【実施例】
【0034】
以下に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒を詳細に説明するための実施例を示す。本実施例では、セル壁の厚さが4.5mil(1.143×10
−1mm)であり、1平方インチ(645.16mm
2)当たりのセル数が400のコージェライト製六角セルハニカム担体(直径24.5mm、長さ50mm)を用いて、上記排気ガス浄化用触媒の製造方法により排気ガス浄化用触媒を調製した。その触媒に対して、HC浄化性能及びNO
x吸蔵性能を評価した。
【0035】
以下に、実施例1〜6及び比較例1に係る排気ガス浄化用触媒の構成について説明する。実施例1〜6において、DOC層の触媒成分の担持量は、100g/Lのゼオライト、60g/Lの活性アルミナ、40g/LのCe含有酸化物、1.6g/LのPt、0.8g/LのPdである。また、LNT層の触媒成分の担持量は、50g/Lの活性アルミナ、50g/LのCe含有酸化物、4.3g/LのPt、0.5g/LのRh、NO
x吸蔵材として30g/LのBa及び10g/LのSrである。ここで、Ce含有酸化物としては、Ce−Pr複合酸化物(質量比で、CeO
2:Pr
6O
11=90:10)を用い、ゼオライトとしては、β−ゼオライトを用いた。
【0036】
実施例1〜6において、各触媒粉末の調製における焼成、触媒粉末のコーティング後の焼成、及び触媒金属及びNO
x吸蔵材の含浸後の焼成は、いずれも大気中で行い、いずれも焼成温度を500℃、焼成時間を2時間とした。
【0037】
上記実施例のうち実施例1〜3は、それぞれ混在層の排ガス流れ方向の長さが異なる。具体的に実施例1では、ハニカム担体の排ガス流れ方向の長さを1としたとき、混在層の排ガス流れ方向の長さを1/3とし、実施例2では1/2とし、実施例3では7/12とした。
【0038】
一方、比較例1は、上記各実施例と比較して、DOC層とLNT層とが、ハニカム担体上において排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて形成されているのでなく、それらが層状に形成され、すなわちDOC層の上にLNT層が形成されている。具体的に、比較例1の触媒において、DOC層を上記各実施例と同様の方法で調製し、その構成成分の担持量は、上記各実施例と同様に100g/Lのゼオライト、60g/Lの活性アルミナ、40g/LのCe含有酸化物、1.6g/LのPt、0.8g/LのPdとした。但し、各実施例と異なり、粒度調整は行っておらず、DOC層をハニカム担体のセル壁上の上流側の1/2の領域でなく全面に設けた。また、上記各実施例と同様に50g/Lの活性アルミナ及び50g/LのCe含有酸化物によりLNT用サポート材を調製し、それをDOC層の上にコーティングした。その後、上記方法により、4.3g/LのPt、0.5g/LのRh、30g/LのBa及び10g/LのSrを含浸担持させた。但し、含浸はハニカム担体の下流側1/2の領域だけでなく、全体を含浸させた。これにより、比較例1の触媒であるDOC層とLNT層との2層構造の触媒を作製した。
【0039】
これらの実施例1〜3及び比較例1の触媒に対して行ったHC浄化性能の測定試験及びNO
x吸蔵量の測定試験とそれらの結果とについて、以下に説明する。
【0040】
HC浄化性能の測定試験において、まず、実施例1〜3及び比較例1の各ハニカム触媒に対して、O
2が2%、H
2Oが10%、残部がN
2のガス雰囲気において750℃の温度に24時間保持するエージング処理を行った。そのハニカム触媒をモデルガス流通反応装置に取り付け、ハニカム触媒にN
2ガスを流通させた状態で触媒入口ガス温度を100℃に保持し、次いでHC浄化性能評価用のモデルガスを導入した。
【0041】
モデルガス組成は、n−オクタンが600ppmC、エチレンが150ppmC、プロピレンが50ppmC、COが1500ppm、NOが30ppm、O
2が10%、H
2Oが10%、残部がN
2であり、空間速度は72000/hである。
【0042】
モデルガス導入開始後、2分を経過した時点から触媒入口ガス温度を上昇させていき、ハニカム触媒から流出するガスのトータルのHC濃度(THC)を測定した。その結果の一例を
図3に示す。
【0043】
モデルガスの導入開始から暫くは触媒温度が低いため、モデルガス中のHCがゼオライトに吸着される。そのため、流出ガスのTHCは、モデルガスのTHCである800ppmCよりも低い。そうして、触媒温度の上昇に伴ってゼオライトによるHCの吸着量が漸減する。触媒入口ガス温度が200℃近くになると、ゼオライトへのHCの吸着量よりHCの脱離量が多くなり、THCが急増して800ppmCよりも高くなる。触媒温度が上昇していくと、触媒が活性を呈するようになり、脱離するHCのDOC層による浄化が始まる。このため、THCが急減して800ppmCよりも低くなる。
【0044】
そうして、上記実施例1〜3及び比較例1の各ハニカム触媒の、モデルガス導入開始から当該ガス温度が300℃になるまでのHC浄化率を求めた。HC浄化率は、
図3に示すHCの吸着に伴うTHC低減量(A)とHCの浄化に伴うTHC低減量(B)との和から、HC脱離量(C)を差し引いて計算した。その結果を
図4に示す。
【0045】
図4に示すように、実施例1〜3及び比較例1の触媒のHC浄化率をみると、DOC層とLNT層とをハニカム担体の排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて配設し、それらの間に混在層を設けることにより、2層構造の比較例1と比較して、HC浄化率が高くなることがわかる。また、実施例1〜3を互いに比較すると、混在層の長さを長くするに従って、HC浄化率が低下する傾向が見られる。
【0046】
一方、NO
x吸蔵性能の測定試験においては、実施例1〜3及び比較例1の各ハニカム触媒に対して、上記HC浄化率測定の場合と同じエージング処理を行った後、ハニカム触媒をモデルガス流通反応装置に取り付けた。ハニカム触媒に空燃比リッチのモデルガスを流通させた状態で触媒入口ガス温度を200℃に保持し、該温度を保った状態で空燃比リーンのモデルガスに切り替え、このモデルガスの切替えから180秒間のNO
x吸蔵量を測定した。また、触媒入口ガス温度を250℃として、同様に空燃比リッチのモデルガスから空燃比リーンのモデルガスに切り替えてから180秒間のNO
x吸蔵量を測定した。
【0047】
リッチモデルガスの組成は、NOが220ppm、HCが3400ppmC、COが1.0%、O
2が0.5%、CO
2が6%、H
2Oが10%、残部がN
2である。リーンモデルガスの組成は、NOが220ppm、HCが400ppmC、COが0.15%、O
2が10%、CO
2が6%、H
2Oが10%、残部がN
2である。NO
x吸蔵性能の測定試験の結果を
図5に示す。
【0048】
図5に示すように、実施例1〜3及び比較例1の触媒のNO
x吸蔵量をみると、DOC層とLNT層とをハニカム担体の排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて配設し、それらの間に混在層を設けることにより、2層構造の比較例1と比較して、NO
x吸蔵量が高くなることがわかる。また、実施例1〜3を互いに比較すると、混在層の排ガス流れ方向の長さが最も長い実施例3が最もNO
x吸蔵量が低かった。
【0049】
以上の
図4のHC浄化率及び
図5のNO
x吸蔵量の結果から、実施例1〜3の触媒のように、DOC層とLNT層とをハニカム担体の排ガス流れ方向の上流側と下流側とに分けて配設し、それらの間に混在層を設けることにより、HC浄化性能及びNO
x吸蔵性能を向上できることが示唆された。これは、DOC層とLNT層との間に混在層が形成されて、DOC層にNO
x吸蔵材が混入する量が低減され、そのDOC層の触媒性能が低下することが抑制されたことによると考えられる。また、混在層の長さを長くすると、HC浄化性能及びNO
x吸蔵性能が低下しているが、これは、混在層を長くすることにより、DOC層及びLNT層のそれぞれの長さが短くなり、それらの性能が低下するためであると考えられる。
【0050】
次に、実施例1、4〜6及び比較例1の触媒に対して行ったHC浄化性能の測定試験及びNO
x吸蔵量の測定試験とそれらの結果とについて、以下に説明する。
【0051】
実施例1、4〜6は、互いに混在層とLNT層とに含まれるNO
x吸蔵材の質量比が異なる。それらの混在層及びLNT層におけるNO
x吸蔵材の質量比を表1に示す。表1では、触媒に含まれるNO
x吸蔵材の総質量を100質量%としたときの、混在層及びLNT層のそれぞれに含まれるNO
x吸蔵材の割合を示している。
【0052】
【表1】
【0053】
なお、実施例4〜6の触媒における混在層の排ガス流れ方向の長さは、実施例1と同一とした。また、各実施例において、NO
x吸蔵材の含浸回数を変えることにより混在層及びLNT層のNO
x吸蔵材の含有量に差異を与えた。
【0054】
具体的に、実施例1では、上記製造方法に従って、担体のセル壁の上における排ガス流れ方向の上流側の2/3の領域にDOC層を形成し、残りの1/3の領域にLNTサポート材を形成した後に、触媒金属とNO
x吸蔵材との混合溶液を、LNTサポート材及びDOC層が形成された担体の排ガス流れ方向の下流側の2/3の領域に1度含浸させた。これにより、NO
x吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を50.0質量%、LNT層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を50.0質量%とし、すなわち、混在層に含まれるNO
x吸蔵材とLNT層に含まれるNO
x吸蔵材との質量を同等とした。
【0055】
これに対して、実施例4では、触媒金属とNO
x吸蔵材との混合溶液を下流側の2/3の領域に全NO
x吸蔵材担持量の半分を1度含浸させた後に、残りの半分を担体の排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域(LNT用サポート材が形成された領域)にさらにもう1度含浸させた。これにより、NO
x吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を25.0質量%、LNT層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を75.0質量%とした。
【0056】
また、実施例5では、触媒金属とNO
x吸蔵材との混合溶液を下流側の2/3の領域に全NO
x吸蔵材担持量の1/3の量を1度含浸させた後に、担体の排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域にさらに2度含浸して、残りの2/3の量を担持させた。これにより、NO
x吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を16.7質量%、LNT層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を83.3質量%とした。
【0057】
また、実施例6では、触媒金属とNO
x吸蔵材との混合溶液を下流側の2/3の領域に全NO
x吸蔵材担持量の1/4の量を1度含浸させた後に、担体の排ガス流れ方向の下流側の1/3の領域にさらに3度含浸して、残りの3/4の量を担持させた。これにより、NO
x吸蔵材の総質量に対して、混在層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を12.5質量%、LNT層に含まれるNO
x吸蔵材の割合を87.5質量%とした。このようにして、各実施例の混在層とLNT層とのNO
x吸蔵材の含有量を変えた。
【0058】
実施例1、4〜6及び比較例1の触媒に対して、上記と同様にHC浄化性能の測定試験を行い、その結果を
図6に示す。
【0059】
図6に示すように、混在層におけるNO
x吸蔵材量を低くし、LNT層におけるNO
x吸蔵材量を高くすることにより、HC浄化率が向上することが示唆された。これは、混在層におけるNOx吸蔵材とゼオライトとの相互作用が小さくなり、混在層においてもHC浄化性能を発揮されるためであると考えられる。
【0060】
また、実施例1、4〜6及び比較例1の触媒に対して、上記と同様にNO
x吸蔵性能の測定試験を行い、その結果を
図7に示す。
【0061】
図7に示すように、実施例4が最もNO
x吸蔵性能が高く、実施例4よりも混在層におけるNO
x吸蔵材量を大きくする又は小さくするにつれて、NO
x吸蔵性能が低下する傾向がみられる。これは、混在層におけるNO
x吸蔵材の量が大きいと、ゼオライトとの相互作用によりNO
x吸蔵性能が低下し、逆に、混在層におけるNO
x吸蔵材の量が小さいと、NO
x吸蔵性能を発揮できる容量が少なくなるため、実施例4の質量比がバランスよく、最もNO
x吸蔵性能が高くなると考えられる。
【0062】
なお、上記実施例においては、ゼオライトとしてβ−ゼオライトを用いたが、これに限らずZSM−5を初めとするアルミノシリケート化合物等も用いることが可能である。
【0063】
以上の通り、本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法を用いると、高い酸化触媒性能及びNO
x吸蔵性能の両方を有する触媒を得ることができる。