特許第5954517号(P5954517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5954517炭素繊維強化複合材料製管状体およびゴルフクラブシャフト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5954517
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化複合材料製管状体およびゴルフクラブシャフト
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20160707BHJP
   A01K 87/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   A63B53/10
   A01K87/00
【請求項の数】11
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-512154(P2016-512154)
(86)(22)【出願日】2016年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2016050779
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-66014(P2015-66014)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 一貴
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真実
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆行
(72)【発明者】
【氏名】市川 智子
【審査官】 中澤 真吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−74009(JP,A)
【文献】 特開2010−57462(JP,A)
【文献】 特開2003−103519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/10
A01K 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイジング剤Sが塗布されてなる炭素繊維Sが管状体の管軸に対し−20°〜+20°の方向に平行に配列され、熱硬化性樹脂Sを含んでなるストレート層と、
サイジング剤Bが塗布されてなる炭素繊維Bが管状体の管軸に対し+25°〜+65°の方向に平行に配列され、熱硬化性樹脂Bを含んでなるバイアス層とが積層され、硬化されてなる炭素繊維強化複合材料製の管状体であって、
炭素繊維Bおよびサイジング剤Bが、少なくとも下記(i)(ii)のいずれかを満たすとともに、バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であり、かつ、熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上である炭素繊維強化複合材料製管状体。
(i)炭素繊維Bは、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度(O/C)が0.25以下、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度(COH/C)が0.005以上、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が0.01以下である炭素繊維にサイジング剤Bが塗布されてなるものである。
(ii)サイジング剤Bは、脂肪族エポキシ樹脂を含むものである。
【請求項2】
熱硬化性樹脂Bの硬化物の弾性率が4.0GPa以上である、請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項3】
少なくとも前記(ii)を満たす場合において、炭素繊維Bは、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度(O/C)が0.25以下、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度(COH/C)が0.005以上、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が0.01以下である炭素繊維にサイジング剤Bが塗布されてなるものである、請求項1または2に記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項4】
少なくとも前記(i)を満たす場合において、サイジング剤Bが1種以上のエポキシ樹脂を含む、請求項1または2に記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項5】
サイジング剤Bに含まれる全エポキシ樹脂のエポキシ当量が350g/mol以下である、請求項4に記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項6】
サイジング剤Bが3官能以上のエポキシ樹脂を含む、請求項4または5に記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項7】
サイジング剤Bがエポキシ当量250g/mol以下のエポキシ樹脂を含む、請求項4から6のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項8】
少なくとも前記(ii)を満たす場合において、脂肪族エポキシ樹脂が、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールからなる群から選ばれる少なくとも1種とエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である、請求項1から3のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項9】
熱硬化性樹脂Sが1種以上のエポキシ樹脂を含む、請求項1からのいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項10】
熱硬化性樹脂Sが、アミノフェノール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリンおよびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含む、請求項に記載の炭素繊維強化複合材料製管状体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料製管状体を用いてなるゴルフクラブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化複合材料で構成される管状体に関する。詳しくは、軽量かつねじり強さに優れ、ゴルフクラブシャフト、テニスおよびバドミントンラケット等のスポーツ用具、航空宇宙構造体、トラス、マスト、船舶、自動車のプロペラシャフトに好適に用いられる炭素繊維強化複合材料製管状体、およびそれを用いてなるゴルフクラブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化複合材料は、軽量性能と力学特性に優れるために、スポーツ用途をはじめ、航空宇宙用途、一般産業用途に広く用いられている。
【0003】
スポーツ用途において、炭素繊維強化複合材料はしばしば管状体に成形され、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバトミントンのラケット等に使用される。これらの用途は軽量化が特に要求される分野であるが、軽量化手法の例として材料強度を高める手法が取られている。
【0004】
炭素繊維強化複合材料において、高強度あるいは高弾性率の炭素繊維を適切に適用することにより管状体強度が向上する。特許文献1では、高いストランド引張弾性率を示す炭素繊維を用いることで、高いねじり強さを有する炭素繊維強化複合材料製管状体が提案されている。しかしながら、近年、炭素繊維強化複合材料への要求特性レベルの向上にともない、炭素繊維の性能を向上させるのみで達成できる材料強度では不十分になりつつある。
【0005】
エポキシ樹脂はその優れた機械特性や、炭素繊維との良好な接着性などの面から炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として、好適に用いられる。特許文献2では、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とアミン型エポキシ樹脂を用いた、円筒曲げ強度および耐衝撃性に優れた管状体が提案されている。また、特許文献3では特定の架橋度で硬化したエポキシ樹脂硬化物をマトリックス樹脂として用いることにより炭素繊維強化複合材料製管状体の3点曲げ強度を向上させる手法が提案されている。
【0006】
炭素繊維とマトリックス樹脂との剪断強度を向上させる技術も開示されている。特許文献4には面内剪断強度を高めることで、炭素繊維強化複合材料製管状体の圧壊強度と耐衝撃性を向上させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−290627号公報
【特許文献2】特開2012−197414号公報
【特許文献3】特開2014−111727号公報
【特許文献4】特開2000−254917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の文献において、炭素繊維強化複合材料の剪断強度、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂の種類、樹脂弾性率の向上などに着目した検討がなされているが、炭素繊維複合材料製管状体は更なる強度の向上が求められている。また、炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度とマトリックス樹脂の樹脂弾性率の両方に着目して高度に破壊モードを制御し、炭素繊維強化複合材料製管状体の力学特性を向上させる技術的思想は開示されていなかった。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術における問題点を鑑み、優れた円筒曲げ強度を有する炭素繊維強化複合材料製管状体、およびそれを用いてなるゴルフクラブシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述した目的を達成するために以下の構成を有する。すなわち、本発明の炭素繊維強化複合材料製管状体は、サイジング剤Sが塗布されてなる炭素繊維Sが管状体の管軸に対し−20°〜+20°の方向にシート状に配列され、熱硬化性樹脂Sを含んでなるストレート層と、サイジング剤Bが塗布されてなる炭素繊維Bが管状体の管軸に対し+25°〜+65°の方向にシート状に配列され、熱硬化性樹脂Bを含んでなるバイアス層とが積層され、硬化されてなる炭素繊維強化複合材料製の管状体であって、バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であり、熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上である。
【0011】
ここで、「サイジング剤S」、「炭素繊維S」、「熱硬化性樹脂S」はそれぞれストレート層に用いられるサイジング剤、炭素繊維、熱硬化性樹脂を表し、「サイジング剤B」、「炭素繊維B」、「熱硬化性樹脂B」はそれぞれバイアス層に用いられるサイジング剤、炭素繊維、熱硬化性樹脂を表し、本発明においては、少なくとも下記(i)(ii)のいずれかを満たすことを特徴とする
(i)炭素繊維Bは、X線光電子分光法により測定される表面酸素濃度(O/C)が0.25以下、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度(COH/C)が0.005以上、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が0.01以下である炭素繊維にサイジング剤Bが塗布されてなるものである。
(ii)サイジング剤Bは、脂肪族エポキシ樹脂を含むものである。
【0012】
また、本発明のゴルフクラブシャフトは、上記炭素繊維強化複合材料製管状体を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い円筒曲げ強度を有する炭素繊維強化複合材料製管状体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、さらに詳しく、本発明の炭素繊維強化複合材料製管状体(以下、管状体)について説明する。
【0015】
本発明の管状体は、サイジング剤Sが塗布されてなる炭素繊維Sが管状体の管軸に対し−20°〜+20°の方向に平行に配列され、熱硬化性樹脂Sを含んでなるストレート層と、サイジング剤Bが塗布されてなる炭素繊維Bが管状体の管軸に対し+25°〜+65°の方向に平行に配列され、熱硬化性樹脂Bを含んでなるバイアス層とが積層され、硬化されてなる炭素繊維強化複合材料製の管状体であって、バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であり、熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上である。
【0016】
本発明者らは熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上であると、円筒曲げ試験において、ストレート層の硬化物からバイアス層の硬化物に破壊の起点が遷移することを見いだした。さらに、該条件においてバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であるときに管状体の円筒曲げ強度が高くなることを見いだし、本発明に至った。すなわち、硬化物が特定の弾性率を有する熱硬化性樹脂を用いたストレート層と、特定の層間剪断強度を持つ炭素繊維強化複合材料を与えるバイアス層を組み合わせることで、高い円筒曲げ強度が得られることを見いだしたものである。
【0017】
バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であっても、熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa未満のときには、ストレート層の硬化物で破壊して、円筒曲げ強度が十分ではないことが確認されている。
【0018】
熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上であっても、バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa未満では円筒曲げ強度の向上が十分ではないことが確認されている。
【0019】
本発明のストレート層では、管状体の管軸方向に対する炭素繊維Sの配列方向が−20°〜+20°である。かかる範囲ではストレート層の硬化物で負担できる曲げ応力が高いため、管状体としての曲げ強度が高くなる。炭素繊維Sのより好ましい範囲は−10°〜+10°である。
【0020】
本発明のバイアス層では、管状体の管軸方向に対する炭素繊維Bの配列方向が+25°〜+65°である。かかる範囲では、バイアス層の硬化物で負担できる剪断応力が高いため、管状体の曲げ強度が高くなる。炭素繊維Bのより好ましい範囲は+35°〜+55°であることが好ましい。
【0021】
管状体は、管軸方向に対して炭素繊維が互いに軸対称に配向した2層構造のバイアス層を備えても良い。
【0022】
ストレート層および/またはバイアス層の繊維目付は、好ましくは50〜200g/m、繊維含有率は、65〜87質量%であることが好ましい。繊維目付が50〜200g/m、繊維含有率が65〜87質量%の範囲では、軽量化を高める効果や管状体の成形性が良好になるため好ましい。繊維目付は70〜150g/mであることがより好ましい。繊維含有率は70〜85質量%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の管状体の硬化前の状態において、ストレート層の少なくとも一層は、バイアス層の外周側に配されることが好ましい。ストレート層が、バイアス層の外周側に配されていると、管状体の円筒曲げ強度が向上するため好ましい。
【0024】
本発明の管状体の硬化前の状態では、上述したバイアス層、ストレート層以外にも、様々な方向に配置した炭素繊維を含む層を配することができ、管状体に多様な性能を具備させることができる。例えば、側方からの押し潰し力(圧壊力)に抗する耐圧壊力を備えさせるために、管状体の管軸に対し炭素繊維方向が+75°〜+90°となるフープ層を、最内層、バイアス層とストレート層との間、または最外層に配することができる。
【0025】
本発明の管状体に係る熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率は4.0GPa以上である。熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上である場合、ストレート層の硬化物での破壊が抑制され、管状体の円筒曲げ強度が高くなる。好ましくは4.2GPa以上であり、さらに好ましくは4.4GPa以上である。
【0026】
本発明の管状体に係る熱硬化性樹脂Bの硬化物の弾性率は4.0GPa以上であることが好ましい。熱硬化性樹脂Bの硬化物の弾性率が4.0GPa以上であると、層間剪断強度が向上するため、管状体の円筒曲げ強度が向上する。より好ましくは4.2GPa以上であり、さらに好ましくは4.4GPa以上である。
【0027】
熱硬化性樹脂の硬化物の弾性率はJIS K7171(1994)に従って3点曲げによって求めることができる。硬化条件としては130℃、2時間とする。
【0028】
本発明のバイアス層に用いる炭素繊維強化複合材料は層間剪断強度が110MPa以上である。バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であると、バイアス層の硬化物が負担できる剪断応力が高くなる。層間剪断強度が110MPa未満であると、円筒曲げ強度がストレート層の硬化物が破壊した場合の最大値と同レベルまたは同レベル以下になる。好ましくは120MPa以上であり、より好ましくは130MPa以上である。
【0029】
本発明のストレート層に用いる炭素繊維強化複合材料は層間剪断強度が110MPa以上であることが好ましい。管状体はストレート層の硬化物とバイアス層の硬化物との間で応力の交換作用があるため、層間剪断強度が高い材料をストレート層に用いることで管状体の円筒曲げ強度が高まるため好ましい。より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは130MPa以上である。
【0030】
層間剪断強度はストレート層またはバイアス層に用いる炭素繊維強化複合材料を構成するプリプレグを0°方向に12層積層し、オートクレーブ中で温度130℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化した後、ASTM D2344に従い、測定される。
【0031】
炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は、サイジング剤を塗布した炭素繊維の物性、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物との接着性(以下、単に接着性と称す。)、および熱硬化性樹脂の硬化物の物性により制御できる。
【0032】
次に管状体を構成する成分について説明する。
【0033】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bとしては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レイヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。中でも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。そのストランド引張強度は3.5GPa以上であることが好ましい。3.5GPa以上であると炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が向上するため好ましい。より好ましくは4.0GPa以上であり、さらに好ましくは5.0GPaである。また、炭素繊維のストランド弾性率は、220GPa以上であることが好ましい。220GPa以上であると炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が向上するため好ましい。より好ましくは240GPa以上である。
【0034】
本発明において、炭素繊維のストランド弾性率とストランド引張強度は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、130℃、30分を用いる。
【0035】
本発明の炭素繊維Bは、X線光電子分光法により測定される炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)が0.25以下、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度(COH/C)が0.005以上、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が0.01以下であることが好ましい。
【0036】
本発明の炭素繊維Bは、X線光電子分光法による測定されるその炭素繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の元素数の比である表面酸素濃度(O/C)は0.25以下が好ましい。表面酸素濃度(O/C)が0.25以下であると炭素繊維表面に脆弱層が形成されにくく、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物樹脂との接着性が高くなるため好ましい。表面酸素濃度(O/C)は好ましくは0.10以上であり、より好ましくは0.14以上である。表面酸素濃度(O/C)が0.10以上であると、炭素繊維とサイジング剤との相互作用が増大するため、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物樹脂の接着性が向上し、層間剪断強度が向上するため好ましい。
【0037】
本発明の炭素繊維Bは、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が0.005以上であることが好ましい。表面水酸基濃度(COH/C)が0.005以上であると、炭素繊維とサイジング剤との相互作用が増大し、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物の接着性が向上し、層間剪断強度が向上する。より好ましくは0.016以上である。表面水酸基濃度(COH/C)の上限としては、接着性の観点から0.03で十分である。
【0038】
本発明の炭素繊維Bは化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数比で表されるカルボキシル基濃度(COOH/C)が0.01以下であることが好ましい、より好ましくは0.005以下である。表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が0.01以下の場合には、脆弱層が生成せず、酸化物層に起因する熱硬化性樹脂の硬化物との接着性が向上し、層間剪断強度が高くなるため好ましい。
【0039】
本発明の炭素繊維Sの表面酸素濃度(O/C)、表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は限定されないが、前記範囲である炭素繊維を用いることが好ましい。層間剪断強度が高い材料をストレート層に用いることで管状体の円筒曲げ強度が高まるため好ましい。
【0040】
炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bの表面酸素濃度(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち、光電子脱出角度を45°として測定を行う。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの結合エネルギー値を、285eVに合わせる。C1sピーク面積を、275〜290eVの結合エネルギー値の範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積を、525〜540eVの結合エネルギー値の範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0041】
ここで、表面酸素濃度(O/C)とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。
【0042】
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めることができる。
【0043】
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を285eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの結合エネルギー値の範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの結合エネルギー値の範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求める。
【0044】
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出する。
【0045】
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値である。
【0046】
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めることができる。
【0047】
まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体および0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を285eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの結合エネルギー値の範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの結合エネルギー値の範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求める。
【0048】
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、下式により算出する。
【0049】
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値である。
【0050】
次に、本発明の管状体に用いるサイジング剤について説明する。
【0051】
本発明のサイジング剤Bには、エポキシ樹脂を1種以上含むことが好ましい。エポキシ樹脂を含むサイジング剤は炭素繊維の表面官能基と強固に接着するとともに、マトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との相互作用が強く、炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が向上するため好ましい。
【0052】
前記サイジング剤Bはサイジング剤100質量部に対して、エポキシ樹脂の合計を30質量部以上含むことが好ましい。30質量部以上含むことで接着性が向上し、層間剪断強度が向上するため好ましい。70質量部以上含むことがより好ましく、さらに85質量部以上含むことが好ましい。
【0053】
本発明において、サイジング剤Bは、エポキシ当量が350g/mol以下であることが好ましい。ここでエポキシ当量とは、炭素繊維に塗布する前のサイジング剤のエポキシ当量である。エポキシ当量が350g/mol以下であると、炭素繊維表面に存在するエポキシ基の密度が高くなる。このため、炭素繊維との相互作用が強くなり、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物との接着性が向上し、層間剪断強度が向上する。より好ましくは270g/mol以下であり、さらに好ましくは180g/mol以下である。
【0054】
本発明において、バイアス層に使用するエポキシ樹脂は分子内に3以上のエポキシ基を有することが好ましい。分子内に3以上のエポキシ基を有することで、1つのエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と相互作用した場合でも、残りのエポキシ基が熱硬化性樹脂と相互作用することで接着性が向上し、高い層間剪断強度を示す。エポキシ基の数の上限は特にないが、10個以上では接着性が飽和する場合がある。
【0055】
本発明において、バイアス層に使用するエポキシ樹脂は、エポキシ当量が250g/mol以下であることが好ましい。ここでエポキシ当量とは、炭素繊維に塗布する前のエポキシ樹脂のエポキシ当量である。エポキシ当量が250g/mol以下であると、サイジング剤全体のエポキシ当量が低下し、炭素繊維表面存在するエポキシ基の密度が高くなる。このため、炭素繊維との相互作用が強くなり、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物との接着性が向上し、層間剪断強度が向上する。より好ましくは200g/mol以下であり、さらに好ましくは180g/mol以下である。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/mol以上で接着性の向上効果が飽和する場合がある。
【0056】
本発明において、バイアス層に用いるエポキシ樹脂は、脂肪族エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0057】
脂肪族エポキシ樹脂は分子内に芳香環を含まないエポキシ樹脂である。芳香環とは電子共役を有し、芳香族性を示す環状の化学骨格である。脂肪族エポキシ樹脂は自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有する。その結果、接着性が向上し、層間剪断強度が向上することから好ましい。
【0058】
本発明の脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0059】
脂肪族グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンをグリシジル化して得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0060】
脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0061】
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られる脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ樹脂が挙げられる。さらに、このエポキシ樹脂としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
【0062】
脂肪族エポキシ樹脂としては、これらのエポキシ樹脂以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ樹脂が挙げられる。
【0063】
脂肪族エポキシ樹脂は1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基からなる群から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を有することが好ましい。エポキシ樹脂の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
【0064】
エポキシ基に加えて水酸基を有する化合物としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(商標登録)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0065】
エポキシ基に加えてアミド基を有する化合物としては、例えば、アミド変性エポキシ樹脂等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0066】
エポキシ基に加えてウレタン基を有する化合物としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられ、具体的には“アデカレジン(商標登録)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ樹脂内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0067】
エポキシ基に加えてウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ樹脂等が挙げられる。ウレア変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
【0068】
脂肪族エポキシ樹脂は、上述した中でも高い接着性の観点からグリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選ばれる少なくとも1種とエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテルであることがより好ましい。
【0069】
また、本発明のサイジング剤Bは上述の脂肪族エポキシ樹脂以外にも、芳香族を分子内に含む芳香族エポキシ樹脂を用いることができる。具体例としては、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、およびポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0070】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0071】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンが挙げられる。さらに、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、および9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンをグリシジル化した化合物が挙げられる。
【0072】
さらに、グリシジルアミン型エポキシ樹脂として、例えば、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方をグリシジル化したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0073】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等をエピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0074】
これらのエポキシ樹脂以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ樹脂が挙げられる。さらには、上に挙げたエポキシ樹脂を原料として合成されるエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0075】
本発明のサイジング剤Sは、前述の脂肪族エポキシ樹脂および前述の芳香族エポキシ樹脂を用いることができるが、層間剪断強度を向上させる観点から脂肪族エポキシ樹脂を含むことが好ましい。特に、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選ばれる少なくとも1種とエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテルであることがより好ましい。
【0076】
また、本発明のサイジング剤Sおよび/またはサイジング剤Bは、炭素繊維と熱硬化性樹脂の硬化物との接着性を高める目的で、接着性を促進する成分を添加することができる。これらの成分は上記エポキシ樹脂が溶解、または分散している溶液に溶解させ、均一なサイジング剤溶液として用いることが好ましい。
【0077】
接着性を促進する成分の一例としては、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−ベンジルイミダゾールや、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等の3級アミン化合物およびその塩、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物およびその塩などの4級ホスホニウム塩などが挙げられる。これら化合物は、本発明で用いられるサイジング剤全量に対して好ましくは1〜25質量%、さらに好ましくは2〜15質量%配合するのが好ましい。
【0078】
本発明のサイジング剤Sおよび/またはサイジング剤Bには、上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
【0079】
本発明において、サイジングSおよび/またはサイジングBの炭素繊維に対する付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲であることが好ましく、サイジング剤の付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤を塗布した炭素繊維をプリプレグ化等する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、管状体製造工程が安定化する。一方、サイジング剤の付着量が10質量部以下であると、炭素繊維周囲のサイジング剤膜に阻害されることなく熱硬化性樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、炭素繊維強化複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。より好ましくは0.2〜3質量部の範囲である。この際、炭素繊維に対するサイジング剤成分の付着量が適正範囲で付着するように、サイジング剤溶液濃度・温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましく、サイジング剤溶液の濃度としては、サイジング剤成分が0.1質量%以上20質量%以下の溶液を用いることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂について説明する。
【0081】
本発明の熱硬化性樹脂Sは、エポキシ樹脂を1種以上含むことが好ましい。エポキシ樹脂の硬化物は弾性率が高く、管状体の円筒曲げ強度が向上する。
【0082】
本発明のストレート層に用いるエポキシ樹脂は、アミノフェノール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂であることが好ましい。これらのエポキシ樹脂を使用することで、硬化物の弾性率が向上する。
【0083】
アミノフェノール型エポキシ樹脂としては、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。
【0084】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)等を使用することができる。
【0085】
固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、“jER(登録商標)”4007P、“jER(登録商標)”4010P、“jER(登録商標)”4004P(以上、三菱化学(株)製)、YDF2001、YDF2004(以上、新日鉄住金化学(株)製)等が挙げられる。
【0086】
ジグリシジルアニリンの市販品としては、例えば、GAN、GOT(以上日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0087】
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、“jER(登録商標)”1032 H60(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0088】
本発明の熱硬化性樹脂Bは、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂を用いることで、層間剪断強度が向上する。
【0089】
本発明のバイアス層に用いるエポキシ樹脂は、アミノフェノール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂であることが好ましい。これらのエポキシ樹脂を使用することで層間剪断強度が向上する。
【0090】
また、本発明の熱硬化性樹脂Sおよび/または熱硬化性樹脂Bにはエポキシ樹脂を加熱硬化させるために硬化剤を配合することができる。かかる硬化剤としては、芳香族アミン、脂環式アミンなどのアミン類、酸無水物類、ポリアミノアミド類、有機酸ヒドラジド類、イソシアネート類等が挙げられるが、中でもアミン硬化剤は、力学特性や耐熱性に優れることから好ましく、芳香族アミンであるジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタンや、ジシアンジアミドまたはその誘導体、ヒドラジド化合物等が用いられる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。ジシアンジアミドの誘導体は、ジシアンジアミドに各種化合物を結合させたものであり、エポキシ樹脂との反応物、ビニル化合物やアクリル化合物との反応物などが挙げられる。
【0091】
また、硬化剤の総量は、全エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましい。活性水素基の量が0.6当量に満たない場合は、熱硬化性樹脂の硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、熱硬化性樹脂の硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性等の物性が不足する場合がある。0.7〜1.0当量の範囲となる量を含むことがより好ましい。
【0092】
各硬化剤は、硬化促進剤や、その他のエポキシ樹脂の硬化剤と組み合わせて用いても良い。組み合わせる硬化促進剤としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸などが挙げられる。
【0093】
かかるウレア化合物としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上CVC SpecialtyChemicals,Inc.製)などが挙げられる。
【0094】
イミダゾール類の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成(株)製)などが挙げられる。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素・オクチルアミン錯体などの、ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。
【0095】
中でも、保存安定性と硬化促進能力のバランスから、ウレア化合物が好ましく用いられる。かかるウレア化合物の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1〜5質量部含むことが好ましい。かかるウレア化合物の配合量の範囲とすることで、弾性率と耐熱性に優れる硬化物を得ることができる。
【0096】
また、本発明の熱硬化性樹脂Sおよび/または熱硬化性樹脂Bには、粘弾性を調整して作業性または熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱性を向上させる目的で、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、アミノフェノール型エポキシ樹脂、固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を、本発明の効果が失われない範囲で添加することができる。これらは1種類だけでなく、複数種組み合わせて添加しても良い。具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0097】
また、本発明の熱硬化性樹脂には粘弾性を制御し、プリプレグのタックおよびドレープ特性や、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性などの力学特性を改良するために、熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子や、無機粒子等を配合することができる。
【0098】
熱可塑性樹脂としては、炭素繊維との接着性改善効果が期待できる水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。水素結合性官能基としては、アルコール性水酸基、アミド結合、スルホニル基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0099】
アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂などを挙げることができる。アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンなどを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミドなどを挙げることができる。
【0100】

熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられる。中でも、ポリアミドは特に好ましく、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6/12共重合体や特開平1−104624号公報の実施例1記載のエポキシ樹脂にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、特に良好なエポキシ樹脂との接着強度を与える。熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい形態である。
【0101】
次に、本発明に用いられる炭素繊維の製造方法について説明する。
【0102】
炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bの前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。中でも、高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。紡糸原液には、PAN系炭素繊維を製造する場合、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体の溶液や懸濁液等を用いることができる。
【0103】
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸、凝固、水洗、延伸して前駆体繊維とし、得られた前駆体繊維を耐炎化処理と炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
【0104】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるという観点から、細繊度の炭素繊維が好ましく用いられる。具体的には、炭素繊維の単繊維径が、7.5μm以下であることが好ましい。単繊維径の下限は特にないが、4.5μm以下では工程における単繊維切断が起きやすく生産性が低下する場合がある。
【0105】
得られた炭素繊維は、熱硬化性樹脂の硬化物との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0106】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられる。
【0107】
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。中でも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
【0108】
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。中でも、アルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0109】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましい。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。
【0110】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましい。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。より好ましくは10〜40℃の範囲内である。
【0111】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
【0112】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m当たり1.5〜1000アンペア/mの範囲内であることが好ましい。電流密度が1.5アンペア/m以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m以下であると、安全性の観点から有利になる。より好ましくは3〜500アンペア/mの範囲内である。
【0113】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて、炭素繊維を電解処理した後、水洗および乾燥することが好ましい。この場合、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が250℃以下が好ましく、より好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。
【0114】
サイジング剤Sおよび/またはサイジング剤Bの炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
【0115】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bにおいて、サイジング剤を溶媒で希釈して用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、中でも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、水が好ましく用いられる。
【0116】
本発明の炭素繊維Sおよび/または炭素繊維Bににおいては、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、サイジング剤に含まれる溶媒を除去する観点から、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましく、より好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間、さらに好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。
【0117】
次に管状体の製造方法について説明する。
【0118】
本発明の管状体は、中空構造を有する円筒体または角柱体等からなる管状体であることを特徴とする。つまり、その断面形状にかかわらず、管体構造を形成しているものである。
【0119】
本発明の管状体は、熱硬化性樹脂を繊維基材に含浸させてなる、いわゆるプリプレグを介して製造することができる。
【0120】
炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグシートを作製する方法としては熱硬化性樹脂をメチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法と、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等を挙げることができる。
【0121】
ウェット法は、炭素繊維を熱硬化性樹脂の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法であり、ホットメルト法は、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂を直接炭素繊維に含浸させる方法、又は一旦熱硬化性樹脂を離型紙等の上にコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで炭素繊維の両側又は片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより炭素繊維に樹脂を含浸させる方法である。ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい。
【0122】
プリプレグを賦形および/または積層後、賦形物および/または積層物に圧力を付与しながら樹脂を加熱硬化させる方法等により、本発明にかかる炭素繊維強化複合材料が作製される。
【0123】
ここで熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等を適宜使用することができる。
【0124】
ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、炭素繊維強化複合材料製管状体を成形する方法であり、ゴルフクラブシャフト、釣り竿等の管状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定および圧力付与のため、プリプレグの外側にラッピングテープを捲回し、オーブン中で熱硬化性樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き取って管状体を得る方法である。
【0125】
また、内圧成形法は、チューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、成形する方法である。
【0126】
本発明の管状体は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好適に用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途、ホッケー等のスティック用途、およびスキーポール用途に好適に用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、製紙用ローラ、補修補強材料等に好適に用いられる。本発明の管状体は、中でもゴルフクラブシャフト、釣り竿などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0127】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0128】
<炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)>
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち、光電子脱出角度を45°としてX線光電子分光測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの結合エネルギー値を、285eVに合わせた。C1sピーク面積を、結合エネルギー値として275〜290eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積を、結合エネルギーとして525〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。
【0129】
ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いた。
【0130】
<炭素繊維の表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)>
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
【0131】
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を285eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求めた。
【0132】
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表した。
【0133】
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
【0134】
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体および0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を285eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
【0135】
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
【0136】
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
【0137】
<熱硬化性樹脂の硬化物の曲げ弾性率>
未硬化の熱硬化性樹脂を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚みが2mmになるように設定したモールド中で、130℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの熱硬化性樹脂の硬化物を得た。この硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパン間長さを32mm、クロスヘッドスピードを2.5mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、曲げ弾性率を得た。サンプル数n=5とし、その平均値で比較した。
【0138】
<層間剪断強度>
ストレート層および/またはバイアス層を構成するプリプレグを0°方向に12層積層し、オートクレーブ中で温度130℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、炭素繊維強化複合材料板を得た。この炭素繊維強化複合材料板をASTM D2344に従い、0°方向長さが14mm、幅方向が6.4mmの短冊状に切り出し、3点曲げ試験を行い、層間剪断強度を得た。
【0139】
<管状体の円筒曲げ試験>
内径6.3mmの円筒状CFRPを用い、「ゴルフクラブ用シャフトの認定基準および基準確認方法」(製品安全協会編、通商産業大臣承認5産第2087号、1993年)に記載の3点曲げ試験方法に基づき曲げ破壊荷重を測定し、該荷重値を円筒曲げ強度とした。支点間距離300mm、試験速度5mm/分とした。
【0140】
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は、下記のとおりである。
【0141】
A.炭素繊維(A−1)〜(A−4)
(A−1)炭素繊維1(表面酸素濃度(O/C)=0.15、表面水酸基濃度(COH/C)=0.016、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)=0.004)
(A−2)炭素繊維2(表面酸素濃度(O/C)=0.13、表面水酸基濃度(COH/C)=0.015、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)=0.005)
(A−3)炭素繊維3(表面酸素濃度(O/C)=0.23、表面水酸基濃度(COH/C)=0.02、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)=0.008)
(A−4)炭素繊維4(表面酸素濃度(O/C)=0.09、表面水酸基濃度(COH/C)=0.003、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)=0.001)。
【0142】
B.サイジング剤(B−1)〜(B−6)
(B−1)“デナコール(登録商標)”Ex−411(ナガセケムテックス(株)製)
ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル
エポキシ基数3.2、エポキシ当量230g/mol
(B−2)“デナコール(登録商標)”Ex−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
エポキシ基数3.0、エポキシ当量180g/mol
(B−3)“デナコール(登録商標)”Ex−821(ナガセケムテックス(株)製)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル
エポキシ基数2.0、エポキシ当量180g/mol
(B−4)“EPICLON(登録商標)”N660(DIC(株)製)
クレゾールノボラック型グリシジルエーテル
エポキシ当量:206g/mol、エポキシ基数:4.3
(B−5)“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールA型エポキシ
エポキシ基数2.0、エポキシ当量189g/mol
(B−6)R−PG3(阪本薬品工業(株)製)
ポリグリセリン
エポキシ基数0。
【0143】
C.熱硬化性樹脂成分(C−1)〜(C12)
(C−1)“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂
エポキシ当量:189
(C−2)“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂
エポキシ当量:450
(C−3)“エピクロン(登録商標)”Epc830(大日本インキ(株)製)
液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂
エポキシ当量:170
(C−4)“jER(登録商標)”4004P(三菱化学(株)製)
固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂
エポキシ当量:880
(C−5)“エポトート(登録商標)”YDF2004(新日鉄住金化学(株)製)
固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂
エポキシ当量:475
(C−6)“アラルダイト(登録商標)”MY0600(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)
トリグリシジル−m−アミノフェノール
エポキシ当量:110
(C−7)“アラルダイト(登録商標)”MY0500(ハイツマン・アドバンスド・マテリアル社製)
トリグリシジル−p−アミノフェノール
エポキシ当量:110
(C−8)GAN(日本化薬(株)製)
ジグリシジルアニリン型エポキシ
エポキシ当量:125
(C−9)“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
エポキシ当量:125
(C−10)“jER(登録商標)”YX4000(三菱化学(株)製)
ビフェニル型エポキシ樹脂
エポキシ当量:186
(C−11)“jER(登録商標)”1032(三菱化学(株)製)
トリフェノールメタン型エポキシ
エポキシ当量:170
(C−12)“jER(登録商標)”154(三菱化学(株)製)
フェノールノボラック型エポキシ、
エポキシ当量:178。
【0144】
その他の成分
硬化剤:ジシアンジアミド(DICY、三菱化学(株)製)
硬化促進剤:
・3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU99、保土ヶ谷化学工業(株)製))
・2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)(“Omicure(登録商標)”24、Emerald Performance Materials, LLC製)。
【0145】
(実施例1)
本実施例は、次の第I〜Vの工程からなる。
【0146】
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
(ストレート層)
炭素繊維として、アクリロニトリル共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数12、000本、総繊度800テックス、ストランド引張強度5.1GPa、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり70クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施した炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維(A−1)を得た。<炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)>および<炭素繊維の表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)>の方法により測定した表面酸素濃度(O/C)、表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)はそれぞれ0.15、0.016、0.004であった。
【0147】
(バイアス層)
ストレート層と同様の方法により炭素繊維(A−1)を得た。
【0148】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に塗布する工程
(ストレート層)
サイジング剤(B−1)とアセトンを混合し、サイジング剤が均一に溶解した約1質量%のアセトン溶液を得た。このアセトン溶液を用い、浸漬法によりサイジング剤を第Iの工程の(ストレート層)で製造した炭素繊維に塗布した後、230℃の温度で180秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0149】
(バイアス層)
ストレート層と同様の方法により、第Iの工程の(バイアス層)で製造した炭素繊維にサイジング剤(B−1)を塗布することでサイジング剤塗布炭素繊維を作製した。
【0150】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
(ストレート層)
ニーダー中に、下記表1の(D−1)に記載の熱硬化性樹脂成分の硬化剤および硬化促進剤以外の成分を所定量加え、混練しつつ、150℃まで昇温し、同温で1時間混練することで、透明な粘調液を得た。60℃まで混練しつつ降温させた後、硬化剤および硬化促進剤を所定量加え、混練し熱硬化性樹脂(D−1)を得た。この熱硬化性樹脂を用いて、<熱硬化性樹脂の硬化物の曲げ弾性率>に記載した方法に従い、硬化物を作製した。この硬化物の弾性率は4.4GPaであった。熱硬化性樹脂(D−1)の原料比を表1にまとめた。
【0151】
(バイアス層)
ストレート層と同様の方法により熱硬化性樹脂(D−1)を得た。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
・第IVの工程:プリプレグの作製
(ストレート層)
第IIIの工程の(ストレート層)に従って作製した熱硬化性樹脂を、フィルムコーターを使用し離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを作製した。次に、第IIの工程の(ストレート層)に従い作製したサイジング剤塗布炭素繊維をシート状に一方向に整列させ、樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧して熱硬化性樹脂を含浸させることによりプリプレグを作製した。単位面積辺りの炭素繊維質量は125g/m、繊維質量含有率は75%であった。 (バイアス層)
ストレート層に用いたプリプレグと同様の方法により、第IIの工程の(バイアス層)に従い作製したサイジング剤塗布炭素繊維に第IIIの工程の(バイアス層)に従って作製した熱硬化性樹脂を含浸させることでプリプレグを作製した。
【0155】
・第Vの工程:管状体の作製
次の(a)〜(e)の操作により、内径が6.3mmの管状体を作製した。マンドレルは、直径6.3mm、長さ1000mmのステンレス製丸棒を使用した。
【0156】
(a)繊維軸方向が長辺の方向に対して45度となるように、縦68mm×横800mmの長方形形状に第IVの工程でバイアス層用に作製したプリプレグを2枚切り出した。この2枚のプリプレグの繊維の方向をお互いに交差するように、かつ短辺方向に10mm(マンドレル半周分)ずらして貼り合わせた。
【0157】
(b)離型処理したマンドレルに貼り合わせたプリプレグの長方形形状の長辺とマンドレル軸方向が同一方向になるように、マンドレルを捲回した(バイアス層)。
【0158】
(c)その上に、長辺方向が繊維軸方向となるように縦80mm×横800mmの長方形形状に第IVの工程でストレート層用に作製したプリプレグを切り出し、その繊維の方向がマンドレル軸の方向と同一になるように、マンドレルに捲回した(ストレート層)。
【0159】
(d)さらに、その上から、ラッピングテープ(耐熱性フィルムテープ)を巻きつけて捲回物を覆い、硬化炉中、130℃で90分間、加熱成形した。なお、ラッピングテープの幅は15mm、張力は3.0kg、巻き付けピッチ(巻き付け時のずれ量)は1.0mmとし、これを2plyラッピングした。
【0160】
(e)マンドレルを抜き取り、ラッピングテープを除去して管状体を得た。ストレート層およびバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は130MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1300MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表3にまとめた。
【0161】
(実施例2)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
(ストレート層)
電解液として濃度0.1mol/Lの硫酸溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり10クーロンで電解表面処理した以外は、実施例1と同様の方法で作製された。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維(A−4)を得た。上述の方法により測定した表面酸素濃度(O/C)、表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)はそれぞれ0.09、0.003、0.001であった。
【0162】
(バイアス層)
実施例1の第Iの工程の(ストレート層)と同様にして、炭素繊維(A−1)と得た。
【0163】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0164】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0165】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様の方法を用いてプリプレグを得た。
【0166】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は105MPaであった。得られた管状体の円筒曲げ強度は1250MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表3にまとめた。
【0167】
(実施例3)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
(ストレート層)
電解液として濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり40クーロンで電解表面処理した以外は、実施例1と同様の方法で作製された。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維(A−2)を得た。上述の方法により測定した表面酸素濃度(O/C)、表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)はそれぞれ0.13、0.0015、0.0005であった。
【0168】
(バイアス層)
ストレート層と同様にして炭素繊維(A−2)を得た。
【0169】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0170】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0171】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0172】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層およびバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は120MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1250MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表3にまとめた。
【0173】
(実施例4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
(ストレート層)
ストレート層に用いた炭素繊維は、電解液として濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり100クーロンで電解表面処理した以外は、実施例1と同様の方法で作製した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維(A−3)を得た。上述の方法により測定した表面酸素濃度(O/C)、表面水酸基濃度(COH/C)、表面カルボキシル基濃度(COOH/C)はそれぞれ0.23、0.002、0.008であった。
【0174】
(バイアス層)
ストレート層と同様にして炭素繊維(A−3)を得た。
【0175】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0176】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0177】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0178】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層およびバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は130MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1300MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表3にまとめた。
【0179】
(比較例1)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
(ストレート層)
実施例1の第Iの工程の(ストレート層)と同様にして炭素繊維(A−1)を得た。
【0180】
(バイアス層)
実施例2の第Iの工程の(ストレート層)と同様にして、炭素繊維(A−4)を得た。
【0181】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0182】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0183】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0184】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。この管状体の円筒曲げ強度は1150MPaであり、力学特性が不十分であった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。バイアス層に破壊の起点があった場合においても、バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa未満では円筒曲げ強度が不十分であることを確認した。結果を表3にまとめた。
【0185】
(比較例2)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
(ストレート層)
ストレート層に用いた炭素繊維は、実施例2の第Iの工程の(ストレート層)と同様にして、炭素繊維(A−4)を得た。
【0186】
(バイアス層)
バイアス層に用いた炭素繊維は、ストレート層と同様にして、炭素繊維(A−4)を得た。
【0187】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0188】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0189】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0190】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。この管状体の円筒曲げ強度は1150MPaであり、力学特性が不十分であった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表3にまとめた。
【0191】
【表3】
【0192】
(実施例5〜24)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0193】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0194】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
ストレート層および/またはバイアス層に用いた熱硬化性樹脂成分を表1および表2に示す(D−2)〜(D−21)の組成に変更し、混練した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂(D−2)〜(D−21)を作製した。この熱硬化性樹脂の硬化物の弾性率は3.6〜4.4GPaであった。
【0195】
・第IVの工程:プリプレグの作製
ストレートおよび/またはバイアス層に用いた熱硬化性樹脂を表4に示す(D−2)〜(D−21)に変更した以外は実施例1と同様にして、ストレートおよびバイアス層に用いたプリプレグを作製した。 ・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層および/またはバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料のの層間剪断強度は110〜130MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1200〜1300MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表4にまとめた。
【0196】
(比較例3〜8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0197】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0198】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
ストレート層および/またはバイアス層に用いた熱硬化性樹脂成分を表2に示す(D−1)、(D−21)〜(D−25)の組成に変更した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂(D−1)、(D−21)〜(D−25)を作製した。この熱硬化性樹脂の硬化物の弾性率は3.1〜4.4GPaであった。
【0199】
・第IVの工程:プリプレグの作製
ストレートおよび/またはバイアス層に用いた熱硬化性樹脂を表4に示す(D−1)、(D−21)〜(D−25)に変更した以外は実施例1と同様にして、ストレートおよびバイアス層に用いたプリプレグを作製した。
【0200】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層およびバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は100〜130MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1000〜1100MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、ストレート層から破壊していた。バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であっても、ストレート層の熱硬化性樹脂の硬化物の弾性率が4.0GPa未満では、ストレート層から破壊して、円筒曲げ強度が不十分であることを確認した。結果を表4にまとめた。
【0201】
【表4-1】
【0202】
【表4-2】
【0203】
(実施例25〜31)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0204】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
ストレート層およびバイアス層の炭素繊維に塗布するサイジング剤を表5に示す質量比に変更した以外は実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0205】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0206】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層および/またはバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は100〜130MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1200〜1300MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表5にまとめた。
【0207】
(比較例9)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0208】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
ストレート層およびバイアス層の炭素繊維に塗布するサイジング剤を(B−6)に変更した以外は実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0209】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0210】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0211】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層およびバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は100MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1100MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表5にまとめた。
【0212】
(比較例10)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1とした。
【0213】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
バイアス層に用いたサイジング剤に塗布するサイジング剤を(B−6)に変更した以外は実施例1と同様にした。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部であった。
【0214】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0215】
・第IVの工程:プリプレグの作製
実施例1と同様にした。
【0216】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。この管状体の円筒曲げ強度は1100MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表5にまとめた。
【0217】
(比較例11)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0218】
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
ストレート層およびバイアス層の炭素繊維にサイジング剤を塗布せず、工程を省いた。
【0219】
・第IIIの工程:熱硬化性樹脂の調製
実施例1と同様にした。
【0220】
・第IVの工程:プリプレグの作製
サイジング剤を塗布した炭素繊維を第Iの工程で得られたサイジングを塗布していない炭素繊維に変更した以外は実施例1と同様の方法でプリプレグを得た。
【0221】
・第Vの工程:管状体の作製
実施例1と同様にして管状体を作製した。ストレート層およびバイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度は95MPaであった。この管状体の円筒曲げ強度は1050MPaであり、力学特性が不十分であることがわかった。円筒曲げ試験後の管状体の破断面を観察した結果、バイアス層から破壊していた。結果を表5にまとめた。
【0222】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明によれば、円筒曲げ強度に優れた炭素繊維強化複合材料製管状体が得られ、特に構造材料に好適に用いられる。例えばゴルフクラブシャフト、バドミントンラケット等のスポーツ用具、航空宇宙構造体、トラス、マスト、船舶、自動車のプロペラシャフトの構造材料に好適に用いられる。
【要約】
優れた円筒曲げ強度を有する炭素繊維強化複合材料製管状体、およびそれを用いてなるゴルフクラブシャフトを提供する。サイジング剤Sが塗布されてなる炭素繊維Sが管軸に対し−20°〜+20°の方向に平行に配列され、熱硬化性樹脂Sを含んでなるストレート層と、サイジング剤Bが塗布されてなる炭素繊維Bが管軸に対し+25°〜+65°の方向に平行に配列され、熱硬化性樹脂Bを含んでなるバイアス層とが積層され、硬化されてなる炭素繊維強化複合材料製の管状体であって、バイアス層を構成する炭素繊維強化複合材料の層間剪断強度が110MPa以上であり、熱硬化性樹脂Sの硬化物の弾性率が4.0GPa以上である炭素繊維強化複合材料製管状体である。