特許第5954716号(P5954716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5954716自浄性を有する反射防止性および防汚性コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954716
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】自浄性を有する反射防止性および防汚性コーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20160707BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 7/14 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20160707BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20160707BHJP
   C04B 41/84 20060101ALI20160707BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20160707BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20160707BHJP
【FI】
   C09D183/04
   C09D5/16
   C09D7/14
   C09D5/00 Z
   C09D183/02
   C09K3/18 104
   C04B41/84 A
   C03C17/30 B
   G02B1/111
【請求項の数】20
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2014-521679(P2014-521679)
(86)(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公表番号】特表2014-527098(P2014-527098A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】US2012046791
(87)【国際公開番号】WO2013012753
(87)【国際公開日】20130124
【審査請求日】2015年7月13日
(31)【優先権主張番号】13/184,568
(32)【優先日】2011年7月18日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515049903
【氏名又は名称】エンキ テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】デイヴ バクール チャンパクラル
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−196802(JP,A)
【文献】 特開2002−053806(JP,A)
【文献】 特開2003−201443(JP,A)
【文献】 特開2004−083812(JP,A)
【文献】 特開2006−117718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00;
101/00−201/10
G02B 1/10−1/18
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングを製造する方法であって、
オルガノシランおよびオルガノフルオロシランを別々に加水分解する工程、
その加水分解されたオルガノシランおよび加水分解されたオルガノフルオロシランの存在下で、アルコキシシランを加水分解する工程、
その加水分解されたアルコキシシラン、別々に加水分解されたオルガノシラン、および別々に加水分解されたオルガノフルオロシランを含むゾルから燥ゲルを形成して、該乾燥ゲルを含むコーティングを調製する工程、
を含み、該乾燥ゲルが、反射防止性、耐摩耗性、かつ撥水性を備えることを特徴とする、方法
【請求項2】
前記アルコキシシランがテトラメトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランがトリフルオロプロピルトリメトキシシランを含む、請求項1記載の方法
【請求項3】
前記アルコキシシランがテトラエトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランがトリフルオロプロピルトリメトキシシランを含む、請求項1記載の方法
【請求項4】
前記アルコキシシランがテトラメトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランが(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシランを含む、請求項1記載の方法
【請求項5】
前記アルコキシシランがテトラエトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランが(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシランを含む、請求項1記載の方法
【請求項6】
前記ゾルが、加水分解されたアルコキシシランを含む第一のゾルと、加水分解されたオルガノシランおよび加水分解されたオルガノフルオロシランの混合物を含有する第二のゾルとの混合物を含む、請求項1記載の方法
【請求項7】
前記ゾルが、約0.2〜約2なる範囲の、前記テトラアルコキシシラン対前記オルガノシランおよび前記オルガノフルオロシランの総量の相対的質量を持つ、請求項1記載の方法
【請求項8】
前記ゾルが、約0.5〜約1.5なる範囲の、前記オルガノシラン対前記オルガノフルオロシランの相対的質量を持つ、請求項1記載の方法
【請求項9】
前記乾燥ゲルが、前記ゾル;アルコール、エステル、エーテル、アルデヒド、およびケトンからなる群から選択される有機溶媒;および水を含む混合物から形成され、該混合物における該溶媒および該水の量が、約50〜約99.5質量%なる範囲にある、請求項1記載の方法
【請求項10】
前記溶媒対前記水の比が、質量基準で約5〜約20なる範囲にある、請求項9記載の方法
【請求項11】
前記乾燥ゲルが、150℃未満の温度にて硬化した場合に、標準的EN 1096.2研摩テストに合格するのに十分な耐摩耗性を持つ、請求項9記載の方法
【請求項12】
前記ゾルが、約0.001〜約2質量%なる範囲の量で酸触媒を更に含み、かつ該ゾルが、約1〜約4なる範囲のpHを持つ、請求項1記載の方法
【請求項13】
前記ゾルが、約0.001〜約2質量%なる範囲の量で塩基触媒を更に含み、かつ該ゾルが、約7〜約10なる範囲のpHを持つ、請求項1記載の方法
【請求項14】
前記ゾルが、約0.1〜約10質量%なる範囲の量でバインダを更に含む、請求項1記載の方法
【請求項15】
前記ゾルが、約0.1〜約2質量%なる範囲の量で粒径調節添加剤を更に含み、かつ該粒径調節添加剤を含まない同様なコーティングと比較して、約0.5〜約2.0%なる範囲の透過率増加をもたらす、請求項1記載の方法
【請求項16】
前記ゾルが、架橋添加剤を更に含む、請求項1記載の方法
【請求項17】
前記ゾルが、疎水性の反応性薬剤と反応し得る官能基を持つアルコキシシランプリカーサを更に含み、かつ、該乾燥ゲルを該疎水性の反応性試薬に暴露して、前記乾燥ゲルが、該官能基を持つアルコキシシランプリカーサおよび該疎水性の反応性試薬を含まない同様なコーティングと比較して、約15度までの高い表面接触角を持つ、請求項1記載の方法
【請求項18】
前記コーティングが、前記乾燥ゲルが付着している表面を有する基板を更に備え、かつ該乾燥ゲルが、約80nm〜約1μmなる範囲の厚みを持つ、請求項1記載の方法
【請求項19】
前記コーティングが、前記乾燥ゲルが付着している表面を有するソーラーパネルを更に備える、請求項1記載の方法
【請求項20】
コーティングを製造する方法であって、
オルガノシランおよびオルガノフルオロシランを別々に加水分解する工程、
その加水分解されたオルガノシランおよび加水分解されたオルガノフルオロシランの存在下で、アルコキシシランを加水分解する工程、
加水分解されたアルコキシシラン、別々に加水分解されたオルガノシラン、および別々に加水分解されたオルガノフルオロシランを含むゾルから燥ゲルを形成して、該乾燥ゲルを含むコーティングを調製する工程、
を含み、該コーティングが、約90〜約178度なる範囲の接触角、約2H〜約9Hなる範囲の鉛筆硬度、および該コーティングを持たない基板と比較して、コーティングされた基板について約1%〜約3.5%なる範囲で増大した透過率を持つことを特徴とする、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、コーティングおよびその使用を指向する。より詳しくは、本発明の態様は、ゾル-ゲル法によってコーティングを形成するのに使用される、シランを主成分とするプリカーサを含むコーティング組成物を指向する。この得られるコーティングは、反射防止性、耐摩耗性および防汚性によって特徴付けられる。該コーティングは、また熱および水分に対して延長された耐候性および周囲の腐食物質に対する防御性をも有している。ここに記載の組成物から製造された該コーティングは、例えば太陽電池またはソーラーパネルの外側ガラス面上のコーティングとしての用途等を含む、広範な用途を持つ。
【背景技術】
【0002】
反射防止性コーティングは、サングラス、窓、自動車フロントガラス、カメラレンズ、ソーラーパネル、および建築システム等に及ぶ、広範囲に渡る工業的用途において使用されている。これらのコーティングは、光線が不連続な誘電率勾配を通過する際に、該ガラスの表面上での反射を最小化する。光の反射は、通常透明な物質を横切る光の低い透過率をもたらす。光学的な用途においては、入射光の大部分が最大の効率で界面を透過することが重要である。これに関連して、反射防止性コーティングは、光学的な用途における有用な利益をもたらす。
【0003】
反射防止性コーティングは、通常ガラス、アクリル樹脂、および建築構造物またはエネルギー生産および節減システムと関連する窓およびガラスパネルとして機能する、他の透明な物質において使用される。ビルの窓において、これら反射防止コーティングは、適度な明るさまたは自然な周囲環境を維持し、並びにガラス表面からの煩わしい反射を最小化する目的で、入射光の流入を最小化するために使用される。エネルギー生産および節減システム、例えばソーラーパネルおよび光コレクタにおいて、反射防止コーティングの実用性は、極めて高い光透過率によるこれらデバイスの増強された効率にあり、またその結果としての同一コストに対する高いエネルギー生産性にある。
【0004】
光学要素が最適に動作するためには、これら光学要素が、光透過率を低下させ、またその結果として上記コーティングの性能を低下する恐れのある、表面の汚染および堆積物(例えば、塵)を持たないことが必要となる。特に、外部環境に暴露される光学要素、例えばソーラーパネルおよびビルの窓について、該環境内の化学的および物理的な要素に対する長期間に及ぶ暴露は、通常該光学要素の表面上における塵等の堆積をもたらす。この塵は、砂、土、煤、クレーの粒子、地質学的な鉱物の粒状物、空中浮遊エーロゾル、および有機粒子、例えば花粉、細胞破片、生物および植物-起源の粒状廃棄物、および空気中に存在する粒状凝縮物を含む可能性がある。時間の経過に伴って、このような塵の堆積は、該光学要素の光学的透明性を著しく低下する。結果として、このような光学要素、例えば透明な窓およびソーラーパネルの定期的なクリーニングに係る、人的および財政的な資産の甚大な浪費がある。
【0005】
このような光学要素上への塵の堆積は、以下の2つの型に分類し得る:物理的に結合した粒状物質および化学的に結合した粒状物質。該物理的に結合した粒子は、弱い物理的な相互作用、例えば物理的な絡合い、間隙内への閉込め、ナノスケールまたはミクロンスケールの端部、段差部、テラス、バルコニー、および該光学要素の不規則な表面、例えば窓表面上の境界部分内への粒状物の閉込め等によって緩く保持されている。これら粒子は、中程度のエネルギーの力、例えば風、機械的な送風機からの空気によって、あるいは雨または他の人工的に発生させた流水源、例えば導水ホースまたは噴霧機によって誘発された水流により除去し得る。他方、化学的に結合した粒子は、例えば窓における、該粒子自体の間および該粒状物質と該光学要素自体、例えば使用されたガラスまたはアクリル樹脂(例えば、プレキシグラス)との間の化学的な相互作用の存在によって特徴付けられる。これらの場合において、これら粒子の除去は困難となり、通常は高圧導水ホースまたは手作業でのスクラビングまたはこれら両者等の物理的な手段の利用を必要とする。あるいはまた、強力な溶媒、界面活性剤または洗浄剤等を、該光学要素に適用して、その表面から埃粒子を無くす等といった化学的な手段を、使用することができる。
【0006】
上述の如く、周囲環境に暴露されている、窓およびソーラーパネル等の光学要素上の前記塵、埃は、雨等の自然のクリーニング現象に基いてその幾分かは除去される可能性がある。しかし、雨水は、緩く(物理的に)保持されている粒状物質の除去においてのみ有効であり、またガラスまたは窓表面等の光学要素に強力に(化学的に)結合している可能性のある、粒状物質を除去することは不可能である。更に、雨水は、降雨中にその環境から吸収し、溶解した物質を含み、該物質は、乾燥された際に視認性の膜を残す恐れがある。
【0007】
故に、光の最適な透過が重要である、あらゆる外部に露出している光学要素、例えば窓材料およびソーラーパネルは、そのメンテナンス法と関連する、ある形式の日常的なクリーニングに労力を費やす必要がある。事実、これらの品々の表面は、その製造中並びに日常的なその使用中、清浄化される。通常、ソーラーパネル等のこれら品々の表面は水、洗浄剤、または他の工業的なクリーナーで清浄化される。結果として、これら光学要素に適用された反射防止性コーティング材料は、その反射防止効果を維持するために、洗浄剤、酸、塩基、溶剤、界面活性剤、およびその他の研磨剤を包含する通常の清浄化剤の使用に対して耐え得る物である必要がある。クリーニングおよび塵または他の環境上の粒状物質の堆積による、時間の経過に伴うこれらコーティングの磨耗は、その性能を低下する恐れがある。従って、耐摩耗性は、反射防止性コーティングについて、考察すべき重要な点である。例えば、耐摩耗性は、ソーラーパネルと共に使用されるコーティングにとって、特に該ソーラーパネルの長期に渡る機能的性能にとって、考察すべき重要な点である。
【0008】
大多数の反射防止性コーティングは、好ましい材料としての酸化物を主成分とする。幾つかの反射防止性コーティングは、極めて多孔質性の酸化物を主成分とするコーティングで出来ており、あるいはまた様々な酸化物の堆積物で構成されている。これら酸化物材料は、コーティング材料および該汚れ粒子の型に依存して、水素結合、静電気、および/または共有結合的相互作用によって、汚れ粒子と化学的に反応性である。従って、これらの酸化物を主成分とするコーティングは、その表面上に分子を結合する自然なアフィニティーを有している。更に、高度に多孔質のコーティングは、その多孔質構造内に汚染物のナノ粒子を物理的に取込む恐れがある。結果的に、通常の反射防止性コーティングは、環境内の汚染物のナノ粒子および他の化学物質と、物理的および/または化学的に相互作用するための固有のアフィニティーによって特徴付けられ、またその機能の耐用寿命期間中、清浄な表面を維持する上で、多大な不都合を被る。
【0009】
更に、しばしば反射防止性コーティングに関連する、最も一般的な課題の一つは、特にソーラーパネルに関連する、全太陽光スペクトルに渡るその性能である。該太陽光スペクトルの狭い領域においてのみ有効な、幾つかの反射防止性コーティングが存在するが、最大の効率を得るためには、反射防止性コーティングが、300nm〜1,100nmなる全太陽光領域に渡り、等しく十分に機能することが望ましい。
【0010】
結局、当分野においては、反射防止性コーティングの諸利点を兼ね備えることのできるコーティング、例えば光の反射を減じ、また適用可能な光学表面からの散乱を減じる能力;防汚性または自浄性、例えば汚染物質粒子の結合および吸着に対して抵抗性(例えば、汚染物質粒子の化学的および物理的結合に対して抵抗性)のコーティング表面;耐摩耗性、例えば通常の清浄化剤、例えば洗浄剤、溶剤、界面活性剤、および他の化学的および物理的研磨剤等に対する安定性;およびUV安定性または全太陽光領域に渡る適当な性能を備えたコーティングに対する需要がある。
【0011】
更に、このようなコーティングが機械的に強靭であって、強度、耐摩耗性、および環境内の物理的な対象、例えば砂、小石、葉、枝、およびその他の自然に発生する物体の衝撃に耐えるのに十分な硬さを示すことが有利であろう。またこのようなコーティングが、新たに製造されたコーティングまたはフィルムが、その最適な性能を制限してしまう割れおよび擦り傷の発生を著しく困難なものとし、それによってこのようなコーティングが比較的長期間に及ぶ使用にとってより効果的なものとなるように、機械的な安定性を示すことも有利であろう。更に、このようなコーティングが他の環境的なファクタまたは条件、例えば熱および水分に対して耐性であり、また該環境内に存在するガスおよび他の分子に対して化学的に非相互作用性でありまたは不活性であり、光、水、酸、塩基、および塩に対して非反応性であることも有利であろう。換言すれば、該コーティングと外因的な粒子(例えば、塵)との相互作用を減じて、該コーティングの長期に渡る性能を改善する、化学的構造を持つコーティングを提供することが望ましい。
【0012】
また、通常の技術、例えばスピン塗布法;浸漬塗布法;フローコーティング法、スプレイコーティング法;エーロゾル堆積法;超音波、加熱、または電気的堆積手段;マイクロ-デポジション技術、例えばインク-ジェット、スプレイ-ジェット、またはゼログラフィー;または工業的な印刷技術、例えばスクリーン印刷法、ドットマトリックス印刷法等を用いて、窓表面またはソーラーパネル表面等の光学表面にこのようなコーティングを堆積し得ることも好ましいであろう。
【0013】
同様に、比較的低い温度、例えば150℃以下の温度にて、このようなコーティングを乾燥し、かつ硬化することができ、結果として、他の温度感受性の高い材料が、予め結合されている基板、例えば完全に組み立てられたソーラーパネル上に、該コーティングを適用し、そこで乾燥し、また硬化し得ることも好ましいであろう。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、シランプリカーサまたはシランプリカーサの組合せ、溶媒、場合により酸または塩基触媒、および場合により他の添加物を含むコーティング組成物を提供する。該コーティング組成物は、基板上に塗布することのできるゾルを与えるように加水分解され、該ゾルからゲルが生成され、該ゲルは引続き乾燥され、硬化されて、反射防止性、防汚性または自浄性および耐摩耗性の組合せを持つコーティングを形成する。従って、本発明により与えられる該反射防止性コーティングは、物理的、機械的、構造的、および化学的に安定である。
【0015】
幾つかの態様において、上記コーティング組成物は、ソーラーパネル等の透明基板に対するコーティングを形成するのに使用することのできる、テトラアルコキシシラン、オルガノシラン、およびオルガノフルオロシランを含有するゾルの組合せを含む。幾つかの態様において、該コーティング組成物の組成は、溶媒、pH、溶媒対水の比、および得られるゾルの化学的または物理的特徴における変化を示すことなしに、かなりの期間に渡り該ゾルがその安定性を維持することを可能とする、溶媒対シランの比の正確な選択に基いている。
【0016】
本発明は、また前記本発明のコーティングを適用する方法およびこのようなコーティングを使用する方法をも提供する。幾つかの態様において、基板を処理する該方法は、化学的処理、エッチング、および/または50nm〜200nmなる範囲の厚みを持つ薄膜またはコーティングを生成するための、上記ゾルの均一な展開を可能とする研摩処理または清浄化段階の組合せを基本とする、該基板の予備処理を含む。その後、幾つかの態様において、該方法は、該ゾルを該基板に適用し、また該ゾルをゲル化させて、上記所定の特性を持つコーティングを製造する各段階を含む。幾つかの態様において、該ゾルの該基板への適用は、滴下ロール塗(drop rolling)および/またはフローコーティング技術の使用を含み、これら技術は該ゾルの均一な堆積をもたらし、平滑で均一かつ亀裂を持たないコーティングを生成する。幾つかの態様において、該方法は、特定の熱および湿度条件下で、該被覆した物品を熱処理して、亀裂の生成および/または剥離を示すことなく、該基板に強固に付着する、化学的に耐久性のあるコーティングを生成する段階を含む。
【0017】
幾つかの態様において、本発明は、反射防止の利益を与えおよび/または防汚の利益を与えて、該反射防止の利益を高めることにより、ビルおよび家屋における建築物窓の効率増強支援手段としての、上記コーティング組成物の使用を提供する。他の態様において、本発明は、(定期的な清掃を必要とする)透明な表面を処理して、該表面を自浄性のものとするための、効率増強支援手段としての、該コーティング組成物の使用を提供する。
【0018】
幾つかの態様において、本発明は、ソーラーモジュールアセンブリーの外側カバーとして使用するのに適した、被覆ガラスを主成分とする物品を提供するものであり、該外側カバーは、反射防止性、疎水性および/または疎油性であり、また磨滅、UV光、熱、水分、腐食性物質、例えば酸、塩基、塩、および清浄化剤、例えば洗浄剤、界面活性剤、溶剤および他の研磨剤に対する抵抗性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1において与えられた組成物から作製した、ガラススライド上のコーティングにより、2%なる最大透過率増加を示す、UV〜可視光領域の透過光スペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例2において与えられた組成物から作製した、ガラススライド基板上のコーティングにより、3.4%なる最大透過率増加を示す、UV〜可視光領域の透過光スペクトルを示す図である。
図3a図3aは、ガラススライド基板上に、実施例1の組成物から作製したコーティングの、SEMによる断面図を示すものである。
図3b図3bは、ガラススライド基板上に、実施例1の組成物から作製したコーティングの、SEMによる斜視図を示すものである。
図4a図4aは、ガラススライド基板上に、実施例2の組成物から作製したコーティングの、SEMによる断面図を示すものである。
図4b図4bは、ガラススライド基板上に、実施例2の組成物から作製したコーティングの、SEMによる斜視図を示すものである。
図5図5は、実施例1の組成物から作製したコーティングの、XPSスペクトルを示す図である。
図6図6は、実施例2の組成物から作製したコーティングの、XPSスペクトルを示す図である。
図7a図7aは、ガラススライド基板上に、実施例1の組成物から作製したコーティングの、インデンタ深度プロファイルおよび硬さを示す、ナノ-インデンテーションデータを例示するものである。
図7b図7bは、ガラススライド基板上に、実施例1の組成物から作製したコーティングの、インデンタ深度プロファイルおよびヤング率を示す、ナノ-インデンテーションデータを例示するものである。
図8a図8aは、ガラススライド基板上に、実施例2の組成物から作製したコーティングの、インデンタ深度プロファイルおよび硬さを示す、ナノ-インデンテーションデータを例示するものである。
図8b図8bは、ガラススライド基板上に、実施例2の組成物から作製したコーティングの、インデンタ深度プロファイルおよびヤング率を示す、ナノ-インデンテーションデータを例示するものである。
図9図9は、本発明の幾つかの態様に従って作製されたコーティングに対する、光の透過に関する促進汚染研究の結果を示す図である。
図10図10は、本発明の幾つかの態様に従って作製されたコーティングに対する、汚れの付着に関する促進汚染研究の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の様々な態様を、添付図との関連で以下に説明するが、この記載が本発明の範囲を限定するものととらえるべきではない。寧ろ、該記載は、特許請求の範囲において規定された如き本発明の範囲内に入る、様々な態様の例であると考えるべきである。更には、また「当該発明」または「本発明」なる言及は、該説明が、唯一つの態様を指向するものであり、あるいは各態様が特定の態様に関連して記載された、あるいはこのような言い回しの使用に関連して記載された所定の特徴を含む必要があることを意味するものと解釈すべきではない。事実、共通するおよび異なる諸特徴を持つ様々な態様が、ここに記載されている。
【0021】
本発明は、一般的に、反射防止性、防汚性、自浄性および製造上の柔軟性、並びにその他の利益を包含する、諸利益の組合せを与えるコーティングの提供を意図する。従って、本発明のコーティングは、透明基板等の基板上に使用して、該基板を介する光透過性を高めることを可能とする。特に該コーティングは、ガラスまたはソーラーパネルのフロントカバーガラス等の透明基板上で使用することができる。
【0022】
本発明は、特に太陽光エネルギー生成([ソーラーガラス])において使用されるガラスと共に使用するのに極めて適している。太陽光エネルギー生成は、太陽光起電力および太陽熱を含むものと解釈すべきであり、ここでは日射光が、電気を発生するための終点または中間段階の何れかとして、熱を発生するのに使用される。その上、ソーラーガラスは、該ガラスを介する太陽光エネルギーの最大透過率の確保が望ましい任意の用途、例えば温室等において使用し得ることを理解すべきである。典型的に、ソーラーガラスは、高透過率で、低鉄含有率を持つガラスである。これはフロートガラス、即ち溶融スズ浴上で形成される平板ガラスシートまたは圧延ガラスの何れかであり得、ここで該平板ガラスは、ローラーの作用によって形成される。フロートガラスは、しばしば該ガラスの底部(スズ側)におけるスズによる汚染の存在により特徴付けられる。圧延ガラスは、典型的には、一方の側において、ソーラーパネルにおけるその性能を改善するためにテクスチャー加工される。これは、また太陽熱エネルギー生成において、またはソリンドラ(Solyndra)によって提案されているもの等の太陽光起電力発生の幾つかの形態においてレシーバーとして使用されるもの等のチューブ状に成形することができる。本発明は、またパラボラ式トラフシステム等の太陽光エネルギー生成における、あるいはヘリオスタットにおける鏡として使用されるガラス表面に適用することもできる。また、これは、太陽熱生成において使用されるフレネルレンズ等の様々なガラスレンズを被覆するのに使用することができる。更に、ソーラーガラスは、適用された様々なコーティングを持つことができる。例えば、通常のコーティングは、該ガラスの一方の側における、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)等の透明な伝導性酸化物製である。このコーティングは、多くの薄膜ソーラーパネル技術に対して前面電極を与えるために使用される。他のコーティング、例えば該ガラスの製造において使用されるが、水により抽出された場合には長期間の信頼性に係る問題を引起す、Na+およびCa+等のアルカリイオンを封じ込めるためのコーティング等も存在し得る。この問題を解決するための他の技術は、該ガラス表面の薄層内のこれらイオンを減らすことである。また、ソーラーガラスは、鏡を製造する目的で反射性表面により被覆することができる。ソーラーガラスは、強化されていても、未強化であってもよい。強化ガラスは、著しく強力であり、またこれを用いて製造したソーラーパネルは、典型的に一枚のガラスシートのみを必要とする。未強化フロントガラスを持つように製造されたソーラーパネルは、典型的に強度および安全性に係る要件を満たすべく、強化されたガラスの裏面シートを必要とする。多くの薄膜太陽光発電技術は、また基板としてフロントガラスを使用しており、該技術では、該基板上に太陽電池を構成する材料を堆積する。該太陽電池を製造する際に使用される方法は、該ガラス上の既存のあらゆるコーティングの諸特性に悪影響を及ぼす恐れがあり、あるいは既存のコーティングは、該太陽電池製造工程を妨害する恐れがある。本発明は、ソーラーパネル製造業者により選択されるガラスの型に対して完全に許容性である。これは、フロートガラスまたは圧延ガラスに対しても、同様に十分に機能する。これは、フロートガラスにおけるスズ汚染の存在により影響されない。
【0023】
ITO(または同様なもの)を被覆したガラスを使用するソーラーパネル製造業者にとっての一つの決定的な問題は、焼き戻しである。低コストで、高品質のITO被覆を施した強化ガラスを得ることは、極めて困難である。そのために、ITO被覆ガラスを必要とするソーラーパネル製造業者は、未強化ガラスを使用しており、このことは、該ソーラーパネルの裏側における、第二の強化ガラスシートの使用を必要とする。付随的に、たとえ適当なITO被覆を施した強化ガラスが入手できたとしても、幾つかの薄膜太陽電池製造工程は、その硬度が失われる程にまで、製造中に該ガラスを加熱してしまう。市場における全ての既存の反射防止性ガラスは強化されている。というのは、該反射防止性コーティングが、実際上該強化工程中に形成されるからである。強化は、該ガラスが600℃〜700℃なる範囲の温度に加熱され、また次に急速冷却される工程である。この高い強化温度は、効果的に該反射防止性コーティングを焼結し、結果として該コーティングにその最終的な機械的強度を与える。即ち、強化ガラスを使用することのできないソーラーパネルの製造業者は、典型的には反射防止性ガラスを使用することができない。本発明は、20℃〜200℃なる範囲および20℃〜130℃なる範囲および更に80℃〜200℃なる範囲の低温度にて適用し、また硬化することができる。この低温は、完成されたソーラーパネルに損傷を与えることなしに、該パネルの被覆を簡単化する。従って、これが、未強化ソーラーガラスのユーザーにとっての、反射防止のための一解決策である。
【0024】
本発明のコーティングの上記低温での硬化は、また未強化の反射防止性ガラスによって可能となる以上に、ソーラーパネルの製造業者に対して実質的な利益をもたらす。上記強化段階を必要とすることなしに、該ガラスの被覆を可能とすることにより、ソーラーパネルの製造業者にとっては、彼ら独自の反射防止性コーティングの適用が可能となる。一般に、大きな強化オーブンに対する必要性は、ソーラーパネルの製造業者が、ガラス製造業者から反射防止性ガラスを購入せざるを得ないことを意味する。このことは、ガラス製造業者が、反射防止膜-被覆ガラスおよび非被覆ガラス両者の在庫品を維持する必要があることを意味する。これらは互換的に使用し得ないので、在庫品の融通性は減じられ、大量の在庫品を手元に維持することが必要となる。該ソーラーパネルの製造業者が、彼ら独自のコーティングを適用する能力は、彼らが、正により少量の非被覆ガラスの在庫品を維持でき、また必要に応じてこれに反射防止性コーティングを適用できることを意味する。
【0025】
更に、既存の反射防止性コーティングは、上記ソーラーパネルの製造工程中に引掻傷を生成する傾向がある。典型的に、ソーラーパネルの製造業者は、該コーティングを保護するために、プラスチックまたは紙製のシートを使用しなければならない。本発明のコーティングは完全に製造されたソーラーパネルに適用し得るので、該製造工程の終了時点において該コーティングを適用することができ、従って該保護シート使用の必要性および製造中に該コーティングが損傷を受ける機会が排除される。
【0026】
様々な製造業者からの、既存の反射防止性コーティングは、かすかな着色、テクスチャーおよび光学的な差を持つ傾向がある。このことは、ソーラーパネルの製造業者がその製品に完全に一致する化粧学的な仕上げを持たせたい場合には、問題となる。該製造業者が大量のソーラーパネルを製造する場合、殆ど、異なる供給元から反射防止性ガラスを注文すべきことを余儀なくされ、このことは、最終製品の外観における僅かな差をもたらす。しかし、本発明のコーティングは、ソーラーパネルの製造業者が、彼ら独自のコーティングを施すことを可能とし、またその結果無制限の数のソーラーパネル全体に渡る化粧学的一貫性の実現を可能とする。
【0027】
更に、反射防止特性に加えて、ここに記載のコーティングは、汚れ、塵の付着に対して抵抗性であり、また水の作用によってあらゆる付着した汚れの除去を促進するので、該コーティングは防汚性および/または自浄性を呈する。より詳しくは、ここに記載のコーティングは、物理的な態様による汚れの堆積を最小化する、極めて微細な多孔性によって特徴付けられる。更に、これらコーティングは、化学的および物理的な相互作用に抵抗し、また上記付着粒子の除去を容易にし、それによって表面を本質的に防汚性とする、低いエネルギー表面によって特徴付けられる。該低下された、汚染等の環境との物理的および/または化学的相互作用は、これらコーティングの露出表面を、汚れと結合し難くし、また力またはエネルギーの最小の消費量での清浄化をより一層容易にする。
【0028】
典型的に、通常のガラスを完全に清浄化するためには、機械的な作用、例えばブラシまたは高圧ジェット等の機械的作用が、該ガラス表面に強く結合している汚れを除去するために必要となる。しかし、本発明のコーティングは、汚れがより一層水に、次いで表面に引付けられるような、表面を与える。従って、水の存在下では、該表面に留まっているあらゆる汚れが、機械的な作用の必要性なしに、効果的に除去される。このことは、被覆ガラスが、ヒトまたは機械の介在なしに自然のまたは人工的な雨の存在下で、高レベルの清浄化度を実現するであろうことを意味する。更に、該ガラスを清浄化するに要する水の量は、実質的に減じられる。これは特に重要なことに、ソーラーエネルギー生成のために最も効果的な位置が、日光により温められ、また乾燥される傾向を持つ状況をもたらす。即ち、正にソーラーエネルギーが最も効果的である場所において、水は特に高価かつ稀な資源である。
【0029】
本発明は、ソーラーエネルギー発生システムのオペレータに対して、共通基準エネルギー原価(LCOE)における大幅な節減を可能とする。先ず、上記反射防止特性は、上記ソーラーパネルの効率を高める。高い効率は、該ソーラーエネルギー発生システムの構築におけるバランスオブシステム(Balance Of System:BOS)コストにおける経費の節減を可能とする。即ち、所定サイズのシステムに対して、資本および構築労働にかかるコストが下げられる。第二に、上記防汚特性は、汚染による損失の低下により、該ソーラーパネルのエネルギー生産量を高める。第三に、洗浄が全くまたは殆ど必要とされず、結果として洗浄に関連する労力および水に掛るコストを排除し得ることから、稼働およびメンテナンス(O&M)コストが減じられる。
【0030】
ここに記載されるコーティングは、また水および油に対して抵抗性のヒドロ/フルオロカーボン基をも含み、該基は、該コーティングを化学的に非反応性かつ非相互作用性のものとする。ガラス基板との組合せで使用した場合、該コーティングはシロキサン結合を利用して該ガラス表面と結合し、該シロキサン結合は、該コーティングを強力に結合し、またこれらコーティングを強力で、耐久性があり、また磨耗および引掻傷に対して抵抗性のものとする。纏めると、これらのコーティングは、物理的および化学的に非反応性であり、機械的および構造的に安定であり、疎水性で、疎油性であり、かつUVスペクトル領域全体に渡り安定である。従って、ここに記載するコーティングは、環境に対して暴露されている透明な基板、例えば外部の窓およびソーラーパネルのフロントカバーガラスに対して特別な用途を持つ。
【0031】
一般に、本明細書に記載されるコーティングは、ゾル-ゲル法により製造される。「コーティング混合物」または「コーティング組成物」と呼ばれる出発物質は、加水分解し、また縮合した場合に、液状ゾル中に分散された粒子からなる粒状懸濁液を生成する、シランプリカーサまたはシランプリカーサの組合せを含む。このゾルは、当分野において公知の塗布技術を用いて基板上に塗布し、ゲル化してゲルを形成し、また乾燥して、上記した諸特性を持つ硬質層またはコーティングを生成することができる。該乾燥ゲルを硬化する工程は、該ゲルを更に硬くする。
【0032】
一般に、上記コーティングの結果的にもたらされる諸特性は、前記最終的なコーティングの製造において諸成分の特定の組合せを使用することにより与えられる。特に、前記コーティング混合物における、他の成分と組合されるシランプリカーサまたはシランプリカーサの混合物の選択は、上記所望の特性を持つコーティングを得る上で重要である。例えば、幾つかの態様において、該コーティングは、アルコキシシラン、オルガノシラン、およびオルガノフルオロシランを含むシランプリカーサの混合物から作製される。幾つかの態様においては、別のコーティング混合物またはシランプリカーサ混合物を、別のゾルを形成するために使用し、次いで該別のゾルを併合して、被覆すべき基板に適用される最終的なゾルを形成してもよい。更に、単一のゾル、または一緒に混ぜ合わされる別途調製された複数のゾルを、もう一つのシランプリカーサと混ぜ合わせて、被覆すべき基板に適用される最終的なゾルを形成してもよい。
【0033】
前記コーティング混合物は、任意のシランプリカーサに加えて、その他の成分を含むことができるものと理解すべきである。例えば、該シランプリカーサは、水または水と混合した溶媒、酸または塩基触媒、および1種またはそれ以上の組成改善添加剤と混合して、得られるコーティングの固有の構造、特性、機能、および性能を付与し、変調し、および/または調節することができる。該組成改善添加剤は、粒径調節添加剤、架橋添加剤、および表面改質添加剤を含む。該コーティング混合物におけるこれら成分各々を、以下においてより一層詳しく説明する。
【0034】
ゲル化または析出することのない液体状態の維持によって定義される、長期のゾル安定性は、実際の応用において重要であることを理解すべきである。従って、本発明によって与えられるゾルは、約3ヵ月〜約6カ月なる範囲の期間に渡り、周囲保存条件下で化学的および物理的に安定である。幾つかの態様において、該ゾルは、4℃にて保存した場合に、約6ヵ月〜約9カ月なる範囲の期間に渡って安定である。該ゾルの安定性は、前記シランプリカーサの特定の組合せ;該ゾルのpHの調節;水素結合、極性および非極性に係る釣合を保った溶媒の選択;上記コーティング混合物における該溶媒対水の比に係る釣合;および該シラン対溶媒の比に係る釣合、を含む数種のファクタによるものであり、該ファクタ各々は、以下において更に詳しく説明される。
【0035】
上記コーティング混合物において使用する特定の成分各々について、以下に説明する。上記の如く、シランプリカーサまたはシランプリカーサの組合せが、本発明のコーティングを生成するために該コーティング混合物において使用される。該コーティングを作製するために使用される該シランプリカーサは、得られるコーティングに付与すべき所望の諸特性に基いて選択することができる。幾つかの態様において、該シランプリカーサは、ガラス表面と上記コーティング組成物の成分との間における強力なSi-O-Si結合の形成に基く、該プリカーサの該ガラスに対して結合する傾向に基いて選択される。
【0036】
例えば、加水分解された場合に、テトラアルコキシシランは、各ケイ素原子の回りにおける4つのSi-O-Si結合の形成により、広範囲に及ぶ架橋構造を形成する。これら構造は、機械的安定性および耐磨耗性によって特徴付けられる。本発明の最終的なコーティングに疎水性を付与するために、有機改変シラン(例えば、メチルトリメトキシシラン)を、該テトラアルコキシシランに加えて使用することができる。更に、疎油性および防汚特性を付与するために、オルガノフルオロシランを該テトラアルコキシシランに加えて使用することができる。
【0037】
幾つかの態様において、上記シランプリカーサは、アルキルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、オルガノシラン、オルガノフルオロシラン、または任意のこれらの1種またはそれ以上の組合せであり得る。該アルキルトリアルコキシシランのアルキル基は、メチル、エチル、またはプロピル基であり得る。該テトラアルコキシシランは、式:(OR)4Siで表される型のものであり、ここでRはH、メチル、エチル、イソプロピル、またはt-ブチル基である。該テトラアルコキシシランは、メトキシ、エトキシ、またはイソプロポキシまたはt-ブトキシ類似体であり得る。該オルガノシランは、式:(OR)3Si-R’で表される型のものであり、ここでRはH、メチル、エチル、イソプロピル、またはt-ブチル基であり、またR'はメチル、エチル、またはプロピル基である。該オルガノシランプリカーサとしてのメチルトリメトキシシランは、トリエトキシまたはトリ-イソプロポキシ誘導体で置換えることができる。上記オルガノフルオロシランは、式:(OR)3Si-Rf’で表される型のものであり、ここでRはH、メチル、エチル、イソプロピル、またはt-ブチル基であり、またRf’は3,3,3-トリフルオロプロピル、またはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル基である。該オルガノフルオロシランプリカーサは(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシランまたは(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシランであり得る。
【0038】
他の態様においては、上記コーティング混合物は、オルガノシリカモノマー、オリゴマー、一般式:(X)nSi(R)4-nおよび/または(X)nSi-(R)4-n-Si(X)nを持つ出発物質の単一成分またはこれら物質の混合物から作製したオルガノシラン材料の粒子、ポリマー、および/またはゲルおよび該オルガノシランを溶解または分散させるための溶媒を含むことができ、ここで該一般式において、Xはハライド、アルコキシド、カルボキシレート、ホスフェート、サルフェート、水酸化物、および/または酸化物を含み;nは1、2、または3であり;またRはアルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル、またはベンゼニル炭化水素および/または1〜20個の炭素原子を持つフルオロカーボン鎖である。
【0039】
上述の如く、幾つかの態様においては、シランプリカーサの組合せを上記コーティング混合物において使用し得る。これらシランプリカーサ間の比は、上記最終的なコーティングの全体としての特徴を精密に調製および改善するために、独立に代えることができる。故に、該シランプリカーサ間の化学量論的な比は、これらプリカーサから作製されるゾルの安定性並びにこれらゾルから製造されるフィルムおよびコーティングの機能および性能にとって重要である。例えば、これらプリカーサ各々に関する相対的な比は、機械的な安定性および耐摩耗性を得るための安定な架橋網状構造を形成するために重要である。
【0040】
幾つかの態様においては、3種のシランプリカーサが使用される。幾つかの態様において、使用される3種のシランプリカーサは、アルコキシシラン、オルガノシラン、およびオルガノフルオロシランを含むことができる。幾つかの態様において、該アルコキシシランは、アルキルトリアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランであり得る。該アルキルトリアルコキシシランのアルキル基は、メチル、エチル、またはプロピル基であり得る。該テトラアルコキシシランは、式:(OR)4Siで表される型のものであり得、ここでRはH、メチル、エチル、イソプロピル、またはt-ブチル基である。該テトラアルコキシシランは、メトキシ、エトキシ、またはイソプロポキシまたはt-ブトキシ類似体であり得る。該オルガノシランは、式:(OR)3Si-R’で表される型のものであり得、ここでRはH、メチル、エチル、イソプロピル、またはt-ブチル基であり、またR'はメチル、エチル、またはプロピル基である。該オルガノシランプリカーサとしてのメチルトリメトキシシランは、トリエトキシまたはトリ-イソプロポキシ誘導体で置換えることができる。上記オルガノフルオロシランは、式:(OR)3Si-Rf’で表される型のものであり得、ここでRはH、メチル、エチル、イソプロピル、またはt-ブチル基であり、またRf’は3,3,3-トリフルオロプロピル、またはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル基である。該オルガノフルオロシランプリカーサは(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシランまたは(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシランであり得る。幾つかの態様において、使用する上記3種のシランプリカーサは、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシラン(上記テトラアルコキシシランとして)、メチルトリメトキシシラン(上記オルガノシランとして)、およびトリフルオロプロピルトリメトキシシランまたはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシラン(上記オルガノフルオロシランとして)を含むことができる。幾つかの態様において、上記全てのシランプリカーサの全濃度は、約1質量%〜約10質量%なる範囲の値であり得る。幾つかの態様において、全ての該シランプリカーサの全濃度は、約1質量%〜約4質量%なる範囲の値であり得る。
【0041】
使用した上記全てのシランプリカーサの全濃度に加えて、その各々の相対的な量も重要である。例えば、3種のシランプリカーサを含む態様において、上記コーティング混合物に添加されるその各々の相対的な量は、該コーティング混合物における肉眼的なゾルの均質性、既に上記基板上に堆積されているフィルムまたはコーティングの均一性、および該コーティングの所望の耐摩耗性を包含する幾つかのファクタに基いている。より具体的に、該3種のシランプリカーサ各々の相対的な量は、ゾルの均質性を精密に調節し、フィルムまたはコーティングの均一性を調節し、また最終的なコーティングの耐摩耗性を制御するために調節される。使用した該シランの相対的な量は、該シランプリカーサが同一のコーティング混合物に添加されたか否か、または後に混ぜ合わされて所定の基板に適用されることになる最終的なゾルを生成する、別のゾルを製造するために、別のコーティング混合物が使用されたか否かとは無関係に決定されるものであることを理解すべきである。換言すれば、該シランプリカーサの相対的な量は、所定の基板に適用されることになる最終的なゾル中に存在する、各シランプリカーサの量に基いて決定される。
【0042】
ゾルの均質性に関連して、3種のシランプリカーサが使用される場合、その各々は溶媒媒体中で加水分解されてゾルを生成する。しかし、テトラアルコキシシラン等のアルコキシシランは、極性かつ親水性であり、一方上記オルガノシランおよびオルガノフルオロシランは疎水性である。結果として、これらのシランプリカーサは、相互にかつ溶媒マトリックスと、夫々異なる相互作用を示す。多量の該有機官能性シラン(ここで、「有機官能性」とは、R基を持つ任意のトリアルコキシシランを意味し、これはオルガノおよびオルガノフルオロシラン両者を含む)は、相分離および凝集の発生をきたし、一方少量の有機官能性シランは、低い反射防止および防汚特性を持つフィルムの生成へと導く。従って、該シランプリカーサ各々の適正な相対的量での使用は、該ゾルから作製される該コーティング混合物の所定の機能を得るために、また該混合物を基板上に適用するために本質的なことである。
【0043】
フィルムまたはコーティングの均一性に関連して、上記最終的なゾルを、基板上に適用し、引続きゲル化および含まれる溶媒の蒸発を行って、シリカを主成分とするコーティングを生成する。様々なシランプリカーサから作製された粒子の上記溶媒マトリックスとの特異な相互作用のために、該粒子は、その溶解度において異なっている。大量の上記有機官能化されたシラン(オルガノシランとオルガノフルオロシラン)は、該シランの制限された溶解度および溶媒蒸発中の相分離のために、ムラのある不透明なフィルムの形成に導く。他方、多量のテトラアルコキシシランは、十分な反射防止特性または防汚特性を示すことのないフィルムの形成へと導く。
【0044】
耐摩耗性に関連して、上記オルガノシランおよびオルガノフルオロシラン各々は、3つのSi-O-Si結合を形成することができ、一方上記テトラアルコキシシランは、4つのSi-O-Si結合を形成することができる。従って、これらプリカーサ各々の相対的な比は、機械的な安定性および耐摩耗性を実現するための、安定な架橋された網状構造を形成するに際して重要である。該フィルムにおける多量の有機官能化されたシラン(オルガノシランとオルガノフルオロシラン)は、十分に機械的な安定性を示さず、また十分な耐摩耗性を持たないフィルムの生成をもたらす。
【0045】
幾つかの態様において、テトラアルコキシシラン等の前記アルコキシシラン対前記官能化されたシラン(オルガノシランとオルガノフルオロシラン)全量の質量基準での相対的な比は、約0.2〜約2なる範囲にある。幾つかの態様において、この比は、約0.2〜約1なる範囲にあり、また幾つかの態様において、該比は、約0.5〜約1なる範囲内にある。
【0046】
同様に、オルガノシラン対オルガノフルオロシランの相対的な比は、上記基板上に均等に塗布することができ、また沈殿生成または凝集、凝結をもたらすことのない安定なゾルを得る上で重要であり、該沈殿生成または凝集、凝結は、例えばソーラーパネルカバーと共に使用する場合には、生成するコーティングを介する光学的透過率を低下する恐れがある。また、オルガノシランおよびオルガノフルオロシランの相対的な量は、生成するコーティングの疎水性および防汚特性を決定付ける。これら2つのプリカーサの構造上の類似性並びにこれらの相対的な溶媒和およびこれらの分子間相互作用は、以下に記載するように、上記コーティング混合物において使用するあらゆる溶媒に対して相対的に、該プリカーサ相互の相互作用を制御する。例えば、該オルガノシランおよびフルオロシランの鎖長は、これら成分間の比を決定する上で重要である。一般に、これらプリカーサ上の側鎖が大き過ぎる場合、多量のこれらプリカーサは、不透明なフィルムを生成する。従って、上記オルガノシラン上に大きなR基を持つプリカーサに関連して、該プリカーサの量は、フルオロシランおよびアルコキシシランの量に対して低くする必要がある。同様なことがフルオロシランについても言える。
【0047】
幾つかの態様において、オルガノシラン対オルガノフルオロシランの質量基準での相対的な比は、約0.5〜約1.5なる範囲にある。幾つかの態様において、この比は、約0.75〜約1.25なる範囲にあり、また幾つかの態様において、該比は約0.5〜約1なる範囲にある。最終的に生成される本発明のコーティングの用途に依存して、幾つかの態様において、オルガノシランまたはオルガノシラン混合物の量は、典型的に、上記コーティング組成物または混合物を基準として、約0.1%〜約90質量%なる範囲、約10%〜約65質量%なる範囲、および約10%〜約25質量%なる範囲で変えることができる。使用することのできるオルガノフルオロシランの例は、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン;トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)ジメチルクロロシラン;(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン;(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリクロロシラン;および(3,3,3-トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシランを含む。使用することのできるオルガノシランの例は、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、およびn-プロピルメチルジクロロシランを含む。上記フルオロシランおよびオルガノシランは、単独でまたは任意の組合せとして使用し得ることを理解すべきである。
【0048】
上記の如く、幾つかの態様においては、上記のように前記シランプリカーサまたはシランプリカーサの組合せと共に、溶媒を上記コーティング混合物において使用することができる。例えば、溶媒は、単一のゾルを生成するのに使用されるコーティング混合物において使用でき、また溶媒は、混ぜ合わせて、与えられた基板を被覆するための最終的なゾルを製造することのできる、別のゾルの製造との関連で使用することができる。
【0049】
一般的に、上記溶媒は、水との混合物の状態にある有機溶媒である。前記コーティング混合物において使用される、該溶媒の性質およびその量並びに溶媒/水の比および溶媒/シランプリカーサの比は、生成するゾルの安定性において、並びに上記加水分解されたシランプリカーサを含有するゾルから作製した該コーティングに、特定の機能および性能を付与する上で重要である。また、該溶媒の選択は、該ゾルの粘度または該ゾルの被覆すべき上記基板に対する塗布性、並びに該ゾル粒子の分子内相互作用および被覆すべき基板表面と該粒子との相互作用に影響を与える。上記ゾル-ゲル反応を行うためのマトリックスの提供に加えて、該溶媒は、また該ゾル生成段階の反応速度にも影響を与える。該溶媒の選択および使用すべき溶媒の量に及ぼされるこれら効果の各々は、以下において更に詳しく説明される。
【0050】
一つのファクタは、前記シランプリカーサの加水分解および縮合に及ぼす前記溶媒の効果である。前記ゾル-ゲル法において、該シランは加水分解されてシラノールとなり、後者は更に縮合してシロキサン結合を生成する。該ゾルの粒径および結果としてのその粘度は、該ゾル中の粒子数およびその凝集状態に依存する。強力な水素結合性を示し、また親水性を持つ溶媒は、個々のゾル粒子を安定化して、該ゾルを粘性の低いものとしまた長期間に渡りより安定なものとすることができる。粘性の低いゾルは、50〜200nm程度の薄膜を形成することができ、この様な厚みの薄膜は、反射防止効果を与えるコーティングを提供する上で有益である。
【0051】
もう一つのファクタは、前記溶媒の沸点および蒸発速度の、前記基板上での前記ゾル由来の均一なフィルムの形成に及ぼす効果である。比較的低い沸点を持ち、結果としてかなりの蒸発速度を持つ溶媒が、前記コーティング混合物または該ゾルから均一なフィルムを形成する上でより望ましい。該溶媒が蒸発するにつれて、上記シリケート粒子は、相互により密接に接することになり、また網状構造を形成する。該溶媒が著しく迅速に蒸発する場合、生成するフィルムは均一なものとはなり得ない。同様に、高い沸点を持つ溶媒は、周囲条件下ではかなりの速度にて蒸発することはなく、それにより大きな粒子を含む余り望ましくない不透明なフィルムの形成をもたらす。
【0052】
前記溶媒は、また前記基板上に前記ゾルを適用した際の該ゾルの全体的な塗布性に影響を及ぼす。というのは、該溶媒が、該ゾルの表面エネルギーに影響を与えるからである。より低い表面張力を持つ溶媒は、該基板上での該ゾルのより均等な展開を可能とする。従って、幾つかの態様において、該溶媒は、疎水性基と親水性基との間の釣合を与えて、該ゾルを安定化し、またゾルに最適な粘度を与える。例えば、炭素原子数3〜6の中間的な鎖長を持つアルコールは、該ゾルにおける表面張力を下げる上で特に有利である。
【0053】
もう一つのファクタは、水素結合および他の分子間相互作用の、前記ゾルの安定性に及ぼす作用である。水素結合による相互作用に関与し得る溶媒は、該ゾルが基板上に堆積された場合に、凝集および析出を防止することによって、該ゾル粒子を安定化する。水素結合ドナー-OH官能基を含む溶媒、例えばアルコールおよびグリコールは、水素結合アクセプタR-O-R結合を含む溶媒と共に、安定なゾルの製造において特に有利である。
【0054】
もう一つのファクタは、溶媒の毒性、揮発性、および易燃性の硬化である。該溶媒の毒性および易燃性は、該ゾルの長期保存および輸送の際に問題となる恐れがある。従って、低い毒性、揮発性、および易燃性を持つ溶媒が好ましい。アルコール、グリコール、およびグリコールエーテルがこの点に関して特に有利である。
【0055】
溶媒の選択における上記ファクタを考察すると、幾つかの態様において、使用し得る有機溶媒は、水素結合ドナー基を含むもの、例えば-OH基を持つアルコールおよびグリコール、および水素結合アクセプタ基を持つもの、例えばエステル(-COOR)、エーテル(R-O-R)、アルデヒド(RCHO)、およびケトン(R2C=O)である。使用し得るもう一つの溶媒群は、グリコールエーテルおよびグリコールエーテルエステルを含む。これらの溶媒は、前記ゾルの安定性、粘度、および塗布性について上に略述したファクタの釣合を与える。幾つかの態様において、本発明のコーティング混合物において使用し得る該溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジグリム、アセトン、メチルエチルケトン(ブタノン)、ペンタノン、メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、エチルt-ブチルエーテル(ETBE)、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、酢酸エチル、酢酸メチル、乳酸エチル、および任意の上記溶媒のあらゆる組合せを含む。他の態様において、該有機溶媒は、ケトンである。他の態様において、該溶媒はアセトン、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール等であり得る。上記溶媒は、単独でまたは任意の組合せで使用し得ることを理解すべきである。
【0056】
上述のように、前記溶媒は水との組合せで使用することができる。該溶媒対水の相対的な比は、前記ゾルの所定の粒径を得るために重要であり、このことは更に該ゾルの粘度を決定し、また一旦基板に適用されたゾルから生成されるフィルムの、結果的な厚みを決定する。上述のように、該フィルムの厚みは、適当な反射防止性を持つコーティングを提供する上で重要である。
【0057】
更に、溶媒対水の前記相対的な量および前記ゾルの組成は、ゾル粒子を安定化する上で重要な役割を演じており、従って該粒子は、凝集することなく該溶媒マトリックス内で効果的にその懸濁状態を維持する。具体的には、疎水性基と親水性基との間の釣合は、長期間に渡り安定なゾルを与えるために必要であり、該期間は、幾つかの態様において、4ヶ月を越えるものであり得、従って該ゾルはその諸特性における大きな変化を示さず、また依然としてガラス表面等の上記基板上に一様に塗布することができる。この安定性は、また該ゾルの基板への適用中のその適切な展開を可能とする上で重要である。
【0058】
本質的に、前記溶媒対水の比は、前記ゾルおよび該溶媒のマトリックスにおける疎水性サイトおよび親水性サイトの釣合を指示している。シランプリカーサの加水分解は、シラノール基を含むヒドロキシル化された粒子を形成する。これらのシラノール基は、水素結合をもたらす親水性溶媒によって効果的に可溶化され、また縮合反応に起因する架橋を減じることを可能とする。非極性Si-O-Si結合を生成するためのこれらシラノール基の縮合は、生成する粒子の架橋をもたらし、また表面ヒドロキシル基の減少のために、該架橋構造は、より高い疎水性を持つ媒体中で、エネルギー的に有利になる。同様に、該縮合反応は、水分子の離脱をもたらし、これは高い含水率を持つ媒体中では遅延される。逆に、高含水率の媒体は、シランプリカーサの加水分解を促進して、併合して沈殿を生成することのできる、加水分解されたゾル粒子を形成する。従って、該溶媒対水の比は、安定なゾルを形成するために重要である。
【0059】
特に、上記溶媒対水の比は、例えばシラン、オルガノシラン、およびオルガノフルオロシランプリカーサから生成したものを含む上記ゾル粒子の可溶化において重要な役割を演じる。該シランプリカーサの特性は、ゾル粒子表面上のある範囲の官能基を決定付け、該官能基は、親水性かつ水素結合供与Si-OH基から極性かつ水素結合受容性Si-O-Si基、非極性かつ疎水性オルガノおよびフルオロアルキル基までの範囲に及ぶ。該溶解度および粒子間相互作用は、前記溶媒マトリックスの組成、特に上記の如く該溶媒マトリックスの疎水性および親水性の釣合に強く依存する。
【0060】
従って、幾つかの態様において、前記ゾルの安定性および塗布性にとって最も好都合であることが分かっている、前記コーティング混合物における前記溶媒対水の質量%基準の比は、約5〜約20なる範囲にある。幾つかの態様において、該溶媒対水の質量%基準の比は、約6〜約12なる範囲にあり、また幾つかの態様において、該溶媒対水の比は約7〜約10なる範囲にある。
【0061】
この場合においては水をも含む、上記溶媒の合算した質量%(即ち、有機溶媒と水)の、前記シランプリカーサの合算した質量%(即ち、2種以上のシランプリカーサを使用した場合に、前記コーティング混合物において使用された全てのシランプリカーサの総和であって、該シランプリカーサが一緒に添加されて一つのゾルを形成するか、あるいは別々のゾルが形成され、次いで混ぜ合わされるかとは無関係である)に対する比は、該コーティング混合物から作製したコーティングの長期安定性および機能的有効性において重要な役割を演じている。具体的には、この比は、該ゾルの数個の特徴に影響を与える可能性があり、該特徴は該ゾルの粒径、粘度および安定性を含む。
【0062】
前記溶媒は、上記シランプリカーサを可溶化し、また該ゾル粒子を効率よく分散させるために使用される。多量のシランプリカーサを含有する反応媒体は、シランの高い有効濃度を持ち、これは該シランの加水分解反応を促進して、より小さな粒子を形成し、一方で低濃度のシランプリカーサを含む反応媒体は、該ゾルにおけるより大きな粒子の生成を可能とする。極めて小さな粒子、例えばそのサイズにおいて10nm未満の粒子を含むゾルは、透明なフィルムを与えるが、これらは何ら反射防止効果を示すことはない。より大きな粒子、例えばそのサイズにおいて100nmを越える粒子を含むゾルは、半透明または不透明となる傾向を示すフィルムを生成する。従って、幾つかの態様において、10〜50nmなる範囲のサイズを持つゾル粒子が望ましい。
【0063】
溶媒対シランの相対的な比も、生成するゾルの粘度および表面張力に影響を与える。より小さな溶媒対シランプリカーサ比を持つ著しく粘稠なゾルは、極めて厚いコーティングの生成を可能とし、一方極めて高い溶媒対シランプリカーサ比を持つ、極めて低い粘度を持つゾルは、ムラのあるフィルムおよびコーティングをもたらす。従って、該ゾル中の溶媒に対するシランプリカーサの相対的な量は、該ゾルの適度な稠度を維持する上で、また所定の厚みを持つフィルムおよびコーティングを形成するのに十分な量のシランを与えるために重要である。幾つかの態様において、該溶媒対シランプリカーサの比は、約60nm〜約150nmなる範囲の厚みを持つコーティングを生成するように調節されるが、このことは、反射防止効果を与えるために重要である。
【0064】
前記溶媒対シランプリカーサの相対的な比は、またゾル粒子の単離および分離を制御して、粒子間凝集および凝塊形成を防止する上で重要である。高い溶媒対シランプリカーサ比(即ち、該溶媒に対するシランプリカーサの低い濃度)において、該粒子は前記溶媒マトリックスによって効果的に分散し、該マトリックスは、該粒子を分離状態に保ち、凝集を減じまたは阻止する。しかし、このようなゾルから作製したフィルムは、反射防止性、防汚性、および耐摩耗性といった有用な機能的利益を付与するための、適度な厚みを持つことがない。低い溶媒対シランプリカーサ比(即ち、該溶媒に対するシランプリカーサの高い濃度)において、該粒子は該溶媒マトリックス中で効果的に可溶化および懸濁することはなく、結果として凝集および沈殿生成をもたらす。これらのゾルから作製したコーティングは、不透明または半不透明であり、また一般的に反射防止性コーティングとして使用するには適さない。
【0065】
従って、溶媒対シランプリカーサの正確な釣合が、前記ゾルの安定性にとって、並びに該ゾルから形成したコーティングの機能および性能にとって重要であることを理解すべきである。幾つかの態様において、全溶媒(即ち、水と有機溶媒)対全シランプリカーサの有効な質量%基準の比は、約25〜約125なる範囲にある。幾つかの態様において、この比は約40〜約99なる範囲にあり、また幾つかの態様において、この比は約50〜約75なる範囲にある。この比に関する範囲は、併合されて、所定の基板に適用される最終的なゾルを生成することのできるゾルを形成するのに使用される、各コーティング混合物に対しても当てはまる。
【0066】
上記考察および比に照らして、前記ゾルを製造するための、全体的なコーティング混合物における、この場合には水をも含む溶媒(即ち、有機溶媒と水)の量は、約50〜約90質量%なる範囲で変えることができる。幾つかの態様において、該混合物中の溶媒の量は、約80〜約90質量%なる範囲の値であり得る。一態様において、テトラアルコキシシラン、オルガノシラン、およびオルガノフルオロシランを含むシランプリカーサ混合物は、水中の有機溶媒としてのイソプロパノールと共に使用することができる。この場合において、イソプロパノールおよび水の量は、約80〜約90質量%なる範囲の値であり得る。一態様において、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、およびトリフルオロプロピルトリメトキシシランを含むシランプリカーサ混合物は、水中の有機溶媒としてのイソプロパノールと共に使用することができ、該溶媒の量は86.4質量%であり得る。この比の範囲は、また併合されて、所定の基板に適用される最終的なゾルを生成することのできるゾルを形成するのに使用される、各コーティング混合物に対しても当てはまる。
【0067】
前記シランプリカーサおよび溶媒は、また該シランプリカーサの加水分解を促進するための触媒として、酸または塩基と混合することができる。使用する該酸または塩基の性質および量は、前記ゾルの安定性並びに加水分解されたシランプリカーサを含む該ゾルから作製した上記コーティングの機能および性能にとって重要である。
【0068】
触媒として酸を使用する場合、該酸は弱酸または強酸の何れであってもよい。これら酸は、また有機酸または無機酸であり得る。触媒として塩基を使用する場合、該塩基は弱塩基または強塩基の何れであってもよい。同様に、これら塩基は、また有機塩基または無機塩基であり得る。酸および塩基は該反応後に該ゾル中に残存する。強酸の例は塩酸および硝酸を含む。弱酸の例は酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、およびシュウ酸を含む。強塩基の例は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、およびアンモニア水を含む。弱塩基の例はピリジン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、およびベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドを含む。
【0069】
前記酸および塩基触媒は前記ゾル中に残存するので、前記媒体中のこれらの濃度は、該反応系の最終的なpHを調節する。該ゾルの最大の安定性を得るために、該最終的なゾルのpHは、凝集および沈殿生成を防止するために制御すべきであり、その理由は、該pHを調節しないと、該ゾル粒子が凝集し、また粘稠なゲルまたは沈殿を生成する傾向を持つからである。同様に、該ゾルのpHは、長期のゾルの安定性を確保するために適当な範囲のpHを維持する上で重要であることが確認されている。低pHにおいて、上記シラン粒子は正に帯電しており、またその結果粒子間静電反発力により、該粒子を分離状態に維持することができる。高pHでは、網状構造を形成しないアニオン性シリケートを生成する傾向がある。
【0070】
pH安定性の2つの異なる領域は、前記ゾルの長期安定性および耐久性を高めることが確認されている。酸触媒を使用した場合、幾つかの態様において、有効なpHは約1〜約4なる範囲にある。幾つかの態様において、この有効なpHは約2〜約4なる範囲にあり、また幾つかの態様において、このpHは約2.5〜約3.5なる範囲にある。塩基触媒を使用した場合、幾つかの態様において、該有効なpHは約7〜約10なる範囲にある。幾つかの態様において、この有効なpHは約7〜約9なる範囲にあり、また幾つかの態様において、この有効なpHは約7.5〜約8.5なる範囲にある。
【0071】
幾つかの態様において、前記ゾルの用途に依存して、前記触媒の量は、該ゾルが生成される上記コーティング混合物の質量を基準として、0.001質量%〜約2質量%なる範囲、約0.1〜約1質量%なる範囲、および約0.01〜約0.1質量%なる範囲にある。有用な触媒の非限定的な例はHCl、HNO3、H2SO4、H3PO4、プロトン化アミン、例えばN(H/R)3-n[HX]であり、該一般式においてXはハライド、硝酸塩、リン酸塩、または硫酸塩を含み、nは0、1、またはであり、またRはアルキル炭化水素鎖およびこれらの組合せを含む。
【0072】
一態様において、テトラアルコキシシラン、オルガノシラン、およびオルガノフルオロシランを含むシランプリカーサの混合物は、水中の溶媒としてのイソプロパノールおよび触媒としての0.04M HCl(酸)または0.05M NH4OH(塩基)と共に使用することができる。一態様において、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシランおよびトリフルオロプロピルトリメトキシシランを含むシランプリカーサの混合物は、水中の溶媒としてのイソプロパノールおよび触媒としての0.04M HCl(酸)または0.05M NH4OH(塩基)と共に使用することができる。該シランプリカーサとして予め加水分解されたオルガノシランを含む一態様においては、酸触媒を使用し得る。この場合上記ゾルは、ロール塗り、スクリーン印刷により、あるいはブラシまたは他の機械的な手段の使用により該コーティングを製造または適用して、基板の表面に該ゾルを一様に塗布するために使用し得る、粘稠な液体である。
【0073】
前記コーティング混合物は、また場合により、最終的に得られるコーティングの性能を改善し、あるいは基板に適用する前に該ゾル混合物の安定性および保存寿命を改善するために、他の成分を含むことができる。これら追加の成分は、低分子量ポリマー、粒径調節添加剤、架橋添加剤、および表面改質添加剤を含むことができる。これら随意の添加剤はコーティング混合物において別々にまたは任意の組合せとして使用し得ることを理解すべきである。更に、これら随意の成分は、任意の上記シランプリカーサとの任意の組合せとして、および上記の如き溶媒および酸または塩基の任意の組合せと共に使用することができる。
【0074】
幾つかの態様において、本発明のゾルを作製するための上記コーティング混合物は、場合により低分子量ポリマーを含むことができる。該ポリマーは、該コーティングの機械的安定性を得るためのバインダとして機能する。該ポリマーは、また該液状ゾルの基板上への均一な塗布を補佐して、均質なコーティングを与える。幾つかの態様においては、得られる最終的なコーティングの意図された用途に依存して、該ポリマーの量は、該ゾルを製造するための該コーティング混合物の質量を基準として、0.1〜約10質量%なる範囲、約0.1〜約1質量%なる範囲、および約0.2〜約0.5質量%なる範囲で変えることができる。使用可能なポリマーの例は、ポリ(3,3,3-トリフルオロプロピルメチルシロキサン)、トリデカフルオロオクチルメチルシロキサン、およびジメチルシロキサンコポリマー並びにこれらポリマーの組合せを含む。ポリマーおよび酸触媒の組合せも使用し得ることを理解すべきである。
【0075】
幾つかの態様において、前記ゾルを生成するための上記コーティング混合物は、場合により粒径調節添加剤を含むことができる。該コーティングの屈折率(RI)は、該コーティングを介する光の透過率または該コーティングの反射防止挙動に影響を与えるので、該ゾル中の粒径分布を調節するために、該コーティング混合物に様々な成分を添加して、該コーティングの屈折率を調節し、該コーティングを透過する光の透過率を高め、それによって該コーティングの反射防止能力を高めることができる。
【0076】
前記粒径調節添加剤の非限定的な例は酢酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、N-(2-アセタミド)イミノ二酢酸、(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、イミダゾール、プロパノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、および3-アミノプロピルトリメトキシシランを含む。幾つかの態様において、粒径調節添加剤の使用は、粒径調節添加剤を含まないコーティングと比較して、該コーティングの光透過率を約0.5%〜約2.0%増大する。使用する該粒径調節添加剤の量は、該コーティング混合物の質量を基準として、約0.01〜約10質量%なる範囲内であり得る。幾つかの態様において、該範囲は、該コーティング混合物の約0.1〜約2質量%である。以下に与えられる実施例1は、粒径調節添加剤の使用を説明している。
【0077】
上記最終的なコーティングの反射防止特性は、上記コーティング組成物および上記コーティングの厚みによって決定される。粒径調節添加剤の使用の特に驚嘆すべきまた有利な特徴は、該コーティングの反射防止特性の増強に加えて、この添加剤が、上記ゾルの塗布性をも高めることにあり、該塗布性改善作用は、より良好な性能を持つフィルムの形成へと導く。これら粒径調節添加剤上の水素結合性の基は、粒子間凝集の防止を通して、ゾル粒子を安定化するために効果的である。その水素結合形成特性のために、これら添加剤は該ゾルの粘度を変更し、また該ゾルを所望の厚みを持つフィルムを生成するのに適したものとし、該所望の厚みは、幾つかの態様においては、100〜150nmなる範囲にある。その極性および親水性の故に、該添加剤はガラス基板と該ゾルとの間の相互作用をも変更し、またその結果として該ゾルの表面張力を低下させて、より上首尾での該ゾルの塗布を可能とする。該粒径調節添加剤は、また溶媒分子と水素結合を形成し、またその結果該溶媒の蒸発を緩慢にして、均一かつ均質なコーティングの形成を可能とする。
【0078】
幾つかの態様において、前記ゾルを生成するための前記コーティング混合物は、場合により最終的に得られるコーティングの耐摩耗性を改善するための架橋性添加剤を含むことができる。該反射防止性コーティングの耐摩耗性は、該コーティングの全体的な安定性および長期性能を実現するために必要である。コーティングの耐摩耗性は、欠け目および引掻傷、くぼみ(インデンテーション)、剥離、および該コーティング由来の物質の関連する喪失に導く可能性のある外的な機械的力の作用に耐える該コーティングの能力に関係している。本体レベルにおいて、該耐摩耗性は、該コーティングの硬さおよび/または剛性と関係しており、これは結果として、該ゾルの、架橋を介する広い網状構造形成能力と関連している。従って、該最終的なコーティングの耐摩耗性は、共有結合の形成を通して該粒子間の相互作用を高めることのできる、架橋性添加剤によって増強することができる。
【0079】
これら随意の架橋性添加剤はα,ω-ビス(トリアルコキシシラン)型のシランカップリング剤を含む。この範疇の架橋性添加剤の特定の例は、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)オクタン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、ビス[(3-メチルジメトキシシリル)プロピル]プロピレンオキサイドを含む。場合により、該架橋性添加剤は、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等の3-官能型の添加剤であり得る。理論に拘るつもりはないが、これらの添加剤は、上記コーティング混合物に添加した場合に、粒子間の架橋度を増大し、また該コーティングの機械的諸特性を高めるものと考えられる。
【0080】
これら架橋性添加剤は、上記ゾルを形成するための上記コーティング混合物に添加することができ、あるいは別々のゾルを混ぜ合わせて最終的なゾルを製造する場合には、該架橋性添加剤は、該当する最終的なゾルに添加することも可能である。使用する架橋性添加剤の量は、使用するシランプリカーサの量に依存し、また使用する該シランプリカーサ全体の総量に相対的なものである。該架橋性添加剤対全シランの比は、約0.1〜約1なる範囲で変えることができる。幾つかの態様において、該架橋性添加剤対全シランの比は、約0.2〜約0.8なる範囲にある。三官能性シラン架橋性添加剤に関連して、該架橋性添加剤対全シランの比は、これら範囲のより低い値の側にあり、一方、二官能性架橋性添加剤については、該架橋性添加剤対全シランの比は、該範囲のより高い値の側にある。以下の実施例2は架橋性添加剤の使用について説明するものである。
【0081】
上記コーティング組成物は、また場合により表面改質添加剤を含むことができる。典型的に、該表面改質添加剤は、架橋性添加剤の代わりに使用されるであろう。該表面改質添加剤は、相互に反応して共有結合を形成し得る、補足的な官能基を持つ二成分系を含む。該コーティングの表面改質は、二段階法によって行われる。第一に、架橋性官能基を持つ活性プリカーサ(例えば、反応性官能基を持つシランカップリング剤)を、前記ゾル混合物に配合して該官能基を含むコーティングを生成する。第二に、該コーティングを、包埋された官能基と反応し得る疎水性反応性薬剤で処理する。この第二の段階は、該ゾルがゲル化された後であって、しかもあらゆる溶媒が蒸発する際に行われる。幾つかの態様において、これは約30秒〜約2分間かかる。一旦該ゲルが硬化されたら、該ゲルを該疎水性反応性薬剤に浸漬して、架橋性官能基を持つ活性プリカーサ(例えば、反応性官能基を持つシランカップリング剤)と該疎水性反応性薬剤との間の反応を開始させる。従って、該架橋性官能基を持つ活性プリカーサは、該コーティングに配合され、次いで該コーティングが該疎水性反応性薬剤で処理されるが、後者は、該コーティング中の官能基と反応して、表面に疎水性の基を持つ表面層を形成する。
【0082】
前記架橋性官能基を持つ活性プリカーサは、前記ゾルに配合されたシランカップリング剤であり得、該後者のカップリング剤はアルコールまたはシラノール基(-OH)、アルデヒド基(-CHO)、またはイソシアネート基(-NCO)等の官能基を持ち、一方前記疎水性反応性薬剤は、アミン(-NHまたは-NH2基)、シラノール(-OH)、またはアルコキシシラン基を持つ。該シランカップリング剤は、該疎水性反応性薬剤と反応し得る官能基を持つアルコキシシランプリカーサであり得る。該シランカップリング剤の非限定的な例は、トリエトキシシリルブチルアルデヒド、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、イソシアナトメチルジメトキシシラン、およびイソシアナトメチルジエトキシシランを含む。該疎水性反応性薬剤の例は、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、およびジクロロヘキサメチルトリシロキサンを含む。使用する該架橋性官能基を持つ活性プリカーサの量は、上記コーティング混合物中に存在する全シランプリカーサの量に依存する。該活性プリカーサ対全シランプリカーサの比は、約0.1〜約1なる範囲で変えることができる。幾つかの態様において、該活性プリカーサ対全シランプリカーサの比は、約0.2〜約0.8なる範囲内で変動する。
【0083】
前記疎水性反応性薬剤は、ゲル状態にある前記コーティング混合物に適用されるので、生じる反応は、名目上該ゲルの表面上で起る。従って、該疎水性反応性薬剤は、化学量論的な割合で適用されるわけではない。典型的に約1〜約5質量%のイソプロパノール(IPA)の溶液が、該ゲル表面に適用される。幾つかの態様において、約1〜約2質量%のIPAの溶液が該ゲル表面に適用される。
【0084】
以下の実施例4は、表面改質添加剤の使用について説明する。幾つかの態様において、前記コーティングの該表面改質は、該コーティングの光学的および機械的な諸特性を維持するが、15度までの値だけ表面接触角を高め、これは該コーティングの防汚性または自浄性を改善する。
以下の表1は、本発明の様々な態様に従う、様々なコーティング混合物を列記するものである。
【0085】
【表1】


1: 「I」はイソプロパノールである。
2: 「A」はポリ(3,3,3-トリフルオロプロピルメチルシロキサン)であり、「B」は15〜20%のトリデカフルオロオクチルメチルシロキサンと80〜85%のジメチルシロキサンとのコポリマーである。
【0086】
本発明の様々な態様に従う、他の特定のコーティング組成物は、以下に列挙するものを含む:(1) 0.38%のテトラメトキシシラン、0.47%のメチルトリメトキシシラン、0.56%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、0.05%のHCl、12.17%の水および86.37%のイソプロパノール;(2) 0.38%のテトラメトキシシラン、0.47%のメチルトリメトキシシラン、0.56%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、0.04%のNH4OH、12.18%の水、および86.37%のイソプロパノール;および(3) 0.34%のテトラメトキシシラン、0.47%のメチルトリメトキシシラン、0.56%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、0.05%のHCl、12.18%の水、および86.40%のイソプロパノール。ここで、全ての百分率(%)は質量%である。
【0087】
前記最終的なゾルを調製するための上記コーティング組成物または混合物を製造または処方する方法を、以下に説明する。上述の如く、該コーティング組成物の組成は、シランプリカーサまたはシランプリカーサ混合物の使用に基くものである。唯一つのシランプリカーサを使用する場合において、該ゾルを製造する方法は、該シランプリカーサと任意の溶媒とを混合し、次いで任意の触媒を添加し、次に任意の他の成分を添加する工程を含む。多数のシランプリカーサを使用する場合において、該シランプリカーサは、一緒に混合され、かつ加水分解され、あるいはこれらプリカーサは別々に加水分解され、次いで基板に塗布する前に一緒に混合することができる。該プリカーサを別々に加水分解する方策は、各プリカーサの量を調節することを可能とし、また生成するシラノール種間の広範な凝集を阻止し、結果として薄膜を堆積するのに必要な低粘度を維持する。該多数のシランプリカーサの幾つかを一緒に加水分解し、また1種またはそれ以上の他のシランプリカーサを別々に加水分解し、次いで基板に塗布する前に、これら全てを一緒に混合することができるものと理解すべきである。
【0088】
例えば、前記表1に列挙した組成物は、ワン-ポット反応またはバッチ式方法に基いている。これら成分を一緒に混合して、前記基板上に堆積される液体またはゾルを形成する。該混合の順序は、該溶媒とシランプリカーサとを混合し、次いで酸(使用する場合)および次にポリマー(使用する場合)を添加する。唯一つのシランプリカーサを使用する他の態様においては、該方法は、該シランプリカーサ、次に該酸または塩基触媒、および次に水を添加し、引続き超音波処理する工程を含む。以下の実施例1、2および3において記載されるものおよび多数のシランプリカーサを使用するものを含む他のコーティング組成物に関連して、該シランを別々に加水分解し、次いで一緒に混合することができ、またはその代わりに、これらシランをワン-ポット反応系またはバッチ法として一緒に加水分解することができる。後者の場合においては、該シランプリカーサを該溶媒に添加し、次に水を添加する。次いで、任意の酸または塩基触媒を添加し、引続き超音波処理する。該ゾルを形成するためのワン-ポット反応または別々のゾルの生成何れかを使用し得るが、多数のシランプリカーサを使用する場合には、別々にゾルを生成し、次いで混合することが、最終的な混合ゾルの製造全体に渡るより良好な制御をもたらすことを理解すべきである。
【0089】
3種のシランプリカーサを使用する一態様において、典型的な製法は、該シランプリカーサの2種、例えばオルガノシランおよびオルガノフルオロシランを、酸性(または塩基性)条件下で、イソプロパノール中で別々に加水分解する工程を含む。この場合、該2種のシランプリカーサ各々を、溶媒および上記のような量の任意の酸または塩基と別々に混合する。処理すべき全量に依存して、混合は、周囲条件下での振とう、渦流処理、または攪拌を含む当分野において公知の任意の方法により行うことができる。より大きな容量の場合、大規模ミキサを使用することができる。
【0090】
混合後、前記2種の個々のゾル各々は、周囲条件下に維持された超音波浴内で30分間に渡り、その各シランプリカーサを加水分解することにより調製される。換言すれば、オルガノシラン、溶媒および酸/塩基からなる第一の混合物を、超音波浴に入れ、またオルガノフルオロシラン、溶媒および酸/塩基からなる第二の混合物を、別途超音波浴に入れる。超音波処理を利用して、分子レベルで混合して、不混和性である水と該シランプリカーサとの間で加水分解反応を起こさせることが可能である。この方法の位置変法は、高温にて超音波浴内で加水分解して、該加水分解反応を促進することを含む。幾つかの態様において、該温度は約40〜約80℃なる範囲の値であり得る。加水分解する場合、これらのシランプリカーサは、液体中の粒子またはゾルからなる、粒状懸濁液を生成する。
【0091】
加水分解した後、上記2つのゾル(例えば、加水分解されたオルガノシランを含む1種のゾルおよび加水分解されたオルガノフルオロシランを含む1種のゾル)は、第三のシランプリカーサ、例えばテトラアルコキシシランと共に一緒に混合され、また該混合物全体は、更に前記超音波浴内で30分間超音波処理される。次いで、この混ぜ合わされたまたは最終的なゾルは、周囲条件下で、30分〜48時間なる範囲の変更し得る期間に渡り、熟成処理に付される。熟成処理は、該ゾル-ゲル反応(加水分解および縮合)が完結し、また該ゾルが定常状態を得るために必要とされる。熟成期間は、また異なるゾル由来の粒子間の反応を容易にして、均質な混合物を生成する。熟成の相対的な程度は、ゾルの粘度および結果として生成するフィルムの均質性およびフィルムの厚みに影響し、これは更に得られるコーティングの反射防止性を調節する。幾つかの態様においては、24〜48時間に及ぶより長い熟成期間を使用することができ、その理由はこれにより、該系が平衡に達するための十分な時間を与えるからである。より短時間の熟成を利用することができ、これによってより大きな粒子の生成を阻止し、結果として著しく反応性が高くまたは著しく濃度の高いゾル系に対して、基板に該ゾルを適用する際に、目標とする粘度およびコーティングの厚みを得ることが可能となる。
【0092】
幾つかの態様において、この方法の変更を行うことができる。例えば、上記最終的なゾルは、一つの容器内で同時に前記シランプリカーサ全てを混合し、またこれらを一反応において一緒に加水分解することにより製造することができる。その代わりに、3種のシランプリカーサ(例えば、オルガノシラン、オルガノフルオロシラン、およびテトラアルコキシシラン)を使用する場合、2種のゾルを形成し、次いでこれらを第三のシランプリカーサを混合する方法とは正反対に、3種の別々のゾルを形成し、次にこれらを一緒に混合して、該最終的なゾルを形成することができる。
【0093】
また、前記超音波処理時間は、30分〜5時間なる範囲で変えることができ、また室温条件にて行うことができ、あるいは80℃までの高温度下で行うことができ、これは加水分解および縮合に係る前記ゾル-ゲル反応を完結することを容易にする。より長い超音波処理時間の使用が好ましく、その理由は、これにより該反応が定常状態の平衡に達することが保証されるからである。温度を高めることも、反応の完結を助け、これはより短期間の超音波処理時間の使用を可能とする。高温度は、またより小さな粒子の生成を促進するが、その理由は、より高い温度においては、その反応速度を大幅に高めることができ、結果として、より少数の大きな粒子ではなく、多数のより小さな粒子が生成されるからである。幾つかの態様において、1〜10nmなる範囲の小さな粒子が、最適の反射防止特性を持つコーティングを形成するために好ましい。また上述の如く、該ゾルの熟成期間は、30分〜48時間なる範囲で変えることができ、これにより該系が平衡に達するのに十分な時間が与えられ、また所定の粒径および粘度を持つゾルが生成するのに十分な期間が与えられる。換言すれば、該超音波処理時間および温度並びに該熟成期間は、所望の粒径および粘度を持つ平衡化されたゾルを製造するように調節することができ、該ゾルは、幾つかの態様において、約1〜約10nmなる範囲の粒径を持つ粒子である。
【0094】
上記コーティング混合物の適用について、以下に説明する。本明細書において記載するコーティング混合物は、均一かつ均質であり、また光学的に高品位の、亀裂を含まないコーティングを形成するために使用され、該コーティングは、欠陥および不完全性を持たない。耐久性に優れたコーティングを製造する方法は、該コーティング混合物の組成、適当な溶媒または溶媒の組合せの使用、基板の調製、塗布法、および特定の硬化条件を包含する様々なファクタの組合せに基いている。
【0095】
幾つかの態様において、例えば表1に記載のコーティング混合物において、本発明のコーティング混合物は、安定な液状組成物の形状であり得、該組成物は与えられた基板に適用し得る。基板に適用される該コーティング混合物は、またゲル、ローション、ペースト、スプレイ、またはフォームの形状であってもよい。幾つかの態様において、基板に適用される該コーティング混合物は、液体または粘稠な流体または透明な液体の状態にある。幾つかの態様において、該コーティング組成物は、スプレイとして使用するための透明な液体、あるいはまた分散体、粘稠な液体、またはこれらの混合物として存在する。幾つかの態様において、該コーティング混合物は、透明な液状組成物に対して約0.5〜5cPなる範囲の粘度、また予め加水分解された粘稠な液体形状では約10〜200cPなる範囲の粘度を持ち、ここで、予め加水分解されたとは、加水分解された粒子または加水分解されたシランプリカーサを含む液状ゾルを意味する。幾つかの場合においては、該コーティング混合物は、加水分解前に基板に適用し得ることを理解すべきである。換言すれば、該コーティング混合物は、基板に適用され、その後該コーティング混合物は、空気中の水分の助けにより、加水分解され、縮合される。従って、該ゾルが該基板上で形成され、次いで最終的なコーティングが生成される。基板に適用するための該コーティング混合物の状態は、実際に該コーティング混合物を適用するのに使用される機械的または物理的な方法との関連で、薄膜またはコーティングを形成するのに最も相応しい形状に基いて決定し得る。
【0096】
前記コーティング材料および前記基板に該材料を適用する方法が、より大きなコーティングシステムを含むことを理解すべきである。該コーティング材料は、特定の塗布法に対して最適化され、また逆も同様である。即ち、該最適化された塗布法は、好ましくは稠度および性能を保証するためにカスタム仕様の器具によって行われる。従って、該コーティング材料と組合せたこの道具は、該コーティングシステムを含む。本発明の上記利益が自身で工具を製造しないソーラーパネルの製造業者に極めて適している点を考慮すると、該コーティング材料およびこれに関連する塗工器具両者を含む、完全な解決策を提供することが望ましい。該塗布法について説明している以下のパラグラフにおいて、これらの段階が塗工器具を用いて手作業で、自動的にまたはこれら両者の組合せで実行し得ることを理解すべきである。
【0097】
更に、前記カスタム仕様の器具は、工場設定における作業を意図した大型の自立式ユニットであり得る。また、これはサブツールであってもよく、従ってこれは前記塗布工程を実行するが、該大型のソーラーパネル製造工程における他の段階を実行するもう一つの装置に組込まれる、プロセスモジュールを含む。例えば、既存のガラス洗浄装置に取付けられたモジュールまたはパネル組み立て装置に取付けられたモジュールであり得る。あるいはまた、該工具は、携帯式または半携帯式、例えばトラックに、またはトレーラートラック内部に搭載されたものであり得、従って該工具は作業場に搬送することができ、また大型のソーラー設備の構築中にソーラーモジュールを被覆するために使用することができる。あるいは、該工具は、該コーティングが、設置されたソーラーモジュールにその場で適用し得るように設計することも可能である。
【0098】
一般に、三段階を使用して、前記ゾルを所定の基板に適用する。先ず、該基板を清浄化し、また準備する。第二に、該基板を該ゾルまたはゾル混合物で被覆する。第三に、最終的なコーティングを該基板上に形成する。
【0099】
初期段階として、前記基板を予備的に処理または予備的に清浄化して、表面の不純物を除去し、かつ該表面に新たな表面または新たな結合サイトを生成することによって、該表面を活性化する。該基板の予備的処理段階は、前記ゾルの均一な広がりおよび堆積、該基板とコーティング材料との間の、Si-O-Si結合生成のための効果的な結合的相互作用を与え、また該コーティング-基板界面における欠陥および不完全性の発生を防止する上で重要である。というのは、該ゾルの一様でない広がりが生じおよび/または表面の不均質性により結合的相互作用が低下されるからである。
【0100】
特に、前記基板表面を予備処理しまたは清浄化して、「活性化された」表面を生成することにより、該基板表面上にSi-OH基を露出させることが望ましい。活性化された表面層は、前記ゾル中の専ら親水性の溶媒の表面張力を低下し、また該表面における該ゾルの効果的な広がりを可能とする。幾つかの態様において、物理的な研磨またはクリーニングおよび/または化学的なエッチングの組合せは、該ゾルの一様な広がりを可能とするのに十分である。該表面張力を更に低下する必要がある場合、ガラス等の該基板は、希薄な界面活性剤溶液(低分子量の界面活性剤、例えばサーフィノール;長鎖アルコール、例えばヘキサノールまたはオクタノール;低分子量エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド;または市販の皿洗い機用の洗浄剤、例えばカスケード(CASCADE)、フィニッシュ(FINISH)、またはエレクトラゾール(ELECTRASOL)等)で予備的に処理して、該ゾルの該ガラス表面上でのより良好な広がりを促進することができる。
【0101】
従って、表面の調整は、該表面の化学的および物理的な処理の組合せを含む。該化学的な処理段階は、(1) 該表面を溶媒またはその組合せで清浄化し;(2) 該表面を研磨パッドと共に溶媒で清浄化し;(3) 場合により該表面を化学的にエッチングし;および(4) 該表面を水で洗浄することを含む。該物理的な処理段階は、(1) 該表面を溶媒またはその組合せで清浄化し;(2) 該表面を粒状研磨剤と共に溶媒で清浄化し;また(3) 該表面を水で洗浄する工程を含む。該基板を、化学的な処理段階のみまたは物理的な処理段階のみを利用して、予備処理することも可能であることを理解すべきである。これに代えて、該化学的および物理的処理段階両者を、任意の組合せで使用することもできる。更に、クリーニングブラシまたはパッドと該表面との間の摩擦による該物理的清浄化作用は、該表面の調整の重要な特徴であることをも認識すべきである。
【0102】
上記第一の化学的処理段階において、前記表面は様々な疎水性を持つ溶媒またはその組合せにより処理される。使用される典型的な溶媒は水、エタノール、イソプロパノール、アセトン、およびメチルエチルケトンである。市販のガラスクリーナー(例えば、ウインデックス(WINDEX)も、この目的で使用し得る。該表面は、個々の溶媒で別々に、または溶媒混合物を使用して処理し得る。上記第二の段階において、研磨パッド(例えば、スコッチブライト(SCOTCHBRITE))で、溶媒を使用しつつ該表面を擦るが、この段階は該第一段階と組合せて、または後者を実施した後これとは別に、実施し得ることを述べておく。該最終段階において、該表面は水で洗浄されまたは濯がれる。
【0103】
この方法による基板調整の一例は、エタノール、イソプロパノール、またはアセトン等の有機溶媒で上記表面を清浄化して、有機系の表面不純物、塵、埃および/またはグリースを除去し(研磨パッドを使用し、または使用せずに)、次いで該表面を水で清浄化することを含む。もう一つの例は、該表面をメチルエチルケトンで清浄化し(研磨パッドを使用し、または使用せずに)、次いで該表面を水で洗浄する工程を含む。もう一つの例は、エタノールとアセトンとの1:1混合物を使用して、有機系不純物を除去し、次いで該表面を水で洗浄することを基本とする。
【0104】
幾つかの例において、濃厚な硝酸、硫酸またはピランハ溶液(96%硫酸と30%H2O2との1:1混合物)による前記表面の追加かつ随意の化学的エッチング段階は、該表面を、堆積されるゾルに対する結合に適したものとしなければならない可能性がある。典型的に、この段階は、該表面を水で濯ぐという最後の段階の前に行われる。一態様において、該基板を、ピランハ溶液中に20分間入れ、次いで脱イオン水中に5分間漬けることができる。次いで、該基板を新たな脱イオン水を保持するもう一つの容器に移し、そこに更に5分間漬ける。最後に、該基板を脱イオン水で濯ぎ、風乾する。
【0105】
前記基板は、上記に代えて、または更に物理的処理によって調製することができる。該物理的な処理の場合、一態様については、その表面が単に溶媒およびクリーニングブラシまたはパッドの機械的な作用により清浄化され、場合により界面活性剤または洗浄剤が該溶媒に添加され、その後該基板が水で濯がれ、風乾される。もう一つの態様において、該表面はまず水で清浄化され、次いで粉末化された研磨剤粒子、例えばセリア、チタニア、ジルコニア、アルミナ、珪酸アルミニウム、シリカ、水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム粒子、またはこれらの組合せを該基板の表面に添加して、濃厚なスラリーまたはペーストを該表面上に形成する。該研摩媒体は粉末形状であり得、あるいはスラリー、分散液、懸濁液、エマルション、またはペースト形状であり得る。該研磨剤の粒径は、0.1〜10μmなる範囲、また幾つかの態様においては、1〜5μmなる範囲で変えることができる。該基板は、パッド(例えば、スコッチブライト(SCOTCHBRITE)パッド)、布、またはペーパーパッドで擦ることにより、該研磨剤スラリーで研磨することができる。あるいはまた、該基板を研磨機の回転ディスク上に配置し、次いで該基板の表面に研磨剤スラリーを適用し、また該基板が該ディスク上で回転している間にパッドで擦ることにより、該基板を研磨することができる。もう一つの別の方法は、電子式研磨機の使用を含み、該研磨機は、研磨剤スラリーとの組合せでラビングパッドとして使用して、該表面を研磨することができる。該スラリーで研磨された該基板は、加圧水ジェットにより清浄化され、また風乾される。
【0106】
前記表面を予備処理した後、得られる最終的なゾルは、浸漬被覆、吹付け、滴下ロール塗り、またはフローコーティング法を含む当分野において公知の技術によって基板上に堆積し、該基板上に均一なコーティングを形成する。使用し得る他の堆積法は、スピンコート法;エーロゾル堆積法;超音波、熱、または電気的堆積手段;マイクロデポジション(mictro-deposition)技術、例えばインクジェット、スプレージェット、ゼログラフィー;または工業的な印刷技術、例えばスクリーン印刷、ドットマトリックス印刷等を含む。該ゾルの堆積は、典型的に周囲条件下で行われる。
【0107】
幾つかの態様において、上記堆積法は、小さな表面上に滴下ロール塗り法を通して実施され、ここで上記ゾル組成物は基板表面上に置かれ、次いで該基板を傾斜させて、該液体を該基板の表面全体に渡り展開し、かつ伸びるようにすることができるようにする。より大きな表面に対しては、該ゾルをフローコーティング法により堆積することができ、ここで該ゾルは単一のノズルから該流動するゾルが、表面に均一に堆積するような速度にて移動する基板上に計量分配され、あるいは多数のノズルから静止した表面上に、またはスロットから静止した表面上に計量分配される。もう一つの堆積法は、該液状ゾルを表面上に堆積し、次いで機械的な分散手段を用いて該液体を基板上に一様に広げるものである。例えば、スキージーまたは鋭利で、明瞭かつ均一な端部を持つ他の機械的なデバイスを使用して、該ゾルを塗布することができる。
【0108】
前記最終的なゾルを前記基板上に堆積するのに使用される実際の方法または技術に加えて、数種の該最終的なゾルを堆積するための変法が存在することを理解すべきである。例えば、一態様において、該最終的なゾルは、単に1層で該基板上に堆積される。もう一つの態様において、単一のゾルまたは多数のゾルを堆積して、多数の層を形成することができ、これにより最終的に多層コーティングを形成する。例えば、オルガノシランおよびオルガノフルオロシランを含むゾルのコーティングを下塗り層として形成し、次いでテトラアルコキシシランからなるトップコートを形成することができる。もう一つの態様において、オルガノシランの下塗り層を堆積し、次いでオルガノフルオロシランおよびテトラアルコキシシランの混合物のトップコートを堆積することができる。もう一つの態様において、テトラアルコキシシランの下塗り層を堆積し、次にオルガノシランおよびオルガノフルオロシランのゾル混合物を用いて上層を堆積することができる。もう一つの態様において、オルガノシランおよびオルガノフルオロシランの混合物から作製したゾルからなる下塗り層を堆積し、次いでテトラアルコキシシランの蒸気に該下塗り層を暴露することにより、上層を蒸着することができる。もう一つの態様において、オルガノシランおよびオルガノフルオロシランの混合物から作製したゾルからなる下塗り層を堆積し、次いでテトラアルコキシシランのイソプロパノール溶液に該基板を浸漬することにより、上層を堆積することも可能である。多数の層を堆積する態様において、その各層は、第一の層の堆積の殆ど直後に、例えば前の層の堆積の30秒後またはそれ以内に堆積することができる。上記のように、様々なゾルを相互に重ねて堆積することができ、あるいは様々なゾルの混合物を相互に重ね合せて堆積することができる。あるいはまた、単一のゾルを多層として堆積することができ、あるいは同一のゾル混合物を多層として堆積することができる。更に、与えられたゾルを一層として堆積し、かつ異なるゾル混合物をもう一つの層として使用することができる。更に、ゾルの任意の組合せを任意の順序にて堆積し、それによって様々な多層コーティングを構築することができる。更に、望ましい場合には、各層のためのゾルを、異なる技術を用いて堆積することが可能であることを理解すべきである。
【0109】
前記堆積されたコーティングの厚みは、約10nm〜約5μmなる範囲で変えることが可能である。幾つかの態様において、該コーティングの厚みは約100nm〜約1μmなる範囲で変えることができ、また他の態様において、該厚みは約100nm〜約500nmなる範囲で変動する。十分な反射防止性を与えるためには、約60nm〜約150nmなる範囲の厚みが望ましい。堆積された状態にある該コーティング混合物の厚みが、その塗布法並びに該コーティング混合物の粘度によって影響されることを理解すべきである。従って、該塗布法は、該所定のコーティングの厚みが、任意の与えられたコーティング混合物に対して実現されるように選択すべきである。更に、ゾルの多数の層を堆積するこれら態様において、各層は、該得られるコーティングの全厚みが適切な値となるような厚みで堆積すべきである。従って、ゾルの多数の層を堆積する幾つかの態様において、全体としてのコーティングの厚みは、約100nm〜約500nmなる範囲で変動し、また十分な反射防止性を得るためには、約60nm〜約150nmなる範囲の全コーティング厚が望ましい。
【0110】
一旦前記最終的なゾルが、上記の如く堆積されると、該堆積されたゾルは、引続きゲル化工程を介してゲルを形成し、その後該ゲルは乾燥され、硬化されて、残留する溶媒が除去され、該コーティング内でのSi-O-Si結合の生成を介する網状構造の生成が容易化される。更に、該ゲルは熟成処理に付すことができ、結果として連続的な加水分解および縮合反応による追加の結合の形成が可能となる。
【0111】
上述のように、本明細書において記載されるコーティングを製造する際に使用される上記ゾル-ゲル法は、加水分解されて、固体状態にあるポリマー状の酸化物網状構造を生成する、適当な分子状プリカーサを使用している。該プリカーサの初期の加水分解は、液状ゾルを生成し、該ゾルは最終的に固体状の多孔質ゲルとなる。周囲条件下(または高温度下)での該ゲルの乾燥は、該ゲルの溶媒相の蒸発へと導き、かくして架橋されたフィルムが形成される。従って、該方法全体を通して、該コーティング混合物/ゾル/ゲル/乾燥/硬化コーティングは、得られる最終的なコーティングの材料特性を本質的に変更する、物理的、化学的、および構造的なパラメータにおける変化を被る。一般に、該ゾル-ゲル転移の全体的な変化は、大雑把に物理的、化学的、および構造的な変化の3つの相互依存性の特徴に分割し得る。これらの変化は、変更された構造的な組立て、形態、および微細構造を結果する。該ゾルおよびゲルの化学的組成、物理的状態、および全体的な分子構造は、これら2つの状態における該材料が本質的に異なるように、著しく異なっている。
【0112】
物理的な差異に関連して、前記ゾルは液体中に懸濁した分散粒子の集合体である。これら粒子は溶媒の殻により包囲されており、また相互に有意に相互作用することはない。故に、該ゾルは流動性によって特徴付けられ、また液体状態で存在する。対照的に、ゲルフィルムにおいて、前記網状構造の形成は、発展した状態にまで生じて、該粒子が互いに相互連結される。この高度の網状構造の形成および架橋は、該ゲルの網状構造を、剛性を持つものとし、特徴的な固体状態を持たせる。該材料の2つの異なる状態で存在し得る能力は、該ゾルからゲルへの転移に伴って起こる化学的な変化に起因する。
【0113】
前記ゾル-ゲル転移中の化学的変化に関連して、該ゾル粒子はSi-O-Si結合の形成を通して相互に結合される。結果として、該材料は網状構造の形成および強靭化を示す。全体として、該ゾル粒子はその表面に反応性のヒドロキシル基を含み、この基は網状構造の形成に関与することができ、一方で該ゲルの構造は、シロキサン基に転化されたこれらのヒドロキシル基を持つ。
【0114】
構造上の差異に関連して、前記ゾルは、末端ヒドロキシル基並びに加水分解されていないアルコキシリガンドと共に、極僅かなシロキサン結合を含む個々の粒子を含む。故に、該ゾル状態は、固化されたフィルムとは構造的に異なるものと考えることができ、後者は大量のシロキサンを含んでいる。故に、該液状ゾルおよび該固体状態のポリマー網状構造は、化学的および構造的に別個の系である。
【0115】
特性上の差異に関連して、上記ゾルおよびゲルフィルムの物性の源は、その構造に依存する。該ゾル粒子およびゲルフィルムは、化学的な組成、構成および官能基において異なっており、また結果として異なる物性を示す。該ゾル段階は、その粒子的性質のために、前記網状構造を生成するための高い反応性によって特徴付けられ、一方該ゲル状態は、反応性ヒドロキシル基の安定なシロキサン結合への転化のために、殆ど非反応性である。従って、本発明の最終的なコーティングに上記所望の諸特性を与えるのは、該コーティング混合物に添加されるシランプリカーサと他の化学物質との特定の組合せであることを理解すべきである。ここで、該コーティング混合物は、加水分解および縮合処理に付され、ゲル化され、また乾燥され、更に基板表面上で硬化される。
【0116】
前記ゲルを乾燥し、硬化しおよび/または熟成して、前記最終的なコーティングを製造する方法が数種存在する。幾つかの態様において、該ゲルは周囲温度または室温条件下で乾燥並びに硬化される。幾つかの態様において、該ゲルは周囲条件下で30分間熟成処理に付され、次いで様々な相対湿度(例えば、20%〜50%なる範囲)に維持されたオーブン内で3時間乾燥される。次いで、該オーブンの温度は、5℃/分なる昇温速度にて、120℃なる最終温度まで徐々に高められる。該湿度と共に該緩慢な加熱速度は、該シラノール縮合反応の速度を遅くし、結果としてより均一なかつ機械的に安定なコーティングが提供される。この方法は、再現性のある結果を与え、また前記所望の諸特性を持つコーティングを製造する、信頼性の高い方法である。
【0117】
もう一つの態様において、前記基板上のゲルは、赤外ランプまたはランプのアレイによる照射下で加熱処理される。これらランプは、該基板の被覆された表面が一様に照明されるように、該被覆表面に極近接して配置されている。これらのランプは、約3μm〜約5μmなる範囲の波長の中-赤外領域において、最大発光となるように選択される。より波長の短い赤外光よりも、ガラスによってより良好に吸収されることから、この領域が望ましい。該ランプの出力は、閉じたループ式PIDコントローラにより厳密に制御して、正確かつ制御可能な温度プロファイルを実現することができる。幾つかの態様において、この温度プロファイルは、周囲温度から出発して、約1〜約50℃/秒なる昇温速度にて、約120℃なる温度まで迅速に温度上昇させ、該温度を約30〜約300秒間なる期間に渡り維持し、次いで冷却空気流の助けを借りて、または借りることなく、周囲温度まで温度を低下させる。
【0118】
もう一つの態様において、前記被覆された基板は、該基板の未被覆表面が該ホットプレートと接触し、一方該被覆表面が空気に暴露されるように、ホットプレート上で120℃にて加熱される。この場合においては、該ホットプレートを、該基板が該ホットプレートに載置された後に、120℃なる設定温度まで作動させる。これは、該被覆材料の割れ、フレーキング、および/または離層を防止するために、低加熱速度を保証する。
【0119】
もう一つの態様において、前記基板上のコーティングは、ホットプレート上で200〜300℃なる範囲の温度にて加熱され、ここで該ホットプレートの表面は、シリコーンマットで覆われており、該マットは該コーティングの表面と直接接触していて、10〜30秒間以内に120℃なる所望の硬化温度を実現する。該シリコーンマットの伝導特性は、熱を該被覆表面まで移動させて上記連続的な加水分解および縮合反応を促進するように、該マットを伝導性にする。この場合において、該被覆表面は、10〜30秒間以内に120℃なる温度に達し得る。
【0120】
本発明のコーティングが、シリカを主成分とする反射防止性コーティングの硬化において典型的に使用されている400〜600℃なる温度とは対照的に、120℃を越えない温度下で製造されることは、特に述べておく価値がある。2種以上または3種以上のシランプリカーサを使用する前記コーティング混合物とは逆に、本発明の前記幾つかのコーティング組成物、特に前記表1に記載の組成物のもう一つの特に有利な特徴は、前記反応または硬化工程を進めるための該組成物の特定の成分として、水を必要としないことである。該コーティング組成物が、環境内の水分との反応により、あるいは前記溶媒中に存在する痕跡量の水によって硬化し得ることは特に有利である。湿潤環境内での該コーティングの硬化は、水の蒸発を遅らせ、このことは、改善された架橋性およびより良好な機械的諸特性を持つコーティングの生成へと導く。
【0121】
上述の如く、また以下の実施例において更に例証されるように、本明細書において記載の如く作製されたコーティングは、幾つかの望ましい特性を有している。該コーティングは、光子の反射を減ずる反射防止特性を持つ。本発明に従って作製されたコーティング組成物で被覆されたガラス基板の透過率は、約92%〜約98%なる範囲、約93%〜約96%なる範囲、および約95%〜約98%なる範囲で変えることができる。
【0122】
前記コーティングは、また防汚性をも有し、この防汚性も、ガラス基板と共に使用された場合に、十分な透過性を維持する上で重要である。汚れは、環境に暴露されている表面における粒状物の付着によるものである。該粒子の表面への堆積は、該表面の微細構造並びに化学的な組成に依存する。一般的に、粗い表面は粒状物の物理的結合のための多くのサイトを与える可能性がある。ソーラーパネルに対して、汚れは、典型的に約5%という光吸収率の低下により、出力の低下を引起す可能性があり、また幾つかの場合には22%なる損失が報告されている。論文:「米国のカリフォルニア及び南西領域における大型グリッド-接続式光起電力システムに及ぼす汚れの効果(The Effect of Soiling on Large Grid-Connected Photovoltaic Systems in California and the Southwest Region of the United States)」, 光起電力エネルギー変換, 2006年IEEE, 第4回世界会議議事録(Photovoltaic Energy Conversion, Conference Record of the 2006 IEEE 4th World Conference), 2006年5月, Vol. 2, p 2391-2395は、平均5%という損失を報告している。論文:「ナバラにおけるソーラー-トラッキングPVプラントの、汚れおよびその他による光学的損失(Soiling and Other Optical Losses in Solar-Tracking PV Plants in Navarra)」, Prog. Photovolt: Res. Appl. 2011; 19:211-217では、22%なる損失が報告されている。
【0123】
前記基板表面の化学的組成は、接触角により測定したものとして、該表面エネルギーに反映される。低エネルギー表面(高い水との接触角により特徴付けられる)は、通常低い水との接触角を持つ高エネルギー表面と比較して、結合し易いものではない。従って、防汚性は、前記コーティングの接触角を測定することにより間接的に測定し得る。本発明のコーティングは、約80度〜約178度なる範囲、約110度〜約155度なる範囲、および約125度〜約175度なる範囲の接触角を与える。また、本発明のコーティングは、これらを塵への暴露およびこれに続くエアークリーニングからなる反復的サイクル処理に掛けることによって、防汚挙動について特徴付けされた(例えば、図9および10並びに以下に与えられる表3を参照のこと)。本発明のコーティングは、未被覆サンプルに対して、約50%程度、汚れによる光子束損失を最小化する。
【0124】
本発明のコーティングは、また所望の機械的諸特性を与える。ナノインデンテーションは、ナノスケールの物質、とりわけ薄膜およびコーティングの機械的な性質を測定するために使用される方法である。ナノインデンテーション測定において、或る荷重がインデンタの先端に印加され、該負荷は該先端に対して必要な力を与えて、これを該サンプル内に押込み、それによって該サンプルにナノスケールのインデント(押し込み、くぼみ)を発生する。ナノインデンテーション測定は、時間の経過に対して、該負荷、接触剛性、および該先端の侵入深さを連続的に測定して、負荷-変位プロファイルを記録することを含む。該接触変位との組合せで、この負荷-変位曲線は、機械的諸特性、例えば硬さおよびヤング率(または弾性率)を測定するのに使用し得る。純粋なシリカゾル-ゲルコーティングの混合物に関する典型的な硬さは約1.05GPaであることが観測されている点に注目して、本発明のコーティングは、より一層高い硬さを示す(例えば、図7a、7b、8aおよび8b並びに以下の表3を参照のこと)。更に、本発明のコーティングの鉛筆硬度は、約2H〜約9Hなる範囲、約4H〜約7Hなる範囲、および約6H〜約9Hなる範囲で変えることができる。
【0125】
本発明のコーティングは、また所望の耐摩耗性を持与える。耐摩耗性は、ある物質の、摩擦による腐食に耐えて、その元の形状および外観を保持および維持する能力として定義することができる。耐摩耗性は、固有の骨組み構造の強さ並びに表面の諸特徴に関連している。長距離結合性相互作用による十分な強度を持たない物質は、容易に摩耗する傾向にある。同様に、平坦でない表面を持つ物質または表面の不均質性および粗さを持つコーティングは、摩擦損失により磨耗する傾向を持つ。また、磨耗によるこれら粗さの平坦化および平滑化は、該物質が磨滅することから、該コーティングの光学的透過における変化を引起す。
【0126】
本発明のコーティングは、欧州標準(European Standard)EN-1096-2(ビルにおけるガラス、被覆ガラス)に従って規定されているように、表面上のコーティングの耐摩耗性を測定するための標準テストに合格する。このテストは、該被覆ガラス上にフェルトパッドを擦り付ける作用を含む。このフェルト製擦過パッドは、6rpmなる該パッドの連続的回転または各ストロークの終点において10度〜30度なる範囲の回転と組合せた、54〜66ストローク/分なる速度にて、120±5mmなるストローク長さで、前後の並進運動に付される。該回転と共に該前後運動が1サイクルを構成する。該円形フェルト製擦過パッドの規格は、14〜15mmなる範囲の径、10mmなる厚みおよび0.52g/cm2なる密度を含む。該フェルトパッドは、径15〜20mmなる範囲のメカニカルフィンガー(mechanical finger)に取付けられ、また4ニュートン(N)なる負荷の下に置かれる。550〜900nmなる範囲の波長における透過率を測定して、耐摩耗性を計算し、また該標準は、基準のサンプルに対して、±0.05以下の透過率における変化を指示する。
【0127】
一般に、本発明の上記様々なコーティングは、透明基板またはガラスを、その固有の構造または他の性質を変えることなしに、より多くの光子の透過を可能とするものとする手段を与えると同時に、該表面を不動態化し、結果として該表面は水、塵、土、および他の外因性の物質の付着に対して抵抗性となる。従って、ここに記載の如き該コーティング混合物およびこれから得られるゲル並びにコーティングは、様々な工業的用途を持つ。
【0128】
前記コーティング混合物自体に関連して、これらはコーティング混合物としてまたはその他に対して使用すべき工業的なコーティング処方物として販売することができる。例えば、該コーティング混合物は液状組成物、例えばソーラーシステムまたは建築システムにおける窓としてのその使用とは別に、或る処理におけるガラスの、後の小規模の処理のための液状組成物として提供することができる。この場合、該コーティング混合物は、前記シランプリカーサが加水分解される前に販売することができる。あるいはまた、該コーティング混合物はゾルとして、あるいは該シランプリカーサを加水分解する前に販売することができる。
【0129】
更に、前記コーティング混合物は、特定の基板上に堆積しまたその上でゲル化させることができ、該基板はその後販売される。特に、本発明のコーティング組成物は、表面上に水素結合ドナーまたは水素結合アクセプタ基を持つ任意の透明基板上に塗布することができる。例えば、該コーティングは、与えられたガラスまたは他の透明な基板に対する処理として、該基板が太陽電池、光学窓または囲い等のデバイスに組込まれる前または組込んだ後に、例えばガラス処理工程の一部として適用することができる。他の態様においては、本発明は、反射防止的利益を与えることによりおよび/または防汚的利益を与えて、反射防止的利益を高めることによる、ビルおよび家屋における建築用窓の効率増強補助具としての、該コーティング組成物の使用をも提供する。他の態様においては、本発明は、定期的なクリーニングを必要とする、透明な表面の処理における効率増強補助具としての、該コーティング組成物の使用をも提供するものであり、その使用は、該透明な表面を自浄性のものとする。例えば、該コーティングは、窓、風防ガラス、スクリーン、建築物、ゴーグル、メガネ等において使用されるガラスと共に使用することができる。
【0130】
他の態様において、本発明は、反射防止的利益を与えることによりおよび/または防汚的利益を与えて、反射防止的利益を高めることによる、光起電力ソーラーパネルアセンブリー(例えば、ソーラーパネルの外側カバー)における効率増強補助具としての、前記コーティング組成物の使用をも提供する。これらのデバイスは、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、また光子の効率的な吸収および反射、散乱等の効果に依存しており、また吸着した汚れまたは塵粒子による吸収の損失は、その出力の低下を引起す可能性がある。上記のように、本発明のコーティングは、ガラス表面に塗布した場合、光子の反射を減じ(所謂反射防止特性)、また環境からの塵、土、およびその他の粒状物の吸着および結合をも減じ、該ガラスを介する光子の透過率を増大し、また該表面への粒状物の堆積に関連する光子の減少をも防止する。
【0131】
ソーラーパネル用途用の前記コーティングは、典型的に他の通常の用途において使用されているコーティングについては存在しない、固有の難題をもたらす。ソーラーパネルにおける反射防止コーティングの使用は、長期に及ぶ太陽光輻射の暴露を必要とし、この太陽光への暴露は、通常、長期のUV光への暴露下におかれたポリマー材料の、これら材料における結合の光分解的破壊のために、広範な劣化を結果する。本発明のコーティング組成物は、シランプリカーサを使用しており、これは加水分解および乾燥並びに硬化した場合に、輻射線による破壊に対して安定である、Si-O-Si結合を持つガラスと同様な網状構造を生じる。ソーラー用途におけるシリカを主成分とする材料の使用に係る付随的な一利点は、該材料の固有の硬さであり、これは、引掻傷、インデンテーション、および磨耗に対して、該コーティングを抵抗性のものとする。更に、本発明のコーティングは、約400nm〜約1150nmなる範囲の全太陽光領域全体に渡る、高い光透過率を与え、これはソーラー用途にとって望ましい。
【0132】
更に、本発明のコーティング組成物から得られるゾルは、製造中に前記ソーラーパネルに適用する必要はなく、また製造後に適用して、ソーラーパネル製造工程に対するあらゆる妨害を回避することができることを理解すべきである。該ソーラーパネル製造のメーカー自身は、該モジュールを、その製造工程内の適当な時点において被覆するために、本発明の組成物を使用し得るであろうことが予想される。このような例において、ここに記載の方法に従って使用することのできる安定なゾルの提供は、該パネルの製造後あるいは更には該パネルの最終的な設置後に、該コーティング混合物を適用するための直接的な手段を与える。このことは、該製造工程を合理化することを可能とし、また該コーティングを適用し得る、既存の在庫品または既に設置されているおよび使用中のパネル何れかの、既存のパネルの経済的な価値を高めることを可能とする。
【0133】
特にソーラーパネルを被覆するために使用し得るコーティング混合物は、(1) 0.38%のテトラメトキシシラン、0.47%のメチルトリメトキシシラン、0.56%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、0.05%のHCl、12.17%の水、および86.37%のイソプロパノール、(2) 0.38%のテトラメトキシシラン、0.47%のメチルトリメトキシシラン、0.56%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、0.04%のNH4OH、12.18%の水、および86.37%のイソプロパノール、および(3) 0.34%のテトラメトキシシラン、0.47%のメチルトリメトキシシラン、0.56%のトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、0.05%のHCl、12.18%の水、および86.40%のイソプロパノールを含む。ここで、全ての百分率(%)は、質量%単位である。
【0134】
一態様において、前記ソーラーパネルを被覆する方法は、該パネルの表面を調整し、該表面を本発明に従って製造した前記最終的なゾルで被覆し、該コーティングを周囲条件下で乾燥し、および該乾燥されたパネルを高温度にて硬化する諸工程からなる。該パネル表面は、該パネルを酸化セリウムスラリーで研磨し、次いで該パネルを水で洗浄し、かつこれを周囲温度-圧力条件下で、約10時間〜約12時間なる範囲の期間に渡り乾燥することにより調整される。
【0135】
一旦前記パネル表面を調整した後、一態様においては、本発明の最終的なゾルを、フローコーターによってソーラーパネル上に堆積させる。該パネル上に、上部から下部に向かって、該液状ゾルの自由な重力作用による流れを介して該ゾルを堆積させる。該ソーラーパネルは、該液体流に断点を持込まずあるいは渦流を導入することなしに、該ゾルの自由流動に対して最適な速度にて移動する可動プラットフォームに載置される。該液体流の速度および該ソーラーパネルを搬送するプラットフォームの移動速度は、均一で割れ目、間隙を含まないコーティングの堆積を実現するように最適化され、該コーティングは、均質で、変形を持たず、かつ均一な厚みによって特徴付けられる。
【0136】
より具体的には、一態様において、前記パネルは可動ステージ上に載置され、該ステージは、コンピュータに接続されており、また幾つかの態様においては、約0.05cm/秒〜約300cm/秒なる範囲、他の態様においては、約0.1cm/秒〜約10cm/秒なる範囲および他の態様においては、約0.25cm/秒〜約0.5cm/秒なる範囲の速度にて移動するようにプログラムされている。従って、該ゾルは、その流動速度が幾つかの態様において、約5mL/分〜約50mL/分なる範囲、他の態様においては、約5mL/分〜約25mL/分なる範囲、および他の態様においては、約10mL/分〜約15mL/分なる範囲となるように、ノズル式計量分配ユニット(これはコンピュータに接続されている)を用いて、該パネル表面に堆積される。該ゾルが堆積される速度は、該コーティングの適切な堆積にとって重要であることを理解すべきである。特に、該ゾルのノズル径は、適切な流量を保証するように調節することができ、ここで該ノズルの径は約0.3mm〜約0.9mmなる範囲にある。
【0137】
ゾル使用の特に有利な一特徴は、これが液体状態にあるが、同様にその流れの崩壊なしに塗布するのに十分に粘稠であることにある。前記コーティングの均一性は、更にその流量および前記ソーラーパネルを収容するプラットフォームの移動速度を調節することにより保証される。該ゾルの与えられた流量に対して、該プラットフォームの移動速度が高過ぎる場合には、該ゾル流の破壊をもたらし、これは平坦でないコーティングを生成する。該ゾルの与えられた流量に対して、該プラットフォームの移動速度が低過ぎる場合には、渦流の生成をもたらし、これは生成するフィルムの均一性を低下する。従って、ゾル流量および該プラットフォームの運動の特定の最適条件は、平坦で均一かつ均質なコーティングを提供するために重要である。上で概説したような特定のpH、溶媒およびシラン濃度は、理想的な粘度を与える。
【0138】
前記被覆方法は、また前記パネル上に前記ゾルを流している間の、該ゾルの溶媒の蒸発によって簡単化され、それは、また該パネル表面上での均一なフィルムまたはコーティングの発展に影響を与える。該コーティングは、前記自由流動性のゾルが該表面上で乾燥された際に生成され、またガラス表面に固形物を形成する。より具体的には、該ゾルの下端部は湿潤ラインを表し、一方乾燥が上端部において起る。該溶媒が蒸発するにつれて、該ゾルはより粘稠になり、また最終的に上端部で硬化し、一方その下端部は液体端部の展開により特徴付けられる。該下端部における該展開中の液体は、該ゾルの自由流動を可能とし、一方で該上端部における硬化中のゾルは、該材料を固定し、また層状構造の形成を防止する。これらファクタの釣合は、均一なフィルムの生成にとって重要である。
【0139】
前記フローコーティング法が、前記ソーラーパネルアセンブリーの内部部分への前記ゾルの滲み込みを可能としないことを理解すべきである。というのは、過剰量のゾルを、該アセンブリーの下部に設けられた容器内に集め、これを再利用し得るからである。同様に、該方法は、腐食および該ソーラーパネルアセンブリーの内側からの化学物質の滲出を容易にすることはない。フローコーター法は、該パネルのガラス側のみを該ゾルに暴露し、一方電気接点およびリードを備えた、該パネルアセンブリーの他の側は、該液状ゾルと接触することは全くない。故に、該フローコーティング法は、組立てまたは組立て前の段階中の何れかにおけるソーラーパネルの被覆にとって特に有用である。
【0140】
本明細書において記載した方法は、様々なサイズおよび様々な形状を持つソーラーパネルを被覆するのに使用し得る。例えば、典型的なパネルは、1mx1.6mなる寸法を有し、これは前記可動プラットフォームの適切な設置を通して、縦長形状でまたは横長形式で被覆することができる。
【0141】
前記フローコーター法は、1時間当たり約15〜60パネルなる速度にて、前記パネルを被覆するのに使用し得る。個々のパネルの被覆速度は、該パネルのサイズおよび該パネルを縦長形式または横長配向の何れによって被覆するかに依存するであろう。更に並列状態で動作する多数のコーターを、該パネル組立てラインと共に使用して、生産速度を高めることができる。
【0142】
前記コーティングを堆積した後、前記パネルを約1分〜約20分なる範囲またはそれ以上の期間に渡り周囲条件下で乾燥する。次いで、該被覆したパネルを、上記した硬化技術の何れかを用いて硬化する。その後に、該被覆パネルは、直ぐに使用できる。
【0143】
ここに記載した反射防止性コーティングは、その反射防止特性のために、約3%だけこれを用いた太陽電池のピーク出力を高める。更に、該反射防止性は、該太陽電池パネル上の塵の蓄積に関連する透過損失を最小化するのに寄与するであろうことが推定される。典型的な汚染による損失は約5%であると推測され、またこれらコーティングの使用は該損失を半分に減らすものと予想される。
【実施例】
【0144】
以下の記載は、添付図と共に、本発明の幾つかの態様に従って作製された本発明のコーティングの様々な特徴を説明するものである。これらの実施例は本発明を限定するものと看做すべきではない。
【0145】
一態様において(実施例1と呼ぶ)、ゾルIを、先ず22.5mLのイソプロパノール(IPA)と2.5mLの0.04M HCl(pH 1.5)とを混合することにより調製した。次いで、100μLのメチルトリメトキシシラン(MTMOS)をこの混合物に添加した。IPA、HCl、およびMTMOSを含む最終的なこの溶液を、次に超音波処理装置内で35分間に渡り超音波処理に掛けた。ゾルIIを、先ず22.5mLのIPAと2.5mLの0.04M HCl(pH 1.5)とを混合し、次いで100μLの(3,3,3-トリフルオロプロピル)-トリメトキシシラン(F3TMOS)を添加することにより調製した。ゾルIIも、35分間に渡り超音波処理に掛けた。該超音波処理後、ゾルIおよびIIを等量ずつ(各12.5mL)混合し、また100μLのテトラメトキシシラン(TMOS)を添加した。この最終的な溶液を、次に35分間の超音波印加処理に掛けた。この混合物を周囲条件下で24時間〜120時間に渡り熟成処理に付した。この熟成処理後、顕微鏡スライド(酸化セリウム艶出し剤で研磨し、洗浄し、かつ乾燥させた)を、上記最終的なゾル混合物でフローコーティング処理し、約5〜10分間に渡り乾燥させた。一旦乾燥した後直ぐに、該スライドを、2つの方法の内の一つで硬化させた。その一つの方法において、該スライドは、その被覆側を上にして、ホットプレート/攪拌機上に、120℃にて45分間載置した。もう一つの方法において、該スライドは、25℃にて25分間オーブン内に置かれた。次いで、該温度を20分間かけて一定の昇温速度で120℃まで高め、次いで120℃にて180分間維持した。次いで、該温度を、一定の冷却速度にて60分間かけて25℃まで下げた。
【0146】
粒径調節添加剤の使用を説明する一態様(実施例2という)において、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)を使用し、以下のようにして、ゾルを製造した:実施例1に記載の方法に従ってゾルを製造した。最終的な超音波印加処理後、得られた混合物を冷蔵した水で5分間冷却し、次いで室温にて少なくとも10分間静置した。この後、0.5〜2mLの0.5M濃度のTRIS溶液を、該混合物に添加し、次にこれを振とう処理し、5分間熟成させた。該熟成後、顕微鏡スライド(酸化セリウム艶出し剤で研磨し、洗浄し、かつ乾燥させた)を、上記最終的なゾル混合物でフローコーティング処理し、約5〜10分間に渡り乾燥させた。一旦乾燥した後直ぐに、該スライドを、2つの方法の内の一つで硬化させた。その一つの方法において、該スライドは、その被覆側を上にして、ホットプレート/攪拌機上に、120℃にて45分間載置した。もう一つの方法において、該スライドは、25℃にて25分間オーブン内に置かれた。次いで、該温度を20分間かけて一定の昇温速度で120℃まで高め、次いで120℃にて180分間維持した。次いで、該温度を、一定の冷却速度にて60分間かけて25℃まで冷ました。これらのコーティングを用いた場合、最大透過率にて3.45%および太陽光スペクトル範囲全体に渡る平均で2.77%なる反射防止性の増強が観測された。
【0147】
架橋添加剤の使用を説明する一態様(実施例3という)において、実施例1に記載の方法に従ってゾルを製造した。最終的な超音波印加処理後、得られた混合物を冷蔵した水で5分間冷却し、次いで室温にて少なくとも10分間静置した。この後、1mLの0.5M濃度のTRIS溶液を、該混合物に添加した。これら成分を混合した後、変動する量(50μL〜250μL)の架橋剤を該混合物に添加した。該ゾルを該基板上に堆積する前に、これを更に5分間熟成処理に付した。
【0148】
実施例3の一変法は、可変量(50μL〜250μL)の前記架橋添加剤を夫々各ゾル(ゾルIおよびゾルII)に添加し、次いで同一順序で各段階を実施することを含む。実施例3のもう一つの変法は、ゾルI、ゾルIIおよびTMOSを可変量(50μL〜250μL)の該架橋添加剤と共に混合し、次いで超音波印加処理し、次にTRISをこの混合物に添加する工程を含む。実施例3のもう一つの変法は、例えば前記粒径調節添加剤としてのTRISの使用に関連して上記したコーティングから作製した下塗り層を含む多層コーティングを製造し、次いで1〜5体積%のIPAに溶解した架橋添加剤の溶液からなる、上塗り層を堆積する工程を含む。
【0149】
表面改質添加剤の使用を説明する一態様(実施例4という)において、実施例1に記載の方法を用いて、ゾルIおよびゾルIIを製造する。次いで等量(各12.5mL)のこれらゾルを混合し、100μLのTMOSを、可変量(50μL〜250μL)のトリエトキシシリルブチルアルデヒドと共にこの混合物に添加し、次に35分間の超音波印加処理に掛けた。このゾルを、更に5分間、基板上に堆積する前に熟成させた。該コーティングを含む該基板を、更にヘキサメチルジシラザンの溶液(1質量%、IPA溶液)中に浸漬した。このコーティングを、ホットプレート上で70℃にて1時間乾燥させ、該アルデヒド基とアミノ基との間で縮合反応させた。該コーティングを含む該基板を、次に120℃にて45分間に渡り硬化させた。
【0150】
実施例4の一変法は、上記実施例1、2または3由来のゾル混合物を用いてコーティングを形成し、次いで該コーティングをシランカップリング剤(1%IPA溶液)で表面処理し、次いで疎水性かつ反応性の薬剤(1%IPA溶液)で処理する工程を含む。実施例4のもう一つの変法は、以下の3種のゾルコーティングの一つを形成する工程、およびこれに続く疎水性かつ反応性の薬剤(1%IPA溶液)で表面処理する工程を含む:(1) 0.38%のTMOS、0.47%のMTMOS、0.56%のF3TMOS、0.05%のHCl、12.17%の水、および86.37%のIPA;(2) 0.38%のTMOS、0.47%のMTMOS、0.56%のF3TMOS、0.04%のNH4OH、12.18%の水、および86.37%のIPA;または(3) 0.34%のTMOS、0.47%のMTMOS、0.56%のF3TMOS、0.05%のHCl、12.18%の水、および86.40%のIPA。ここで、全ての百分率(%)は、質量%単位である。
【0151】
適用可能な場合には、前記コーティングの反射防止特性の測定を、以下のようにして行った:該コーティングの透過率を、付属積分装置を備えたUV-可視(VU-vis)吸収分光光度計により測定した。この反射防止性増強ファクタは、未処理のガラススライド対本発明の組成物で被覆したガラススライドの比較により、透過率における相対的な百分率(%)での増加として測定される。ASTM E424は、太陽光の透過率増加を説明しており、該透過率増加は、該コーティングの適用前後における、太陽光輻射線の透過率における相対的な百分率(%)での差として定義される。このコーティングは、太陽光の透過率における約1.5%〜約3.25%なる範囲の増加を示す。該コーティングの屈折率は楕円偏光測定器により測定した。
【0152】
前記コーティングの耐摩耗性は、欧州標準(European standard)EN-1096-2(ビル用被覆ガラスにおけるガラス)に従って磨耗試験機によって測定される。実施例1、2、および3に従って作製されたコーティングは、任意の添加された組成調節添加剤なしに、該標準の合格基準を満たすことができる。
【0153】
前記コーティングの接触角は、ゴニオメータによって測定され、該ゴニオメータにおいては、水滴の接触角が、CCDカメラによって測定される。3回に渡る測定の平均値を、各サンプルについて使用する。
以下の表2は、実施例1に従って製造したコーティングについて実施した幾つかの性能テストの結果を示すものである。この表において、「スペック(Spec)」とは、実施したテストに関する形式上の手順を意味し;「基準に合格(Pass Criteria)」とは、或るサンプルが該テストに合格するための、%透過率(%T)における許容変化を意味し;「N」とは、テストしたサンプル/実験の数(回数)であり;また「結果ΔT」とは、該N個(回)のサンプル/実験に関する%透過率(%T)における観測された変化の平均値である。
【0154】
【表2】
【0155】
これらの結果は、丁度120℃にて硬化されたコーティングについて達成された点で重要である。既存の反射防止性コーティングは、典型的に約400〜約600℃なる範囲の温度にて焼結して、これらの結果により示されるような信頼性のレベルを達成する。
【0156】
図1は、実施例1において与えられた組成物から作製した、ガラススライド上のコーティングについて、2%なる最大の透過率増加を示す、UV-可視範囲の透過スペクトルを例示するものである。
【0157】
図2は、実施例2において与えられた組成物から作製した、ガラススライド上のコーティングについて、3.4%なる最大の透過率増加を示す、UV-可視範囲の透過スペクトルを例示するものである。
【0158】
図3aは、実施例1の組成物からガラススライド基板上に作製したコーティングに関する、SEM(断面)写真である。このSEM像は、これらコーティングにおいて、如何なる認識可能な多孔性も存在しないことを示している。これらフィルムの厚みは約90nmである。
【0159】
図3bは、実施例1の組成物からガラススライド基板上に作製したコーティングに関する、SEM(斜視図)写真である。
【0160】
図4aは、実施例2の組成物からガラススライド基板上に作製したコーティングに関する、SEM(断面図)像である。このSEM像は、これらコーティングにおける表面粗さの存在と共に、これらコーティングにおける高い有孔度を示している。これらフィルムの厚みは約100nmである。
【0161】
図4bは、実施例2の組成物からガラススライド基板上に作製したコーティングに関する、SEM(斜視図)像である。
【0162】
図5は、実施例1の組成物から作製したコーティングのXPSスペクトルを示す図である。本図にみられるピークは、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシランの配合に起因する該コーティングにおけるフッ素原子の存在、並びにシリケート網状構造に起因するケイ素原子および酸素原子の存在および該コーティング中に存在する有機成分由来の炭素原子の存在を示す。
【0163】
図6は、実施例2の組成物から作製したコーティングのXPSスペクトルを示す図である。本図にみられるピークは、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシランの配合に起因する該コーティングにおけるフッ素原子の存在、並びにシリケート網状構造に起因するケイ素原子および酸素原子の存在および該コーティング中に存在する有機成分由来の炭素原子の存在を示す。
【0164】
図7a、7b、8aおよび8bは、ガラススライド基板上に、実施例1および2の組成物から作製したコーティングの、インデンタ深度プロファイル、硬さおよびヤング率を示す、ナノ-インデンテーションデータを例示するものである。これら測定の結果を、以下の表3にまとめた。
【0165】
以下の表3は、本発明の様々な態様に従って作製したコーティングに関する様々な特性を掲載している。ここで、「硬さ」は、該フィルムが塑性変形を示すことができる前に、インデンタによって及ぼされる力(GPa単位)の大きさであり、「接触角」は、固体表面における液体/空気界面の角度または固体基板に対して液滴がなす角度であり、また「透過率増加」は、{[%T被覆 - %T未被覆]/[%T未被覆]}x100として計算される。幾つかの態様において、本発明のコーティングが約1%〜約3.5%なる範囲の、また幾つかの態様において、約1.5%〜約3%なる範囲の透過率における増加;および約80度〜約120度なる範囲の、および幾つかの態様において、約85度〜約100度なる範囲の接触角をもたらすことを認識すべきである。
【0166】
【表3】
【0167】
ナノインデンテーション測定は、ベルコビッチ(Berkovich)ナノインデンテーションシステムを用いて行った。純粋なシリカゾル-ゲルコーティング混合物に関する典型的な硬さは、約1.05GPaであることが観測される。理論に拘るつもりはないが、本発明のコーティングのこの高い機械的特性(純粋なシリカを主成分とするコーティングと比較して)は、高い硬さに寄与している幾つかのファクタによるものであり得る。先ず、3-プリカーサ系の使用による広範な架橋は、前記Si-O-Si網状構造をより強力にする。第二に、オルガノシランおよびオルガノフルオロシランの併用は、その有機側鎖間の非共有結合性の相互作用を増強して、より良好な相互作用を促進し、該相互作用は全体的な機械的諸特性を高める。第三に、これら側鎖間の上記強い相互作用は、該ゾル-ゲル網状構造における多孔部空隙空間の良好な充填を促し、均質かつ殆ど非多孔質のコーティングを生成する。これらを一緒に考慮すると、多孔質の微細構造が存在しないことに加えて、プリカーサの特優の組合せおよびその有機基間の増強された側鎖相互作用が、従来技術のコーティングに比して改善された機械的諸特性をもたらす。
【0168】
図9は、前記スライドを透過する太陽光の光子束における変化を示す、促進汚染研究の結果を例示するものであり、また図10は、風により運ばれた塵粒子の堆積による、被覆および未被覆ガラススライドをシミュレートされたダートストーム(dirt storm)に対して継続的に暴露した際の、質量変化を例示するものである。該未被覆および被覆スライドの防汚挙動は、長期間に渡り屋外に置かれた物体の促進汚染をシミュレートする、以下の手順を利用して測定した。該被覆および未被覆スライドの吸収スペクトルを測定して、その透過率を明らかにした。これら両スライドを秤量した。次いで、該スライドを4℃のフリーザーに5分間入れ、沸騰水由来の蒸気に30秒間曝してこれらを水蒸気で湿らせた。次に、これらのスライドを、ダストチャンバーに入れて、ファンからの吹込空気によって一様に分散された埃を堆積させた。各スライドを、埃が分散されている空気に3分間暴露した。次に、これらのスライドを、その輻射線による乾燥のためにIRランプの照射下に1分間置いて、水分を除去した。次いで、これらスライドを、ファン由来の空気を含むウインドマシン内に載置して、不快な緩く保持されているホコリ粒子を除去した。この段階は、強力に結合した埃粒子のみの維持を保証した。次いで、これらスライドを秤量して、堆積した埃による過剰な質量を決定した。最後に、該スライドの透過スペクトルを記録して、埃粒子の堆積による光透過率における変化を決定した。この工程を6サイクル繰返し、得られたその結果を図9および10に示した。
【0169】
以上、本発明の様々な態様を説明した。しかし、別の態様も可能であり、また本発明が上記した特定の態様に限定されるものではないことを理解すべきである。寧ろ、これらの態様の説明は、添付した特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に入る様々な態様の例示であると考えるべきである。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕加水分解されたアルコキシシラン、加水分解されたオルガノシラン、および加水分解されたオルガノフルオロシランを含むゾルから形成された乾燥ゲルを含み、
該乾燥ゲルが、反射防止性、耐摩耗性、かつ撥水性を含むことを特徴とする、コーティング。
〔2〕前記アルコキシシランがテトラメトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランがトリフルオロプロピルトリメトキシシランを含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔3〕前記アルコキシシランがテトラエトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランがトリフルオロプロピルトリメトキシシランを含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔4〕前記アルコキシシランがテトラメトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランが(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシランを含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔5〕前記アルコキシシランがテトラエトキシシランを含み、前記オルガノシランがメチルトリメトキシシランを含み、かつ前記オルガノフルオロシランが(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシランを含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔6〕前記ゾルが、加水分解されたアルコキシシランを含む第一のゾルと、加水分解されたオルガノシランおよび加水分解されたオルガノフルオロシランの混合物を含有する第二のゾルとの混合物を含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔7〕前記ゾルが、約0.2〜約2なる範囲の、前記テトラアルコキシシラン対前記オルガノシランおよび前記オルガノフルオロシランの総量の相対的質量%比を持つ、前記〔1〕記載のコーティング。
〔8〕前記ゾルが、約0.5〜約1.5なる範囲の、前記オルガノシラン対前記オルガノフルオロシランの相対的質量%比を持つ、前記〔1〕記載のコーティング。
〔9〕前記乾燥ゲルが、前記ゾル;アルコール、エステル、エーテル、アルデヒド、およびケトンからなる群から選択される有機溶媒;および水を含む混合物から形成され、該混合物における該溶媒および該水の量が、約50〜約99.5質量%なる範囲にある、前記〔1〕記載のコーティング。
〔10〕前記溶媒対前記水の比が、質量基準で約5〜約20なる範囲にある、前記〔9〕記載のコーティング。
〔11〕前記乾燥ゲルが、150℃未満の温度にて硬化した場合に、標準的EN 1096.2研摩テストに合格するのに十分な耐摩耗性を持つ、前記〔9〕記載のコーティング。
〔12〕前記ゾルが、約0.001〜約2質量%なる範囲の量で酸触媒を更に含み、かつ該ゾルが、約1〜約4なる範囲のpHを持つ、前記〔1〕記載のコーティング。
〔13〕前記ゾルが、約0.001〜約2質量%なる範囲の量で塩基触媒を更に含み、かつ該ゾルが、約7〜約10なる範囲のpHを持つ、前記〔1〕記載のコーティング。
〔14〕前記ゾルが、約0.1〜約10質量%なる範囲の量で低分子量ポリマーを更に含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔15〕前記ゾルが、約0.1〜約2質量%なる範囲の量で粒径調節添加剤を更に含み、かつ該粒径調節添加剤を含まない同様なコーティングと比較して、約0.5〜約2.0%なる範囲の透過率増加をもたらす、前記〔1〕記載のコーティング。
〔16〕前記ゾルが、架橋添加剤を更に含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔17〕前記ゾルが、疎水性の反応性薬剤と反応し得る官能基を持つアルコキシシランプリカーサを更に含み、かつ、該乾燥ゲルを該疎水性の反応性試薬に暴露して、前記乾燥ゲルが、該官能基を持つアルコキシシランプリカーサおよび該疎水性の反応性試薬を含まない同様なコーティングと比較して、約15度までの高い表面接触角を持つ、前記〔1〕記載のコーティング。
〔18〕前記乾燥ゲルが付着している表面を有する基板を更に含み、かつ該乾燥ゲルが、約80nm〜約1μmなる範囲の厚みを持つ、前記〔1〕記載のコーティング。
〔19〕前記乾燥ゲルが付着している表面を有するソーラーパネルを更に含む、前記〔1〕記載のコーティング。
〔20〕コーティングであって、
加水分解されたアルコキシシラン、加水分解されたオルガノシラン、および加水分解されたオルガノフルオロシランを含むゾルから形成された乾燥ゲルを含み、
該コーティングが、約90〜約178度なる範囲の接触角、約2H〜約9Hなる範囲の鉛筆硬度、および該コーティングを持たない基板と比較して、約1%〜約3.5%なる範囲で増大された高い透過率を持つことを特徴とする、前記コーティング。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10