されると共に、炭化珪素層14の割れを抑えることが可能となる。
【0031】
炭化珪素層14は、化学蒸着法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)による化学蒸着膜で形成されることが好ましい。化学蒸着膜は溶射皮膜等よりも緻密な皮膜なので、炭化珪素層14中における酸素や水蒸気等の透過が抑制され、基材12の酸化や水蒸気減肉がより抑えられる。
【0032】
珪素層16は、炭化珪素層14の表面に積層されている。珪素層16は、非酸化物からなる炭化珪素層14と、酸化物からなるムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層18との間の密着性を高めるボンドコートとしての機能を有している。また、珪素の熱膨張係数と炭化珪素の熱膨張係数とは近い値であることから、炭化珪素層14と珪素層16との間の熱膨張差に起因する熱応力による割れの発生が抑えられる。なお、珪素の熱膨張係数は、2.0×10−6/℃から3.0×10−6/℃である。
【0033】
珪素層16の膜厚は、50μm以上140μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であることがより好ましく、70μm以上80μm以下であることが最も好ましい。
【0034】
この理由は、珪素層16の膜厚が50μmより小さいと炭化珪素層14と混合層18との間の密着性が低下するからであり、珪素層16の膜厚が140μmより大きいと、珪素が脆性材料であることから、珪素層16に割れが発生する場合があるからである。
【0035】
また、珪素層16の膜厚を100μm以下とすることにより、珪素層16の割れの発生を更に抑えられる。そして、珪素層16の膜厚を70μm以上80μm以下とすることにより、最も炭化珪素層14と混合層18との間の密着性が高められると共に、珪素層16の割れの発生を抑えることが可能となる。
【0036】
珪素層16は、減圧溶射法による溶射皮膜で形成されることが好ましい。減圧溶射法による溶射皮膜によれば、炭化珪素層14との密着性をより高めることができると共に、大気溶射法による溶射皮膜より緻密な溶射皮膜なので酸素や水蒸気の透過が抑制される。
【0037】
ムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層18は、珪素層16の表面に積層されている。混合層18は、混合層18と酸化物層20との間の密着性を高めると共に、炭化珪素層14及び珪素層16と、酸化物層20との間の熱膨張差による熱応力を緩和する応力緩和層としての機能を備えている。
【0038】
混合層18に含まれるムライトは、混合層18と酸化物層20との間の密着性を高める機能を有している。そいて、ムライトに珪酸イッテルビウムを混合することにより、ムライトと珪酸イッテルビウムとの混合物の熱膨張係数が、炭化珪素及び珪素の熱膨張係数と、酸化物の熱膨張係数(5.0×10−6/℃から10.0×10−6/℃)との略中間に位置するので、炭化珪素層14及び珪素層16と、酸化物層20との間の熱膨張差による熱応力が緩和される。例えば、ムライトと珪酸イッテルビウムとの混合比が体積比で1:1からなる混合層18の熱膨張係数は、3.5×10−6/℃から4.5×10−6/℃である。また、珪酸イッテルビウムは耐水蒸気性に優れているので、ムライト単体よりも混合層18の耐水蒸気性を高めることができる。
【0039】
珪酸イッテルビウムには、例えば、一珪酸イッテルビウム(YbSiO)または二珪酸イッテルビウム(YbSi)が用いられ、混合層18は、ムライト(3Al・2SiO)と一珪酸イッテルビウム(YbSiO)との混合物またはムライト(3Al・2SiO)と二珪酸イッテルビウム(YbSi)との混合物から形成される。
【0040】
混合層18の膜厚は、75μm以上225μm以下であることが好ましく、75μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0041】
この理由は、混合層18の膜厚が75μmより小さくなると、混合層18の厚みが薄くなるので応力緩和層としての機能が低下するからであり、混合層18の膜厚が225μmより大きくなると、混合層18を構成するムライトと珪酸イッテルビウムとが脆性材料であることから混合層18に割れが生じやすくなるからである。また、混合層18の膜厚を75μm以上150μm以下とすることにより、最も応力緩和層としての機能が高くなると共に、混合層18の割れを抑えることができる。
【0042】
混合層18は、減圧溶射法による溶射皮膜で形成されることが好ましい。減圧溶射法による溶射皮膜によれば、珪素層16との密着性をより高めることができると共に、大気溶射法による溶射皮膜より緻密な溶射皮膜なので酸素及び水蒸気の透過が抑制される。
【0043】
酸化物層20は、混合層18の表面に積層されている。酸化物は、一般的に、耐酸化性、耐水蒸気性及び低熱伝導性に優れていることから、酸化物層20は、酸素や水蒸気等に対するガスバリア層としての機能を有すると共に、燃焼ガス等からの熱伝導に対する熱バリア層としての機能を備えている。
【0044】
酸化物層20は、酸化ハフニウム(単斜晶HfO、立方晶HfO、イットリア等による安定化HfO等)、珪酸ハフニウム(HfSiO等)、珪酸ルテチウム(LuSiO、LuSi等)、珪酸イッテルビウム(YbSiO、YbSi等)、酸化チタニウム(TiO等)、酸化ジルコニウム(単斜晶ZrO、立方晶ZrO、イットリア等による安定化ZrO等)、チタン酸アルミニウム(AlTiO等)、珪酸アルミニウム(AlSi13等)およびルテチウムハフニウム酸化物(LuHf12等)からなる群から選ばれる少なくとも1つを主成分とする酸化物で形成されることが好ましい。これらの酸化物は、耐熱性、耐酸化性、耐水蒸気性、低熱伝導性に優れているからである。
【0045】
酸化物層20は、単斜晶の酸化ハフニウムで形成されることがより好ましい。単斜晶の酸化ハフニウムは、珪酸ルテチウム、珪酸イッテルビウム、酸化チタニウム、チタン酸アルミニウム等よりも耐水蒸気性に優れていると共に、単斜晶の酸化ハフニウムの熱膨張係数は、例えば、イットリア等で安定化させた酸化ハフニウム等の熱膨張係数よりも炭化珪素、珪素、ムライトと珪酸イッテルビウムとの混合物の熱膨張係数に近い値であるからである。なお、単斜晶の酸化ハフニウムの熱膨張係数は、5.0×10−6/℃から6.0×10−6/℃である。
【0046】
酸化物層20の膜厚は、10μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0047】
この理由は、酸化物層20の膜厚が10μmより小さくなると、酸素や水蒸気等の透過が大きくなり耐酸化性及び耐水蒸気性が低下するからであり、酸化物層20の膜厚が300μmより大きくなると、酸化物が脆性材料であることから酸化物層20に割れが生じやすくなるからである。酸化物層20の膜厚を100μm以上200μm以下とすることにより、最も耐酸化性及び耐水蒸気性を向上させると共に、酸化物層20の割れの発生を抑えることができる。
【0048】
酸化物層20は、大気溶射法による溶射皮膜で形成されることが好ましい。大気溶射法による溶射皮膜によれば、減圧溶射法による溶射皮膜よりも気孔が多くなるので、セラミックス基複合材料部品10が熱曝露されたときに溶射皮膜を構成する酸化物粒子の焼結が抑制されて、酸化物層20の割れを抑えることが可能となる。
【0049】
次に、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品10の製造方法について説明する。
【0050】
図2は、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品10の製造方法を示すフローチャートである。耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品10の製造方法は、基材形成工程(S10)と、炭化珪素層積層工程(S12)と、珪素層積層工程(S14)と、混合層積層工程(S16)と、酸化物層積層工程(S18)と、を備えている。
【0051】
基材形成工程(S10)は、珪化物を含むセラミックス基複合材料で基材12を形成する工程である。
【0052】
基材12は、一般的なセラミックス基複合材料の成形方法で成形することができる。基材12は、例えば、炭化珪素繊維等で3次元織物等のプリフォームを形成した後、プリフォーム内に炭化珪素等のセラミックスマトリックスを化学蒸着法(CVD法)やCVI法(Chemical Vapor Infiltration)で浸透させて複合化させて成形される。炭化珪素繊維には、例えば、チラノ繊維(宇部興産株式会社製)、ハイニカロン繊維(日本カーボン株式会社製)等が用いられる。
【0053】
また、ポリカルボシラン等の有機金属ポリマ(セラミックスマトリックスの前駆体)をプリフォームに含浸し、含浸後に不活性雰囲気で焼成して基材12を成形してもよい。
【0054】
他の基材12の成形方法としては、炭化珪素繊維等の強化繊維と、炭化珪素等のセラミックスマトリックスを形成するための原料粉末(例えば、珪素粉末やカーボン粉末)とを混合した後に、ホットプレスや熱間静水圧プレス装置(HIP:Hot Isostatic Press)で反応焼結させて複合化してもよい。
【0055】
また、セラミックス基複合材料に、炭化珪素粉末等をエタノール等の有機溶媒に分散させたスラリーを含浸し、セラミックス基複合材料の表面の気孔を炭化珪素粉末等で充填して基材の表面を平滑化することが好ましい。
【0056】
炭化珪素層積層工程(S12)は、基材12の表面に炭化珪素層14を積層する工程である。
【0057】
炭化珪素層14は、溶射法、スパッタリングやイオンプレーティング等の物理蒸着法(PVD法:Physical Vapor Deposition)、化学蒸着法(CVD法)等で形成可能であるが、溶射法等よりも緻密な皮膜を形成できることから化学蒸着法で形成されることが好ましい。
【0058】
炭化珪素層14を化学蒸着法で形成する場合には、一般的な炭化珪素の化学蒸着法を用いることができる。例えば、反応炉内に基材12をセットして加熱し、反応炉内に反応ガスとしてメチルトリクロロシラン(CHSiCl)等を流すことにより、基材12の表面に炭化珪素層14を形成することができる。
【0059】
珪素層形成工程(S14)は、炭化珪素層14の表面に珪素層16を積層する工程である。
【0060】
珪素層16は、溶射法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)等で形成可能であるが、密着性が良い皮膜を形成できることから溶射法(大気溶射法、減圧溶射法)で形成されることが好ましい。溶射法には、一般的なプラズマ溶射法等が用いられる。
【0061】
溶射法には、炭化珪素層14の酸化や、溶射材料の珪素粉末の酸化を抑えると共に、大気溶射法よりも緻密な溶射皮膜の形成が可能であることから、減圧溶射法を用いることがより好ましい。珪素層16を減圧溶射法で形成する場合には、例えば、炭化珪素層14が被覆された基材12を溶射チャンバ内にセットし、真空引きを行った後、真空状態またはアルゴンガス等の不活性ガスを導入して減圧した状態で、珪素粉末を溶射ガンへ送り、炭化珪素層14の表面に溶射を行う。溶射材料には、例えば、粒径10μmから40μmの珪素粉末が用いられる。
【0062】
混合層形成工程(S16)は、珪素層16の表面にムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層18を積層する工程である。
【0063】
混合層18は、溶射法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)等で形成可能であるが、密着性が良い皮膜を形成できることから溶射法(大気溶射法、減圧溶射法)で形成されることが好ましい。溶射法には、珪素層16の酸化を抑えると共に、大気溶射法よりも緻密な溶射皮膜の形成が可能であることから減圧溶射法を用いることがより好ましい。
【0064】
混合層18を減圧溶射法で形成する場合には、予めムライト粉末と珪酸イッテルビウム粉末とを混合した混合粉末を溶射材料として用い、混合粉末を溶射ガンへ送り、真空状態または減圧された状態で珪素層16の表面に溶射してもよいし、ムライト粉末と珪酸イッテルビウム粉末とを別々に溶射ガンへ送り、ムライト粉末と珪酸イッテルビウム粉末とを溶融またはそれに近い状態で混合させて、真空状態または減圧された状態で溶射してもよい。溶射材料には、例えば、粒径10μmから50μmのムライト粉末と珪酸イッテルビウム粉末とが用いられる。
【0065】
酸化物層形成工程(S18)は、混合層18の表面に酸化物層20を形成する工程である。
【0066】
酸化物層20は、溶射法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)等で形成可能であるが、密着性のよい皮膜を形成できることから溶射法(大気溶射法、減圧溶射法)で形成されることが好ましい。溶射法には、溶射皮膜を構成する酸化物粒子の焼結を抑えるために、減圧溶射法よりも大気溶射法を用いることがより好ましい。
【0067】
酸化物層20を大気溶射法で形成する場合には、例えば、表面に混合層18が被覆された基材12を溶射チャンバにセットし、溶射材料である酸化物粉末を溶射ガンへ送り、大気圧状態で混合層18の表面に溶射を行う。溶射材料には、例えば、粒径10μmから50μmの酸化物粉末が用いられる。以上により、耐環境被覆されたセラミックス基複合材料部品10の製造が完了する。
【0068】
上記構成によれば、珪化物を含むセラミックス基複合材料で形成される基材の表面に、炭化珪素層と、珪素層と、ムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層と、酸化物層と、順に積層して被覆することにより、各層間の密着力を高めると共に、基材から酸化物層に向けて各層の熱膨張係数を傾斜させて熱サイクルによる繰り返しの熱応力を緩和しているので、セラミックス基複合材料部品が水蒸気を含む高温ガス環境下で熱サイクルに曝される場合でも被膜の剥離を抑え、耐酸化性と耐水蒸気性とをより向上させることが可能となる。
【0069】
また、炭化珪素層の膜厚を10μm以上50μm以下とし、珪素層の膜厚を50μm以上140μm以下とし、混合層の膜厚を75μm以上225μm以下として各層の膜厚を調整することにより、水蒸気を含む高温環境下(表面温度1300℃、水蒸気分圧150kPa)でセラミックス基複合材料部品が100時間曝された場合や、熱サイクル(表面温度600℃以下〜1300℃)にセラミックス基複合材料部品が1000サイクル曝された場合でも、被膜の剥離を抑え、耐酸化性と耐水蒸気性とをより向上させることが可能となる。
【0070】
更に、炭化珪素層の膜厚を10μm以上50μm以下とし、珪素層の膜厚を50μm以上100μm以下とし、混合層の膜厚を75μm以上225μm以下として各層の膜厚を調整することにより、水蒸気を含む高温環境下(表面温度1300℃、水蒸気分圧150kPa)でセラミックス基複合材料部品が800時間曝された場合や、熱サイクル(表面温度600℃以下〜1300℃)にセラミックス基複合材料部品が4000サイクル曝された場合でも、被膜の剥離や割れを抑え、耐酸化性と耐水蒸気性とを更に向上させることが可能となる。
【実施例】
【0071】
耐環境被覆した供試体を作製して水蒸気曝露試験とバーナーリグ試験とを行い、水蒸気特性及び熱サイクル特性について評価した。
【0072】
(供試体の作製)
まず、実施例1、2の供試体の作製方法について説明する。なお、実施例1、2の供試体では、Si層の膜厚が相違しており、その他の構成は同じとした。
【0073】
実施例1、2の供試体の基材を、SiC繊維とSiCマトリックスとを複合化したSiC/SiC複合材料で形成した。SiC/SiC複合材料の成形については、SiC繊維で形成したプリフォームに珪素粉末と炭素粉末とを含浸し、反応焼結させてSiCマトリックスを形成して複合化した。SiC繊維には、チラノ繊維(宇部興産株式会社製)を使用した。また、SiC/SiC複合材料に、炭化珪素粉末をエタノールに分散させたスラリーを含浸し、SiC/SiC複合材料の表面の気孔に炭化珪素粉末を充填して基材の表面を平滑化した。基材の形状は、水蒸気曝露試験用では50mm×9mm×4mmのテーパーが付いた平板状、もしくは50mm×35mm×4mmの平板状で端辺をR1.5加工したものとし、バーナーリグ試験用では50mm×50mm×4mmの平板状とした。
【0074】
次に、基材の表面にSiC層をCVD法で積層した。反応炉内に基材をセットして加熱(反応温度900℃から1000℃)し、反応ガスとしてメチルトリクロロシラン(CHSiCl)を用いることにより、基材の表面にSiC層を被覆した。SiC層の膜厚については、実施例1、2の供試体ともに30μmとした。
【0075】
次に、SiC層の表面にSi層を減圧溶射法で積層した。SiC層が被覆された基材を溶射チャンバ内にセットし、真空引きを行った後、アルゴンガスを溶射チャンバ内に導入し、溶射チャンバ内が減圧された状態でSiC層の表面に溶融させたSi粉末を溶射した。Si粉末には、粒径が20μmから40μmのものを使用した。Si層の厚みについては、実施例1の供試体では75μmとし、実施例2の供試体では140μmとした。なお、Si層の厚みは、溶射時間を変えて調整した。
【0076】
次に、Si層の表面に、3Al・2SiOとYbSiOとの混合層を減圧溶射法で積層した。減圧溶射法では、3Al・2SiO粉末とYbSiO粉末との混合粉末(溶射皮膜形成後の体積比が1:1となるように混合比を調整した粉末)を溶射材料として用い、溶射チャンバ内がアルゴンガスで減圧された状態でSi層の表面に溶融させた混合粉末を溶射した。3Al・2SiOとYbSiOとの混合層の厚みについては、実施例1、2の供試体ともに75μmとした。
【0077】
次に、3Al・2SiOとYbSiOとの混合層の表面に、HfO層を大気溶射法で積層した。HfO粉末を溶射ガンへ送り、大気圧状態で3Al・2SiOとYbSiOとの混合層の表面に溶融させたHfO粉末を溶射した。HfO粉末には、単斜晶のHfO粉末を用いた。HfO層の厚みについては、実施例1、2の供試体ともに150μmとした。
【0078】
上記の実施例1、2の供試体について、HfO層を被覆した後に外観観察した結果、被膜の割れや剥離は認められなかった。
【0079】
(熱膨張測定)
Si層と、3Al・2SiOとYbSiOとの混合層と、HfO層とを模擬した試験片を作製し、室温から1200℃の温度範囲で熱膨張測定を行った。
【0080】
Si粉末を溶射材料として用い、減圧溶射法によってSi層を模擬した試験片を作製して、JISZ2285の測定方法に従い熱膨張測定を行った。その結果、Si層を模擬した試験片の熱膨張係数は、2.0×10−6/℃から2.5×10−6/℃であった。
【0081】
3Al・2SiO粉末とYbSiO粉末との混合粉末(溶射皮膜形成後の体積比が1:1となるように混合比を調整した粉末)の粉末を溶射材料として用い、減圧溶射法によって3Al・2SiOとYbSiOとの混合層(を模擬した試験片を作製して熱膨張測定を行った。また、比較のために、3Al・2SiO粉末を溶射材料として用い、試験片を作製して熱膨張測定を行った。
【0082】
図3は、溶射皮膜の熱膨張特性を示すグラフであり、図3(a)は、3Al・2SiOからなる溶射皮膜の熱膨張特性を示すグラフであり、図3(b)は、3Al・2SiOとYbSiOとを混合させた溶射皮膜の熱膨張特性を示すグラフである。
【0083】
図3(a)に示すように、3Al・2SiOからなる溶射皮膜の場合には、900℃を超えると溶射皮膜を構成する3Al・2SiO粒子の焼結にともなう体積収縮が生じて熱膨張率が大きく低下する。
【0084】
これに対して、図3(b)に示すように、3Al・2SiOとYbSiOとを混合させた溶射皮膜では、900℃を超える温度域において、溶射皮膜中の3Al・2SiO粒子の焼結にともなう体積収縮が抑えられており、熱膨張率の低下が抑制されている。
【0085】
このように、ムライトと珪酸イッテルビウムとを混合した混合層とすることにより、ムライト単体よりも900℃を超える温度域において熱膨張率の大きな低下を抑制できる。3Al・2SiOとYbSiOとの混合層を模擬した試験片の熱膨張係数は、3.5×10−6/℃から4.5×10−6/℃であった。
【0086】
単斜晶のHfO粉末を溶射材料として用い、大気溶射法によってHfO層を模擬した試験片を作製し、熱膨張測定を行った。その結果、HfO層を模擬した試験片の熱膨張係数は、5.0×10−6/℃から6.0×10−6/℃であった。
【0087】
以上のように、実施例1、2の供試体では、3Al・2SiOとYbSiOとが混合した混合層の熱膨張係数は、Si層の熱膨張係数と、HfO層の熱膨張係数との中間に位置している。
【0088】
(水蒸気曝露試験)
実施例1、2の供試体について水蒸気曝露試験を実施した。また比較例の供試体として、耐環境被覆していない基材(SiC/SiC複合材料で形成した基材のみのもの)についても水蒸気曝露試験を実施した。
【0089】
まず、水蒸気曝露試験方法について説明する。水蒸気曝露試験には、東伸工業株式会社製の水蒸気曝露試験装置を使用した。この水蒸気曝露試験装置の仕様は、最高温度1500℃(常用1400℃)、試験チャンバ内の最大圧力950kPa(9.5atm)である。
【0090】
図4は、水蒸気曝露試験装置30の構成を示す模式図である。アルミナ製の試験チャンバ32の周りには、MoSi製ヒータ34が設けられている。試験チャンバ32内には、水蒸気を供給する水蒸気供給管36と、雰囲気ガス(空気、窒素、酸素または炭酸ガス)を供給する雰囲気ガス供給管38と、試験チャンバ内の混合ガスを排出する混合ガス排出管40と、温度制御用の熱電対42とが設けられている。また、供試体44は、水蒸気供給管36から供給される水蒸気が供試体表面に沿って流れるように試験チャンバ32内に配置される。
【0091】
水蒸気曝露試験の試験条件については、試験温度1300℃、試験チャンバ内の全圧力950kPa(9.5atm)、水蒸気の分圧150kPa(1.5atm)、雰囲気ガス(O+N+CO)の分圧800kPa(8atm)とした。水蒸気曝露試験の評価については、外観観察により行った。
【0092】
図5は実施例1の供試体における水蒸気曝露試験後の外観を示す写真である。水蒸気曝露時間が270時間経過後、500時間経過後、800時間経過後について外観観察した結果、実施例1の供試体では、水蒸気曝露時間が800時間経過後においても被膜の割れや剥離が生じなかった。なお、供試体の表面と裏面については、供試体における水蒸気供給管側の面を表面とし(図4における供試体面44A)、供試体の表面と反対側の面を裏面とした(図4における供試体面44B)。
【0093】
図6は、実施例2の供試体における水蒸気曝露試験後の外観を示す写真である。実施例2の供試体では、水蒸気曝露時間が100時間経過後において端部に割れが若干認められたものの、被膜の剥離には至らなかった。
【0094】
なお、比較例の供試体については、水蒸気曝露時間が60時間経過後において、水蒸気曝露により形状が維持できないほど腐食していた。
【0095】
(バーナーリグ試験)
実施例1、2の供試体についてバーナーリグ試験を実施した。まず、バーナーリグ試験方法について説明する。図7は、バーナーリグ試験の概略を示す図であり、図7(a)は、バーナーリグ試験装置50の概略構成を示す模式図であり、図7(b)は、1サイクルあたりの供試体表面温度サイクル条件を示す図である。
【0096】
図7(a)に示すように、バーナーリグ試験では、保持治具52に供試体54を保持し、ノズル56から火炎を供試体表面に向けて噴射させて行われる。供試体54の表面温度は、放射温度計(図示せず)で測定される。放射温度計による供試体54の表面温度の測定位置は、供試体54の中心部である。放射温度計による供試体表面温度の校正については、予め供試体54に黒体塗料を塗布して供試体54の放射率を調整した。また、被膜表面を撮影できるカメラが設置されており、熱サイクル中に被膜表面を撮影して観察することができる。
【0097】
そして、保持治具52に供試体54をセットし、図7(b)に示すように、昇温時間45秒(600℃以下から1250℃まで)、保持時間45秒(1250℃から1300℃)、降温時間90秒(1300℃から600℃以下)を1サイクルとして熱サイクルを負荷した。
【0098】
バーナーリグ試験の評価については、外観観察と断面観察とにより行った。なお、断面観察については、バーナーリグ試験後の供試体から試料を切り出し、試料を埋込樹脂に埋め込んだ後に研磨して光学顕微鏡で観察した。
【0099】
図8は、実施例1の供試体における4000サイクル後のバーナーリグ試験結果を示す写真であり、図8(a)は、外観観察結果を示す写真であり、図8(b)は、断面観察結果を示す写真である。
【0100】
実施例1の供試体では、図8(a)に示す外観観察結果では、4000サイクル後においても被膜の割れや剥離が認められなかった。また、図8(b)に示す断面観察結果では、HfO層と、3Al・2SiOとYbSiOとの混合層とに各層の厚み方向にマイクロクラックが認められたが、Si層やSiC層にはマイクロクラックの発生が認められなかった。なお、図8(a)の外観観察結果を示す写真において、供試体表面の黒い部分は、黒色塗料を塗布した部分である。
【0101】
図9は、実施例2の供試体における1000サイクル後のバーナーリグ試験結果を示す写真であり、図9(a)は、外観観察結果を示す写真であり、図9(b)は、断面観察結果を示す写真である。
【0102】
実施例2の供試体では、図9(a)に示す外観観察結果では、1000サイクル後において端部に被膜の割れが若干認められたものの被膜の剥離には至らなかった。図9(b)に示す断面観察結果では、HfO層と、3Al・2SiOとYbSiOとの混合層とにおいて各層の厚み方向にマイクロクラックが認められ、Si層の水平方向(面方向)にマイクロクラックの発生が認められた。また、SiC層には、マイクロクラックの発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0103】
10 セラミックス基複合材料部品、12 基材、14 炭化珪素層、16 珪素層、18 混合層、20 酸化物層、30 水蒸気曝露試験装置、32 試験チャンバ、34 ヒータ、36 水蒸気供給管、38 雰囲気ガス供給管、40 混合ガス排出管、42 熱電対、44、54 供試体、50 バーナーリグ試験装置、52 保持治具、56 ノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9