特許第5954441号(P5954441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5954441強化繊維織物基材、プリフォームおよび繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954441
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】強化繊維織物基材、プリフォームおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   C08J5/24CFC
【請求項の数】20
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-559009(P2014-559009)
(86)(22)【出願日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2014080011
(87)【国際公開番号】WO2015079917
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-247203(P2013-247203)
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-265056(P2013-265056)
(32)【優先日】2013年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平野 公則
(72)【発明者】
【氏名】富岡 伸之
(72)【発明者】
【氏名】本田 史郎
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材であって、硬化触媒[B]が有機リン化合物、イミダゾール、またはこれらのいずれかの誘導体から選ばれる少なくとも1つの硬化触媒であり、硬化触媒[B]は、熱硬化性樹脂[A]100質量部に対して2〜20質量部含まれ、該強化繊維織物基材を積層して加熱温度Tで成形したプリフォーム層間の加熱温度Tにおける接着強度が0.5N/25mm以上となる加熱温度Tが80〜180℃の範囲に存在する強化繊維織物基材。
【請求項2】
熱硬化性樹脂[A]が2官能エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の強化繊維織物基材。
【請求項3】
2官能エポキシ樹脂が固形2官能エポキシ樹脂であり、熱硬化性樹脂[A]が多官能エポキシ樹脂をさらに含む、請求項2に記載の強化繊維織物基材。
【請求項4】
熱硬化性樹脂[A]100質量部中に、固形2官能エポキシ樹脂が20〜80質量部、多官能エポキシ樹脂が20〜80質量部含まれる、請求項3に記載の強化繊維織物基材。
【請求項5】
多官能エポキシ樹脂が固形多官能エポキシ樹脂である、請求項3または4に記載の強化繊維織物基材。
【請求項6】
2官能エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項2〜5のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項7】
多官能エポキシ樹脂が非グリシジルアミン型エポキシ樹脂である、請求項3〜5のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項8】
前記バインダーのガラス転移温度が40〜80℃である、請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項9】
前記バインダーは、80〜180℃の範囲の加熱温度Tで1〜30分の加熱時間tの間加熱した際に、tの時間内に、最低粘度が10〜10,000Pa・sの範囲内となった後、10,000,000Pa・s以上の粘度になるまで硬化が進行する加熱温度Tと加熱時間tの組み合わせが存在する、請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項10】
バインダーの目付けが1g/mの場合における前記接着強度が、バインダーの目付けが4g/mの場合における前記接着強度の60%以上となる、請求項1〜9のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項11】
バインダーが粒子形態を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項12】
バインダーの平均粒子径が50〜300μmである、請求項11に記載の強化繊維織物基材。
【請求項13】
バインダーの平均粒子径の粒子径分布指数が1〜1.8の範囲にある、請求項11または12に記載の強化繊維織物基材。
【請求項14】
強化繊維織物を構成する強化繊維ストランドのフィラメント数n[本]と強化繊維織物の糸目付けW[g/m]が次の(1)式を満たす、請求項1〜13のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
0≦W−0.011n≦160 ・・・(1)
【請求項15】
強化繊維織物を構成する強化繊維ストランドのフィラメント数n[本]と強化繊維織物の糸目付けW[g/m]が次の(2)式を満たす、請求項1〜13のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
0≦W−0.011n≦140 ・・・(2)
【請求項16】
強化繊維ストランドが炭素繊維ストランドである、請求項1〜15のいずれかに記載の強化繊維織物基材。
【請求項17】
強化繊維織物基材に含まれるバインダーとして用いる樹脂組成物の使用であって、前記強化繊維織物基材が請求項1〜16のいずれかに記載の強化繊維織物基材である、樹脂組成物の使用。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の強化繊維織物基材を複数枚積層し、形態を固定してなるプリフォーム。
【請求項19】
強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材を複数枚積層した後、80〜180℃の加熱温度Tで1〜30分の加熱時間tの間加熱することにより、tの時間内に、バインダーを、10〜10,000Pa・sの範囲内の最低粘度とした後、10,000,000Pa・s以上の粘度になるまで硬化せしめてプリフォームを得るプリフォームの製造方法。
【請求項20】
請求項18に記載のプリフォームに液状熱硬化性樹脂を含浸させ、硬化させてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーを付与した強化繊維織物基材、およびそれを用いたプリフォーム、繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を生かした材料設計が出来るため、航空宇宙分野を始め、スポーツ分野、一般産業分野などに用途が拡大されている。
【0003】
強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維などが用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などに硬化剤または硬化触媒を加えた樹脂組成物が用いられる。
【0004】
繊維強化複合材料は様々な方法で製造されるが、金型などの型(以下、繊維強化複合材料を成形するための型を成形型と称する)内に配置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂(マトリックス樹脂)を注入し、加熱硬化して繊維強化複合材料を得るRTM(Resin Transfer Molding)法が、低コスト生産性に優れた方法として注目されている。
【0005】
RTM法で繊維強化複合材料を製造する場合、強化繊維基材を所望の製品と近い形状に加工したプリフォームを予め作製し、このプリフォームを成形型内に設置して液状マトリックス樹脂を注入することが多い。
【0006】
プリフォームの作製方法には、強化繊維から三次元ブレイドを作製する方法や、強化繊維織物を積層してステッチする方法など、いくつかの方法が知られているが、汎用性の高い方法として、ホットメルト性のバインダー(タッキファイヤー)を用いて強化繊維織物などのシート状基材を積層し、プリフォーム成形用の型(以下、プリフォーム型と称する)を用いて賦形する方法が知られている。
【0007】
バインダーを用いて賦形するプリフォームの作製方法の場合、続いて注入する液状マトリックス樹脂の強化繊維基材への含浸がバインダーにより阻害される傾向があった。バインダーの使用量に応じて含浸性は変化し、バインダー使用量が少ない程優れたマトリックス樹脂の含浸性が得られる。しかし、一方でバインダー使用量が減少するとプリフォームにおいてシート状基材層間の接着強度が低下し、プリフォームの形状保持性が不十分となってしまう。このため、バインダー量を低減しても十分な形状保持性が得られ、液状マトリックス樹脂の含浸性に優れた、バインダーを付与した強化繊維基材が強く求められる。
【0008】
特許文献1には、熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂からなり、強化繊維との密着性に優れた樹脂組成物をバインダーとして使用する手法が開示されている。この樹脂組成物をバインダーに用いてプリフォームを作製する場合、熱可塑性のバインダーであるため接着性が低く、バインダー量を低減した場合にプリフォームの形状保持性が十分でなくなる。また、プリフォームを作製する場合に、プリフォーム型を昇温しバインダーを一旦溶融させ織物基材同士を密着させた後、プリフォーム型を冷却しバインダーを固化させる必要がある。
【0009】
一方、特許文献2には、バインダーとして液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂にエチルトリフェニルホスホニウム酢酸などの触媒を組み合わせた硬化反応性を有する樹脂組成物を用い、斯かるバインダーを加熱により一部硬化させることで、得られたプリフォームの剥離強度を高めることのできるバインダー用の樹脂組成物が開示されている。ただし、この場合、剥離強度が向上することを示しているが、バインダー量を十分に低減させることができていない。また、この技術では、プリフォーム時の加熱状態ではバインダーが軟化した状態であるため、プリフォーム型から形状を保持したプリフォームを取り出すために、やはり冷却が必要である。
【0010】
また、特許文献3に示すように、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物に熱硬化性を付与したバインダー用の樹脂組成物が開示されている。ただし、これを成形して得られる繊維強化複合材料は、層間靱性が大きく向上しているものの、やはりバインダー量を十分に低減させることはできていない。また、この技術でも、形状を保持したプリフォームを取り出すために、冷却が必要である。
【0011】
特許文献4には、エマルジョン状のバインダーを強化繊維に被覆した形態とすることにより、粉末バインダーを使用した場合に比較して、使用量を減らすことができる強化繊維基材が開示されている。しかし、この強化繊維基材に用いるバインダーも熱可塑性のバインダーであるため接着性が低く、バインダー量の低減に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−194456号公報
【特許文献2】特表平8−509921号公報
【特許文献3】特表2001−524171号公報
【特許文献4】特開2012−251044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、斯かる従来技術の欠点を改良し、プリフォーム型の昇降温を必要とせず、プリフォームが十分な形状保持性を有しながらもバインダーの使用量を低減することができ、液状マトリックス樹脂の含浸性および繊維強化複合材料とした時の意匠性に優れるバインダー用樹脂組成物、強化繊維織物基材、プリフォーム、繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る強化繊維織物基材は、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材であって、硬化触媒[B]が有機リン化合物、イミダゾール、またはこれらのいずれかの誘導体から選ばれる少なくとも1つの硬化触媒であり、硬化触媒[B]は、熱硬化性樹脂[A]100質量部に対して2〜20質量部含まれ、該強化繊維織物基材を積層して加熱温度Tで成形したプリフォーム層間の加熱温度Tにおける接着強度が0.5N/25mm以上となる加熱温度Tが80〜180℃の範囲に存在するものである。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の樹脂組成物は、前記強化繊維織物基材に有するバインダーに用いるものであり、本発明の樹脂組成物の使用は、強化繊維織物基材に含まれるバインダーとして用いる樹脂組成物の使用であって、その強化繊維織物基材が、前記した本発明の強化繊維織物基材であるものである。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明のプリフォームは、前記した強化繊維織物基材を複数枚積層し、形態を固定してなるものである。
また、上記課題を解決するために、本発明のプリフォームの製造方法は、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材を複数枚積層した後、80〜180℃の加熱温度Tで1〜30分の加熱時間tの間加熱することにより、tの時間内に、バインダーを、10〜10,000Pa・sの範囲内の最低粘度とした後、10,000,000Pa・s以上の粘度になるまで硬化せしめてプリフォームを得る。
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、前記のプリフォームに液状熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、硬化させてなるものである。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明のプリフォームの製造方法は、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材を複数枚積層した後、80〜180℃の加熱温度Tで1〜30分の加熱時間tの間加熱することにより、tの時間内に、バインダーを、10〜10,000Pa・sの範囲内の最低粘度とした後、10,000,000Pa・s以上の粘度になるまで硬化せしめてプリフォームを得る。
【0018】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、前記のプリフォーム、または前記の方法で製造されたプリフォームに液状熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、硬化させてなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プリフォーム型の昇降温を必要とせず、バインダー使用量を低減した強化繊維織物基材により、十分な形状保持性を有するプリフォームが作製できるとともに、優れたマトリックス樹脂含浸性を発揮し、繊維強化複合材料とした時の意匠性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。
【0021】
本発明に係る強化繊維織物基材は、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材であって、該強化繊維織物基材を積層して加熱温度Tで成形したプリフォーム層間の加熱温度Tにおける接着強度が0.5N/25mm以上となる加熱温度Tが80〜180℃の範囲に存在する強化繊維織物基材である。
【0022】
本発明におけるバインダーは、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を組み合わせた樹脂組成物で構成することにより、プリフォーム成形時の加熱で熱硬化性樹脂[A]の硬化反応が短時間で進行し、硬化による強靭化によって強化繊維織物に対する優れた接着性を有する。また、硬化によりバインダーのガラス転移温度がプリフォーム成形時の加熱温度を超えることにより、プリフォーム型の冷却を必要とせずにプリフォームの取出しが可能となる。なお、以降単に「接着性」と記した場合には、バインダーの強化繊維織物に対する接着性をいうものとする。
【0023】
本発明における熱硬化性樹脂[A]は、加熱により硬化反応が進行し架橋構造を形成する樹脂材料であり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが使用できる。
【0024】
本発明における熱硬化性樹脂[A]は、接着性、取り扱い性の観点から前述の中でもエポキシ樹脂を含むものであることが好ましく、エポキシ樹脂が主成分であることがより好ましい。ここでエポキシ樹脂が熱硬化性樹脂[A]の主成分であるとは、エポキシ樹脂が熱硬化性樹脂[A]の中の60質量%以上を占めていることをいい、80質量%以上を占めていればより好ましい。
【0025】
エポキシ樹脂とは、1分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を意味する。斯かるエポキシ樹脂はエポキシ基を有する化合物1種類のみからなるものでも良く、複数種の混合物であっても良い。
【0026】
エポキシ樹脂の具体例としては、水酸基を複数有するフェノール化合物から得られる芳香族グリシジルエーテル、水酸基を複数有するアルコール化合物から得られる脂肪族グリシジルエーテル、アミン化合物から得られるグリシジルアミン、カルボキシル基を複数有するカルボン酸化合物から得られるグリシジルエステルなどのエポキシ基をグリシジル基の一部として有するエポキシ樹脂や、シクロヘキセンなどの不飽和脂環化合物を酸化することにより得られるオキシラン環を構造中に含むエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
本発明における熱硬化性樹脂[A]は、エポキシ樹脂の中でも接着性に優れることから、2官能エポキシ樹脂を含むことが好ましい。2官能エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂1分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のことである。2官能エポキシ樹脂を用いると、バインダーを硬化した後の架橋密度が過度に高くならないため、優れた接着性が得られる。
【0028】
2官能エポキシ樹脂の中でも、硬化反応性、ライフ、靱性、耐熱性のバランスに優れること、および、フロー調整の観点から、固形2官能エポキシ樹脂を含むことが好ましい。固形2官能エポキシ樹脂とは、ガラス転移温度が20℃以上で常温において流動性がなく、エポキシ樹脂1分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のことである。ここで、常温とは25℃を指す(以下同じ)。
【0029】
なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121:1987に従って、示差走査熱量測定(DSC)により求めたものをいう。上記規格に用いうる測定装置としては、例えばPyris1 DSC(Perkin Elmer製)が挙げられる。ガラス転移温度の測定を行う試料をアルミサンプルパンに採取し、窒素雰囲気下において、40℃/minの昇温速度で測定を行う。こうして得られるDSC曲線におけるベースラインが吸熱側にシフトする領域の変位の中間点をガラス転移温度として採用する。
【0030】
また、2官能エポキシ樹脂として、2官能ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが、硬化反応性、ライフ、靱性、耐熱性のバランスに優れること、および、フロー調整の観点からより好ましい。2官能ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、およびそれらのアルキル置換体、ハロゲン置換体、水素添加物などが使用できるが、これらに限定されるものではない。中でも、硬化反応性、ライフ、靱性、耐熱性のバランスに優れるビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に使用できる。
【0031】
本発明における熱硬化性樹脂[A]は、固形2官能エポキシ樹脂を含むことに加えて、多官能エポキシ樹脂をさらに含むことが好ましい。
【0032】
固形2官能エポキシ樹脂に、多官能エポキシ樹脂を組み合わせることにより、高速硬化性や耐熱性を高めることができる。耐熱性の向上により、高い加熱温度領域でのプリフォームに対応することが可能である。ここで、多官能エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂1分子内に2個を超えるエポキシ基を有するエポキシ樹脂のことである。
【0033】
多官能エポキシ樹脂の中でも、硬化反応性、ライフ、靱性のバランスに優れること、および、フロー調整の観点から、固形多官能エポキシ樹脂を含むことが好ましい。固形多官能エポキシ樹脂とは、ガラス転移温度が20℃以上で常温において流動性がなく、エポキシ樹脂1分子内に2個を超えるエポキシ基を有するエポキシ樹脂のことである。
【0034】
多官能エポキシ樹脂は、グリシジルアミン型多官能エポキシ樹脂と非グリシジルアミン型多官能エポキシ樹脂に大別できる。
【0035】
グリシジルアミン型多官能エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらの構造異性体、ハロゲン、アルキル置換体、およびそれらの水素添加物などが挙げられる。
【0036】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ”(登録商標)ELM434(住友化学工業(株)製)、YH434L(新日鉄住金化学(株)製)、“jER”(登録商標)604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド”(登録商標)MY720、“アラルダイド”(登録商標)MY721(以上、ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ製)などを使用することができる。
【0037】
トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ”(登録商標)ELM100、“スミエポキシ”(登録商標)ELM120(以上、住友化学工業(株)製)、“アラルダイド”(登録商標)MY0500、“アラルダイド”(登録商標)MY0510、“アラルダイド”(登録商標)MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ製)、“jER”(登録商標)630(三菱化学(株)製)などを使用することができる。
【0038】
テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加物の市販品としては、“TETRAD”(登録商標)−X、“TETRAD”(登録商標)−C(以上、三菱ガス化学(株)製)などを使用することができる。
【0039】
非グリシジルアミン型多官能エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂の他、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER”(登録商標)152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン”(登録商標)N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0041】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン”(登録商標)N−660、N−665、N−670、N−680、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S(以上、日本化薬(株)製)、YDCN−700、YDCN−701(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
【0042】
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては“Tactix”(登録商標)742(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ製)、EPPN−501H、EPPN−502H(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0043】
テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂の市販品としては“jER”(登録商標)1031(三菱化学(株)製)、GTR1800(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0044】
フェノールアラルキル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC2000シリーズ(日本化薬(株)製)、NC7000シリーズ(日本化薬(株)製)、NC3000シリーズ(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0045】
ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC7300シリーズ(日本化薬(株)製)、ESN−165、ESN−175、ESN−185、ESN−195(以上、新日鉄住金化学(株)製)、NC3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0046】
ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン”(登録商標)HP−7200シリーズ(DIC(株)製)、XD−1000シリーズ(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0047】
本発明における熱硬化性樹脂[A]は、多官能エポキシ樹脂の中でも、保管安定性、靭性の観点から非グリシジルアミン型多官能エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0048】
本発明における熱硬化性樹脂[A]は耐熱性、硬化速度、靭性のバランスの観点から、熱硬化性樹脂[A]100質量部中に、固形2官能エポキシ樹脂を20〜80質量部、多官能エポキシ樹脂を20〜80質量部含むことが好ましい。
【0049】
熱硬化性樹脂[A]100質量部中における固形2官能エポキシ樹脂の含有量が20質量部よりも少ない場合、硬化後の靭性が不足しやすいとともに、バインダーのガラス転移温度が不足しやすく保管安定性が低下する場合がある。一方、熱硬化性樹脂[A]100質量部中における固形2官能エポキシ樹脂の含有量が80質量部よりも多い場合、耐熱性が不足しやすく、高い加熱温度領域でのプリフォーム成形の際に脱型性が不十分になる(すなわち、プリフォーム型を降温しなければ脱型できない)場合がある。
【0050】
熱硬化性樹脂[A]100質量部中における多官能エポキシ樹脂の含有量が20質量部よりも少ない場合、バインダーの耐熱性が不足しやすく、プリフォーム成形する際の脱型性が不十分になるとともに、高速硬化性が低下するため生産性が低下する場合がある。一方、熱硬化性樹脂[A]100質量部中における多官能エポキシ樹脂の含有量が80質量部よりも多い場合、バインダーの靭性が低下しやすく、接着強度が不足する場合がある。
【0051】
本発明における硬化触媒[B]は、熱硬化性樹脂[A]の単独硬化反応および硬化剤との結合形成による硬化反応を速やかに円滑にする目的で含まれる。
【0052】
本発明における硬化触媒[B]の具体例としては、有機リン化合物およびその誘導体、三級アミン化合物およびその塩類、イミダゾールおよびその誘導体、四級アンモニウム塩類、有機金属化合物類、金属ハロゲン化物、ジメチルウレイド基を有する化合物が挙げられる。
【0053】
有機リン化合物の具体例としては、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられる。
【0054】
三級アミン化合物およびその塩類の具体例としては、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンのフェノール塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンのフタル酸塩、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、3−ジメチルアミノプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、3−ジブチルアミノプロピルアミン、2−ジエチルアミノエチルアミン、1−ジエチルアミノ−4−アミノペンタン、N−(3−アミノプロピル)−N−メチルプロパンジアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、3−(3−ジメチルアミノプロピル)プロピルアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、4−(2−アミノエチル)モルホリン、4−(3−アミノプロピル)モルホリンなどが挙げられる。
【0055】
イミダゾールおよびその誘導体の具体例としては、イミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、イミダゾールとエポキシ化合物のアダクト体などが挙げられる。
【0056】
四級アンモニウム塩類の具体例としては、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0057】
有機金属化合物類の具体例としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体などが挙げられる。
【0058】
金属ハロゲン化物の具体例としては、三ふっ化ホウ素、トリフェニルボレートなどのホウ素化合物、塩化亜鉛、塩化第二錫などが挙げられる。
【0059】
ジメチルウレイド基を有する化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネートとジメチルアミンとから得られるジメチルウレア、m−キシリレンジイソシアネートとジメチルアミンとから得られるジメチルウレア、およびヘキサメチレンジイソシアネートとジメチルアミンとから得られるジメチルウレアなどの脂肪族ジメチルウレア、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−フェニル−1,1−ジメチルウレア、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、2,4−トリレンビス(1,1−ジメチルウレア)、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、1,1−ジメチル−3−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]ウレアなどの芳香族ジメチルウレアが挙げられる。
【0060】
本発明における硬化触媒[B]は、取扱性や加熱温度領域での高速硬化性の観点から、有機リン化合物、イミダゾール、またはこれらのいずれかの誘導体から選ばれる少なくとも1つの硬化触媒が好ましく用いられる。
【0061】
本発明における硬化触媒[B]は、熱硬化性樹脂[A]100質量部に対して2〜20質量部含まれることが好ましい。熱硬化性樹脂[A]100質量部に対する硬化触媒[B]の含有量が2質量部よりも少ない場合、硬化反応性が低く、十分な接着強度を得られるまでに時間がかかり、生産性が低下する場合がある。一方、熱硬化性樹脂[A]100質量部に対する硬化触媒[B]の含有量が20質量部よりも多い場合、硬化反応性が高くなりすぎるため取り扱い性が低下する場合がある。
【0062】
本発明におけるバインダーには、硬化剤を配合することができる。硬化剤は、熱硬化性樹脂と結合し、三次元網目構造を形成することにより樹脂を硬化させる成分であり、エポキシ樹脂を例に挙げるとエポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物である。硬化剤としては、アミン系、フェノール系、酸無水物系、メルカプタン系の硬化剤に大別される。それぞれ、具体的には、アミン系としてジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、脂肪族アミン、アミノ安息香酸エステル類、チオ尿素付加アミン、ヒドラジドなどが挙げられ、フェノール系としてビスフェノール、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物などが挙げられ、酸無水物系として無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、カルボン酸無水物などが挙げられ、メルカプタン系としてポリメルカプタン、ポリスルフィド樹脂などが挙げられる。
【0063】
また、常温付近での保管安定性とプリフォーム成形時の成形温度での硬化反応性の両立の観点で、前記硬化触媒および硬化剤として温度潜在性の硬化触媒および硬化剤を使用することは好ましい態様である。温度潜在性の硬化触媒および硬化剤としては、常温付近ではエポキシ樹脂に対する溶解度の低い固体分散−加熱硬化型と、高い反応性を有する官能基を反応性の低い官能基でブロックした反応性基ブロック型に大別される。固体分散−加熱硬化型としては脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン、ジヒドラジド化合物、アミンアダクト、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられ、反応性基ブロック型としてはオニウム塩、ハロゲン化ホウ素・アミン錯体、ビニルエーテルブロックカルボン酸などが挙げられる。また、温度潜在性の硬化触媒および硬化剤としては、イミダゾール類、有機リン化合物などの表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型硬化触媒および硬化剤も使用することができる。
【0064】
本発明におけるバインダーは、プリフォーム成形時のフロー適正化や靭性向上に伴い接着強度を向上する目的で熱可塑性樹脂を含むことができる。
【0065】
本発明に使用することができる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾール、ポリウレタン、尿素樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアルコールおよびフェノキシ樹脂などが具体的に挙げられる。
【0066】
中でも、主鎖に水酸基を有するポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂などが熱可塑性樹脂として好適に使用できる。熱可塑性樹脂が主鎖に水酸基を有することにより、強化繊維織物との接着強度が向上するとともに、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する効果が得られる場合がある。
【0067】
また、本発明におけるバインダーには、熱可塑性樹脂の他にも成形時のフローを適正化、接着強度および寸法安定性を付与するなどの目的で、エラストマーあるいは粒子などのフィラー成分を配合することができる。中でも、エポキシ樹脂に可溶性のゴム粒子および有機粒子や、無機フィラーなどを好適に配合することができる。
【0068】
本発明におけるバインダーは、ガラス転移温度が40〜80℃であることが好ましい。
【0069】
ガラス転移温度が40℃よりも低い場合、成形時に粘度が低くなりすぎ、フローが大きくなるため固着が不十分となるとともに、保管安定性に問題が生じる場合がある。一方、ガラス転移温度が80℃を超える場合、バインダーの溶融に高温が必要となり、接着強度が不十分となる場合や、プリフォーム型からの脱型性が不十分になる場合がある。
【0070】
本発明におけるバインダーは、80〜180℃の範囲の加熱温度Tで1〜30分の範囲の加熱時間tの間加熱した際に、tの時間内に、最低粘度が10〜10,000Pa・sの範囲内になった後、10,000,000Pa・s以上の粘度となるまで硬化が進む加熱温度Tと加熱時間tの組み合わせが存在するものであることが好ましい。また、同条件で加熱した際に、tの時間内に、最低粘度が100〜5,000Pa・sの範囲内となった後、10,000,000Pa・s以上の粘度となるまで硬化が進む加熱温度Tと加熱時間tの組み合わせが存在するものであることがより好ましい。
【0071】
ここで、加熱温度Tは、プリフォームを成形する際の温度を想定して設定されたものであり、バインダーを硬化して固化させ得る温度である。斯かる加熱温度Tは、バインダーの硬化性および接着強度の観点から80〜180℃の範囲であることが好ましく、90〜130℃の範囲であることがより好ましい。加熱温度Tが80℃に満たない温度領域でしか採り得ないということは、プリフォーム成形時の温度を80℃に満たない範囲でしか設定できないバインダーであるということを示し、斯かる場合、常温でのバインダーの硬化反応性が高く、取り扱い性が低下する場合がある。一方、加熱温度Tが180℃を越える温度領域でしか採り得ないということは、プリフォーム成形時の温度を180℃を越える範囲でしか設定できないバインダーであるということを示し、斯かる場合、バインダーを硬化反応させた物の架橋密度が高くなるため接着強度が低下する。
【0072】
加熱時間tは、プリフォームを成形する際の時間を想定して設定されたものであり、バインダーを硬化反応して固化させるのに要する時間である。斯かる加熱時間tは、1〜30分の範囲にあることが好ましく、1〜20分の範囲にあることがより好ましい。加熱時間tが1分よりも短い領域でしか採り得ないということは、プリフォーム成形時に加熱する時間を1分に満たない範囲でしか設定できないバインダーであるということを示し、斯かる場合、加熱後すぐにバインダーが硬化するため、強化繊維織物基材をプリフォーム型の形状に完全に沿わせることが困難となる場合がある。一方、加熱時間tが30分よりも長い領域でしか採り得ないということは、プリフォーム成形時に加熱する時間を30分を越える範囲でしか設定できないバインダーであるということを示し、斯かる場合、プリフォーム成形に要する時間が長くなるため生産性が低下する。
【0073】
前記した加熱条件で、バインダーが10〜10,000Pa・sの範囲内の最低粘度になることで、バインダーは強化繊維織物に対する濡れが適した状態となり、プリフォームの接着強度を高めることに有効である。斯かる最低粘度が10Pa・sより低くなる場合、溶融したバインダーが強化繊維織物に過剰に浸透して接着強度が不十分となる場合があり、10,000Pa・sより大きくなる場合、強化繊維織物への濡れが不十分となり接着強度が不十分となる場合がある。
【0074】
前記した加熱条件で、バインダーが10,000,000Pa・s以上の粘度となるまで硬化が進行することは、バインダーが硬化してガラス状態となっていることを表し、ガラス状態となることで一定温度に加熱されたプリフォーム型からプリフォーム形状を保持した状態で、プリフォームの取り出しができるようになる。
【0075】
ここでいう粘度とは、熱硬化測定装置(たとえば、Alpha Technologies社製ATD−1000)を使用して、80〜180℃の範囲の加熱温度Tで一定温度に保持して測定を行った複素粘性率ηのことを指している。
【0076】
本発明におけるバインダーは、プリフォーム成形までのプロセスにおいて、硬化反応が進行しにくい、すなわち熱安定性が高いことが好ましい。プリフォーム成形前までのプロセスにおいて硬化反応が進行し過ぎた場合、プリフォーム成形の際、バインダーが十分に溶融せず、得られたプリフォームの各層間の接着強度が低下する場合がある。
【0077】
本発明におけるバインダーは、予備反応させることにより一部に熱硬化性樹脂の予備反応生成物を含むものとすることができ、それによりバインダーのガラス転移温度を高めることができる。ここでいう予備反応させるとは、バインダー中の熱硬化性樹脂の一部の硬化反応を進行させることをいう。これによりバインダーのガラス転移温度が上昇し、保管安定性が向上する場合がある。また、予備反応により、バインダーのプリフォーム成形時の加熱によるフローが抑制されるため、接着強度および品位が向上する場合がある。バインダーの予備反応は樹脂調製時に行ってもよく、強化繊維織物に散布した後に行ってもよい。
【0078】
本発明におけるバインダーは、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に付着させて用いられる。表面に付着させる場合の付着量としては、片面または両面に、強化繊維織物一層当たり0.1g/m〜4g/mの目付けである必要があり、0.5g/m〜3g/mの目付けであることが好ましい。付着量が0.1g/mよりも少ない目付けである場合、プリフォームの形状保持性が悪く、4g/mよりも多い目付けである場合、マトリックス樹脂の含浸性が乏しくなり、成形した繊維強化複合材料の力学特性や生産性が低下する場合がある。
【0079】
本発明におけるバインダーの形態としては、特に限定されるものではないが、フィルム、テープ、長繊維、短繊維、紡績糸、織物、ニット、不織布、網状体、粒子などを採用することができる。中でも、粒子形態が特に好適に使用できる。なお、粒子形態のバインダーを、以下、バインダー粒子という場合もある。
【0080】
バインダーとして粒子形態を採用する場合、その平均粒子径は50〜300μmであることが好ましく、80〜200μmであることがより好ましい。ここで平均粒子径は体積平均粒子径を指し、バインダー粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折型粒度分布計などを用いて測定することができる。平均粒子径が50μmよりも小さい場合は、溶融したバインダー樹脂が繊維に過剰に浸透して接着強度が不十分となる場合がある。平均粒子径が300μmよりも大きい場合は、プリフォームとした時に接着面積が低下して接着強度が不十分となる場合や、強化繊維にうねりが生じて繊維強化複合材料の力学特性および意匠性が低下すると言った問題が生じる場合がある。
【0081】
また、バインダー粒子は粒子径分布指数が1〜1.8であることが好ましく、1〜1.5であることがより好ましい。粒子径分布指数が1.8を超える場合、粒子径分布が広くなり、強化繊維織物基材表面に有するバインダー粒子の内、より小さな粒子が接着に対し寄与しなくなることで、接着強度が不十分となる傾向がある。
【0082】
斯かる粒子径分布指数は、粒子直径の値を、下記数値変換式に基づき、決定されるものである。
【0083】
【数1】
【0084】
尚、Di:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数とする。
【0085】
本発明で用いる強化繊維織物は強化繊維ストランドから構成される。強化繊維ストランドとしては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維など、あるいはこれらを組合せたもののストランドが使用できる。中でも、炭素繊維ストランドは軽量性や強度に優れているため好適に用いることができる。
【0086】
一般的に、強化繊維には、短繊維と連続繊維があるが、高体積含有率(以降、高Vfと記す)の繊維強化複合材料を得るために本発明では連続繊維を用いる。
【0087】
一般的に、強化繊維基材には、強化繊維をマット、織物、ニット、ブレイド、一方向シートなどの形態に加工したものがあるが、本発明においては、高Vfの繊維強化複合材料が得やすく、かつ取扱い性に優れることから、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物を用いる。
【0088】
本発明において、強化繊維織物を構成する強化繊維ストランドのフィラメント数n[本]と強化繊維織物の糸目付けW[g/m]が次の(1)式を満たすことが好ましく、次の(2)式を満たすことがより好ましい。
0≦W−0.011n≦160 ・・・(1)
0≦W−0.011n≦140 ・・・(2)
【0089】
強化繊維織物を構成する強化繊維ストランドのフィラメント数は強化繊維織物の交錯点の数と関係する。ストランドのフィラメント数が小さいと強化繊維織物の交錯点が多くなりやすく、液状マトリックス樹脂の含浸性が低下する場合や、繊維強化複合材料の力学特性に劣る場合がある。
【0090】
強化繊維織物の糸目付けは、強化繊維織物1m当たりの質量[g]であり、小さすぎる場合に成形した繊維強化複合材料の力学特性に劣る場合がある。
【0091】
さらに、(1)式による条件は、強化繊維織物を構成するストランドのフィラメント数n[本]と、強化繊維織物の糸目付けW[g/m]の関係により、ストランドの扁平性を表した条件である。ストランドのフィラメント数が大きく、糸目付けが小さいほど、強化繊維織物の扁平性は大きくなる。
【0092】
強化繊維織物を構成するストランドのフィラメント数n[本]と強化繊維織物の糸目付けW[g/m]の組み合わせにおいて、(1)式におけるW−0.011nの値が160よりも大きくなる場合、すなわち、ストランドの扁平性が不足する場合、強化繊維織物の交錯点が多くなりやすく、バインダーを粒子形状とした場合、バインダー粒子が交錯点に集まりやすくなるため、プリフォーム層間の接着強度に劣る場合があるとともに、得られる繊維強化複合材料の力学特性が低下しやすい。一方、(1)式におけるW−0.011nの値が0よりも小さくなる場合、すなわちストランドの扁平性が過剰な場合、強化繊維織物の取り扱いが難しくなりやすい。
【0093】
強化繊維織物における織組織としては、平織り、朱子織り、綾織り、ノンクリンプクロスなどが適宜選択できるが、クリア塗装により織り目を意匠面に見せる場合には、平織りや綾織りを用いると意匠性が高くなる。また、朱子織りや綾織りの織布はドレープ性が良いため、奥行きの深さが深い三次元形状を賦形する場合に好適に使用される。
【0094】
強化繊維織物の見かけ体積に対する、強化繊維の正味の体積の比を織物の充填率とする。織物の充填率は、強化繊維織物の糸目付けW(単位:g/m)、強化繊維織物の厚みt(単位:mm)、強化繊維の密度ρf(単位:g/cm)からW/(1000t・ρf)の式により求められる。織物の糸目付けと厚みはJIS R 7602:1995に準拠して求められる。織物の充填率が高い方が高Vfの繊維強化複合材料を得やすいため、織物の充填率は、0.10〜0.85、好ましくは0.40〜0.85、より好ましくは0.50〜0.85の範囲内であることが好ましい。
【0095】
本発明の強化繊維織物基材は、強化繊維織物基材を積層して加熱温度Tで成形したプリフォーム層間の加熱温度Tにおける接着強度が0.5N/25mm以上となる加熱温度Tが80〜180℃の範囲に存在する必要がある。
【0096】
加熱温度Tは前記したように、プリフォームを成形する際の温度を想定して設定されたものであり、バインダーを硬化して固化させ得る温度である。80〜180℃の範囲の中のいずれかの加熱温度Tでプリフォーム層間の接着強度が0.5N/25mm以上となる必要がある。
【0097】
プリフォーム成形時の加熱温度Tにおけるプリフォーム層間の接着強度が0.5N/25mmより小さくなる場合、一定温度でプリフォームを成形するために加熱温度Tに加熱された状態のプリフォーム型から、プリフォームを取り出した時に層間が剥離しやすく、プリフォームの形状保持性が不十分となる場合がある。一方、プリフォーム層間の接着強度が高くなりすぎ、5N/25mmより大きくなる場合、層間へのマトリックス樹脂の含浸性が低下する場合がある。
【0098】
プリフォーム層間の接着強度は次のようにして測定できる。少なくとも表面にバインダーを有する強化繊維織物基材を基材の裏表が同一の向きとなるように2枚重ね、50kPaの圧力を加えながら、80〜180℃の範囲の中のいずれかの加熱温度で、バインダーが硬化するまでの時間(30分を超える場合は30分間)、加熱することにより評価用プリフォームを作製する。ここで、バインダーが硬化するまでの時間は、前記した粘度測定方法により別途バインダーを測定することにより得られる。評価用プリフォームを長さ150mm(接着部分は端から100mm、反対側の端から50mmは接着しない)、幅25mmにカットして試験片を作製する。その試験片を用いて、強化繊維織物基材層間の剥離試験をJIS K 6854:1977に従って行い接着強度を求める。
【0099】
80〜180℃の範囲の中のある加熱温度における接着強度が所定の範囲でない場合には、80〜180℃の範囲の中の別の加熱温度で同様に測定を行って、接着強度が所定の範囲となる加熱温度が80〜180℃の範囲に存在するかを確かめることができる。
【0100】
また、バインダーの目付けが1g/mである場合における前記接着強度が、バインダーの目付けが4g/mである場合における前記接着強度の60%以上となることが好ましい。
【0101】
通常、プリフォーム層間の接着強度はバインダーの目付けに対して比例関係で変動する傾向がある。これは、プリフォーム層間の剥離が、層間を接着しているバインダーが破壊されることにより起こるためである。
【0102】
しかし、本発明のバインダーを表面に有する強化繊維織物基材では、プリフォーム成形時にバインダーが硬化し、強靭化することによりプリフォーム層間のバインダーが破壊されにくく、プリフォーム層間の剥離が強化繊維織物基材の目ズレに起因して起こる場合がある。この場合、バインダーの目付けによる影響が小さく、バインダー目付けを低減してもプリフォーム層間の接着強度の減少を低く抑えられる。
【0103】
バインダーの目付けが1g/mである場合における前記接着強度が、バインダーの目付けが4g/mである場合における前記接着強度の60%未満となる場合、バインダーの目付けが小さい場合に強化繊維織物基材表面のバインダー目付けムラによって、成形したプリフォーム層間の接着強度が不十分となる領域が出る場合があり、プリフォームの形状を保持できない場合がある。
【0104】
前記した強化繊維織物基材に有するバインダーに用いる樹脂組成物が、本発明の効果を奏する上で大きく寄与する。
【0105】
本発明のプリフォームは、前記した強化繊維織物基材を複数枚積層し、形態を固定してなる。強化繊維織物基材は、その少なくとも片面の少なくとも表面にバインダーを有しており、これをバインダーが少なくとも各積層層間に有するように複数枚積層して、積層体を得る。これを加熱することによりバインダーが一旦溶融して強化繊維織物基材同士を接着させた後に、バインダーが硬化し、基材間を固着させることにより形態が固定されて、バインダーを少なくとも積層層間に有するプリフォームが得られる。通常、本発明のプリフォームは、強化繊維織物基材を所定の形状に切り出し、プリフォーム型の上で積層し、適切な熱と圧力を加えて作製することができる。加圧の手段はプレスを用いることもできるし、真空バッグフィルムで囲って内部を真空ポンプで吸引して大気圧により加圧する方法を用いることもできる。
【0106】
本発明のプリフォームの製造方法について、さらに詳しく説明する。本発明のプリフォームの製造方法では、強化繊維ストランドから構成される強化繊維織物の少なくとも表面に、熱硬化性樹脂[A]および硬化触媒[B]を含むバインダーを目付け0.1g/m〜4g/mとして有する強化繊維織物基材を複数枚積層した後、80〜180℃の加熱温度Tで1〜30分の加熱時間tの間加熱することにより、tの時間内に、バインダーを、10〜10,000Pa・sの範囲内の最低粘度とした後、10,000,000Pa・s以上の粘度になるまで硬化せしめてプリフォームを得る。
【0107】
加熱温度Tを80℃よりも低い温度としてプリフォームを製造した場合、バインダーの硬化が不十分となる場合があり、優れた接着強度を得ることが難しい。一方、加熱温度Tを180℃よりも高い温度とした場合、バインダーを硬化反応させた物の架橋密度が高くなるため接着強度が低くなる場合がある。
【0108】
加熱時間tを1分よりも短くした場合、バインダーの硬化が不十分となりやすいため、プリフォームの接着強度が不十分となる場合がある。一方、加熱時間tを30分よりも長くした場合、プリフォーム成形サイクルの時間が長くなるため生産性が低下する。
【0109】
本発明のプリフォームは、積層層間に有するバインダーの目付けが小さいため、マトリックス樹脂の含浸性に優れるものであり、成形した繊維強化複合材料の意匠性や力学特性に優れる。
【0110】
また、本発明のプリフォームは、成形時の温度を実質的に一定温度とした場合でも、脱型性に優れ、高い寸法精度が得られる。なお、成形時の温度を実質的に一定温度とすることにより、プリフォーム型を昇降温させる時間が不要となるため、プリフォーム成形に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。なお実質的に一定温度とは、通常±5℃以内の温度変動のことを言う。
【0111】
本発明のプリフォームに液状のマトリックス樹脂を含浸させ、マトリックス樹脂を硬化させることにより、繊維強化複合材料を作製することができる。マトリックス樹脂の硬化に際し、通常、バインダーの硬化もさらに進む。
【0112】
本発明における繊維強化複合材料の作製方法は特に限定されるものではないが、ハンドレイアップ法、RTM法などの、2液型樹脂を用いる成形方法が好適に用いられる。これらのうち、生産性や成形体の形状自由度といった観点で、特にRTM法が好適に用いられる。RTM法とは、成形型内に配置した強化繊維基材に液状マトリックス樹脂を注入して含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得るものである。
【0113】
液状マトリックス樹脂は、主にモノマー成分からなる液状樹脂とモノマー成分を三次元架橋させてポリマー化する硬化剤あるいは硬化触媒を含む。
【0114】
マトリックス樹脂としては、本発明で用いるバインダーの硬化反応性や相溶性などの点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0115】
エポキシ樹脂の具体例としては、水酸基を複数有するフェノールから得られる芳香族グリシジルエーテル、水酸基を複数有するアルコールから得られる脂肪族グリシジルエーテル、アミンから得られるグリシジルアミン、カルボキシル基を複数有するカルボン酸から得られるグリシジルエステル、オキシラン環を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0116】
硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、イミダゾール、ルイス酸錯体などが適しており、目的用途により適宜選択して用いる。
【0117】
マトリックス樹脂の注入の後に、加熱硬化を行う。加熱硬化時の成形型の温度は、マトリックス樹脂の注入時における成形型の温度と同じでも良いが、低温での硬化の場合、脱型の際に繊維強化複合材料が変形しない程度の剛性が得られるまで硬化を進めるのに時間がかかる場合があるため、注入時の成形型の温度より高い温度を選ぶことが好ましく、例えば60〜180℃の範囲が好ましい。
【0118】
繊維強化複合材料が高い比強度、あるいは比弾性率をもつためには、その繊維体積含有率Vfが、40〜85%、好ましくは45〜85%の範囲内であることが好ましい。なお、ここで言う、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfとは、ASTM D3171(1999)に準拠して、以下により定義され、測定される値であり、強化繊維織物基材に対して液状マトリックス樹脂を注入、硬化した後の状態でのものをいう。すなわち、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfの測定は、繊維強化複合材料の厚みhから、下記(式1)を用いて表すことができる。
繊維体積含有率Vf(%)=(Af×N)/(ρf×h)/10
・・・(式1)
Af:強化繊維織物基材1枚・1m当たりの質量(g/m
N:強化繊維織物基材の積層枚数(枚)
ρf:強化繊維の密度(g/cm
h:繊維強化複合材料(試験片)の厚み(mm)。
【0119】
なお、強化繊維織物基材1枚・1m当たりの質量Afや、強化繊維織物基材の積層枚数N、強化繊維の密度ρfが明らかでない場合は、JIS K 7075:1991に基づく燃焼法もしくは硝酸分解法、硫酸分解法のいずれかにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を測定する。この場合に用いる強化繊維の密度は、JIS R 7603:1999に基づき測定した値を用いる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0121】
1.樹脂原料
各実施例のバインダーを得るために、以下の樹脂原料を用いた。なお、表1、2の樹脂組成物の含有割合の単位は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
【0122】
エポキシ樹脂
・“jER”(登録商標)806(三菱化学(株)製):液状2官能ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量165
・“jER”(登録商標)1001(三菱化学(株)製):固形2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量475、ガラス転移温度35℃
・“jER”(登録商標)1004(三菱化学(株)製):固形2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量975、ガラス転移温度60℃
・“スミエポキシ”(登録商標)ELM434(住友化学(株)製):テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、エポキシ当量120、液状
・“EPICLON”(登録商標)N−775(DIC(株)製):固形フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量190、ガラス転移温度45℃
【0123】
ベンゾオキサジン樹脂
・P−d型ベンゾオキサジン樹脂(四国化成工業(株)製):固形P−d型ベンゾオキサジン樹脂、分子量434、軟化点75℃
熱可塑性樹脂
・“GRILAMID”(登録商標)TR−55(エムスケミー・ジャパン(株)製):ポリアミド
【0124】
硬化剤
・“jERキュア”(登録商標)DICY7(三菱化学(株)製):ジシアンジアミド微粉砕物(融点:210℃)
【0125】
硬化触媒
・“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ(四国化成工業(株)製):2−エチル−4メチルイミダゾール
・“キュアゾール”(登録商標)1,2−DMZ(四国化成工業(株)製):1,2−ジメチルイミダゾール
・“フジキュアー”(登録商標)FXR-1020((株)T&K TOKA製):
変性ポリアミン
・“オミキュア”(登録商標)24(PTIジャパン(株)製):2,4−トリレンビス(1,1−ジメチルウレア)
・DY9577(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ(株)製):三塩化ホウ素オクチルアミン錯体
【0126】
2.炭素繊維織物
・PAN系炭素繊維T700S−24K−50C(東レ(株)製)を使用し、平織り構造で糸目付け330g/mとして製織した炭素繊維織物(充填率0.54、織物厚み0.34mm、強化繊維密度1.80g/cm
・PAN系炭素繊維T300B−3K−40C(東レ(株)製)を使用し、平織り構造で糸目付け190g/mとして製織した炭素繊維織物(充填率0.40、織物厚み0.27mm、強化繊維密度1.76g/cm
・PAN系炭素繊維T700S−48K−50C(東レ(株)製)を使用し、平織り構造で糸目付け640g/mとして製織した炭素繊維織物(充填率0.38、織物厚み0.94mm、強化繊維密度1.80g/cm
・PAN系炭素繊維T700S−24K−50C(東レ(株)製)を使用し、平織り構造で糸目付け280g/mとして製織した炭素繊維織物(充填率0.54、織物厚み0.29mm、強化繊維密度1.80g/cm
・PAN系炭素繊維T300B−6K−40C(東レ(株)製)を使用し、平織り構造で糸目付け317g/mとして製織した炭素繊維織物(充填率0.60、織物厚み0.30mm、強化繊維密度1.76g/cm
・PAN系炭素繊維T700S−12K−50C(東レ(株)製)を使用し、平織り構造で糸目付け480g/mとして製織した炭素繊維織物(充填率0.44、織物厚み0.61mm、強化繊維密度1.80g/cm
【0127】
3.バインダーの調製
表1、2に記載した原料と配合比で熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化剤、硬化触媒を硬化反応が実質的に進まない温度/時間条件にて加熱攪拌により均一に混合して樹脂組成物を調整し、それをバインダーとして用いた。
【0128】
4.バインダー粒子の作製
バインダーとして調製した樹脂組成物をハンマーミル(PULVERIZER、ホソカワミクロン(株)製)にて、孔サイズ1mmのスクリーンを使用し、液体窒素を用いて凍結粉砕して粒子を得た。斯かる粒子を目開きサイズ45、75、150、212、300μmの篩いに通すことで粒子径、粒子径分散指数を制御したバインダー粒子を得た。
【0129】
5.バインダー粒子の平均粒子径測定
レーザー解析・散乱式粒子径・粒度分布測定装置MT3300II(日機装(株)製)を用い、取り込み回数500回で測定した。
【0130】
6.バインダーの最低粘度測定
作製したバインダー粒子の最低粘度を熱硬化測定装置ATD−1000(Alpha Technologies(株)製)を用いて測定した。バインダー粒子約5gを装置にセットし、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hz、測定アングル1%で表1、2に示す加熱温度にて加熱した時の最低粘度を測定した。
【0131】
7.バインダーのガラス転移温度測定
作製したバインダー粒子を試料として、JIS K 7121:1987に従って、示差走査熱量計(DSC)を用いて中間点ガラス転移温度を測定した。測定装置にはPyris1 DSC(Perkin Elmer製)を使用した。アルミニウム製のサンプルパンに5〜10mgの試料を採取し、窒素雰囲気下で−30〜300℃の温度範囲、40℃/minの昇温速度で測定を行い、DSC曲線が吸熱側に階段状変化を示す部分の中間点ガラス転移温度を求めた。
【0132】
8.プリフォームの作製
作製したバインダー粒子を炭素繊維織物に表1、2に示す散布量で片面に散布した後、表面に遠赤ヒーターを用いてバインダーの反応が進行しないように加熱して強化繊維織物基材を得た。得られた強化繊維織物基材を基材の裏表が同一の向きとなるように積層し、50kPaの圧力を加えながら、80〜180℃の範囲の加熱温度、1〜30分の範囲の表1、2に示すプリフォーム成形条件で加熱することによりプリフォームを作製した。この時、接着強度評価用のプリフォームは積層数を2枚、マトリックス樹脂含浸性評価用および繊維強化複合材料を作製後の表面意匠性評価用のプリフォームは成形体の厚みが約2mmとなるように2枚または4枚、6枚とした。
【0133】
9.プリフォーム層間の接着強度評価
前記した条件で作製した接着強度評価用のプリフォームについて、強化繊維織物基材層間の剥離試験を行った。試験はJIS K 6854−2:1977に従い、“インストロン”(登録商標)万能試験機(インストロン製)を用いて実施し、恒温槽を使用して評価用サンプルを成形した加熱温度で加熱しながら測定を行った。試験片は作製したプリフォームを長さ150mm(接着部分は端から100mm、反対側の端から50mmは接着しない)、幅25mmにカットして仕上げた。同一試験に用いる試験片の数は5とし、試験結果にはその平均値を使用した。引っ張り速さは50mm/分とした。
【0134】
10.繊維強化複合材料の作製
マトリックス樹脂含浸性および表面意匠性評価用の繊維強化複合材料としては、下記RTM法によって作製したものが用いられた。350mm×700mm×2mmの板状キャビティーを持つ金型に、作製したプリフォームをセットし、プレス装置で型締めを行った。次に、110℃(成形温度)に保持した金型内を、真空ポンプにより、大気圧−0.1MPaに減圧し、あらかじめ50℃に加温しておいた液状マトリックス樹脂を、樹脂注入機を用いて混合し、0.2MPaの圧力で注入した。液状マトリックス樹脂の注入開始後、12分(硬化時間)で金型を開き、脱型して、繊維強化複合材料を得た。液状マトリックス樹脂は、主剤として“jER”(登録商標)828(三菱化学(株)製、液状2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100質量部、硬化剤として“キュアゾール”(登録商標)2MZ(四国化成工業(株)製、2−メチルイミダゾール)3質量部を混合して得た液状エポキシ樹脂を使用した。
【0135】
11.プリフォームへのマトリックス樹脂含浸性評価
上記の繊維強化複合材料の作製の際の樹脂注入工程における含浸性について、以下の3段階で比較評価した。成形体中のボイド量が1%未満と、ボイドが実質的に存在しないものをgood、成形体の外観に樹脂未含浸部分は認められないが、成形体中のボイド量が1%以上であるものをfair、成形体の外観に樹脂未含浸部分が認められるものをbadとした。
【0136】
12.繊維強化複合材料の表面意匠性評価
繊維強化複合材料の表面意匠性について、目視にて以下の3段階で比較評価した。5人の検査者が繊維強化複合材料表面の明度と光の反射の均一性(斑)を判定、各項目について5人が良好と判断したものをgood、4人が良好と判断したものをfair、3人以下が良好と判断したものをbadとした。評価は、繊維強化複合材料を水平な机上に置き、明度についてはZ軸方向(繊維強化複合材料の表面に対して垂直方向)からの見た目で濃淡斑を判定し、光の反射については、Z軸方向からY軸方向(強化繊維織物の繊維軸方向)まで角度を変えて反射斑を判定した。
【0137】
〈実施例1〜9、参考例1〜2、比較例1〉
表1の配合比に従って、前記したようにして調製したバインダー粒子を用いて、表1に示す加熱条件を採用して前記のようにして最低粘度を測定した。また、そのバインダー粒子を散布した表1に示す強化繊維織物基材を用い、表1に示す加熱条件を採用して前記したようにして接着強度評価用プリフォームとマトリックス樹脂含浸性評価用プリフォームをそれぞれ作製した。作製したそれぞれのプリフォームについて、接着強度評価および液状マトリックス樹脂含浸性評価を行った。そして、前述したように液状マトリックス樹脂含浸性評価を行うために成形した繊維強化複合材料の表面品位評価を行った。
【0138】
実施例1では、表1に示したように、固形2官能エポキシ樹脂と固形多官能エポキシ樹脂、イミダゾール硬化触媒からなる、粒子径120μm、粒子径分布指数1.5となるバインダー粒子と、フィラメント数24000本、糸目付け330g/mの強化繊維織物を、バインダー目付け1g/mとなるように組み合わせたものを使用して、加熱温度100℃、加熱時間10分間の条件で成形することにより各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製した。この条件で作製したプリフォームは優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0139】
実施例2では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂成分を全て固形多官能エポキシ樹脂として、実施例1と同様の条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。加熱硬化後のバインダーの架橋密度がより高くなるため、接着強度が低下したものの、十分な接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0140】
実施例3では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂成分を全て固形2官能エポキシ樹脂として、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。加熱温度が90℃と低い場合であっても優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0141】
実施例4では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂成分を、固形2官能エポキシ樹脂を80質量部、固形多官能エポキシ樹脂を20質量部として、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。加熱硬化後のバインダーの優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0142】
実施例5では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂成分を、固形2官能エポキシ樹脂を20質量部、固形多官能エポキシ樹脂を80質量部として、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。加熱硬化後のバインダーの優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0143】
実施例6では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂成分を、固形2官能エポキシ樹脂を20質量部、固形多官能エポキシ樹脂を80質量部とし、硬化触媒に変性ポリアミンを配合して、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。加熱温度を140℃と高くしても十分な耐熱性が得られ、プリフォーム型を降温しなくても形状固着したプリフォームを脱型でき、十分な接着強度が得られた。
【0144】
実施例7では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する硬化剤/硬化触媒をジシアンジアミド/2,4−トリレンビス(1,1−ジメチルウレア)として、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。硬化系を変更したことにより、加熱温度140℃で30分の加熱時間が必要となるが、十分な接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0145】
実施例8では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂の主成分をベンゾオキサジン樹脂として、硬化触媒を三塩化ホウ素オクチルアミン錯体として、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。樹脂主成分を変更したことにより、加熱温度150℃で10分の加熱時間が必要となるが、十分な接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0146】
実施例9では、表1に示したように、バインダー粒子を構成する熱硬化性樹脂を、固形2官能エポキシ樹脂を80質量部、液状多官能エポキシ樹脂を20質量部として、表1に示す条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。十分な接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0147】
参考例1では、表1に示したように、実施例4と同様のバインダー粒子および強化繊維織物を使用して、表1に示す加熱温度70℃の条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。接着強度が不十分であり、成形体の表面意匠性も劣った。
【0148】
参考例2では、表1に示したように、実施例4と同様のバインダー粒子および強化繊維織物を使用して、表1に示す加熱温度190℃の条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。接着強度が不十分であり、成形体の表面意匠性も劣った。
【0149】
比較例1では、表1に示したように、バインダー粒子をエポキシ樹脂と熱可塑性樹脂から構成されるものとして、実施例1と同様の条件で各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製し、その評価を行った。硬化性を有さず、最低粘度も高いため接着強度が不足した。
【0150】
〈実施例10、11、比較例2、3〉
実施例10では、バインダー目付けを0.3g/mとした以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームは僅かに接着強度が低下するものの、優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0151】
実施例11では、バインダー目付けを4g/mとした以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームは、優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0152】
比較例2では、バインダー目付けを0.05g/mとした以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームは接着強度が不足した。
【0153】
比較例3では、バインダー目付けを5g/mとした以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームは優れた接着強度が得られるものの、液状マトリックス樹脂の含浸性が低下し、表面品位も劣った。
【0154】
〈実施例12〜14〉
実施例12〜14では、表1の配合比に従って調製したバインダー粒子に変更した以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。
【0155】
実施例12では、バインダー樹脂の最低粘度は10Pa・sであった。この条件で作製したプリフォームは僅かに接着強度が低下するものの、優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0156】
実施例13では、バインダー樹脂の最低粘度は10,000Pa・sであった。この条件で作製したプリフォームは僅かに接着強度が低下するものの、優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性にも優れていた。
【0157】
実施例14では、バインダー樹脂の最低粘度は3Pa・sであった。この条件で作製したプリフォームは接着強度が低下するものの、十分な接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性および成形体の表面意匠性も問題なかった。
【0158】
〈実施例15〜18〉
実施例15〜18では、それぞれ平均粒子径30μm、50μm、300μm、500μmのバインダー粒子を使用した以外は、実施例1と同様に各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームはいずれも僅かに接着強度が低下するものの、優れた接着強度が得られ、マトリックス樹脂含浸性にも優れていた。ただし、粒子径を500μmとすると、繊維強化複合材料の表面意匠性が若干低下した。
【0159】
〈実施例19〉
実施例19では、平均粒子径が300μmであり、粒子径分布指数が2.1と分散度の高い粒子を使用した以外は、実施例1と同様に各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームはいずれも接着強度が低下するものの、十分な接着強度が得られた。ただし、粒子径の大きな粒子が混在するため、繊維強化複合材料の表面意匠性が低下した。
【0160】
〈実施例20〜24〉
実施例20〜22では、前記した式(1)を満たす範囲で、強化繊維織物基材の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームはいずれも接着強度が優れた接着強度が得られた。ただし、フィラメント数が多い場合の方が、強化繊維織物の目ズレによる剥離が起こりやすいために接着強度が高くなった。
【0161】
実施例23、24では、前記した式(1)のW−0.011nが160よりも大きくなるような扁平性の低い強化繊維織物基材を使用した以外は、実施例1と同様にして各プリフォームおよび繊維強化複合材料を作製、評価した。この条件で作製したプリフォームはいずれも扁平性の高いものを使用した場合と比較すると接着強度が低下したが、十分な値であった。また、含浸性が若干低下した。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】