特許第5954260号(P5954260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954260
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/74 20060101AFI20160707BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160707BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20160707BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160707BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20160707BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20160707BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   B01J29/74 AZAB
   B01J37/02 101C
   B01D53/94 222
   B01D53/94 280
   B01D53/94 100
   B01D53/94 245
   B01J35/04 301Z
   F01N3/10 A
   F01N3/24 E
   F01N3/28 301G
   F01N3/28 301P
   F01N3/08 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-110771(P2013-110771)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-226653(P2014-226653A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】大城 恵理
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 誉士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義志
(72)【発明者】
【氏名】重津 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 明秀
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−209324(JP,A)
【文献】 特開平09−010601(JP,A)
【文献】 特開2012−232231(JP,A)
【文献】 特開2012−192390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/94
F01N 3/08
F01N 3/10
F01N 3/24
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属よりなるNO吸蔵材とゼオライトとを含む排気ガス浄化用触媒であって、
担体上における排ガス流れ方向上流側に、ゼオライト、アルミナ、Ce含有酸化物及び触媒金属を含み、前記NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層が形成され、
前記担体上における排ガス流れ方向下流側に、前記NO吸蔵材、アルミナ、Ce含有酸化物及び触媒金属を含み、ゼオライトを含まないLNT層が形成され、
前記担体上における前記酸化触媒層と前記LNT層との間には、前記酸化触媒層及びLNT層の成分が混在している混在層が形成されていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記混在層及びLNT層に含まれる前記NO吸蔵材の総質量を基準として12.5質量%以上50質量%以下の前記NO吸蔵材が前記混在層に含まれていることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記担体は、セル断面形状が六角形である六角セルハニカム構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属よりなるNO吸蔵材とゼオライトとを含む排気ガス浄化用触媒の製造方法であって、
担体上における排ガス流れ方向上流側に、ゼオライト、アルミナ、Ce含有酸化物及び触媒金属を含み、前記NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層を形成する工程と、
前記担体上における排ガス流れ方向下流側に、アルミナ及びCe含有酸化物を含み、ゼオライトを含まないLNTサポート材を形成する工程と、
前記LNTサポート材と前記酸化触媒層の一部とに、排ガス流れ方向下流側から前記NO吸蔵材及び触媒金属を含浸担持することによりLNT層及び混在層を形成する工程とを備えていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記含浸担持されたNO吸蔵材の総質量を基準として12.5質量%以上50質量%以下の前記NO吸蔵材が前記混在層に含まれるように前記NO吸蔵材の含浸担持を行うことを特徴とする請求項4に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記担体として、セル断面形状が六角形である六角セルハニカム構造の担体を用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒及びその製造方法に関し、特に、NO吸蔵材を含む排気ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガス処理装置は、一般に酸化触媒(DOC)とその下流に配設されたディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)によって構成されている。DOCによって、排気ガス中の炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)が酸化浄化され、窒素酸化物(NO)のうちのNOがNOに酸化される。DOCでの触媒反応熱によりDPFの昇温が図れ、NOの有する強い酸化力によりDPFに堆積したパティキュレートマター(PM)の燃焼が促進される。エンジン始動直後はDOCの活性が低いことから、HCが未浄化のまま排出されないように、DOCにゼオライトをHCトラップ材として設けることが行われている。
【0003】
一方、NOの浄化のために、リーンバーンガソリンエンジンやディーゼルエンジンではリーンNOトラップ触媒(LNT触媒)も利用されている。このLNT触媒は、NO吸蔵材によって排気ガスの空燃比がリーンであるときにNOを吸蔵する。そして、エンジンの空燃比をリッチに変調するリッチパージにより、NO吸蔵材からのNOの放出及び未燃ガスによるNOの還元が行われる。NO吸蔵材としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属を利用することが可能である。但し、アルカリ金属は触媒担体を形成するコージェライトの粒界にガラス相を形成して担体強度を低下させることから、実際にはそのような問題がないアルカリ土類金属が一般に採用されている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているように、ガソリンエンジンの排気ガス浄化用触媒においては、一体構造型担体にゼオライト含有するHC吸着材層とNO吸蔵材を含有する触媒金属層とを積層状態に設けるという提案がある。この提案では、HC吸着材層にもNO吸蔵材が含まれ、重量比でHC吸着材層のNO吸着材量が触媒金属層のNO吸着材量の40/60から1/99とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−113173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディーゼルエンジンの排気ガスの浄化においても、一体構造型担体に、NO吸蔵材を含有するLNT触媒層とゼオライトを含有するDOC層とを層状に設けることが考えられる。しかし、特許文献1でも示唆されているが、排気ガス浄化用触媒の製造過程でNO吸蔵材がスラリー中に溶出してLNT触媒層からDOC層に浸透すると、そのDOC層の触媒性能低下を招く。例えば、NO吸蔵材の浸透によって、DOC層に含まれるゼオライトのHC吸着性能が低下し、或いは酸化触媒性能が低下してしまう。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、NO吸蔵材を含有する積層型の排気ガス浄化触媒において、そのNO吸蔵材がゼオライトなど他の触媒成分に悪影響を及ぼさないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、排気ガス浄化用触媒において、担体上の排ガス流れ方向上流側にゼオライトを含み、NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層を設け、下流側にNOx吸蔵材を含み、ゼオライトを含まないLNT層を設け、それらの間に中間層を設けるようにした。
【0009】
具体的に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属よりなるNOx吸蔵材とゼオライトとを含む排気ガス浄化用触媒であって、担体上における排ガス流れ方向上流側に、ゼオライト、アルミナ、Ce含有酸化物及び触媒金属を含み、前記NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層が形成され、担体上における排ガス流れ方向下流側に、前記NOx吸蔵材、アルミナ、Ce含有酸化物及び触媒金属を含み、ゼオライトを含まないLNT(リーンNOxトラップ)層が形成され、担体上における酸化触媒層とLNT層との間には、酸化触媒層及びLNT層の成分が混在している混在層が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒において、触媒温度が低いときは排気ガス中のHCが酸化触媒層のゼオライトに吸着され、触媒温度が上昇すると、ゼオライトからHCが放出される。放出されたHCは、排気ガス中のCOと共に温度上昇によって活性が高くなっている触媒金属により酸化浄化される。また、排気ガスの空燃比がリーンであるときは、NOxがLNT層の前記NOx吸蔵材に吸蔵され、その空燃比が理論空燃比近傍又はリッチになったときに前記NOx吸蔵材からNOxが放出される。放出されたNOxは、触媒金属により還元浄化される。また、Ce含有酸化物によるNOxの吸着によって全体のNOx吸蔵、吸着量が増大するとともに、Ce含有酸化物を介する水性ガスシフト反応によってNOx還元剤としての水素が生成し、NOxの還元が促進される。さらに、空燃比をリッチ側にしたときに、Ce含有酸化物に吸蔵された酸素と還元剤(HC及びCO)との反応熱による触媒の活性促進が図れ、NOx浄化率が向上する。
【0011】
また、本発明に係る排気ガス浄化用触媒によると、ゼオライトを含み、前記NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層と前記NOx吸蔵材を含み、ゼオライトを含まないLNT層とが混在層を挟んでそれぞれ分離して担体の排ガス流れ方向上流側と下流側とに設けられており、混合されていないため、LNT層の前記NOx吸蔵材と酸化触媒層のゼオライトとの相互作用によるNOx吸蔵性能及びHC吸着性能の低下を抑制できる。
【0012】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒において、排気ガス浄化用触媒に含まれる前記NOx吸蔵材の総質量を基準として12.5質量%以上50質量%以下の前記NOx吸蔵材が混在層に含まれていることが好ましい。
【0013】
このようにすると、混在層における前記NOx吸蔵材の含有量が大きくはないため、混在層における前記NOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用の発生を抑制できつつ、混在層においてもNOx吸蔵性能及びHC吸着性能を発揮でき、全体として触媒性能を向上できる。
【0014】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒において、担体は、セル断面形状が六角形である六角セルハニカム構造であることが好ましい。
【0015】
このようにすると、六角セルでは、セルの角部の角度が大きくなる(120度前後になる)から、三角セルや四角セルに比べて、触媒層がセルの角部(隅部)において局部的に厚くなる度合が小さくなる。つまり、触媒層厚さの均一化に有利になり、排気ガスを触媒層に効率良く接触させることができる。また、このことは、所期の触媒効果を得るに必要な触媒量を減らすことができることを意味する。これにより、コスト低減が図れるとともに、セルにおける排気ガス流路が広くなり、エンジンの背圧上昇の防止に有利になる。
【0016】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属よりなるNO吸蔵材とゼオライトとを含む排気ガス浄化用触媒の製造方法であって、担体上における排ガス流れ方向上流側に、ゼオライト、アルミナ、Ce含有酸化物及び触媒金属を含み、前記NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層を形成する工程と、前記担体上における排ガス流れ方向下流側に、アルミナ及びCe含有酸化物を含み、ゼオライトを含まないLNTサポート材を形成する工程と、前記LNTサポート材と前記酸化触媒層の一部とに、排ガス流れ方向下流側から前記NO吸蔵材及び触媒金属を含浸担持することによりLNT層及び混在層を形成する工程とを備えていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法によると、本発明に係る排気ガス浄化用触媒によると、ゼオライトを含み、前記NOx吸蔵材を含まない酸化触媒層と前記NOx吸蔵材を含み、ゼオライトを含まないLNT層とが混在層を挟んでそれぞれ担体の排ガス流れ方向上流側と下流側とに分離して設けられており、混合されていないため、酸化触媒層とLNT層とのそれぞれは前記NOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用を受けることがなく、混在層でも前記NOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用の影響が低減されることによってNOx吸蔵性能及びHC吸着性能の低下を抑制できる。
【0018】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法において、含浸担持されたNOx吸蔵材の総質量を基準として12.5質量%以上50質量%以下の前記NOx吸蔵材が混在層に含まれるように前記NOx吸蔵材の含浸担持を行うことが好ましい。
【0019】
このようにすると、混在層における前記NOx吸蔵材の含有量が大きくはないため、混在層における前記NOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用の発生を抑制でき、混在層においてもNOx吸蔵性能及びHC吸着性能を発揮でき、全体として触媒性能を向上できる。
【0020】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法において、担体として、セル断面形状が六角形である六角セルハニカム構造の担体を用いることが好ましい。
【0021】
このようにすると、上述の通り、触媒層厚さの均一化に有利になり、排気ガスを触媒層に効率良く接触させることができ、所期の触媒効果を得るに必要な触媒量を減らすことができる。これにより、コスト低減が図れるとともに、セルにおける排気ガス流路が広くなり、エンジンの背圧上昇の防止に有利になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒及びその製造方法によると、アルカリ金属又はアルカリ土類金属よりなるNOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用によるNOx吸蔵性能及びHC吸着性能の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る排気ガス浄化用触媒における排ガス流れ方向上流側を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る排気ガス浄化用触媒の触媒層構成を示す断面図である。
図3】HC浄化性能の評価試験における触媒から流出するガスのトータルHC濃度及び触媒入口温度の変化を示すグラフ図である。
図4】本発明の実施例及び比較例のHC浄化率を示すグラフ図である。
図5】本発明の実施例及び比較例のNO吸蔵量を示すグラフ図である。
図6】本発明の実施例及び比較例のHC浄化率を示すグラフ図である。
図7】本発明の実施例及び比較例のNO吸蔵量を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものでない。
【0025】
まず、本発明の一実施形態に係る排気ガス浄化用触媒の構成について図1及び図2を参照しながら説明する。図1は本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒における排ガス流れ方向上流側を示す断面図であり、図2は該排気ガス浄化用触媒の触媒層構成を示す断面図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒は、不図示のディーゼルエンジンから排出される排気ガス浄化用触媒であり、ハニカム担体のセル壁1の上における排ガス流れ方向の上流側に酸化触媒層であるDOC層2が形成され、その下流側にリーンNOトラップ触媒層であるLNT層3が形成されている。さらに、DOC層2とLNT層3との間には、それらの層に含まれる成分が混在する混在層4が形成されている(図1ではLNT層3及び混在層4がDOC層2の後方に隠れている。)。また、それらの内側の空間が排気ガス通路4となっている。ハニカム担体は、そのセル断面形状が六角形である六角セルハニカム構造となっている。図1では、図の簡略化のため、1つのセルにのみ上記触媒層を描いているが、全てのセルに上記触媒層が形成されている。
【0027】
DOC層2は、ゼオライト、活性アルミナ及びCe含有酸化物の混合物にPt及びPd等の触媒金属が担持されてなる。一方、LNT層3は、活性アルミナ及びCe含有酸化物にNO吸蔵材並びに触媒金属としてPt及びRh等が担持されてなる。また、混在層4は、上述の通り、DOC層2に含まれる上記成分とLNT層3に含まれる上記成分の一部成分とが混在して構成されている。
【0028】
次に、本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。
【0029】
まず、担体のセル壁の上に形成するDOC層2の材料となるDOC粉末の調製について説明する。DOC粉末の調製としては、まず、ゼオライト、活性アルミナ及びCe含有酸化物を混合し、その混合物にPt及びPd等の触媒金属を蒸発乾固法により担持する。具体的に、ゼオライト、活性アルミナ及びCe含有酸化物の混合物に水を加え、撹拌してスラリー状にする。このスラリーを撹拌しながら、これに触媒金属の硝酸塩水溶液を滴下する。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させる。得られた乾固物を大気中で焼成し、粉砕することにより、DOC粉末が得られる。
【0030】
上記のように調製したDOC粉末を用いて、ハニカム担体のセル壁1の上における排ガス流れ方向の上流側にDOC層2を形成する。そのために、まず、得られたDOC粉末をバインダー及び水と混合し、さらにスラリー粘度調整用の硝酸水溶液を添加して撹拌することにより、スラリー状にする。このスラリーをハニカム担体のセル壁1の上における排ガス流れ方向の上流側の例えば2/3の領域にコーティングし、乾燥し、その後に焼成する。これにより、担体のセル壁の上における排ガス流れ方向の上流側の2/3の領域にDOC層2が形成される。
【0031】
次に、担体のセル壁の上における排ガス流れ方向の下流側にLNT用サポート材を形成する。LNT用サポート材の調製のために、まず、活性アルミナとCe含有酸化物とを混合する。この混合物にバインダーと水とを加え、撹拌してスラリー状にする。このスラリーをハニカム担体のセル壁1の上における排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域(DOC層2が形成されていない領域)にコーティングし、乾燥し、その後に焼成する。これにより、担体のセル壁の上における排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域にLNT用サポート材が形成される。
【0032】
次に、Pt及びRh等の触媒金属とアルカリ土類金属からなるNO吸蔵材との混合溶液を、上記LNTサポート材及びDOC層2が形成された担体の排ガス流れ方向の下流側の2/3の領域に含浸させる。すなわち、LNTサポート材の全体と、DOC層2のうち下流側の半分とに含浸させる。その後、上記混合溶液が含浸されたハニカム担体を乾燥し、焼成する。これにより、LNT用サポート材に触媒金属及びNO吸蔵材が含浸担持されたLNT層3と、DOC層2の一部に触媒金属及びNO吸蔵材が含浸担持された混在層4とが形成される。なお、このとき、NO吸蔵材には、アルカリ土類金属の酢酸塩又は硝酸塩の水溶液を用いる。上記製造方法において、乾燥は、例えば大気雰囲気において100℃〜250℃程度の温度に所定時間保持することによって行うことができる。また、焼成は、例えば大気雰囲気において400℃〜600℃程度の温度に数時間保持することによって行うことができる。また、本実施形態では、DOC層2と混在層4とLNT層3とをそれぞれハニカム担体の排ガス流れ方向の長さが同等となるように、1/3ずつ形成したがこれに限られず、所望の触媒性能に従って適宜調整することができる。
【0033】
上記のような排気ガス浄化用触媒の製造方法によると、ゼオライトを含むDOC層とNO吸蔵材を含むLNT層とが混在層を挟んでそれぞれ分離して担体の排ガス流れ方向上流側と下流側とに設けられており、混合されていないため、DOC層とLNT層とのそれぞれはNO吸蔵材とゼオライトとの相互作用を受けることなく、混在層でもNO吸蔵材とゼオライトとの相互作用の影響が低減されることによってNO吸蔵性能及びHC吸着性能の低下を抑制できる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒を詳細に説明するための実施例を示す。本実施例では、セル壁の厚さが4.5mil(1.143×10−1mm)であり、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数が400のコージェライト製六角セルハニカム担体(直径24.5mm、長さ50mm)を用いて、上記排気ガス浄化用触媒の製造方法により排気ガス浄化用触媒を調製した。その触媒に対して、HC浄化性能及びNO吸蔵性能を評価した。
【0035】
以下に、実施例1〜6及び比較例1に係る排気ガス浄化用触媒の構成について説明する。実施例1〜6において、DOC層の触媒成分の担持量は、100g/Lのゼオライト、60g/Lの活性アルミナ、40g/LのCe含有酸化物、1.6g/LのPt、0.8g/LのPdである。また、LNT層の触媒成分の担持量は、50g/Lの活性アルミナ、50g/LのCe含有酸化物、4.3g/LのPt、0.5g/LのRh、NO吸蔵材として30g/LのBa及び10g/LのSrである。ここで、Ce含有酸化物としては、Ce−Pr複合酸化物(質量比で、CeO:Pr11=90:10)を用い、ゼオライトとしては、β−ゼオライトを用いた。
【0036】
実施例1〜6において、各触媒粉末の調製における焼成、触媒粉末のコーティング後の焼成、及び触媒金属及びNO吸蔵材の含浸後の焼成は、いずれも大気中で行い、いずれも焼成温度を500℃、焼成時間を2時間とした。
【0037】
上記実施例のうち実施例1〜3は、それぞれ混在層の排ガス流れ方向の長さが異なる。具体的に実施例1では、ハニカム担体の排ガス流れ方向の長さを1としたとき、混在層の排ガス流れ方向の長さを1/3とし、実施例2では1/2とし、実施例3では7/12とした。
【0038】
一方、比較例1は、上記各実施例と比較して、DOC層とLNT層とが、ハニカム担体上において排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて形成されているのでなく、それらが層状に形成され、すなわちDOC層の上にLNT層が形成されている。具体的に、比較例1の触媒において、DOC層を上記各実施例と同様の方法で調製し、その構成成分の担持量は、上記各実施例と同様に100g/Lのゼオライト、60g/Lの活性アルミナ、40g/LのCe含有酸化物、1.6g/LのPt、0.8g/LのPdとした。但し、各実施例と異なり、粒度調整は行っておらず、DOC層をハニカム担体のセル壁上の上流側の1/2の領域でなく全面に設けた。また、上記各実施例と同様に50g/Lの活性アルミナ及び50g/LのCe含有酸化物によりLNT用サポート材を調製し、それをDOC層の上にコーティングした。その後、上記方法により、4.3g/LのPt、0.5g/LのRh、30g/LのBa及び10g/LのSrを含浸担持させた。但し、含浸はハニカム担体の下流側1/2の領域だけでなく、全体を含浸させた。これにより、比較例1の触媒であるDOC層とLNT層との2層構造の触媒を作製した。
【0039】
これらの実施例1〜3及び比較例1の触媒に対して行ったHC浄化性能の測定試験及びNO吸蔵量の測定試験とそれらの結果とについて、以下に説明する。
【0040】
HC浄化性能の測定試験において、まず、実施例1〜3及び比較例1の各ハニカム触媒に対して、Oが2%、HOが10%、残部がNのガス雰囲気において750℃の温度に24時間保持するエージング処理を行った。そのハニカム触媒をモデルガス流通反応装置に取り付け、ハニカム触媒にNガスを流通させた状態で触媒入口ガス温度を100℃に保持し、次いでHC浄化性能評価用のモデルガスを導入した。
【0041】
モデルガス組成は、n−オクタンが600ppmC、エチレンが150ppmC、プロピレンが50ppmC、COが1500ppm、NOが30ppm、Oが10%、HOが10%、残部がNであり、空間速度は72000/hである。
【0042】
モデルガス導入開始後、2分を経過した時点から触媒入口ガス温度を上昇させていき、ハニカム触媒から流出するガスのトータルのHC濃度(THC)を測定した。その結果の一例を図3に示す。
【0043】
モデルガスの導入開始から暫くは触媒温度が低いため、モデルガス中のHCがゼオライトに吸着される。そのため、流出ガスのTHCは、モデルガスのTHCである800ppmCよりも低い。そうして、触媒温度の上昇に伴ってゼオライトによるHCの吸着量が漸減する。触媒入口ガス温度が200℃近くになると、ゼオライトへのHCの吸着量よりHCの脱離量が多くなり、THCが急増して800ppmCよりも高くなる。触媒温度が上昇していくと、触媒が活性を呈するようになり、脱離するHCのDOC層による浄化が始まる。このため、THCが急減して800ppmCよりも低くなる。
【0044】
そうして、上記実施例1〜3及び比較例1の各ハニカム触媒の、モデルガス導入開始から当該ガス温度が300℃になるまでのHC浄化率を求めた。HC浄化率は、図3に示すHCの吸着に伴うTHC低減量(A)とHCの浄化に伴うTHC低減量(B)との和から、HC脱離量(C)を差し引いて計算した。その結果を図4に示す。
【0045】
図4に示すように、実施例1〜3及び比較例1の触媒のHC浄化率をみると、DOC層とLNT層とをハニカム担体の排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて配設し、それらの間に混在層を設けることにより、2層構造の比較例1と比較して、HC浄化率が高くなることがわかる。また、実施例1〜3を互いに比較すると、混在層の長さを長くするに従って、HC浄化率が低下する傾向が見られる。
【0046】
一方、NO吸蔵性能の測定試験においては、実施例1〜3及び比較例1の各ハニカム触媒に対して、上記HC浄化率測定の場合と同じエージング処理を行った後、ハニカム触媒をモデルガス流通反応装置に取り付けた。ハニカム触媒に空燃比リッチのモデルガスを流通させた状態で触媒入口ガス温度を200℃に保持し、該温度を保った状態で空燃比リーンのモデルガスに切り替え、このモデルガスの切替えから180秒間のNO吸蔵量を測定した。また、触媒入口ガス温度を250℃として、同様に空燃比リッチのモデルガスから空燃比リーンのモデルガスに切り替えてから180秒間のNO吸蔵量を測定した。
【0047】
リッチモデルガスの組成は、NOが220ppm、HCが3400ppmC、COが1.0%、Oが0.5%、COが6%、HOが10%、残部がNである。リーンモデルガスの組成は、NOが220ppm、HCが400ppmC、COが0.15%、Oが10%、COが6%、HOが10%、残部がNである。NO吸蔵性能の測定試験の結果を図5に示す。
【0048】
図5に示すように、実施例1〜3及び比較例1の触媒のNO吸蔵量をみると、DOC層とLNT層とをハニカム担体の排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて配設し、それらの間に混在層を設けることにより、2層構造の比較例1と比較して、NO吸蔵量が高くなることがわかる。また、実施例1〜3を互いに比較すると、混在層の排ガス流れ方向の長さが最も長い実施例3が最もNO吸蔵量が低かった。
【0049】
以上の図4のHC浄化率及び図5のNO吸蔵量の結果から、実施例1〜3の触媒のように、DOC層とLNT層とをハニカム担体の排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて配設し、それらの間に混在層を設けることにより、HC浄化性能及びNO吸蔵性能を向上できることが示唆された。これは、DOC層とLNT層との間に混在層が形成されて、DOC層にNO吸蔵材が混入する量が低減され、そのDOC層の触媒性能が低下することが抑制されたことによると考えられる。また、混在層の長さを長くすると、HC浄化性能及びNO吸蔵性能が低下しているが、これは、混在層を長くすることにより、DOC層及びLNT層のそれぞれの長さが短くなり、それらの性能が低下するためであると考えられる。
【0050】
次に、実施例1、4〜6及び比較例1の触媒に対して行ったHC浄化性能の測定試験及びNO吸蔵量の測定試験とそれらの結果とについて、以下に説明する。
【0051】
実施例1、4〜6は、互いに混在層とLNT層とに含まれるNO吸蔵材の質量比が異なる。それらの混在層及びLNT層におけるNO吸蔵材の質量比を表1に示す。表1では、触媒に含まれるNO吸蔵材の総質量を100質量%としたときの、混在層及びLNT層のそれぞれに含まれるNO吸蔵材の割合を示している。
【0052】
【表1】
【0053】
なお、実施例4〜6の触媒における混在層の排ガス流れ方向の長さは、実施例1と同一とした。また、各実施例において、NO吸蔵材の含浸回数を変えることにより混在層及びLNT層のNO吸蔵材の含有量に差異を与えた。
【0054】
具体的に、実施例1では、上記製造方法に従って、担体のセル壁の上における排ガス流れ方向の上流側の2/3の領域にDOC層を形成し、残りの1/3の領域にLNTサポート材を形成した後に、触媒金属とNO吸蔵材との混合溶液を、LNTサポート材及びDOC層が形成された担体の排ガス流れ方向の下流側の2/3の領域に1度含浸させた。これにより、NO吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO吸蔵材の割合を50.0質量%、LNT層に含まれるNO吸蔵材の割合を50.0質量%とし、すなわち、混在層に含まれるNO吸蔵材とLNT層に含まれるNO吸蔵材との質量を同等とした。
【0055】
これに対して、実施例4では、触媒金属とNO吸蔵材との混合溶液を下流側の2/3の領域に全NO吸蔵材担持量の半分を1度含浸させた後に、残りの半分を担体の排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域(LNT用サポート材が形成された領域)にさらにもう1度含浸させた。これにより、NO吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO吸蔵材の割合を25.0質量%、LNT層に含まれるNO吸蔵材の割合を75.0質量%とした。
【0056】
また、実施例5では、触媒金属とNO吸蔵材との混合溶液を下流側の2/3の領域に全NO吸蔵材担持量の1/3の量を1度含浸させた後に、担体の排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域にさらに2度含浸して、残りの2/3の量を担持させた。これにより、NO吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO吸蔵材の割合を16.7質量%、LNT層に含まれるNO吸蔵材の割合を83.3質量%とした。
【0057】
また、実施例6では、触媒金属とNO吸蔵材との混合溶液を下流側の2/3の領域に全NO吸蔵材担持量の1/4の量を1度含浸させた後に、担体の排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域にさらに3度含浸して、残りの3/4の量を担持させた。これにより、NO吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO吸蔵材の割合を12.5質量%、LNT層に含まれるNO吸蔵材の割合を87.5質量%とした。このようにして、各実施例の混在層とLNT層とのNO吸蔵材の含有量を変えた。
【0058】
実施例1、4〜6及び比較例1の触媒に対して、上記と同様にHC浄化性能の測定試験を行い、その結果を図6に示す。
【0059】
図6に示すように、混在層におけるNO吸蔵材量を低くし、LNT層におけるNO吸蔵材量を高くすることにより、HC浄化率が向上することが示唆された。これは、混在層におけるNOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用が小さくなり、混在層においてもHC浄化性能を発揮されるためであると考えられる。
【0060】
また、実施例1、4〜6及び比較例1の触媒に対して、上記と同様にNO吸蔵性能の測定試験を行い、その結果を図7に示す。
【0061】
図7に示すように、実施例4が最もNO吸蔵性能が高く、実施例4よりも混在層におけるNO吸蔵材量を大きくする又は小さくするにつれて、NO吸蔵性能が低下する傾向がみられる。これは、混在層におけるNO吸蔵材の量が大きいと、ゼオライトとの相互作用によりNO吸蔵性能が低下し、逆に、混在層におけるNO吸蔵材の量が小さいと、NO吸蔵性能を発揮できる容量が少なくなるため、実施例4の質量比がバランスよく、最もNO吸蔵性能が高くなると考えられる。
【0062】
なお、上記実施例においては、ゼオライトとしてβ−ゼオライトを用いたが、これに限らずZSM−5を初めとするアルミノシリケート化合物等も用いることが可能である。
【0063】
以上の通り、本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法を用いると、高い酸化触媒性能及びNO吸蔵性能の両方を有する触媒を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 担体(セル壁)
2 DOC(酸化触媒)層
3 LNT(リーンNOトラップ)層
4 混在層
5 排気ガス通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7