特許第5954203号(P5954203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954203
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/00 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   B62D21/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-14576(P2013-14576)
(22)【出願日】2013年1月29日
(65)【公開番号】特開2014-144714(P2014-144714A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(72)【発明者】
【氏名】大谷 隆広
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖
(72)【発明者】
【氏名】金本 俊介
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−114814(JP,A)
【文献】 特開2003−127893(JP,A)
【文献】 特開2007−237842(JP,A)
【文献】 特開2011−162158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの下方に配設されてサスペンションを支持するとともに、上記フロントサイドフレームの下方においてサブフレーム本体から車両前方に延びる左右一対の延長部を有するサブフレームとを備えた車両の前部車体構造であって、
上記延長部は、その前端の長手方向に直交する向きの断面と、後端の長手方向に直交する向きの断面とが、上下方向で少なくとも部分的に重複するよう構成されており、
上記サブフレーム本体は、上面を構成するアッパ部材と、下面を構成するロア部材とから構成されており、少なくともその後端において締結部材により車体に締結される締結部を有し、
上記サブフレームの少なくともアッパ部材には、上記締結部に対して車幅方向に隣接した位置に、他の部位より剛性の低い低剛性部が形成され、
上記低剛性部は、上記アッパ部材の上面から下方に折り曲げられた折り曲げ部が形成され、
上記サブフレームには、上記延長部に沿って車両前方から上記サブフレームの後端に伝達される衝突荷重を、上記低剛性部と車幅方向においてオフセットした位置に伝達させる荷重伝達部が設けられた
車両の前部車体構造。
【請求項2】
上記低剛性部は、車両前後方向に沿って形成されている
請求項1記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
上記締結部材は、ボルト及びナットにより構成され、
該ボルト及びナットにより、上記サスペンションの一部を、上記締結部とともに上記車体に共締め固定した
請求項1または2記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
上記サブフレーム本体または上記締結部が締結される上記車体の一方には、ピンと、該ピン近傍に位置する上記締結部材の挿通孔とが設けられ、
他方には、上記ピンが挿通される開孔と、該開孔近傍に位置する上記締結部材の挿通孔とが設けられている
請求項1〜3のれか一項に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの下方に配設されてサスペンションを支持するサブフレームとを備えた車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前面衝突時において、フロントサイドフレームの変形により衝突エネルギを吸収するものが知られている。また、フロントサイドフレームの下方にサスペンションやステアリング機構、パワートレイン等を支持するサブフレームを設けて、該サブフレーム本体から車両前方に延びる延長部を形成し、サブフレームにて補助的な衝突エネルギ吸収を行う構造が知られている。
【0003】
また、サブフレームを備えた構造では、サブフレームが車両の前面衝突時にフロントサイドフレームの変形を阻害しないように、衝突中期から後期にかけてサブフレーム後端を車体から離脱させるよう構成することが望ましい。そこで、従来、サブフレームの後端付近を車幅方向に折り曲げて締結部材(ボルト)を引き抜くべく、サブフレーム後端を車体へ締結する締結部の直前に、車幅方向に延びる脆弱部を形成したものが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−162158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に開示された構造において、サブフレームの延長部により補助的な衝突エネルギ吸収を行うことが考えられる。上記特許文献1では、サブフレームの延長部の前端位置と後端位置の高さ位置が大きく異なっていることから、車両の前面衝突時には、サブフレームの折れ曲がりによって補助的な衝突エネルギ吸収を行うことが可能になっている。しかしながら、サブフレームの折れ曲がりによる衝突エネルギ吸収では、十分なエネルギ吸収量が得られないという問題があった。
【0006】
特に、小型車は、フロントノーズが短く、衝突時の変形ストロークが不足しがちになるために、エネルギ吸収量が不十分となる虞があり、それ故、サブフレームによる衝突エネルギ吸収の依存度が高くなるという事情がある。従って、上記特許文献1に開示された構造を小型車に適用した場合には、十分なエネルギ吸収量が得られないという上述の問題がより顕著であった。
【0007】
また、車両の前面衝突時に、サブフレームの後端を車体から離脱させる上記特許文献1の構造を小型車に適用することが考えられる。しかしながら、小型車は、上述のように一般的にフロントノーズが短く、ダッシュパネルより車両前方のパワートレイン収容空間に制約があること、また小型車の特長である小型軽量という特長を生かすために、部品点数の削減等によって軽量化を追求しようとするケースが多い等の事情により、上記締結部のスペースが限られ、車幅方向に延びる上記脆弱部を形成できない場合があった。
【0008】
この発明は、フロントサイドフレームとサブフレームの延長部とにより前面衝突時のエネルギ吸収量を確保しつつ、車幅方向に延びる脆弱部を形成できない場合でも、前面衝突時において、サブフレーム後端の車体からの離脱を実現可能とする車両の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の前部車体構造は、車両前部において前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの下方に配設されてサスペンションを支持するとともに、上記フロントサイドフレームの下方においてサブフレーム本体から車両前方に延びる左右一対の延長部を有するサブフレームとを備えた車両の前部車体構造であって、上記延長部は、その前端の長手方向に直交する向きの断面と、後端の長手方向に直交する向きの断面とが、上下方向で少なくとも部分的に重複するよう構成されており、上記サブフレーム本体は、上面を構成するアッパ部材と、下面を構成するロア部材とから構成されており、少なくともその後端において締結部材により車体に締結される締結部を有し、上記サブフレームの少なくともアッパ部材には、上記締結部に対して車幅方向に隣接した位置に、他の部位より剛性の低い低剛性部が形成され、上記低剛性部は、上記アッパ部材の上面から下方に折り曲げられた折り曲げ部が形成され、上記サブフレームには、上記延長部に沿って車両前方から上記サブフレームの後端に伝達される衝突荷重を、上記低剛性部と車幅方向においてオフセットした位置に伝達させる荷重伝達部が設けられたものである。
【0010】
この構成によれば、延長部において、その前端の長手方向に直交する向きの断面と、後端の長手方向に直交する向きの断面とを、上下方向で少なくとも部分的に重複させて、サブフレームをストレート化することにより、該サブフレームを軸圧縮に寄与させることができる。このため、延長部によって補助的な衝突エネルギ吸収を行うことができる。
【0011】
そして、サブフレームの少なくともアッパ部材における、締結部に対して車幅方向に隣接した位置に、他の部位より剛性の低い低剛性部を形成するとともに、該低剛性部と車幅方向においてオフセットした位置に衝突荷重を伝達させる荷重伝達部を設けることで、サブフレームの後端に車幅方向に延びる脆弱部を形成できない場合であっても、車両の前面衝突時にサブフレームを軸圧縮させる衝突荷重を利用してサブフレームの後端を変形させ、該後端を車体から離脱させることができる。
【0012】
しかも、上記サブフレーム本体は、上面を構成するアッパ部材と、下面を構成するロア部材とから構成されており、上記低剛性部は、上記締結部を避けた位置に、上記アッパ部材の上面から下方に折り曲げられた折り曲げ部を形成することにより構成されるものであるから、締結部を避けた位置に、アッパ部材の上面から下方に折り曲げられた折り曲げ部を形成することで、サブフレームの一部に剛性差を生じさせることができ、この剛性差が生じた部位によって低剛性部を構成することができる。この場合、アッパ部材の上面を折り曲げるだけで低剛性部を構成できるため、部品の追加が不要となり、全体の重量増加を抑制することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記低剛性部は、車両前後方向に沿って形成されているものである。
【0014】
この構成によれば、サブフレームの後端における締結部のスペースが限られている場合であっても、低剛性部を容易にレイアウトすることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記締結部材は、ボルトおよびナットにより構成され、該ボルトおよびナットにより、上記サスペンションの一部を、上記締結部とともに上記車体に共締め固定したものである。
【0016】
この構成によれば、ボルトおよびナットにより、サスペンションを締結部とともに車体に共締め固定したことで、サスペンションを固定する部材、およびサブフレーム後端を固定する部材を個別に設ける必要がない。このため、全体の軽量化を図ることができる。そして、車輪を支持するために元々高い剛性を有するサスペンションを共締め固定することで、締結部の剛性を可及的に高めることができる。このため、車両の前面衝突時における低剛性部の変形を促進することができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記サブフレーム本体または上記締結部が締結される上記車体の一方には、ピンと、該ピン近傍に位置する上記締結部材の挿通孔とが設けられ、他方には、上記ピンが挿通される開孔と、該開孔近傍に位置する上記締結部材の挿通孔とが設けられているものである。
【0018】
この構成によれば、通常時には、ピンの開孔への嵌合により、挿通孔の周囲の支持剛性を確保できる。
一方、車両の前面衝突時には、ピンの移動によって開孔を拡開させることにより、挿通孔の周囲の支持剛性を低下させることができ、締結部材を車体から引き抜くために必要な荷重を低く抑えることができる。このため、サブフレームを車体から離脱させるのに必要な荷重を低減できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、フロントサイドフレームとサブフレームの延長部とにより前面衝突時のエネルギ吸収量を確保しつつ、車幅方向に延びる脆弱部を形成できない場合でも、前面衝突時において、サブフレーム後端の車体からの離脱を実現可能とする車両の前部車体構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る車両の前部車体構造を示す側面図。
図2】サブフレームを示す斜視図。
図3】サブフレームを示す平面図。
図4】サブフレーム後端を示す要部拡大斜視図。
図5】締結部を示す断面図。
図6】締結部が締結される車体側の部位を示す平面図。
図7】車両の前面衝突時のサブフレームの変形挙動について解析した結果を示す斜視図。
図8】車両の前面衝突時のサブフレームの変形挙動について解析した結果を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両Vの前部車体構造を示す側面図であり、本実施形態に係る車両Vは、フロントノーズが短く設定された小型車である。また、車両Vは、その前部において、図1に示すように、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム1(図1では左側のみを示す)と、該フロントサイドフレーム1の前端に連接する上側クラッシュカン2と、該上側クラッシュカン2を車幅方向に連接するバンパーレインフォースメント3と、フロントサイドフレーム1の下方に配設されるサブフレーム4と、サスペンションの一部を構成する左右一対のロアアーム5(図1では左側のみを示す)とを備えている。
【0022】
フロントサイドフレーム1は、車両の前後方向に延びる閉断面形状の筒状体で構成されており、その前端には、フランジ6および上側クラッシュカン2側のフランジ7を介して上側クラッシュカン2が取り付けられている。
【0023】
上側クラッシュカン2は、車両前後方向に延びる閉断面形状の筒状体で構成され、フロントサイドフレーム1の前部に連接している。また、バンパーレインフォースメント3は、車両前方側が開放した断面ハット形状のバンパーレイン本体(図示せず)と、該バンパーレイン本体の前部に接合されたクロージングプレート(図示せず)とにより、略台形の閉断面が形成された円弧状部材であり、左右の上側クラッシュカン2の前端を車幅方向に連結している。
【0024】
また、フロントサイドフレーム1の底面には、後述するサブフレーム4の前端が前端支持部材8およびフランジ6を介して連結されるとともに、サブフレーム4の車両前後方向の中間部が、中間支持部材9を介して上部の締結部材10(図4参照)により連結されている。
【0025】
また、フロントサイドフレーム1の車両後方には、エンジン等のパワートレインを収容する収容空間と車室とを仕切るダッシュパネル11が配設され、このダッシュパネル11の前面には、フロントサイドフレーム1の後端が接続されている。そして、ダッシュパネル11の下部には、フロントサイドフレーム1の後端から車両前後方向に延びるフロアフレーム12が配設されている。このフロアフレーム12の下部には、側面視でクサビ状をなすガセット13が接合固定され、フロアフレーム12とガセット13とにより閉断面を形成している。上述したサブフレーム4の後端は、後端支持部材14を介して車体側のフロアフレーム12およびガセット13に連結されている。
【0026】
サブフレーム4は、図1図5に示すように、左右一対の前後メンバ41と、前後メンバ41の前部を車幅方向に連結するフロントクロスメンバ42と、前後メンバ41の後端を車幅方向に連結するサスペンションクロスメンバ43(以下、サスクロス43という。)とで井桁状に構成されている。
【0027】
前後メンバ41およびサスクロス43は、それぞれ上面を構成するアッパ部材41A、43Aと、下面を構成するロア部材41B、43Bとの接合により、中空状に形成されており、このうち、前後メンバ41は、車両前後方向に延びる閉断面形状の筒状体で構成されている。
【0028】
また、サブフレーム4は、前後メンバ41の後部とサスクロス43とからなるサブフレーム本体から車両前方に延設される閉断面形状の延長部44を有している。前後メンバ41では、その後部に後述するロアアーム取り付け部41aが形成されており、上述した延長部44は、前端支持部材8の後方において、ロアアーム取り付け部41aより車両前方に延設された前後メンバ41の前部により形成されている。
【0029】
本実施形態では、図1図3に示すように、延長部44の前端の車両前後方向(長手方向)に直交する向きの断面が、延長部44の後端の車両前後方向に直交する向きの断面と正面視で少なくとも部分的に重複している。これにより、延長部44の前端の上記断面と、後端の上記断面とが、上下方向で少なくとも部分的に重複するよう構成されている。
【0030】
一方、前後メンバ41のうち、ロアアーム取り付け部41aより車両後方の部位、つまり前後メンバ41の後部は、図2図4に示すように、平面視で車両後方かつ車幅方向内側に向かって斜めに傾斜している。
【0031】
また、サブフレーム4では、前後メンバ41の前端が、図2図3に示すように平面視でコ字状をなしており、車幅方向中間部の凹部41bには、前端支持部材8が接合固定されている。そして、前端支持部材8には、図1に示すように、下側クラッシュカン15が、プレート状のフランジ16を介して前端支持部材8の下部に取り付けられている。
【0032】
下側クラッシュカン15は、上面を構成するアッパ部材15Aと下面を構成するロア部材15Bとにより、四角錘台状に形成されており、その後端がそれぞれフランジ16に接合固定されている。そして、フランジ16が締結部材17によって前端支持部材8の前面に締結されることで、下側クラッシュカン15が、フランジ16を介して前端支持部材8に取り付けられている。これにより、車両前方から入力される衝突荷重に対して圧縮変形可能とされている。
【0033】
また、サブフレーム4(サブフレーム本体)は、その後端に締結部45を有しており、この締結部45が、締結部材を構成するボルト18によりガセット13に締結されている。
【0034】
締結部45は、図1図5に示すように、サスクロス43のアッパ部材43Aおよびロア部材43Bが車幅方向外側に突出することにより構成され、締結部45では、アッパ部材43Aとロア部材43Bとの間に、車両前方および車幅方向外側に開口する開口部46が形成されている。そして、アッパ部材43Aおよびロア部材43Bのうち、締結部45を形成する部位には、図2に示すように、ボルト18を挿通するための挿通孔43a、43bが穿設され、該挿通孔43a、43bが、上下方向に重なるように配置されている。
【0035】
また、サスクロス43では、締結部45を避けた車両前方の位置に、アッパ部材43Aの上面から下方に折り曲げられた折り曲げ部43cが形成され、この折り曲げ部43cの下端が、ロア部材43Bに接合されている。
【0036】
また、折り曲げ部43cと締結部45とに挟まれた領域では、折り曲げ部43cと開口部46とによって剛性差が生じている。そして、この剛性差により、締結部45に対して車幅方向内側に隣接した部位が、他の部位よりも剛性が低い低剛性部47となっている。この低剛性部47は、開口部46の形状により、車両前後方向に沿うように形成されている。
【0037】
また、締結部45の車両後方では、挿通孔43a、43bの車両後方に基準ピン19が取り付けられている。基準ピン19は、その先端部が略円錐状をなして上方に突出しており、ガセット13側を指向している。
【0038】
ここで、ロアアーム5は、図3図4に示すように、車幅方向内側に凸設する略弓形状に形成され、その前端には、図1図3に示すように、車輪を支持するナックルアーム(図示せず)に連結されるボールジョイント51が設けられ、長手方向中間部には、図3図4に示すように、車幅方向内側に突出する支持アーム52が延設されている。そして、支持アーム52の先端には、前部連結部53が取り付けられ、この前部連結部53が、ロアアーム取り付け部41aに対して揺動可能に連結支持されている。
【0039】
また、ロアアーム5の後端は、図1図3図5に示すように、開口部46からアッパ部材43Aとロア部材43Bとの間に差し込まれるようにして締結部45に配設されている。
【0040】
そして、ロアアーム5の後端には、図1図4図5に示すように、後端支持部材14が取付けられている。後端支持部材14は、図5に示すように、アッパ部材43Aの上面とロア部材43の下面との間に固定された内筒141、ロアアーム5の後端に固定された外筒142、および内筒141と外筒142との間に挟まれるように配設された環状のラバー部材143により構成されており、内筒141の中空部が挿通孔43a、43bと上下方向に重なるように配置されている。
【0041】
また、車体側では、図5図6に示すように、内筒141の中空部および挿通孔43a、43bの位置に対応して、ガセット13の下面に、車両前後方向に対して斜めに傾斜する長穴形状の挿通孔13aが穿設されるとともに、フロアフレーム12にも、挿通孔12aが穿設されている。この挿通孔12aには、ボルト18とともに締結部材を構成するパイプ状のウェルドナット20が挿通されており、このウェルドナット20は、ガセット13の下面、およびフロアフレーム12の挿通孔12aによって、座面が挿通孔13aの周囲に配置されるように固定されている。
【0042】
本実施形態では、ボルト18が、挿通孔13a、43a、43b、および後端支持部材14の内筒141の中空部に挿通され、ウェルドナット20に締め付けられることにより、ロアアーム5の後端が、締結部45とともに車体に共締め固定されている。このように、締結部45とともに車体に共締め固定された共締め固定状態では、ロアアーム5の後端が、後端支持部材14のラバー部材143により、締結部45に対して弾性支持されている。
【0043】
ところで、内筒141の中空部の孔径は、ボルト18の径よりも大きく設定されており、上述した共締め固定状態では、内筒141とボルト18との間に、図5に示すような隙間Gが形成されている。
【0044】
また、フロアフレーム12およびガセット13には、図5図6に示すように、基準ピン19と対応する位置に開孔12bおよび基準孔13bが穿設されている。
【0045】
これら開孔12bおよび基準孔13bのうち、基準孔13bは、その孔径が基準ピン19の径と略同じに設定され、上述した共締め固定状態では、略隙間なく基準ピン19と嵌合するようになっている。従って、本実施形態では、上述した隙間Gが、基準孔13bと基準ピン19との隙間よりも大きく設定されている。
【0046】
ここで、基準ピン19および基準孔13bは、車体に対するサブフレーム4の位置決め用の基準ピン、基準孔として利用される。具体的には、サブフレーム4を車体に取付ける作業を行う際、基準ピン19を車体側のガセット13の基準孔13bに嵌合させることにより、締結部45の車体に対する位置決めを行うことができ、ひいてはサブフレーム4の車体に対する位置決めを適切に行うことができるようになっている。
【0047】
次に、図7図8をさらに参照しながら、本実施形態に係る車両Vが前面衝突した時のサブフレーム4の変形挙動について説明する。
本発明者は、図1図6に示す前部車体構造を開発するにあたり、車両Vが前面衝突した時のサブフレーム4の変形挙動についてCAE解析を行った。図7図8は、車両Vが前面衝突した時のサブフレーム4の変形挙動を解析した結果を示すものであり、図7(a)は、衝突初期、図7(b)、図8は、衝突中期、図7(c)は、衝突後期を示している。なお、図7では、図示の便宜上、中間支持部材9を締結する締結部材10の図示を省略している。
【0048】
先ず、車両Vが前面衝突した直後の衝突初期では、フロントサイドフレーム1の前端に設けられた上側クラッシュカン2が衝突荷重によって圧縮変形する。そして、上側クラッシュカン2の圧縮変形によっても吸収されない衝突荷重は、フロントサイドフレーム1に入力される。このとき、フロントサイドフレーム1が上記衝突荷重によって軸圧縮され、主にこのフロントサイドフレーム1の軸圧縮により、衝突エネルギが吸収される。
【0049】
一方、サブフレーム4では、図7(a)に示すように、サブフレーム4(前後メンバ41)の前端に設けられた下側クラッシュカン15が衝突荷重によって圧縮変形する。そして、下側クラッシュカン15の圧縮変形によっても吸収されない衝突荷重は、サブフレーム4に入力される。このとき、延長部44の前端の上記断面と後端の上記断面とが、上下方向で少なくとも部分的に重複するよう構成されているため、延長部44は、上記衝突荷重によって、図7(a)に示すように軸圧縮され、主にこの延長部44の軸圧縮により、補助的な衝突エネルギ吸収が行われる。
【0050】
このようにして、延長部44が軸圧縮すると、上記衝突荷重は、図7に太矢印αで示すように、前後メンバ41の後部に沿って車両後方かつ車幅方向内側に伝達される。そして、この衝突荷重は、低剛性部47と車幅方向内側にオフセットした位置に伝達される。本実施形態では、前後メンバ41の後部が、上記衝突荷重を低剛性部47と車幅方向にオフセットした位置に伝達させる荷重伝達部として機能している。
【0051】
このとき、延長部44が軸圧縮していることで、低剛性部47を含むサブフレーム4の後端には、車両前方から大きな荷重が作用し、低剛性部47では、図示のような谷折れ変形が発生する。また、低剛性部47と車幅方向にオフセットした位置に上記衝突荷重が伝達、作用することで、谷折れ変形がより促進されるようになっている。締結部45では、この低剛性部47の谷折れ変形に伴い、図7図8に示すように、これが前傾するような変形が発生する。
【0052】
車両Vの衝突がさらに進行すると、図7(b)に示すように、延長部44の軸圧縮が進行し、また、低剛性部47においては、図7(b)およ図7(c)に破線βで示すような、車両前後方向に対して斜め方向の折れ線に沿った谷折れ変形が進行することになり、この低剛性部47の谷折れ変形の進行に伴って、締結部45がさらに前傾する。
【0053】
ここで、締結部45の前傾、およロアアーム5を介して車両後方に伝達される衝突荷重により、締結部45では、ボルト18や基準ピン19が車両後方に押圧される。本実施形態では、ボルト18と後端支持部材14の内筒141との間に隙間Gが形成されていることにより、図8に示すように、内筒141を含む締結部45が車両後方に移動可能となる。また、内筒141と、サスクロス43のアッパ部材43Aおよびロア部材43Bとの間の摩擦により、内筒141の車両後方への移動に伴って、締結部45が車両後方に移動する。
【0054】
このため、基準ピン19は、図8に示すように、ガセット13の基準孔13bを拡開しながら後方に移動することができる。その後基準ピン19が後方へ移動すると、ボルト18と内筒141の前部とが接触する。
【0055】
このようにして、基準ピン19が基準孔13bを拡開すると、ガセット13では、基準孔13bの近傍に位置する挿通孔13aの周囲の支持剛性が著しく低下することとなる。
【0056】
このとき、締結部45が前傾するような変形をしていることにより、ボルト18には、その下端を上方かつ後方へ変位させる方向に回転モーメントが発生する。そして、ボルト18、ウェルドナット20は、その下端部が後方かつ上方に向かうように回動し始める。
【0057】
車両Vの衝突がさらに進行すると、ロアアーム5が前後メンバ41の後部に当接してこれを車両後方に押圧する。これにより、図7(c)に示すように、低剛性部47の谷折れ変形および締結部45の前傾が促進され、ひいてはボルト18、ウェルドナット20の回動も促進される。そして、サブフレーム4の後端とガセット13との接触部が支点となり、ボルト18およびウェルドナット20を、所謂てこの原理によって下方かつ後方に引き抜こうとするねじり荷重が発生する。
【0058】
このとき、挿通孔13aの周囲では、既に基準ピン19がガセット13の基準孔13bを拡開していることによって支持剛性が低下しているため、上述したねじり荷重が作用すると、挿通孔13aはその長手方向に沿って大きく変形、拡開することとなる。このため、衝突後期においては、ボルト18、ウェルドナット20が挿通孔13aをすり抜けるか、あるいは挿通孔13aの周囲が千切れて、サブフレーム4の後端が車体(フロアフレーム12およびガセット13)から離脱する。
【0059】
本発明者は、鋭意研究の結果、図7図8に示す解析結果から、上記特許文献1に開示された車幅方向に延びる脆弱部を形成しなくても、サブフレーム4の後端の車体からの離脱を実現できることを見出した。すなわち、上述のように、小型車においてフロントサイドフレーム1のみならず、サブフレーム4の延長部44でも軸圧縮による衝突エネルギ吸収機能を持たせるようにすれば、延長部44の軸圧縮によりサブフレーム4の後端に作用する荷重は、延長部の折れ曲がりによって衝突エネルギを吸収する上記特許文献1の場合に比べて大きくなり、結果として、脆弱部を車幅方向に沿って形成しなくとも、サブフレーム4の後端を確実に車体から離脱させることができる、という知見を得た。
【0060】
本実施形態では、上述したように、延長部44において、その前端の長手方向に直交する向きの断面と、後端の長手方向に直交する向きの断面とを、上下方向で少なくとも部分的に重複させて、サブフレーム4をストレート化することにより、該サブフレーム4を軸圧縮に寄与させることができる。このため、延長部44によって補助的な衝突エネルギ吸収を行うことができる。
【0061】
そして、サブフレーム4の少なくとも上面における、締結部45に対して車幅方向に隣接した位置に、他の部位より剛性の低い低剛性部47を形成するとともに、該低剛性部47と車幅方向においてオフセットした位置に衝突荷重を伝達させる荷重伝達部(前後メンバ41の後部)を設けることで、サブフレーム4の後端に車幅方向に延びる脆弱部を形成できない場合であっても、車両Vの前面衝突時にサブフレーム4を軸圧縮させる衝突荷重を利用してサブフレーム4の後端を変形させ、該後端を車体から離脱させることができる。
【0062】
また、低剛性部47を車両前後方向に沿って形成することで、サブフレーム4の後端における締結部45のスペースが限られている場合であっても、低剛性部47を容易にレイアウトすることができる。
【0063】
また、締結部45を避けた位置に、アッパ部材43Aの上面から下方に折り曲げられた折り曲げ部43cを形成することで、サブフレーム4の一部に剛性差を生じさせることができ、この剛性差が生じた部位によって低剛性部47を構成することができる。この場合、アッパ部材43の上面を折り曲げるだけで低剛性部47を構成できるため、部品の追加が不要となり、全体の重量増加を抑制することができる。
【0064】
また、ボルト18およびウェルドナット20により、ロアアーム5を締結部45とともに車体に共締め固定したことで、ロアアーム5を固定する部材、およびサブフレーム4の後端を固定する部材を個別に設ける必要がない。このため、全体の軽量化を図ることができる。そして、車輪を支持するために元々高い剛性を有するロアアーム5を共締め固定することで、締結部45の剛性を可及的に高めることができる。このため、車両Vの前面衝突時における低剛性部47の変形を促進することができる。
【0065】
また、サブフレーム本体に、基準ピン19と挿通孔43a、43bとを設ける一方、車体側に、基準ピン19が挿通される開孔12bおよび基準孔13bと、該開孔12bおよび基準孔13b近傍に位置する挿通孔12a、13aとを設けたことで、通常時には、基準ピン19の基準孔13bへの嵌合により、挿通孔13aの周囲の支持剛性を確保できる。
【0066】
一方、車両Vの前面衝突時には、基準ピン19の移動によって基準孔13bを拡開させることにより、挿通孔13aの周囲の支持剛性を低下させることができ、ボルト18およびウェルドナット20を車体から引き抜くために必要な荷重を低く抑えることができる。このため、サブフレーム4を車体から離脱させるのに必要な荷重を低減できる。
【0067】
ところで、上述した実施形態では、フロントノーズが短い小型車に本発明を適用した場合について説明したが、車幅方向に延びる脆弱部を形成できない事情がるものであれば、他の車種に本発明を適用してもよい。また、上述した実施形態では、サブフレーム4として井桁状の構造を有するものを採用しているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、略H型形状のサブフレームであってもよい。
【0068】
また、上述した実施形態のように、折り曲げ部43cの形成によって生じた剛性差により低剛性部47を構成することにも限定されない。例えば、締結部45に対して隣接した位置に、車両前後方向に延びるビードやスリット等を形成することによって低剛性部を構成してもよい。
【0069】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のサスペンションは、ロアアーム5に対応し、
以下同様に、
車体は、フロアフレーム12およびガセット13に対応し、
サブフレーム本体は、前後メンバ41の後部およびサスクロス43に対応し、
締結部材は、ボルト18およびウェルドナット20に対応し、
荷重伝達部は、前後メンバ41の後部に対応し、
開孔は、開孔12bおよび基準孔13bに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…フロントサイドフレーム
4…サブフレーム
5…ロアアーム(サスペンション)
12…フロアフレーム(車体)
12a…挿通孔
12b…開孔
13…ガセット(車体)
13a…挿通孔
13b…基準孔(開孔)
18…ボルト(締結部材)
19…基準ピン
20…ウェルドナット(締結部材)
41…前後メンバ(サブフレーム本体)
43…サスペンションクロスメンバ(サブフレーム本体)
41A、43A…アッパ部材
41B、43B…ロア部材
43a、43b…挿通孔
43c…折り曲げ部
44…延長部
45…締結部
47…低剛性部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8