特許第5954811号(P5954811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954811
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ちょう架給電線保護方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/00 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   H02G7/00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-35596(P2011-35596)
(22)【出願日】2011年2月22日
(65)【公開番号】特開2012-175813(P2012-175813A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年6月11日
【審判番号】不服2014-18727(P2014-18727/J1)
【審判請求日】2014年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221409
【氏名又は名称】東神電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(72)【発明者】
【氏名】網干 光雄
(72)【発明者】
【氏名】甘利 智
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健二
【合議体】
【審判長】 鈴木 匡明
【審判官】 加藤 浩一
【審判官】 飯田 清司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−294776(JP,A)
【文献】 特開平09−058304(JP,A)
【文献】 特開2007−282428(JP,A)
【文献】 特開2000−245039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M1/22-1/28
H01B13/00
H02G7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ちょう架給電線の支持点から所定距離の範囲のみに前記ちょう架給電線の外層として剛性の高いラインガードを巻き付けて、前記支持点から所定距離の範囲の曲げ剛性を増加させることにより、前記ちょう架給電線自体に生じる曲げ応力を低減するちょう架給電線保護方法であって、前記ちょう架給電線は硬アルミニウムより線であり、前記ラインガードはアルミニウム覆鋼線であり、前記支持点からの前記アルミニウム覆鋼線の所定距離を支持点から前後1m計2mに設定することにより、前記ラインガードを巻き付けた時、前記ちょう架給電線自体の曲げ剛性が硬アルミニウムより線150mm2 では、アルミニウム覆鋼線φ3.5mmの15本構成の場合7.6倍、硬アルミニウムより線300mm2 では、アルミニウム覆鋼線φ4.5mmの16本構成の場合7.1倍となるように構成することを特徴とするちょう架給電線保護方法。
【請求項2】
請求項1記載のちょう架給電線保護方法において、前記アルミニウム覆鋼線の線径と同じであるラインガードの厚さが3.5mmまたは4.5mmであることを特徴とするちょう架給電線保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の架空送電線などをちょう架するちょう架給電線保護方法に係り、特にちょう架給電線の支持部において、過大な曲げ応力による損傷・断線を防止するためのちょう架給電線保護方法に関するものである。なお、ここで、ちょう架給電線とは給電のために支持部材によって吊り下げられた状態にある給電線をいい、メッセンジャワイヤとしてのちょう架線を意味するものではない。
【背景技術】
【0002】
従来、ちょう架給電線は支持部材に1点で支持するようにしていた(下記特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3332815号公報
【特許文献2】特開2009−124882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のちょう架給電線保護方法では、地震時や強風時にちょう架給電線が振動することにより、ちょう架給電線の支持部において曲げ応力が過大になり、ちょう架給電線が損傷・断線するなどの問題があった。
【0005】
また、地震時や強風時、列車通過時の振動によって、ちょう架給電線の支持部において振動疲労が蓄積し、ちょう架給電線の損傷・断線などによりちょう架給電線の寿命が短くなるといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、ちょう架給電線の支持部における曲げ応力を低減させることができるちょう架給電線保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ちょう架給電線の支持点から所定距離の範囲のみに前記ちょう架給電線の外層として剛性の高いラインガードを巻き付けて、前記支持点から所定距離の範囲の曲げ剛性を増加させることにより、前記ちょう架給電線自体に生じる曲げ応力を低減するちょう架給電線保護方法であって、前記ちょう架給電線は硬アルミニウムより線であり、前記ラインガードはアルミニウム覆鋼線であり、前記支持点からの前記アルミニウム覆鋼線の所定距離を支持点から前後1m計2mに設定することにより、前記ラインガードを巻き付けた時、前記ちょう架給電線自体の曲げ剛性が硬アルミニウムより線150mm2 では、アルミニウム覆鋼線φ3.5mmの15本構成の場合7.6倍、硬アルミニウムより線300mm2 では、アルミニウム覆鋼線φ4.5mmの16本構成の場合7.1倍となるように構成することを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載のちょう架給電線保護方法において、前記アルミニウム覆鋼線の線径と同じであるラインガードの厚さが3.5mmまたは4.5mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震時や強風時におけるちょう架給電線の曲げ応力を低減して、ちょう架給電線の損傷・断線などを防止することにより、停電を回避し、電気鉄道の安全性・安定性の向上を図ることができる。
【0010】
また、地震時や強風時、列車通過時の振動によるちょう架給電線の振動疲労を軽減し、設備の長寿命化を図ることにより、保全の効率化、設備の信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るラインガードを取り付けたちょう架給電線を示す模式図である。
図2】ちょう架給電線の外層にラインガードとして鋼を付加した断面モデルを示す図である。
図3】ラインガードの厚さと全体曲げ剛性との関係を示す図である。
図4】ラインガードの厚さと全体曲げ剛性の増加倍率との関係を示す図である。
図5】本発明に係るラインガードを取り付けたちょう架給電線の解析モデルを示す図である。
図6】支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のちょう架給電線(硬アルミニウムより線150mm2 )曲げ変形を示す図である。
図7】支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のちょう架給電線(硬アルミニウムより線150mm2 )曲げモーメント分布を示す図である。
図8】支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のちょう架給電線(硬アルミニウムより線300mm2 )曲げモーメント分布を示す図である。
図9】本発明の実施例を示す適用電線(硬アルミニウムより線150mm2 )およびラインガード(アルミニウム覆鋼線)の構成図である。
図10】本発明の実施例を示す適用電線(硬アルミニウムより線300mm2 )およびラインガード(アルミニウム覆鋼線)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のちょう架給電線保護方法は、ちょう架給電線の支持点から所定距離の範囲のみに前記ちょう架給電線の外層として剛性の高いラインガードを巻き付けて、前記支持点から所定距離の範囲の曲げ剛性を増加させることにより、前記ちょう架給電線自体に生じる曲げ応力を低減するちょう架給電線保護方法であって、前記ちょう架給電線は硬アルミニウムより線であり、前記ラインガードはアルミニウム覆鋼線であり、前記支持点からの前記アルミニウム覆鋼線の所定距離を支持点から前後1m計2mに設定することにより、前記ラインガードを巻き付けた時、前記ちょう架給電線自体の曲げ剛性が硬アルミニウムより線150mm2 では、アルミニウム覆鋼線φ3.5mmの15本構成の場合7.6倍、硬アルミニウムより線300mm2 では、アルミニウム覆鋼線φ4.5mmの16本構成の場合7.1倍となるように構成する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
従来、ちょう架給電線が単に支持部材により1点で支持されていたのに対して、本発明においては、支持点を中心として所定距離を有するラインガードをちょう架給電線の外層とすることにより、ちょう架給電線の支持部において曲げ応力を低減させることができる。
【0015】
図1は本発明に係るラインガードを取り付けたちょう架給電線を示す模式図、図2はそのちょう架給電線の外層にラインガードとして鋼を付加した断面モデルを示す図である。
【0016】
これらの図において、1はちょう架給電線(例えば、硬アルミニウムより線からなるAT保護線、き電線)である適用電線、2は支持点3を中心として所定距離だけ適用電線1に巻付けられるラインガード(例えば、鋼)である。なお、図2において、rは適用電線1の半径、tはラインガード2の厚さを示している。
【0017】
ここでは、より線の合計断面積が等しい単線を仮定する(断面積等価モデル)。この場合の曲げ剛性は次式で表される。
【0018】
内心の断面二次モーメント:I1 =πr4 /4
外層の断面二次モーメント:I2 =π〔(r+t)4 −r4 〕/4
合計の曲げ剛性:EI=E1 ×I1 +E2 ×I2
次に、上記したように、AT保護線やき電線などの適用電線1としてのちょう架給電線が過大な曲げ応力により支持点3で断線することを防止するため、適用電線1の支持点3の箇所にラインガード2を取り付けた場合の曲げ応力緩和効果について説明する。ラインガード2は、適用電線1の外層に鋼を付加する構造とする。
【0019】
そこで、曲げ剛性の計算例について説明する。
【0020】
図3にラインガードの厚さと全体曲げ剛性との関係を、図4にそのラインガードの厚さと全体曲げ剛性の増加倍率との関係を示す。ただし、以下の定数を用いて計算した。
【0021】
HAL(硬アルミニウムより線)150mm2 の場合:断面積1.528×10-42 ,単線と仮定したときの等価半径r=0.697×10-2
HAL300mm2 の場合:断面積2.976×10-42 ,単線と仮定したときの等価半径r=0.973×10-2
アルミニウムの縦弾性係数:0.62×1011N/m2
ラインガードに用いる鋼の縦弾性係数:1.96×1011N/m2
このように、適用電線1の支持部3付近のみにおいて、適用電線1の外層として剛性の高い鋼線からなるラインガード2を巻き付けて、当該部分の曲げ剛性を増加させることにより、適用電線1自体の最大曲げ応力を低減する。この時、ラインガード2の曲げ剛性が適用電線1の曲げ剛性と張力に応じて算出される適切な曲げ剛性となるように、ラインガード2としての鋼線の素線の径や構成本数を設定する。
【0022】
以下、ラインガードを有するちょう架給電線に張力が作用した梁モデルによる解析について説明する。
【0023】
図5に示すように、x=−S,Sで単純支持した張力の作用する梁モデルを考える。適用電線1としてのちょう架給電線のx=−L〜Lの区間において、ラインガード2を付加することによって曲げ剛性を増加させるようにしている。ここで、x=0において支持点3でちょう架されて支持される場合の上向きにFの力を加えたときの曲げ変形を求める。
【0024】
ちょう架給電線を、張力の作用する梁と仮定し、境界条件を用いれば各部の変位・曲げモーメントを求めることができる。
【0025】
次に、曲げモーメントの計算例について説明する。
【0026】
S=50m,L=1mの条件で、支持点3付近の曲げ剛性を増加させたときの計算結果を以下に示す。ただし、作用力Fは単位力(1N)である。適用電線の種類と諸元は、次の通りである。
(1)AT保護線:HAL150mm2 ,張力:1.67×103 N,曲げ剛性:1.0×102 Nm2
(2)き電線:HAL300mm2 ,張力:3.92×103 N,曲げ剛性:2.6×102 Nm2
図6に支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のHAL150mm2 の曲げ変位を示す。また、図7,8に、それぞれ、支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のHAL150mm2 およびHAL300mm2 の曲げモーメント分布を示す。
【0027】
支持点3付近の曲げ剛性増加倍率が小さい場合は、支持点3での曲げモーメントが最も高く、支持点3付近の曲げ剛性増加倍率を十分大きくすると、ラインガード2の端部(支持点3からの距離1.0m)の曲げモーメントが最も高くなることが分かる。この場合、これらの曲げモーメントはラインガード2を取り付けない場合と同じ値となる。したがって、曲げモーメントを効果的に低減するためには最適値が存在し、これらの場合おおよそ7倍強程度である。また、図4を参照すると、ラインガード2としての鋼の厚さは2mm程度となり、その場合の最大曲げモーメントは、ラインガード2を設けない場合の1/2になることがわかる。
【0028】
したがって、ラインガード2による曲げ剛性増加倍率を7倍強程度にすることにより、適用電線1の曲げモーメントを、ラインガード2を取り付けない場合の約1/2に軽減できることが期待される。
【0029】
図9は本発明の実施例を示す適用電線(硬アルミニウムより線150mm2 )およびラインガード(アルミニウム覆鋼線)の構成図であり、図9(a)はアルミニウム覆鋼線の素線を数本接着したラインガードの構成部材を示す図、図9(b)は適用電線にラインガードを巻き付けた状態を示す正面図、図9(c)はラインガードとして線径φ3.50mmのアルミニウム覆鋼線を用いた場合における図9(b)のA−A′線拡大断面図、図9(d)はラインガードとして線径φ4.50mmのアルミニウム覆鋼線を用いた場合における図9(b)のA−A′線拡大断面図、図9(e)はラインガードとして線径φ5.00mmのアルミニウム覆鋼線を用いた場合における図9(b)のA−A′線拡大断面図である。これらのラインガードの仕様は表1に示す通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
これらの図において、10は適用電線、11はアルミニウム覆鋼線の素線を数本接着したラインガードの構成部材、12はラインガード、13は端末ゴムコーティング、14は中央色マークである。
【0032】
ここでは、適用電線が硬アルミニウムより線であることから、ラインガードの素線はアルミニウム覆鋼線を用いることにしている。
【0033】
図9(a)に示したラインガードとしてのアルミニウム覆鋼の素線11の端末には端末ゴムコーティング13が、中央には中央色マーク14が設けられている。したがって、中央色マーク14を適用電線の支持部に位置決めして適用電線10に巻き付けて、端末ゴムコーティング13でアルミニウム覆鋼の素線11の端末部分が適用電線10に傷を付けることを防止できる。なお、複数本の素線11を撚ってラインガード12とする際、素線11に形成される螺旋内面には研削材(摩擦増加材)を塗布するようにしている。
【0034】
図10は本発明の実施例を示す適用電線(硬アルミニウムより線300mm2 )およびラインガード(アルミニウム覆鋼線)の構成図であり、適用電線の線径が異なる点以外は図9と同様の構成となっている。また、これらのラインガードの仕様は表2に示す通りである。
【0035】
【表2】
【0036】
表3に適用電線であるHALの断面積150mm2 と300mm2 の曲げ剛性の算出表が示されている。
【0037】
【表3】
【0038】
表4に適用電線であるHALの断面積150mm2 と300mm2 へラインガードが設けられた場合のラインガードの曲げ剛性の算出表が示されている。ラインガードを構成するアルミニウム覆鋼の素線のアルミニウム部分を除外した鋼心部のみの計算値である。
【0039】
【表4】
【0040】
表3および表4において、断面2次モーメントの値はCAD作成図形を構造解析ソフトで算出したものである。表5に適用電線であるHALの断面積150mm2 と300mm2 +ラインガードの曲げ剛性の算出表が示されている。
【0041】
【表5】
【0042】
これらから、曲げ剛性増加率を7倍強程度にするためには、HAL150mm2 ではアルミニウム覆鋼線φ3.5mmの15本構成(7.6倍)、HAL300mm2 ではφ4.5mmの16本構成(7.1倍)が適当と考えられる。
【0043】
なお、上記実施例では、硬アルミニウムより線にアルミニウム被覆鋼線を巻き付ける例について述べたが、これに限定されるものではなく、硬銅より線に銅被覆鋼線を巻き付けるようにように構成してもよい。
【0044】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のちょう架給電線保護方法は、ちょう架給電線の支持部において曲げ応力を低減させることができるちょう架給電線保護方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1,10 適用電線(ちょう架給電線)
2,12 ラインガード
3 支持点
11 アルミニウム覆鋼線の素線を数本接着したラインガードの構成部材
13 端末ゴムコーティング
14 中央色マーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10