【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年3月5日、http://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2012/download_pdf.php?p_code=3C23p02 日本農芸化学会2012年度大会、平成24年3月24日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記メナディオンレダクターゼがキャンディダ(Candida)属に属する微生物由来であり、グルコースデヒドロゲナーゼがバチルス(Bacillus)属に属する微生物由来である、請求項1に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
前記バチルス(Bacillus)属に属する微生物が、バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)又はバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)である、請求項1又は2に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
前記クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物がクルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130(NITE P−1385)である、請求項1に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[1]1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法
本発明の前記一般式(2)で表される1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法は、前記一般式(1)で表される1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに、(i)クルトバクテリウム(Curtobacterium)属、キャンディダ(Candida)属、若しくはバチルス(Bacillus)属に属する微生物、若しくは前記微生物の調製物、又は(ii)1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素を作用させ、立体選択的にケトン還元を行うことを特徴とするものである。
【0008】
《1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステル》
本発明の製造方法によって製造される前記一般式(2)で表される1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、前記一般式(1)で表される1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルのケトン基を還元することによって得ることができる。ここで、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは2つの不斉炭素を有するため、trans−(3R,4R)、trans−(3S,4S)、cis−(3R,4S)、又はcis−(3S,4R)の4つの異性体が存在する。本発明の製造方法では、これらの異性体を立体選択的に製造することができる。
【0009】
1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルにおける、アルキル基は炭素数1〜4の直鎖、又は分岐鎖のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基、又はイソプロピル基)、又はブチル基(n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、又はtert−ブチル基)を挙げることができる。
【0010】
《微生物》
本発明における微生物としては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを著量生成し、蓄積する能力を有する、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物、キャンディダ(Candida)属に属する微生物、若しくはバチルス(Bacillus)属に属する微生物であればその種及びその起源は何ら問わない。
【0011】
(クルトバクテリウム属に属する微生物)
本発明における微生物として好ましくは、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物を挙げることができる。更に好ましくは、クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130(NITE P−1385)を挙げることができる。本菌株は平成24年7月4日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに上記受託番号で国内寄託されている。
【0012】
本発明において使用することのできるクルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130(NITE P−1385)の菌学的性質は次のとおりである。
1−1.形態的性質(+は陽性、−は陰性を表す)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.8〜0.9μm
(3)長さ:1.5〜2.0μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:+
1−2.コロニー形態(+は陽性、−は陰性を表す)
培養条件:Nutrient agar培地、30℃ 24時間
(1)直径:1.0mm
(2)色調:黄色
(3)形:円形
(4)隆起状態:レンズ状
(5)周縁:全縁
(6)表面の形状など:スムーズ
(7)透明度:不透明
(8)粘調度:バター様
1−3.生理学的性質(+:陽性、−:陰性)
(1)グラム染色:+
(2)生育の範囲 温度
37℃:+
45℃:−
(3)カタラーゼ反応:+
(4)オキシダーゼ反応:−
(5)グルコースからの酸/ガス産生(酸産生/ガス産生):+/−
(6)O/Fテスト(酸化/発酵):+/−
(7)硝酸塩還元:−
(8)ピラジンアミダーゼ:+
(9)ピロリドニルアリルアミダーゼ:+
(10)アルカリフォスファターゼ:+
(11)β−グルクロニダーゼ:−
(12)β−ガラクトシダーゼ:+
(13)α−グルコシダーゼ:+
(14)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:+
(15)エスクリン(β−グルコシダーゼ):+
(16)ウレアーゼ:−
(17)ゼラチン加水分解:−
(18)ブドウ糖:+
(19)リボース:−
(20)キシロース:−
(21)マンニトール:−
(22)マルトース:−
(23)乳糖:−
(24)グリコーゲン:−
(25)カタラーゼ:+
(26)嫌気条件下での生育:−
(27)でんぷんの加水分解:−
(28)カゼインの加水分解:−
【0013】
1−4.化学分類学的性質
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号1に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)を用いて、DNA塩基配列データベース(アポロンDB−BA7.0)に対する相同性検索の結果、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属由来の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、クルトバクテリウム・シトレウム(Curtobacterium・citreum)DSM20528株〔Accession No.X77436〕の16S rDNA塩基配列に対し相同率99.9%の最も高い相同性を示した。また、GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果においても、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属の16S rDNA塩基配列に対して高い相同性を示し、クルトバクテリウム・シトレウム(Curtobacterium・citreum)DSM20528株〔Accession No.X77436〕の16S rDNA塩基配列に対し相同率99.9%の最も高い相同性を示した。
本菌株の16S rDNA塩基配列を用いて、DNA塩基配列データベース(アポロンDB−BA7.0)に対する相同性検索上位10株の16S rDNA塩基配列に基づく簡易分子系統解析の結果、本菌株はクルトバクテリウム(Curtobacterium)属の種で形成されるクラスター内に含まれたが、本菌株はクルトバクテリウム(Curtobacterium)属のクラスター内において、いずれの既知種ともやや異なり、独立した分子系統学的位置を示した。
形態的性質とコロニーの形状、生理学的性質においては、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属の性状に類似するものの、完全に一致する既知種は見当たらなかった。
以上のように、本菌株はクルトバクテリウム(Curtobacterium)属に含まれると考えられるが、16S rDNA塩基配列解析の結果及び生理・生化学性状試験の結果は、ともに本菌株がクルトバクテリウム(Curtobacterium)属の既知種とは異なることを示唆した。
これらのことから、本菌株をクルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.)であると判定した。
【0014】
前記クルトバクテリウム属の微生物によって主反応生成物として得られる1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体異性体は、cis−(3R,4S)である。また、その立体異性体の立体選択率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が最も好ましい。なお、前記立体選択率の百分率は、HPLC分析ピークの面積百分率である。
【0015】
(キャンディダ属に属する微生物)
本発明における微生物として好ましくは、キャンディダ(Candida)属に属する微生物を挙げることができ、より好ましくはキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)であり、更に好ましくは、キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC0960株を挙げることができる。キャンディダ属に属する微生物は、後述のように1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素、すなわちメナディオンレダクターゼを有している。このメナディオンレダクターゼにより、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを立体選択的にケトン還元することができる。
【0016】
前記キャンディダ属の微生物によって主反応生成物として得られる1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体異性体は、cis−(3S,4R)である。また、その立体異性体の立体選択率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。前記立体選択率の百分率は、HPLC分析ピークの面積百分率である。
【0017】
(バチルス属に属する微生物)
本発明における微生物として好ましくは、バチルス(Bacillus)属に属する微生物を挙げることができ、更に好ましくは、バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)、更に好ましくはバチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3株を挙げることができる。また、別のバチルス(Bacillus)属に属する微生物として、好ましくはバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)を挙げることができる。バチルス属に属する微生物は、後述のように1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素、すなわちグルコースデヒドロゲナーゼを有している。このグルコースデヒドロゲナーゼにより、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを立体選択的にケトン還元することができる。
【0018】
前記バチルス属の微生物によって主反応生成物として得られる1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体異性体は、trans体、又はcis−(3R,4S)である。また、立体異性体の立体選択率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。前記立体選択率の百分率は、HPLC分析ピークの面積百分率である。
【0019】
《立体選択的ケトン還元活性を有する酵素》
本発明に用いる立体選択的ケトン還元活性を有する酵素は、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、メナディオンレダクターゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼを挙げることができる。
【0020】
(メナディオンレダクターゼ)
本発明におけるメナディオンレダクターゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、その由来は限定されるものではないが、好ましくはキャンディダ(Candida)属由来メナディオンレダクターゼを、更に好ましくはキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)由来メナディオンレダクターゼを、最も好ましくはキャンディダ・マセドニエンシスNBRC0960株由来のメナディオンレダクターゼを挙げることができる。
メナディオンレダクターゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、市販の酵素であってもよい。
【0021】
本発明で使用することのできるキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)由来メナディオンレダクターゼについて説明する。キャンディダ属由来メナディオンレダクターゼは、メナディオン(別称2−メチル−1,4−ナフトキノン)の1位のケトンを還元する酵素タンパク質であり、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質である。
【0022】
また、本発明で使用されるメナディオンレダクターゼは、メナディオンレダクターゼ活性を有し、且つ1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素タンパク質であれば限定されないが、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるものでもよく、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1つ若しくは複数(一般的には数個)のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、且つメナディオンレダクターゼ活性を有する酵素タンパク質でもよい。
【0023】
本発明で使用されるメナディオンレダクターゼをコードする遺伝子は、配列番号3で示される塩基配列を含み、前述のメナディオンレダクターゼの性質を有する酵素タンパク質をコードする塩基配列を含むDNAでもよい。本発明においては、キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)からクローニングされたメナディオンレダクターゼ遺伝子を用いたが、メナディオンレダクターゼ遺伝子はどのような生物からクローニングされたものであってもよい。
本発明で使用されるメナディオンレダクターゼ遺伝子は、該遺伝子の塩基配列において1つ若しくは複数(一般的に数個)のヌクレオチドが欠失、置換、付加及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、かつメナディオンレダクターゼ活性を有する酵素タンパク質をコードする塩基配列を含むものであってもよい。更に、本発明で使用されるメナディオンレダクターゼ遺伝子は、上記メナディオンレダクターゼをコードする遺伝子と標準的な条件下でハイブリダイズする塩基配列若しくは該塩基配列を含む組換えDNA配列も含み得る。
【0024】
別の側面において、本発明で使用されるメナディオンレダクターゼをコードする遺伝子は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列において1つ若しくは複数(一般的には数個)のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、メナディオンレダクターゼ活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子でもよい。
【0025】
本発明は、微生物におけるメナディオンレダクターゼをコードする単離DNA配列を提供する。本発明の前記DNAは、対象となる酵素タンパク質をコードする遺伝子の発現に関与するプロモーター及びターミネーターなどの調節配列を含む塩基配列を意味する。また、メナディオンレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする単離DNA配列の5’−及び3’−非翻訳領域の間に含まれるcDNAを意味する。更に本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を含有するベクター、並びに、前記ベクターを含有する形質転換体を提供する。
本発明に用いられるメナディオンレダクターゼの遺伝子、組換え発現ベクター及び組換え微生物は、下記の手順によって得ることができる。
(1)本発明のメナディオンレダクターゼを提供しうる微生物からの染色体DNAの単離、及びこの染色体DNAによる遺伝子ライブラリーの構築、
(2)コロニー又はプラークハイブリダイゼーション、PCRクローニング、インバースPCR、サザンブロットハイブリダイゼーションなどによる、染色体DNAからのメナディオンレダクターゼ遺伝子のクローニング、
(3)得られたメナディオンレダクターゼ遺伝子の塩基配列の決定及びメナディオンレダクターゼ遺伝子を効率的に含有し発現する組換え発現ベクターの構築、
(4)形質転換、形質導入、接合及び電気穿孔による、組換え発現ベクター上又は染色体上にメナディオンレダクターゼ遺伝子を有する組換え微生物の作成。
【0026】
本発明のメナディオンレダクターゼをコードするDNAの単離又はクローニングに用いる技術は、当技術分野では公知であり、これにはゲノムDNAからの単離が含まれる。このようなゲノムDNAからの本発明のDNA配列のクローニングは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いることによって行うことができる。
【0027】
メナディオンレダクターゼ遺伝子のクローニングを行うためには、メナディオンレダクターゼのアミノ酸配列に関する知識が必要であり、従来の方法によってメナディオンレダクターゼタンパク質を精製し、部分アミノ酸配列を決定することにより得ることができる完全なアミノ酸配列を決定する必要はなく、適切なアミノ酸配列が同定されたら、前記の部分アミノ酸配列に関する情報に基づき、PCR用のプライマーとしてのオリゴヌクレオチドを合成することができる。本発明において、PCRによるメナディオンレダクターゼ遺伝子のクローニングを用いるプライマーは、キャンディダ属に属する微生物、好ましくはキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC0960のアミノ酸配に基づく。メナディオンレダクターゼに関するDNA断片(部分DNA配列)は、前記プライマー及びキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC0960の染色体DNAのテンプレートを用いるPCR増幅によって精製され得る。増幅されたDNA断片は、キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC0960のメナディオンレダクターゼの全体をコードするゲノム断片をクローニングするためのプローブとして用いることができる。
【0028】
コード領域に加えてプロモーター又はターミネーターなどの調節配列を含む遺伝子全体は、上記のPCRによって得られた部分DNA断片を標識した後にプローブとして用いることにより、適切な宿主内でファージベクター又はプラスミドベクター内に作成したゲノムライブラリーのスクリーニングによって染色体からクローニングすることができる。また、ゲノムDNAを制限酵素処理した後、自己環化させた遺伝子断片に対してインバース−PCRを行うことにより、部分DNA断片の上流及び下流を増幅し、配列を解読、連結することにより、遺伝子全体を得ることができる。一般にライブラリーの作成、及びシークエンシング、制限酵素処理、連結などの遺伝子操作には、宿主株としての大腸菌、及び大腸菌ベクター、λファージベクターなどのファージベクター、プラスミドベクター又は酵母ベクターがしばしば用いられる。プラスミド又はファージライブラリーからの望ましいクローンの同定は、望ましい遺伝子が適切なストリンジェンシー条件化で望ましい遺伝子の一部を有するプローブとハイブリダイズすることによってなされる。
【0029】
目的遺伝子の塩基配列は、ジデオキシチェーンターミネーター法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、74巻、5463〜5467頁、1977年)などの周知の方法によって決定できる。本発明の単離されたDNA配列を、技術分野で周知の方法に従って、異なる属又は種の他の菌株から、メナディオンレダクターゼ活性を有する酵素タンパク質をコードするDNAを同定及びクローニングするために用いてもよい。本発明では、メナディオンレダクターゼをコードする配列を含む組換えDNA、好ましくはベクター及び/又はプラスミドに関する。前記の組換えDNAのオープンリーディングフレームに加えて、プロモーター又はターミネーターなどの調節領域を含んでもよい。
【0030】
メナディオンレダクターゼをコードする塩基配列の発現に必要又は有利なすべての構成要素を含む適切な転写及び翻訳調節要素有する発現ベクターの作成に用いるために、同業者に周知の方法を用いてもよい。メナディオンレダクターゼをコードする配列の翻訳をより効率的に行えるように、特定の転写開始及び転写終結シグナルを用いてもよい。メナディオンレダクターゼをコードする単離DNA配列は、ポリペプチドの発現をもたらすような様々な様式で操作できる。発現ベクターによっては、前記メナディオンレダクターゼをコードする塩基配列をベクターに挿入する前に操作することが望ましい又は必要と思われる。クローニング法を用いて塩基配列を改変するための技法は当技術分野では公知である。メナディオンレダクターゼをコードする配列を含有及び発現させるためには、様々な宿主/ベクター系を用いることができる。
【0031】
これらには、組換えバクテリオファージ、プラスミド又はコスミドベクターによる形質転換を受けた細菌などの微生物、酵母発現ベクターによる形質転換を受けた酵母、ウイルス発現ベクター若しくは細菌発現ベクターによる形質転換を受けた植物細胞系、又は、動物細胞が含まれるが、これらに制限されない。メナディオンレダクターゼの使用目的に応じて発現ベクターを選択してもよい。たとえば大量のメナディオンレダクターゼが必要な場合には、導入したDNAの高レベルの発現をもたらすベクターを用いるとよい。このようなベクターには、pUC系、pBR系、pBluescriptII、pTrc99A、pPL−Lambda、pT7BlueT、pKK223−3、pET−21−d(+)などの大腸菌クローニング及び発現ベクターが含まれるが、これらに限定されない。メナディオンレダクターゼをコードする塩基配列により形質転換された宿主細胞は、細胞培養からのタンパク質の発現及び回収のために適した条件化で培養することが可能である。
【0032】
(メナディオンレダクターゼの調製)
本発明で使用されるメナディオンレダクターゼは、例えばキャンディダ属に属する微生物に含まれているものでもよく、その微生物から分離及び精製されたものでもよい。また、前記メナディオンレダクターゼを含むベクターにより形質転換された組換え微生物に含まれているものでもよく、その組換え体から分離及び精製されたメナディオンレダクターゼでもよい。具体的には、後述の[i]培養された微生物を含む培養液、[ii]培養液から回収した微生物、又は[iii]前記微生物の調製物、例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、又は精製酵素を用いることができる。
【0033】
前記メナディオンレダクターゼによって主反応生成物として得られる1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体異性体は、cis−(3S,4R)である。また、その立体異性体の立体選択率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。前記立体選択率の百分率は、HPLC分析ピークの面積百分率である。
【0034】
(グルコースデヒドロゲナーゼ)
本発明におけるグルコースデヒドロゲナーゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、その由来は限定されるものではないが、好ましくはバチルス(Bacillus)属由来グルコースデヒドロゲナーゼを、更に好ましくはバチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、GDH−2と称することがある)を挙げることができる。更に、別の好ましいグルコースデヒドロゲナーゼとして、バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、GDH−1と称することがある)を挙げることができる。
グルコースデヒドロゲナーゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、市販の酵素であってもよい。具体的には、GDH−1としては、天野エンザイム社製のバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼが挙げられる。
【0035】
本発明で使用されるバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来グルコースデヒドロゲナーゼについて説明する。バチルス・メガテリウム由来グルコースデヒドロゲナーゼは、グルコースを酸化してグルコン酸を生成する酵素タンパク質であり、例えば配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質である。
また、本発明で使用されるGDH−2は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有し、且つ1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素タンパク質であれば限定されないが、例えば配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるものでもよく、配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1つ若しくは複数(一般的には数個)のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素タンパク質でもよい。
【0036】
本発明で使用されるGDH−2をコードする遺伝子は配列番号7で示される塩基配列を含み、前述のグルコースデヒドロゲナーゼの性質を有する酵素タンパク質をコードする塩基配列を含むDNAでもよい。本発明においては、バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)からクローニングされたGDH−2遺伝子を用いたが、GDH−2遺伝子はどのような生物からクローニングされたものであってもよい。
【0037】
本発明で使用されるGDH−2遺伝子は、該遺伝子の塩基配列において1つ若しくは複数(一般的に数個)のヌクレオチドが欠失、置換、付加及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素タンパク質をコードする塩基配列を含むものであってもよい。更に、本発明で使用されるGDH−2遺伝子は、上記GDH−2をコードする遺伝子と標準的な条件下でハイブリダイズする塩基配列若しくは該塩基配列を含む組換えDNA配列も含み得る。
【0038】
別の側面において、本発明で使用されるGDH−2をコードする遺伝子は、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列において1つ若しくは複数(一般的には数個)のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子でもよい。
【0039】
本発明は、微生物におけるGDH−2をコードする単離DNA配列を提供する。本発明の前記DNAは、対象となる酵素タンパク質をコードする遺伝子の発現に関与するプロモーター及びターミネーターなどの調節配列を含む塩基配列を意味する。また、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする単離DNA配列の5’−及び3’−非翻訳領域の間に含まれるcDNAを意味する。更に本発明は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を含有するベクター、並びに、前記ベクターを含有する形質転換体を提供する。
【0040】
本発明に用いられるGDH−2の遺伝子、組換え発現ベクター及び組換え微生物は、キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)由来メナディオンレダクターゼの説明で記載したものと同様の手順によって得ることができる。
【0041】
(グルコースデヒドロゲナーゼの調製)
本発明で使用されるグルコースデヒドロゲナーゼは、例えばバチルス属に属する微生物に含まれているものでもよく、その微生物から分離及び精製されたものでもよい。また、前記グルコースデヒドロゲナーゼを含むベクターにより形質転換された組換え微生物に含まれているものでもよく、その組換え微生物から分離及び精製されたグルコースデヒドロゲナーゼでもよい。具体的には、後述の[i]培養された微生物を含む培養液、[ii]培養液から回収した微生物、又は[iii]前記微生物の調製物、例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、又は精製酵素を用いることができる。
【0042】
前記グルコースデヒドロゲナーゼによって主反応生成物として得られる1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体異性体に関して、GDH−2は、trans体に選択性を示す。またGDH−1は、cis−(3R,4S)に選択性を示す。
また、立体異性体の立体選択率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。前記立体選択率の百分率は、HPLC分析ピークの面積百分率である。
【0043】
《微生物の培養方法》
次に、本発明で使用されるクルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物又は組換え微生物の培養方法について説明する。前記微生物を培養するための培地は、通常これらの微生物が生育可能な培地であれば特に制限はなく、一般的な微生物用の任意の公知培地を用いることができる。培地の炭素源及び窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸、無機窒素、有機酸、又は糖類などを使用することができる。また、必要に応じて、微量金属塩、ビタミン類、核酸関連物質、又は無機塩類などを添加することもできる。
【0044】
更に、培養の際に、前記微生物が有する、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成する能力を最大限に引き出すために、糖類、有機酸又はアミノ酸を添加して培養することもできる。特に効果が得られる物質は、D−グルコース、D−フルクトース、スクロース、D−リボース、マンニトール、グリセロール、D−キシロース、ソルビトール、D−ラクトース、マルトース、L−リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、L−グルタミン酸、又はL−グルタミンなどであり、培地に対して0.1〜5.0w/v%、好ましくは0.5〜2.0w/v%である。なお、本明細書で記載するw/vは質量/容積を、v/vは容積/容積を意味する。
【0045】
前記微生物の培養温度は10〜37℃、好ましくは23〜32℃である。培養時の培地のpHは6.0〜10.0であり、好ましくはpH6.5〜9.0である。培養は、好気的条件下で行うことが好ましく、液体培養時には通気及び撹拌を行うことが望ましい。培養時間は10時間〜1週間であり、好ましくは1〜3日間であり、より好ましくは1〜2日である。
【0046】
組換え微生物を培養するための培地は、本発明の微生物が資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。炭素源としては微生物が資化可能なものであればよく、グルコース、マンノース、キシロース、フルクトース、サッカロース、グリセロール、オリゴ糖、多糖類、又はこれらを含有する糖蜜等が挙げられるが、グルコース又はグリセロールが好ましく用いられ、グルコースが更に好ましく用いられる。これらの炭素源は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0047】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、又はリン酸アンモニウム等の無機酸塩若しくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体、及びその消化物等を用いることができる。無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、又は炭酸カルシウム等を用いることができる。ビタミン類としては、ビタミンB12等が挙げられる。
【0048】
培養は、静置培養、振とう培養、深部通気攪拌培養のいずれで行ってもよいが、静置培養が好ましく用いられる。また、窒素ガスや二酸化炭素等を供給して培養する嫌気的培養を行ってもよい。培養温度は通常15〜40℃であり、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンやカナマイシンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。培養の進行とともに、酵素生産量も増加していくが、培養の後半には、生育速度の低下とともに、炭素源及び窒素源の消費速度、酵素生産速度も低下し、培養を終了する。炭素源及び窒素源の総添加量、培養時間、菌体の濃度、酵素生産量などから本培養の終了を判断することもできる。
【0049】
以上のようにして、前記微生物の培養菌体を培養液中に蓄積させ、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの蓄積反応に用いることができる。
[i]得られた培養液はそのまま以下に述べる蓄積反応に使用してもよいし、
[ii]微生物を培養液から回収して反応に使用したり、更に
[iii]微生物の調製物(例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、及び/又は精製酵素など)を反応に使用することもできる。
【0050】
続いて、前記微生物又はその調製物により、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成する反応を行うことができる。この反応は、バッチ式でも、バイオリアクターなどを用いた連続式でも可能である。バッチ式反応の場合には、数時間から10日間で行うことができる。
【0051】
上述の[i]の場合を具体的に説明すると、上記の方法で増殖させた前記微生物を含む培養液に、直接、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルと糖類、有機酸、又はアルコール類などを加え、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを系内に蓄積させる反応を開始させることができる。
反応のpHは5.0〜10.0、好ましくはpH5.0〜8.0である。反応温度は10〜50℃、好ましくは20〜40℃である。基質の1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの添加量は、反応液に対して0.1〜10.0w/v%、好ましくは0.3〜5.0w/v%である。1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの添加は一度に行ってもよいが、高濃度の1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルによる反応阻害が見られる場合には分割して添加してもよい。
【0052】
一般的に、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステル不斉還元酵素は、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの不斉還元反応において、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルと等量の還元型補酵素(還元型ニコチンアデニンジヌクレオチド(略称NADH)、又は還元型ニコチンアデニンジヌクレオチドリン酸(略称NADPH)を還元剤として要求するとされている。1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの還元反応後は、補酵素はそれぞれ酸化型ニコチンアデニンジヌクレオチド(略称NAD
+)又は酸化型ニコチンアデニンジヌクレオチド(略称NADP
+)へと変換される。
【0053】
また、一般的に、補酵素を再生する酵素の供給源として、市販酵素を使用したり、遺伝子組み替えにより補酵素を再生する酵素を生産させることが行われるが、本発明において、補酵素を再生する酵素を添加することなく、糖類、有機酸、アルコール類などを添加するのみで、効率よく1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルへの変換を行うこともできる。
【0054】
糖類、有機酸、アルコール類などとしては、D−グルコース、D−フルクトース、スクロース、D−リボース、D−キシロース、ソルビトール、D−ラクトース、マルトースなどの糖類、又はクエン酸などの有機酸、エタノールなどのアルコール類などを挙げることができる。糖類、有機酸、アルコール類などの添加量は、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを還元して1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成する反応液に対して0.1〜15.0w/v%、好ましくは0.3〜10.0w/v%である。糖類、有機酸、又はアルコール類などの添加は一度に行ってもよいが、高濃度の糖類、有機酸、又はアルコール類などによる反応阻害が見られる場合には分割して添加してもよい。
【0055】
1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの蓄積反応は、前記微生物が十分に増殖して、変換能力が十分となった時点から開始することができるが、前記微生物の増殖が十分でない培養初期段階でも、生育阻害が起こらない濃度範囲で培地に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを添加して、微生物の増殖と1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの蓄積反応を同時に行うことができる。
【0056】
また、上述の[ii]の場合には、上記の培養方法で増殖させた微生物をろ過又は遠心分離により培養液から回収して蓄積反応に使用することができる。すなわち、得られた微生物は1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルと糖類、有機酸、アルコール類などを含む生理食塩水、リン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液などの水性溶媒に懸濁して反応に使用することができる。反応条件(pH、温度、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルと糖類、有機酸、アルコール類などの添加量)は[i]の場合と同じである。
【0057】
更に、上述の[iii]の場合には、前記培養方法で増殖させ、回収した微生物の調製物(例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、及び/又は精製酵素)は、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルと糖類、有機酸、及び/又はアルコール類などとを含む水性溶媒に懸濁して反応に使用することができる。あるいは、微生物又はその調製物を公知の方法で適当な担体に固定化し、その固定化物を水性溶媒と接触させて反応に使用してもよい。前記微生物又はその調製物を使用した蓄積反応に用いる水性溶媒としては、生理食塩水、リン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液などを挙げることができる。反応条件は[i]の場合と同様である。
【0058】
以上のようにして得られた蓄積反応後の反応液から、必要に応じて、ろ過、遠心分離などにより微生物を除去した後、溶媒で1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを抽出して、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを回収することができる。粗酵素、又は精製酵素などの調製物を使用した場合などでは微生物除去操作を省略することができる。また、クロマトグラフィーなどの公知の精製方法により1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを回収することもできる。
【0059】
《作用》
前記のように、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの4位のケトンを非立体選択的に還元した場合、4種の異性体が生成する。すなわち、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、下記一般式(1)と下記一般式(1’)に記載のようにケト−エノール互変異性のある化合物であり、水溶液中でラセミ化が生じる。
【化4】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、そして*は不斉炭素を示す。)
前記1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、通常生体内に存在するエステルではない。例えば、本発明に用いることのできるグルコースデヒドロゲナーゼは、生体内ではグルコースを酸化してグルコン酸を生成する酵素として働いている。このグルコースデヒドロゲナーゼが、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから立体選択的に1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成できることは、その対象となる基質の違いから驚くべきことである。
同様に、本発明に用いることのできるメナディオンレダクターゼは、生体内では、メナディオン(別称2−メチル−1,4−ナフトキノン)の1位のケトンを還元する酵素として働いている。メナディオンと、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルとの構造は全く異なるものであり、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから立体選択的に1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成できることは、予想できることではない。
本発明者らは、この他に多数の酵素について、検討を行ったが、立体選択的にケトン還元できた酵素は前記の2つの酵素のみであった。
また、クルトバクテリウム・エスピーは、多数の土壌分離菌から見出したものであるが、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、通常生体内に存在するエステルではないため、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを基質として、立体選択的にケトン還元できる酵素を有する微生物属は、非常に少ないものと考えられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
実施例における培地組成などの諸条件を以下に記載する。
(1)培地[A]
脱塩水1.0L中にトリプトン10.0g、酵母エキス5.0g、塩化ナトリウム10.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0062】
(2)培地[B]
脱塩水1.0L中にグルコース50.0g、コーンスティープリカー50.0g、酵母エキス30.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.0に調整した培地。
【0063】
(3)培地[C]
脱塩水1.0L中にトリプトン20.0g、酵母エキス10.0g、塩化ナトリウム10.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0064】
(4)寒天培地[D]
脱塩水1.0L中にトリプトン10.0g、酵母エキス5.0g、塩化ナトリウム10.0g、アガロース15.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0065】
(5)培地[E]
脱塩水1.0L中に酵母エキス5.0g、トリプトン2g、グルコース0.5g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物1.0g、リン酸二水素カリウム1.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0066】
(6)培地[F]
脱塩水1.0L中に酵母エキス20.0g、シュクロース20.0g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.0g、リン酸二水素カリウム2.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、塩化カルシウム0.1g、塩化マンガン(II)四水和物0.1gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
【0067】
(7)反応液[G]
1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステル(和光純薬工業製):50mM
NADH:60mg/mL
NADPH:60mg/mL
トリス−塩酸緩衝液(pH8.0):50mM
【0068】
(8)HPLC分析条件(立体選択率の測定)
生成物の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを下記条件で分析した。
カラム:キラルパックAD−RH(ダイセル化学工業製)4.6×150mm
溶離液A:0.01M酢酸アンモニウム水/メタノール=80/20(v/v)
溶離液B:0.01M酢酸アンモニウム水/メタノール/アセトニトリル=5/20/75(v/v/v)
流速:0.5mL/分
溶離液Bグラジエント: 60%→70% 15分
カラム温度:40℃
検出:UV210nm
【0069】
(9)立体異性体の保持時間
4種の立体異性体の保持時間は、還元試薬であるソディウムボロハイドライドを用いて、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを非立体選択的に還元して合成した、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸の4種の立体異性体混合物を用いて確認した。
(9.1)1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの保持時間
立体異性体1[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。]:6.6分
立体異性体2[推定立体配置はcis−(3R,4S)]:7.2分
立体異性体3[推定立体配置はcis−(3S,4R)]:8.1分
立体異性体4[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。但し、上記立体異性体1の立体配置とは異なる。]:8.7分、
(9.2)1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの保持時間
立体異性体1[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。]:6.3分
立体異性体2[推定立体配置はcis−(3R,4S)]:7.1分
立体異性体3[推定立体配置はcis−(3S,4R)]:9.6分
立体異性体4[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。但し、上記立体異性体1の立体配置とは異なる。]:10.4分、
【0070】
(10)立体選択率の算出
上記分析条件によって得られたそれぞれの立体異性体のピーク面積を用いて、下記の計算式により算出する。
立体選択率(%)=(立体異性体のピーク面積)/(4種の立体異性体のピーク面積合計)×100(%)
【0071】
(11)HPLC分析条件(基質と反応生成物の定量、反応収率の測定)
カラム:カプセルパックC18MGII(資生堂製)4.6×250mm
溶離液:アセトニトリル/30mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)=50/50(v/v)
流速:1mL/分
カラム温度:40℃
検出:UV=210nm
保持時間
1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステル:6.6分、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステル:16.6分
【0072】
《実施例1》
クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
【0073】
(1)培養
培地[A]2mLを10mL容の試験管に入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この試験管に、寒天培地に維持したクルトバクテリウム・エスピー YGK−130(NITE P−1385)を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、50mL三角フラスコに培地[A]10mLを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、上記前培養液200μLを加え、28℃で24時間振とう培養を行った。
【0074】
(2)蓄積反応
上記培養液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物として回収した菌体をリン酸カリウム緩衝液10mLで縣濁後、グラスビーズで菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収し酵素溶液とした。上記酵素溶液100μLを反応液[G]1mLに添加し、37℃で3時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体2を得た。その立体選択率は85%であった。
【0075】
《実施例2》
キャンディダ・マセドニエンシス(Candida macedoniensis)NBRC 0960由来メナディオンレダクターゼ遺伝子のクローニング
(1)キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960の培養
キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960は15mLの培地[B]に植菌し、28℃で3日間振とう培養を行った。培養後、3,000rpm、4℃にて10分間遠心分離することにより集菌し、キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960の菌体を得た。
【0076】
(2)ゲノムDNAの取得
キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960の菌体を少量のTES緩衝液(0.05Mトリス−塩酸緩衝液、0.01Mエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(略称EDTA−Na)、25%(w/v)シュクロース、pH7.0)に懸濁後、最終濃度0.5MのEDTA−Na、リゾチーム、プロテアーゼ Kを添加し、37℃で4時間インキュベートした。その後最終濃度1%のドデシル硫酸ナトリウム(略称SDS)を添加し、更にインキュベートすることで細胞破砕液を得た。細胞破砕液に等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合した。その後、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。続いて、再度等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。これに2倍量のエタノールと最終濃度0.3Mの酢酸ナトリウムを加え、完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離した。得られた沈殿を20分間真空デシケーターにて乾燥した後、少量のTE緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液、1mMのEDTA−Na、pH8.0)に溶解し、ゲノムDNAを得た。
【0077】
(3)メナディオンレダクターゼ発現大腸菌株の作成
キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960のゲノムDNAを鋳型にして、センスプライマー(配列番号4)とアンチセンスプライマー(配列番号5)を用いたPCR法によりメナディオンレダクターゼ遺伝子(配列番号3)を増幅した。PCRはPyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いて、94℃で1分、58℃で1分、72℃で4分を35サイクル繰り返すことで行った。PCRの結果増幅された遺伝子断片を制限酵素NdeIとEcoRIで切断処理後、同様に処理したpET21aベクターに挿入することでメナディオンレダクターゼ発現ベクターpETMRを構築した。pETMRを大腸菌BL21(DE3)株に形質転換し、形質転換株エシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)BL21(DE3)/pETMR(NITE P−1402)を得た。本菌株は平成24年8月9日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに上記受託番号で国内寄託されている。
【0078】
《実施例3》
キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC 0960由来メナディオンレダクターゼを用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
【0079】
(1)培養
培地[A]2mLを10mL容の試験管に入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この試験管に、アンピシリンを添加後、寒天培地に維持したエシェリヒア・コリ BL21(DE3)/pETMR(NITE P−1402)を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、50mL三角フラスコに培地[A]10mLを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、アンピシリンを添加後、上記前培養液200μLを加え、28℃で振とう培養を開始した。培養1時間後最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを添加し、24時間振とう培養を継続した。
【0080】
(2)蓄積反応
上記培養液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物として回収した菌体をリン酸カリウム緩衝液10mLで縣濁後、超音波で菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収し酵素溶液とした。上記酵素溶液100μLを反応液[G]1mLに添加し、37℃で3時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体3を得た。その立体選択率は95%であった。
【0081】
《実施例4》
バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)遺伝子のクローニング
【0082】
(1)バチルス・メガテリウム IWG3の培養
バチルス・メガテリウム IWG3は15mLの培地[C]に植菌し、28℃で3日間振とう培養を行った。培養後、3,000rpm、4℃にて10分間遠心分離することにより集菌し、バチルス・メガテリウム IWG3の菌体を得た。
【0083】
(2)ゲノムDNAの取得
バチルス・メガテリウム IWG3の菌体を少量のTES緩衝液(0.05Mトリス−塩酸緩衝液、0.01MのEDTA−Na、25%(w/v)シュクロース、pH7.0)に懸濁後、最終濃度0.5MのEDTA−Na、リゾチーム、プロテアーゼ Kを添加し、37℃で4時間インキュベートした。その後最終濃度1%のSDSを添加し更にインキュベートすることで細胞破砕液を得た。細胞破砕液に等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合した。その後、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。続いて、再度等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。これに2倍量のエタノールと最終濃度0.3Mの酢酸ナトリウムを加え、完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離した。得られた沈殿を20分間真空デシケーターにて乾燥した後、少量のTE緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液、1mMのEDTA−Na、pH8.0)に溶解し、ゲノムDNAを得た。
【0084】
(3)グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)発現大腸菌株の作成
Makinoらの報告(ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY)、264巻、6381〜6385頁、1989年)に基づき、下記に示す手法にて実施した。バチルス・メガテリウム IWG3のDNA240μgをとり、制限酵素EcoRI、BglIIそれぞれ150単位と37℃、3時間反応させた。反応液の全量を1%アガロースゲル電気泳動に供し、3−4Kbの大きさに相当するDNAを含む部分を切出して、電気抽出法によりゲルからDNA断片を溶出させた。次いで溶出液を当量のフェノール及びフェノール/クロロホルムで順次抽出し、得られた水層にエタノールを添加してDNAを沈澱させた後、TE緩衝液100μLに溶かした。ベクターpBR322 20μgをEcoRI、BamHIで完全分解して得られた直鎖状ベクターDNAをTE緩衝液200μLに溶解し、上記工程で得られたDNA断片と1:10の割合に混合し、T4 DNAリガーゼを14℃で一夜反応させた。上記工程で得られた組換えDNAを形質転換により大腸菌C600に導入し、アンピシリン50μg/mLを含む寒天培地[D]上で生育してきたコロニーを集めてバチルス・メガテリウム IWG3のDNAライブラリーと称した。DNAプローブ(配列番号8)をIngliaらの方法(ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Res)、9巻、1627〜1642頁、1982年) に従ってT4ポリヌクレオチドキナーゼとγ−
32P−ATPを用いてラベルした。次に前記工程で得られた大腸菌をアンピシリン50μg/mLを含む寒天培地[D]上でコロニーとして生育させ、これをレプリカ法によって、ナイロンメンブレンへ移し、リゾチーム溶菌し、アルカリでDNA変性させ、塩酸による中和処理を行った後、前記プロープとハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーションは6倍濃度のSSC緩衝液(原液組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、5倍濃度のデンハルト液(0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%牛血清アルブミン)、0.5%SDS、牛胸腺DNA20μg/mL(終濃度)及びラベルしたDNAプロープ約5×10
5cpm/mLを用いてプレハイプリダイゼーションを45℃、3時間行った後、45℃で一夜のハイブリダイゼーションを行った。この後、5倍濃度のSSCを用いて45℃で2回、続いて5倍濃度のSSC(0.1%SDSを含む)を用いて45℃で2回、4倍濃度のSSCで2回ナイロンメンプランを洗浄した。この後ナイロンメンプランを乾燥させ、オートラジオグラフィー(−80℃、一夜)に供した。その結果、ハイブリダイゼーション陽性のコロニーが見出された。そこで陽性のコロニーよりプラスミドDNAを調製し、制限酵素EcoRI及びSalIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行った後、ラベルしたDNAプローブとサザンハイプリダイゼーション(ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)、98巻、503〜517頁、1975年)を行った。その結果、EcoRI、SalI切断で生成する約3.6KbのDNA断片にDNAプロープが強くハイブリダイズすることが見出されたため、このプラスミドをpGDA1と命名した。プラスミドpGDA1 10μgをEcoRI及びPvuIで切断し、1%アガロース電気泳動に供し、約1.5Kbの大きさの断片を回収した。得られた断片1μgにdATP、dGTP、dCTP、dTTPを終濃度各1mM、DNAポリメラーゼクレノウフラグメント 4単位を加え、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)、7mM塩化マグネシウム、1mMジチオスレイトールの反応液20μL中で、30℃、20分間反応させた。これにより両端が平滑末端にされたDNA断片を精製し、その約0.5μgにPstIリンカーとT4DNAリガーゼ10単位を加え、66mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)、5mM塩化マグネシウム、5mMジチオスレイトール、1mMアデノシン三リン酸(略称ATP)の反応液20μL中で、14℃、一夜反応させた。反応後DNA断片を精製し、BanIIで切断後、この断片にマングピーンヌクレアーゼ 1Uを加え、40mM酢酸ナトリウム(pH4.5)、100mM塩化ナトリウム、2mM塩化亜鉛、10%グリセロールの反応液50μL中で、30℃、30分間反応させた。この操作によりBanIIの突出末端を平滑末端にし、更に上述したのと同様の方法でEcoRIリンカーを連結した。反応後DNA断片を精製し、EcoRIとPstIで両端を切断し、EcoRI−PstI断片として回収した。発現ベクターpKK223−3を制限酵素EcoRIとPstIで切断した後、回収したEcoRI−PstI断片と混合し、T4DNAリガーゼで結合反応を行わせた。その反応液を用いて大腸菌JMI05を形質転換した。この中の1株からプラスミドDNAを抽出し、これをpGDA2と命名した。pGDA2を大腸菌JM109株に形質転換し、形質転換株エシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)JM109/pGDA株(NITE P−1401)を得た。本菌株は平成24年8月9日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに上記受託番号で国内寄託されている。
【0085】
《実施例5》
バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
【0086】
(1)培養
培地[A]2mLを10mL容の試験管に入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この試験管に、アンピシリンを添加後、寒天培地に維持したエシェリヒア・コリ JM109/pGDA(NITE P−1401)を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、50mL三角フラスコに培地[A]10mLを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、アンピシリンを添加後、上記前培養液200μLを加え、28℃で振とう培養を開始した。培養1時間後最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを添加し、24時間振とう培養を継続した。
【0087】
(2)蓄積反応
上記培養液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物として回収した菌体をリン酸カリウム緩衝液10mLで縣濁後、超音波で菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収し酵素溶液とした。上記酵素溶液100μLを反応液[G]1mLに添加し、50℃で18時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体4を得た。その立体選択率は95%であった。
【0088】
《実施例6》
バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−1)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
【0089】
(1)蓄積反応
天野エンザイム社製バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−1)を20mg含む酵素溶液100μL(溶媒:50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0))を反応液[G]1mLに添加し、50℃で18時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体2を得た。その立体選択率は95%であった。
【0090】
表1は、実施例1、実施例3、実施例5及び実施例6における生成した1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルのそれぞれの立体異性体の割合を示す。
【表1】
【0091】
《実施例7》
クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例1と同様に行った。得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体2であり、その立体選択率は100%であった。
【0092】
《実施例8》
キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC 0960由来メナディオンレダクターゼを用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例3と同様に行った。得られた主反応生成物の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステル立体異性体3の立体選択率は95%であった。
【0093】
《実施例9》
バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例5と同様に行った。得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体4であり、その立体選択率は93%であった。
【0094】
《実施例10》
バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−1)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例6と同様に行った。得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体2であり、その立体選択率は95%であった。
【0095】
表2は、実施例7、実施例8、実施例9及び実施例10における生成した1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルのそれぞれの立体異性体の割合を示す。
【表2】
【0096】
《実施例11》
クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
【0097】
(1)培養
培地[E]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したクルトバクテリウム・エスピー YGK−130(NITE P−1385)の菌体を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[F]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液10mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら28℃及びpH7.0で、29時間培養を行った。上記培養を合計2回行った。
【0098】
(2)蓄積反応
上記培養液1,600mLを遠心分離により集菌し、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を加え800mLとした。次に、グルコースを24g添加し、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの5%(w/w)水溶液を少しずつ添加しながら、pH6.8、25℃で22時間反応を行った。1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの5%水溶液を合計260.4g添加した。得られた反応液を分析した結果、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを蓄積濃度10.3g/L、収率83%で得た。
また、得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体2であり、その立体選択率は99%であった。