特許第5954476号(P5954476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5954476-分離膜エレメント 図000005
  • 特許5954476-分離膜エレメント 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954476
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】分離膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/00 20060101AFI20160707BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   B01D63/00 510
   B01D61/08
   B01D69/00
   B01D69/12
   B01D69/10
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-151731(P2015-151731)
(22)【出願日】2015年7月31日
(62)【分割の表示】特願2014-79096(P2014-79096)の分割
【原出願日】2011年6月2日
(65)【公開番号】特開2015-226908(P2015-226908A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2015年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-127655(P2010-127655)
(32)【優先日】2010年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 将弘
(72)【発明者】
【氏名】大音 勝文
(72)【発明者】
【氏名】広沢 洋帆
(72)【発明者】
【氏名】小岩 雅和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐太郎
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−197469(JP,A)
【文献】 特開平5−84476(JP,A)
【文献】 特開平1−224016(JP,A)
【文献】 特開2000−354742(JP,A)
【文献】 特開平9−29071(JP,A)
【文献】 特開2004−305823(JP,A)
【文献】 特開2009−57654(JP,A)
【文献】 特開2001−252543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に分離機能層、裏面に基材としての不織布が配された分離膜ならびに該基材の裏面側に配された透過側流路材から構成された下排水処理用分離膜エレメントであり、
前記分離膜は、多孔性の分離機能層と基材とからなり、
前記透過側流路材が異素材から構成され、
前記透過側流路材の一部が前記分離膜中に5μm以上の厚みで含浸しており、
前記透過側流路材は、ストライプまたはドットであり、
前記透過側流路材の幅が300μm〜2000μmであり、ピッチが0.8〜5mmであり、
かつ、前記分離膜に対する前記透過側流路材の投影面積比が0.03〜0.80である
下排水用分離膜エレメント。
【請求項2】
前記透過側流路材が分離膜中に含浸している厚みが、82μm以下である、
請求項1に記載の分離膜エレメント。
【請求項3】
前記透過側流路材は熱可塑性ポリマーを含有する
請求項1または2に記載の分離膜エレメント。
【請求項4】
前記分離膜の表面の高低差が100μm以上2000μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜エレメント。
【請求項5】
前記分離膜の表面に供給側流路材が配された、請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜エレメント。
【請求項6】
前記供給側流路材が連続構造である、請求項5に記載の分離膜エレメント。
【請求項7】
前記供給側流路材が不連続構造である、請求項5に記載の分離膜エレメント。
【請求項8】
前記分離膜が、前記基材、該基材上に形成された多孔性支持層、および該多孔性支持層上に形成された分離機能層からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜エレメント。
【請求項9】
前記基材が長繊維不織布である、請求項8に記載の分離膜エレメント。
【請求項10】
前記長繊維不織布の前記多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、前記多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向である、請求項9に記載の分離膜エレメント。
【請求項11】
前記分離膜が、前記基材および該基材上に形成された分離機能層からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜エレメント。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の分離膜エレメントを用いて汚泥をろ過する工程を有する下排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体、気体等の流体に含まれる成分を分離するために使用される分離膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
液体、気体等の流体に含まれる成分を分離する方法としては、様々なものがある。例えば海水、かん水などに含まれるイオン性物質を除くための技術を例にとると、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして、分離膜エレメントによる分離法の利用が拡大している。分離膜エレメントによる分離法に使用される分離膜には、その孔径や分離機能の点から、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、正浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられており、目的とする分離成分及び分離性能によって使い分けられている。
【0003】
また、近年は、下水(炊事、洗濯、風呂、トイレ、その他の生活環境から生ずる生活排水)や、生産工場、レストラン、水産加工場、食品加工場などから生ずる廃水の浄化に適した分離膜エレメントが、省スペースで処理が可能であるという理由から、排水処理において広く用いられている。
【0004】
これらの処理で用いられる分離膜エレメントは、処理する原流体が異なっていても、分離膜の一方の面に原流体を供給し、他方の面から透過流体を得る点では共通している。分離膜エレメントは、各種形状からなる分離膜を多数束ねて単位エレメントあたりの膜面積を大きくし、単位エレメントあたりで多くの透過流体を得ることができるように構成される。また、用途や目的にあわせて、スパイラル型、中空糸型、プレート・アンド・フレーム型、回転平膜型、平膜集積型などの各種エレメントが製造されている。
【0005】
例えば、逆浸透ろ過に用いられる流体分離膜エレメントとしては、中空部を有する中心管と、原流体を分離膜表面へ供給する供給側流路材、原流体に含まれる成分を分離する分離膜、及び分離膜を透過し供給側流体(分離膜エレメントに供給された時点の原流体)から分離された透過側流体を中心管へと導くための透過側流路材からなるユニットとからなり、該ユニットを中心管の周りに巻き付けたスパイラル型分離膜エレメントが、原流体に圧力を付与して透過流体を多く取り出すことができる点で広く用いられている。
【0006】
該供給側流路材としては、供給側流体の流路(以下、供給側流路という。)を形成するために主に高分子製のネットが使用される。分離膜としては、主にポリアミドなどの架橋高分子からなる分離機能層、ポリスルホンなどの高分子からなる多孔性支持層、およびポリエチレンテレフタレートなどの高分子からなる、基材となる不織布が、それぞれ供給側から透過側にかけて積層された複合半透膜が使用される。さらに、透過側流路材としては、膜の落ち込みを防き、かつ透過側流体の流路(以下、透過側流路という。)を形成させる目的で、供給側流路材よりも間隔の細かいトリコットと呼ばれる織物が使用される。
【0007】
近年、造水コストの低減への期待の高まりから、分離膜エレメントの高性能化が求められている。分離膜エレメントの分離性能および単位時間あたりの透過流体量を増やす上では、各流路部材、分離膜、エレメント部材の性能向上が提案されてきた。例えば、特許文献1では表面が凹凸形状に賦形されたシート状物を透過側流路材として使用する方法が提案されている。特許文献2では、透過側流路材や供給側流路材などの基材を使用せず、膜の供給側表面に大きな凹凸を形成させるとともに内部に中空通路を設けた平膜を使用する方法が、特許文献3では、表面に大きな凹凸を有する多孔性支持層を不織布上に設け、さらにその上に分離活性層を設けたシート状複合半透膜を用い、ネットなどの供給側流路材やトリコットなどの透過側流路材を用いない方法が提案されている。
【0008】
また、下水などの排水処理では、分離膜エレメントに排水処理コストの低減から、膜エレメントの透水性、耐久性に対するニーズが高まっている。そのため、特許文献4に示されるように、高い透水性を有するうえに分離機能層の表面が削れても阻止率が低下しにくく、また多孔質樹脂層(分離機能層)が不織布などの多孔質基材から剥離しにくく、さらに、いったん目詰まりしてもその物質の除去が容易な分離膜エレメントが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−247453号公報
【特許文献2】特開平11−114381号公報
【特許文献3】特開2010−99590号公報
【特許文献4】特開2003−144869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記した分離膜エレメントは、性能向上、特に長期間にわたり運転を行った際の安定性能の点では、十分とは言えない。例えば特許文献1で記載される法では、透過側の流動抵抗を軽減するのみであり、シート表面の抵抗があるため、流動抵抗低減効果が十分とは言えない。特許文献2で記載される方法では、膜表面と平行な方向に延びる中空通路を平膜内に有するため、表面の凹凸の高さを大きくすることが困難かつ凹凸形状が限定され(実施例では段差0.15mmの溝)、また透過側流路の形状も限定されるため、供給側、透過側の流動抵抗低減効果が十分とは言えない。特許文献3で記載される方法については、特許文献3の実施例に平膜評価用のセルを用いた場合の膜性能のみの記述があるだけで、実際に分離膜エレメントを構成した場合の性能は特許文献3に開示されておらず、実際に圧力をかけて分離膜エレメントを運転した場合、供給側流体および透過側流路の断面積が変化しやすく、長期間にわたり運転を実施した際に性能が変化しすい傾向にある。
【0011】
一方、下水などの処理に適する分離膜エレメントとして特許文献4で記載される分離膜エレメントは、耐久性向上には効果があるものの、透水性の点では、流路材の設計が十分とはいえず、改善が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、単位時間あたりの透過流体量を増加できるとともに安定性能を向上できる分離膜エレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、以下のいずれかの構成をとる。
(1) 表面に分離機能層、裏面に基材としての不織布が配された分離膜ならびに該基材の裏面側に配された透過側流路材から構成された分離膜エレメントであり、前記透過側流路材が前記分離膜とは異素材から構成され、かつ、前記分離膜に対する前記透過側流路材の投影面積比が0.03〜0.80である分離膜エレメント。
(2) 前記透過側流路材が不連続構造である、前記(1)に記載の分離膜エレメント。
(3) 前記透過側流路材が分離膜中に1〜80μm含浸している、前記(1)または(2)に記載の分離膜エレメント。
(4) 前記分離膜の表面の高低差が100μm以上2000μm以下である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の分離膜エレメント。
(5) 前記分離膜の表面に供給側流路材が配された、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の分離膜エレメント。
(6) 前記供給側流路材が連続構造である、前記(5)に記載の分離膜エレメント。
(7) 前記供給側流路材が不連続構造である、前記(5)に記載の分離膜エレメント。
(8) 前記分離膜が、前記基材、該基材上に形成された多孔性支持層、および該多孔性支持層上に形成された分離機能層からなる、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の分離膜エレメント。
(9) 前記基材が長繊維不織布である、前記(8)に記載の分離膜エレメント。
(10) 前記長繊維不織布の前記多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、前記多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向である、前記(9)に記載の分離膜エレメント。
(11) 前記分離膜が、前記基材および該基材上に形成された分離機能層からなる、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の分離膜エレメント。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分離膜エレメントの透過側に、分離膜に対して特定の投影面積比を有する異素材の透過側流路材を設置することで、流動抵抗を低減しつつ経時変化しにくい安定した透過側流路を形成し、分離性能を維持しつつ透過性能が高められた分離膜エレメントを得ることができる。その結果、分離性能と透過性能が共に高い分離膜エレメントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の分離膜エレメントにおける分離膜と透過側流路材の一態様を示す断面模式図である。
図2】本発明の分離膜エレメントにおける分離膜と透過側流路材の他の態様を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0017】
本発明は、分離膜ならびに透過側流路材から構成される分離膜エレメントである。透過側流路材は、分離膜と異素材から構成され、かつ、分離膜に対する投影面積比が0.03〜0.80である。好ましくは、透過側流路材が不連続構造から構成される。
【0018】
ここで、分離膜とは、分離膜表面に供給される流体中の成分を分離し、分離膜を透過した透過流体を得るものであり、たとえば、i)分離機能層と多孔性支持層と基材とからなるもの、あるいはii)分離機能層と基材とからなるものである。なお、ii)の分離膜は、i)の分離膜における分離機能層を設けずi)の分離膜における多孔性支持層を分離機能層として用いるものである。
【0019】
上記i)の形態の分離膜において、分離機能層としては、例えば、孔径制御、耐久性の点で架橋高分子が使用される。具体的には、分離性能の点で、後述するような多孔性支持層上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層や、有機無機ハイブリッド機能層などが好適に用いることができる。
【0020】
一方、上記ii)の分離膜における分離機能層は、分離膜エレメントに必要とされる分離機能と機械強度を有するものであれば特に限定されないが、例えば、セルロース、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などから形成されることが好ましい。なお、これらの樹脂を主成分とする層であってもよい。ここで主成分とは、50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。なかでも、溶液による製膜が容易で、物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂などからなる層が好ましい。具体的には、例えば、ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)溶液を、後述する基材、すなわち不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、製造することができる。
【0021】
上記i)の分離膜における多孔性支持層および上記ii)の分離膜における分離機能層は、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って、上述した形態を得るためにポリマー濃度、溶媒の温度、貧溶媒を調整し、製造することができる。例えば、所定量のポリスルホンをジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)に溶解し、所定濃度のポリスルホン樹脂溶液を調製する。次いで、このポリスルホン樹脂溶液を不織布からなる基材上に略一定の厚さに塗布した後、一定時間空気中で表面の溶媒を除去した後、凝固液中でポリスルホンを凝固させることによって得ることが出来る。この時、凝固液と接触する表面部分などは溶媒のDMFが迅速に揮散するとともにポリスルホンの凝固が急速に進行し、DMFの存在した部分を核とする微細な連通孔が生成される。
【0022】
また、上記の表面部分から基材側へ向かう内部においては、DMFの揮散とポリスルホンの凝固が表面に比べて緩慢に進行するので、DMFが凝集して大きな核を形成しやすく、したがって、生成する連通孔が大径化する。勿論、上記の核生成の条件は、表面からの距離によって徐々に変化するので、明確な境界のない、滑らかな孔径分布を有する層が形成されることになる。この形成工程において用いるポリスルホン樹脂溶液の温度やポリスルホンの濃度、塗布を行う雰囲気の相対湿度、塗布してから凝固液に浸漬するまでの時間、凝固液の温度や組成等を調節することにより平均空隙率と平均孔径を制御した層を得ることができる。
【0023】
そして、上記i)の分離膜を構成する分離機能層は以下のように製造できる。例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や工業用超純水の製造に好適に用いられる上記i)の分離膜を構成する分離機能層は、ポリアミドから構成できる。ポリアミドの分離機能層は、多孔性支持層上で多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0024】
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいう。
【0025】
例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4−アミノピペリジン、4−アミノエチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。
【0026】
中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。
【0027】
これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。2種以上を同時に用いる場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
【0028】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。
【0029】
例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0030】
多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。
【0031】
これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0032】
分離機能層表面に高低差を成形(射出成形、真空成形、加圧成形、モールド成形、エンボス成型、転写加工、ホットメルト加工など)により設けつつ、その後の分離性能を保持する点では、2官能酸ハロゲン化合物と3官能ハロゲン化合物との比率がモル比(2官能酸ハロゲン化合物のモル/3官能酸ハロゲン化合物のモル)で0.05〜1.5であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.0であることが好ましい。なお、本発明においては後述するように最終的に得られる分離膜の表面に、高低差が100〜2000μmの範囲の凹凸を付与することが好ましい。
【0033】
さらに、上記i)の分離膜を構成する分離膜としては、分離機能層を耐薬品性の点でSi元素などを有する有機・無機ハイブリッド構造とした分離膜も使用することができる。有機・無機ハイブリッド構造の分離機能層としては、特に限定されないが、例えば、(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに(B)前記ケイ素化合物以外のエチレン性不飽和基を有する化合物を用いた、(A)のケイ素化合物の加水分解性基の縮合物ならびに(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物のエチレン性不飽和基の重合物が使用できる。
【0034】
まず(A)のエチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物について説明する。
【0035】
エチレン性不飽和基を有する反応性基はケイ素原子に直接結合している。かような反応性基としては、ビニル基、アリル基、メタクリルオキシエチル基、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシエチル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が例示される。重合性の観点から、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が好ましい。
【0036】
またケイ素原子に直接結合している加水分解性基が水酸基に変化するなどのプロセスを経て、ケイ素化合物同士がシロキサン結合で結ばれるという縮合反応が生じ、高分子となる。加水分解性基としてはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、アミノヒドロキシ基、ハロゲン原子およびイソシアネート基などの官能基が例示される。アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜2のものである。アルケニルオキシ基としては炭素数2〜10のものが好ましく、さらには炭素数2〜4、さらには3のものである。カルボキシ基としては、炭素数2〜10のものが好ましく、さらには炭素数2のもの、すなわちアセトキシ基である。ケトオキシム基としては、メチルエチルケトオキシム基、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基が例示される。アミノヒドロキシ基は、酸素を介してアミノ基が酸素原子を介してケイ素原子に結合しているものである。このようなものとしては、ジメチルアミノヒドロキシ基、ジエチルアミノヒドロキシ基、メチルエチルアミノヒドロキシ基が例示される。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましく使用される。
【0037】
分離機能層の形成にあたっては、上記加水分解性基の一部が加水分解し、シラノール構造をとっているケイ素化合物も使用できる。また2以上のケイ素化合物が、加水分解性基の一部が加水分解、縮合し架橋しない程度に高分子量化したものも使用できる。
【0038】
ケイ素化合物(A)としては下記一般式(a)で表されるものであることが好ましい。
Si(R(R(R4−m−n ・・・(a)
(Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基のいずれかを表す。RはHまたはアルキル基を表す。m、nはm+n≦4を満たす整数であり、m≧1、n≧1を満たすものとする。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
はエチレン性不飽和基を含む反応性基であるが、上で解説したとおりである。
【0039】
は加水分解性基であるが、これらは上で解説したとおりである。Rとなるアルキル基の炭素数としては1〜10のものが好ましく、さらに1〜2のものが好ましい。
【0040】
加水分解性基としては、分離機能層の形成にあたって、反応液が粘性を持つことからアルコキシ基が好ましく用いられる。
【0041】
かようなケイ素化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0042】
(A)のケイ素化合物の他、エチレン性不飽和基を有する反応性基を有しないが、加水分解性基を有するケイ素化合物を併せて使用することもできる。このようなケイ素化合物は、一般式(a)では「m≧1」と定義されているが、一般式(a)においてmがゼロである化合物が例示される。かようなものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが例示される。
【0043】
次に(A)のケイ素化合物以外のものであって、エチレン性不飽和基を有する化合物(B)について説明する。
【0044】
エチレン性不飽和基は付加重合性を有する。かような化合物としてはエチレン、プロピレン、メタアクリル酸、アクリル酸、スチレンおよびこれらの誘導体が例示される。
【0045】
また、この化合物は、分離膜を水溶液の分離などに用いたときに水の選択的透過性を高め、塩の阻止率を上げるために、酸基を有するアルカリ可溶性の化合物であることが好ましい。
【0046】
好ましい酸の構造としては、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸およびスルホン酸であり、これらの酸の構造としては、酸の形態、エステル化合物、および金属塩のいずれの状態で存在してもよい。これらのエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物は、2つ以上の酸を含有し得るが、中でも1個〜2個の酸基を含有する化合物が、好ましい。
【0047】
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でカルボン酸基を有する化合物としては、以下のものが例示される。マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸が挙げられる。
【0048】
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でホスホン酸基を有する化合物としては、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルが例示される。
【0049】
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でリン酸エステルの化合物としては、2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、ジペンタエリトリトール−ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートが例示される。
【0050】
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でスルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸が挙げられる。
【0051】
有機・無機ハイブリッド構造の分離機能層を形成するためには、(A)のケイ素化合物以外に、(B)のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物、および重合開始剤を含んだ反応液が使用される。この反応液を後述する多孔質支持層上に塗布し、さらに加水分解性基を縮合することに加えて、エチレン性不飽和基の重合によって、これら化合物を高分子量化することが必要である。
【0052】
(A)のケイ素化合物を単独で縮合させた場合、ケイ素原子に架橋鎖の結合が集中し、ケイ素原子周辺とケイ素原子から離れた部分との密度差が大きくなるため、分離機能層中の孔径が不均一となる傾向がある。一方、(A)のケイ素化合物自身の高分子量化および架橋に加え、(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物を共重合させることで、加水分解性基の縮合による架橋点とエチレン性不飽和基の重合による架橋点が適度に分散される。このように適度に架橋点を分散させることで、均一な孔径を有する分離機能層が構成され、透水性能と除去性能のバランスが取れた複合半透膜を得ることができる。この際、エチレン性不飽和基を1個以上有する化合物は、低分子量だと複合半透膜使用時に溶出し膜性能低下を引き起こす可能性があるため、高分子量化していることが必要である。
【0053】
このような製造方法において、(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物の含有量は、反応液に含有される固形分量100重量部に対し10重量部以上であることが好ましく、さらに好ましくは20重量部〜50重量部である。ここで、反応液に含有される固形分とは、反応液に含有される全成分のうち、溶媒および縮合反応で生成する水やアルコールなどの留去成分を除いた、得られる複合半透膜に最終的に分離機能層として含まれる成分のことを指す。(A)のケイ素化合物量が少ないと、架橋度が不足する傾向があるので、膜ろ過時に分離機能層が溶出し分離性能が低下するなどの不具合が発生するおそれがある。
【0054】
(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物の含有量は、反応液に含有される固形分量100重量部に対し90重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは50重量部〜80重量部である。(B)の化合物の含有量がこれらの範囲にあるとき、得られる分離機能層は架橋度が高くなるため、分離機能層が溶出することなく安定に膜ろ過ができる。
【0055】
次に、上記のような有機・無機ハイブリッド構造を有する分離機能層を多孔質支持層上に形成する方法について説明する。
【0056】
分離機能層形成のために例示される方法としては、(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有する反応液を塗布する工程、溶媒を除去する工程、エチレン性不飽和基を重合させる工程、加水分解性基を縮合させる工程の順に行うものである。エチレン不飽和基を重合させる工程において、加水分解性基が同時に縮合することがあってもいい。
【0057】
まず、(A)および(B)を含有する反応液を、後述する多孔性支持層に接触させる。かかる反応液は、通常溶媒を含有する溶液であるが、かかる溶媒は多孔性支持層を破壊せず、(A)および(B)、および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば特に限定されない。この反応液には、(A)のケイ素化合物のモル数に対して1〜10倍モル量、好ましくは1〜5倍モル量の水を無機酸または有機酸と共に添加して、(A)のケイ素化合物の加水分解を促すことが好ましい。
【0058】
反応液の溶媒としては、水、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒および、これらを混ぜ合わせたものが好ましい。例えば、アルコール系有機溶媒として、メタノール、エトキシメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)、エチレングリコールモノアセトエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、メトキシブタノール等が挙げられる。また、エーテル系有機溶媒として、メチラール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルエーテル、トリオキサン、ジオキサン等が挙げられる。また、ケトン系有機溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、トリメチルノナノン、アセトニトリルアセトン、ジメチルオキシド、ホロン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコール等が挙げられる。
【0059】
また、溶媒の添加量としては、50〜99重量部%が好ましく、さらには80〜99重量部%が好ましい。溶剤の添加量が多すぎると膜中に欠点が生じやすい傾向があり、少なすぎると得られる分離膜の透水性が低くなる傾向がある。
【0060】
多孔性支持層と上記反応液との接触は、多孔性支持層上で均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、反応液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの塗布装置を用いて多孔性支持層上にコーティングする方法があげられる。また多孔性支持層を、反応液に浸漬する方法を挙げることができる。
【0061】
浸漬させる場合、多孔性支持層と反応液との接触時間は、0.5〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。反応液を多孔性支持層に接触させたあとは、多孔性支持層上に液滴が残らないように十分に液切りすることが好ましい。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、反応液接触後の多孔性支持層を垂直方向に把持して過剰の反応液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、反応液の溶媒分の一部を除去することもできる。
【0062】
ケイ素の加水分解性基を縮合させる工程は、多孔性支持層に反応液を接触させた後に加熱処理することによって行われる。このときの加熱温度は、多孔性支持層が溶融し分離膜としての性能が低下する温度より低いことが要求される。縮合反応を速やかに進行させるために通常0℃以上で加熱を行うことが好ましく、20℃以上がより好ましい。また、前記反応温度は、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。反応温度が0℃以上であれば、加水分解および縮合反応が速やかに進行し、150℃以下であれば、加水分解および縮合反応の制御が容易になる。また、加水分解または縮合を促進する触媒を添加することで、より低温でも反応を進行させることが可能である。さらに分離機能層が細孔を有するよう加熱条件および湿度条件を選定し、縮合反応を適切に行うようにする。
【0063】
(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物のエチレン性不飽和基の重合方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射により行うことができる。ここで電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法は適宜最適な選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも赤外線照射や紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に赤外線または紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御などのしやすさの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
【0064】
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などから発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合できれば特に制限しないが、中でも高効率で低波長の紫外線は薄膜形成性が高い。かような紫外線は低圧水銀灯、エキシマレーザーランプにより発生させることができる。分離機能層の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても大きく変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により大きく変化することがある。そのためこれらの条件は適宜最適化を行う必要がある。
【0065】
重合速度を速める目的で分離機能層形成の際に重合開始剤、重合促進剤等を添加することが好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、用いる化合物の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
【0066】
重合開始剤を以下例示する。電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸))、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
【0067】
過酸化物およびα−ジケトンは、開始を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系とも呼ばれる。このような系の例としては、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有する系もまた好ましい。
【0068】
次いで、これを約100〜200℃で加熱処理すると重縮合反応が起こり、多孔性支持層表面にシランカップリング剤由来の分離機能層が形成される。加熱温度は、多孔性支持層の素材にもよるが、高すぎると溶解が起こり多孔性支持層の細孔が閉塞するため、最終的に得られる分離膜の造水量が低下する。一方低すぎた場合には、重縮合反応が不十分となり分離機能層の溶出により除去率が低下するようになる。
【0069】
なお上記の製造方法において、シランカップリング剤とエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物とを高分子量化する工程は、シランカップリング剤の重縮合工程の前に行っても良いし、後に行っても良い。また、同時に行っても良い。
【0070】
このようにして得られた有機・無機ハイブリッド構造を有する分離膜は、このままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
【0071】
次に、下水処理などで好適に用いられる上記ii)の分離膜を構成する分離機能層について詳述する。
【0072】
かかる分離機能層は、まず、基材(不織布)の表面に、上述した樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を該基材に含浸させる。しかる後、被膜を有する基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させ、基材の表面に分離機能層としての多孔質樹脂層を形成する。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、0〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。
【0073】
ここで、原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであるのが好ましい。たとえば、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸などの水溶性高分子や、グリセリンを用いることができる。
【0074】
溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。なかでも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMF、DMSOを好ましく用いることができる。
【0075】
さらに、原液には、非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール類を用いることができる。なかでも、廃水処理の容易さや価格の点から水やメタノールが好ましい。これらの混合物であってもよい。
【0076】
原液において、樹脂は5〜40重量%、溶媒は40〜95重量%の範囲内にあるのが好ましい。樹脂が極端に少ないと多孔質樹脂層の強度が低くなり、多すぎると透水性が低下することがある。より好ましくは8〜25重量%の範囲内とする。また、溶媒は、少なすぎると原液がゲル化しやすくなり、多すぎると多孔質樹脂層の強度が低下することがある。より好ましいのは、50〜90重量%の範囲である。
【0077】
この場合、凝固浴において、溶媒は、40〜95重量%の範囲であり、非溶媒を少なくとも5重量%含むことが好ましい。溶媒が40重量%を下回ると、樹脂の凝固速度が速くなり、細孔径が小さくなる。また、溶媒が95重量%を越えると、樹脂が凝固せず、多孔質樹脂層が形成されにくくなる。より好ましいのは、50〜90重量%の範囲である。なお、凝固浴の温度は、あまりに高いと凝固速度が速すぎるようになり、逆に、あまりに低いと凝固速度が遅すぎるようになるので、通常、0〜100℃の範囲内で選定することが好ましい。より好ましい温度範囲は、10〜80℃である。
【0078】
被膜を有する基材の被膜側表面のみを、凝固浴と接触させる方法は、特に限定されない。例えば、被膜を有する基材の被膜側表面が下側に来るようにして、凝固浴表面と接触させる方法や、ガラス板、金属板などの平滑な板上に被膜側とは反対側を接触させて、凝固浴が裏側に回り込まないように貼り付け、被膜を有する基材を板ごと凝固浴に浸漬する方法などがある。後者の方法では、基材を板に貼り付けてから原液の被膜を形成しても構わないし、基材に原液の被膜を形成してから板に貼り付けても構わない。
【0079】
基材への原液の被膜の形成は、基材に原液を塗布することによったり、基材を原液に浸漬することによったりすることができる。原液を塗布する場合には、基材の片面に塗布しても構わないし、両面に塗布しても構わない。このとき、原液の組成にもよるが、密度が0.7g/cm3以下である多孔質基材を使用すると、原液が多孔質基材に対して適度に含浸する。
【0080】
以上のように製造される分離膜は、多孔質樹脂層(分離機能層)において、凝固浴と接触した側表面の平均孔径は、他方の表面の平均孔径の2倍以上の大きさである。これは、凝固浴に溶媒が40〜95重量%含まれるため、原液と凝固浴との置換速度が比較的遅く、多孔質樹脂層において、凝固浴と接触した側表面の穴の成長が進んで細孔径が大きくなるのに対し、反対側の表面は、凝固浴と接触しないため、原液の相分離によってのみ穴が形成され、比較的細孔径が小さくなるためである。このため、このようにして得られた分離膜は、凝固浴と接触した側を被処理液側に、他方を透過液側にして用いればよい。
【0081】
また原液に開孔剤を添加して以下に説明するような方法によっても、下水処理などで好適に用いられる上記ii)の分離膜における分離機能層を製造することができる。
【0082】
すなわち、上述した原液として、樹脂と、開孔剤と、溶媒とを含む原液を用いる。原液に、さらに非溶媒を加えても良い。
【0083】
開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであるのが好ましい。たとえば、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸などの水溶性高分子や、グリセリンを用いることができる。
【0084】
溶媒および非溶媒としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0085】
原液において、樹脂は5〜40重量%、開孔剤は0.1〜15重量%、溶媒は40〜94.9重量%、非溶媒は0〜20重量%の範囲内にあるのが好ましい。樹脂が極端に少ないと多孔質樹脂層の強度が低くなり、多すぎると透水性が低下することがある。原液中の樹脂含有量は、より好ましくは8〜25重量%の範囲内とする。また、開孔剤は、少なすぎると透水性が低下し、多すぎると多孔質樹脂層の強度が低下したりすることがある。また、極端に多いと多孔質樹脂中に残存して使用中に溶出し、透過水の水質が悪化したり、透水性が変動したりすることがある。原液中の開孔剤含有量の、より好ましい範囲は、0.5〜10重量%である。さらに、溶媒は、少なすぎると原液がゲル化しやすくなり、多すぎると多孔質樹脂層の強度が低下することがある。非溶媒を用いない場合は、原液中の溶媒含有量は、55〜94.9重量%の範囲がより好ましく、さらに好ましくは、60〜90重量%の範囲である。また、非溶媒は、あまり多いと原液のゲル化が起こりやすくなり、極端に少ないと細孔の大きさの制御が難しくなる。原液中の非溶媒含有量は、より好ましくは、0.5〜15重量%の範囲である。
【0086】
凝固浴は、非溶媒、または、非溶媒と溶媒とを含む混合液を用いることができる。凝固浴において、非溶媒は、原液に非溶媒を用いる場合には少なくとも80重量%とするのが好ましい。少なすぎると樹脂の凝固速度が遅くなり、細孔径が大きくなったりする。より好ましいのは、85〜100重量%の範囲である。また、原液に非溶媒を用いない場合には、少なくとも60重量%とするのが好ましい。非溶媒が多すぎると、樹脂の凝固速度が速くなって多孔質樹脂層の表面は緻密になるが、多孔質樹脂層の表面に微細な亀裂が発生することがある。より好ましい範囲は、60〜99重量%である。なお、凝固浴の温度は、あまりに高いと凝固速度が速すぎるようになり、逆に、あまりに低いと凝固速度が遅すぎるようになるので、通常、15〜80℃の範囲内で選定することが好ましい。より好ましい温度範囲は、20〜60℃である。
【0087】
基材への原液の被膜の形成、被膜を凝固浴と接触させる方法、用いる基材の密度については、開孔剤を添加しない場合と同様である。
【0088】
以上のようにして製造される分離膜は、原液の被膜が形成された面は多孔質樹脂層(分離機能層)が露出し、他方の面は多孔質の基材(不織布)が露出している構造となるが、多孔質樹脂層において、原液の被膜が形成された側の表面の平均孔径は、他方の表面の平均孔径の1/2以下の小ささである。これは、原液の被膜が形成された側表面は他方の表面に比べて凝固浴と速く接触するために、原液と凝固浴との置換スピードが速く、細孔径が小さく形成されるためである。このため、このようにして得られた分離膜は、原液の被膜が形成された側を透過液側に、他方を被処理液側にして用いればよい。
【0089】
上述した分離機能層は、いずれも、透過性能、除去性能などの基本性能を向上させる上で、塩素含有化合物、亜硝酸、カップリング剤などによる化学処理を施してもよい。
【0090】
いずれの分離機能層も、厚みは限定されないが、i)の分離膜の形態は、例えば、逆浸透、正浸透、ナノろ過膜で好適に採用され、その場合、分離機能層の厚みは、分離性能と透過性能の点で5〜3000nmであることが好ましく、特に5〜300nmであることが透過性能の点で好ましい。分離機能層の厚みは、これまでの分離膜の膜厚測定法に準ずることができ、例えば分離膜を樹脂による包埋後に、超薄切片を作製し、染色などの処理を行った後に、透過型電子顕微鏡により観察することで測定することができる。主な測定法としては、分離機能層がひだ構造を有する場合、多孔性支持層より上に位置するひだ構造の断面長さ方向に50nm間隔で測定し、ひだの数を20個測定し、その平均から求めることができる。
【0091】
一方、上記ii)の形態の分離膜の場合、分離機能層の厚みは、薄すぎると該分離機能層にひび割れなどの欠陥が生じ、濾過性能が落ちやすくなることや、厚すぎると透過性能が低下することがあるので、1〜500μmであることが好ましく、より好ましくは5〜200μmの範囲である。
【0092】
次に、多孔性支持層としては、分離膜に機械的強度を与え、イオン等の分子サイズの小さな成分に対して当該分離膜として分離性能を有さないものであれば、孔のサイズや分布は特に限定されない。具体的には、一般に「多孔性支持膜」と言われるようなものであれよく、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもつ層を言う。好ましくは、分離機能層が形成される側の表面で原子間力顕微鏡、電子顕微鏡などを用いて表面から測定された細孔の投影面積円相当径が1nm以上100nm以下であるような多孔性支持層が使用される。特に界面重合反応性、分離機能膜の保持性の点で3〜50nmの投影面積円相当径を有することが好ましい。
【0093】
多孔性支持層の厚みは、特に限定されないが、分離膜の強度、分離膜の高低差を形成させる点および供給側流路の形態安定性の点で、20〜500μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜300μmである。
【0094】
多孔性支持層の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材(不織布)から多孔性支持膜を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から多孔性支持層の膜厚や表面の投影面積円相当径を決定する。該支持層の厚み、孔径は、平均値であり、また、該支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向に20μm間隔で測定し、20点測定の平均値である。また、孔径は、孔を200個カウントし、各投影面積円相当径の平均値である。
【0095】
次に、基材としては、分離膜の分離性能および透過性能を保持しつつ、適度な機械強度を与え、分離膜表面の高低差を制御する点で、繊維状基材である不織布が用いられる。
【0096】
該不織布としては、ポリオレフィン、ポリエステル、セルロースなどからなるものが用いられるが、分離膜の高低差を形成させる点、形態保持性の点でポリオレフィン、ポリエステルからなるものが好ましい。また、複数の素材を混合させたものも使用することができる。
【0097】
基材としては、長繊維不織布や短繊維不織布を好ましく用いることができるが、基材には高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、微多孔性支持層が剥離したり、さらには基材の毛羽立ち等により膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求されることから、中でも長繊維不織布をより好ましく用いることができる。基材が熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、分離膜の連続製膜においては、製膜方向に対し張力がかけられることからも、基材にはより寸法安定性に優れる長繊維不織布を用いることが好ましい。また、特に上記i)の形態の分離膜の場合には、強度とコストの点で長繊維不織布が好ましく、さらに基材の成形性の点でポリエステル長繊維不織布であることが好ましい。
【0098】
長繊維不織布は、成形性、強度の点で、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向であることが好ましい。そのような構造によれば、強度を保って膜破れ等をより確実に防ぐことができるばかりか、分離膜に凹凸を付与する際の、多孔性支持層と基材とを含む積層体としての成形性も向上し、分離膜表面の凹凸形状が安定するので好ましい。より具体的に、該長繊維不織布の、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度は、0°〜25°であることが好ましく、また、多孔性支持層側表層における繊維配向度との配向度差が10°〜90°であることが好ましい。
【0099】
分離膜の製造工程やエレメントの製造工程においては加熱する工程が含まれるが、加熱により多孔性支持層または分離機能層が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において張力が付与されていない幅方向において顕著である。収縮することにより、寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。不織布において多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と多孔性支持層側表層における繊維配向度との差が10°〜90°であると、熱による幅方向の変化を抑制することもでき、好ましい。
【0100】
ここで、繊維配向度とは、多孔性支持層を構成する不織布基材の繊維の向きを示す指標であり、連続製膜を行う際の製膜方向を0°とし、製膜方向と直角方向、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。
【0101】
繊維配向度は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、該サンプルの表面を走査型電子顕微鏡で100〜1000倍で撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向、製膜方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定し、それらの平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度として求める。
【0102】
続いて、本発明における透過側流路材とは、分離膜の一方の面に原流体を供給して他方の面から透過流体を得る分離膜エレメントにおいて、供給側流体から分離された透過側流体を中心管などの透過流体を集めるための部材に対して、透過流体を高効率に集めるための流路材である。該透過側流路材は、例えば、上記のような分離膜と共に中心管の周りに巻き付けてスパイラル型分離膜エレメントを構成する。
【0103】
透過側流路材では膜の落ち込みを防き、かつ透過側の流路を形成させる目的で、分離膜とは異なる素材である異素材から構成されることが必須である。分離膜は孔構造を有するため、該異素材の透過側流路材により耐圧性、耐久性を補う。さらに、本発明では、耐圧性、高効率な透過流路を形成させる上で、透過側流路材の分離膜に対する投影面積比が0.03〜0.80であることが必要である。好ましくは、0.10〜0.70、さらに好ましくは0.20〜0.70である。
【0104】
ここで、投影面積比とは、分離膜と異素材透過側流路材を5cm×5cmで切り出し、異素材を膜表面上部から投影した時に得られる投影面積を切り出し面積で割った値とする。なお、後述するように異素材からなる透過側流路材が分離膜に対して一体化されている場合には、分離膜を溶解または剥離して投影面積を測定することができる。例えば、分離膜がポリアミド分離機能層、ポリスルホン多孔性支持層、およびポリエステル不織布から成り、透過側流路材がポリオレフィンから成る場合、粘着テープまたは2液型接着剤を塗布したフィルムを用いて透過側流路材を接着させ、透過側流路材の形態に変化を与えず基材を溶解した後に、粘着テープまたは2液型接着剤を塗布したフィルムに残った異素材から成る透過側流路材の投影面積を上述した方法と同様にして求めることができる。このとき、基材を溶解するにあたっては、例えばpH13のアルカリ溶液に24時間浸漬させポリエステル不織布を溶解させればよい。溶解が不十分であれば、透過側流路材がダメージを受けない範囲で浸漬時間を延長させればよい。また、顕微IRを用いて、1μm×1μm単位で表面を計測し、基材であるポリエステルが検出される部分と、されない部分から流路材の投影面積を計算しても良い。
【0105】
また、異素材とは、分離膜で使用される材料とは異なる組成、大きさのいずれかを満足する材料を意味する。従って、分離機能層、多孔性支持層、基材のいずれの素材とも異なる組成物、孔径、形状のいずれかを満足するものであれば特に限定されない。透過流路の耐圧性、効率の点で、好ましくは異なる組成、孔径、形状のすべてを満足するものが用いられる。なお、後述するように透過側流路材が分離膜に対して一体化されている場合には、実質的に分離膜の機械的強度を担っている不織布の裏面(分離機能層とは反対側)に配された該不織布とは異素材のものを透過側流路材とする。
【0106】
該透過側流路材は、例えば、棒状、円柱状、ドット状、ストライプ状、またはそれらの組み合わせの形状などでよく、また発泡物、粉末状物、さらにそれらの組み合わせからなるものなどで構成することができる。組成としては特に限定されないが、耐薬品性の点で、ポリエチレン、ポリポリプロピレンなどのポリオレフィンや共重合ポリオレフィン、ポリエステルなどが好ましく、熱可塑性ポリマーだけでなく、熱や光による硬化性ポリマーを使用することもできる。
【0107】
透過側流路材を分離膜裏面に配する方法としては、特に限定されない。例えば、透過側流路材が連続形状の場合、あらかじめ加工しておいた流路材を分離膜の裏側に積層する方法が好ましい。一方、透過側流路材が不連続形状の場合、分離膜の裏側に印刷、噴霧などの方法により直接異素材の不連続状物を形成配置する方法が用いられる。ここで、連続構造とは、編み物やネット状のように部分的に分かれない構造をいい、不連続構造とは、透過側流路材を分離膜から剥離した際に、透過側流路材が複数の部分に分かれる構造をいう。
【0108】
本発明では、より流動抵抗を低くするという点で、透過側流路材が不連続構造であることが好ましい。例えば、トリコットなどの編物を透過側流路材として分離膜の裏面全面に配する場合、経糸および緯糸が存在するため、異素材と膜が接する部分が分離膜全面に連続して存在、すなわち連続構造となる。そのため、流動抵抗が大きくなり易い。しかしながら、透過側流路材が不連続構造の場合には、透過側流路を安定に形成させるだけでなく、流動抵抗をより低くすることができ、さらには異素材と膜が接する部分の間隔を適切に設定することで、高耐圧性と低流動抵抗とを両立することが可能となる。
【0109】
透過側流路材が不連続構造である場合、最も近接している2つの透過側流路材構成部材の間隔(すなわち、該2つの構成部材の間の長さ)は、0.1〜10mmが好ましく、特に逆浸透膜では0.1以上1mm以下が好ましい。該間隔は、透過側流路材と膜の断面スライス構造をレーザー顕微鏡、電子顕微鏡などで測定し、求めることが出来る。
【0110】
さらに、膜の落ち込みを少なくし、低流動抵抗を保持する上で透過側流路材のピッチを0.1〜3mmとすることが好ましい。ここで透過側流路材のピッチは、近接する2つの透過側流路材構成部材の中心間距離を200箇所で測定し、それらの平均値を採用する。なお、該構成部材の間隙が200箇所存在しない場合は存在する限りの間隙で測定する。
【0111】
本発明では、耐圧性、耐薬品性の点で透過側流路材が分離膜中に1〜80μm含浸していることが好ましい。さらに好ましくは、2〜50μmである。透過側流路材の分離膜への含浸厚みとしては、透過側流路材と膜の断面スライス構造をレーザー顕微鏡、電子顕微鏡などで測定し、求めることが出来る。また、画像では判定が困難な場合、顕微IRなどの分析などにより求めることが出来る。
【0112】
本発明では、分離膜エレメントの分離性能、透過性能、供給側流路形成の点で、分離膜表面(供給流体側)の高低差が100μm以上2000μm以下の範囲内であることが好ましい。さらにエレメントの供給流路を安定させ、分離、透過性能を高める上で、200μm以上1500μm以下、特に好ましくは200μm〜1000μmの高低差を設けることが適用される。
【0113】
分離膜表面、すなわち分離機能層表面の高低差は、市販の形状測定システムなどを用いて計測できる。例えば、レーザー顕微鏡による断面からの高低差測定、キーエンス製高精度形状測定システムKS−1000などで測定することができる。
【0114】
高低差を付与する方法としては特に限定されないが、分離膜にエンボス成形、水圧成形、カレンダ加工などの方法を用いることができ、好ましくは高低差を有する分離膜の成形後に40〜150℃の熱処理を施すことで凹凸形状保持性を向上させることができる。成形後の該熱処理温度は、分離膜から基材のみをはがし取り、基材のDSCを測定することでポリエステル繊維の熱処理温度を公知の方法を用いて同定することができる。
【0115】
高低差の成形工程としては特に限定されないが、分離膜を作製するまでの段階で多孔性支持層を加工する工程、基材を加工する工程、多孔性支持層および基材を積層した積層体を加工する工程や、分離機能層が形成された分離膜を加工する工程が好ましく用いることができる。
【0116】
該高低差を有する膜表面の形状としては特に限定されないが、流路の流動抵抗を少なくし、かつ分離膜エレメントに流体を供給、透過させた際の流路を安定化させることが重要である。これらの点で、膜表面の上部から観察した形としては、楕円、円、長円、台形、三角形、長方形、正方形、平行四辺形、菱形、不定形のいずれかで、立体的には表面上部からの形をそのまま表面方向に賦形したもの、広がる形で賦形したもの、狭める形で賦形したものが挙げられる。
【0117】
高低差の中心線よりも上方に位置を有する凸部の面積は、膜表面上部からの観察面積(2次元面積)において、全膜面積の5%〜80%であることが好ましく、流動抵抗と流路安定性の点で10〜60%であることが特に好ましい。
【0118】
本発明では、分離膜表面(供給流体側)に供給側流路材を配置することは、特に長期連続運転性に優れる分離膜エレメントを得る上で好適である。
【0119】
供給側流路材としては、例えばネットなどの連続構造物を採用できる。ネットを供給側流路材として用いる場合、供給側流路としての流動抵抗はやや高くなるものの、供給側流路が安定して形成されるため、分離膜エレメントを巻囲する際に、比較的高張力で巻くことが可能となる。そのため、運転、停止、圧力変化を加えた際の流路の変化が少なく、長期にわたり安定した性能を発現できる点で好ましい。
【0120】
一方、供給側流路材として不連続構造物を採用する場合、溶質の濃度分極を抑えつつ、流動抵抗を低く設定することが可能となり、分離膜エレメントの性能が向上する点で好適である。そのような供給側流路材の各構成部材の形状としては、楕円、円、長円、台形、三角形、長方形、正方形、平行四辺形、菱形、不定形を採用することができる。
【0121】
特に供給側流体の溶質の濃度が高い場合、濃度分極を防ぎ、かつ流動抵抗を低くするために、供給側流路材のピッチが1〜100mmであることが好ましく、さらには3〜50mmであることが、特には3〜20mmあることが好ましい。
【0122】
なお、供給側流路材のピッチも、透過側流路材のピッチと同様にして測定する。また、ここでいう連続、不連続構造も、上述した透過側流路材の連続、不連続構造と定義は同じである。
【0123】
次に、本発明の分離膜エレメントの製造方法について、逆浸透膜エレメントを例に詳細に説明する。
【0124】
本発明の分離膜エレメントの製造方法は限定されないが、基材上に多孔性支持層およびポリアミド分離機能層を積層して分離膜を得た後に、膜表面に凹凸を成形し、さらに該分離膜裏面側に透過側流路材を配置してエレメントを製造する代表的な方法について述べる。なお、凹凸の成形工程などは、前述したように分離膜製膜工程の前、途中、後のいずれにおいても取り入れることが可能である。
【0125】
基材に多孔性支持層を複合した後、多孔性支持層に多官能アミン水溶液を塗布し、余分なアミン水溶液をエアーナイフなどで除去した後、多官能酸ハロゲン化物含有溶液を塗布し、ポリアミド分離機能層を形成する。有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、多孔性支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。さらに、必要に応じて分離性能、透過性能を高めるべく、塩素、酸、アルカリ、亜硝酸などの化学処理を施し、さらにモノマー等を洗浄し分離膜を得る。その後、該分離膜の表面(分離機能層側)に、凹凸形状(円錐状:直径1mm、高さ0.7mm、先端R=0.2mm、間隔5mm)を付与し、95℃に加熱したカレンダーロールの間に80℃に予熱した分離膜を圧力(100kg/cm)で通過させ、高低差を有する分離膜の連続シートを作製する。
【0126】
該シートおよび従来のエレメント製作装置を用いて、トリコットの代わりにネット(例えば高さ500μm、間隔3mm)を分離膜裏面(基材側)に配置させたユニット、あるいは、トリコットの代わりに分離膜の基材側にホットメルト装置で異素材の透過側流路材をドット状に配置させたユニットを準備し、例えばリーフ数26枚、リーフ有効面積37mの8インチエレメントを作製する。エレメントを作製するためのより具体的な方法としては、参考文献(特許第4596297号公報、米国特許第6656362号明細書、特開2004−202371号公報)に記載される方法を用いることができる。
【0127】
このように製造される本発明の分離膜エレメントは、さらに、直列または並列に接続して圧力容器に収納した分離膜モジュールとすることもできる。
【0128】
また、上記の分離膜エレメント、モジュールは、それらに流体を供給するポンプや、その流体を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この装置を用いることにより、例えば原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0129】
流体分離装置の操作圧力は高い方が除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加する。そのため、原水から飲料水を得る場合などには、除去率と膜エレメントの供給流路、透過流路の保持性を考慮して、膜モジュールに原水を透過する際の操作圧力は、0.1MPa以上、8MPa以下が好ましい。さらに好ましくは、0.2MPa以上6MPa以下である。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、3℃以上60℃以下が好ましい。
【0130】
なお、かかる流体分離装置を例えば浄水器用途、かん水淡水化用途、工業用水処理に用いる場合、脱塩率が97%以上になるようにすることが好ましい。特にかん水淡水化用途では、脱塩率が98%以上であることがさらに好ましく、特に水質が要求される用途では、99%以上の脱塩率が望ましい。
【0131】
また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。一方、薬品洗浄の際には、低pH〜高pH、塩素化合物の添加、洗浄薬品を用いることが出来る。pHとしてはpH1〜13、塩素化合物としては、0.01〜100ppmが膜性能を低下させない範囲で使用できる。
【0132】
本発明に係る膜エレメントによって処理される流体は特に限定されないが、水処理に使用する場合、原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例】
【0133】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0134】
(分離膜裏面の異素材の投影面積比)
分離膜と異素材透過側流路材のサンプルを5cm×5cmで切り出し、レーザー顕微鏡(倍率10〜500倍程度の中から選択)を用い、ステージを移動させて、異素材の全投影面積を測定した。異素材を膜表面上部から投影した時に得られる投影面積を切り出し面積で割った値を得た。これを3サンプルについて行い、各サンプルで得られた値の平均を投影面積比として採用した。
【0135】
(分離膜表面の高低差)
投影面積比を求める際に切り出した各サンプルの分離膜表面について、キーエンス製高精度形状測定システムKS−1000を用い、隣接する凹凸部分において最も高さが高い部分と最も低い部分の高低差を測定し、平均の高低差を求めた。なお、10μm未満の高低差は省き、10μm以上の高低差のある箇所を測定し、各高さの値を総和した値を測定総箇所の数で割って求めた。これを3つのサンプルについて行い、各サンプルで得られた値の平均を採用した。
【0136】
(基材の繊維配向度)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で100〜1000倍の写真を撮影し、各サンプルから無作為に20本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定し、それらの平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度として求めた。
【0137】
(脱塩率(TDS除去率))
原水、透過水、及び濃縮水の電気伝導率を測定し、脱塩率を下式により算出した。
脱塩率(TDS除去率)(%)={1−(2×透過水TDS濃度)/(原水TDS濃度+濃縮水TDS濃度)}×100
(造水量)
供給水(かん水)の膜エレメント透水量を、膜エレメントあたり、1日あたりの透水量(m)を造水量(m/日)として表した。
【0138】
(長期運転性)
分離膜エレメントを運転し、1時間の測定を行った後に、開始から8時間後に運転を停止した。運転、停止を10回繰り返した際の透水量の保持率を下記式により求めた。
透水量保持率(%)=100×(10回繰り返しの後の透水量)/1回後の透水量
(実施例1〜3、比較例1〜3)
ポリエステル長繊維からなる不織布(糸径:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm/sec、繊維配向度:多孔性支持層側表層40°、多孔性支持層とは反対側の表層20°)上にポリスルホンの15.0重量%、ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を180μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる多孔性支持層(厚さ130μm)ロールを作製した。
【0139】
その後に、多孔性支持層ロールを巻きだし、ポリスルホン表面に、m−PDA1.8重量%、ε−カプロラクタム4.5重量%水溶液中を塗布し、エアノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.06重量%を含む25℃のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布した。その後、膜から余分な溶液をエアーブローで除去し、80℃の熱水で洗浄して、分離機能層を備えた分離膜のロールを得た。
【0140】
該分離膜を表1に記載した形状でエンボス加工し、分離膜表面(供給流体側)に高低差を付与し、90℃で1分熱処理した。
【0141】
その後、表2に記載する透過側流路材を分離膜裏側にノズル式ホットメルト加工機で形成し、該分離膜を折り畳むとともに裁断加工し、分離膜の外側に透過側流路材が配されたリーフ状物を26枚得た。それら26枚のリーフ状物を、折り畳まれている側の辺が重ね合わせ方向にずれるように積層するとともに、折り畳まれている側の辺以外の3辺で隣接するリーフ状物と接合した。このとき、分離膜エレメントでの有効面積が37mになるようにした。また、基材のDSCを測定すると90℃近傍に吸熱ピークが観測された。透過側流路材の基材への含浸厚みは、5μmであった。そして、透過側流路材は、各透過側流路材構成部材の高さ:幅の比率が2:3となるような断面長方形のストライプ状とし、かつ、該透過側流路材構成部材の長手方向がリーフ長手方向(すなわち中心管に直交する方向)になるように形成した。
【0142】
ここで、表中の分離膜の供給流路側のピッチとは、高低差のある分離膜表面における、ある一つの高い箇所の最も高いところから近接する別の高い箇所の最も高い箇所までの水平距離を示しており、200個についてカウントし、その平均値とした。一方、透過側流路材のピッチは、エレメントのリーフの中心軸方向と直交する方向対して近接する2つの透過側流路材構成部材の中心間距離を200箇所で測定し、その平均値とした。なお、投影面積比は小数点3桁目を四捨五入した。
【0143】
上記リーフ状物の積層体を、中心管の周囲に、分離膜の折り畳まれている側の辺が中心管の径方向に関して内側に配されるようにスパイラル状に巻き付けて分離膜エレメントを作製し、外周にフィルムを巻き付け、テープで固定した後に、エッジカット、端板取りつけ、フィラメントワインディングを行い、8インチエレメントを作製した。
【0144】
該エレメントを圧力容器に入れて、食塩を500mg/L含有する原水、運転圧力0.7MPa、運転温度25℃、pH7で運転(回収率15%)した際の性能を表3にまとめた。
【0145】
なお、透過側流路材の投影面積比を変更するため、比較例1では従来から用いられているトリコットを用いた。また、実施例2、3、比較例2、3では、各透過側流路材構成部材の高さ:幅の比が実施例1と同じとなるようにしつつも、ノズル式ホットメルト加工機のシムの形状、メルト樹脂の吐出量、吐出間隔を変更した。
【0146】
以上のような評価の結果、実施例1〜3では、比較例2、3に比べて、透過側の流動抵抗が低下するため単位時間あたりの透水量が多くなった。特に、投影面積比が小さすぎる比較例2では、膜の透過側流路材間への落ち込みが大きく、透水量保持率が低くなった。一方、比較例3のように投影面積比を高くしすぎると、透過側の流動抵抗が高くなり、初期の透水量が低下した。
【0147】
トリコットを透過側流路材として用いた比較例1と実施例1とを比べると、同等の除去率であるにも関わらず、実施例1では、透過側の流動抵抗が低下して透水量が大幅に増え、また、ストライプ状の透過側流路材が長期運転でもほとんど形状変化せず、透水量保持率が92%と高い値となった。
【0148】
(実施例4)
透過側流路材を分離膜裏側に形成する際に、一旦二軸延伸ポリエステルフィルム(東レ製ルミラーSタイプ50μm)上で透過側流路材を形成させた後に該透過側流路材を膜基材に60℃で転写させ、透過側流路材の基材への含浸厚みを0.6μmとした以外は実施例1と同様にした。
【0149】
その結果、透水量は45.6m/日と良好であるものの、長期運転性が82%まで低下した。
【0150】
(実施例5)
透過側流路材を分離膜裏側に形成する際に、ウレタン溶液塗布加工機を用い乾燥温度80℃で処理して透過側流路材の基材への含浸厚みを82μmとした以外は、実施例1と同様にした。
【0151】
その結果、透水量は41.9m/日、長期運転性は90%であった。
【0152】
(実施例6)
ウレタン溶液塗布後の乾燥温度を110℃にして透過側流路材の基材への含浸厚みを50μmにした以外は、実施例5と同様にした。
【0153】
その結果、透水量は43.5m/日、長期運転性は92%であった。
【0154】
(実施例7)
ウレタン溶液塗布後の乾燥温度を90℃にして透過側流路材の基材への含浸厚みを75μmにした以外は、実施例5と同様にした。
【0155】
その結果、透水量は42.3m/日、長期運転性は92%であった。
【0156】
(実施例8)
繊維配向度が多孔性支持層側表層:20°、多孔性支持層とは反対側の表層:40°の基材に変更した以外は、実施例1と同じにした。
【0157】
その結果、透水量は46.2m/日、長期運転性は83%であったが、分離膜表面に凹凸を付与する際の成形性が低下し、脱塩率が98.1%まで低下した。
【0158】
(実施例9)
分離膜および透過側流路材の条件を表1、2に示すように変更した以外は実施例1と同じした。なお、分離機能層を形成する際には、トリメシン酸クロリドに対しモル比で0.2となるようにイソフタル酸クロリドを添加した。また、分離膜表面(供給流体側)の楕円形状の凹凸は、該楕円の長径方向がエレメントの中心管に対して垂直になるように水圧成形し、その後に60℃で1分熱処理することで得た。
【0159】
その結果、表3に示すように、特に除去性能に優れている一方、透過側流路材のピッチが大きいため長期運転性はやや低い値となった。
【0160】
(実施例10)
分離膜および透過側流路材の条件を表1、2に示すように変更し、また、分離膜表面に凹凸形状を付与するためのエンボス加工の後に熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同じにした。
【0161】
その結果、造水量が向上する一方でやや除去率が低下する結果となった。
【0162】
(実施例11)
分離膜および透過側流路材の条件を表1、2に示すように変更した以外は実施例1と同じした。なお、分離機能層を形成する際に、トリメシン酸クロリドに対しモル比で1.0となるようにイソフタル酸クロリドを添加した。また、分離膜表面に凹凸形状を付与するために、エンボス加工の代わりに、分離膜とPP製の半円形状のシートとを積層してカレンダ成形(90℃、5MPa)した。
【0163】
その結果、基材への含浸厚みが32μmとなり、除去率、造水量ならびに長期運転性が安定した。
【0164】
(実施例12)
分離膜および透過側流路材の条件を表1、2に示すように変更した。また、分離機能層を形成した後の分離膜に凹凸形状を付与する代わりに、ポリスルホンの多孔性支持層に金属エンボス加工を行って凹凸形状を付与した後に、熱処理をせずに界面重合を行い分離機能層を形成した。さらに、透過側流路材として連続構造のネットを配した。それ以外は実施例11と同様にした。
【0165】
その結果、実施例1に比べて、透過側流路材の投影面積比が高く、該透過側流路材の形状もネットと連続構造であることから、実施例1に比べて透水量、透水量保持率ともに低下した。
【0166】
(実施例13)
分離膜および透過側流路材の条件を表1、2に示すように変更した以外は実施例12と同じにした。
【0167】
その結果、実施例1に比べて、透過側流路材の投影面積比が高く、該透過側流路材の形状もネットと連続構造であることから、実施例1に比べて透水量、透水量保持率ともに低下した。
【0168】
(実施例14)
分離膜表面(供給流体側)に高低差を付与しない代わりに、表1に示す連続構造のポリエチレン製ネット(糸径1100μm、網糸の交点のピッチ6mm)の供給側流路材を配置した以外は、実施例1と同様にした。
【0169】
その結果、実施例1に比べて透水量が低減したものの長期運転性が向上した。
【0170】
(実施例15)
分離膜表面(供給流体側)に高低差を付与しない代わりに、表1に示す不連続構造(ピッチ3mm、径0.5mm、高さ300μmの半円状PVC系発泡樹脂のドット)の供給側流路材を配置した以外は、実施例1と同様にした。
【0171】
その結果、実施例1に比べて透水量が低減したものの長期運転性が向上した。
【0172】
(実施例16)
基材を長繊維不織布から抄紙法で得られた不織布に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、成形性が低下し、脱塩率が97.2%まで低下した。
【0173】
(実施例17)
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂と、溶媒としてのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)とを用い、これらを90℃の温度下で十分に攪拌し、PVDF:13.0重量%、DMAc:87.0重量%となる原液を得た。
【0174】
次に、上記原液を25℃に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層(分離機能層)が形成された分離膜を得た。
【0175】
水 :30.0重量%
DMAc:70.0重量%
上記分離膜に実施例11と同様の透過側流路材(投影面積比0.10)を設けた。
【0176】
そして、該分離膜を、特許文献4に示されるように、上部に透過水の取出口を有する縦320mm、横220mm、厚み5mmの支持板の両面に、分離膜の凝固浴と接触した側(分離機能層)が支持板側とは反対側になるように貼り付け、エレメントを得た。
【0177】
このエレメントを、縦500mm、横150mm、高さ700mmの、底部にエアノズルを有し、濃度が3,000mg/リットルの活性汚泥を入れたタンクに収容し、エアノズルから空気を20リットル/分で供給しつつ、濾過線速度0.4m/日で透過試験を行った。この透過試験における、25℃に換算した初期の濾過差圧は0.4kPaで、2,000時間経過後においては1.2kPaであった。このエレメントの透過液側から純水を、濾過線速度0.4m/日で1時間供給する逆洗を行った後に再度上記と同様に透過試験を行ったところ、濾過差圧は0.5kPaに回復した。
【0178】
【表1】
【0179】
【表2】
【0180】
【表3】
【0181】
以上のように、本願発明により得られる分離膜エレメントは、造水性能が高く、長期間にわたり安定運転が可能であり、かつ、優れた除去性能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の分離膜エレメントは、特に、かん水や海水の脱塩、下排水処理に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0183】
1:分離膜表面(供給流体側)
2:分離膜裏面(透過流体側)
3:異素材の透過側流路材

図1
図2