(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、X線コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:以下X線CTと呼ぶ)装置は、64から80に亘るX線検出器素子列(以下素子列と呼ぶ)を有する。このX線CT装置における心臓CTでは、心臓全体を同じ位置でスキャンすることができないため、取得されたデータに関して一時的な再構成ウインドウが選択される。例えば心臓全体をスキャンするための320の素子列を有するマルチスライスCT装置がないとき、心臓の動きによるアーチファクトが実質的にない(以下、アーチファクトフリーと呼ぶ)心臓の医用画像を再構成する前に、最適な心位相(以下最適心位相と呼ぶ)に対応する投影データを選択するために、心位相(心臓の動きの位相)マップを発生させる必要がある。
【0003】
最適心位相とは、一般に周期的であって、心周期において収縮相の末端近傍と弛緩相の中点近傍とであることが知られている。これらの最適心位相において、心臓の動きは、相対的に小さくなる。最適心位相を決定するために、一つの典型的な方法は、R波とR波との間隔に関する心電図(ElectroCardioGram:以下ECGと呼ぶ)を用いる方法である。ECGは、データ取得のトリガおよび最適な再構成ウインドウの選択のために用いられている。しかしながら、ECGは、心臓の電気的な信号を示しているにすぎず、必ずしも心臓の動きに関する機械的な状態を示しているわけではない。
【0004】
また、同じ被検体における内的周期の可変性と同様に、最適心位相が被検体間の可変性に依存するものとして、被検体間における最適心位相を見つけることが一貫して挑戦されている。例えば、心周期における正確な最適心位相は、ある被検体と別の被検体とで変化する。従って、被検体間で正確な最適心位相を決定するための単一の定量的な方法はない。さらに、最適心位相は、不整脈のような不規則な心拍数を有する要因のために同じ被検体においても変化することがある。上記のような理由で、被検体固有の心位相マップは、特定の被検体に対するアーチファクトフリーな心臓の医用画像を再構成する前に、最適心位相に対応する投影データを選択するために発生される。
【0005】
従来技術において、心臓は、組織の様々な部分に亘って、一様な挙動で動くものと仮定されている。心臓の動きは組織の様々な部分に亘って一様ではなく複雑であるにもかかわらず、上記仮定は、心臓の動きの複雑な性質を単純化している。そのため、最適な位相が選択されたとき、心臓の動きは最小であって、対応するビューは心臓の中の場所を気にかけずに実質的に心臓の動きがないビューとしている。
【0006】
一般的に、高速マルチスライスヘリカルCTを用いたスキャン時間に対する最適心位相を選択するために必要なスキャン後の時間(以下、位相選択時間と呼ぶ)は、心臓の血管造影CT検査に関して大きな割合を占める。従来の最適心位相を選択するための技術は、再構成された医用画像のための最適心位相を選択することにおける正確さを維持することと同時に、上記位相選択時間を減少させることを試みる技術である。
【0007】
従来の多くの選択技術は、医用画像の領域に依存している。すなわち、最適心位相は、オリジナルの投影データまたは生データから再構成される画像データに基づいて決定される。例えば、低解像度の医用画像は、コントラスト強調プログラムを用いた心臓のヘリカルスキャンの後、心周期に亘って再構成される。低解像度の医用画像に基づいて、最小の心臓の動きを示す隣接した位相における最小の差異に関する期間が選択される。64×64×64のボクセルのような低解像度の画像データが再構成されるが、従来技術は、再構成の計算の間時間を浪費するため有効ではない。さらに従来技術には、大きいコーン角による問題がある。また、従来技術には、ハイピッチ(すなわち、検出器の1回転に対する検出器幅の送り分であるピッチファクタが大きい)なヘリカルスキャンにおいては正確な結果は得られない問題がある。
【0008】
別の従来技術は、自動的な心位相選択アルゴリズムに基づいて、位相選択時間を減少させる技術である。画像領域の替わりにこの従来技術は、次の心位相に関する二つのヘリカルスキャン生データセットの間で差の絶対値の和を計算する。従来技術は、心臓全体の体積における心臓の動きに関する速度の強度を示す速度曲線を発生する。
図1は、水平線によって示された全ての4つの心臓の空間(右心房、右心室、左心房、左心室)を有するアキシャル面に沿ったターゲットスライスにおける部分的な生データを示している。マルチスライスCT(Multi−Slice CT:以下MSCTと呼ぶ)装置は、多列の検出素子を有する。ターゲットスライスの位置を通過した総時間に対応する生データは、複数の検出器列の間のヘリカル的な補間を実行することによって発生される。ヘリカル的に補間された生データは、同じ診察台で時間軸方向に連続的なダイナミックスキャンデータである。一方、異なるタイミングの情報(心位相)を有する生データは、ECGゲーティング信号(タイミングシフト技術)による一連の生データからハーフスキャンに対応する生データを減算することにより得られる。
図1は、0%、10%、20%の心位相での部分的な生データを示している。これらの部分的な生データは、ターゲットスライスの位置と同様に同じ診察台の位置に対応する。しかしこれらの部分的な生データは、タイミングの情報が異なる。同様に、心臓の動きの速度は、2%の間隔で得られた生データのために4%の間隔で差の絶対値の和(sum of absolute differences:以下、SADと呼ぶ)を得ることにより、2%の間隔で減算される。
【0009】
上記従来技術は一つの局面を効果的に改善するが他の局面は改善されない。例えば、SADは、近接した位相に対応する2つのビューから計算され、速度曲線は、SADから導出される。その上、サイノグラムのデータは、計測されたデータ(すなわち、計測データはコーン角を考慮していない)のうち補間された列から発生される。このため、コーン角とピッチファクタとが増大すると、実際に計測されるデータと比較して、サイノグラムの正確性は低減する。このように、従来技術によるSADは、最適心位相を正確に決定することができない。
【0010】
先に記載した従来技術は、ヘリカルスキャンについて0.1から0.3まで変化する低いピッチファクタを利用する。これらの低いピッチファクタは、X線の放射にさらされる領域が大きく重なり合うため、より多くのX線の被曝を引き起こす。被検体に対する安全面の観点から、CTイメージングのための繰り返しの必要性に関して、低い放射線量レベルが望まれる。
【0011】
上記従来技術の問題を考慮して、別の従来技術は、ゲーティングと再構成とのための最適心位相を決定することに関するステップアンドショット(Step And Shoot:以下SASと呼ぶ)心臓イメージングに基づいたものである。すなわち、典型的なSASデータ収集において、64スライスを同時に収集するためにX線管とX線検出器とが被検体に対して回転している間、天板は一つの位置で動かないままである。不整脈のような不規則な心拍がデータ収集中に発生したとき、データ収集は、次の通常な心拍に備えて同じ位置で続けられる。データ収集がある位置に対して完了した後、天板は、次のスキャンのために次の位置に所定の距離だけ進められる。各々のステップに対して、天板は、部分的に重なり合う曝射がないように、X線のビーム幅に略等しい40mmを超える距離だけ移動される。ヘリカルスキャンデータの替わりにSASデータが提案されるため、この従来技術は、被検体に対するX線の被曝を低減し、ヘリカルスキャンデータに関する長軸のトランケーション問題のいくつかを克服する。
【0012】
上記従来技術は、心臓の動きの総量を決定するために対になったサンプルを利用する。対になったサンプルは、生投影データに見られるような一組の相補的なレイ各々である。ファンビームデータセットに対して、一組の対になったサンプルは、(γ、β)と(γ、β+π+2γ)によって定義される。ここで、γとβとは、ファン角と投影角とにそれぞれ対応する。γ
mが最大ファン角度を示すのであれば、最小のコーンビームデータ収集は、π+2γ
mのビュー範囲で実行される。全データセットは、全ての対になったサンプルを同一視することを通して探索される。差の絶対値の総計は、以下のように計算される。
【数1】
【0013】
ここで、Π<<π+2γ
mは、無矛盾条件評価の角度範囲である。ξ(β
m)という量は、全ての評価された複数の結合したサンプルの間における不一致の度合いを示す量である。複数の結合されたサンプルは、同じパスに沿った線積分を示している。これらのことから、不一致の度合いξは、心臓の動きの尺度である。
【0014】
上記従来技術は、被検体に対する被曝を低減させるためと、心臓の動きを決定することを改善するためとに、SASデータにおける結合したサンプルを利用する。一方、SASの技術には以下のようなデメリットがある。心周期は連続的であるのに対し、SAS技術は、心臓に関する様々な位置に亘って不連続にデータが収集されるため、連続的な心周期のデータを取り込むことができない。第一の位置におけるデータ収集の後、天板が次の位置まで所定の距離移動される間、収集されるデータはない。すなわち、SASデータは、同じ心周期の範囲内で、または連続的な心周期に亘って収集されない。その上、SAS技術で使われる投影データは、投影角度の調整のために、一部のオーバーラップと一部の欠如とがある。最後に、コントラストのプログラムが使用されるとき、実際のデータ収集の間における離散的な遅延は、コントラストプログラムの有効性を徐々に低下させることに反映される。
【0015】
上記デメリットを考慮して、ヘリカルデータは、再構成における最適心位相の決定に関して有利であることを示している。結合したサンプルの利用は最適心位相を決定することに有効であるが、結合したサンプルは、SASデータに制限され、ヘリカルデータには適用できない。
【0016】
要約すると、心位相マップを発生することに関する従来技術の試みの中で、あるデメリットに対して望まれることは、残存している。これらのデメリットは、有効性とアーチファクトとヘリカルスキャンの制限とを有する。心臓CTへの適用においてこれらのデメリットを一般的に改善するために、心位相マップは、能率的に発生されなければならない。操作者が所望する位相は、妥当な時間範囲で選択されるべきである。同時に、最適心位相の選択は、再構成された医用画像におけるアーチファクトを最小にするために、正確に決定されるべきである。結局、投影データは、心周期に亘って心臓の動きを連続的に反映させるために、ヘリカルスキャンにより得られたデータであるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
後述するモーションマップを発生することに関する以下の実例として、心臓のコンピュータ断層撮影(Computed Tomography:以下CTと呼ぶ)を用いる本実携帯が最適な位相を選択するために記述されているが、本実施形態は心臓のCTに限定されない。すなわち、本実施形態は、心臓以外の臓器においても適用可能である。心臓のCTに関する本実施形態において、心臓の動きの位相(以下、心位相と呼ぶ)マップは、ヘリカルスキャンデータに基づいて能率的に発生される。最適な心位相(以下、最適心位相と呼ぶ)は、合理的な時間範囲で選択される。同時に、本実施形態は、後述する複数の相補的なX線のレイに基づいて、最適心位相を正確に決定する。複数の相補的なレイは、心臓における最小の動きに対応する指標を発生するために用いられる。また、複数の相補的なレイは、再構成された心臓の医用画像での最小のアーチファクトのための後述する投影データセットを選択するために用いられる。ヘリカルスキャンデータは、等しい心周期の範囲内または連続的な複数の心周期に亘っての心臓の動きを反映したデータである。ヘリカルスキャンデータによる複数の相補的なレイの技術の適用は、複数の相補的なレイの組を3次元的に決定することにより実現される。一組の相補的なレイは、等しい心周期の範囲内または連続的な複数の心周期に亘っての心臓の動きを考慮するために決定される。後述するトップレイとボトムレイまたはその一方に対する後述する絶対値総和は、心臓の動き量を決定するために計算される。
【0022】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置(Computed Tomography:以下、X線CT装置と呼ぶ)を説明する。
図2は、本実施形態に係るマルチスライスX線CT装置の構成を示す構成図である。本マルチスライスX線CT装置は、架台100と複数のユニットとを有する。
図2における架台100は、側面図を示している。架台100は、X線管101、回転フレーム102、多列または2次元アレイタイプのX線検出部103、データ収集部(データ収集回路またはData Acquisition system:以下DASと呼ぶ)104、非接触データ転送部105、回転部107、スリップリング108を有する。X線管101とX線検出部103とは、回転フレーム102に、被検体Sを横断した正反対の位置にマウントされる。回転フレーム102は、回転軸RA周りに回転可能に支持される。回転部107は、0.4sec/rotationのような高速度で、回転フレーム102を回転させる。回転部107が回転フレーム102を回転させている間、被検体Sは、ヘリカルスキャンを実行するために、図示された紙面からまたは紙面に向けて、回転軸に沿って移動される。
【0023】
マルチスライスX線CT装置は、さらに高電圧発生部109を有する。高電圧発生部109は、スリップリング108を介して、X線管101からX線を発生させるための管電圧を供給する。X線は、被検体Sに向かって放射される。
図2における被検体Sの円は、被検体の断面領域を表している。X線検出部103は、被検体Sを透過したX線を検出するために、被検体Sを横切ったX線管の反対側に配置されている。X線検出部103は、2次元状に配列された複数のX線検出素子を装備する。ここでは、単一のX線検出素子が単一のチャンネルを構成しているものとして説明する。
【0024】
図2によれば、本マルチスライスX線CT装置は、X線検出部103から出力された検出信号を処理するための複数のユニットを有する。データ収集回路またはDAS104は、2つの検出器列において各々の列に対する出力信号を、X線検出部103から読み出す。DAS104は、各々のチャンネルからの出力信号を、電圧信号に変換する。DAS104は、変換された電圧信号を増幅する。DAS104は、増幅された電圧信号を、ディジタル信号に変える。以下、DAS104から出力されるデータを投影生データと呼ぶ。X線検出部103とDAS104とは、予め決定された回転フレーム1回転当たりの投影の総数(Total number of Projections Per Rotation:以下TPPRと呼ぶ)を処理する構成を有する。TPPRは、少なくとも900TPPRであって、900TPPRと1800TPPRとの間、900TPPRと3600TPPRとの間にある。
【0025】
上記投影生データは、前処理部106に出力される。上記投影生データは、非接触データ転送部105を介して、架台100の外側のコンソールに収容される。前処理部106は、生データに対して、感度補正のような特定の補正を実行する。記憶部112は、前処理部106で生じた再構成処理直前のデータである投影データを記憶する。なお、投影データとは、被検体を透過したX線の強度に応じたデータ値の集合である。ここでは説明の便宜上、ワンショットで略同時に収集したビューアングルが同一である全チャンネルにわたる一揃いの投影データを、投影データセットと称する。なお、複数の投影データセットは、複数のビュー番号にそれぞれ対応する。また、ビューアングルは、X線管101が後述する回転軸Zを中心として周回する円軌道の各位置を、回転軸Zから鉛直上向きにおける円軌道の最上部を0°として360°の範囲の角度で表したものである。なお、投影データセットの各チャンネルに対する投影データは、ビューアングル、コーン角、チャンネル番号によって識別される。なお、投影データセットは、記憶部112に記憶された投影データに関する読み出し制御を実行することにより発生される。記憶部112は、データバスまたは制御バスを通して、システムコントローラ110、再構成部114、表示部116、入力部115、スキャン計画支援装置200、選択部118に接続されている。スキャン計画支援装置200は、スキャン計画を発展させるためにイメージング技術者を支援するための機能を有する。
【0026】
選択部118は、様々なソフトウェアおよびハードウェア構成を有する。選択部118は、選択された投影データを再構成部114が処理する前に、投影データのある望ましい部分を選択する。本マルチスライスX線CT装置の選択部118は、心臓の動きによる望ましくないアーチファクトを実質的に減少させるために、ヘリカルスキャンによる投影データの一部分を選択する。主に、選択部118はトップ相補的レイの組とボトム相補的レイの組との両方またはいずれか一方を決定するために、投影データを処理する。
【0027】
選択部118は、後述するトップ相補的レイまたはボトム相補的レイに対する差の絶対値総和を計算する。選択部118は、的確な手法でモーションマップを構成するために、絶対値総和に対して、フィルタリングと所定量のシフトとを実行する。最終的に、選択部118は、決定された絶対値総和が最も小さい量に基づいて、投影データの望ましい部分を選択する。マップ発生部は、上記選択部118に対応する機能を有する。すなわち、マップ発生部は、投影データと投影データに対向する対向投影データとの差を計算する。マップ発生部は、計算された差の絶対値総和を複数のデータセット各々に対して計算する。マップ発生部は、計算された絶対値総和に基づいて、被検体の臓器の動き量を表すモーションマップを発生する。
【0028】
再構成部114は、投影データセットに基づいて、医用画像を再構成する。再構成部114は、選択部118で選択された投影データセットに基づいて、医用画像を再構成する。
【0029】
図3は、ヘリカルスキャンにおけるレイとこのレイに対向する対向レイとの相補的なレイの組の概念を示す概念図である。簡単のために、
図3には、本マルチスライスX線CT装置の構成要素と被検体の心臓とは記載されていない。
図3には、ヘリカルパスが、X線のレイとともに3次元的に図示されている。
図3におけるx、y、z方向は、対応する矢印でそれぞれ示されている。z方向は、ヘリカルスキャンを実行する方向、または被検体を載置した天板が動く方向を示している。y方向は、z方向に垂直であってビューアングルが0°および180°の方向を示している。x方向は、y方向およびz方向に垂直な方向である。螺旋SPLは、ヘリカルパスを示す。ヘリカルパスとは、被検体を載置した天板が前進している間、X線源が被検体周りに回転しているとき、X線によりビューが撮影されるところのパスである。螺旋SPLで示されているように、X線のレイは、ヘリカルスキャンにより天板と同じ速度で移動する座標系において、z軸に垂直ではない。一組の相補的な複数のレイを説明するために、
図3は、任意の選択された複数のレイを複数の点線で示す。
【0030】
図3には、ヘリカル投影でどれでもひとつの完全な回転の範囲内で、一組または二組の相補的なレイが示されている。複数の相補的なレイは、心臓の動き量を調査するために用いられる。
図3において、一組の典型的な相補的なレイL
0とL
1は、ヘリカル投影で示されている。相補的なレイL
0とL
1とは、複数の投影におけるπ(PI)境界上に配置されることにより定義されている。PI境界については、
図5の説明において後述する。複数の投影のための線源の位置は、(180+δ)度離れたβ
0とβ
1とで示されている。角度δは、中心レイからどれくらい離れているかを示す角度である。心臓の動きがなければ、レイL
0とL
1とが透過する被検体の厚み(レイパス)は、ヘリカル的に取得された投影データにおいて一致する。
【0031】
図4は、最小の心臓の動き量を有するヘリカルスキャンデータの一部分を決定する処理の手順を示すフローチャートである。投影データは、ヘリカルスキャン技術を用いて得られる(ステップS10)。ヘリカルスキャンデータが得られるとき、心電図(Electro CardioGram:以下ECGと呼ぶ)が、心拍各々のR波のピークに関する相対的な位置を示すために、投影データに埋め込まれる。ある状況において、X線は、ヘリカルデータを取得する間における被曝を制限するために、予め設定されたR波のピークの間の情報に基づいて曝射される。
【0032】
後に最適心位相を決定することのためにヘリカルスキャンが実行されている間、相対的に大きいピッチファクタで、投影データが発生される(ステップS10)。相対的に大きいピッチファクタは、近似的に0.2でもよい。なお、ピッチファクタは、実際のX線検出器の大きさの限界上または範囲内でPI境界にとどまるようなピッチファクタである0.3でもよい。対照的に上記述べた従来技術は、ヘリカルスキャンにおいて、最適心位相を決定するために投影データから低解像度の画像を再構成するための0.1と0.3との間の小さいピッチファクタを要求する。小さいピッチファクタの要求のために、従来技術のヘリカルスキャンは、被検体に対して相対的に高いX線の被曝、および相対的に長いスキャン時間という結果になる。ヘリカルスキャンにおける大きいピッチファクタにより、ステップS10の処理は、最適心位相の決定のために用いられる投影データを得るスキャン時間と、被検体へのX線の被曝とを減少させる。被検体に対するX線の被曝とスキャン時間との低減は、被検体を保護する場合に利点となる。明らかにX線の放射線量の低減は、被検体の安全性を向上させる。短いスキャン時間は、CT撮影において被検体の快適さを高める。加えて、より短いスキャン時間は、短い時間間隔の間で被検体の体の動きをよりたやすく抑制することができるため、スキャンデータの質を向上させる。
【0033】
ステップS10で得られたスキャンデータのうち、投影データと、投影データに対向する対向投影データとの差が計算される。対向投影データとは、投影データに対応するX線のレイに対向する対向X線のレイによる投影データである。計算された差の絶対値総和(Sum of Absolute Difference:以下、SADと呼ぶ)が、投影データセット(またはビュー)各々に対して計算される。一つビューに対するSADは、以下で定義されるように、一つのビューに関する複数のチャンネルに亘る絶対値総和である。
【数2】
【0034】
SADは、投影データに関するレイと対向投影データに関するレイとからなる相補的なレイについてのPI境界曲線上に関するものである。SADの値は、心臓の動きによる投影データセットまたはビューごとの不一致を示している。以下、投影データに関するX線のレイをダイレクトレイと呼ぶ。なお、ダイレクトレイは、プライマリレイまたはリアルレイと取り換えて用いられてもよい。また、対向投影データに関するX線のレイを対向レイと呼ぶ。なお、ダイレクトレイを時間的な基準として現時レイと呼び、対向レイは、ダイレクトレイとの時間関係により、後のレイまたは前のレイと呼んでもよい。
【0035】
上記時間関係により、SADは、SAD
topとSAD
bottomとして定義される。SADは、ダイレクトレイが現時レイであって、対向レイが現時レイの後にヘリカルデータ収集によりサンプリングされたとき、SAD
topとして定義される。同様に、SADは、ダイレクトレイが現時レイであって、対向レイが現時レイの前にヘリカルデータ収集によりサンプリングされたとき、SAD
bottomとして定義される。ステップS20において、SAD
topとSAD
bottomとのうち少なくともいずれか一方が計算される。以下の処理においては、SAD
topとSAD
bottomとが仮定されているものとする。
【0036】
図4において、ビューに対するSADのプロファイルに対して平均フィルタが適用される(ステップS30)。このフィルタリングは、ステップS20でSAD
topとSAD
bottomとのうち少なくともいずれか一方が計算されるとき必要となる。SADは、心臓の動きまたは投影データと対向投影データとによる投影データセットに亘る不一致を示すが、SAD
topとSAD
bottomとの値は、ダイレクトレイと対向レイとの時間関係が異なるため複数のビューに亘って一致しない。二つのSADの値を所定のビューに亘ってシフトさせる前に、SAD
topおよびSAD
bottomのプロファイルは、平均フィルタを適用することにより、平滑化される。平均フィルタは、例えば、所定のフィルタ幅に亘って、SADを加重加算することである。所定のフィルタ幅とは、例えば、1回転当たりのビュー数の0.5倍のビュー数である。
【0037】
ステップS30でフィルタリングされたSAD
topおよびSAD
bottomのデータが、それぞれシフトされる(ステップS40)。言い換えると、ビュー数に対する、加重加算によるフィルタリングが実行されたSAD
topおよびSAD
bottomの加重加算曲線は、動きの位相にこの加重加算曲線を合わせるために、所定量シフトされる。シフトすることは、X線曝射のオンとオフとの境界でSAD
topおよびSAD
bottomの加重加算曲線の両者が不一致の程度を示すSADに関して最大量を有するかどうかを、視覚的に確認することを容易にする。同時に、シフトすることは、SAD
topおよびSAD
bottomの加重加算曲線をお互いに正確に一致させる。ステップS40において、SAD
topおよびSAD
bottomの加重加算曲線がおおむね正確であるとき、最小のSADは、あるビューにおいて心臓の動きが最小であることを示す。
【0038】
上記シフトされたSADデータは、臨床的に関連のあるデータに変換される(ステップS50)。これにより、変換されたSADデータは、心周期に対する割合または0から100で変化する心位相に関して、心臓の動き量を示すマップ(以下モーションマップと呼ぶ)を示す。例えば、モーションマップは、ECGのR波のピークとR波のピークとの間に関する心周期における最適心位相を決定するために用いられる。モーションマップは、再構成による心臓のモーションアーチファクトへの影響が最小となる投影データセットを選択するために用いられる。
【0039】
上記選択された最適心位相に対応する投影データセットに基づいて、予め決定された再構成アルゴリズムに従って、心臓の医用画像が発生される(ステップS60)。最善な画像を再構成するために、埋め込まれたECGの情報が都合よく利用される。ECG情報は、投影データセットから引き出される。引き出されたECG情報は、ステップS50からの臨床的に関連のある情報に基づいて、ステップS60の処理における再構成に対して関連ある投影データセットを取り出すために、ECG表に記憶される。再構成された心臓の医用画像は、おおむねモーションアーティファクトフリーである。同時に、最適心位相の決定はデータ領域で実行されるので、処理の運用は、画像ドメインデータを使っている従来技術に対して、計算処理上効率が良い。
【0040】
図4によれば、上記処理は、SAD
topとSAD
bottomとに関するデータを両方とも利用しているが、最適心位相を決定することにおいて、SAD
topとSAD
bottomとに関するデータのいずれか一方のみ利用してもよい。いずれにせよ、上記ステップS30とステップS40との処理は、最適心位相の正確さを確認するために必然的に実行される。
【0041】
次に、ステップS10からステップS60の処理の各々に対して、他の図面に関してさらに説明する。
図5は、ヘリカルデータの収集処理(ステップS10)に関する外観を示す図である。
図5は、PI境界に関係する個々のレイを示すための図である。矢印j3は、被検体を載置した天板が回転軸RAに沿って動く方向を示す。X線源は、回転軸RAの周りを、ヘリカルパスCで回転する。X線源がヘリカルパスCに関して位置y(S
0)にある間、X線源から放射される5つのX線のレイ各々は、検出器平面(Detector Plane)DP(S
0)に向けて点線で示されている。
図5において、中心レイA
r0は、矢印d
1によって示されたような方向で、検出器平面DPの表面に沿って走査する。同時に、近接したレイA
r1とA
r2とは、y(S
0)でのX線源に対する上部PI境界Γ
1と下部PI境界Γ
2とをそれぞれ形成する。検出器平面DP(S
0)上で、上部PI境界Γ
1と下部PI境界Γ
2とは、各々X線源の軌跡に沿った位置y(S
0)から半回転(π)+δにそれぞれ位置する。ここで、角度δは、中心レイから離れたレイと中心レイとの間の角度である。
【0042】
上部PIウインドウΓ
1と下部PI境界Γ
2とは、PIウインドウを定義する。
図5におけるDP(S
0)上の斜線の領域は、X線源の位置y(S
0)に対するPIウインドウを示している。PIウインドウの境界をPI境界と呼ぶ。PIウインドウは、X線源の軌跡の投影により形成されるので、PIウインドウの大きさは、ヘリカルスピードに関係する。ピッチファクタが大きくなれば、PIウインドウは大きくなる。ピッチファクタまたは天板速度は以下のようなものであることに注意することが重要である。すなわち、PIウインドウが実際の検出器の大きさの限界上またはその範囲内に留まる必要がある。
【0043】
図6Aと
図6Bとは、ダイレクトレイがUP PIウインドウ上にあるとき、PI境界上でのダイレクトレイとダイレクトレイに対向する対向レイとの間の関係を示す図である。
図6Aの概要平面図で示されているように、UP PIウインドウは、以下の時に定義される。X線源S
0からのダイレクトレイが現時レイであって、現時レイの後にX線源S
1からサンプルされたレイが対向レイであるときに定義される。
図6AのS
0とS
1とを結ぶ実線で示されているように、ダイレクトレイに関するPI境界の線は、UP PIウインドウ上での対向レイに関するPI境界の線と共有している。
図6Aの矢印は、ヘリカルデータ収集中の天板の動きに沿ったz方向を示す。このとき、対向レイに対応するPIウインドウは、DOWN PIウインドウである。すなわち、PI境界の線は、UP PIウインドウとDOWN PIウインドウとが共有していることを示している。
【0044】
図6Bは上記UP PIウインドウに対するサイノグラムである。サイノグラムは、ヘリカルデータ収集中における複数のチャンネルと複数のビューとの関係を示している。ダイレクトレイに対して、複数のチャンネルの全域でビューは、同じである。一方、対向レイに対しては、チャンネルが変化するについて、ビューも変化する。すなわち、対向レイに関するビューとチャンネルとは、ダイレクトレイのチャンネルに応じて計算されなければならない。この計算は、
図4のステップS10の処理で得られたような上記ヘリカルデータでのビューに関するSADを決定するために実行される。
図6Bに示すように、ダイレクトレイによるビューVにおけるチャンネルsからチャンネルeまでの投影データは、対向レイのビューVsにおけるチャンネルeからビューVeにおけるチャンネルsまでの投影データにそれぞれ対応する。なお、チャンネルsとチャンネルeとの幅は、例えば被検体の心臓の範囲に対応する。
【0045】
UP PIウインドウに対して、SAD
topは、ダイレクトレイが現時レイであって、対向レイがヘリカルデータの取得において現時レイの後にサンプルされたレイである時、ダイレクトレイと対向レイとに基づいて以下のように計算される。
【数3】
【0046】
ここで、direct
topは、UP PIウインドウ上におけるダイレクトレイに対する投影データである。comp
bottomは、DOWN PIウインドウにおける対向レイに対する対向投影データである。
【0047】
図7Aの概要平面図で示されているように、DOWN PIウインドウは、以下の時に定義される。X線源S
0からのダイレクトレイが現時レイであって、現時レイの後にX線源S
−1からサンプルされたレイが対向レイであるときに定義される。
図7AのS
0とS
−1とを結ぶ実線で示されているように、ダイレクトレイに関するPI境界の線は、DOWN PIウインドウ上での対向レイに関するPI境界の線と共有している。
図7Aの矢印は、ヘリカルデータ収集中の天板の動きに沿ったz方向を示す。
【0048】
図7Bは上記DOWN PIウインドウに対するサイノグラムである。サイノグラムは、ヘリカルデータ収集中における複数のチャンネルと複数のビューとの関係を示している。ダイレクトレイに対して、複数のチャンネルの全域でビューは、同じである。一方、対向レイに対しては、チャンネルが変化するについて、ビューも変化する。すなわち、対向レイに関するビューとチャンネルとは、ダイレクトレイのチャンネルに応じて計算されなければならない。この計算は、
図4のステップS10の処理で得られたような上記ヘリカルデータでのビューに関するSADを決定するために実行される。
図7Bに示すように、ダイレクトレイによるビューVにおけるチャンネルsからチャンネルeまでの投影データは、対向レイのビューVsにおけるチャンネルeからビューVeにおけるチャンネルsまでの投影データにそれぞれ対応する。
【0049】
DOWN PIウインドウに対して、SAD
bottomは、ダイレクトレイが現時レイであって、対向レイがヘリカルデータの取得において現時レイの前にサンプルされたレイである時、ダイレクトレイと対向レイとに基づいて以下のように計算される。
【数4】
【0050】
ここで、direct
botは、DOWN PIウインドウ上におけるダイレクトレイに対する投影データである。comp
topは、UP PIウインドウにおける対向レイに対する対向投影データである。
【0051】
図8は、x−y平面におけるPI境界を示す図である。X線源がS
0に位置しているとき、以下のことを想定する。S
0の位置からのX線源の軌跡は、チャンネルsを透過したプライマリレイA
r1に対向する対向レイを有するビューVsで、上方PI境界を形成する。S
0の位置からのX線源の軌跡は、チャンネルeを透過したプライマリレイA
r2に対向する対向レイを有するビューVeで、下方PI境界を形成する。上方と下方とのPI境界上で、VsとVeとの間の領域は、撮像視野(Field Of View:以下FOVと呼ぶ)である。位置S
0と位置Sとの間の角度δβは、X線源が位置Sにあるとき、で以下の3つの条件を満足する。
【数5】
【0054】
ここで、
図8に示すように、Φ
1はレイA
r0とレイA
r4との間の角度であり、Φ
2はレイA
r0とレイA
r7との間の角度である。rは、x−y平面で再構成される領域に対応するFOVを示す円の半径である。Rは、X線源の軌跡に対する半径である。チャンネルSからチャンネルeまでを透過するすべてのレイは、半径rを有するFOVを覆うために必要とされる。上記条件に基づいて、下方PI境界上のビューの範囲は以下のように定義される。
【数8】
【0056】
ここで、ビューVsとビューVeとは、S
0に位置するX線源からの二つの末端のX線のレイ(A
r1とレイA
r2)に対応するビュー番号である。ViewRevは、1回転当たりのビュー数である。S
0は、位置S
0におけるビュー番号である。二つの末端のX線のレイ(A
r1とレイA
r2)は、FOVまたは再構成領域に接している。ビューVsとビューVeとは、S
0のビュー番号に応じて、多くのビュー番号で表される。
【0057】
同様にして、上方PI境界のビューの範囲は、以下のように定義される。
【数10】
【0059】
ここで、ここで、ビューVsとビューVeとは、S
0に位置するX線源からの二つの末端のX線のレイ(A
r1とレイA
r2)に対応するビュー番号である。ViewRevは、1回転当たりのビュー数である。S
0は、位置S
0におけるビュー番号である。二つの末端のX線のレイ(A
r1とレイA
r2)は、FOVまたは再構成領域に接している。ビューVsとビューVeとは、S
0のビュー番号に応じて、多くのビュー番号で表される。
【0060】
図9Aは、x−y平面におけるPI境界上の特定の位置をどのようにして見いだすかということを示す図である。
図9Bは、y−z平面におけるPI境界上の特定の位置をどのようにして見いだすかということを示す図である。
図9Aによれば、円弧で示されたアイソセンタに対応するX線検出器の領域(以下、検出器領域と呼ぶ)は、太線で示されている。検出器領域は、検出器の各々のセグメント(検出素子)におけるチャンネル番号0chからチャンネル番号Nch−1までの範囲に亘る予め決定されたチャンネル番号Nchを有するために、定義されている。X線源が位置S
0にあるとき、位置Sから放射されたX線のレイは、位置S
0から放射された対応するX線のレイ(ダイレクトレイ)に対する対向レイである。X線源の位置S
0および位置Sとの間の角度δβは、以下の2つの式において角度θと関連付けられる。
【数12】
【0062】
PI境界における位置Sは、以下のように定義される。
【数14】
【0063】
ここで、Cchは、検出器の中心のチャンネル番号である。検出器の中心のチャンネルは、X線源の位置S
0と位置Sとのいずれか一方から放射されたX線であって、回転の中心点を通過したX線を検出する。h
chは、検出器のチャンネル番号である。h
chに対応するチャンネルは、チャンネルCchにより検出されたX線に対して角度θを形成するX線を、検出する。δγは、複数のチャンネル各々を区分するファン角度、または1チャンネル当たりの角度により定義されている。
【0064】
図9Bによれば、X線源が位置S
0にあるとき、検出器上の距離vと距離δzとは、以下のような手法によりy−z平面上でz方向において定義される。S
0からチャンネルhchへのプライマリレイとチャンネルCchへのX線のレイとは、角度θを形成する。上記プライマリレイに対向する対向レイが放射される位置Sは、ヘリカル的な動きのためにS
0に対応するz座標からδzの距離離れている。チャンネルh
chについての上方PI境界に対する垂直距離(δz)を、それぞれのチャンネルに対するビューに関する検出器上で決定するために、距離vは計算される。距離vの単位はミリメートルである。もし天板速度CSがmm/rev(1回転当たりに天板が進む速度)であるならば、距離vの単位は、チャンネル番号または検出器のセグメントの単位に変換することも可能である。
【数15】
【0066】
ここで、CSがmm/revの単位で天板速度が定義されていれば、vはmmである。
【0067】
上記述べた問題点の臨床的な重要性を理解するために、
図10Aのグラフは、ビューに対するX線の強度を、ECG波形とともに示す図である。
図10Aのグラフには、ビューに対するX線の断続的な放射に関する位置も記載されている。X線の断続的な放射に関する位置は、ECGデータのピークに関係して決定される。
図10Bは、X線が放射されている期間に亘って、
図10Aのグラフの一部を拡大した図である。
図10Bは、X線の曝射がONの期間(以下、X線ONと呼ぶ)とX線の曝射がOFFの期間(以下、X線OFFと呼ぶ)との組が、おおよそ1000ビューを超えた範囲に及ぶことを示している。X線ONからOFFへの切り替え時のビューと、X線OFFからONへの切り替え時のビューとは、ダイレクトレイに関する投影データと対向レイに関する投影データとの間に最大の不一致をもたらす。従って、X線ONからOFFへの切り替え時のビューと、X線OFFからONへの切り替え時のビューとは、実際の臨床データにおける心臓の動き量を示すマップ(以下、Mmapと呼ぶ)のためのパラメータを較正するための好ましい目印となる。
【0068】
図11は、ビューと、PIウインドウ上のダイレクトレイと対向レイとに基づいた絶対値総和(不一致)とを示す図である。幅AとAAとは、SAD
topに対する最大の不一致領域を示している。SAD
topは、ダイレクトレイと対向レイとに基づいて、上記UP PIウインドウに対して決定される。この時ダイレクトレイは現時レイであって、対向レイがヘリカルデータ取得において現時レイの後にサンプルされたレイである。同様に、幅BとBBとは、SAD
bottomに対する最大の不一致領域を示している。SAD
bottomは、ダイレクトレイと対向レイとに基づいて、上記DOWN PIウインドウに対して決定される。この時ダイレクトレイは現時レイであって、対向レイがヘリカルデータ取得において現時レイの前にサンプルされたレイである。
図11のグラフは、X線ONからOFFへの切り替え時のビューと、X線OFFからONへの切り替え時のビューとを示している。
【0069】
X線ONからOFFへの切り替え時のビューと、X線OFFからONへの切り替え時のビューとは、ダイレクトレイに関する投影データと対向レイに関する投影データとの間に最大の不一致をもたらす。従って、X線ONからOFFへの切り替え時のビューと、X線OFFからONへの切り替え時のビューとは、実際の臨床データにおける心臓の動き量を示すマップ(以下、Mmapと呼ぶ)のためのパラメータを較正するための好ましい目印となる。PI境界に関するデータによる絶対値総和のビューに対する曲線(以下、PI境界データ差異曲線と呼ぶ)は、幅A、AA、B、BBにおけるビュー―不一致曲線と同意義である。これらの理由で、PI境界データ差異曲線は、信頼性の高いMmap曲線を形成するために、処理される。この処理は、フィルタで平均化することと、PI境界データ差異曲線をシフトすることとを有する。
【0070】
平均化のためのフィルタ幅は、
図11におけるグラフに示された値に基づいて推定することができる。例えば、最大の不一致領域AとAAとの間における近似的な平均のビューの差は、1回転当たりのビュー数の半分付近である。幅のサイズ(1回転当たりのビュー数の0.5倍)は、ビュー―不一致曲線を滑らかにすることのためのよい候補である。この点に注意して、1回転当たり600ビューであるとき、フィルタリング幅FltLとして300ビューが用いられる。さらに、フィルタリングは、以下のように加重曲線wで構成されてもよい。
【数17】
【0071】
ここで、νはビューである。FltLは、1回転当たりのビュー数の0.5倍に基づいたフィルタリング幅である。加重曲線wは、平均関数とガウシアン重み付け関数とのいずれか一方である。SADは、予め定義されたSAD
topとSAD
bottomとのいずれか一方である。
【0072】
図12は、PI境界データ差異曲線または上記フィルタによりフィルタリングされた加重加算曲線を示すグラフである。PI境界データ差異曲線と加重加算されたSAD
topとSAD
bottomとは、X線ONからOFFへの切り替え時のビューの近傍とX線OFFからONへの切り替え時のビューの近傍とにおいて、実質的に最大の不一致をより顕著に示している。しかしながら、PI境界データ差異曲線と加重加算されたSAD
topとSAD
bottomとは、X線ONからOFFへの切り替え時のビューの近傍とX線OFFからONへの切り替え時のビューの近傍とにおいて、まだ一致していない。一致させる操作の最終工程は、PI境界データ差異曲線と加重加算されたSAD
topとSAD
bottomとを、X線ONとX線OFFとの間のビューの方へまたは反対方向へ所定量シフトすることである。最大の不一致領域Aに対するビューとX線OFFからONへの切り替え時のビューとの差、および最大の不一致領域AAに対するビューとX線ONからOFFへの切り替え時のビューとの差は、加重加算曲線上で150ビューである。
【0073】
図13は、シフトされたPI境界データ差異曲線または加重加算曲線を示すグラフである。
図12の加重加算曲線は、150ビューだけシフトされている。この150ビューは、近似的に1回転当たりのビュウ数の4分の1に対応している。重み付けられたPI境界データ差異曲線とSAD
topとSAD
bottomとは以下の式に定義されるような手法でシフトされる。
【数18】
【0074】
ここで、ViewRevは、1回転当たりのビュー数である。
【0075】
図14は、シフトされ、重み付けられたPI境界データ差異曲線とSAD
topとSAD
bottomとから発生されたモーションマップを示す図である。モーションマップは、シフトされ、重み付けられたPI境界データ差異曲線とSAD
topとSAD
bottomとにおける最小の不一致量に対する最適心位相を表す。モーションマップは、心臓の動きが最も小さくなる収縮相の末端近傍と弛緩相の中点近傍とのような最適心位相を示す。実質的にモーションアーティファクトフリーな医用画像を、対応する投影データから再構成するために、最適心位相は臨床的に参照される。
【0076】
上記記述は、実例として自動的に心位相マップを発生させることを用いて、最適な位相を決定するための実施形態についての記述である。本実施形態によれば、データ収集中に上記処理を実行できるため、処理時間が短縮される。また、本実施形態によれば、多列のX線検出器を有しかつピッチファクタの大きいX線コンピュータ断層撮影装置において、正確なモーションマップを発生させることができる。本実施形態は、実質的にモーションアーティファクトフリーな医用画像を再構成することとヘリカルスキャンデータを選択することとに関するシステムと処理とを改良することにより、肺のような他の臓器に適用可能である。加えて、本実施形態の技術的思想は、他のモダリティに適用することも可能である。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。