特許第5954727号(P5954727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5954727自己免疫疾患治療に用いる新規抗原としての炭酸脱水酵素I
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954727
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】自己免疫疾患治療に用いる新規抗原としての炭酸脱水酵素I
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/51 20060101AFI20160707BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20160707BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160707BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20160707BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20160707BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   A61K37/56
   A61K39/00 H
   A61K35/17
   A61P37/06
   A61P1/04
   A61P43/00 107
   A61P29/00
   C12N5/0783
   C12N5/0784
   !C12N15/00 AZNA
【請求項の数】21
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2011-537118(P2011-537118)
(86)(22)【出願日】2010年10月7日
(86)【国際出願番号】JP2010006018
(87)【国際公開番号】WO2011048766
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2013年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2009-242491(P2009-242491)
(32)【優先日】2009年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】村上 英広
(72)【発明者】
【氏名】山西 浩文
(72)【発明者】
【氏名】恩地 森一
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−020452(JP,A)
【文献】 特開2004−298181(JP,A)
【文献】 Journal of Experimental Medicine,1998年,Vol.187, No.6,p.855-864
【文献】 European Journal of Immunology,2001年,Vol.31, No.1,p.23-31
【文献】 Gastroenterology,2007年,Vol.132, No.7,p.2359-2370
【文献】 膵臓,2007年,Vol.22, No.5,p.534-546
【文献】 東北医学雑誌,1997年,Vol.109, No.1,p.49-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00 − 39/44
A61K 38/51
A61K 35/17
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患の治療又は予防において使用するための炭酸脱水酵素Iを有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項2】
自己免疫疾患の治療又は予防が、寛容原性抗原提示細胞に基づく細胞治療である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記炭酸脱水酵素Iが前記寛容原性抗原提示細胞をパルスするために使用されることを特徴とする、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、請求項2又は請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
自己免疫疾患の治療又は予防において使用するための炭酸脱水酵素Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項7】
前記寛容原性抗原提示細胞が炭酸脱水酵素Iでパルスされていることを特徴とする、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、請求項6又は請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
自己免疫疾患の治療又は予防において使用するための炭酸脱水酵素Iに特異的な制御性T細胞を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項10】
自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
炭酸脱水酵素Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞の調製に使用するための炭酸脱水酵素Iを含有する組成物。
【請求項12】
寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
炭酸脱水酵素Iを使用することを特徴とする炭酸脱水酵素Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞の製造方法。
【請求項14】
寛容原抗原提示細胞を調製するステップ、及び、
炭酸脱水酵素Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップを備える、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、請求項13又は請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
炭酸脱水酵素Iを使用することを特徴とする炭酸脱水酵素Iに特異的な制御性T細胞の製造方法。
【請求項17】
寛容原性抗原提示細胞及びナイーブT細胞を調製するステップ、
炭酸脱水酵素Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、
パルスした寛容原性抗原提示細胞とナイーブT細胞を接触させるステップを備える、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、請求項16又は請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
炭酸脱水酵素Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞。
【請求項20】
寛容原性抗原提示細胞が制御性樹状細胞である請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
炭酸脱水酵素Iに特異的な制御性T細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞を利用した自己免疫疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD)は、腸管における免疫機構の破綻により特徴づけられる疾患である。詳細な病因等は未だ明らかとされていないが、共生細菌、様々な微生物生産物、及び食品に対する過剰な自然免疫及び獲得免疫反応が原因の一つではないかと想定されている(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
微小環境における免疫調節は、局所のホメオスタシスを維持するために定常的に微調整される必要がある。このような調整は、部位(例えば消化管環境)に特異的であり、微生物への慢性的な曝露により誘導されると考えられている。樹状細胞は、この調節を制御する上で重大な役割を担っている(非特許文献4参照)。樹状細胞は、最も強力でかつ効果的な抗原提示細胞であり、初期免疫反応の誘導に重要である。また、樹状細胞は免疫寛容の形成にも重要な役割を果たしている。樹状細胞が、中枢及び末梢リンパ系器官における抗原特異的な免疫寛容をin situで誘導していることが報告されている(非特許文献5参照)。免疫寛容のメカニズムは完全には解明されていないが、樹状細胞がCD4CD25T細胞をCD4CD25Foxp3制御性T細胞に分化させることにより、末梢においてT細胞による免疫寛容を誘導することが報告されている(非特許文献6参照)。
【0004】
樹状細胞の免疫寛容原性の選択的な増強は、樹状細胞の成熟を薬理的に阻害し得られた未熟樹状細胞、又は免疫抑制分子を発現する遺伝子組換樹状細胞を用いることにより行われてきた(非特許文献7参照)。また、マウスモデルを用いた研究により、自己免疫、アレルギー、移植における拒絶反応等の幅広い疾患において、いくつかのタイプの寛容原性又は制御性樹状細胞が抗原特異的に病態を改善することが報告されている(非特許文献6及び8〜11参照)。
【0005】
盲腸細菌抗原(Cecal bacterial antigen:以下、「CBA」という)は、炎症性腸疾患の病態への関与が想定されている物質の一つである。重症複合型免疫不全症モデルマウスに、CBA反応性のインターロイキン(IL)−17産生CD4T細胞を移植することで、重症腸炎を発症することが報告されている(非特許文献12〜14参照)。CBAは幾つかのタンパク質から構成されていると予想されるが、いずれのタンパク質が炎症性腸疾患における特異抗原であるか解析した報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macdonald TTら(2005)Science,307:1920−5
【非特許文献2】Sartor RB.ら(2008)Gastroenterology,134:577−94
【非特許文献3】Baumgart DCら(2007)Lancet,369:1627−40
【非特許文献4】Belkaid Yら(2008)Immunity,26:362−71
【非特許文献5】Stenman RMら(2003)Annu.Rev.Immunol.,21:685−711
【非特許文献6】Fujita Sら(2007)Blood,110:3793−803
【非特許文献7】Hackstein Hら(2004)Nat.Rev.Immunol.,4:24−34
【非特許文献8】Menges Mら(2002)J.Exp.Med.,195:15−21
【非特許文献9】Torisu Mら(2008)J.Gastroenterol.,43:100−7
【非特許文献10】Fujita Sら(2008)J.Allergy Clin.Immunol.,121:95−104 e7
【非特許文献11】Sato Kら(2003)Immunity,18:367−79
【非特許文献12】Cong Yら(1998)J.Exp.Med.,187:855−64
【非特許文献13】Alson COら(2007)Gastroenterology,132:2359−70
【非特許文献14】Brimnes Jら(2001)Eur.J.Immunol.,31:23−31
【発明の概要】
【0007】
現在の治療戦略では効果的に炎症性腸疾患を治療することができず、新規のより優れた治療方法が求められている。
本発明者らは、マウスモデルにおいて炭酸脱水酵素I(Carbonic anhydrase I:CA I)、及びCA Iによりパルスした制御性樹状細胞が抗原特異的に炎症性腸疾患に対する治療効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。具体的には、CBAを二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D−DIGE)及び飛行時間型質量分析(TOF−MS)により分析し、CBAの主要タンパク質がCA Iであることを確認した。また、確認されたCA Iを用いて制御性樹状細胞をパルスしたところ、大腸炎モデルマウスにおいて抗原特異的な腸炎抑制作用を誘導することを見出した。更に、CA Iを直接投与することによっても、大腸炎モデルマウスにおいて抗原特異的な腸炎抑制作用が誘導されることを見出した。
【0008】
よって、本発明は抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞を利用した自己免疫疾患の治療方法に関し、特には、CA Iを抗原として利用し、抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞を産生させることを特徴とする自己免疫疾患(特には、炎症性腸疾患)の治療方法に関する。
【0009】
より具体的には、本発明は、以下の発明に関する。
(1) 自己免疫疾患の治療又は予防において使用するためのCA Iを有効成分として含有する医薬組成物。
(2) 自己免疫疾患の治療又は予防が、寛容原性抗原提示細胞に基づく細胞治療である、(1)に記載の医薬組成物。
(3) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(2)に記載の医薬組成物。
(4) 自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(5) 自己免疫疾患の治療又は予防において使用するためのCA Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞を有効成分として含有する医薬組成物。
(6) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(5)に記載の医薬組成物。
(7) 自己免疫疾患の治療又は予防において使用するためのCA Iに特異的な制御性T細胞を有効成分として含有する医薬組成物。
(8) 自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、(5)〜(7)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(9) 抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞の調製に使用するためのCA Iを含有する組成物。
(10) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(9)に記載の組成物。
(11) CA Iを使用することを特徴とする、患者における免疫寛容の誘導方法。
(12) 寛容原性抗原提示細胞に基づくことを特徴とする、(11)に記載の方法。
(13) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(12)に記載の方法。
(14) CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップを備える、(11)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(15) 患者から寛容原性抗原提示細胞を採取するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、及び、
パルスした寛容原性抗原提示細胞を患者に投与するステップを備える、(11)〜(14)のいずれか1項に記載の方法。
(16) 患者にCA Iを投与するステップを備える、(11)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(17) CA Iを使用することを特徴とする自己免疫疾患の治療又は予防方法。
(18) 治療又は予防が、寛容原性抗原提示細胞に基づくことを特徴とする、(17)に記載の治療又は予防方法。
(19) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(17)又は(18)に記載の治療又は予防方法。
(20) CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップを備える、(17)〜(19)のいずれか1項に記載の自己免疫疾患の治療又は予防方法。
(21) 患者から寛容原性抗原提示細胞を採取するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、及び、
パルスした寛容原性抗原提示細胞を患者に投与するステップを備える、(17)〜(20)のいずれか1項に記載の治療又は予防方法。
(22) 患者にCA Iを投与するステップを備える、(17)〜(19)のいずれか1項に記載の方法。
(23) 自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、(17)〜(22)のいずれか1項に記載の治療又は予防方法。
(24) CA Iを使用することを特徴とする抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞の製造方法。
(25) 寛容原性抗原提示細胞を調製するステップ、及び、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップを備える、(24)に記載の製造方法。
(26) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(24)又は(25)に記載の製造方法。
(27) 抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞が、免疫寛容の誘導又は自己免疫疾患の治療又は予防に使用するための抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞である、(24)〜(26)のいずれか1項に記載の製造方法。
(28) 自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、(27)に記載の製造方法。
(29) CA Iを使用することを特徴とする抗原特異的な制御性T細胞の製造方法。
(30) 寛容原性抗原提示細胞及びナイーブT細胞を調製するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、
パルスした寛容原性抗原提示細胞とナイーブT細胞を接触させるステップを備える、(29)に記載の製造方法。
(31) 寛容原性抗原提示細胞が、制御性樹状細胞である、(29)又は(30)に記載の製造方法。
(32) 抗原特異的な制御性T細胞が、免疫寛容の誘導又は自己免疫疾患の治療又は予防に使用するための抗原特異的な制御性T細胞である、(29)〜(31)のいずれか1項に記載の製造方法。
(33) 自己免疫疾患が、炎症性腸疾患である、(32)に記載の製造方法。
(34) CA Iに特異的な免疫原性抗原提示細胞。
(35) 免疫原性抗原提示細胞が制御性樹状細胞である(34)に記載の細胞。
(36) CA Iに特異的な制御性T細胞。
【0010】
本明細書において、「細胞治療」とは、細胞の投与を特徴とする疾患の治療方法を意味する。細胞は、投与を受ける患者から得た細胞であってもよいし、異なる個体から得た細胞であってもよい。本発明においては、好ましくは投与を受ける患者から得た細胞を使用する。一般的には、細胞治療は、細胞を採取及び分離するステップ、細胞を処理するステップ、及び、処理した細胞を患者に投与するステップを含む。また、細胞治療は、細胞を増殖させるステップを含んでいてもよい。また、「寛容原性抗原提示細胞に基づく細胞治療」とは、寛容原性抗原提示細胞の投与を特徴とする疾患の治療方法を意味する。
【0011】
「炭酸脱水酵素I(CA I)」は、一般的には、細胞質に存在し、二酸化炭素の水和反応を可逆的に触媒する金属酵素である。本明細書において、「CA I」は、完全長のCA Iである必要はなく、CA Iに特異的な免疫原性抗原提示細胞を誘導することが可能であればその部分ペプチドをも含むものである。また、本明細書におけるCA I(その部分ペプチドを含む。以下同じ。)は、CA Iに特異的な免疫原性抗原提示細胞を誘導することが可能である限り、そのアミノ酸配列の一部(例えば、数個)が、置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたものであってもよい。又は、本明細書におけるCA Iは、CA Iに特異的な免疫原性抗原提示細胞を誘導することが可能である限り、CA Iのアミノ酸配列と50%以上、60%以上、75%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は、99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるものであってもよい。あるいは、本明細書におけるCA Iは、CA Iに特異的な免疫原性抗原提示細胞を誘導することが可能である限り、CA Iの遺伝子配列とストリンジェントな条件下(Molecular Cloning、A Laboratory Mannual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))でハイブリダイズする遺伝子配列によりコードされたタンパク質であってもよい。CA Iは、免疫寛容能を高めるため、適宜修飾されていてもよい。また、CA Iは、免疫寛容能を高める物質、又は免疫寛容能を有する他の物質等との融合タンパク質であってもよい。好ましくは、CA Iは、前記本明細書におけるCA Iに含まれるタンパク質又はペプチドのうち、該タンパク質又はペプチドにより誘導された免疫原性抗原提示細胞が免疫寛容を誘導し、自己免疫疾患(好ましくは炎症性腸炎)の治療又は予防効果を奏するタンパク質又はペプチドである。
【0012】
「寛容原性抗原提示細胞」とは、免疫寛容を誘導する抗原提示細胞のことである。寛容原性抗原提示細胞は、治療の対象となる患者由来の細胞であってもよいし、患者以外の由来の細胞であってもよいが、好ましくは患者由来の細胞である。寛容原性抗原提示細胞としては、例えば、制御性樹状細胞を挙げることができる。「制御性樹状細胞」は、寛容原性樹状細胞と呼ばれることもある、免疫寛容にかかわる樹状細胞のサブセットであれば特に限定されない。制御性樹状細胞は、インターロイキン10等のサイトカインの産生を通じて免疫抑制を引き起こす作用を有する樹状細胞、制御性T細胞(例えば、CD4CD25Foxp3制御性T細胞)を生成させる作用を有する樹状細胞、及び/又はT細胞の機能を制御する作用を有する樹状細胞を含む。例として、制御性樹状細胞としては、CD40、CD80、CD86等の共刺激分子を細胞表面に発現していない樹状細胞、及び、CCR9を細胞表面に発現している樹状細胞(Hadeiba、Hら(2008)Nat.Immunol.,9(11):1253−60)、miR−155を細胞表面に発現している樹状細胞(Pedersen,AWら(2009)Clin.Exp.Immunol.,157(1):48−59)、CD200receptor3を表面に発現している樹状細胞(Sato,Kら(2009)Blood.,1173:4780−9)を挙げることができる。
【0013】
「制御性T細胞」とは、組織障害を起こし得るT細胞の活性を抑制する働きのあるT細胞のことである。制御性T細胞は、治療の対象となる患者由来の細胞であってもよいし、患者以外の由来の細胞であってもよいが、好ましくは患者由来の細胞である。好ましくは、制御性T細胞は、Foxp3、CD4及びCD25分子を細胞表面に発現しているT細胞である。
【0014】
「ナイーブT細胞」とは、特異抗原と接触していないT細胞のことであり、好ましくは、CD4CD25ナイーブT細胞である。
【0015】
「免疫寛容」とは、免疫反応レベルの減少、免疫反応の発生又は進行の遅れ、及び/又は免疫反応によるリスクの減少を意味する。抗原特異的な免疫寛容とは、他の抗原と比較してある抗原に対して特に免疫寛容が起きることをいう。
【0016】
本明細書において、「自己免疫疾患」とは、自己抗原に対して免疫応答が起こることにより発症する疾患を意味する。本発明において、自己免疫疾患は炎症性腸疾患を含む。「炎症性腸疾患」は、慢性の持続性の腸炎を特徴とする疾患であり、潰瘍性大腸炎及びクローン病等を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明のCA Iを抗原として利用する細胞治療は、これまで治療が困難であった自己免疫疾患、特には炎症性腸疾患の症状を改善することから、自己免疫疾患の治療又は予防方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】成熟樹状細胞及び制御性樹状細胞の細胞表面分子の発現をフローサイトメトリーで分析した結果を示すドットプロット図である。図中、「Mature DCs」は成熟樹状細胞を示し、「Reg−DCs」は制御性樹状細胞を示す。それぞれの左側の3つのデータにおいて、縦軸は、CD11cの発現レベルを示し、横軸は、左から順に、CD40、CD80、CD86の発現レベルを示す。一番右の図において、縦軸は、I−A/I−Eの発現レベルを示し、横軸はH−2Kの発現レベルを示す。
図2】成熟樹状細胞及び制御性樹状細胞を、ポリイノシンPoly:I−C、超高純度LPS、R848、又はCpG−ODNで24時間刺激した後の培養上清におけるIL−6及びIL−10の産生をサイトメトリックビーズアレイ法(BD Biosciences Pharmingen,サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)により測定した結果を示すグラフである。エラーバーは標準偏差(以下、「SD」という)を示す。図中、縦軸はそれぞれのサイトカインの濃度(pg/mL)を示し、横軸は測定したサイトカインを示す。星印は、成熟樹状細胞の結果と比較して、P<0.01となることを示す。
図3】In vitroにおいて、成熟樹状細胞又は制御性樹状細胞を用いてCD4CD25Foxp3制御性T細胞を誘導し、フローサイトメトリーで測定した結果をドットプロットで表わしたグラフである。一番左の図は、CD4CD25T細胞を制御性樹状細胞で刺激した場合のアイソタイプコントロールIgG及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はアイソタイプコントロールIgGの発現を、横軸はCD25の発現を示す。「Mature DC」は、CD4CD25T細胞を成熟樹状細胞で刺激した場合のFoxp3及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はFoxp3の発現を、横軸はCD25の発現を示す。「Regulatory DC」は、CD4CD25T細胞を制御性樹状細胞で刺激した場合のFoxp3及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はFoxp3の発現を、横軸はCD25の発現を示す。
図4図3のフローサイトメトリーの結果から、生成したT細胞サブセットの割合を計算した結果を示す図である。図中、縦軸は割合を示す。横軸において、「CD4CD25Tcell」は、生成したCD4CD25T細胞数の割合を示し、「CD4CD25Foxp3/CD4CD25Tcell」は、生成したCD4CD25T細胞における、CD4CD25Foxp3T細胞の割合を示す。エラーバーは、SDを示す。星印は、成熟樹状細胞の結果と比較して、P<0.01となることを示す。
図5】CD4CD25T細胞により誘導したマウス大腸炎モデルを用いた実験の結果を示す図である。(図5A)体重変化(%)の時間経過を示すグラフである。図中、縦軸は体重変化(%)を示し、横軸は、細胞移植後の経過日数を示す。図中、三角は、CD4CD25T細胞を移植していないマウスを示し;白丸は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し;黒丸は、CD4CD25T細胞を移植し、抗原をパルスしていない制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;白四角は、CD4CD25T細胞を移植し、KLHでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;黒四角は、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。エラーバーは、SDを示す。(図5B)CD4CD25T細胞移植より28日後の大腸の肉眼的所見を示す写真である。写真中、上から順に、「SCID」は、CD4CD25T細胞を移植していないマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+PBS」は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DC」は、CD4CD25T細胞を移植し、抗原をパルスしていない制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DCKLH」は、CD4CD25T細胞を移植し、KLHでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DCCBA」は、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。右下の棒は10mmを示す。(図5C図5Bの大腸の長さを測定した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、大腸の長さ(cm)を示し、横軸は大腸の長さの測定に用いたマウスを示す。エラーバーは、SDを示す。(図5D)CD4CD25T細胞移植より28日後の大腸をヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した結果示す写真である。図中、上の写真は40倍に拡大した写真を、下の写真は200倍に拡大した写真を示す。図中、左の写真は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスの大腸組織を示し、右の写真は、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスの大腸組織を示す。(図5E)組織学的スコアを計算した結果を示すグラフである。図中、縦軸は組織学的スコアを示し、横軸は組織学的スコアの測定に用いたマウスを示す。グラフ中の水平線は、中央値を示す。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。
図6】CD4CD25T細胞により誘導したマウス大腸炎モデルの大腸における炎症性サイトカインの発現を測定した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、横軸において、PBSは、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し、Reg−DCCBAは、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。(図6A)CD4CD25T細胞の移植4週間後に大腸におけるサイトカインmRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各サイトカインmRNAの発現量を示す。(図6B)CD4CD25T細胞の移植4週間後に採取した大腸細胞をex vivoで3日間培養した培養上清中のサイトカイン濃度をELISA、サイトメトリックビーズアレイ法(BD Biosciences Pharmingen)で測定した結果を示すグラフである。図中、縦軸は各サイトカインの濃度(pg/mL)を示す。
図7】CD4CD25T細胞により誘導したマウス大腸炎モデルの腸間膜リンパ球(以下、「MLN」という)における転写因子及び炎症性サイトカインの発現を測定した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、横軸において、PBSは、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し、Reg−DCCBAは、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。(図7A)CD4CD25T細胞の移植4週間後にMLNにおける転写因子mRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各転写因子mRNAの発現量を示す。(図7B)CD4CD25T細胞の移植4週間後にMLNにおけるサイトカインmRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各サイトカインmRNAの発現量を示す。(図7C)CD4CD25T細胞の移植4週間後に採取したMLNを25ng/mLのPMA及び1μg/mLのイオノマイシン存在下で72時間培養した培養上清中のサイトカイン濃度をELISA、サイトメトリックビーズアレイ法(BD Biosciences Pharmingen)で測定した結果を示すグラフである。図中、縦軸は各サイトカインの濃度(pg/mL)を示す。
図8】CD4CD25T細胞再構成マウスに対して、PBS又はCBAでパルスした制御性樹状細胞を投与することにより、in vivoにおけるFoxp3CD4CD25T細胞の誘導について測定した結果を示す図である。(図8A)CD4CD25T細胞の移植から1週間後に採取したMLNをフローサイトメトリーで測定した結果をドットプロットで表わした図である。一番左の図は、BALB/Cの脾細胞のアイソタイプコントロールIgG及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はアイソタイプコントロールIgGの発現を、横軸はCD25の発現を示す。「PBS」は、PBSを投与した場合のFoxp3及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はFoxp3の発現を、横軸はCD25の発現を示す。「Reg−DCCBA」は、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与した場合のFoxp3及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はFoxp3の発現を、横軸はCD25の発現を示す。(図8B)CD4CD25T細胞の移植から1、3及び5週間後に採取したMLNにおけるFoxp3CD4CD25T細胞の割合を示すグラフである。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。図中、白丸印は、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し、白三角印は、PBSを投与したマウスを示す。縦軸は、Foxp3CD4CD25T細胞の割合(%)を示し、横軸は、CD4CD25T細胞の移植からの経過期間(週)を示す。(図8C)CD4CD25T細胞の移植から7日後に採取したMLNをフローサイトメトリーで測定した結果をドットプロットで表わした図である。一番左の図は、BALB/Cの脾細胞のアイソタイプコントロールIgG及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はアイソタイプコントロールIgGの発現を、横軸はCD25の発現を示す。「PBS」は、PBSを投与した場合のIL−10及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はIL−10の発現を、横軸はCD25の発現を示す。「Reg−DCCBA」は、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与した場合のIL−10及びCD25の発現をフローサイトメトリーで測定した結果を示し、縦軸はIL−10の発現を、横軸はCD25の発現を示す。(図8D)CD4CD25T細胞の移植から2、4、7及び14日後に採取したMLNにおけるIL−10CD4CD25T細胞の割合を示すグラフである。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。図中、白丸印は、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し、白三角印は、PBSを投与したマウスを示す。縦軸は、IL−10CD4CD25T細胞の割合(%)を示し、横軸は、CD4CD25T細胞の移植からの経過期間(日)を示す。
図9】CBAの2次元電気泳動ゲルをディープパープルで染色した結果を示す写真である。スポットは、表1に記載の番号に従ってラベルした。図中右の数値はマーカーの分子量(kDa)を示す。また、図上部の数値は、等電点電気泳動のpHを示す。
図10】マウス大腸組織におけるCA I発現を免疫組織化学染色により検出した結果を示す写真である。図中、上の写真は40倍に拡大した写真を、下の写真は200倍に拡大した写真を示す。写真中、左から順に、「SCID」は、CD4CD25T細胞を移植していないマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+PBS」は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DCCBA」は、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。
図11】CD4CD25T細胞により誘導したマウス大腸炎モデルにCA Iでパルスした制御性樹状細胞を投与した結果を示す図である。図11B及び11Cの横軸において、「SCID」は、CD4CD25T細胞を移植していないマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+PBS」は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DCCBA」は、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DCCA1−control」は、CA Iの遺伝子配列を組み込んでいないempty plasmidでCA Iと同様にセルフリータンパク質合成システムに従って作成したものをCA I−controlとしこれによりパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;「SCID+CD4CD25Tcells+Reg−DCCA1」は、CD4CD25T細胞を移植し、CA Iでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。また、図11D図11Gの横軸において、「PBS」は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し;「Reg−DCCA1」は、CD4CD25T細胞を移植し、CA Iでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。(図11A)体重変化(%)の時間経過を示すグラフである。図中、縦軸は体重変化(%)を示し、横軸は、細胞移植後の経過日数を示す。図中、三角は、CD4CD25T細胞を移植していないマウスを示し;白丸は、CD4CD25T細胞を移植し、PBSを投与したマウスを示し;黒四角は、CD4CD25T細胞を移植し、CBAでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;ひし形は、CA Iの遺伝子配列を組み込んでいないempty plasmidでCA Iと同様にセルフリータンパク質合成システムに従って作成したものをCA I−controlとしこれでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示し;黒ひし形は、CD4CD25T細胞を移植し、CA Iでパルスした制御性樹状細胞を投与したマウスを示す。エラーバーは、SDを示す。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。(図11B)CD4CD25T細胞の移植から28日後の大腸の長さを測定した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、大腸の長さ(cm)を示し、横軸は大腸の長さの測定に用いたマウスを示す。エラーバーは、SDを示す。二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。(図11C)組織学的スコアを計算した結果を示すグラフである。図中、縦軸は組織学的スコアを示し、横軸は組織学的スコアの測定に用いたマウスを示す。グラフ中の水平線は、中央値を示し、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。(図11D)CD4CD25T細胞の移植4週間後に大腸における炎症性サイトカインmRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各サイトカインmRNAの発現量を示す。図中、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。(図11E)CD4CD25T細胞の移植4週間後にMLNにおける転写因子及び炎症性サイトカインのmRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各転写因子mRNA及び各サイトカインmRNAの発現量を示す。図中、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。(図11F)CD4CD25T細胞の移植4週間後に採取した大腸をex vivoで3日間培養した培養上清中のサイトカイン濃度をELISAで測定した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、縦軸は各サイトカインの濃度(pg/mL)を示す。図中、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。(図11G)CD4CD25T細胞の移植4週間後に採取したMLNを25ng/mLのPMA及び1μg/mLのイオノマイシン存在下で72時間培養した培養上清中のサイトカイン濃度をELISA、サイトメトリックビーズアレイ法(BD Biosciences Pharmingen)で測定した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、縦軸は各サイトカインの濃度(pg/mL)を示す。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。
図12A】PBS、mCA1−control、又はmCA1を投与した後、CD4CD25T細胞を移入し腸炎を誘導したCD4CD25T細胞移入腸炎モデルマウスの結果を示す図である(図12B図12Gも同様)。体重変化(%)の時間経過を示すグラフである。図中、縦軸は体重変化(%)を示し、横軸は、細胞移植後の経過日数を示す。図中、三角は、CD4CD25T細胞を移植していないSCIDマウス(n=6)を示し;白丸は、PBSを投与後、CD4CD25T細胞を移植したSCIDマウス(n=7)を示し;四角は、CA Iの遺伝子配列を組み込んでいないempty plasmidで合成したタンパク質(mCA1−control)を投与した後、CD4CD25T細胞を移植したSCIDマウス(n=7)を示し;黒四角は、mCA1を投与した後、CD4CD25T細胞を移植したSCIDマウス(n=7)を示す。エラーバーは、SDを示す。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。
図12B】CD4CD25T細胞を移植した28日後の大腸の長さを測定した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、大腸の長さ(cm)を示し、横軸は大腸の長さの測定に用いたマウスを示す。横軸において、「SCID」は、CD4CD25T細胞を移植していないマウスを示し;「PBS+CD4CD25→SCID」は、PBSを投与後、CD4CD25T細胞を移植したマウスを示し;「CA1−control+CD4CD25→SCID」は、CA Iの遺伝子配列を組み込んでいないempty plasmidで合成したタンパク質(mCA1−control)を投与後、CD4CD25T細胞を移植したマウスを示し;「CA1+CD4CD25」は、mCA1を投与後、CD4CD25T細胞を移植したマウスを示す(図12Cにおいても同様)。エラーバーは、SDを示す。それぞれの群において、6〜7匹のマウスを用いた。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。
図12C】PBS、mCA1−control、又はmCA1を投与したCD4CD25T細胞移入腸炎モデルマウスから得た大腸の組織学的スコアの結果を示すグラフである。図中、縦軸は組織学的スコアを示し、横軸は組織学的スコアの測定に用いたマウスを示す。グラフ中の水平線は、中央値を示す。それぞれの群において、6〜7匹のマウスを用いた。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。
図12D】CD4CD25T細胞の移植4週間後に、大腸における炎症性サイトカインmRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。グラフは、5匹のマウスの平均値±SDを示す。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各サイトカインmRNAの発現量を示す。横軸において、「SCID+CD4CD25+PBS」は、PBSを投与後、CD4CD25T細胞を移植したマウスを示し;「SCID+CD4CD25+CA1」は、CA Iを投与後、CD4CD25T細胞を移植したマウスを示す(図12E図12Gにおいても同様)。図中、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。
図12E】CD4CD25T細胞の移植4週間後にMLNにおける転写因子及び炎症性サイトカインのmRNAの発現をリアルタイムRT−PCRで定量した結果を示すグラフである。グラフは、5匹のマウスの平均値±SDを示す。図中、縦軸はGAPDHのmRNA量に対する各転写因子mRNA及び各サイトカインmRNAの発現量を示す。図中、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。
図12F】大腸をex vivoで3日間培養した培養上清中に分泌されたIL−6,MCP−1,TNFα、及びIL−17の濃度をサイトメトリックビーズアレイ法(BD Biosciences Pharmingen)、ELISA(R&D Systems)で測定した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、縦軸は各サイトカインの濃度(pg/mL)を示す。それぞれの群において、5〜7匹のマウスを用いた。図中、星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示す。二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。
図12G】MLN(1×10細胞)を25ng/mLのPMA及び1μg/mLのイオノマイシン存在下で72時間培養した培養上清中に分泌されたIL−6、MCP−1、TNFα、IFNγ及びIL−17の濃度を、サイトメトリックビーズアレイ法(BD Biosciences Pharmingen)、ELISA(R&D Systtems)で測定した結果を示すグラフである。グラフは、平均値±SDを示す。図中、縦軸は各サイトカインの濃度(pg/mL)を示す。それぞれの群において、5〜7匹のマウスを用いた。星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.05となることを示し、二重の星印はPBS投与マウスと比較して、P<0.01となることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
CA Iは、当業者に周知の遺伝子配列情報(例えば、マウスCA Iの遺伝子配列を配列番号1に、ヒトCA Iの遺伝子配列を配列番号3に示す)から適宜プライマーを設計し、発現ベクターを作製して、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等に導入し、発現させることにより得ることができる。または、CA Iは、小麦胚芽リボソームRNAを用いたセルフリータンパク質合成システムに従って調製することができる(Madin Kら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:559−64)。
また、CA IとしてCA Iの部分ペプチドを使用する場合には、アミノ酸合成に用いられる当業者周知の方法を用いて製造することができる。例えば、CA Iの部分ペプチドは、Fmoc法またはBoc法等を用いて化学合成により作製できることができ、または、自動ペプチド合成機を用いて合成することもできる。このようなペプチド合成機としては、例えば、PSSM−8(島津製作所);モデル433Aペプチドシンセサイザ(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems, Inc.));ACT396Apex(アドバンストケムテック社(Advanced ChemTech Inc.))等が挙げられる。
CA I(その部分ペプチドを含む)への変異の挿入は、部位特異的変異導入法等、当業者周知の方法を用いて行うことができる。
【0020】
本発明の「CA Iを使用することを特徴とする、患者における免疫寛容の誘導方法」は、患者にCA Iを直接投与することを含む免疫寛容の誘導方法、及び、ex vivoにおいて寛容原性抗原提示細胞をCA Iでパルスすることを含む免疫寛容の誘導方法を含む。
【0021】
また、本発明の「CA Iを使用することを特徴とする自己免疫疾患の治療又は予防方法」は、患者にCA Iを直接投与することを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法、及び、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法を含む。
【0022】
本発明において、CA I又はCA Iを有効成分として含有する医薬組成物を患者に直接投与する場合、投与部位としては、経口投与、鼻腔内投与、気道内投与、皮下投与、血管内(静脈内)投与等を挙げることができ、好ましくは経口投与である。また、製剤としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、顆粒剤、粉霧剤等を挙げることができる。また、投与方法は、所望の治療効果又は予防効果が得られる方法であれば特に限定はなく、好ましくは、経口投与する。また、投与は、一時的に行われてもよいし、持続的又は断続的に行われてもよい。例えば、投与頻度として、例えば、単回投与、1週間に1〜4回投与の他、1か月〜3か月毎に1回などの間歇的投与も選択できる。投与量は、所望の治療効果又は予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。投与量は、例えば、抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞若しくは抗原特異的な制御性T細胞の産生の程度、又は自己免疫疾患の治療効果若しくは予防効果を指標として決定することができる。例えば、1回の抗原の投与量は、0.01ng/kg〜10mg/kgであり、より好ましくは、0.1ng/kg〜1mg/kgであり、更に好ましくは、0.5ng〜100μg/kgであり、最も好ましくは、1ng〜10μg/kgである。また、CA Iは、シクロスポリン、タクロリムス等の免疫抑制剤等の他の薬剤と共に投与されてもよく、例えば、CA Iと該他の薬剤は、同時に又は時間をおいて別々に投与されてもよい。
【0023】
前記において、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む免疫寛容の誘導方法は、例えば、以下のステップにより行うことができる:
寛容原性抗原提示細胞を調製するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、及び、
パルスした寛容原性抗原提示細胞を、免疫寛容を誘導する患者に投与するステップ。
【0024】
好ましくは、本発明のex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む免疫寛容の誘導方法は、例えば、以下のステップにより行うことができる。
患者由来の制御性樹状細胞を調製するステップ、
CA Iで制御性樹状細胞をパルスするステップ、及び、
パルスした制御性樹状細胞を、免疫寛容を誘導する患者に投与するステップ。
【0025】
ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法は、例えば、以下のステップにより行うことができる:
寛容原性抗原提示細胞を調製するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、及び、
パルスした寛容原性抗原提示細胞を自己免疫疾患の患者に投与するステップ。
【0026】
好ましくは、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法は、以下のステップにより行うことができる:
患者由来の制御性樹状細胞を調製するステップ、
CA Iで制御性樹状細胞をパルスするステップ、及び、
パルスした制御性樹状細胞を自己免疫疾患の患者に投与するステップ。
【0027】
寛容原性抗原提示細胞である制御性樹状細胞は、例えば、患者の骨髄細胞を採取し、GM−CSF、IL−10、及びヒト形質転換成長因子−β1(TGF−β1)の存在下で8日間培養し、超高純度LPSの存在下で24時間刺激することにより調製することができる。または、末梢血を採取し、当業者周知の方法で単核球画分を分離、採取し、GM−CSF、IL−10、及びヒト形質転換成長因子−β1(TGF−β1)の存在下で8日間培養し、超高純度LPSの存在下で24時間刺激することにより調製することができる。また、調製した制御性樹状細胞は、共刺激分子を発現している樹状細胞を除去することにより純度を高めることができる。
【0028】
CA Iによる寛容原性抗原提示細胞のパルスは、CA Iの存在下で寛容原性抗原提示細胞を培養することにより行うことができる。
【0029】
パルスした寛容原性抗原提示細胞の患者への投与は、免疫細胞を利用した細胞治療方法として当業者に周知の方法を用いることができる。例えば、細胞は、血管内(静脈内)に投与される。また、投与は、一時的に行われてもよいし、持続的又は断続的に行われてもよい。例えば、投与頻度として、好ましくは、単回投与、1週間に1〜4回投与であり、より好ましくは、単回または1週間に1回投与である。また、1か月〜3か月毎に1回などの間歇的投与も選択できる。投与量は、所望の治療効果又は予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。投与量は、例えば、免疫寛容の程度、患者の血中における抗原特異的な制御性樹状細胞及び/又は制御性T細胞の数、あるいは自己免疫疾患の治療効果若しくは予防効果を指標として決定することができる。例えば、1回の細胞の投与量は、1×10細胞〜1×1010細胞であり、より好ましくは、1×10細胞〜1×10細胞であり、更に好ましくは、5×10細胞〜5×10細胞であり、最も好ましくは、1×10細胞である。また、パルスした寛容原性抗原提示細胞は、シクロスポリン、タクロリムス等の免疫抑制剤等の他の薬剤と共に投与されてもよく、例えば、CA Iと該他の薬剤は、同時に又は時間をおいて別々に投与されてもよい。
【0030】
また、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む免疫寛容の誘導方法、及び、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法は、更に、ex vivoにおいて、CA Iに特異的な制御性T細胞を誘導するステップを含んでいてもよい。
【0031】
例えば、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む免疫寛容の誘導方法は、以下のステップにより行うことができる:
寛容原性抗原提示細胞及びナイーブT細胞を調製するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、
パルスした寛容原性抗原提示細胞とナイーブT細胞を接触させて制御性T細胞を誘導するステップ、及び、
誘導した制御性T細胞を、免疫寛容を誘導する患者に投与するステップ。
【0032】
好ましくは、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む免疫寛容の誘導方法は、例えば、以下のステップにより行うことができる:
患者由来の制御性樹状細胞及びナイーブT細胞を調製するステップ、
CA Iで制御性樹状細胞をパルスするステップ、
パルスした制御性樹状細胞とナイーブT細胞を接触させて制御性T細胞を誘導するステップ及び、
誘導した制御性T細胞を、免疫寛容を誘導する患者に投与するステップ。
【0033】
また、例えば、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法は、以下のステップにより行うことができる:
寛容原性抗原提示細胞及びナイーブT細胞を調製するステップ、
CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスするステップ、
パルスした寛容原性抗原提示細胞とナイーブT細胞を接触させて制御性T細胞を誘導するステップ、及び、
誘導した制御性T細胞を自己免疫疾患の患者に投与するステップ。
【0034】
また、好ましくは、ex vivoにおいてCA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることを含む自己免疫疾患の治療又は予防方法は、以下のステップにより行うことができる:
患者由来の制御性樹状細胞及びナイーブT細胞を調製するステップ、
CA Iで制御性樹状細胞をパルスするステップ、
パルスした制御性樹状細胞とナイーブT細胞を接触させて制御性T細胞を誘導するステップ、及び、
誘導した制御性T細胞を自己免疫疾患の患者に投与するステップ。
【0035】
以上において、ナイーブT細胞は、末梢血または、脾臓細胞から、CD4CD25制御性T細胞単離キット及びAutoMACS(ミルテニーバイオテク社)を用いて、製造者のマニュアルに従って単離することができる。ナイーブT細胞の純度は、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)ラベル抗CD4モノクローナル抗体及びフィコエリトリン(PE)ラベル抗CD25モノクローナル抗体を用いたFACS分析により確認することができる。
【0036】
パルスした制御性樹状細胞による制御性T細胞の誘導は、例えば、1mLのRPMI培地中、5×10個のナイーブT細胞を、5×10個の制御性樹状細胞と共に7日間培養することで得ることができる。
【0037】
誘導した制御性T細胞の患者への投与は、上記パルスした寛容原性抗原提示細胞の患者への投与と同様に行うことができる。
【0038】
本発明の「自己免疫疾患の治療又は予防において使用するためのCA Iを有効成分として含有する医薬組成物」は、免疫寛容を誘導する目的で患者に直接投与されるものであってもよいし、ex vivoにおいて抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞を調製するために使用されるものであってもよい。また、抗原特異的な寛容原性抗原提示細胞を調製するために使用される場合、調製された寛容原性抗原提示細胞又は当該抗原提示細胞により刺激された制御性T細胞は前記方法に従って患者に投与される。
【0039】
「自己免疫疾患の治療又は予防において使用するためのCA Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞を有効成分として含有する医薬組成物」は、免疫寛容を誘導する目的で患者に直接投与されるものであってもよいし、ex vivoにおいて抗原特異的な制御性T細胞を調製するために使用されるものであってもよい。CA Iに特異的な寛容原性抗原提示細胞は、前記方法に従って、寛容原性抗原提示細胞を調製し、CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスすることにより得ることができる。調製された寛容原性抗原提示細胞又は当該抗原提示細胞により刺激された制御性T細胞は前記方法に従って患者に投与される。
【0040】
「自己免疫疾患の治療又は予防において使用するためのCA Iに特異的な制御性T細胞を有効成分として含有する医薬組成物」は、免疫寛容を誘導する目的で患者に直接投与されるものである。CA Iに特異的な制御性T細胞は、前記方法に従って、寛容原性抗原提示細胞及びナイーブT細胞を採取し、CA Iで寛容原性抗原提示細胞をパルスし、パルスした寛容原性抗原提示細胞とナイーブT細胞を接触させることにより得ることができる。調製された制御性T細胞は前記方法に従って患者に投与される。
【0041】
本発明において、CA Iを含有する組成物は、CA I以外に、適宜、安定剤等の添加物(例えば、「医薬品添加物事典」薬事日報社、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」APhA Publications社参照)を含んでいてもよい。また、シクロスポリン、タクロリムス等の免疫抑制剤等の他の薬剤を更に含んでいてもよい。また、本発明において、寛容原性抗原提示細胞又は制御性T細胞を含有する組成物は、寛容原性抗原提示細胞又は制御性T細胞以外に、適宜、細胞治療に適した添加材を含有していてもよい。
【0042】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。また、本願は日本国特許出願2009−242491の優先権を主張して出願されたものであり、当該日本国特許出願2009−242491に記載の内容はその全てが参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0043】
(統計解析)
全ての個別の実験において、データは平均値±SDで示した。データは、スチューデントのt−テスト又はマンホイットニーのUテストにより分析した。P<0.05を統計学的に有意であるとした。統計計算は、StatView バージョン5.0統計プログラムを用いて行った。
【0044】
(実施例1)樹状細胞マーカーの検出
(1)マウス
以下の全ての実験において、特定病原体未感染条件下で交配したC.B−17SCIDマウス及びBALB/c(H−2d)メスマウスを使用した(日本クレア株式会社、東京、日本)。全てのマウスは8〜12週令であり、22℃、湿度55%、12時間昼/夜のリズムで、通常の実験動物飼料を与えて維持管理を行った。全ての動物は、グッドラボラトリープラクティスガイドラインに従って飼育した。本研究は、愛媛大学動物実験委員会の承認を得て行われた。
【0045】
(2)樹状細胞の調製
成熟樹状細胞は、BALB/cマウスから得た2×10個の骨髄細胞を20ng/mLのマウス顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)(和光純薬株式会社、大阪、日本)存在下で8日間培養した後、1μg/mLの超高純度LPS(InvivoGen社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)の存在下で24時間刺激して調製した。
制御性樹状細胞は、BALB/cマウスから得た2×10個の骨髄細胞を、20ng/mLのマウスGM−CSF(和光純薬株式会社)、マウスインターロイキン−10(IL−10)(和光純薬株式会社)及びヒト形質転換成長因子−β1(TGF−β1)(和光純薬株式会社)の存在下で8日間培養し、1μg/mLの超高純度LPS(InvivoGen社)の存在下で24時間刺激することにより調製した。制御性樹状細胞は、その後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)ラベル抗CD40モノクローナル抗体(クローン3/23、BD Biosciences Pharmingen社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)、抗CD80モノクローナル抗体(クローン16−10AI、BD Biosciences Pharmingen社)、抗CD86モノクローナル抗体(クローンGL1、BD Biosciences Pharmingen社)を用いて4℃で30分間染色した。抗FITCマイクロビーズ(ミルテニーバイオテク社、ベルギッシュグラッドバッハ、ドイツ)により細胞をラベルした後、AutoMACS(ミルテニーバイオテク社)を用いて、CD40CD80CD86細胞(調製した全細胞の約20%)を排除し、共刺激分子を発現している樹状細胞を除去した。
【0046】
(3)樹状細胞マーカーの検出
樹状細胞は、洗浄後、1%FBS、0.2%アジ化ナトリウム含有PBSに再懸濁させた。精製ラット抗マウスCD16/CD32モノクローナル抗体(クローン2.4G2、BD Pharmingen社)でFcレセプターをブロッキングした後、樹状細胞を、FITCラベル抗CD11cモノクローナル抗体(クローンHL3、BD Pharmingen社)、抗CD80モノクローナル抗体、抗CD86モノクローナル抗体、及び抗CD40モノクローナル抗体、並びに、PEラベル抗I−A/I−Eモノクローナル抗体(クローン2G9、BD Pharmingen社)、及び抗H−2Kモノクローナル抗体(クローンAMS−32.1、BD Pharmingen社)を用いて4℃の暗室で30分間染色した。アイソタイプ適合のモノクローナル抗体をコントロールとして使用した。蛍光染色は、フローサイトメトリーにより分析した。
【0047】
(4)結果
結果を図1に示す。骨髄由来の成熟樹状細胞は、高レベルのMHC分子(H−2kd及びI−A/I−E)、CD11c、及び共刺激分子(CD40、CD80及びCD86)を発現していた。対照的に制御性樹状細胞は、中程度のMHC分子と非常に低いレベルのCD11c及び共刺激分子を発現していた。
【0048】
(実施例2)Toll−like受容体リガンド刺激により発現するサイトカインの比較
実施例1と同様に調整した2×10個の樹状細胞を、1μg/mLのポリイノシン酸−ポリシチジル酸(polyI:C)(シグマケミカル社、セントルイス、ミズーリ州、米国)、1μg/mLの超高純度LPS、1μg/mLのR848(InvivoGen社)、又はシトシンホスホロチオラートグアニンオリゴヌクレオチド(CpG−ODN)(TCCATGACGTTCCTGATGCT:配列番号5)の存在下、200μLのRPMI1640培地(10%ウシ胎仔血清(FCS)、20mM HEPES、2−メルカプトエタノール、ペニシリン、及びストレプトマイシン含有RPMI−1640培地)中、U底96穴プレートで24時間培養した。培養上清中のIL−10及びIL−6をサイトメトリックビーズアレイキット(BD Biosciences Pharmingen社)を用いて、製造者のマニュアルに従って測定した。
【0049】
結果を図2に示す。Toll−like受容体リガンドで刺激することにより、制御性樹状細胞は、成熟樹状細胞と比較して顕著に低レベルのIL−6を産生し、高レベルのIL−10を産生していた。
【0050】
(実施例3)In vitroにおける樹状細胞によるFoxp3CD4CD25制御性T細胞の誘導
Foxp3CD4CD25制御性T細胞は、様々な免疫反応の調節において中心的な役割を果たしていることが明らかとなってきている(Fontenot JDら(2005)Nat.Immunol.,6:331−7;Vignali DAら(2008)Nat.Rev.Immunol.,8:523−32;Hori Sら(2003)Science,299:1057−61)。制御性樹状細胞及び免疫寛容原性樹状細胞は、Foxp3CD4CD25制御性T細胞を誘導し、マウス及びヒトにおける寛容誘導において働くことが報告されている(Fujita Sら(2007)Blood,110:3793−803;Torisu Mら(2008)J.Gastroenterol.,43:100−7;Dumitriu IEら(2009)J.Immunol.,182:2795−807)。そこで、制御性樹状細胞がFoxp3CD4CD25制御性T細胞を誘導するか否かを調べた。
【0051】
(1)CD4CD25T細胞の精製
CD4CD25T細胞は、BALB/cマウスの脾臓細胞から、CD4CD25制御性T細胞単離キット及びAutoMACS(ミルテニーバイオテク社)を用いて、製造者のマニュアルに従って単離した。ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)ラベル抗CD4モノクローナル抗体(BD Pharmingen社)及びフィコエリトリン(PE)ラベル抗CD25モノクローナル抗体(ミルテニーバイオテク社)を用いたFACS分析により純度が98%以上であることを確認した。
【0052】
(2)In vitroにおけるFoxp3CD4CD25T細胞の誘導
35×10mmスタイル細胞培養皿(コーニング社、ホースヘッズ、ニューヨーク、米国)を用いて、1mLのRPMI培地中、5×10個のBALB/cマウスから単離したCD4CD25T細胞を、5×10個のBALB/cマウスから単離した成熟樹状細胞又は制御性樹状細胞と共に7日間培養した。培養後、PEラベル抗Foxp3モノクローナル抗体(クローンFJK−16s、eBioscience社、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)、アロフィコシアニン(APC)ラベル抗CD25モノクローナル抗体(クローンPC61、BD Pharmingen社)、及びPerPCラベル抗CD4モノクローナル抗体(クローンRM4−5、BD Pharmingen社)を用いて、製造者のマニュアルに従って細胞を染色した。蛍光染色は、FloJoソフトウェアを用いたフローサイトメトリーにより分析した。
【0053】
(3)結果
結果を図3及び図4に示す。成熟樹状細胞及び制御性樹状細胞のいずれも同数のCD4CD25T細胞を生成させていた。しかし、Foxp3CD4CD25制御性T細胞は制御性樹状細胞により誘導されるのに対し、成熟樹状細胞では誘導されなかった。
【0054】
(実施例4)CBAパルス制御性樹状細胞による大腸炎の治療
制御性樹状細胞の投与が大腸炎に対して治療効果をもたらすか否かを以下の方法により調べた。
(1)CBAの調製
CBAは、以前報告された方法(Cong Yら(1998)J.Exp.Med.,187:855−64)に従って調製した。BALB/cマウスを安楽死させ、盲腸を摘出した。5個の盲腸を開き、1.0mmシリカセファロース(Lysing Matrix C、MP Biomedicals社、ソロン、オハイオ州、米国)を含む10mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に加えた。5分間攪拌後、4℃、5000gで5分間遠心してシリカセファロースと未溶解の細胞を除去した。続いて、上清を4℃、18,000gで30分間遠心し、溶解物をポアサイズ0.2μmのシリンジフィルタに通して滅菌した。溶解物のタンパク質濃度はDCプロテインアッセイキット(Bio−Rad社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を用いて測定した。
【0055】
(2)CBA又はKLHパルス制御性樹状細胞の調製
実施例1と同様の方法により調製した制御性樹状細胞を50μg/mLのCBA、又は50μg/mLのキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)(Thermo Scientific社、ロックフォード、イリノイ州、米国)で24時間パルスし、それぞれCBAパルス樹状細胞(Reg−DCsCBA)又はKLHパルス樹状細胞(Reg−DCsKLH)を生成させた。
【0056】
(3)腸炎モデルの作成及び樹状細胞による治療
腸炎モデルは、以前報告された方法に従って作成した(Kjellev Sら(2006)Int.Immunopharmacol.、6:1341−54)。BALB/cマウスから得たCD4CD25T細胞を、3×10細胞/0.2mL/マウスとなるようにPBSで調整し、腹腔内投与によりC.B−17SCIDマウスに移植した。移植日を0日目とした。CD4CD25T細胞を移植していないマウスをControl群とした(n=6)。0日目にCD4CD25T細胞と共に、BALB/cマウスから得た、制御性樹状細胞(n=7)、Reg−DCsKLH(n=6)、又は、Reg−DCsCBA(n=8)を、それぞれ1×10細胞/0.2mL/マウスとなるようにPBSで調整し、腹腔内投与した。樹状細胞の代わりに0.2mLのPBSを投与したマウスをPBS群とした(n=10)。マウスの体重を毎週測定した。細胞移植の4週間後に安楽死させたマウスから採取した大腸の長さを測定した。
【0057】
(4)大腸炎の組織学的評価
大腸は、細胞移植の4週間後に安楽死させたマウスから採取した。横行結腸を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。組織薄片をH&E又は過ヨウ素酸シッフ(PAS)で染色した。組織切片中の炎症の程度は、報告されている方法に従って評価した(Kjellev Sら(2006)Int.Immunopharmacol.、6:1341−54)。組織像は、以下に従ってスコア付けした:1)炎症の重症度:0 無し;1 軽度のリンパ球浸潤;2 中等度のリンパ球浸潤、又は局所の陰窩変性;3 重度の炎症、又は複数個所の陰窩変性、及び/又はびらん;2)炎症の程度:0 無し;1 粘膜;2 粘膜下層;3 貫壁性;3)粘液量:0 通常;1 微量の粘液減少;2 中等度の粘液減少、又は局所的な粘液欠如;3 重度の粘液減少;4 完全な粘液欠如;及び、4)上皮細胞増殖の程度:0 無し;1 細胞数又は陰窩長の穏やかな増加;2 中等度又は局所の顕著な増加;3 顕著な増加−切片の全ての部分における。組織学的スコアは、4つの個別のパラメータの総和として計算した。
【0058】
(5)結果
結果を図5及び図6に示す。移植4週間後、PBSを投与されたマウスと比較して、Reg−DCsCBAで治療したマウスの体重が有意に増加していた(P<0.01)(図5A)。移植4週間後の肉眼的所見では、PBSを投与されたマウスでは大腸壁は厚くかつ大腸の長さは短くなっていた。一方、PBSを投与されたマウスと比較して、制御性樹状細胞、又はReg−DCsCBAを投与されたマウスにおいては、大腸の長さが有意に長かった(P<0.01)(図5B図5C)。組織学的所見では、大腸炎は重度の上皮の過剰増殖、粘液減少、炎症細胞浸潤、陰窩変性、杯細胞数の減少、及びびらんにより特徴づけられる。樹状細胞を投与されていないC.B−17SCIDマウスでは、重度の上皮の過剰増殖、粘液減少、炎症細胞浸潤、陰窩変性及び杯細胞数の減少が認められ、重症の大腸炎を発症していた。抗原をパルスしていない制御性樹状細胞又はReg−DCsKLHを投与されたマウスにおいても、PBSを投与されたマウスと類似した大腸の組織学的変化を示していた。対照的に、Reg−DCsCBAによる治療は、これらの組織的変化は軽度であり、炎症細胞浸潤を顕著に減少させ、杯細胞の減少は軽度であった(図5D)。
組織学的スコアは、炎症の重症度、炎症細胞浸潤の程度、粘液量、及び上皮増殖の程度に基づき決定した。組織学的スコアは、PBSを投与されたマウスと比較して、Reg−DCsCBAを投与されたマウスにおいて有意に低下していた(図5E)。制御性樹状細胞で治療したマウスは、中等度の体重減少と軽度の大腸長の短縮を示したが、組織学的所見では、制御性樹状細胞で治療したマウスにおいても中等度から重度の大腸炎を発症していた。
【0059】
(実施例5)腸炎モデルの大腸における炎症性サイトカイン発現
(1)炎症性サイトカインのmRNA発現測定
実施例4と同様にして作製したCD4CD25T細胞を移植した、それぞれ4匹のReg−DCsCBA投与マウス及びPBS投与マウスの横行結腸をTissueLyser(キアゲン社、東京、日本)を用いてホモジナイズした。全RNAは、RNAeasy plus miniキット(キアゲン社)により抽出した。相補的DNA(cDNA)は、high capacity cDNA reverse transcription kit(アプライドバイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州、米国)を使用して、10μgのRNAから生成した。腸炎マウスから得た大腸のIL−10、IL−6、及びIL−17AのmRNAの発現を、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)発現をコントロールとして、リアルタイムRT−PCRにより測定した。相対的発現量は以前報告された方法に従って計算した(Tokumoto Yら(2007)J.Med.Virol.,79:1120−7)。
【0060】
(2)Ex Vivo培養大腸の炎症性サイトカイン産生量の測定
横行結腸より1cm切片を採取し、便を除去し、滅菌されたPBSで3回洗浄した。大腸切片をRPMI1640培地(RPMI1640培地、10%FCS、20mM HEPES、2−メルカプトエタノール、ペニシリン、及びストレプトマイシン)に加え、37℃、5%COで培養した。培養3日後に上清を回収した。培養上清中のIL−17、IL−10、IL−6、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、及びインターフェロン−γ(IFN−γ)をELISAキット(R&Dシステムズ社、ミネアポリス、ミネソタ州、米国)、サイトメトリックビーズアレイキット(BD Biosciences Pharmingen社)を用いて測定した。
【0061】
サイトカインmRNA発現解析の結果、Reg−DcsCBAを投与されたマウスの大腸において、IL−6及びIL−17Aの発現が減少し、IL−10の発現が上昇していた(図6A)。大腸の培養上清を解析したところ、Reg−DCsCBAを投与したマウスの大腸において、炎症性サイトカインであるIL−17及びTNF−αの産生はPBSを投与されたマウスと比べ有意に低かったが(P<0.05)、IFN−γ、IL−6及びIL−10については有意な差は見られなかった(図6B)。
【0062】
(実施例6)腸炎モデルの腸間膜リンパ節(MLN)細胞における転写因子及び炎症性サイトカイン発現
Reg−DcsCBAによる腸炎抑制のメカニズムを解明するため、腸間膜リンパ節(MLN)細胞における転写因子及びサイトカインを測定した。
(1)転写因子のmRNA発現測定
実施例4と同様にして作製したCD4CD25T細胞を移植した、Reg−DCsCBAを投与されたマウス及びPBSを投与されたマウスより採取したMLNをTissueLyser(キアゲン社)を用いてホモジナイズした。全RNAは、RNAeasy plus miniキット(キアゲン社)により抽出した。相補的DNA(cDNA)は、high capacity cDNA reverse transcription kit(アプライドバイオシステムズ社)を使用して、10μgのRNAから生成した。腸炎マウスから採取したMLNのFoxp3、及びレチノイン酸関連オーファン受容体ガンマt(RORγT)のmRNAの発現は、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)発現をコントロールとして、リアルタイムRT−PCRにより測定した。相対的発現量は以前報告された方法に従って計算した(Tokumoto Yら(2007)J.Med.Virol.,79:1120−7)。
【0063】
(2)炎症性サイトカインのmRNA発現測定
実施例4と同様にして作製したCD4CD25T細胞を移植した、Reg−DCsCBAを投与したマウス及びPBSを投与したマウスから採取したMLNをTissueLyser(キアゲン社)を用いてホモジナイズした。全RNAは、RNAeasy plus miniキット(キアゲン社)により抽出した。相補的DNA(cDNA)は、high capacity cDNA reverse transcription kit(アプライドバイオシステムズ社)を使用して、10μgのRNAから生成させた。大腸炎マウスから採取したMLNのIL−17A、IL−6、IL−10、及びTGF−βのmRNAの発現は、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)発現をコントロールとして、リアルタイムRT−PCRにより測定した。相対的発現量は以前報告された方法に従って計算した(Tokumoto Yら(2007)J.Med.Virol.,79:1120−7)。
【0064】
(3)ELISAによる炎症性サイトカイン産生量の測定
実施例4と同様にして作製したCD4CD25T細胞を移植した、Reg−DCsCBA投与したマウス及びPBSを投与したマウスから得た1×10個のMLN細胞を、25ng/mLのホルボール12−ミリスチン酸13−アセテート(PMA)(シグマケミカル社)及び1μg/mLのイオノマイシン(シグマケミカル社)の存在下、72時間培養した。培養上清中のIL−6、インターフェロン−γ(IFN−γ)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、及び単球走化性タンパク質−1(MCP−1)をサイトメトリックビーズアレイキット(BD Biosciences Pharmingen社)を用いて、製造者のマニュアルに従って測定した。また、上清中のIL−17をELISAキット(R&Dシステムズ社)を用いて測定した。
【0065】
(4)結果
結果を図7に示す。Reg−DCsCBAを投与したマウスはPBSを投与したマウスと比較して、MLNにおけるFoxp3の発現が有意に上昇していた(P<0.05)(図7A)。RORγTmRNAの発現は、Reg−DCsCBAを投与したマウスにおいて、PBSを投与したマウスと比較して有意に低下していた(P<0.05)(図7A)。また、MLN中のIL−10及びTGF−βのmRNAの発現は、Reg−DCsCBAを投与したマウスにおいて、PBSを投与したマウスと比較して有意に高かった(P<0.05)(図7B)。MLNにおけるIL−6及びIL−17Aの発現は、Reg−DCsCBA投与したマウスとPBS投与したマウスの間で有意な差は見られなかった(図7B)。しかし、Reg−DCsCBAを投与したマウスのMLN細胞のIL−6産生は、PBSを投与したマウスのMLN細胞と比較して有意に低かった(図7C)。更に、Reg−DCsCBAの投与は、腸炎マウスのMLNからのIFN−γ、TNF−α、及びMCP−1の産生を有意に減少させた(P<0.01)(図7C)。
【0066】
(実施例7)In vivoにおけるReg−DCsCBAによるFoxp3CD4CD25制御性T細胞及びIL−10産生CD4CD25T細胞の誘導
Reg−DCsCBAがin vivoの末梢において、Foxp3CD4CD25T細胞からFoxp3CD4CD25制御性T細胞及びIL−10産生CD4CD25T細胞を誘導することができるかを調べるため以下の方法によりFoxp3CD4CD25制御性T細胞及びIL−10産生CD4CD25T細胞の数を測定した。
【0067】
(1)マウス及びMLNの調製
実施例4と同様にして作製したCD4CD25T細胞を移植した、Reg−DCsCBA投与マウス及びPBS投与マウスより、CD4CD25T細胞の移植から1、3及び5週間後にMLNを採取し、25ng/mLのPMA(シグマケミカル社)及び1μg/mLのイオノマイシン(シグマケミカル社)の存在下、200μLのRPMI1640培地中で72時間培養した。
【0068】
(2)Foxp3CD4CD25制御性T細胞測定
MLNにおけるFoxp3CD4CD25制御性T細胞の割合を調べるため、CD4CD25T細胞の移植から1、3及び5週間後にMLNを採取し、25ng/mLのPMA(シグマケミカル社)及び1μg/mLのイオノマイシン(シグマケミカル社)の存在下、200μLのRPMI1640培地中、U底96穴プレートで72時間培養した。その後、PEラベル抗Foxp3モノクローナル抗体、APCラベル抗CD25モノクローナル抗体、及びPerCPラベル抗CD4モノクローナル抗体を用いて、製造者の推奨する方法に従って、培養細胞を染色した。蛍光染色は、フローサイトメトリーにより分析した。
【0069】
(3)IL−10産生CD4CD25制御性T細胞測定
MLNにおけるIL−10産生CD4CD25T細胞の割合を調べるため、CD4CD25T細胞の移植から2、4、7及び14日後にMLNを採取し、25ng/mLのPMA(シグマケミカル社)及び1μg/mLのイオノマイシン(シグマケミカル社)の存在下、200μLのRPMI1640培地中、U底96穴プレートで24時間培養した。最後の3時間はGolgiStop(BD Pharmingen社)を添加した。その後、細胞をPerCPラベル抗CD4モノクローナル抗体及びAPCラベル抗CD25モノクローナル抗体と共に室温、暗室で15分間静置し、FIX&PERMキット(Caltag Laboratories、バーリンゲーム、カリフォルニア州、米国)を用いて、固定化し、透過処理した。細胞は、PEラベルラット抗マウスIL−10モノクローナル抗体(クローンJES5−16E3、D Pharmingen社)を用いて、室温で20分間染色した。蛍光染色は、フローサイトメトリーにより分析した。
【0070】
(4)結果
結果を図8に示す。フローサイトメトリーの結果から、CD4CD25T細胞の移植から7日後において、MLNにおけるFoxp3CD4CD25制御性T細胞及びIL−10産生CD4CD25T細胞の割合は、PBSを投与されたマウスと比較してReg−DCsCBAを投与されたマウスにおいて有意に高いことが示された。
【0071】
(実施例8)CBAのプロテオーム解析
(1)CBAの調製
CBAは、実施例4に記載の方法に従って調製した。
(2)2Dゲル電気泳動及びイメージング
等電点電気泳動前に、CBAサンプルに対して2−Dクリーンアップキット(GEヘルスケアバイオサイエンス社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、米国)を使用した。得られたペレットを溶解緩衝液(30mM Tris−HCl、pH8.5、7M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS、及びPlusOneプロテアーゼインヒビターミックス)に再懸濁させた。膨潤緩衝液(7M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS、0.5% IPG緩衝液 pH3−10、及び1%DTT)にサンプルを溶解させ、20℃で10時間、pH3−10、24cmのImmobiline DryStrip(GEヘルスケアバイオサイエンス社)中に膨潤させた。等電点電気泳動は、IPGphor IIを用いて、20℃で、トータルで45kVh行った。その後、IPGゲルを50mM Tris−HCl、pH8.8、6M尿素、30%グリセロール、2%SDS、0.002%ブロモフェノールブルー、0.5%DTTで15分間平衡化させた。その後、50mM Tris−HCl、pH8.8、6M尿素、30%グリセロール、2%SDS、0.002%ブロモフェノールブルー、4.5%ヨードアセトアミド含有緩衝液中で15分間アルキル化させた。その後すぐストリップを12.5%のSDS−PAGEゲルにアプライし、EttanDALTsix電気泳動システム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)中、2W、30℃の条件で16時間泳動した。ゲル染色は、Deep Purple Total Protein Stain(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて、一般的なプロトコールに従って行った。染色後、Ettan DIGE Imager(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いてゲルをスキャンし、ImageMaster 2D Platinum(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて画像を分析した。スポットはその相対体積を基準として定量した(全てのゲルスポット総体積で割ったスポット体積)。
【0072】
(3)マススペクトル
タンパク質スポットをゲルから切り出し、洗浄後、ブタ由来のトリプシンプロテアーゼによりゲル内で消化した。トリプシンペプチドは、超音波処理により抽出した。ナノLC−AccuSpot(島津製作所、京都、日本)を用いて、HPLC及びMALDIのサンプルの調製、並びにμFOCUS MALDIプレート(島津製作所)上へのスポッティングを行った。タンデム型TOF/TOFマススペクトルは、Axima−TOFマススペクトルメータ(島津製作所)を用いて行った。タンパク質は、MASCOT MS/MSイオンサーチエンジン(Matrix Science社、ロンドン、イギリス)及び国立生物工学情報センタータンパク質データベースを用いて同定した。
(4)結果
結果を図9に示す。3回個別の実験において全て同様の結果が得られた。2D DIGEイメージによるプロテオーム解析の結果から、スポットマップ上に14個のメインスポットが示された(図9A)。これらのスポットをゲルから切り出し、マススペクトルにかけデータベースで照会した結果を表1に示す。プロテオーム解析の結果、マウスCA IがCBAの主要なタンパク質抗原であることが明らかとなった。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例9)大腸におけるCA I発現
CD4CD25T細胞を投与していないSCIDマウス、実施例4に記載の方法に準じてCD4CD25T細胞により腸炎を発症したSCIDマウス、及び、CD4CD25T細胞及び、Reg−DCsCBAを投与したSCIDマウスの大腸におけるCA I発現を免疫組織化学染色により調べた。
(1)免疫組織化学染色
大腸の5μmの凍結組織切片をアセトンで固定した。1%過酸化水素を含むメタノールで20分間処理後、0.1%Tween−20を含むPBSで10分間処理することにより内因性ペルオキシダーゼ活性を不活化させた。内因性アビジン/ビオチンブロッキングキット(株式会社ニチレイ、東京、日本)で不活化した切片をウサギ血清(株式会社ニチレイ)で前処理し、1:50希釈ビオチン化ヤギ抗ヒトCA I抗体(ロックランド社、フィラデルフィア、ペンシルバニア、米国)の存在下4℃で一晩静置した。その後、切片を西洋ワサビ融合ストレプトアビジン(株式会社ニチレイ)で処理し、シンプルステインDAB溶液(株式会社ニチレイ)と共に静置した。最後に、切片をヘマトキシリンで対比染色し、乾燥させ、標本とした。
【0075】
(2)結果
結果を図10に示す。CD4CD25T細胞のみ投与されたSCIDマウスの大腸では、CD4CD25T細胞を投与されていないSCIDマウス又はCD4CD25T細胞及びReg−DCsCBAを投与されたSCIDマウスの大腸と比較して、CA I発現が顕著に減少していた。
【0076】
(実施例10)CA Iパルス制御性樹状細胞による大腸炎治療効果
CA Iでパルスした制御性樹状細胞がCD4CD25T細胞移入炎症性腸疾患モデルマウスの腸炎を改善するか否かを調べるため、CD4CD25T細胞投与マウスにCA Iでパルスした制御性樹状細胞を投与し、その効果を調べた。
(1)マウスCA Iの調製
マウスCA Iは、LPS混入のリスクが無いため、小麦胚芽リボソームRNAを用いたセルフリータンパク質合成システムに従って調製した(Madin Kら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:559−64)。発現プラスミド(pEU−mCA1−His)は、以下の手順に従って調製した。マウスCA1遺伝子は、各0.3μMの以下のプライマーmCA1F及びmCA1Rを用いて、KOD−Plus−Ver.2キット(東洋紡株式会社、大阪、日本)により増幅させた。
mCA1F:5’−AATAAGATATCATGGCAAGTGCAGACTGG−3’(配列番号6)
mCA1R:5’−TGCTGGACTAGTAAATGAGGCTCTGACTGTTC−3’(配列番号7)
CA Iは、Robotic Protein Synthesizer(登録商標) DT(株式会社セルフリーサイエンス、松山、日本)を用いて、製造者のプロトコールに従って以前報告されている通りに合成した(Sawasaki Tら(2002)FEBS Lett.,514:102−5)。合成したHis融合CA Iは、Niセファロースハイパフォーマンス(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて精製した。AcTEV(登録商標)プロテアーゼ(invitrogen社)を用いて融合タンパク質からHisタグを除去し、Mini Dialysisキット(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いてPBSに対して透析した。
また、CA Iの遺伝子配列を組み込んでいないempty plasmidを用いて上記CA Iの調製と同様にセルフリータンパク質合成システムに従って作成したものをCA I−controlとした。
【0077】
(2)制御性樹状細胞の調製とパルス
制御性樹状細胞は、実施例1に記載の方法に準じて調製した。調製した制御性樹状細胞を6μg/mLのCA I又はCA I−controlで24時間パルスし、それぞれ、CA Iパルス制御性樹状細胞(Reg−DCsCA1)又はCA I−controlパルス制御性樹状細胞(Reg−DCsCA1−control)を生成した。
【0078】
(3)腸炎モデルの作成及び樹状細胞による治療
腸炎モデルは、実施例4に記載の方法に従って作成した。BALB/cマウスから得たCD4CD25T細胞を、3×10細胞/マウス腹腔内投与しC.B−17SCIDマウスに移植した。移植日を0日目とした。CD4CD25T細胞を投与されていないC.B−17マウスをControl群(n=5)とした。0日目にCD4CD25T細胞と共に、BALB/cマウスから得た、Reg−DCsCBA(n=7)、Reg−DCsCA1−control(n=8)、又はReg−DCsCA1(n=10)を、それぞれ1×10細胞/マウスとなるように、腹腔内投与した。樹状細胞の代わりにPBSを投与したマウスをPBS群(n=13)とした。マウスの体重を毎週測定した。細胞移植の4週間後に安楽死させたマウスから採取した大腸の長さを測定した。
【0079】
(4)大腸炎の組織学的評価
大腸は、細胞移植の4週間後に安楽死させたマウスから採取した。横行結腸を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。組織薄片をH&E又はPASで染色した。組織切片中の炎症の程度は、実施例4に記載の方法に従って評価した。
【0080】
(5)大腸における炎症性サイトカインのmRNA発現測定
大腸のIL−17、IL−10、及びTGF−βのmRNAの発現を、実施例5に記載の方法に従って測定した。
【0081】
(6)MLNにおける転写因子及び炎症性サイトカインのmRNA発現
MLNのIL−17、IL−10、TGF−β、Foxp3、及びRORγTのmRNAの発現は実施例6に記載の方法に従って測定した。
【0082】
(7)Ex Vivo培養大腸の炎症性サイトカイン産生量の測定
大腸培養上清中のIL−6、IL−17、TNF−α、及びIFN−γは、実施例5に記載の方法に従って測定した。
【0083】
(8)MLN細胞の炎症性サイトカイン産生量の測定
MLN細胞の培養上清中のIL−6、IL−17、TNF−α、IFN−γ、及びMCP−1は、実施例6に記載の方法に従って測定した。
【0084】
(9)結果を図11に示す。移植の4週間後、Reg−DCsCA1を投与されたマウスの体重は、PBSを投与されたマウスと比較して有意に増加していた(P=0.006)(図11A)。移植4週間後の肉眼的所見では、PBSを投与されたマウスと比較して、Reg−DCsCA1を投与されたマウスの大腸長は有意に長かった(P<0.0001)(図11B)。組織学的スコアでは、Reg−DCsCA1を投与されたマウスでは、PBSを投与されたマウスと比較して有意に低いスコアを示した(図11C)。
mRNA発現測定の結果、Reg−DCsCA1を投与されたマウスの大腸及びMLNにおいて、IL−17Aの発現は減少しており、一方でIL−10及びTGF−βの発現は上昇していた(P<0.05)(図11D図11E)。また、MLNにおいて、Reg−DCsCA1を投与されたマウスは、PBSを投与されたマウスと比較して、Foxp3の発現が有意に上昇していた(P<0.05)(図11E)。RORγTmRNAの発現は、Reg−DCsCA1を投与されたマウスにおいて、PBSを投与されたマウスと比較して低下していた(P<0.05)(図11E)。
大腸の培養上清を解析したところ、Reg−DCsCA1を投与されたマウスの大腸において、IL−17、IFN−γ及びTNF−αの産生がPBSを投与されたマウスと比べて有意に低かった(P<0.05)(図11F)。また、Reg−DCsCA1を投与することで、腸炎マウスのMLN細胞のIL−6、IL−17、TNF−α、IFN−γ、及びMCP−1の産生は顕著に減少した(P<0.01)(図11G)。
【0085】
(実施例11)
(1)マウスCA Iの調製
マウスCA IのcDNA(以下、mCA1という)を以下のプライマーを用いて増幅させた。
フォワード:ATGGCAAGTGCAGACTGGGGA(配列番号8)
リバース :CCTTGCGGATCCTCAAAATGAGGCTCTGACTG(配列番号9)
増幅させたDNAは、PshAI及びBamHIサイトでプラスミドpET45b(Merck KGaA社,ダルムシュタット,ドイツ)に挿入し、N末端に6個のHisからなるタグを有するmCA1を発現するpET−mCA1−His6コンストラクトを構築した。構築したコンストラクトは、サイクルシークエンス法により確認した。His−CA1を大腸菌BL21(DE3)で発現させ、金属(Ni2+)アフィニティクロマトグラフィにより精製後、PBS中で透析することによりイミダゾールを除去した。EndTrap(登録商標)redカラム(Hyglos GmbH、レーゲンスブルク、ドイツ)を用いてエンドトキシンを除去した。SDS−PAGEの後、ゲルをDeep Purple Total Protein Stain(GE Healthcare)で染色した。ゲルイメージをImageQuant TL(GE Healthcare)で分析し、タンパク質の純度を計算した。空のプラスミドpET45bを用いてmCA1と同様に調節したコントロールタンパク質をCAI−controlとした。
【0086】
(2)抗原及び投与レジメン
CD4CD25T細胞移入腸炎モデルにおいて、mCA1の経口投与が腸炎を改善するか否かを評価するため、過去の報告(Faria AM,et al.、J Autoimmun 2003:20:135−45)に従い、C.B−17 SCIDマウス(日本クレア株式会社)に飲料水として0.6%mCA1溶液を5日間(第−7日目から第−2日目まで)連日投与した。個別にケージに入れたマウスは、4.5±0.5mL/日のmCA1溶液を摂取し、一群のマウスの平均消費量は5.0±0.5mL/日であった。一日当りのmCA1投与量の合計は、平均消費量(5mL/日)を基礎として計算した。PBS中のmCA1を含むボトルはコンタミネーションを避けるため一日に二回交換した。連続的摂取は5日間継続した。コントロール群はPBS、又は、CAI−controlを5日間投与した。mCA1経口投与7日後(第0日目)に、CD4CD25T細胞(3×10細胞/マウス)をSCIDマウスに腹腔内投与した。
【0087】
(3)評価
マウスの体重測定、マウスから採取した大腸の長さの測定、大腸炎の組織学的評価、大腸における炎症性サイトカインのmRNA発現測定、MLNにおける転写因子及び炎症性サイトカインのmRNA発現、Ex Vivoで培養した大腸の炎症性サイトカイン産生量の測定、並びに、MLN細胞の炎症性サイトカイン産生量の測定を、実施例10と同様に行った。
【0088】
(4)結果
CA Iの経口投与はCD4CD25T細胞移入炎症性腸疾患モデルマウスの腸炎を改善した。移植の4週間後、mCA1を投与したマウスの体重は、PBSを投与したマウスと比較して有意に増加していた(P<0.05)(図12A)。また、移植の4週間後の肉眼的観察において、PBSを投与したマウスと比較して、mCA1を投与したマウスの大腸長は有意に長かった(P<0.001)(図12B)。組織学的スコアでは、mCA1を投与したマウスは、PBSを投与されたマウスと比較して有意に低いスコアを示した(P<0.05)(図12C)。
また、炎症性腸疾患モデルマウスの大腸におけるIL−10のmRNA発現は、PBSを投与したマウスと比較して、mCA1を投与したマウスにおいて有意に上昇していた(P<0.05)(図12D)。MLNにおけるIL−17及びRORγTmRNAの発現は、PBSを投与したマウスと比較して、mCA1を投与したマウスにおいて、有意に低下していた(P<0.05)(図12E)。
PBS又はmCA1を投与した炎症性腸疾患モデルマウスから採取した大腸切片及びMLNからのサイトカイン産生を測定した結果、大腸におけるIL−6とMCP−1の産生は、PBSで処理したマウスと比較して、mCA1を投与したマウスにおいて有意に低下していた(P<0.05)(図12F)。加えて、mCA1経口投与は、MLNによるIL−6、IL−17、MCP−1、及びTNFαの産生を著しく低下させ、IFNγの産生を上昇させた(P<0.05)(図12G)。
【0089】
以上の結果から、CBAでパルスした制御性樹状細胞がCD4CD25T細胞移入腸炎の進行を抑制すること、CBAの主要な抗原であるCA Iが制御性樹状細胞による大腸炎発症抑制に重要な役割を果たすこと、CA Iでパルスした制御性樹状細胞が、MLNにおいて、Foxp3制御性T細胞を誘導し、T−ヘルパー17細胞を減少させること、及び、CBAでパルスした制御性樹状細胞がin vivoにおいて、Foxp3CD4CD25T細胞及びIL−10産生CD4CD25T細胞を誘導することが示された。また、本実験の結果はReg−DCsCBAによる治療が、腸炎の臨床的及び病理組織学的な重症度を改善させることを示している。また、KLHではなくCBAでパルスした制御性樹状細胞のみが腸炎を抑制した。更に、CBAの主要タンパク質がCA Iであることが示された。これらの結果から、制御性樹状細胞は、抗原特異的に腸炎を抑制しており、CBA及びその主要抗原であるCA Iが炎症性腸疾患の主要な標的であることが示された。また、本実験において、CD4CD25T細胞移入腸炎で顕著に減少したCA Iの発現は、Reg−DCsCBAを投与することにより維持された。また、Reg−DCsCA1は、このマウスの腸炎モデルにおいて腸炎抑制効果を示した。これらの結果から、CA Iが炎症性腸疾患における特異的な抗原であることが示された。更に、本実験において、CA Iの経口投与は、前記の炎症性腸疾患モデルマウスにおいて腸炎抑制効果を示した。これらの結果から、CA Iが炎症性腸疾患における特異的な抗原であることが示された。
これらの結果から、CA Iでパルスした制御性樹状細胞はFoxp3CD4CD25T細胞及びTh17細胞のバランスをコントロールすることで、CD4CD25T細胞移入腸炎の進展を抑制することが明らかとなった。CA Iでパルスした制御性樹状細胞による細胞療法が炎症性腸疾患に対して新しい治療法となることが示唆された。また、CA Iが炎症性腸疾患の治療薬又は予防薬となることが示唆された。
図2
図4
図6
図7
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図12G
図1
図3
図5
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]