【文献】
大高洋一,内田勝久,清酒成分の研究(第7報)アセチルアグマチン(新物質)及びエタノールアミンの確認,日本農芸化学会誌,日本,1959年,vol.33/No.8,pp.679-681
【文献】
吉沢淑 他,市販熟成酒の特徴と主要香気成分,JOURNAL OF THE BREWING SOCIETY OF JAPAN,日本,1994年,Vol.89/No.6,pp.481-488
【文献】
ATSUKO ISOGAI et al.,Screening and Identification of Precursor Compounds of Dimethyl Trisulfide (DMTS) in Japanese Sake,Journal of Agricultural and Food Chemistry,米国,American Chemical Society,2008年12月17日,Vol.57/No.1,pp.189-195
【文献】
Olivier Mandin et al.,Volatile Compounds from Potato-like Model Systems,Jounal of Agricultural and Food Chemistry,米国,American Chemical Society,1999年 5月11日,Vol.47/No.6,pp.2355-2359
【文献】
Hsi-Wen Chin and Robert C. Lindsay,Mechanisms of Formation of Volatile Sulfur Compounds following the Action of Cysteine Sulfoxide Lyases,Journal of Agricultural and Food Chemistry,米国,American Chemical Society,1994年 7月 1日,Vol.42/No.7,pp.1529-1536
【文献】
磯谷敦子,清酒の老香成分ジメチルトリスルフィド(DMTS)前駆物質の探索および同定,日本電子News,日本,2009年,Vol.41,pp.28-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記DMTS発生の予測工程において、前記清酒におけるDMTSの発生量を予測し、さらに、予測したDMTSの発生量から、前記清酒の劣化の程度を予測する工程を含む、請求項11記載の予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<DMTS発生の予測方法>
本発明のDMTS発生の予測方法は、前述のように、DMTS発生の原因物質が、アミン、硫黄含有化合物および糖であり、前記アミンが、エタノールアミン類、プトレシン、ヒスタミン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、スペルミジンおよびカダベリンからなる群から選択された少なくとも1つのアミンであり、サンプルについて、前記アミン、前記硫黄含有化合物および前記糖からなる群から選択された少なくとも一種類の原因物質の濃度を測定する測定工程と、前記測定工程で測定した前記原因物質の濃度から、DMTS発生を予測する予測工程とを含むことを特徴とする。本発明のDMTS発生の予測方法によれば、サンプルにおけるDMTS発生を簡便に予測できる。
【0013】
本発明のDMTS発生の予測方法は、前記測定工程および前記DMTS発生の予測工程を含むことを特徴とし、その他の工程は、何ら制限されない。前記硫黄含有化合物は、以下、「硫黄化合物」ともいう。
【0014】
本発明において、DMTSは、ジメチルトリスルフィドであり、下記化学式(1)で示される。
【0016】
本発明のDMTS発生の予測方法によれば、例えば、目的物を保存する際、前記目的物からサンプルを取得し、前記サンプルについて、前記アミン、前記硫黄化合物および前記糖の少なくとも一種類の濃度を測定することによって、前記サンプル取得時から所定期間を経過した前記目的物においてDMTSが発生するか否かを予測でき、また、発生するDMTSの発生量を予測できる。本発明によって予測されるDMTS発生の時期は、特に制限されず、例えば、サンプル取得時または保存開始時から3ヶ月、6ヶ月または12ヶ月を経過した時点である。また、本発明において、DMTS発生を予測する際、前記目的物の保存条件は、特に制限されず、例えば、−20〜60℃、1〜50℃または2〜40℃があげられる。具体例としては、例えば、前記目的物を、前記サンプル取得時から、−20〜60℃で3ヶ月保存した時点、1〜50℃で6ヶ月保存した時点、または、2〜40℃で12ヶ月保存した時点における、DMTS発生の予測があげられる。
【0017】
本発明において、サンプルは、特に制限されず、例えば、飲食品であり、固形または液体の食品、飲料等があげられる。前記飲食品は、特に制限されず、例えば、アルコール飲料(酒類)、清涼飲料水、乳酸菌飲料、牛乳等の乳製品飲料、スープ等の液体の食品、粉末状の清涼飲料剤等の固体の食品があげられる。前記アルコール飲料は、特に制限されず、例えば、清酒・合成清酒等の日本酒、ビール、焼酎、みりん、果実酒、甘味果実酒、ブランデー、スピリッツ、リキュール、その他の醸造酒もしくは雑酒、発泡酒等があげられる。
【0018】
本発明において、前記アミンは、前述のように、エタノールアミン類、プトレシン、ヒスタミン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、スペルミジンおよびカダベリンである。前記エタノールアミン類は、特に制限されず、例えば、エタノールアミン、ホスファチジルエタノールアミン、アシルホスファチジルエタノールアミン等、また、生物の細胞膜に存在する脂質におけるエタノールアミン類等があげられる。前記測定工程において、前記アミンの濃度を測定する場合、測定対象のアミンは、例えば、いずれか1種類のアミンでもよいし、いずれか2種類以上でもよいし、全てでもよい。前記測定対象のアミンは、中でも、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリン、スペルミジンが好ましい。
【0019】
前記測定工程において、2種類以上のアミンを測定する場合、例えば、各アミンを別個に測定もよいし、各アミンをまとめて測定してもよい。前者の場合、例えば、測定した各アミンの濃度の合計を、総濃度として次の予測工程に使用してもよく、後者の場合、まとめて測定したアミンの濃度を、そのまま総濃度として次の予測工程に使用してもよい。
【0020】
本発明において、前記硫黄化合物は、特に制限されず、例えば、含硫アミノ酸、含硫アミノ酸の生合成経路の代謝物、含硫アミノ酸の代謝物等があげられる。前記含硫アミノ酸は、特に制限されず、例えば、メチオニン、メチオニンスルホキシド、システイン、シスチン、シスタチオン、タウリン等があげられる。前記含硫アミノ酸の生合成経路の代謝物は特に制限されず、例えば、硫化物イオン等があげられる。前記含硫アミノ酸の代謝産物は、特に制限されず、例えば、ホモシステイン、グルタチオン、S−アデノシルメチオニン(SAM)、5−メチルアデノシン(MTA)等があげられる。前記測定工程において、前記硫黄化合物を測定する場合、測定対象の硫黄化合物は、例えば、いずれか1種類の硫黄化合物でもよいし、いずれか2種類以上でもよいし、全てでもよい。前記測定対象の硫黄化合物は、中でも、メチオニン、メチオニンスルホキシド、システイン、シスチン、シスタチオン等が好ましい。
【0021】
前記測定工程において、2種類以上の硫黄化合物を測定する場合、例えば、各硫黄化合物を別個に測定もよいし、各硫黄化合物をまとめて測定してもよい。前者の場合、例えば、測定した各硫黄化合物の濃度の合計を、総濃度として次の予測工程に使用してもよく、後者の場合、例えば、まとめて測定した硫黄化合物の濃度を、そのまま総濃度として次の予測工程に使用してもよい。
【0022】
本発明において、前記糖は、特に制限されず、例えば、単糖、二糖、三糖、四糖、オリゴ糖、デンプンの分解物に含まれる糖、分解できなかった多糖類、糖アルコール等があげられる。前記単糖は、特に制限されず、例えば、グルコース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フルクトース等があげられる。前記二糖は、特に制限されず、例えば、マルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等があげられる。前記三糖は、特に制限されず、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、イソパノース、ニゲロトリオース等があげられる。前記四糖は、特に制限されず、例えば、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、ニゲロテトラオース等があげられる。前記オリゴ糖としては、マルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖等があげられる。前記分解できなかった多糖類としては、デキストリン、デンプン、セルロース、食物繊維等があげられる。
【0023】
前記測定工程において、前記糖の濃度を測定する場合、測定対象の糖は、例えば、いずれか1種類の糖でもよいし、いずれか2種類以上でもよいし、全てでもよい。前記測定対象の糖は、中でも、グルコース、マルトース、マルトオリゴ糖、イソマルトース、イソマルトトリオース等が好ましい。また、前記測定工程において、2種類以上の糖を測定する場合、例えば、各糖を別個に測定もよいし、各糖をまとめて測定してもよい。前者の場合、例えば、測定した各糖の濃度の合計を、総濃度として次の予測工程に使用してもよく、後者の場合、例えば、まとめて測定した糖の合計濃度を、そのまま総濃度として次の予測工程に使用してもよい。
【0024】
前記アミン、前記硫黄化合物および前記糖の測定方法は、特に制限されず、それぞれ、公知の方法が採用できる。前記アミンの測定方法は、例えば、液体クロマトグラフ(例えば、LC/MS、LC/MS/MS等)、イオンクロマトグラフ、キャピラリー電気泳動、ガスクロマトグラフ(例えば、GC/MS等)、比色定量法、酵素法、薄層クロマトグラフ等を採用できる。具体例として、例えば、液体クロマトグラフとして、LC/MS/MS(装置名、LCMS―8040、島津製作所社製)を用いた方法があげられる。また、前記硫黄化合物の測定方法は、例えば、液体クロマトグラフ(例えば、LC/MS、LC/MS/MS等)、イオンクロマトグラフ、キャピラリー電気泳動、ガスクロマトグラフ(例えば、GC/MS等)、比色定量法、酵素法、薄層クロマトグラフ等を採用できる。具体例として、例えば、液体クロマトグラフとして、LC/MS/MS(装置名、LCMS―8040、島津製作所社製)を用いた方法があげられる。また、前記糖の測定方法は、例えば、液体クロマトグラフ(例えば、LC/MS、LC/MS/MS等)、ガスクロマトグラフ(例えば、GC/MS等)、薄層クロマトグラフ、フェノール硫酸法等の全糖定量法、ソモギ・ネルソン等の還元糖定量法、酵素法等を採用できる。具体例として、例えば、液体クロマトグラフとして、(例えば、LC20AD−CTO20AC−RID10A、島津製作所社製)を用いた方法等があげられる。
【0025】
本発明において、前記予測工程は、特に制限されず、例えば、前記測定工程で測定した前記原因物質の濃度から、DMTS発生の有無を予測してもよいし、前記測定工程で測定した前記原因物質の濃度から、DMTS発生の程度を予測してもよい。
【0026】
前者の場合、例えば、前記測定工程で測定した前記原因物質の濃度と、任意の基準値とを比較することにより、前記サンプルにおいて、DMTSが発生するか否か、または、DMTSが発生しやすいか否かを予測できる。前記任意の基準値は、例えば、前記アミンの濃度、前記硫黄化合物の濃度および前記糖の濃度のそれぞれについて設定できる。前記各濃度の任意の基準値は、例えば、DMTS濃度によって決定でき、具体例として、DMTS発生とみなすDMTS濃度の最小値を閾値として、前記閾値のDMTSを発生する前記アミンの濃度、前記硫黄化合物の濃度および前記糖の濃度を、前記基準値に設定できる。そして、例えば、測定した前記アミンの濃度が任意の基準値以上であり、測定した前記硫黄化合物の濃度が任意の基準値以上であり、且つ、測定した前記糖の濃度が任意の基準値を超える場合、前記サンプルは、DMTSが発生する、または、DMTSが発生しやすいと予測できる。他方、測定した前記アミンの濃度が任意の基準値未満、測定した前記硫黄化合物の濃度が任意の基準値未満、または、測定した前記糖の濃度が任意の基準値以下の場合、前記サンプルは、DMTSが発生しない、または、DMTSが発生しにくいと予測できる。
【0027】
後者の場合、前記測定工程で測定した前記原因物質の濃度が相対的に高い場合、例えば、前記サンプルにおけるDMTS発生の程度が相対的に高いと予測できる。他方、前記測定工程で測定した前記原因物質の濃度が相対的に低い場合、例えば、前記サンプルにおけるDMTS発生の程度が相対的に低い、または、前記サンプルはDMTSが発生しない、もしくは発生しにくいと予測できる。
【0028】
前記原因物質の濃度が相対的に高いまたは低いとは、例えば、任意の基準値に対して、高いまたは低いことを意味する。前記任意の基準値は、例えば、前記アミンの濃度、前記硫黄化合物の濃度および前記糖の濃度のそれぞれについて設定できる。前記各濃度の任意の基準値は、例えば、DMTS濃度によって決定できる。本発明において、例えば、前記所定期間経過後におけるDMTS発生が、許容濃度を超えるか否かを予測する場合、許容できるDMTS濃度の最大値を閾値として、前記閾値のDMTSを発生する前記アミンの濃度、前記硫黄化合物の濃度および前記糖の濃度を、前記基準値に設定できる。前記基準値に基づけば、例えば、測定した前記アミンの濃度、前記硫黄化合物の濃度および前記糖の濃度が、それぞれ前記基準値よりも高い場合(前記基準値を超える場合)、発生するDMTS濃度は閾値を超える、つまり、許容濃度を超えるDMTSが発生すると予測でき、測定した前記アミンの濃度、前記硫黄化合物の濃度および前記糖の濃度の少なくとも1つが前記基準値と同じまたは前記基準値よりも低い場合(前記基準値未満の場合)、発生するDMTS濃度は閾値以下である、つまり、発生するDMTSは許容濃度である、または、DMTSが発生しないと予測できる。
【0029】
前記許容できるDMTS濃度の最大値、すなわち閾値は、目的に応じて設定できる。具体例として、前記サンプルが清酒の場合、前記閾値は、例えば、0.001〜100μg/Lの範囲、0.01〜10μg/Lの範囲、または、0.05〜0.2μg/Lの範囲等に設定できる。
【0030】
予測に利用する「前記測定工程で測定した前記アミンの濃度」は、前述のように、例えば、測定したいずれか1種類の濃度でもよいし、測定したいずれか2種類以上の総濃度でもよい。また、予測に利用する「前記測定工程で測定した前記硫黄化合物の濃度」は、前述のように、例えば、測定したいずれか1種類の濃度でもよいし、測定したいずれか2種類以上の総濃度でもよい。また、予測に利用する「前記測定工程で測定した前記糖の濃度」は、前述のように、例えば、測定したいずれか1種類の濃度でもよいし、測定したいずれか2種類以上の総濃度でもよい。
【0031】
前記予測工程において、前記測定工程で測定した前記アミンの総濃度、前記硫黄化合物の総濃度および前記糖の総濃度からのDMTS発生の程度の予測は、例えば、以下のような方法が例示できる。
【0032】
すなわち、前記予測工程において、例えば、下記条件(a)、(b)および(c)を満たす場合に、前記サンプルにおけるDMTSの発生量が0.1μg/L以上と予測できる。
(a)前記測定工程で測定した前記アミンの総濃度が、50mg/L以上である
(b)前記測定工程で測定した前記硫黄含有化合物の総濃度が、10mg/L以上である
(c)前記測定工程で測定した前記糖の総濃度が、5g/Lを超える
【0033】
前記条件(a)、(b)および(c)における前記アミンの総濃度、前記硫黄化合物の総濃度および前記糖の総濃度は、前述のように、設定するDMTS濃度の閾値によって変更できる。
【0034】
前述の例示においては、前記条件を満たす場合、DMTSが発生する、または、DMTSが所定の濃度を超えて発生すると予測するが、本発明のDMTS発生の予測方法は、これらの例示には限定されず、例えば、前記条件を満たさない場合、DMTSが発生しない、または、DMTSが所定の濃度を超えて発生しない、と予測してもよい。
【0035】
<清酒の劣化予測方法>
本発明の清酒の劣化予測方法は、前述のように、本発明のDMTS発生の予測方法により、清酒におけるDMTS発生を予測する工程を含むことを特徴とする。本発明の清酒の劣化予測方法によれば、清酒におけるDMTS発生の予測により、清酒の劣化を簡便に予測できる。
【0036】
本発明の清酒の劣化予測方法は、本発明のDMTS発生の予測方法により、清酒におけるDMTS発生を予測することを特徴とし、その他の工程は、何ら制限されない。本発明の清酒の劣化予測方法は、特に示さない限り、前記本発明のDMTS発生の予測方法の記載を援用できる。
【0037】
本発明の劣化予測方法は、劣化臭の主要成分であるDMTSの発生を予測することにより、清酒の劣化を予測するため、清酒の劣化臭の予測方法ということもできる。
【0038】
本発明の劣化予測方法は、例えば、さらに、前記DMTS発生の予測工程において得られた予測結果から、清酒の劣化を予測する工程を含む。前記予測工程は、特に制限されず、例えば、予測されたDMTSの有無から、清酒の劣化の有無を予測してもよいし、予測されたDMTSの発生量から、劣化の程度を予測してもよい。
【0039】
前者の場合、前記清酒において前記DMTSが発生すると予測された場合、前記清酒は劣化するまたは劣化しやすいと予測できる。他方、前記清酒においてDMTSが発生しないと予測された場合、前記清酒は、劣化しないまたは劣化しにくいと予測できる。
【0040】
後者の場合、前記清酒における予測されたDMTS発生量が、相対的に高い場合、前記清酒は、劣化の程度が相対的に高いと予測できる。他方、前記清酒における予測されたDMTS発生量が、相対的に低い場合、前記清酒は、劣化の程度が相対的に低い、または、前記サンプルは劣化しないまたは劣化しにくいと予測できる。
【0041】
前記DMTSの発生量が相対的に高いまたは低いとは、例えば、任意の基準値に対して、高いまたは低いことを意味する。任意の基準値は、例えば、DMTSの発生量の任意の基準値である。前記基準値は、例えば、本発明のDMTS発生予測方法において記載した、許容できるDMTS濃度、つまり前記閾値が援用できる。
【0042】
なお、本発明の劣化予測方法において、予測対象は、清酒には制限されず、例えば、前記飲食品であってもよい。すなわち、本発明の劣化予測方法は、飲食品の劣化予測方法でもよく、前記清酒を前記飲食品とする以外は、全ての記載を援用できる。
【0043】
<清酒>
本発明の清酒は、前述のように、下記条件(A)、(B)および(C)のうち少なくとも1つの条件を満たし、下記アミンが、エタノールアミン類、プトレシン、ヒスタミン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、スペルミジンおよびカダベリンからなる群から選択された少なくとも1つのアミンであることを特徴とする。
(A)前記清酒におけるアミンの総濃度が、50mg/L未満である
(B)前記清酒における硫黄含有化合物の総濃度が、10mg/L未満である
(C)前記清酒における糖の総濃度が、5g/L以下である
【0044】
本発明の清酒は、前記アミンの総濃度、前記硫黄化合物の総濃度および前記糖の総濃度の少なくとも1つが前述の条件を満たせばよく、その他の構成は、特に制限されない。本発明の清酒は、DMTS発生の原因物質である前記アミン、前記硫黄化合物および前記糖の少なくともいずれかが、DMTS発生の基準値からはずれるため、DMTSによる劣化臭の発生が抑制され、例えば、長期間、商品価値を維持できる。
【0045】
本発明の清酒は、例えば、後述する本発明の清酒の製造方法により製造できる。
【0046】
<清酒の製造方法>
本発明の清酒の製造方法は、前述のように、下記工程(A)、(B)および(C)のうち少なくとも1つの工程を含み、下記アミンが、エタノールアミン類、プトレシン、ヒスタミン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、スペルミジンおよびカダベリンからなる群から選択された少なくとも1つのアミンであることを特徴とする。
(A)前記清酒におけるアミンの総濃度を50mg/L未満に調節する工程
(B)前記清酒における硫黄含有化合物の総濃度を10mg/L未満に調節する工程
(C)前記清酒における糖の総濃度を5g/L以下に調節する工程
【0047】
本発明によれば、前述のように、経時的な劣化、具体的には、DMTSによる劣化臭の発生が抑制される清酒を製造できる。
【0048】
本発明の製造方法は、清酒の製造工程において、前記アミンの総濃度、前記硫黄化合物の総濃度および前記糖の総濃度の少なくとも1つを前述の濃度へ調節すればよく、その他の構成は、特に制限されない。
【0049】
本発明の製造方法において、前記調節工程は、例えば、酒粕と清酒とを分離する前に行ってもよいし、酒粕を分離除去した後に行ってもよく、好ましくは後者である。
【0050】
前記アミンの総濃度の調節工程、前記硫黄化合物の総濃度の調節工程および前記糖の総濃度の調節工程において、設定するアミンの総濃度、硫黄化合物の総濃度および糖の総濃度は、例えば、前記本発明の清酒における記載を援用できる。
【0051】
前記アミンの総濃度の調節方法、前記硫黄化合物の総濃度の調節方法および前記糖の総濃度の調節方法は、特に制限されず、例えば、活性炭による除去、イオンレジンによる除去、発酵工程管理、例えば、発酵に伴う糖分の消費、適切な時期での上槽による調節、温度管理による酵母の死滅阻害等、原料米・酵母の選択、微生物汚染の防止等があげられる。
【0052】
本発明の製造方法において、前記アミンの総濃度の調節工程、前記硫黄化合物の総濃度の調節工程、および、前記糖の総濃度の調節工程の順序は、特に制限されず、例えば、それぞれ別個に行ってもよいし、いずれか2つを同時に行ってもよいし、全てを同時に行ってもよい。
【0053】
本発明の製造方法により得られる清酒は、前述のように、保存によるDMTS発生を抑制し、劣化を抑制できる。このため、本発明は、例えば、清酒のDMTS発生抑制方法または清酒の劣化抑制方法ともいえる。
【0054】
また、本発明は、清酒には制限されず、前記アミンの総濃度、前記硫黄化合物の総濃度および前記糖の総濃度の少なくとも1つが調節された前記飲食品でもよく、前記清酒を前記飲食品とする以外は、全ての記載を援用できる。また、本発明の製造方法も、同様であり、前記飲食品の製造工程において、前記飲食品について、前記アミンの総濃度の調節工程、前記硫黄化合物の総濃度の調節工程および前記糖の総濃度の調節工程の少なくとも1つを行えばよく、前記清酒を前記飲食品とする以外は、全ての記載を援用できる。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
アミンを添加した清酒モデル系を強制劣化させ、DMTSの発生量、着色および酸化還元電位を測定した。
【0056】
(1)清酒モデル系
下記表1の組成の15%アルコール液を調製し、清酒モデル系とした。前記清酒モデル系において、メチオニンスルホキシドは、前記硫黄化合物として添加した。
【0057】
【表1】
【0058】
(2)強制劣化方法
10mLの前記清酒モデル系を、容量12mLのガラス製のネジ栓付丸底試験管に分注し、500mg/Lとなるように下記アミノ酸または下記アミンをそれぞれ添加して、サンプルを調製した。前記試験管をネジ栓で密閉し、前記各サンプルを120℃で30分間オートクレーブに供し、強制劣化させた。コントロールは、前記アミノ酸および前記アミン無添加の前記清酒モデル系をそのまま使用する以外は、同様にして強制劣化させた。なお、本実施例では、高温高圧条件下で強制劣化を行っているが、高温高圧条件下における劣化方法によって得られる結果は、常温常圧条件下または低温低圧条件下等における劣化方法によって得られる結果として援用できる。
【0059】
(アミノ酸)
グリシン
(アミン)
アグマチン、ヒスタミン、チラミン、コリン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン四塩酸塩
【0060】
(3)DMTSの発生量の測定
前記強制劣化後のサンプルを蒸留水で10倍に希釈し、サンプル10mLを、攪拌子(twister、Gerstel社)を用いて、2時間、600rpmで撹拌後、撹拌子に吸着した成分を熱抽出しガスクロマトグラフ質量分析装置(6890/5973 GC/MSD、Agilent社製)を用いて、下記の条件でDMTS濃度を測定した。
【0061】
開始温度:35℃
開始温度での保持時間:1分間
昇温速度:10℃/1分間
終了温度:230℃
終了温度での保持時間:15分間
カラムの種類:InertCap FFAP 60m×0.25mm×0.25μm(GL Sciences社製)
【0062】
(4)着色の測定および評価
前記強制劣化後のサンプルについて、光路長1cmのセルを用いて、吸光光度計(UV-2550、島津製作所社製)により、430nmの吸光度(ABS430)を測定した。
【0063】
(5) 酸化還元電位の測定
前記強制劣化後のサンプルについて、酸化還元電位計(SWC−201RP、三商社製)を用いて、酸化還元電位を測定した。前記強制劣化後のサンプルの酸化還元電位は、前記サンプルの酸化還元電位の値から、前記コントロール(アミノ酸およびアミン未添加)の酸化還元電位の値を引いた値とした。
【0064】
前記強制劣化後のサンプルのDMTS濃度を
図1に示す。
図1は、前記サンプルのDMTS濃度を示したグラフであり、横軸は、アミノ酸またはアミンの種類を示し、縦軸は、DMTS濃度を示す。
図1において、破線を付したサンプルは、4.5μg/L以上のDMTSが発生したことを示す。
図1に示すように、アミノ酸およびアミンを添加していない前記コントロール(−)は、DMTSが検出されず、また、チラミン、コリンおよびスペルミン四塩酸塩も同様にDMTSが検出されず、グリシン、アグマチン、ヒスタミンおよびβ−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリンおよびスペルミジンを添加したサンプルは、DMTSが確認された。これらの中でも、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリンおよびスペルミジンを添加したサンプルは、4.5μg/L以上の多量のDMTSが発生した。このことから、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリンおよびスペルミジンが、硫黄化合物と共に、DMTS発生に関与する主となる原因物質であることが分かった。
【0065】
また、これらのアミノ酸およびアミンの中でも、グリシン、アグマチン、ヒスタミン、チラミン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリンおよびスペルミン四塩酸塩は、清酒成分であるが、ヒスタミン、β−フェネチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシンおよびカダベリンのみが、DMTS発生を示した。これらのことから、清酒の保存時におけるDMTS発生には、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシンおよびカダベリンなどのアミン類と硫黄化合物とが関与することがわかった。
【0066】
つぎに、前記強制劣化後のサンプルの吸光度および着色の結果を
図2に示す。
図2は、密閉状態で強制劣化させたサンプルの430nmの吸光度を示すグラフであり、横軸は、アミノ酸またはアミンの種類を示し、縦軸は、吸光度を示す。
【0067】
図2に示すように、エチルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、エタノールアミン、プトレシン、カダベリンおよびスペルミジンを添加したサンプルは、高い吸光度を示し、強い着色が生じたことがわかった。
【0068】
つぎに、前記強制劣化後のサンプルの酸化還元電位を
図3に示す。
図3は、前記サンプルの酸化還元電位(Oxidation-Reduction Potential、ORP)を示すグラフであり、横軸は、アミノ酸またはアミンの種類を示し、縦軸は、酸化還元電位を示す。
図3に示すように、前述の
図1および2において、高濃度のDMTS発生および強い着色を示したサンプルは、それらの結果と相関して、低い酸化還元電位、つまり、強い還元性を示した。このことから、還元反応とDMTS発生および着色との間に関連性があることが示唆された。ただし、この推定は、本発明を何ら制限しない。
【0069】
[実施例2]
前記アミン、前記硫黄化合物および前記糖の濃度を変えたエタノール溶液を強制劣化させ、DMTSの発生量を測定した。
【0070】
15%(v/v)エタノールおよび0.05%(v/v)乳酸を含む15%エタノール溶液を調製した。前記エタノール溶液に前記アミンとしてカダベリン、前記硫黄化合物としてメチオニンスルホキシド、前記糖としてグルコースを表2の濃度となるように添加し、前記実施例1と同様にして、強制劣化させ、DMTSの発生量を測定した。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、条件1は、DMTS発生量が0.1μg/Lであり、条件2〜4は、DMTS発生量が検出限界以下であり、条件5は、DMTS発生量が3.4μg/Lであった。また、表2には示していないが、カダベリンに代えて、それぞれ25mg/Lとなるようカダベリンおよびプトレシンとを添加した以外は、条件1と同様にした場合においても、DMTS発生量が0.1μg/L以上であった。さらに、条件1において、グルコースの濃度を5g/L以下にした場合、DMTSの発生量が0.1μg/L未満となった。以上のことから、DMTS発生には、アミン、硫黄化合物および糖が必要であることがわかった。
【0073】
[実施例3]
アミンを添加した清酒を強制劣化させ、DMTSの発生量および着色のアミンの濃度依存性を確認した。
【0074】
清酒として日本酒(商品名つき、月桂冠株式会社)を使用した。10mLの前記清酒を、容量12mLのガラス製のネジ栓付丸底試験管に分注し、所定濃度(0.5、1.0、2.0、3.0、4.0または5.0mmol/L)となるように、各アミン(カダベリン、プトレシンまたはエタノールアミン)を添加して、サンプルを調製した。そして、前記サンプルを、前記実施例1と同様にして、強制劣化させた。コントロールは、前記アミン未添加の前記清酒をそのまま用いる以外は、同様にして強制劣化させた。
【0075】
そして、前記サンプルについて、前記実施例1と同様にして、DMTSの発生量および着色の評価を行った。前記サンプルのDMTS濃度は、前記サンプルのDMTS濃度の値から、前記コントロール(アミン無添加)のDMTS濃度の値を引いた値とした。
【0076】
前記強制劣化後のサンプルのDMTS濃度を
図4に示す。
図4は、前記サンプルのDMTS濃度を示したグラフであり、横軸は、添加したアミンの濃度を示し、縦軸は、DMTS濃度を示し、
図4の菱形(◆)は、カダベリン添加サンプルを示し、四角(■)は、プトレシン添加サンプルを示し、三角(▲)は、エタノールアミン添加サンプルを示す。
図4に示すように、前記アミンを添加したサンプルは、いずれも、アミン濃度に依存してDMTS濃度が増加した。また、前記アミンを添加したサンプルのアミン濃度とDMTS濃度との相関係数R
2は、いずれも1に近かった。これらのことから、前記アミン濃度とDMTS濃度との間は、極めて高い相関性があり、サンプル中のアミン濃度から、発生するDMTS濃度を予測できることがわかった。
【0077】
つぎに、前記強制劣化後のサンプルの吸光度の結果を
図5に示す。
図5は、430nmの吸光度を示すグラフであり、横軸は、添加したアミン濃度を示し、縦軸は、吸光度を示し、
図5の菱形(◆)は、カダベリン添加サンプルを示し、四角(■)は、プトレシン添加サンプルを示し、三角(▲)は、エタノールアミン添加サンプルを示す。
図5に示すように、前記アミンを添加したサンプルは、いずれも前記アミン濃度に依存して吸光度が増加した。また、前記アミンを添加したサンプルのアミン濃度と吸光度との相関係数R
2は、いずれも1に近かった。これらのことから、アミン濃度と着色との間には、高い相関性があることがわかった。
【0078】
[実施例4]
酒質が異なる清酒にアミンを添加してから強制劣化を行い、DMTSの発生量と着色とを測定した。
【0079】
清酒として、低エキス分の清酒(商品名つき、月桂冠株式会社、エキス分(日本酒度−1.0))と高エキス分の清酒(商品名上撰、月桂冠株式会社、エキス分(日本酒度−1.5))を使用した。
【0080】
10mLの前記清酒を、容量12mLのガラス製のネジ栓付丸底試験管に分注し、100mg/Lとなるようにメチオニンを添加したサンプル1(+Met)、5mmol/Lとなるようにカダベリンを添加したサンプル2(+カダベリン)、100mg/Lとなるようにメチオニンをおよび5mmol/Lとなるようにカダベリンを添加したサンプル3(+Met+カダベリン)を調製した。前記サンプル1および3において、メチオニンは前記硫黄化合物として添加した。そして、前記サンプルを、前記実施例1と同様にして、強制劣化させた。コントロールは、メチオニンおよびアミン未添加の前記清酒をそのまま用いる以外は、同様にして強制劣化させた。
【0081】
そして、前記サンプルについて、前記実施例1と同様にして、DMTSの発生量および着色の評価を行った。
【0082】
前記強制劣化後のサンプルのDMTS濃度を
図6に示す。
図6は、前記サンプルのDMTS濃度を示すグラフであり、横軸は、前記サンプルの種類を示し、縦軸は、DMTS濃度を示す。
図6に示すように、低エキス分清酒の場合、コントロール(−)およびサンプル1(+Met)は、低濃度のDMTS発生が確認され、さらにアミンを添加したサンプル2(+カダベリン)は、より高濃度のDMTS発生が確認され、アミンと硫黄化合物を添加したサンプル3(+Met+カダベリン)は、極めて高濃度のDMTS発生が確認された。また、
図6に示すように、高エキス分清酒の場合、コントロール(−)は、低濃度のDMTS発生が確認され、硫黄化合物を添加したサンプル1(+Met)またはアミンを添加したサンプル3(+カダベリン)は、より高濃度のDMTS発生が確認され、アミンと硫黄化合物を添加したサンプル3(+Met+カダベリン)は、極めて高濃度のDMTS発生が確認された。このように、いずれの清酒においても、アミンおよび硫黄化合物の含有量の増加に伴い、DMTS発生が増加した。なお、高エキス分清酒のサンプル群が、低エキス分清酒のサンプル群よりも高いDMTS濃度を示したのは、高エキス分含有であるため、アミンおよび硫黄化合物の含有量が高いことに起因すると解される。これらの結果から、酒質にかかわらず、アミンと硫黄化合物とが、清酒におけるDMTS発生に関与する原因物質であることがわかった。
【0083】
前記強制劣化後のサンプルの吸光度および着色の結果を
図7に示す。
図7は、前記サンプルの430nmの吸光度を示すグラフであり、横軸は、前記サンプルの種類を示し、縦軸は、吸光度を示す。
図7に示すように、いずれの清酒も、コントロール(−)および硫黄化合物を添加したサンプル1(+Met)は、低い吸光度であったのに対し、アミンを添加したサンプル2(+カダベリン)および硫黄化合物およびアミンを添加したサンプル(+Met+カダベリン)は、高い吸光度が確認され、強い着色が生じたことがわかった。