(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5954499
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ボトム衣類
(51)【国際特許分類】
A41B 9/04 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
A41B9/04 F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-537057(P2015-537057)
(86)(22)【出願日】2015年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2015051524
【審査請求日】2015年7月28日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 勝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真寿美
(72)【発明者】
【氏名】増田 桂子
【審査官】
新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−022304(JP,U)
【文献】
特開2001−329402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰部、側部、及び裾口部を有する本体部を備え、
前記本体部は、前記側部において前記腰部と前記裾口部とを結ぶ結合ラインに沿って前身頃と後身頃とを結合して構成され、
前記後身頃は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、前記縦方向に対する伸縮性が前記横方向に対する伸縮性と等しく若しくは大きくなっており、
前記後身頃における前記腰部周りのラインと前記結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられており、
前記裾口部は、直立時の着用状態において、側面から見た場合に、前記結合ラインとの交差位置から股下位置までの前記後身頃側のラインに直線部分が形成されるように湾曲部分を有しているボトム衣類。
【請求項2】
腰部、側部、及び裾口部を有する本体部を備え、
前記本体部は、前記側部において前記腰部と前記裾口部とを結ぶ結合ラインに沿って前身頃と後身頃とを結合して構成され、
前記後身頃は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、前記縦方向に対する伸長率が80%以上となっており、
前記伸長率は、JIS L 1096の引張試験における試験片枚数を縦方向及び横方向に2枚ずつとし、引張速度を300mm±20mm/minとし、荷重を最大2.25kgf(22.1N)とし、荷重1.00kgf(9.8N)の場合の伸び率(%)についての2枚の試験片の平均値の整数位を縦方向又は横方向に対する伸長率とする伸長率試験によって算出され、
前記後身頃における前記腰部周りのラインと前記結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられており、
前記裾口部は、直立時の着用状態において、側面から見た場合に、前記結合ラインとの交差位置から股下位置までの前記後身頃側のラインに直線部分が形成されるように湾曲部分を有しているボトム衣類。
【請求項3】
腰部、側部、及び裾口部を有する本体部を備え、
前記本体部は、前記側部において前記腰部と前記裾口部とを結ぶ結合ラインに沿って前身頃と後身頃とを結合して構成され、
前記後身頃は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、前記縦方向に対する伸縮性が前記横方向に対する伸縮性と等しく若しくは大きくなっており、
前記後身頃における前記腰部周りのラインと前記結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられており、
前記結合ラインは、前記後身頃側が凸となるように湾曲部分を有しているボトム衣類。
【請求項4】
腰部、側部、及び裾口部を有する本体部を備え、
前記本体部は、前記側部において前記腰部と前記裾口部とを結ぶ結合ラインに沿って前身頃と後身頃とを結合して構成され、
前記後身頃は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、前記縦方向に対する伸長率が80%以上となっており、
前記伸長率は、JIS L 1096の引張試験における試験片枚数を縦方向及び横方向に2枚ずつとし、引張速度を300mm±20mm/minとし、荷重を最大2.25kgf(22.1N)とし、荷重1.00kgf(9.8N)の場合の伸び率(%)についての2枚の試験片の平均値の整数位を縦方向又は横方向に対する伸長率とする伸長率試験によって算出され、
前記後身頃における前記腰部周りのラインと前記結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられており、
前記結合ラインは、前記後身頃側が凸となるように湾曲部分を有しているボトム衣類。
【請求項5】
前記後身頃において、前記縦方向に対する伸長率が前記横方向に対する伸長率の1.0倍〜2.7倍となっており、
前記伸長率は、JIS L 1096の引張試験における試験片枚数を縦方向及び横方向に2枚ずつとし、引張速度を300mm±20mm/minとし、荷重を最大2.25kgf(22.1N)とし、荷重1.00kgf(9.8N)の場合の伸び率(%)についての2枚の試験片の平均値の整数位を縦方向又は横方向に対する伸長率とする伸長率試験によって算出される請求項1〜4のいずれか一項記載のボトム衣類。
【請求項6】
前記後身頃において、前記縦方向に対する伸長回復率が前記横方向に対する伸長回復率の1.0倍〜1.1倍となっており、
前記伸長回復率は、JIS L 1096の引張試験における試験片枚数を縦方向及び横方向に2枚ずつとし、引張速度を300mm±20mm/minとし、荷重を最大2.25kgf(22.1N)とし、荷重1.50kgf(14.7N)の場合の伸び率(%)についての2枚の試験片の平均値の整数位を縦方向又は横方向に対する伸長率とする伸長率試験を用い、伸長率試験での荷重1.50kgf時の伸び率が80%以上である場合には、伸度設定Lを80%とし、伸長率試験での荷重1.50kgf時の伸び率が60%以上80%未満である場合には、伸度設定Lを60%とし、伸長率試験での荷重1.50kgf時の伸び率が40%以上60%未満である場合には、伸度設定Lを40%とし、引張速度300mm±20mm/minで試験片を伸長及び回復させ、伸長回復後の元の長さに対する伸び率である残留伸びをL0とした場合に((L−L0)/L)×100(%)により算出される値についての2枚の試験片の平均値の整数位を縦方向又は横方向に対する伸長回復率とする伸長回復率試験によって算出される請求項1〜5のいずれか一項記載のボトム衣類。
【請求項7】
縫い縮める前の生地の寸法を縫い縮めた後の生地の寸法で除算した値をギャザー量とすると、前記ギャザーのギャザー量は、1.1倍〜1.3倍となっている請求項1〜6のいずれか一項記載のボトム衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトム衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
ショーツなどのボトム衣類では、着用者の臀部を覆うように本体部の生地が宛がわれる。従来のボトム衣類では、着用者の動作によって裾口部のラインが臀部側でずれ上がり、臀部がボトム衣類からはみ出てしまうという課題があった。ボトム衣類の購入者の大半は、ブラジャーとショーツとをセットで購入しているという背景があり、運動時においてもブラジャーとペアになる普段のショーツを着用していることが推測される。したがって、多数の着用者がボトム衣類における裾口部のラインのずれ上がりを経験しているという事情が存在している。
【0003】
このような課題に対し、例えば特許文献1に記載のボトム衣類では、臀部の膨らみに対応するヒップカップ部が前身頃側に一体的に設けられ、後身頃の左右両側辺部とヒップカップ部との縫着ラインの最下端を中心に、裾口部周りを含むラインにギャザーが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−49503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1のようなボトム衣類では、ギャザーの締付力によって裾口部のずれ上がりが防止されるようになっている。このような従来の構成では、肌に裾口部を喰い込ませることで裾口部のラインを安定させている。したがって、着用時にギャザーの締付力が強く作用し、着用感が損なわれてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、快適な着用感を維持しつつ、裾口部のずれ上がりを防止できるボトム衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、一側面に係るボトム衣類は、腰部、側部、及び裾口部を有する本体部を備え、本体部は、側部において腰部と裾口部とを結ぶ結合ラインに沿って前身頃と後身頃とを結合して構成され、後身頃は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、縦方向に対する伸縮性が横方向に対する伸縮性と等しく若しくは大きくなっており、後身頃における腰部周りのラインと結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられている。
【0008】
ボトム衣類の着用者が脚部を動かす際(例えば前屈動作など)、臀部の皮膚は、縦方向に沿って臀溝側に下方に延びると共に、横方向に沿って体の側方に延びる傾向がある。また、縦方向への皮膚の伸びは、横方向への皮膚の伸びに比べて大きいという傾向がある。このボトム衣類では、後身頃において、縦方向に対する伸縮性が横方向に対する伸縮性と等しく若しくは大きくなっている。このため、脚部を動かす際の皮膚の動きに後身頃を追従させることができる。さらに、このボトム衣類では、後身頃における腰部周りのラインと、本体部の側部における前身頃及び後身頃の結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられている。これらのギャザーにより、着用後の後身頃の伸びしろが十分に確保され、皮膚の動きに対する後身頃の追従性が高められる。したがって、このボトム衣類では、裾口部周りの締付力を強めることなく、快適な着用感を維持しつつ、裾口部のずれ上がりを防止できる。
【0009】
また、一側面に係るボトム衣類は、腰部、側部、及び裾口部を有する本体部を備え、本体部は、側部において腰部と裾口部とを結ぶ結合ラインに沿って前身頃と後身頃とを結合して構成され、後身頃は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、縦方向に対する伸長率が80%以上となっており、後身頃における腰部周りのラインと結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられている。
【0010】
ボトム衣類の着用者が脚部を動かす際(例えば前屈動作など)、臀部の皮膚は、縦方向に沿って臀溝側に下方に延びると共に、横方向に沿って体の側方に延びる傾向がある。また、縦方向への皮膚の伸びは、横方向への皮膚の伸びに比べて大きいという傾向がある。このボトム衣類では、後身頃において、縦方向に対する伸長率が80%以上となっている。このため、脚部を動かす際の皮膚の動きに後身頃を追従させることができる。さらに、このボトム衣類では、後身頃における腰部周りのラインと、本体部の側部における前身頃及び後身頃の結合ラインとにそれぞれギャザーが設けられている。これらのギャザーにより、着用後の後身頃の伸びしろが十分に確保され、皮膚の動きに対する後身頃の追従性が高められる。したがって、このボトム衣類では、裾口部周りの締付力を強めることなく、快適な着用感を維持しつつ、裾口部のずれ上がりを防止できる。
【0011】
また、裾口部は、着用状態において結合ラインとの交差位置から股下位置までの後身頃側のラインに直線部分が形成されるように湾曲部分を有していてもよい。このような構成により、裾口部のラインを臀部での皮膚の動きの少ない部分に沿わせることが可能となる。したがって、裾口部のずれ上がりをより確実に防止できる。
【0012】
また、結合ラインは、前記後身頃側が凸となるように湾曲部分を有していてもよい。この場合、結合ラインにおけるギャザーの形成し易さを確保できる。
【0013】
また、後身頃において、縦方向に対する伸長率が横方向に対する伸長率の1.0倍〜2.7倍となっていてもよい。この範囲では、皮膚の動きに対する後身頃の追従性を十分に確保でき、裾口部のずれ上がりを好適に防止できる。
【0014】
また、後身頃において、縦方向に対する伸長回復率が横方向に対する伸長回復率の1.0倍〜1.1倍となっていてもよい。この範囲では、皮膚の動きに対する後身頃の追従性を十分に確保でき、裾口部のずれ上がりを好適に防止できる。
【0015】
また、ギャザーのギャザー量は、1.1倍〜1.3倍となっていてもよい。この範囲では、着用後の後身頃の伸びしろを十分に確保でき、裾口部のずれ上がりを好適に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
このボトム衣類によれば、快適な着用感を維持しつつ、裾口部のずれ上がりを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ボトム衣類の一実施形態を示す正面図である。
【
図3】
図1に示したボトム衣類の着用状態を示す側面図である。
【
図4】
図1に示したボトム衣類の着用状態を背面後方から示す斜視図である。
【
図5】屈曲動作時の臀部の皮膚の動きを示す図であり、(a)は直立時、(b)は前屈時である。
【
図6】大転子と股下との間の臀溝に沿うラインの皮膚の変化の様子を示す図であり、(a)は直立時、(b)は脚上げ時である。
【
図7】大転子と股下とを直線的に結ぶラインの皮膚の変化の様子を示す図であり、(a)は直立時、(b)は脚上げ時である。
【
図8】
図1に示したボトム衣類の作用効果を示す図であり、(a)は着用直後、(b)は運動後である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、一側面に係るボトム衣類の好適な実施形態について詳細に説明する。
[ボトム衣類の構成]
【0019】
図1は、ボトム衣類の一実施形態を示す正面図である。また、
図2は、その背面図である。
図1及び
図2に示すように、ボトム衣類1は、例えば女性用のショーツとして構成されている。ボトム衣類1は、着用者の腹部、腰部、股部、臀部を覆うように形成された本体部2を備えている。本体部2は、前身頃3と後身頃4とを側部5で結合することによって構成され、着用者の腰周りに対応する腰部6と、着用者の両脚を通す左右の裾口部7とを有している。
【0020】
前身頃3及び後身頃4は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されている。縦方向とは、本体部2の上下方向であり、腰部6と裾口部7とを結ぶ直線方向である。また、横方向とは、本体部2の左右方向であり、腰部6周りに略一致する周方向である。前身頃3及び後身頃4に用いられる素材としては、例えば天竺、フライス、ツーウェイトリコットなどの編み組織が挙げられる。また、これらの素材は、端始末不要な編み組織となっていることが好ましい。
【0021】
後身頃4では、縦方向に対する伸縮性が横方向に対する伸縮性と等しく若しくは大きくなっている。より具体的には、後身頃4では、縦方向に対する伸長率が80%以上となっており、横方向に対する伸長率の1.0倍〜2.7倍となっている。また、後身頃4では、縦方向に対する伸長回復率が横方向に対する伸長回復率の1.0倍〜1.1倍となっている。このような伸縮性の方向性は、例えば縦方向と横方向とで生地の編み方を変えることによって実現できる。本実施形態では、前身頃3及び後身頃4は、同素材で形成されており、縦方向及び横方向に対する伸縮性が同等となっている。
【0022】
前身頃3と後身頃4との結合ラインL1は、
図3に示すように、本体部2の側中心線Xと腰部6との交差位置P1と、本体部2の側中心線Xと裾口部7との交差位置P2とを結ぶように、本体部2の上下に延在している。この結合ラインL1は、全体にわたって後身頃側が凸となるように緩やかに湾曲する湾曲部分Laとなっている。なお、本体部2の側中心線Xは、着用状態において着用者の体側線に略一致する。したがって、本体部2の側中心線Xと裾口部7との交差位置P2は、着用状態において着用者の大転子の位置に対応する。
【0023】
また、前身頃3と後身頃4との結合ラインL1と、後身頃4における腰部6周りのラインL2とには、
図3及び
図4に示すように、それぞれギャザー11が設けられている。ギャザーとは、生地を縫い縮めて寄せたひだである。ギャザー11の特性は、ギャザー量(倍率)で表される。ギャザー量は、縫い縮める前の生地の寸法を縫い縮めた後の生地の寸法で除算した値である。
【0024】
ギャザー11のギャザー量は、ボトム衣類1のサイズに応じて適宜変更可能であるが、例えば1.1倍〜1.3倍の範囲で設定される。前身頃3と後身頃4との結合ラインL1に設けられたギャザー11のギャザー量は、後身頃4における腰部6周りのラインL2に設けられたギャザー11のギャザー量よりも大きく設定されていることが好適であるが、互いに等しいギャザー量であってもよい。なお、前身頃3における腰部6周りのラインL2には、ギャザー11は設けられておらず、端始末のみが施されている。
【0025】
また、裾口部7は、
図2に示すように、着用状態において結合ラインL1との交差位置P2から股下位置P3までの後身頃4側のラインL3に直線部分Lc(
図4参照)が形成されるように湾曲部分Lbを有している。股下位置P3は、裾口部7周りのラインL3の最下点となる位置であり、着用状態において着用者の股間(鼠径部の最下点)に対応する位置である。
【0026】
本実施形態では、着用状態において直線部分Lcが交差位置P2から股下位置P3までの全体にわたって形成されるように、裾口部7の湾曲部分Lbの形状が設定されている。すなわち、湾曲部分Lbは、
図2及び
図3に示すように、着用時に本体部2の伸縮性によって伸びたときに直線部分Lcに変形するようになっている。裾口部7周りのラインL3は、全体にわたって端始末は施されておらず、裁断のみによって形成されている。これにより、加工の手間や端始末に用いる分の生地のカットロスが回避されている。また、裾口部7周りのラインにテープ類を配置せずに済むので、着用時に裾口部7が肌に喰い込むことを抑制できる。
[ボトム衣類の作用効果]
【0027】
まず、ボトム衣類1の構成の前提となる人体の情報について説明する。
【0028】
図5は、屈曲動作時の臀部の皮膚の動きを示す図である。同図に示す例は、人体の臀部に略等間隔で格子状に印を付け、直立時と前屈時とで印の位置の変化を観察したものである。
図5(a)に示すように、直立時では、印で囲まれる領域Rが略正方形状をなしていたのに対し、
図5(b)に示すように、前屈時では、体の側方側の印ほど下方に移動し、印で囲まれる領域Rが略菱形状に変形する。この結果から、人体の臀部の皮膚は、前屈動作に伴って、縦方向に沿って臀溝側に下方に延びると共に、横方向に沿って体の側方に延びる傾向があることが分かる。また、縦方向への皮膚の伸びは、横方向への皮膚の伸びに比べて大きいという傾向があることが分かる。
【0029】
これに対し、ボトム衣類1では、上述したように、後身頃4が縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、縦方向に対する伸縮性が横方向に対する伸縮性と等しく若しくは大きくなっている。このため、脚部を動かす際の臀部の皮膚の動き、すなわち、
図5に示した縦方向及び横方向への皮膚の伸びに後身頃4を追従させることができる。
【0030】
さらに、ボトム衣類1では、
図2等に示したように、後身頃4における腰部6周りのラインL2と、本体部2の側部5における前身頃3及び後身頃4の結合ラインL1とにそれぞれギャザー11が設けられている。後身頃4における腰部6周りのラインL2に設けられたギャザー11は、後身頃4の横方向に延在し、前身頃3及び後身頃4の結合ラインL1に設けられたギャザー11は、後身頃4の縦方向に延在している。このため、着用によって後身頃4が縦方向及び横方向に伸びた後においても、後身頃4の縦方向及び横方向への伸びしろが十分に確保され、臀部の皮膚の動きに対する後身頃4の追従性が高められる。したがって、ボトム衣類では、裾口部7周りの締付力を強めることなく、快適な着用感を維持しつつ、裾口部7のずれ上がりを防止できる。
【0031】
また、ボトム衣類1では、後身頃4において、縦方向に対する伸長率が横方向に対する伸長率の1.0倍〜2.7倍となっている。また、縦方向に対する伸長回復率が横方向に対する伸長回復率の1.0倍〜1.1倍となっている。この範囲とすることで、臀部の皮膚の動きに対する後身頃4の追従性を十分に確保でき、裾口部7のずれ上がりをより好適に防止できる。さらに、ボトム衣類1では、ギャザー11のギャザー量は、1.1倍〜1.3倍となっている。この範囲とすることで、着用後の後身頃4の伸びしろを十分に確保でき、裾口部7のずれ上がりをより好適に防止できる。
【0032】
また、ボトム衣類1では、結合ラインL1において、後身頃4側が凸となるように湾曲部分Laが設けられている。このような湾曲部分Laを設けることにより、結合ラインL1におけるギャザー11の形成し易さを確保できる。
【0033】
また、
図6及び
図7は、大転子と股下との間の臀溝に沿うラインの皮膚の変化の様子を示す図である。同図に示す例は、人体の大転子と股下とを結んだラインに紐を当て、直立時と脚上げ時とでラインの変化を観察したものである。
図6(a)に示すように、直立時において、大転子Aと股下Bとを臀溝Cに沿って結ぶラインD1に紐Eを当てた場合、
図6(b)に示すように、脚上げ時では、紐EがラインD1から離間する。
【0034】
一方、
図7(a)に示すように、直立時において、臀溝Cに沿わせずに大転子Aと股下Bとを直線的に結ぶラインD2に紐Eを当てた場合、
図7(b)に示すように、脚上げ時においても、紐EがラインD2に沿った状態(紐Eが臀部に密着した状態)が維持される。これらの結果から、大転子Aと股下Bとを直線的に結ぶラインD2は、直立時と脚上げ時とで間隔及び形状の変化が殆どないということが分かる。
【0035】
これに対し、ボトム衣類1では、
図3等に示したように、着用状態において結合ラインL1との交差位置P2から股下位置P3までの後身頃4側のラインL3に直線部分Lcが形成されるように、裾口部7に湾曲部分Lbが形成されている。このような構成により、着用状態において、裾口部7の後身頃4側のラインL3が着用者の大転子と股下とを直線的に結ぶように宛がわれる。したがって、裾口部7のラインL3を臀部での皮膚の動きの少ない部分に沿わせることが可能となり、裾口部7のずれ上がりをより確実に防止できる。本実施形態では、本体部2の側中心線Xと裾口部7との交差位置P2が大転子の位置に対応している。大転子の位置は、着用者の動作に対して動きが少なく、交差位置P2を大転子の位置に対応させることにより、裾口部7の位置を一層安定させることができる。
【0036】
図8は、ボトム衣類の作用効果を示す図である。同図に示す例では、ボトム衣類1と同等の構成を有するショーツを着用した状態で着用者に運動を行わせ、裾口部7の後身頃4側のラインL3のずれ上がりの様子を観察したものである。
図8(a)に示すように、ショーツを着用後、裾口部における後身頃側のラインに沿って着用者の皮膚に印を付し、その状態で3回の屈伸運動を行わせた。
【0037】
図8(b)は、運動後のショーツの状態を示す図である。運動後の着用者の皮膚の印のそれぞれからショーツの裾口部に向かって垂線を引き、印と裾口部との間隔を測定したところ、当該間隔は、0mm〜10mm程度に抑えられていた。したがって、ボトム衣類1の構成が裾口部7のずれ上がりを好適に抑制できることが確認できた。
[伸長率及び伸張回復率の測定]
【0038】
伸長率及び伸長回復率の測定は、例えば定速伸長形引張試験機を用いて実施できる。この試験では、例えば160mm×25mmの帯状に切り出した試験片を縦方向及び横方向にそれぞれ4枚ずつ用意し、2枚を伸長率試験用、もう2枚を伸長回復率試験用とする。
【0039】
伸長率試験では、試験片を上部つかみ25mm、下部つかみ35mm、つかみ間隔100mmとして試験機にセットし、300mm±20mm/minの速度で、最大2.25kgf(22.1N)の荷重をかける。そして、荷重1.00kgf(9.8N)、荷重1.50kgf(14.7N)、及び荷重2.25kgf(22.1N)の場合の伸び率(%)を測定し、2枚のサンプルの平均値の整数位を伸長率として算出する。
【0040】
伸長回復率試験では、伸長率試験と同様に試験片を試験機にセットする。次に、所定の伸度設定条件を用いて伸度を設定し、300mm±20mm/minの速度で伸長・回復を3回繰り返し、縦軸を荷重、横軸を伸び率とする荷重−伸び率曲線を算出する。この曲線に基づいて、1回目と3回目の試験結果から伸長力及び緊迫力を測定し、これらの平均値の整数位を算出する。なお、ここでの伸長力とは、上昇時の荷重であり、緊迫力とは、下降時の荷重である。
【0041】
伸度設定条件は、伸長率試験での1.50kgf時の伸び率に基づいて設定される。例えば伸張率試験での1.50kgf時の伸び率が80%以上である場合には、伸長力及び緊迫力の読み取り伸び率(荷重の測定点)を15%、30%、50%、及び80%とし、伸張率試験での1.50kgf時の伸び率が60%以上80%未満である場合には、伸長力及び緊迫力の読み取り伸び率を10%、30%、40%、及び60%とする。また、伸張率試験での1.50kgf時の伸び率が40%以上60%未満である場合には、伸長力及び緊迫力の読み取り伸び率を10%、20%、30%、及び40%とする。
【0042】
伸長回復率は、1回目の荷重−伸び曲線に基づいて算出される。算出式は、設定伸度をL、残留伸び(伸長回復後の元の長さに対する伸び率)をL
0とした場合に、((L−L
0)/L)×100(%)となる。最終的に、2枚のサンプルの平均値の整数位を伸長回復率として算出する。
[変形例]
【0043】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、前身頃3及び後身頃4が同素材で形成されているが、後身頃4のみが縦方向に対する伸縮性が横方向に対する伸縮性と等しい若しくは大きい素材によって構成されていてもよい。
【0044】
上記実施形態では、前身頃3と後身頃4との結合ラインL1は、全体にわたって後身頃4側が凸となるように緩やかに湾曲する湾曲部分Laとなっているが、結合ラインL1の一部(例えば中央部分)のみが湾曲部分となっていてもよい。また、湾曲部分Laを形成せず、前身頃3と後身頃4との結合ラインL1を直線状としてもよい。
【0045】
上記実施形態では、着用状態において結合ラインL1との交差位置P2から股下位置P3までの後身頃4側のラインL3が全体にわたって直線部分Lcとなるように裾口部7の湾曲部分Lbの形状が設定されているが、直線部分Lcは、着用状態において裾口部7における後身頃4側のラインL3の少なくとも一部に形成されるものでもよい。
【0046】
上記実施形態では、ボトム衣類として女性用のショーツを例示したが、本構成は、男性用のパンツ、水着、ガードルといった各種のボトム衣類にも適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…ボトム衣類、2…本体部、3…前身頃、4…後身頃、5…側部、6…腰部、7…裾口部、11…ギャザー、L1…結合ライン、L2…腰部周りのライン、L3…裾口部のライン、La…湾曲部分、Lb…湾曲部分、Lc…直線部分、P2…交差位置、P3…股下位置。
【要約】
ボトム衣類(1)は、腰部(6)、側部(5)、及び裾口部(7)を有する本体部(2)を備え、本体部(2)は、側部(5)において腰部(6)と裾口部(7)とを結ぶ結合ライン(L1)に沿って前身頃(3)と後身頃(4)とを結合して構成され、後身頃(4)は、縦方向及び横方向に伸縮性を有する素材によって形成されていると共に、縦方向に対する伸縮性が横方向に対する伸縮性よりも等しく若しくは大きくなっており、腰部(6)周りのライン(L2)と結合ライン(L1)とにそれぞれギャザー(11)が設けられている。