特許第5954123号(P5954123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954123
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20160707BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20160707BHJP
   F01N 3/025 20060101ALI20160707BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   F01N3/24 L
   F01N3/20 D
   F01N3/025 101
   F01N3/24 E
   F28D20/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-245448(P2012-245448)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-95294(P2014-95294A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
(72)【発明者】
【氏名】河内 浩康
【審査官】 永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−311117(JP,A)
【文献】 特開2001−303941(JP,A)
【文献】 特開平11−148788(JP,A)
【文献】 実開平06−055065(JP,U)
【文献】 特開平11−125113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排気ガス浄化システムであって、
前記排気ガス浄化システムにおける加熱対象を加熱するための第1化学蓄熱装置と、
前記第1化学蓄熱装置を加熱するための第2化学蓄熱装置と、
を備え、
前記第1化学蓄熱装置は、第1反応媒体を吸着材で吸着して貯蔵する第1吸着器と、前記第1吸着器に接続され、前記第1吸着器から供給された第1反応媒体と化学反応して熱を発生させる第1反応材を収納する第1反応器とを有し、化学反応後に前記第1吸着器は前記第1反応器から前記第1反応媒体を回収し、
前記第2化学蓄熱装置は、第2反応媒体を吸着材で吸着して貯蔵する第2吸着器と、前記第2吸着器に接続され、前記第2吸着器から供給された第2反応媒体と化学反応して熱を発生させる第2反応材を収納する第2反応器とを有し、化学反応後に前記第2吸着器は前記第2反応器から前記第2反応媒体を回収し、
前記第2反応器は、前記第1反応器に接触させた状態で配設され、
前記第2反応媒体は、化学反応時に前記第1反応媒体よりも発熱量が大きい媒体であり、
前記第1化学蓄熱装置による加熱対象に対する加熱終了後に前記排気ガスの温度が前記第1反応材からアンモニアを回収可能な温度まで上昇していない場合、前記第2化学蓄熱装置の前記第2反応器で前記第1反応器を加熱することを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
前記第2反応器は、前記第1反応器の外周部に配設されることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項3】
排気ガス中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備え、
前記フィルタで捕捉された粒子状物質を燃焼させて前記フィルタを再生する際の熱を利用して前記第2化学蓄熱装置の前記第2反応器の前記第2反応媒体を回収することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の排気ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の排気系には、エンジンから排出される排気ガスに含まれる環境汚染物質(HC、CO、NOx等)を浄化するために、触媒等が設けられている。触媒には、浄化能力を活性化するための最適温度(活性温度)が存在する。エンジン始動直後は、排気ガスの温度が低く、触媒の活性温度に達するまでに時間を要する。そこで、エンジン始動直後等の排気ガスの温度が低いときに触媒の活性温度まで短時間で温度上昇させるために、触媒を加熱して暖機するための装置が必要となる。この装置としては、エネルギロス(燃費ロス)を低減して暖機を行うために、化学反応の反応熱を利用した化学蓄熱装置がある。触媒を暖機する化学蓄熱装置の場合、触媒の外周部に反応材を収納した反応器を配置させ、反応器において反応材と反応媒体(例えば、アンモニア)との化学反応の反応熱によって触媒を加熱する。また、化学蓄熱装置としては、例えば、特許文献1には、熱源の広範囲の温度で蓄熱を可能とするために、熱媒体が流通する中央管の外周に同一温度で異なる気体圧力を示す化学蓄熱材を2重構造で配置させ、各化学蓄熱材によるアンモニアとの化学反応によって蓄熱/発熱することが開示されている。また、特許文献2には、簡素な構成で触媒の温度を比較的狭い浄化温度範囲内に保つために、排気浄化装置における触媒の外周に融解温度が異なる融解潜熱型蓄熱材を2重構造で配置させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−55065号公報
【特許文献2】特開平11−125113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学蓄熱装置では、暖機終了後に、排気ガスの排熱によって反応器においてアンモニアと反応材とを分離させ、アンモニアを吸着器に回収しておくことで、連続的に使用可能としている。しかし、車両の運転条件によっては、排気ガスの温度が反応器でアンモニアが分離するほど高くならない場合がある。例えば、短距離走行した後に車両停止し、その所定時間後に再度短距離走行するような短距離走行を繰り返すような場合(ショートトリップ)である。このよう場合、排気ガスの温度があまり上昇しないので、反応器においてアンモニアが分離せず、アンモニアを回収できない。そのため、次に暖機が必要なときに、化学蓄熱装置を用いて暖機できない。特許文献1や特許文献2の化学蓄熱装置では蓄熱材を2重構造としているが、これは異なる温度で蓄熱して、より多くの蓄熱を可能とするための構造であり、アンモニア等の反応媒体を回収するための構造ではない。
【0005】
そこで、本発明は、排気ガスの温度が低くて化学蓄熱装置の反応器から反応媒体を回収できない場合でも反応媒体を回収可能とする排気ガス浄化システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る排気ガス浄化システムは、車両の内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排気ガス浄化システムであって、排気ガス浄化システムにおける加熱対象を加熱するための第1化学蓄熱装置と、第1化学蓄熱装置を加熱するための第2化学蓄熱装置とを備え、第1化学蓄熱装置は、第1反応媒体を吸着材で吸着して貯蔵する第1吸着器と、第1吸着器に接続され、第1吸着器から供給された第1反応媒体と化学反応して熱を発生させる第1反応材を収納する第1反応器とを有し、化学反応後に第1吸着器は第1反応器から第1反応媒体を回収し、第2化学蓄熱装置は、第2反応媒体を吸着材で吸着して貯蔵する第2吸着器と、第2吸着器に接続され、第2吸着器から供給された第2反応媒体と化学反応して熱を発生させる第2反応材を収納する第2反応器とを有し、化学反応後に第2吸着器は第2反応器から第2反応媒体を回収し、第2反応器は、第1反応器に接触させた状態で配設され、第2反応媒体は、化学反応時に第1反応媒体よりも発熱量が大きい媒体であり、第1化学蓄熱装置による加熱対象に対する加熱終了後に第1反応器から第1反応媒体を回収できない場合、第2化学蓄熱装置の第2反応器で第1反応器を加熱することを特徴とする。
【0007】
この排気ガス浄化システムは、内燃機関の始動直後などの排気ガスの温度が低いときに、加熱対象(例えば、触媒、還元剤の分散装置、排気管を流れる排気ガス)を加熱(暖機)するための第1化学蓄熱装置を備えている。第1化学蓄熱装置は、加熱対象の暖機時には、第1吸着器から第1反応器に第1反応媒体を供給し、第1反応器において第1反応材と第1反応媒体との化学反応で発生した熱によって加熱対象を加熱する。また、第1化学蓄熱装置では、暖機終了後には、第1反応器において排気ガスの排熱によって第1反応材と第1反応媒体とを分離させて回収する。この回収された第1反応媒体を次回の暖機時に再利用することによって、第1化学蓄熱装置を連続的に使用できる。第1反応器において第1反応媒体を分離して回収するためには、排気ガスの温度が所定温度以上になっている必要がある。この所定温度は、第1反応材と第1反応媒体との組み合わせによる。しかし、内燃機関の運転条件によっては排気ガスの温度が所定温度よりも低い場合があり、この場合には第1反応器から第1反応媒体を回収できない。そこで、排気ガス浄化システムは、第1化学蓄熱装置の第1反応器を加熱(暖機)するための第2化学蓄熱装置を備えている。第2化学蓄熱装置は、第2反応器が第1反応器に接触させた状態で配設され、第2反応媒体が化学反応時に第1反応媒体の発熱量よりも大きい媒体である。したがって、第1化学蓄熱装置による加熱終了後(暖機終了後)に排気ガスの温度が低くて、第1反応器で第1反応媒体が分離して回収できない場合、第2化学蓄熱装置では、第2吸着器から第2反応器に第2反応媒体を供給し、第2反応器において第2反応材と第2反応媒体との化学反応で大きな熱を発生し、この大きな熱によって第1反応器を加熱する。これによって、第1反応器では第1反応媒体と第1反応材とが分離し、第1反応媒体を第1吸着器に回収することできる。このように、この排気ガス浄化システムは、第1化学蓄熱装置(特に、第1反応器)を加熱するために第2化学蓄熱装置を備え、第2化学蓄熱装置の第2反応器で第1反応器を加熱できる構成とするにより、排気ガスの温度が低くて第1化学蓄熱装置の第1反応器から第1反応媒体を回収できない場合でも第2反応器で第1反応器を加熱することによって第1反応媒体を回収することができる。そのため、内燃機関の運転条件によって排気ガスの温度が低い場合でも、第1反応媒体を第1吸着器に回収するができ、次回の加熱対象の暖機が必要なときに第1化学蓄熱装置を連続的に使用できる。
【0008】
本発明の上記排気ガス浄化システムでは、第2反応器は、第1反応器の外周部に配設されると好適である。このように、排気ガス浄化システムでは、第2反応器を第1反応器の外周部に配設することにより、第2反応器と第1反応器との接触面積を大きくできるので、第2反応器から第1反応器への熱伝導性を向上させることができ、加熱効率が高い。
【0009】
本発明の上記排気ガス浄化システムでは、排気ガス中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備え、フィルタで捕捉された粒子状物質を燃焼させてフィルタを再生する際の熱を利用して第2化学蓄熱装置の第2反応器の第2反応媒体を回収すると好適である。
【0010】
この排気ガス浄化システムは、排気ガス中の粒子状物質(PM[Particulate Matter])を捕捉するフィルタを備えており、フィルタに粒子状物質が溜まると粒子状物質を燃焼させてフィルタを再生する。この再生時には、触媒内で燃料を燃焼させるなどして、排気ガスを非常に高温にする。高温になった排気ガスで粒子状物質を燃焼させることで、フィルタを再生している。第2反応媒体は化学反応時の発熱量が大きいので、第2反応媒体と第2反応材とが分離するときに必要な熱量も大きい。そこで、この排気ガス浄化システムでは、その再生時の大きな熱量を利用して第2反応器を加熱する。これによって、第2反応器では第2反応媒体と第2反応材とが分離し、第2反応媒体を第2吸着器に回収することできる。このように、この排気ガス浄化システムでは、粒子状物質を燃焼させてフィルタを再生する際の大きな熱を利用することにより、第2化学蓄熱装置の第2反応器から第2反応媒体を回収することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1化学蓄熱装置(特に、第1反応器)を加熱するために第2化学蓄熱装置を備え、第2化学蓄熱装置の第2反応器で第1反応器を加熱できる構成とするにより、排気ガスの温度が低くて第1化学蓄熱装置の第1反応器から第1反応媒体を回収できない場合でも第2反応器で第1反応器を加熱することによって第1反応媒体を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係る排気ガス浄化装置の概略構成図である。
図2図1の第1化学蓄熱装置及び第2化学蓄熱装置の詳細構成図である。
図3図1のDOCにおける温度変化の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る排気ガス浄化システムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
本実施の形態では、本発明に係る排気ガス浄化システムを、車両のエンジンの排気系に設けられる排気ガス浄化システムに適用する。本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、エンジン(特に、ディーゼルエンジン)から排出される排気ガス中に含まれる有害物質(環境汚染物質)を浄化するシステムである。本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、触媒のDOC[Diesel Oxidation Catalyst]、SCR[SelectiveCatalytic Reduction]、ASC[Ammonia Slip Catalyst]及びフィルタのDPF[Diesel Particulate Filter]を備えている。また、本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、SCRが尿素SCRシステムである。さらに、本実施の形態に係る排気ガス浄化システムは、最も上流に配置されるDOCを暖機するための化学蓄熱装置も備えている。
【0015】
図1図3を参照して、本実施の形態に係る排気ガス浄化システム1について説明する。図1は、本実施の形態に係る排気ガス浄化システムの概略構成図である。図2は、図1の第1化学蓄熱装置及び第2化学蓄熱装置の詳細構成図である。図3は、図1のDOCにおける温度変化の一例である。
【0016】
排気ガス浄化システム1は、エンジン2の排気側に接続された排気管3の上流側から下流側に向けて、ディーゼル酸化触媒(DOC)4、ディーゼル排気微粒子除去フィルタ(DPF)5、選択還元触媒(SCR)6、アンモニアスリップ防止触媒(ASC)7を備えている。また、排気ガス浄化システム1は、SCR6が尿素SCRであるので、還元剤(尿素水)を供給する尿素水供給装置8及びその還元剤を分散する分散装置9も備えている。本実施の形態では、エンジン2が特許請求の範囲に記載する内燃機関に相当し、DOC4が特許請求の範囲に記載する加熱対象に相当し、DPF5が特許請求の範囲に記載するフィルタに相当する。
【0017】
DOC4は、排気ガス中に含まれるHCやCO等を酸化する触媒である。DPF5は、排気ガス中に含まれるPM(粒子状物質であり、例えば、すず)を捕捉して取り除くフィルタである。SCR6は、還元剤である尿素水から加水分解されたアンモニアと排気ガス中に含まれるNOxとを化学反応させることによって、NOxを還元して浄化する触媒である。ASC7は、SCR6をすり抜けて下流側に流れたアンモニアを酸化する触媒である。
【0018】
なお、DPF5は、捕捉したPMが溜まると、目詰まりを起こして機能が低下する。そこで、DPF5にPMが溜まると、排気ガス浄化システム1では、不定期にPM再生を行う。PMが溜まっているかは、例えば、DPF5に差圧センサを設け、差圧が大きくなっているか(つまり、DPF5内でのPMの詰まり状態)で判断する。PM再生する場合、DOC4に燃料(軽油)を吹き付け、DOC4内で燃料を燃焼させて発熱させる。この発熱量は非常に大きく(通常走行の5〜7倍程度)、排気ガスの温度が600〜700℃程度まで上昇する。この非常に高温の排気ガスがDPF5を通過すると、PMが燃焼する。このPM再生の制御については、コントローラ12(例えば、エンジン2を制御するECU[Electronic Control Unit])で行われる。
【0019】
尿素水供給装置8は、排気管3におけるSCR6(特に、分散装置9)の上流側に尿素水(還元剤)を供給するための装置である。具体的には、尿素水供給装置8は、ポンプ(図示せず)、尿素水タンク8a、供給管8b、インジェクタ8c等を備えている。尿素水タンク8aは、尿素水を貯蔵するタンクである。ポンプが作動すると、尿素水タンク8aから尿素水が供給管8bに送り出される。供給管8bは、尿素水タンク8aとインジェクタ8cとを接続し、尿素水タンク8aからインジェクタ8cまで尿素水を移動させる管路である。インジェクタ8cは、排気管3におけるDPF5と分散装置9との間に配設され、排気管3内(排気ガス中)に尿素水を噴射(噴霧)する。排気管3内に噴射された尿素水は、高温下で加水分解し、アンモニアになる。このインジェクタ8cの噴射制御やポンプのON/OFF制御は、コントローラ12で行われる。
【0020】
分散装置9は、尿素水供給装置8によって排気管3内に供給された尿素水(特に、加水分解したアンモニア)を分散し、均一にSCR6に導入させるための装置である。分散装置9は、排気管3におけるDPF5とSCR6との間(特に、インジェクタ8cの下流側)に配設される。分散装置9は、所定の厚さを有する円盤状であり、排気管3内に嵌合した状態で配設される。分散装置9における尿素水を分散させる構造は、ミキサ、スワラ等の従来の周知の構造である。分散装置9には、尿素水の加水分解を促進するために、Al、SiO、TiO、ポリシラザン等の加水分解促進材を付加してもよい。
【0021】
各触媒(DOC4等)には、環境汚染物質の浄化能力を発揮できる温度領域、すなわち、活性温度が存在する。しかし、エンジン2の始動直後などは、エンジン2から排出された直後の排気ガスの温度は100℃程度と比較的低温であり、各触媒の活性温度より低い場合がある。このような場合でも、各触媒で浄化能力を発揮させるために、各触媒での温度を迅速に活性温度にする必要がある。そこで、排気ガス浄化システム1は、最も上流に配置されるDOC4(加熱対象)を加熱して暖機するための第1化学蓄熱装置10も備えている。なお、エンジン2内には排気ガスの温度を検出する温度センサ(図示せず)が設けられており、コントローラ12ではこの温度センサの検出値を用いて制御を行う。
【0022】
第1化学蓄熱装置10は、第1反応媒体としてアンモニア(NH)を用いて、DOC4を加熱して暖機する化学蓄熱装置である。つまり、第1化学蓄熱装置10は、通常は熱(排気ガスの排熱あるいは第2化学蓄熱装置11による加熱)を蓄えておき、DOC4の暖機が必要なときにその熱を使用してDOC4を暖機する。第1化学蓄熱装置10は、第1吸着器10a、第1接続管10b、第1反応器10c、第1バルブ10d等を備えている。ちなみに、DOC4は最も上流に位置する触媒なので、最も上流で暖機を行うことによって、その下流側には暖機されて温度が上昇した排気ガスが流れることになる。
【0023】
第1吸着器10aは、アンモニアと物理吸着する吸着材が内蔵されている。吸着材としては、例えば、活性炭、ゼオライトがある。第1吸着器10aでは、蓄熱状態においては、アンモニアが吸着材と物理吸着した状態で貯蔵される。なお、第1吸着器10a内には圧力を検出する圧力センサ(図示せず)が設けられており、コントローラ12ではこの圧力センサの検出値を用いて制御を行う。
【0024】
第1接続管10bは、第1吸着器10aと第1反応器10cとを接続し、第1吸着器10aと第1反応器10cの間でアンモニアを移動させる管路である。第1接続管10bには、第1バルブ10dが配設され、第1バルブ10dが開かれると第1吸着器10aと第1反応器10cとの間でアンモニアの移動が可能となる。この第1バルブ10dの開閉制御は、コントローラ12で行われる。
【0025】
第1反応器10cは、アンモニアと化学反応する固体状又は粉末状の第1反応材を有しており、その第1反応材をケースで収納している。第1反応材としては、アンモニアと化学反応して発熱し、DOC4を150〜260℃程度まで昇温できる材料を用いる。具体的には、例えば、2価の塩化物(MCl)、2価の臭化物(MBr)、2価のヨウ化物(MI)であり、MはMg、Ni、Co、Fe、Mn、Ca、Sr、Ba、Cu、Cr等が適している。第1反応器10cは、図2に示すように、排気管3の外周面におけるDOC4の配設箇所に配設され、排気管3を囲む断面ドーナツ形状である。この断面ドーナツ形状の断面は、第1反応器10cを排気ガスの流れる方向に対して垂直に切った面である。第1反応器10cでは、アンモニアと第1反応材とが化学反応して化学吸着(配位結合)し、熱を発生する。また、第1反応器10cでは、所定温度T1以上になると第1反応材とアンモニアとが分離して、アンモニアを放出し始め、それより高い所定温度になるとアンモニアを殆ど放出する。これらの各温度は、第1反応材とアンモニア(第1反応媒体)との組み合わせによって変わる。
【0026】
第1化学蓄熱装置10は、DOC4に対する暖機終了後に第1反応器10cにおいてアンモニアを分離させ、第1吸着器10aで回収することで、連続的に使用可能である。しかし、エンジン2の運転条件(例えば、ショートトリップ)によっては、第1化学蓄熱装置10の暖機終了後に、排気ガスの温度が第1反応材からアンモニアを回収可能な温度T1まで上昇していない場合がある。このような場合、第1反応器10cからアンモニアを回収できないので、第1化学蓄熱装置10を連続的に使用できない。そこで、排気ガス浄化システム1は、第1化学蓄熱装置10の暖機終了後に排気ガスの温度が低い場合(緊急時)に第1反応器10cを加熱して暖機するための第2化学蓄熱装置11も備えている。
【0027】
第2化学蓄熱装置11は、第2反応媒体として二酸化炭素(CO)を用いて、第1化学蓄熱装置10の第1反応器10cを加熱して暖機する化学蓄熱装置である。つまり、第2化学蓄熱装置11は、通常は熱(PM再生時の熱)を蓄えておき、第1反応器10cの暖機が必要なときにその熱を使用して第1反応器10cを暖機する。第2反応媒体(二酸化炭素)は、化学反応時に第1反応媒体(アンモニア)よりも発熱量が大きい媒体である。第2化学蓄熱装置11は、第2吸着器11a、第2接続管11b、第2反応器11c、第2バルブ11d等を備えている。
【0028】
第2吸着器11aは、二酸化炭素と物理吸着する吸着材が内蔵されている。第2吸着器11aでは、蓄熱状態においては、二酸化炭素が吸着材と物理吸着した状態で貯蔵される。なお、第2吸着器11a内には圧力を検出する圧力センサ(図示せず)が設けられており、コントローラ12ではこの圧力センサの検出値を用いて制御を行う。
【0029】
第2接続管11bは、第2吸着器11aと第2反応器11cとを接続し、第2吸着器11aと第2反応器11cの間で二酸化炭素を移動させる管路である。第2接続管11bには、第2バルブ11dが配設され、第2バルブ11dが開かれると第2吸着器11aと第2反応器11cとの間で二酸化炭素の移動が可能となる。この第2バルブ11dの開閉制御は、コントローラ12で行われる。
【0030】
第2反応器11cは、二酸化炭素と化学反応する固体状又は粉末状の第2反応材を有しており、その第2反応材をケースで収納している。第2反応材としては、二酸化炭素と化学反応して発熱し、400℃以上に昇温できる材料を用いる。具体的には、例えば、MgO、CaO、BaOがあり、その他にもCa(OH)、Mg(OH)、Fe(OH)、Fe(OH)、FeO、Fe、Fe等も候補材である。第2反応器11cは、図2に示すように、第1反応器10cの外周面に沿って配設され、第1反応器10cを囲む断面ドーナツ形状である。第2反応器11cでは、二酸化炭素と第2反応材とが化学反応して化学吸着し、非常に大きな熱を発生する。この化学反応での発熱量は、第1化学蓄熱装置10におけるアンモニアと第1反応材とが化学反応して発生するときの発熱量よりも大きい。また、第2反応器11cでは、所定温度T2(>所定温度T1)以上になると第2反応材と二酸化炭素とが分離して、二酸化炭素を放出し始め、それより高い所定温度になると二酸化炭素を殆ど放出する。この際に必要となる熱量も、第1反応材とアンモニアとが分離するときに必要な熱量よりも大きい。これらの各温度は、第2反応材と二酸化炭素(第2反応媒体)との組み合わせによって変わる。
【0031】
図3には、DOC4における温度の変化の一例を示している。この温度が所定温度T1以上になると、第1化学蓄熱装置10の第1反応器10cでは、アンモニアが第1反応材から分離し、アンモニアを回収できる。しかし、温度が所定温度T1未満では、分離(回収)に必要な熱量が不足し、アンモニアが分離せず、アンモニアを回収できない。この場合、第2化学蓄熱装置11において、第2反応器11cに二酸化炭素を小出しで供給し、二酸化炭素と第2反応材とが化学反応して大きな熱を発生する。この大きな熱量によって、第1反応器10cではアンモニアが第1反応材から分離し、アンモニアを回収できる。上記したPM再生時には、排気ガスの温度が600〜700℃まで上昇する。このとき、温度が所定温度T2以上になるので、第2化学蓄熱装置11の第2反応器11cでは、二酸化炭素が第2反応材から分離し、二酸化炭素を回収できる。ちなみに、PM再生は不定期に行われるので、第2反応器11cからの二酸化炭素も回収も不定期である。そのため、第2反応器11cには小出しで二酸化炭素を供給している。
【0032】
なお、排気ガスの温度が600〜700℃まで上昇すると、第1反応器10cにアンモニアが残っていると、アンモニアが窒素と水素に分解してしまう。そこで、PM再生を行う前に第1吸着器10aにアンモニアが満状態で貯蔵されているか(すなわち、第1反応器10cにアンモニアが残っていないか)を確認し、第1吸着器10aでの満貯蔵状態を確認してからPM再生を行うようにする。
【0033】
以上のように構成した排気ガス浄化システム1における動作について説明する。ここでは、第1化学蓄熱装置10及び第2化学蓄熱装置11に関連する動作のみ説明する。
【0034】
車両停止中(エンジン2が停止中)は、第1化学蓄熱装置10の第1接続管10bに配設されている第1バルブ10dは閉じられている。したがって、第1吸着器10aにおいて吸着材からアンモニアが分離していても、第1接続管10bを介してアンモニアが第1反応器10cに供給されない。また、第2化学蓄熱装置11の第2接続管11bに配設されている第2バルブ11dは閉じられている。したがって、第2吸着器11aにおいて吸着材から二酸化炭素が分離していても、第2接続管11bを介して二酸化炭素が第2反応器11cに供給されない。
【0035】
エンジン2が始動後に、エンジン2から排出された排気ガスの温度が所定温度(DOC4の活性温度に基づいて設定された温度)より低いときには(エンジン2の始動直後など)、コントローラ12による制御によって第1バルブ10dが開かれ、第1接続管10bを介してアンモニアが第1反応器10cに供給される。このとき、第1吸着器10aの圧力が第1反応器10cの圧力よりも高く、アンモニアが第1反応器10c側に移動する。第1反応器10cでは、供給されたアンモニアと第1反応材とが化学反応して化学吸着(配位結合)し、熱を発生する。この熱によってDOC4が加熱され、温度がDOC4の活性温度以上になり、DOC4で排気ガスを浄化できる。また、最も上流のDOC4で加熱(暖機)されるので、下流側に温度が上昇した排気ガスが流れる。これによって、他の触媒でも活性温度以上になって浄化でき、尿素水供給装置8で供給された尿素水も加水分解してアンモニアに転化する。また、DPF5では、排気ガス中に含まれるPMを捕捉する。なお、第2化学蓄熱装置11の第2バルブ11dは、閉じられている。
【0036】
通常、エンジン2から排出された排気ガスの温度が所定温度T1より高くなると、排気ガスの排熱によって、第1反応器10cでは、アンモニアと第1反応材とが分離し、アンモニアが発生する。この分離したアンモニアは、第1バルブ10dが開かれているので、第1反応器10cから第1接続管10bを介して第1吸着器10aに戻る。このとき、第1反応器10cの圧力が第1吸着器10aの圧力よりも高く、アンモニアが第1吸着器10a側に移動する。第1吸着器10aでは、吸着材がアンモニアを物理吸着して貯蔵する。第1吸着器10aに設けられている圧力センサの圧力値がアンモニアの満貯蔵状態(あるいは次回のDOC4の暖機を確実に実施できる圧力値)を示す圧力値になった場合、コントローラ12では第1バルブ10dを閉じる。これによって、通常時のアンモニアの回収が終了する。
【0037】
しかし、エンジン2から排出された排気ガスの温度が所定温度T1より低い場合、第1反応器10cでは、アンモニアが分離しない。そこで、コントローラ12による制御によって第2バルブ11dが開かれ、第2接続管11bを介して二酸化炭素が第2反応器11cに小出しで供給される。このとき、第2吸着器11aの圧力が第2反応器11cの圧力よりも高く、二酸化炭素が第2反応器11c側に移動する。第2反応器11cでは、供給された二酸化炭素と第2反応材とが化学反応して化学吸着(配位結合)し、大きな熱を発生する。この大きな熱によって第1反応器10cが加熱され、温度が所定温度T1以上に上昇する。これによって、第1反応器10cでは、アンモニアと第1反応材とが分離し、アンモニアが発生する。この分離したアンモニアは、第1バルブ10dが開かれているので、第1反応器10cから第1接続管10bを介して第1吸着器10aに戻る。第1吸着器10aでは、吸着材がアンモニアを物理吸着して貯蔵する。第1吸着器10aに設けられている圧力センサの圧力値がアンモニアの満貯蔵状態を示す圧力値になった場合、コントローラ12では第1バルブ10dを閉じ、第2バルブ11dも閉じる。これによって、緊急時のアンモニアの回収が終了する。
【0038】
DPF5に設けられた差圧センサの差圧値がPM再生が必要な差圧値になった場合、コントローラ12では、第1吸着器10aに設けられている圧力センサの圧力値がアンモニアの満貯蔵状態を示す圧力値になっているか否かを判定する。アンモニアの回収が完全に完了し、アンモニアの満貯蔵状態を示す圧力値になっている場合、コントローラ12では、DOC4に燃料を吹き付けるとともに、第2バルブ11dを開く。DOC4では、その燃料が燃焼し、非常に大きな熱が発生する。この非常に大きな熱によって、排気ガスの温度が600〜700℃程度まで上昇する。この高温の排気ガスがDPF5内を流れると、DPF5では、PMが燃焼し、PMが取り除かれる。また、この非常に大きな熱によって第1反応器10cを介して第2反応器11cが加熱され、温度が所定温度T2以上に上昇する。これによって、第2反応器11cでは、二酸化炭素と第2反応材とが分離し、二酸化炭素が発生する。この分離した二酸化炭素は、第2バルブ11dが開かれているので、第2反応器11cから第2接続管11bを介して第2吸着器11aに戻る。このとき、第2反応器11cの圧力が第2吸着器11aの圧力よりも高く、二酸化炭素が第2吸着器11a側に移動する。第2吸着器11aでは、吸着材が二酸化炭素を物理吸着して貯蔵する。第2吸着器11aに設けられている圧力センサの圧力値が二酸化炭素の満貯蔵状態(あるいは次回に第1反応器10cを確実に所定温度T1まで加熱できる圧力値)を示す圧力値になった場合、コントローラ12では第2バルブ11dを閉じる。これによって、二酸化炭素の回収が終了する。
【0039】
この排気ガス浄化システム1によれば、第1化学蓄熱装置10(特に、第1反応器10c)を加熱(暖機)するために第2化学蓄熱装置11を備え、第2化学蓄熱装置11の第2反応器11cで第1反応器10cを加熱できる構成とするにより、第1化学蓄熱装置10による暖機終了後に排気ガスの温度が低くて第1反応器10cから第1反応媒体を回収できない場合でも、第2反応器11cで第1反応器10cを加熱することによって第1反応媒体を回収することができる。そのため、ショートトリップ等の内燃機関の運転条件によって排気ガスの温度が低い場合でも、第1反応媒体を第1吸着器10aに回収しておくことができ、次回のDOC4の暖機が必要なときに第1化学蓄熱装置10を連続的に使用できる。
【0040】
排気ガス浄化システム1によれば、第2反応器11cを第1反応器10cの外周面に沿って配設することにより、第2反応器11cと第1反応器10cとの接触面積を大きくできるので、第2反応器11cから第1反応器10cへの熱伝導性を向上させることができ、加熱効率が高くなる。その結果、第1反応器10cにおいて第1反応媒体を回収可能な温度に早期に達し、第2反応器11cへの二酸化炭素の供給を低減できる。
【0041】
排気ガス浄化システム1によれば、第2反応器11cの第2反応媒体の回収には大きな熱量が必要となるが、PM再生時の大きな熱量を利用することにより、第2化学蓄熱装置11の第2反応器11cの第2反応媒体を回収することができる。
【0042】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0043】
例えば、本実施の形態では触媒としてDOC、SCR及びASC、フィルタとしてDPFを備える排気浄化システムに適用したが、他の様々な構成の排気浄化システムに適用できる。また、車両もディーゼルエンジン車としたが、ガソリンエンジン車等にも適用できる。
【0044】
また、本実施の形態では第1化学蓄熱装置と第2化学蓄熱装置の吸着器として第1吸着器と第2吸着器とを構成したが、吸着器を2層構造とし、第1化学蓄熱装置と第2化学蓄熱装置の吸着器を一体で構成してもよい。このように構成することによって、省スペース化が可能となる。
【0045】
また、本実施の形態では第1化学蓄熱装置と第2化学蓄熱装置の反応器として第1反応器と第2反応器とを構成したが、2つの反応材を混ぜて1つのケース内に収納し、第1化学蓄熱装置と第2化学蓄熱装置の反応器を一体で構成してもよい。このように構成することによって、省スペース化が可能となる。また、第1反応器から第2反応器へ熱伝導するのでなく、反応材そのものが接触しているので、熱伝導性が向上する。
【0046】
また、本実施の形態では加熱対象としてDOC(酸化触媒)としたが、加熱対象としては他のものでもよく、例えば、SCR等の他の触媒、分散装置、排気管を流れる排気ガスがある。
【0047】
また、本実施の形態では第1反応媒体と第2反応媒体の組み合わせとしては第1反応媒体をアンモニアとし、第2反応媒体を二酸化炭素としたが、化学反応時の発熱量(ひいては、回収に必要な温度)が異なる反応媒体であれば他の組み合わせでもよく、例えば、反応媒体としてアンモニア、水、エタノール、メタノール、二酸化炭素の順で発熱量が多く(回収に必要な温度が高く)なるが、この中で任意の反応媒体(二酸化炭素以外)を第1反応媒体とし、それよりも発熱量が多い反応媒体を第2反応媒体とする。
【0048】
また、本実施の形態では第1反応器の外周面に沿って第2反応器を配置する構成としたが、第2反応器で第1反応器を加熱できるならば他の配置でもよく、例えば、第1反応器に接触させた状態で第2反応器を下流側又は上流側に並べて配置させる。
【0049】
また、本実施の形態ではPM再生時に第2化学蓄熱装置の第2反応器から二酸化炭素を回収する構成としたが、二酸化炭素の回収が不足したり、排気ガス浄化システムにおいて排気ガスの温度が非常に高温になったりするときが他にあれば、PM再生時以外で第2反応器から二酸化炭素を回収してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…排気ガス浄化システム、2…エンジン、3…排気管、4…ディーゼル酸化触媒(DOC)、5…ディーゼル排気微粒子除去フィルタ(DPF)、6…選択還元触媒(SCR)、7…アンモニアスリップ防止触媒(ASC)、8…尿素水供給装置、8a…尿素水タンク、8b…供給管、8c…インジェクタ、9…分散装置、10…第1化学蓄熱装置、10a…第1吸着器、10b…第1接続管、10c…第1反応器、10d…第1バルブ、11…第2化学蓄熱装置、11a…第2吸着器、11b…第2接続管、11c…第2反応器、11d…第2バルブ、12…コントローラ。
図1
図2
図3