【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0027】
<実施例1>
〔表面改質処理したITO粉末の製法〕
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl
3)水溶液163gに、二塩化錫粉末(SnCl
2・2H
2O粉末)4gを添加混合し、二塩化錫粉末が全て溶けるまで攪拌した後、全量を1000mlの純水に加え、原料液とした。この原料液に25質量%のアンモニア(NH
3)水溶液を90分かけて滴下した。このとき反応温度を80℃、最終の反応液のpHを8.0に調整した。生成したインジウム錫共沈水酸化物である沈殿物をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上になったところで、上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得た。
【0028】
このスラリーを撹拌しながら、水酸化物粒子の濃度が20質量%になるようにこのスラリーを純水で希釈した後、有機保護剤であるポリビニルアルコール1.3gを添加した。この有機保護剤の添加量は、インジウム錫水酸化物に対して1.0質量%であった。このスラリーを、大気中、110℃で10時間乾燥した後、大気中700℃で2時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末約70gを得た。このITO粉末70gを無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95質量%に対して蒸留水5質量%)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて2時間加熱して表面改質処理したITO粉末を得た。
【0029】
〔ITO膜の製造〕
この表面改質処理したITO粉末20gを、蒸留水(0.020g)、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート[3G](23.8g)、無水エタノール(2.1g)、リン酸ポリエステル(1.0g)、2−エチルヘキサン酸(2.0g)、2,4−ペンタンジオン(0.5g)の混合液に入れて分散させた。調製した分散液を無水エタノールで固形分であるITO粉末の含有量が10質量%になるまで希釈した。この希釈した分散液をスピンコーティングにより石英ガラス板に塗布して成膜し、厚さ0.2μmのITO膜を得た。
【0030】
<実施例2>
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl
3)水溶液135gに、二塩化錫粉末(SnCl
2・2H
2O粉末)16gを添加混合し、二塩化錫粉末が全て溶けるまで攪拌した後、全量を1000mlの純水に加え、原料液とした。この原料液に25質量%のアンモニア(NH
3)水溶液を90分かけて滴下した。このとき反応温度を60℃、最終の反応液のpHを5.0に調整した。生成したインジウム錫共沈水酸化物である沈殿物をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上になったところで、上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得た。このスラリーを撹拌しながら、水酸化物粒子の濃度が15質量%になるようにこのスラリーを純水で希釈した後、有機保護剤であるパルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(70質量%)4.5gを添加した。この有機保護剤の添加量は、インジウム錫水酸化物に対して3.0質量%であった。
【0031】
このスラリーを、大気中、110℃で10時間乾燥した後、大気中800℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末約75gを得た。このITO粉末75gを無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95質量%に対して蒸留水5質量%)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて2時間加熱して表面改質処理したITO粉末を得た。またこのITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
【0032】
<実施例3>
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl
3)水溶液154gに、二塩化錫粉末(SnCl
2・2H
2O粉末)8gを添加混合し、二塩化錫粉末が全て溶けるまで攪拌した後、全量を1000mlの純水に加え、原料液とした。この原料液に25質量%のアンモニア(NH
3)水溶液を90分かけて滴下した。このとき反応温度を20℃、最終の反応液のpHを7.0に調整した。生成したインジウム錫共沈水酸化物である沈殿物をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上になったところで、上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得た。このスラリーを撹拌しながら、水酸化物粒子の濃度が1.0質量%になるようにこのスラリーをエタノールで希釈した後、有機保護剤であるオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(50質量%)10gを添加した。この有機保護剤の添加量は、インジウム錫水酸化物に対して5.0質量%であった。
【0033】
このスラリーを管の長手方向を鉛直にして配置した、500℃に加熱した管状炉の内部に、キャリアガスである窒素ガスを線速度1m/sの範囲で流通させている状態で、二流体ノズルを用いて、噴霧し、窒素ガスとともに管状路内に導入した。これによりインジウム錫水酸化物粒子が管状炉内で熱分解して焼成され管状炉の排出口より表面改質処理したITO粉末を得た。またこのITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
【0034】
<比較例1>
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl
3)水溶液245gに、濃度55質量%の四塩化錫(SnCl
4)水溶液11.5gを添加混合し、InCl
3−SnCl
4混合溶液を調製した。次に、炭酸水素アンモニウム(NH
4HCO
3)水500gをイオン交換水に溶解し、全量1000mlで温度70℃に調製した。この水溶液に上記InCl
3−SnCl
4混合溶液の全量を約20分間攪拌しながら滴下してインジウム錫共沈水酸化物を生成した。更にそのまま30分間攪拌した。このときの反応液の最終pHは9.0であった。沈澱物であるインジウム錫水酸化物を回収し、遠心分離機で脱水した後、イオン交換水を加えて洗浄しながら遠心濾過を行い、濾液の抵抗率が5000Ωcm以上に達したところで遠心濾過を終了した。次いでこの沈殿物を100℃で一晩乾燥した後、600℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末75gを得た。
【0035】
このITO粉末75gを無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95質量%に対して蒸留水5質量%)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて3時間加熱して表面改質処理したITO粉末を得た。またこのITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
【0036】
<比較試験>
〔ITO粉末の評価〕
実施例1〜3及び比較例1で得られた各ITO粉末からなる圧粉体に0.98MPa(10kgf/cm
2)の圧力を加えたときのこの圧粉体の体積抵抗率を次の表1に示す。この実施例1〜3及び比較例1で得られた各ITO粉末の体積抵抗率は
図1に示す測定装置(三菱化学アナリティック製 MCP-PD51)を用いて測定した。具体的には、
図1に示す、内径φが25mmのシリンダー1にITO粉末2.00gを充填し、0.196〜29.42MPa(2〜300kgf/cm
2)の範囲で圧力を変えて、実施例1〜3及び比較例1で得られたITO粉末10点以上の抵抗率と試料厚を同時にそれぞれ測定した。圧力は図示しない圧力センサにより、抵抗率は直流4端子法で測定した。
図1において、2はITO粉末の圧粉体である。
【0037】
図2に試料粉末に加えた単位面積当りに力に換算した圧力(よこ軸)とITO粉末の圧粉体の体積抵抗率(たて軸)との関係を示す。この関係は、最小二乗法により、次の累乗の式(1)に近似する。なお、粉末の体積抵抗率は測定された値に、測定システム付属の補正係数を掛けることで算出される。表1に実施例1〜3及び比較例1で得られた近似式(1)のa及びnの値を示す。
Y=aX
n (1)
実施例1〜3及び比較例1で得られた各ITO膜の表面抵抗率(Ω/□)を抵抗率測定装置(三菱油化社製 MCP-T400)により測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
<評価>
表1から明らかなように、式(1)のaが5.00以下であり、しかもnが−0.500以下の実施例1〜3のITO粉末からなる圧粉体に0.98MPa(10kgf/cm
2)の圧力を加えたときのこの圧粉体の体積抵抗率は0.500Ωcm以下であった。またこれらのITO粉末から作られたITO膜の表面抵抗率は1.0×10
6Ω/□以下であった。これに対して式(1)のaが5.00以下であるけれども、nが−0.500を超える比較例1のITO粉末からなる圧粉体に0.98MPa(10kgf/cm
2)の圧力を加えたときのこの圧粉体の体積抵抗率は0.5Ωcmを超えていた。また比較例1のITO粉末からITO膜の表面抵抗率は1.0×10
6Ω/□を超えていた。以上のことから、式(1)に近似した関係を有する実施例1〜3は塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることが立証された。