特許第5954718号(P5954718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5954718
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】多軸引張試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/04 20060101AFI20160707BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   G01N3/04 P
   G01N3/08
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-24876(P2015-24876)
(22)【出願日】2015年2月12日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029403
【氏名又は名称】有限会社ディップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 希望
(72)【発明者】
【氏名】亀井 伸之
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−044068(JP,A)
【文献】 特開2011−137696(JP,A)
【文献】 特開2009−244183(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/100780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00−3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一点で交差する複数の方向に試料片を引っ張り前記試料片の引張強度を測定する多軸引張試験装置において、
筐体内に回転可能に設置され板面に螺旋状の溝が形成された回転板と、
前記回転板を回転させる回転駆動手段と、
前記試料片を挟持するとともに前記回転板の径方向に移動する複数対の試料保持部と、
それぞれの前記試料保持部の下側に設置され前記溝内を摺動する摺動突起と、
前記試料保持部の移動を一点で交差する複数の方向に規制するガイドと、
前記試料保持部の少なくとも1つの応力を測定する測定手段と、を有し、
前記回転板が回転することで前記摺動突起の位置が前記回転板の径方向に移動し、これにより前記試料保持部がそれぞれ前記回転板の径方向に同時に移動することを特徴とする多軸引張試験装置。
【請求項2】
試料保持部を2対有するとともに、
ガイドが前記保持部の移動を前記回転板の略中心で直交する4方向に規制することで、試料片を前記回転板の略中心で直交する4方向に引っ張り、前記試料片の2軸の引張強度を測定することを特徴とする請求項1記載の多軸引張試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の方向に試料片を引っ張り、このときの試料片の引張強度を測定する多軸引張試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引張強度の測定は対向する1対の試料ホルダに試料片を設置して、この試料ホルダを引っ張り、そのときの応力を測定する1軸の引張試験装置による測定が一般的である。しかしながら、特に有機高分子材料においては、多方向に同時に引っ張ったときの引張強度と、1方向のみに引っ張ったときの引張強度とが異なる場合があり、試験時の強度と実用時の強度とで挙動が異なる可能性が有る。
【0003】
この問題点に対応するため、直交する2方向にそれぞれ対向する4つの試料ホルダを設置し、直交する4方向に試料片を引っ張って引張強度を測定する二軸引張試験装置が実用化されている。例えば下記[特許文献1]には、4つの試料ホルダにそれぞれ個別の駆動用油圧シリンダを備えた二軸引張試験装置が記載されている。しかしながら[特許文献1]のように試料ホルダ毎に駆動手段を備える二軸引張試験装置は、装置規模が大型化することに加え、各駆動手段の同期が難しいという問題点がある。
【0004】
この点、下記[特許文献2]には、駆動パンタグラフと従動パンタグラフとを用い、一つの駆動手段で4つの試料ホルダを同期して移動させる二軸引張試験装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−109609号公報
【特許文献2】特開2009−244183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、[特許文献2]等に記載された二軸引張試験装置は、小型化が未だ不十分で取り扱いや移動が不便であるという問題点がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、動作機構を簡素化した小型の多軸引張試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)一点で交差する複数の方向に試料片を引っ張り前記試料片の引張強度を測定する多軸引張試験装置において、
筐体10内に回転可能に設置され板面に螺旋状の溝34が形成された回転板30と、前記回転板30を回転させる回転駆動手段18と、前記試料片を挟持するとともに前記回転板30の径方向に移動する複数対の試料保持部(スライダ26及び試料ホルダ28)と、それぞれの前記試料保持部の下側に設置され前記溝34内を摺動する摺動突起32と、前記試料保持部の移動を一点で交差する複数の方向に規制するガイド(ガイド溝24)と、前記試料保持部の少なくとも1つの応力を測定する測定手段29と、を有し、
前記回転板30が回転することで前記摺動突起32の位置が前記回転板30の径方向に移動し、これにより前記試料保持部がそれぞれ前記回転板30の径方向に同時に移動することを特徴とする多軸引張試験装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)試料保持部を2対有するとともに、
ガイドが前記保持部の移動を前記回転板30の略中心で直交する4方向に規制することで、試料片を前記回転板30の略中心で直交する4方向に引っ張り、前記試料片の2軸の引張強度を測定することを特徴とする上記(1)記載の多軸引張試験装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る多軸引張試験装置は、螺旋状の溝を有する回転板を動作機構に採用することで、装置本体の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る多軸引張試験装置の外観図である。
図2】本発明に係る多軸引張試験装置の斜視図である。
図3】本発明に係る多軸引張試験装置の内部を説明する図である。
図4】本発明に係る多軸引張試験装置の動作機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る多軸引張試験装置80の実施の形態について図面に基づいて説明する。尚、ここでは二軸の引張試験装置を例に説明を行うが、本発明は二軸に限定されるものではなく、三軸、四軸等、後述する回転板30の略中心上で交差する複数の方向に同時に試料片を引っ張る引張試験装置に適用が可能である。
【0012】
ここで、図1(a)は二軸引張試験装置に適用した本発明に係る多軸引張試験装置80を表面側から見た外観図である。また、図1(b)は多軸引張試験装置80を裏面側から見た外観図である。また、図2は多軸引張試験装置80の外観の斜視図である。
【0013】
先ず、本発明に係る多軸引張試験装置80の筐体10は、表板10aと多軸引張試験装置80の本体を収容する筐体部10bとで構成され、表板10aは蝶番14とロック機構16とにより開閉が可能である。また、筐体10には後述する回転板30を回転させる電動モータ等の周知の回転駆動手段18と、多軸引張試験装置80からの測定データや多軸引張試験装置80の各部に対する操作信号を伝達するためのコネクタ7と、が設置されている。
【0014】
次に、図3に表板10aを開けた状態の二軸の多軸引張試験装置80の内部を示す。多軸引張試験装置80の筐体部10bの内部には、ガイド溝24を有するガイド板20が固定されている。ガイド溝24は直交する4方向にそれぞれ2本ずつ形成され、各方向のガイド溝24には試料保持部を構成するスライダ26がそれぞれスライド可能に嵌入する。これにより、スライダ26を擁する試料保持部の移動方向は互いに直交する4方向に制限される。また、スライダ26上には試料片を挟持する試料ホルダ28がそれぞれ固定される。よって、試料ホルダ28もスライダ26と同様に互いに直交する4方向に移動する。尚、ガイド溝24の本数は複数(2本)とすることが試料保持部の移動精度の面から好ましいが、各方向に1本ずつでも構わない。また、試料保持部のガイド機構は上記のガイド溝24に限定されず、他の手段、例えばガイドレール等を用いても構わない。
【0015】
また、試料保持部の少なくとも1つには、この試料保持部に掛かる応力(荷重)を測定するロードセル等の周知の測定手段29が設置される。そして、測定手段29は検知した応力を電気信号に変換してケーブル29aに出力し、コネクタ7等を介して外部のデータ解析機器に出力する。尚、本例では測定手段29を一つの試料保持部に設置した例を示しているが、直交する2方向の試料保持部に設置して2軸それぞれの引張強度を測定可能としても良い。
【0016】
次に、図4を用いて試料保持部の動作機構を説明する。ここで、図4(a)はガイド板20下の試料保持部の動作機構を簡略化して示した図である。また、図4(b)は試料保持部の動作機構を説明するための側面方向からの模式断面図である。尚、図4(a)では試料保持部を破線で示す。
【0017】
本発明に係る多軸引張試験装置80は、筐体10内に回転可能に設置された回転板30を有している。そして、この回転板30の板面には、溝幅が一定で等ピッチ間隔の螺旋状の溝34が形成されている。また、回転板30の中心部には軸孔40が形成され、この軸孔40には図4(b)に示すように、ベアリング等の周知の軸受42を介して円筒軸44が嵌入している。また、回転板30の周面下部にはギア歯30aが形成されており、このギア歯30aは回転駆動手段18のギア機構18aと螺合する。
【0018】
また、試料保持部であるスライダ26は下部に摺動突起32を備え、この摺動突起32は回転板30の溝34内に摺動可能に嵌入する。また、この摺動突起32は、螺旋状の溝34の位置に応じて試料保持部毎に少しずつズラして設けられる。よって、図4(a)に示すように、4つの試料保持部は回転板30の中心からほぼ等距離に位置する。尚、設置する摺動突起32の数には特に限定はなく、試料保持部毎に一つとしても良いが、試料保持部の安定的な移動のため2つずつとすることが好ましい。
【0019】
次に、多軸引張試験装置80の動作を説明する。先ず、多軸引張試験装置80を起動する、このとき試料保持部は図3に示す原点位置にある。次に、試料片を用意する。尚、試料片の形状は直交する4つの試料ホルダ28に試料片を挟持しやすいよう十字形状とすることが好ましい。次に、表板10aを開けて試料片を4つの試料ホルダ28に固定する。試料片の固定は、例えば試料ホルダ28を上板と下板とで構成し、この上板と下板とで試料片を挟み込んだ後、ネジ等で締め付け固定する手法が好ましい。次に、表板10aを閉めてロック機構16によりロックする。
【0020】
次に、回転駆動手段18を回転駆動させる。これにより、回転駆動手段18の回転力はギア機構18a、ギア歯30aを介して回転板30に伝達し、回転板30が円筒軸44を軸に例えば図4(a)における時計回り方向に回転する。回転板30が時計回り方向に回転すると、回転板30の溝34内に嵌入した摺動突起32が溝34内を摺動する。このとき、摺動突起32はスライダ26に固定され、スライダ26はガイド溝24によって移動方向が規制されているから、回転板30が時計回り方向に回転すると、摺動突起32はガイド溝24に規制されて溝34内を回転板30の中心から径方向外側へ移動する。これにより、各試料保持部も回転板30の中心から径方向外側へ移動し、回転板30の中心から直交する4方向に互いに離間するように移動する。尚、このとき溝34の間隔は等ピッチであるから各試料保持部の移動量は略同等となる。この試料保持部の移動により試料片は直交する4方向、即ち直交する2軸方向に引っ張られる。そして、試料保持部に設置された測定手段29は試料保持部に掛かる応力、即ち試料片の引っ張り応力を取得しデータ解析機器に出力する。
【0021】
また、多軸引張試験装置80は試料保持部の移動量の取得手段を有している。そして、この移動量取得手段は試験時の試料保持部の移動量を取得してデータ解析機器に出力する。尚、移動量取得手段としてはデジタルゲージ等の周知の測長手段を用いても良いが、回転駆動手段18や回転板30の回転量から換算して取得するものが好ましい。この場合、多軸引張試験装置80は回転駆動手段18や回転板30の回転量をデータ解析機器に出力し、データ解析機器によって試料保持部の移動量に換算される。そして、試料片の引っ張り応力と試料保持部の移動量とを取得したデータ解析機器は、試料片の引張強度等の物性値及び歪み曲線等を算出し出力する。
【0022】
尚、本発明を三軸以上の多軸引張試験装置80に適用する場合は、複数対、即ち三軸ならば三対、四軸なら四対の試料保持部を設けるとともに、この複数対の試料保持部の移動方向の延長線が回転板30の略中心上(軸線上)で交差するように略放射状にガイド(ガイド溝24)を設ける。また、各試料保持部の摺動突起32の位置を最適化して回転板30の溝34内に嵌入する。そして、この状態で回転駆動手段18を回転駆動させて回転板30を図面上の時計回りの方向に回転させると、回転板30の溝34内に嵌入した摺動突起32は溝34内を摺動し、これにより試料保持部は回転板30の略中心から互いに離間する方向に放射状に移動する。このとき、試料保持部が所定の試料片を保持していれば、試料片は多軸引張試験装置80の全ての軸方向に引っ張られ、これにより多軸引っ張り試験が行われる。
【0023】
以上のように、本発明に係る多軸引張試験装置80は、螺旋状の溝34を有する回転板30を用いて複数対の試料保持部を同時に移動させる。このため、従来の多軸引張試験装置よりも試料保持部の移動機構を小型化することができる。また、複雑なリンク機構を用いないため、部品点数が少なくコスト削減となる他、高い動作安定性を有することができる。
【0024】
尚、本例で示した多軸引張試験装置80の各部の構成は一例であるから上記の例に限定されるわけでは無く、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 筐体
18 回転駆動手段
24 ガイド溝(ガイド)
26 スライダ(試料保持部)
28 試料ホルダ(試料保持部)
29 測定手段
30 回転板
32 摺動突起
34 溝
80 多軸引張試験装置
【要約】
【課題】多軸引張試験装置は、小型化が未だ不十分で取り扱いや移動が不便であるという問題点がある。よって、動作機構を簡素化した小型の多軸引張試験装置を提供する。
【解決手段】この多軸引張試験装置80は、螺旋状の溝34を有する回転板30を用いて複数対の試料保持部を同時に移動させる。このため、従来の多軸引張試験装置よりも試料保持部の移動機構を小型化することができる。また、複雑なリンク機構を用いないため、部品点数が少なくコスト削減となる他、高い動作安定性を有することができる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4