特許第5954411号(P5954411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954411
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/18 20060101AFI20160707BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   F02B37/18 Z
   F02B39/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-510166(P2014-510166)
(86)(22)【出願日】2013年4月9日
(86)【国際出願番号】JP2013060670
(87)【国際公開番号】WO2013154084
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2014年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-88899(P2012-88899)
(32)【優先日】2012年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 裕明
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−192118(JP,A)
【文献】 特開2011−98356(JP,A)
【文献】 実開平6−43227(JP,U)
【文献】 特開平11−44219(JP,A)
【文献】 特開2007−120396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/18
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラが収容され、タービンスクロール流路を含むタービンハウジングと、
前記タービンハウジングに設けられ、前記タービンハウジングの側面から前記タービンスクロール流路に連通する導入孔と、
前記導入孔内に設けられ、排気マニホールドにおける排気ガスの排出孔を開閉するバルブであって、前記タービンハウジングに回転自在に支持されたステム、前記ステムが挿通される挿通孔、および、該挿通孔に連通し該ステムの外周面の一部を露出させる露出孔を有し、該露出孔において前記ステムに溶接される取付板、前記取付板に支持され、前記排出孔を開閉する弁体を有するバルブと、
前記露出孔において露出した前記ステムの外周面の一部を前記タービンハウジングの外部から視認可能となるように前記取付板の回転を規制する規制部と
を備え
同一視点から見た場合、前記規制部によって前記取付板の回転が規制された状態で、前記タービンハウジングの外部から視認可能となる前記ステムの外周面の面積は、前記バルブが全閉位置にあるときに前記タービンハウジングの外部から視認可能となる前記ステムの外周面の面積よりも大きいことを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記規制部は、前記バルブの全閉位置から全開位置までの、前記ステムを回転軸とする前記取付板の回転角度の範囲外において、前記取付板の回転を規制するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の過給機。
【請求項3】
前記規制部は、前記取付板に設けられた突起部で構成され、該突起部は、前記タービンハウジングと接触することで、前記取付板の回転を規制することを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機。
【請求項4】
前記規制部は、前記タービンハウジングに設けられた突出部で構成され、該突出部は、前記取付板と接触することで、前記取付板の回転を規制することを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機。
【請求項5】
前記規制部は、前記取付板に設けられた突起部と、前記タービンハウジングに設けられた突出部とで構成され、該突起部と該突出部とが接触することで、前記取付板の回転を規制することを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンスクロール流路の入り口にバルブを備える過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一端にタービンインペラが設けられ他端にコンプレッサインペラが設けられたタービン軸が、ベアリングハウジングに回転自在に保持された過給機が知られている。こうした過給機をエンジンに接続し、エンジンから排出される排気ガスによってタービンインペラを回転させるとともに、このタービンインペラの回転によって、タービン軸を介してコンプレッサインペラを回転させる。こうして、過給機は、コンプレッサインペラの回転に伴い空気を圧縮してエンジンに過給する。
【0003】
このような過給機の過給特性を向上するため、特許文献1に記載のように、低圧段過給機および高圧段過給機が連設された多段式過給機や、特許文献2に記載のように、排気ガスをタービンインペラに導くタービンスクロール流路を2つに分割したツインスクロール型過給機などが開発されている。
【0004】
多段式過給機においては、エンジンが低回転で排気ガスの流量が少ないとき、排気ガスの大半は、小容量である高圧段過給機で効率的にエネルギー変換された後、低圧段過給機に流入する。一方、エンジンが高回転で排気ガスの流量が多いときは、排気ガスの大半は、小容量である高圧段過給機を通らず、大容量である低圧段過給機に直接流入することで、エンジンの背圧の上昇が回避される。
【0005】
また、ツインスクロール型過給機では、エンジンが低回転で排気ガスの流量が少ないとき、2分割されたうち一方のタービンスクロール流路に排気ガスを流通させ、エンジンが高回転で排気ガスの流量が多いときは、両方のタービンスクロール流路に排気ガスを流通させる。こうすることで、特に、エンジンの低回転時における過給機のレスポンスと回転トルクを向上できる。
【0006】
このようにエンジン出力に応じて排気ガスの流路を切り換えるため、過給機には、タービンスクロール流路の入り口にバルブが設けられる。バルブは、エンジンの排気マニホールド側に設けられたシート面に当接することで、その排気マニホールドの出口を閉塞し、後段に配されたタービンスクロール流路に排気ガスが流入するのを遮断する。このバルブの開度によって、多段式過給機であれば、高圧段過給機に流入する排気ガスの流量が調整され、ツインスクロール型過給機であれば、一方のタービンスクロール流路に流入する排気ガスの流量と、他方のタービンスクロール流路に流入する排気ガスの流量とが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−270715号公報
【特許文献2】特開2007−192118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、排気マニホールドからタービンスクロール流路への排気ガスの流量を調整するバルブを備えた過給機においては、バルブを過給機に取り付けるにあたって、バルブの取付角度の精度が要求される。このとき、バルブが閉じた状態、すなわち、バルブがシート面を閉塞した状態でバルブを取り付けることができれば、取付角度の精度、すなわち、位置決め精度を高めることができる。しかしながら、排気マニホールドの開口(周縁)がシート面となる構成では、排気マニホールドを過給機に連結しないと、バルブをシート面に当接させることができない。
【0009】
一方、排気マニホールドを過給機に連結してしまうと、バルブが排気マニホールドで隠れてしまい、バルブの取り付け作業を行うことができない。そのため、過給機にバルブを取り付ける工程では、角度調整のための作業が煩雑化してしまうという実態がある。
【0010】
本発明の目的は、タービンインペラへの排気ガスの流入量を調整するバルブの取り付け作業を、高精度かつ容易に遂行させることができる過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は過給機であって、タービンインペラが収容され、タービンスクロール流路を含むタービンハウジングと、前記タービンハウジングに設けられ、前記タービンハウジングの側面から前記タービンスクロール流路に連通する導入孔と、前記導入孔内に設けられ、排気マニホールドにおける排気ガスの排出孔を開閉するバルブであって、前記タービンハウジングに回転自在に支持されたステム、前記ステムが挿通される挿通孔、および、該挿通孔に連通し該ステムの外周面の一部を露出させる露出孔を有し、該露出孔において前記ステムに溶接される取付板、前記取付板に支持され、前記排出孔を開閉する弁体を有するバルブと、前記露出孔において露出した前記ステムの外周面の一部を前記タービンハウジングの外部から視認可能となるように前記取付板の回転を規制する規制部とを備え、同一視点から見た場合、前記規制部によって前記取付板の回転が規制された状態で、前記タービンハウジングの外部から視認可能となる前記ステムの外周面の面積は、前記バルブが全閉位置にあるときに前記タービンハウジングの外部から視認可能となる前記ステムの外周面の面積よりも大きいことを要旨とする。
【0012】
前記規制部は、前記バルブの全閉位置から全開位置までの、前記ステムを回転軸とする前記取付板の回転角度の範囲外において、前記取付板の回転を規制するように設けられてもよい。
【0014】
前記規制部は、前記取付板に設けられた突起部で構成され、該突起部は、前記タービンハウジングと接触することで、前記取付板の回転を規制してもよい。
【0015】
前記規制部は、前記タービンハウジングに設けられた突出部で構成され、該突出部は、前記取付板と接触することで、前記取付板の回転を規制してもよい。
【0016】
前記規制部は、前記取付板に設けられた突起部と、前記タービンハウジングに設けられた突出部とで構成され、該突起部と該突出部とが接触することで、前記取付板の回転を規制してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タービンインペラへの排気ガスの流入量を調整するバルブの取り付け作業を、高精度かつ容易に遂行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、過給機の概略断面図である。
図2図2(a)及び図2(b)は、タービンスクロール流路の入り口に配された、全開状態のバルブを説明するための説明図である。
図3図3は、導入孔内の取付板のステム近傍の部分拡大図である。
図4図4(a)及び図4(b)は、タービンスクロール流路の入り口に配された、全閉状態のバルブを説明するための説明図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、タービンスクロール流路の入り口に配された、運転時におけるステムの回転角度の範囲外まで回転したバルブを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、過給機Cの概略断面図である。以下では、図1に示す矢印F方向を過給機Cの前側とし、矢印R方向を過給機Cの後側として説明する。図1に示すように、過給機Cは、過給機本体1を備える。過給機本体1は、ベアリングハウジング2と、ベアリングハウジング2の前側に締結ボルト3によって連結されるタービンハウジング4と、ベアリングハウジング2の後側に締結ボルト5によって連結されるコンプレッサハウジング6と、が一体化されて形成されている。
【0021】
ベアリングハウジング2には、過給機Cの前後方向に貫通する軸受孔2aが形成されている。この軸受孔2aに、タービン軸7が軸受を介して回転自在に支持されている。タービン軸7の前端部(一端)にはタービンインペラ8が一体的に固定されている。タービンインペラ8は、タービンハウジング4内に回転自在に収容されている。また、タービン軸7の後端部(他端)にはコンプレッサインペラ9が一体的に固定されている。コンプレッサインペラ9は、コンプレッサハウジング6内に回転自在に収容されている。
【0022】
コンプレッサハウジング6には吸気口10が形成されている。吸気口10は、過給機Cの後側に開口し、不図示のエアクリーナに接続される。また、締結ボルト5によってベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6とが連結された状態では、これら両ハウジング2、6の対向面によって、空気を圧縮して昇圧するディフューザ流路11が形成される。ディフューザ流路11は、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向における内側から外側に向けて延伸するように、且つ、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の中心軸の周りに環状に形成されている。また、ディフューザ流路11は、タービン軸7の径方向における内側において、コンプレッサインペラ9を収容する空間を介して吸気口10に連通している。
【0023】
コンプレッサハウジング6には、コンプレッサスクロール流路12が設けられている。コンプレッサスクロール流路12は、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の中心軸の周りに環状に形成され、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向において、ディフューザ流路11の外側に位置する。コンプレッサスクロール流路12は、不図示のエンジンの吸気口と連通し、且つ、ディフューザ流路11にも連通している。したがって、コンプレッサインペラ9が回転すると、吸気口10からコンプレッサハウジング6内に流体が吸気される。また、吸気された流体は、ディフューザ流路11およびコンプレッサスクロール流路12で昇圧されてエンジンの吸気口に導かれる。
【0024】
タービンハウジング4には、過給機Cの前側に開口するとともに不図示の排気ガス浄化装置に接続される吐出口13が形成されている。また、タービンハウジング4には、流路14と、この流路14よりもタービン軸7(タービンインペラ8)の径方向外側に位置する環状のタービンスクロール流路15とが設けられている。タービンスクロール流路15は、不図示のエンジンの排気マニホールドから排出される排気ガスが導かれる不図示のガス流入口と連通するとともに、上記の流路14にも連通している。したがって、ガス流入口からタービンスクロール流路15に導かれた排気ガスは、流路14およびタービンインペラ8を介して吐出口13に導かれるとともに、その流通過程においてタービンインペラ8を回転させることとなる。そして、上記のタービンインペラ8の回転力は、タービン軸7を介してコンプレッサインペラ9に伝達されることとなり、コンプレッサインペラ9の回転力によって、上記のとおりに、流体が昇圧されてエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0025】
本実施形態の過給機Cは、直列型の多段式過給機の低圧段過給機を構成する。過給機Cは、タービンスクロール流路15の入り口に設けられるバルブを有する。このバルブは、低圧段過給機および高圧段過給機それぞれへ流入するエンジンの排気ガスの流量を調整する。以下、このバルブ近傍の構成について詳述する。
【0026】
図2(a)及び図2(b)は、タービンスクロール流路15の入り口に配された、全開状態のバルブ20の全開状態を説明するための説明図であり、図2(a)には過給機Cの斜視図を示し、図2(b)には過給機Cの側面図を示す。ただし、図2(a)及び図2(b)においては、理解を容易とするため、タービンハウジング4側のみを抽出して示し、ベアリングハウジング2およびコンプレッサハウジング6側は図示を省略する。
【0027】
図2(a)及び図2(b)に示すように、タービンハウジング4の側面には、フランジ面4aが設けられている。このフランジ面4aは、過給機Cとエンジンの接続時において、エンジンの排気マニホールドに設けられたフランジ面と面接触可能に構成されており、両面が面接触した状態で、タービンハウジング4と排気マニホールドは、ボルト穴4bを介してボルト締めされる。
【0028】
フランジ面4aには、タービンハウジング4の他のフランジ面4cまで貫通する貫通孔4dが設けられている。フランジ面4cは、当該過給機Cと、不図示の高圧段過給機の接続時において、高圧段過給機のタービンハウジングに設けられたフランジ面と面接触可能に構成されており、両面が面接触した状態で、過給機Cと高圧段過給機のタービンハウジング同士が、ボルト穴4eを介してボルト締めされる。
【0029】
フランジ面4aには、さらに、タービンスクロール流路15に連通する導入孔4fが配される。過給機Cと排気マニホールドとが接続された状態では、排気マニホールドにおける不図示の2つの排出孔それぞれに、貫通孔4dおよび導入孔4fが連通する。したがって、排気マニホールドの排出孔から排出される排気ガスは、貫通孔4dを介して、フランジ面4cに接続された高圧段過給機のタービンスクロール流路に導かれるとともに、導入孔4fを介して、過給機Cのタービンスクロール流路15に導かれることとなる。
【0030】
また、導入孔4f内には、排気マニホールドにおける排出孔を開閉するバルブ20が設けられている。バルブ20は、ステム21と、取付板22と、弁体23とを備える。
【0031】
図3は、導入孔4f内のステム21近傍の部分拡大図である。ただし、図3では、理解を容易とするため、取付板22のうち、露出孔22b近傍のみを抽出して示す。
【0032】
ステム21は、リンク板(後述)24の回転に伴って取付板22及び弁体23を排気マニホールドの排出孔に接近、或いは、当該排出孔から離間させるためのロッド(棒状体)である。図3に示すように、ステム21は、タービンハウジング4に軸受4gを介して回転自在に支持される。取付板22は板状部材であり、ステム21が挿通される挿通孔22a、および、挿通孔22aに連通し、ステム21の外周面の一部を露出させる露出孔22bを有する。また、図2(a)に示すように、弁体23は取付板22に支持され、排気マニホールドの排出孔を開閉する。なお、図2(a)に示すように、取付板22において、弁体23を支持する部分は、排気マニホールドの排出孔の開口方向に合わせて、ステム21と連結する部分に対し屈曲していてもよい。
【0033】
取付板22と弁体23は、例えば、溶接などで互いに固定されている。また、ステム21は、取付板22の挿通孔22aに挿通された状態で、露出孔22bにトーチなどを近接させて溶接する。こうして、弁体23は、取付板22を介してステム21と一体に回転する。
【0034】
図2(a)及び図2(b)に示すように、ステム21の一端は、リンク板24の固定孔24aに挿通された状態で固定される。リンク板24の連設孔24bには、アクチュエータのロッドに固定されて当該ロッドと連動する不図示の連動部材が回転自在に挿通されている。
【0035】
リンク板24は、ロッドを介したアクチュエータの駆動により、ステム21を回転中心に回転し、その回転に応じて、ステム21が回転する。そして、ステム21の回転に合わせて、取付板22を介して、弁体23が開閉する。
【0036】
多段式過給機においては、エンジンが低回転で排気ガスの流量が少ないとき、排気ガスの大半は、小容量である高圧段過給機で効率的にエネルギー変換された後、低圧段過給機に流入する。一方、エンジンが高回転で排気ガスの流量が多いときは、排気ガスの大半は、小容量である高圧段過給機を通らず、大容量である低圧段過給機に直接流入することで、エンジンの背圧の上昇が回避される。
【0037】
バルブ20は、エンジンの排気マニホールド側に設けられた排出孔のシート面に弁体23が当接することで、当該排気孔の出口を閉塞し、タービンスクロール流路15に排気ガスが流入するのを遮断する。これにより、エンジンから排出される排気ガスは、その全てが、排気マニホールドから過給機Cの貫通孔4dを介して、高圧段過給機に導かれることとなる。このように、バルブ20の開度を調整することによって、過給機Cに流入する排気ガスの流量と、高圧段過給機に流入する排気ガスの流量とが調整される。
【0038】
次に、バルブ20の取り付け工程について詳述する。まず、取付板22が導入孔4f内に配された状態で、取付板22の挿通孔22aと軸受4gにステム21が挿通される。そして、ステム21のうち、タービンハウジング4の外側に突出した端部に、リンク板24の固定孔24aが挿通される。さらに、ステム21を中心とするリンク板24の回転位置を治具などで規制し、リンク板24がステム21と溶接される。その後、取付板22が、露出孔22bにおいてステム21と溶接される。以下、溶接処理が容易となるバルブ20の位置を説明する。
【0039】
図2(a)及び図2(b)においては、バルブ20が全開となっており、過給機Cとエンジンの接続時においても、弁体23は、排気マニホールドの排出孔を閉塞しない位置にある。
【0040】
図4(a)及び図4(b)は、タービンスクロール流路15の入り口に配された、全閉状態のバルブ20を説明するための説明図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、バルブ20が全閉位置にある場合、露出孔22bの一部がタービンハウジング4に隠れており、ステム21と取付板22との溶接時に、トーチを露出孔22bに近接させられず、溶接が困難となってしまう。また、図2(a)及び図2(b)に示したように、バルブ20が全開位置にあっても、露出孔22bとタービンハウジング4との隙間が狭く溶接が難しい。
【0041】
図5(a)及び図5(b)は、タービンスクロール流路15の入り口に配された、運転時におけるステム21の回転角度の範囲外まで回転したバルブ20を説明するための説明図である。これらの図は、運転時におけるステム21(取付板22)の回転角度の範囲外まで、バルブ20が回転した状態の過給機Cを示している。
【0042】
図5(a)及び図5(b)に示すように、バルブ20が全開したときの位置よりも当該バルブ20が導入孔4fの内側に位置する場合、取付板22の露出孔22bはタービンハウジング4に隠れず、タービンハウジング4の外側からアクセス可能な位置に位置する。その結果、ステム21と取付板22との溶接作業が容易になる。すなわち、全閉位置から全開位置までの、ステム21を回転軸とする取付板22の回転角度の範囲(以下、作動回転角範囲と称する)の外までバルブ20を回転させることで、ステム21と取付板22との溶接は容易になる。なお、作動回転角範囲内の角度は、バルブ20の開度を規定することになる。
【0043】
本実施形態においては、過給機Cに規制部25が設けられている。規制部25は、取付板22の回転を規制し、且つ、取付板22を溶接作業が容易となる角度(以下、保持角度と称する)に保持する。この保持角度は作動回転角範囲外に設定され、且つ、リンク板24がバルブ20を全閉にする位置まで回転したときに、弁体23による排気孔の閉塞(換言すればシート面への弁体23の当接)が得られる値に設定される。
【0044】
図3に示すように、規制部25は、取付板22に設けられた突起部25aと、タービンハウジング4に設けられた突出部25bで構成される。突起部25aは、取付板22の挿通孔22a及び露出孔22bが形成される部分に設けられ、精密鋳造法、焼結法、金属粉末射出成形法などを用いて取付板22と一体的に形成される。具体的には、突起部25aは、挿通孔22aの開口部の縁に一体的に設けられ、導入孔4fの内壁に向けて突出するように形成されている。また、図3に示すように、突起部25aは開口部の縁に沿って、挿通孔22aと同心の円弧状に形成してもよい。この場合、取付板22の回転角度に関わらず、突起部25aと導入孔4fの内壁と距離が一定になるため、突起部25aと導入孔4fの内壁との干渉を極力回避できる。一方、突出部25bは導入孔4fの内壁から、取付板22に向けて突出するように形成されている。突出部25bは、取付板22が保持角度まで回転したときに、突起部25aの一部に接触する部分(ステージ、当接面)を有する。すなわち、突起部25aが突出部25bに接触することで、作動回転角範囲の外において、取付板22の回転を規制する。例えば、取付板22が図5に示す位置に到達した場合、突起部25aと突出部25bは互いに、図3に示すように当接する。この状態において、取付板22は保持角度以上に、導入孔4fの内側に向かって回転できなくなる。なお、突起部25aと突出部25bの各当接面は、例えば機械加工によって、面接触できるように平面状に形成されてもよい。この場合、取付板22を安定に位置決めすることができる。さらに、突起部25aの当接面は、フランジ面4aと平行であってもよい。この場合、突起部25aの機械加工が容易になると共に、その当接面の加工後の検査(例えば、傾斜度等の品質検査)が容易になる。
【0045】
規制部25が取付板22の回転を規制した状態、すなわち、取付板22の位置決めがなされた状態において、露出孔22bは外部からのアクセス可能な位置に保持される。従って、ステム21と取付板22を容易に溶接することができる。また、バルブ20が開いた位置で取付板22とステム21を溶接するので、弁体23と導入孔4fの内壁との間の空間が広がる。従って、弁体23による溶接機のトーチへの干渉が避けやすくなり、溶接作業をより容易に行うことができる。
【0046】
上述のように本実施形態の過給機Cは規制部25を有する。したがって、シート面を用いたバルブ20の全閉位置の位置決めができない当該バルブ20の溶接処理において、規制部25によって確実かつ容易に、溶接時のバルブ20の位置決めが可能となる。また、溶接後のバルブ20の開閉時の位置精度が向上する。さらに、当該溶接処理において、露出孔22bがタービンハウジング4に隠れず、且つ、十分な作業空間を確保できるため、作業性が向上する。
【0047】
露出孔22bは、タービンハウジング4の外部からステム21の外周面を視認可能に配されている。同一視点からみた場合、規制部25によって取付板22の回転が規制された状態で、タービンハウジング4の外部から視認可能となるステム21の外周面の面積は、バルブ20が全閉位置にあるときにタービンハウジング4の外部から視認可能となるステム21の外周面の面積よりも大きい。
【0048】
そのため、本実施形態の過給機Cは、規制部25によって取付板22の回転が規制された状態、すなわち、位置決めされた状態において、溶接部分の視認性が高く、溶接時の作業性が向上する。
【0049】
上述した実施形態では、ステム21とリンク板24を溶接した後、ステム21と取付板22を溶接する場合について説明した。しかしながら、ステム21と取付板22を溶接した後、ステム21とリンク板24を溶接してもよい。この場合であっても、規制部25によって取付板22の位置決めがなされた状態において、ステム21と取付板22を溶接し、その後で、治具で回転位置が規制された状態のリンク板24をステム21と溶接することで、溶接後のバルブ20の開閉時の位置精度を高めることが可能となる。
【0050】
また、上述した実施形態では、規制部25は、突起部25a、突出部25bで構成されている。しかし、規制部25は、取付板22に設けられた突起部25aのみで構成されてもよい。この場合、突起部25aは、タービンハウジング4との接触によって、取付板22の回転を規制するように形成される。また、規制部25は、タービンハウジング4に設けられた突出部25bのみで構成されてもよい。この場合、突出部25bは、取付板22との接触によって、取付板22の回転を規制するように形成される。
【0051】
規制部を突起部25aのみ、または突出部25bのみで構成する場合であっても、バルブ20の溶接処理において、規制部によって位置決めを行うことができ、溶接処理の精度および作業性が向上する。
【0052】
さらに、規制部25の配置場所は、図3に示す位置に限定されない。例えば、規制部25は、取付板22の保持角度を作動回転角範囲内に規定するように設けられてもよい。この場合、少なくとも突出部25bは導入孔4fの内壁に着脱可能に設置され、ステム21と取付板22との溶接後は、取付板22の回転への干渉を回避するために導入孔4fの内壁から取り外される。
【0053】
また、上述した実施形態では、過給機Cが、多段式過給機の低圧段過給機であって、規制部25を利用して溶接処理を行う対象のバルブ20が、低圧段過給機と高圧段過給機に流入する排気ガスの流量を調整するバルブである場合について説明した。しかし、過給機Cは、ツインスクロール型過給機であって、規制部25を利用して溶接処理を行う対象のバルブが、一方のタービンスクロール流路に流入する排気ガスと、他方のタービンスクロール流路に流入する排気ガスとの流量を調整するバルブであってもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、エンジンの排気マニホールドに低圧段と高圧段の過給機が直列に接続される直列型の多段式過給機に関し、過給機Cが低圧段過給機を構成する場合について説明した。しかし、過給機Cは、並列型の多段式過給機を構成する過給機であってもよい。並列型の多段式過給機は、エンジンの排気マニホールドに複数の過給機が並列に接続されるものである。いずれの過給機であっても、バルブの弁体が当接するシート面が、タービンハウジング4に設けられていない場合、上述した規制部25を設ける構成によって、溶接時の作業性が向上する。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、タービンスクロール流路の入り口にバルブを備える過給機に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5