【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0040】
(1)肥満と関連するSNPsの同定
肥満感受性を決定する遺伝的変異を同定するために、日本人被検者を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。GWASとは、疾患等の表現型に関わる遺伝的変異を探索する遺伝統計学的手法である。例えば、ヒトゲノム全体を網羅するような数十万〜100万ヶ所のSNPsを用いて、ある形質の平均値の分布において、多型の組み合わせ(ジェノタイプ)による差があるかどうかを統計的に検定することで、疾患と関連する遺伝的変異を見出すことができる。本実施例において、肥満の指標としては、ボディマス指数(Body Mass Index;BMI)を用いた。
【0041】
<被検者>
GWASに用いた26620名の被検者、再現試験(replication study)1に用いた3763名の被検者、および再現試験2に用いた4147名の被検者は、東京大学医科学研究所のBioBank Japan (BBJ) (Nakamura, Y. The BioBank Japan Project. Clin Adv Hematol Oncol 5, 696-7 (2007))に登録された種々の疾患の日本人患者から採用した。これら被検者のうち、BMI≧27.5の被検者を、肥満の被検者(ケース(case))として用いた。それ以外の被検者を、対照被検者(コントロール(control))として用いた。
GWAS、再現試験1、および再現試験2に用いた被検者における肥満の被検者の比率は、それぞれ9.3%、7.2%、7.3%であった。
【0042】
再現試験3には、27715名の東アジア人種の8集団からなる被検者を用いた。
【0043】
GWAS、および再現試験1〜3に用いた被検者集団は、互いに独立である。
【0044】
本実施例に用いた被検者の特徴を表3に示す。
【0045】
【表3】
a:BMI≧27.5の被検者を、肥満(obesity)とした。
b:BioBank Japan (BBJ) に登録された種々の疾患の患者からなる被検者。
c:東アジア人種の8集団(KARE, Shanghai, SiMES, SDCS, SP2, IMCJ, Taiwan, CRC)からなる被検者。
【0046】
本研究は東京大学医科学研究所および理化学研究所横浜研究所の倫理委員会によって承認され、全ての参加者からインフォームドコンセントを得た。
【0047】
<GWAS>
被検者26620名の遺伝子型を、Illumina Human610-Quad Genotyping BeadChip(Illumina社(USA))を用いて解析した。なお、クオリティコントロールとして、コール率(call rate)が0.98未満の被検者、コール率(call rate)が0.99未満のSNPs、あいまいなコール(ambiguous call)のSNPs、identify-by-state(IBS)>1.7の近縁ペアの内の低コール率の被検者、および主成分分析(PCA)により外れ値(outlier)であると判定された被検者を除外した。クオリティコントロールを通過したマイナーアレル頻度(MAFs)≧0.01を満たす常染色体上の480,103個のSNPsについて、遺伝子型のデータを取得した。各SNPsについて、線形回帰モデル(linear regression model)を用いてBMIとの関連を評価した。
【0048】
GWASの結果、ゲノムワイドな有意性(genome-wide significance)の閾値として設定されたP<5.0×10
-8を満たしてBMIと有意に関連する3ヶ所のSNPs(9q21領域のrs11142387、11p14領域のrs2030323、および19q13領域のrs11671664)が見出された(
図1(a)、表4)。
【0049】
【表4】
a:GWASおよび全3回の再現試験の複合解析でP<5.0×10
-5を満たしたSNPsを示す。
b:BMIを増大させるアレルをA1(アレル1)として、NCBI Build 36のforward strandに基づいて示した。
c:アレル1の頻度。
d:標準化したBMI(平均値=0、標準偏差=1)におけるアレル1の効果量。
e:独立した3度の再現試験の総合結果。
f:非特許文献12の結果に基づく。
【0050】
<再現試験>
GWASで見出された関連性を検証するため、独立した3度の再現試験(replication study)を行った。
【0051】
再現試験1では、GWASにおいてP<5.0×10
-5を満たした36個のSNPsについて、BMIとの関連を検証した。被検者3763名の遺伝子型をIllumina HumanHap550v3 Genotyping BeadChip(Illumina社(USA))を用いて解析し、GWASと同様のクオリティコントロールの下でBMIとの関連を検証した。
【0052】
GWASと再現試験1の複合解析(combined analysis)の結果、P<5.0×10
-5を満たした11個のSNPsを再現試験2および3に供した。
【0053】
再現試験2では、被検者4147名の遺伝子型を、Illumina HumanOmniExpress Genotyping BeadChip(Illumina社(USA))を用いて解析し、GWASと同様のクオリティコントロールの下でBMIとの関連を検証した。再現試験3では、被検者27715名の遺伝子型をAffymetrix Genome-Wide Human SNP Array 6.0(Affymetrix社(USA))、Affymetrix Genome-Wide Human SNP array 5.0(Affymetrix社(USA))、Illumina 1Mduo Genotyping BeadChip(Illumina社(USA))、Illumina HumanHap610Quad Genotyping BeadChip(Illumina社(USA))、およびIllumina HumanHap550 Genotyping BeadChip(Illumina社(USA))を用いて解析した。
【0054】
GWASと全3回の再現試験の複合解析(combined analysis)の結果、P<5.0×10
-5を満たした9個のSNPsを表4に示す。これらの内、7か所のSNPsが、ゲノムワイドな有意性(genome-wide significance)の閾値として設定されたP<5.0×10
-8を満たし、BMIと有意に関連することが確認された。なお、これら7個のSNPsには、GWASにおいて有意性を満たした3個のSNPsも含まれている。
【0055】
これら7個のSNPsが位置する遺伝子座の内、1q25領域のSEC16B遺伝子座、11p14領域のBDNF遺伝子座、16q12領域のFTO遺伝子座、18p21領域のMC4R遺伝子座、および19q13領域のGIPR遺伝子座の5つについては、すでにヨーロッパ人においてBMIとの関連が見出されている。
【0056】
一方、残りのrs2206734およびrs11142387が位置する領域(6p22および9q21)については、主にヨーロッパ人被検者(特に成人被検者)を用いたこれまでの研究ではBMIとの関連が報告されていなかった。
【0057】
rs2206734の位置する領域におけるSNPsのプロットおよび遺伝子構造を
図1(b)に示す。また、rs11142387の位置する領域におけるSNPsのプロットおよび遺伝子構造を
図1(c)に示す。
【0058】
rs2206734は、CDKAL1遺伝子座のコード領域に位置している。CDKAL1遺伝子は、サイクリン依存性キナーゼ5制御サブユニット関連タンパク質1ライク1(cyclin-dependent kinase 5 (Cdk5) regulatory subunit-associated protein 1-like 1)をコードする遺伝子である。
【0059】
CDKAL1遺伝子座は、ドイツ人集団を用いた研究で8歳児のBMIと関連することが報告されている(非特許文献13)。また、CDKAL1遺伝子座は、デンマーク人集団を用いた研究で出生時体重と関連することが報告されている(非特許文献14)。しかしながら、アジア人集団におけるCDKAL1遺伝子座とBMIとの関連は報告されておらず、また、成人におけるCDKAL1遺伝子座とBMIとの関連も報告されていなかった。よって、特に、CDKAL1遺伝子座のSNPsを解析することでアジア人種の肥満や成人の肥満を検査できることは、本発明者により初めて見出された知見である。
【0060】
また、CDKAL1遺伝子座は2型糖尿病のリスク遺伝子座であることが知られている(非特許文献13〜15)。そこで、rs2206734およびrs11142387について、共変数を含むロジスティック回帰モデル(logistic regression model)を用いて肥満および2型糖尿病との関連を評価した。結果、rs2206734(CDKAL1遺伝子座)のTアレルは、BMIを低下させるのに対し、2型糖尿病のリスクを増大させることが明らかとなった(表5)。通常、BMIが増大すれば2型糖尿病のリスクも増大すると考えられる。よって、rs2206734のBMIに対する効果は2型糖尿病に対する効果から想定されるものと反対であり、rs2206734のCアレルがBMIのリスクアレルとして見出されたのは驚くべき結果であった。
【0061】
【表5】
a:BMIを増大させるアレルをA1(アレル1)として、NCBI Build 36のforward strandに基づいて示した。
b:GWASと全3回の再現試験の被検者が含まれる。
c:肥満および2型糖尿病におけるアレル1の効果量。
【0062】
rs11142387は、KLF9遺伝子のプロモーター領域に位置している。rs11142387を含む連鎖不平衡(LD)ブロックは複数の遺伝子を含むが、タグSNPであるrs11142387がKLF9遺伝子座に位置していることから、KLF9遺伝子が原因遺伝子の候補である。
【0063】
KLF9遺伝子は、ジンクフィンガー転写因子の1つをコードする遺伝子であり、種々の生理反応に関与する。ここで、脂肪細胞分化の重要な要素としてperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR)γが知られており、PPARγは肥満を含む多くの代謝特性の病態と関連している(Pei H et al. Cell Death Differ. 18, 315-327 (2010))。最近の研究では、KLF9遺伝子がコードするタンパク質は、PPARγのトランス活性化を介した脂肪生成促進性(pro-adipogenic)の転写因子であることが示唆されている(非特許文献16)。また、KLFとしては、KLF7遺伝子座が肥満と関連すること、およびKLF5遺伝子がコードするタンパク質が脂肪細胞分化を制御していることが知られている。しかしながら、KLF9遺伝子座とBMIとの関連は報告されていなかった。
【0064】
なお、rs2206734(CDKAL1遺伝子座)と異なり、rs11142387(KLF9遺伝子座)は2型糖尿病との関連は認められなかった(表5)。
【0065】
<民族間での比較>
さらに、民族間での肥満の遺伝学的差異を評価するため、GWASと全3回の再現試験の複合解析(combined analysis)でP<5.0×10
-5を満たした9個のSNPsについて、GIANTコンソーシアムの123,865名のヨーロッパ人被検者のメタ解析の結果(非特許文献12)を利用してBMIとの関連を評価した(表4)。
【0066】
9個のSNPsの内、rs2206734(CDKAL1遺伝子座)を含む5つが、ヨーロッパ人集団においてもBMIと有意(P<0.028、false discovery rate<0.05)に関連した。一方、rs11142387(KLF9遺伝子座)については、ヨーロッパ人集団においてはBMIとの関連が認められなかった。よって、特にrs11142387(KLF9遺伝子座)および当該塩基と連鎖不平衡の関係にあるSNPsは、アジア人集団における肥満の検査に好適に用いることができる。
【0067】
次に、主にヨーロッパ人集団においてBMIとの関連が報告されている既知のSNPs(非特許文献13〜15、Zobel DP et al. Eur J Endocrinol 160, 603-609 (2009))について、本実施例のGWASで得られたデータを用いて日本人集団におけるBMIとの関連を評価した(表6)。
【0068】
【表6】
a:BMIとの関連が報告されている既知のSNPs。
b:BMIを増大させるアレルをA1(アレル1)として、NCBI Build 36のforward strandに基づいて示した。
c:GWAS被検者におけるアレル1の頻度。
d:標準化したBMI(平均値=0、標準偏差=1)におけるアレル1の効果量。
e:P<0.02(多型遺伝子座の数に基づくfalse discovery rate<0.05)を有意とした。
f:統計的検出力(statistical power)は、アレル頻度とGWASのサンプルサイズに基づいて算出し、効果量を0.035と仮定した条件での有意性の閾値を0.02とした。
【0069】
BMIとの関連が報告されている既知のSNPsの内、本実施例で既にBMIとの関連が再確認された5つの遺伝子座に加え、さらに10ヶ所の遺伝子座が日本人被検者においても同様にBMIに影響することが明らかとなったP<0.02(false discovery rate<0.05)。