【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、有効量のアドレノメデュリン、その修飾体であってステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するもの、又はそれらの塩であってステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するものを患者に投与することにより、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患を予防又は治療する方法に関する。
また本発明は、有効量のアドレノメデュリン、その修飾体であって炎症を抑制する活性を有するもの、又はそれらの塩であって炎症を抑制する活性を有するものをステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な患者に投与することにより、炎症性腸疾患を予防又は治療する方法に関する。
1.患者
本発明の対象となる患者としては、例えば、炎症性腸疾患(本発明では類縁疾患を含む)に罹患している患者を挙げることができる。
更に以下の患者も本発明の対象となる患者として挙げることができる:
(I)炎症性腸疾患であって、ステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な患者;
(II)炎症性腸疾患患者であって、ステロイド抵抗性と判断された患者;又は
(III)炎症性腸疾患患者であって、ステロイド依存性と判断された患者。
本発明において特に対象とする患者はステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸管ベーチェット病など)に罹患している患者であり、最も対象としている患者はステロイド抵抗性又はステロイド依存性の潰瘍性大腸炎に罹患している患者である。また、ステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患に罹患している患者も本発明における対象患者とすることができる。ステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患の患者の例を挙げれば、これら製剤の投与が予防又は治療上許容されない患者(例えばステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の禁忌対象の患者、副作用あるいはそのリスクにより当該薬剤を投与することができない患者)、当該薬剤の投与による予防又は治療の効果が十分に期待できない患者、当該薬剤の投与による予防又は治療を希望しない患者などが挙げられる。なお、ステロイド製剤の使用が困難又は効果不十分な患者には、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患に罹患している患者が含まれる。
炎症性腸疾患に対しての予防又は治療の方法には、ステロイド投与、免疫抑制剤投与(生物学的製剤投与を含む)又は、手術があることを既に述べた。本発明の対象となる患者には、(IV)これら既存の予防又は治療の方法の実施が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患に罹患している患者も、さらに含まれる。
患者の種類としては、ヒトや他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、マントヒヒ、チンパンジーなど)を挙げることができる。本発明の好ましい対象患者はヒトである。
2.有効成分
本発明で用いられる有効成分は、アドレノメデュリン、その修飾体であってステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症(腸における炎症)を抑制する活性を有するもの、又はそれらの塩であってステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症(腸における炎症)を抑制する活性を有するものである。なお、対象患者がステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患に罹患している患者である場合には、有効成分はアドレノメデュリン、その修飾体であって炎症(腸における炎症)を抑制する活性を有するもの、又はそれらの塩であって炎症(腸における炎症)を抑制する活性を有するものであってもよい。
本発明で用いられるアドレノメデュリンは、ヒトや他の温血動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウスなど)に由来するものであってよい。アドレノメデュリンの修飾体であって炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するものも本発明において使用することができる。
本発明で用いられるアドレノメデュリン又はその修飾体としては、例えば:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド;
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、分子内の2個のCysがジスルフィド結合しているペプチド;
(iii)前記ジスルフィド結合が−CH
2−CH
2−結合に置換されている(ii)のペプチド;
(iv)(i)〜(iii)のいずれかのペプチドにおいて1若しくは複数個、例えば、1若しくは数個、具体的には1〜15個、好ましくは1〜12個、より好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、且つ炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するペプチド;
(v)C末端がアミド化されている(i)〜(iv)のいずれかのペプチド;及び
(vi)C末端にGlyが付加している(i)〜(iv)のいずれかのペプチド;
を挙げることができる。
前記(i)の「アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド」とは、アドレノメデュリンを構成するアミノ酸のみから構成され、分子内ジスルフィド結合やC末端アミドなどが形成されていないペプチドを意味する。
前記(i)〜(vi)のペプチドのうち、(v)に含まれる、アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、分子内の2個のCysがジスルフィド結合し、C末端がアミド化されているペプチドが本願発明におけるアドレノメデュリンであり、他のペプチドはアドレノメデュリンの修飾体と称すべきものである。
前記(iv)に属するペプチドとしては、例えば、アミノ酸配列におけるN末端側から1位〜15位、1位〜12位、1位〜10位、1位〜8位、1位〜5位、又は1位〜3位のアミノ酸が欠失したペプチドを挙げることができる。これらのペプチドにおいて更に1又は数個(例えば、1〜5個、1〜3個、1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、且つ炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するペプチドを本発明に使用することもできる。
「C末端のアミド化」とは、ペプチドの修飾反応の1つをいい、ペプチドのC末端アミノ酸のCOOH基が、CONH
2の形態になることをいう。生体内で作動する多くの生理活性ペプチドは、はじめに分子量のより大きな前駆体タンパク質として生合成され、これが細胞内移行の過程で、C末端アミド化のような修飾反応を受けて成熟する。アミド化は、C末端アミド化酵素が前駆体タンパク質に作用することによって行われる。前駆体タンパク質においては、アミド化される残基のC末端側には常にGly残基が存在し、さらにC末端側に、例えばLys−Arg或いはArg−Argなどの塩基性アミノ酸配列対が続いていることが多い(水野、生化学第61巻、第12号、1435〜1461頁(1989))。
ジスルフィド結合は、例えば、空気酸化又は適当な酸化剤を用いて酸化させることにより形成することができる。ジスルフィド結合の−CH
2−CH
2−結合への置換は、周知の方法(O.Kellerら、Helv.Chim.Acta(1974)57:1253)により行うことができる。一般に、ジスルフィド結合を−CH
2−CH
2−結合に置換することにより、ジスルフィド結合の開裂がなくなり、タンパク質が安定化する。
本発明で用いられるアドレノメデュリン又はその修飾体の具体的な例としては、例えば:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり16位のCysと21位のCysとがジスルフィド結合しているペプチド;
(b)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列からなり16位のCysと21位のCysとがジスルフィド結合しているペプチド;
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号5のアミノ酸配列からなり16位のCysと21位のCysとがジスルフィド結合しているペプチド;
(d)配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号7のアミノ酸配列からなり16位のCysと21位のCysとがジスルフィド結合しているペプチド;
(e)配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号9のアミノ酸配列からなり14位のCysと19位のCysとがジスルフィド結合しているペプチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号11のアミノ酸配列からなり14位のCysと19位のCysとがジスルフィド結合したペプチド;
(g)前記ジスルフィド結合が−CH
2−CH
2−結合に置換されている(a)〜(f)のいずれかのペプチド;
(h)(a)〜(g)のいずれかのペプチドにおいて1若しくは複数個、例えば、1若しくは数個、具体的には1〜15個、好ましくは1〜12個、より好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、且つ炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するペプチド;
(i)C末端がアミド化されている(a)〜(h)のいずれかのペプチド;及び
(j)C末端にGlyが付加している(a)〜(h)のいずれかのペプチド;
を挙げることができる。
前記(h)に属するペプチドとしては、例えば、配列番号1、3、5、7、9又は11のアミノ酸配列からなるペプチド(前記(a)〜(g)に示す分子内結合を有するものであってもよい)から1位〜15位、1位〜12位、1位〜10位、1位〜8位、1位〜5位、又は1位〜3位のアミノ酸が欠失したペプチドが挙げられる。なかでも、配列番号1、3、5及び7のアミノ酸配列からなるペプチド(前記分子内結合を有するものであってもよい)から1位〜12位のアミノ酸が欠失したペプチド、並びに、配列番号9及び11のアミノ酸配列からなるペプチド(前記分子内結合を有するものであってもよい)から1位〜10位のアミノ酸が欠失したペプチドが好ましい。これらのペプチドにおいて更に1又は数個(例えば、1〜5個、1〜3個、1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、且つ炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するペプチドを本発明に使用することもできる。
本発明に使用できる前記以外のアドレノメデュリン修飾体としては、例えば前記(a)〜(j)のペプチドを構成するアミノ酸残基の一部がアミド化又はエステル化されているものであって炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するものが挙げられる。エステルとしては、例えば(a)〜(h)又は(j)のペプチドにおいてC末端のカルボキシル基がエステル化されたものなどが挙げられる。
アドレノメデュリン又はその修飾体は、生体内での代謝によりアドレノメデュリン又はその修飾体に変換される前駆体やプロドラッグ化合物として提供されてもよい。また、水和物や溶媒和物として提供されてもよい。このような形態もまた本発明の範囲に包含される。前駆体の一例としては、配列番号2の核酸配列にコードされる第1番〜第185番のアミノ配列又はその部分配列であって第95番〜第146番のアミノ酸を含むものからなるペプチドが挙げられる。前記(j)に記載のペプチドは投与後に生体内でそのC末端がアミド化されて成熟ペプチドに変換されると考えられることから、当該ペプチドもアドレノメデュリン又はその修飾体の前駆体に含まれ得る。
アドレノメデュリン又はその修飾体の塩であって炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するものも本発明に使用することができる。前記塩としては、例えば塩基(例えばアルカリ金属など)や酸(有機酸、無機酸)との薬学的に許容される塩であれば如何なるものであってもよいが、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩などの無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、グリコール酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、メチルマレイン酸塩、フマル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、ケイ皮酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、2−アセトキシ安息香酸塩、ニコチン酸塩、イソニコチン酸塩などの有機酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩などのスルホン酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
アドレノメデュリン又はその修飾体は、ヒトや温血動物の組織又は細胞からペプチドを精製する方法によって製造することもできるし、通常のペプチド合成法に準じて製造することもできる。また、アドレノメデュリンをコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによって製造することもできる。
本発明においては、アドレノメデュリンはアドレノメデュリンをコードする遺伝子配列を含む核酸分子(例えば、DNA又はRNA)として提供されてもよい。すなわち本発明に係る方法にはいわゆる遺伝子治療も包含される。アドレノメデュリンをコードするDNAとしては例えば、I)配列番号2,4,6,8,10又は12の塩基配列を含有するDNA、或いは配列番号2,4,6,8,10又は12の塩基配列のうちアドレノメデュリンをコードする領域を一部に含む部分配列を含有するDNA、II)配列番号2,4,6,8,10又は12の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNA、或いは配列番号2,4,6,8,10又は12の塩基配列のうちアドレノメデュリンをコードする領域を一部に含む部分配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする哺乳動物由来のDNAであって炎症を抑制する活性又はステロイド抵抗性若しくはステロイド依存性の炎症を抑制する活性を有するペプチド又はその前駆体をコードするDNA、III)遺伝コードの縮重のためI)及びII)に定められている配列とハイブリッド形成しないが、同一アミノ酸配列をもつペプチドをコードするDNAなどが用いられる。ハイブリダイゼーションは公知の方法或いはそれに準じた方法に従って行うことができる。前記ストリンジェントな条件としては、例えば42℃、50%ホルムアミド、4×SSPE(1×SSPE=150mM NaCl, 10mM NaH
2PO
4・H
2O, 1mM EDTA pH7.4)、5×デンハート溶液、0.1%SDSである。
前記「配列番号2,4,6,8,10又は12の塩基配列のうちアドレノメデュリンをコードする領域を一部に含む部分配列」について一例を挙げて説明する。配列番号2では第439番のTから第594番のCまでの領域がアドレノメデュリンをコードすることから、この領域を含む配列番号2の部分配列、例えば第157番のAから第711番のTまでの塩基配列を本発明に使用することができる。
前記のI)〜III)に示すDNAからなる遺伝子が生体内で転写・翻訳されると、通常はアドレノメデュリンよりも大きな分子量を有する前駆体タンパク質が生じ、これが細胞内移行の過程でC末端アミド化のような修飾反応を受けて活性を有するアドレノメデュリンへと成熟する。
3.医薬組成物
本発明において、アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩は単独で使用してもよく、また、医薬組成物として使用してもよい。医薬組成物は、アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩と、薬学的に許容し得る担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとを含むことができる。また、医薬組成物は他の有用な成分を含むこともできる。
アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩は、必要に応じて糖衣や溶解性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして使用することができる。また、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液に溶解又は懸濁させた注射剤として使用することもできる。また、局所へ直接投与することも可能である。
錠剤、カプセル剤などに加えることができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムなどの結合剤、結晶性セルロースなどの賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などの膨化剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、ショ糖、乳糖、サッカリンなどの甘味剤、ペパーミント、アカモノ油、チェリーなどの香味剤などが挙げられる。カプセル剤の場合には、前記材料に加えて油脂などの液状担体を含有させることができる。
注射剤は注射用水などのベヒクル中に有効成分を溶解又は懸濁させることにより調製することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、又はブドウ糖やその他の補助薬(D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液などが挙げられる。溶解補助剤として、例えば、アルコール(エタノールなど)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO−50など)などを加えてもよい。注射用の油性液としては、例えば、胡麻油、大豆油などが挙げられる。溶解補助剤として、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを加えてもよい。また、緩衝剤(リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などを加えてもよい。調製された注射剤は通常、適当なアンプルに充填される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えばヒトや哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、マントヒヒ、チンパンジーなど)に対して投与することができる。
本発明のアドレノメデュリン、その修飾体もしくはそれらの塩、又はそれらを有効成分とする医薬組成物は、炎症性腸疾患の予防又は治療のために、単独で投与することもできるし、対象とする患者によってはステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤と併用して投与することもできる。ステロイド製剤や免疫抑制剤は炎症抑制作用を主とするが、本発明に係るアドレノメデュリン、その修飾体もしくはそれらの塩、又はそれらを有効成分とする医薬組成物は炎症抑制作用と著しい粘膜修復作用を発揮するため、高い予防又は治療の効果が得られる。
また、対象とする患者によってはアミノサリチル酸製剤と併用して投与することもできる。
4.用法用量
本発明において、アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩は患者に対して有効量で投与される。「有効量」とは、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患に罹患している患者に対しては、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患を予防又は治療することができる任意の量を意味する。一方、ステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患に罹患している患者に対しては、炎症性腸疾患を予防又は治療することができる任意の量を意味する。
いずれの患者にも、好ましくは、アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩は循環動態に大きく影響しない量(影響がほとんど無い、あるいは影響が許容される程度の量)で投与される。循環動態への影響は、典型的にはふらつき等の自覚症状や血圧により把握することができる。
「予防」とは、疾患の発症を防止することを意味する。「治療」とは、発症した疾患の進行を抑制すること、発症した疾患を軽快させること、及び発症した疾患を治癒することを意味する。
アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩の投与経路は特に限定されず、経口的又は非経口的に投与することができる。特に、静脈投与、注腸投与、皮下投与、筋肉内投与、および腹腔内投与することが好ましく、所定の時間持続的に静脈投与することが特に好ましい。
静脈投与の速度は、例えば、約0.1〜150pmol/kg体重/minの速度、約0.5〜50pmol/kg体重/minの速度、又は約0.7〜10pmol/kg体重/minの速度で行うことができる。アドレノメデュリン、その修飾体又はそれらの塩の投与による循環動態への影響(例えば、血圧低下)を回避もしくは軽減するためには、約1.0〜2.0pmol/kg体重/minの速度で行うことが好ましく、約1.5pmol/kg体重/minの速度で行うことが特に好ましい。
投与時間は、例えば、1日当たり約1〜24時間とすることができる。患者への負担軽減のため、1日当たり約6〜10時間とすることが好ましく、約7〜9時間とすることがより好ましく、約8時間とすることが特に好ましい。また、患者への負担軽減のため、投与は日中のみに行うことが好ましい。
投与期間は、例えば、約1ヶ月とすることができる。患者への負担軽減のため、約7〜21日とすることが好ましく、約14日とすることが特に好ましい。
好ましい用法用量は人種、性別、年齢、体重などの様々な因子によって変化する。当業者は様々な因子を考慮し、最適な用法用量を設定することが可能である。
アドレノメデュリンをコードする遺伝子(通常はDNA)はいわゆる遺伝子治療の手法により投与することが可能である。例えばアドレノメデュリンをコードするDNAは、i)アドレノメデュリンをコードするDNAを患者に投与し発現させることによって、或いはii)細胞などにアドレノメデュリンをコードするDNAを挿入し発現させた後に、該細胞を患者に移植することなどによって、患者の細胞におけるアドレノメデュリンの量を増加させ、アドレノメデュリンの作用を充分に発揮させることができる。アドレノメデュリンをコードするDNAの投与は、該DNAを単独又はプラスミドベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って実施することができる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが本発明は下記実施例のみには限定されない。
1.試験薬の同定
a)被験薬
一般名:合成ヒトアドレノメデュリン(配列番号1のアミノ酸配列からなり、16位のCysと21位のCysとがジスルフィド結合し、C末端がアミド化されているペプチド)
剤形:合成ヒトアドレノメデュリン250μgを3.75%マンニトール溶液2.5mlに溶解し、バイアルに封入。
貯蔵:遮光し、−30℃に保存。
b)製造方法
合成ヒトアドレノメデュリンは、株式会社ペプチド研究所で医薬品製造と同等の基準(Good Manufacturing Practice:GMP)にて合成されたものを原末として購入する。宮崎大学医学部附属病院薬剤部でその純度を確認し、必要な場合はさらに再精製の過程を加える。同薬剤部にて、アドレノメデュリンを秤量後に3.75%マンニトールにて溶解し、滅菌フィルターにて無菌化した後、アンプルに封入する。肉眼による異物検査を行い、−30℃にて凍結保存する。
c)調剤方法
使用直前に、凍結被験薬を室温にて融解した後、使用量を総量40mlの生理的食塩水に希釈して調製する。
2.試験薬の純度
ヒトアドレノメデュリンは99.4%程度の純度で合成されている。
3.投与量の設定(日本人を対象)
正常人を含む28名の対象者に対して90分間のアドレノメデュリン持続静注の安全性を確認した。その後、12名の対象者に対し27時間のアドレノメデュリン持続静注試験を実施したが、特に有害な事象は認められなかった。ただし、27時間持続投与試験で使用したアドレノメデュリン2.5pmol/kg体重/minの投与量では20mmHgを超える血圧低下が認められたため、より高い安全性を考慮して投与量を減量(1.5pmol/kg体重/min)する方針とした。また、各種疾患モデル動物にたいして1ヶ月間のアドレノメデュリンの連続静注試験を実施し、その安全性と有効性が確認されている。本実施例においては、上記動物試験期間の2週間を持続投与期間と設定した。
大腸炎モデルへのアドレノメデュリン投与実験において、Gonzalezらはアドレノメデュリン12μg/kg体重の腹腔内投与、Taleroは100ng/kg体重の腹腔内投与の有効性を示している。我々が行った大腸人工潰瘍モデルへの注腸投与での検討では5.0μg/kg体重での効果が最も高く、またDSS腸炎(びまん性大腸炎)モデルでも2.5μg/kg体重で高い効果が認められている。
炎症性腸疾患モデルを用いた動物実験において、アドレノメデュリン投与量と抗炎症・粘膜修復効果は反釣鐘型を示し、最も効果の高い投与量(至適アドレノメデュリン量)は低用量であり、このとき血圧低下を来たさない事が判明している。すなわち、アドレノメデュリン投与は循環動態に大きく影響しない程度の低用量を用いることが望ましく、高用量ではかえって悪くなる。
腹腔内投与と注腸投与では投与経路による用量差が認められる。そこで、腹腔内投与量のデータを勘案し、今回は血圧低下が最小限で有効性が期待できる量として、1.5pmol/kg体重/min(9ng/kg体重/min,4.3μg/kg体重/day)を設定した。また、患者への負担軽減のため、投与は日中のみとした。
4.患者
患者:60歳代女性(糖尿病を罹患、結核既往の疑い)
主訴:血便
病歴:2007年に潰瘍性大腸炎を発症した。2008年4月の増悪時にステロイド療法が開始されたが、ステロイド依存性及びステロイド抵抗性を示した。2009年4月にステロイド強力静注療法+白血球除去療法にて寛解導入が得られた。その後、ステロイドの減量を試みたが難渋し、免疫抑制剤(イムラン(登録商標)、一般名:アザチオプリン)を併用した。(当該免疫抑制剤は、ステロイド依存性のクローン病の緩解導入及び緩解維持並びにステロイド依存性の潰瘍性大腸炎の緩解維持に用いられる医薬品として承認された医薬品である。)しかし、効果が不十分で、その後に症状増悪傾向となった。2010年6月に再度ステロイド強力静注療法+白血球除去療法を実施したが、寛解導入は得られなかった。患者の状態(高齢、糖尿病、結核既往の疑い)を考慮すると、免疫抑制剤や生物学的製剤の使用は避けるべきと判断される。
5.投与方法
患者の末梢静脈ラインを確保し、アドレノメデュリン1.5pmol/kg体重/minを8時間/日(午前9時〜午後5時)の投与スケジュールにより最大14日間投与する。血圧、脈拍数を持続モニターし、投与開始時の血圧より20mmHg以上の血圧低下がみられた場合や、有害な自覚症状がみられた場合、その日の投与はその時点で中止する。血圧低下や自覚症状が繰り返される場合は投与量を減量し継続を試みるが、それでも問題がある場合や、効果が期待できないなど投与継続が難しいと判断した場合、投与期間を短縮する。
6.評価項目
典型的には、自覚症状、内視鏡所見による重症度評価、又は内視鏡もしくは生検による病理学的評価が用いられる。
1)自覚症状及びQOLの改善度(Visual analog scale:VAS,IBDQ)
2)身体所見の変化(結膜充血など)
3)血圧、脈拍、経皮酸素分圧
4)心電図
5)血液検査(血算、生化学、各種サイトカイン
*、アドレノメデュリン血中濃度
*)
6)臨床重症度評価(DAIスコア又はIOIBDスコア)
7)大腸内視鏡所見による重症度評価(アドレノメデュリン投与前、投与開始後1週間目)
8)大腸内視鏡、生検による病理学的評価(アドレノメデュリン投与前、投与開始後1週間目)
9)大腸癌スクリーニング(アドレノメデュリン投与前)
ここで、6)臨床重症度評価で用いられるDAIスコア(Disease activity index score)は、下記(a)〜(d)に示す各評価項目のスコア合計により算出される。
(a)排便回数
0;通常、1;通常より1〜2回多い、2;通常より3〜4回多い、3;通常より5回以上多い
(b)血便
0;なし、1;わずか、2;明らか、3;血液のみ
(c)内視鏡所見
0;正常、1;軽症、2;中等症(易出血)、3;重症(自然出血)
(d)医師の全般的評価
0;正常、1;軽症、2;中等症、3;重症
7.結果
アドレノメデュリン14日間持続投与後の大腸内視鏡所見(
図4)により、深掘れ潰瘍の潰瘍底に著しい再生上皮増生、浅く広い潰瘍の瘢痕化が確認され、アドレノメデュリン投与による寛解が確認された。通常治療での粘膜治癒と比較し、顕著な粘膜再生効果を確認した。なお期間中、副作用と考えられる症状などは認められず、循環動態への影響も十分に許容できうる範囲であった(血圧低下:10mmHg以下)。
投与直後のアドレノメデュリン血中濃度変動は、炎症による変動よりも小さい程度であり、極少量の投与で効果を発揮することは薬剤として有利である。
アドレノメデュリン投与により寛解が確認されたため、以後は継続治療としてアザチオプリンを50mg/日投与し、寛解維持を図った。アドレノメデュリン投与後3ヶ月経過後の大腸内視鏡所見(
図6)により、寛解が維持されていることが確認された。また、投与後12ヶ月経過後の大腸内視鏡所見により、寛解が維持されていることが確認された。
この患者のほか、30歳代〜60歳代の患者に対して、上記「5.投与方法」に記載された投与方法でアドレノメデュリンを投与した。上記「4.患者」に記載した患者も含め、全投与例を表1に示す。
【表1】
治療効果をDAIにより表2に示す(表中*は、p<0.05を表す)。アドレノメデュリン投与14日間経過時点におけるDAI改善は、4ポイント以上が4例、DAI改善1〜3ポイントが2例であった。このように、アドレノメデュリン投与の全症例で治療効果が確認された。また全症例で、
図4〜6の場合と同様に、患部での顕著な粘膜再生が確認され、投与後も寛解が維持されている。
【表2】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]