【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
従来、ちょう架給電線が単に支持部材により1点で支持されていたのに対して、本発明においては、支持点を中心として所定距離を有するラインガードをちょう架給電線の外層とすることにより、ちょう架給電線の支持部において曲げ応力を低減させることができる。
【0015】
図1は本発明に係るラインガードを取り付けたちょう架給電線を示す模式図、
図2はそのちょう架給電線の外層にラインガードとして鋼を付加した断面モデルを示す図である。
【0016】
これらの図において、1はちょう架給電線(例えば、硬アルミニウムより線からなるAT保護線、き電線)である適用電線、2は支持点3を中心として所定距離だけ適用電線1に巻付けられるラインガード(例えば、鋼)である。なお、
図2において、rは適用電線1の半径、tはラインガード2の厚さを示している。
【0017】
ここでは、より線の合計断面積が等しい単線を仮定する(断面積等価モデル)。この場合の曲げ剛性は次式で表される。
【0018】
内心の断面二次モーメント:I
1 =πr
4 /4
外層の断面二次モーメント:I
2 =π〔(r+t)
4 −r
4 〕/4
合計の曲げ剛性:EI=E
1 ×I
1 +E
2 ×I
2
次に、上記したように、AT保護線やき電線などの適用電線1としてのちょう架給電線が過大な曲げ応力により支持点3で断線することを防止するため、適用電線1の支持点3の箇所にラインガード2を取り付けた場合の曲げ応力緩和効果について説明する。ラインガード2は、適用電線1の外層に鋼を付加する構造とする。
【0019】
そこで、曲げ剛性の計算例について説明する。
【0020】
図3にラインガードの厚さと全体曲げ剛性との関係を、
図4にそのラインガードの厚さと全体曲げ剛性の増加倍率との関係を示す。ただし、以下の定数を用いて計算した。
【0021】
HAL(硬アルミニウムより線)150mm
2 の場合:断面積1.528×10
-4m
2 ,単線と仮定したときの等価半径r=0.697×10
-2m
HAL300mm
2 の場合:断面積2.976×10
-4m
2 ,単線と仮定したときの等価半径r=0.973×10
-2m
アルミニウムの縦弾性係数:0.62×10
11N/m
2
ラインガードに用いる鋼の縦弾性係数:1.96×10
11N/m
2
このように、適用電線1の支持部3付近のみにおいて、適用電線1の外層として剛性の高い鋼線からなるラインガード2を巻き付けて、当該部分の曲げ剛性を増加させることにより、適用電線1自体の最大曲げ応力を低減する。この時、ラインガード2の曲げ剛性が適用電線1の曲げ剛性と張力に応じて算出される適切な曲げ剛性となるように、ラインガード2としての鋼線の素線の径や構成本数を設定する。
【0022】
以下、ラインガードを有するちょう架給電線に張力が作用した梁モデルによる解析について説明する。
【0023】
図5に示すように、x=−S,Sで単純支持した張力の作用する梁モデルを考える。適用電線1としてのちょう架給電線のx=−L〜Lの区間において、ラインガード2を付加することによって曲げ剛性を増加させるようにしている。ここで、x=0において支持点3でちょう架されて支持される場合の上向きにFの力を加えたときの曲げ変形を求める。
【0024】
ちょう架給電線を、張力の作用する梁と仮定し、境界条件を用いれば各部の変位・曲げモーメントを求めることができる。
【0025】
次に、曲げモーメントの計算例について説明する。
【0026】
S=50m,L=1mの条件で、支持点3付近の曲げ剛性を増加させたときの計算結果を以下に示す。ただし、作用力Fは単位力(1N)である。適用電線の種類と諸元は、次の通りである。
(1)AT保護線:HAL150mm
2 ,張力:1.67×10
3 N,曲げ剛性:1.0×10
2 Nm
2
(2)き電線:HAL300mm
2 ,張力:3.92×10
3 N,曲げ剛性:2.6×10
2 Nm
2
図6に支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のHAL150mm
2 の曲げ変位を示す。また、
図7,8に、それぞれ、支持点付近のみの曲げ剛性を増加させた場合のHAL150mm
2 およびHAL300mm
2 の曲げモーメント分布を示す。
【0027】
支持点3付近の曲げ剛性増加倍率が小さい場合は、支持点3での曲げモーメントが最も高く、支持点3付近の曲げ剛性増加倍率を十分大きくすると、ラインガード2の端部(支持点3からの距離1.0m)の曲げモーメントが最も高くなることが分かる。この場合、これらの曲げモーメントはラインガード2を取り付けない場合と同じ値となる。したがって、曲げモーメントを効果的に低減するためには最適値が存在し、これらの場合おおよそ7倍強程度である。また、
図4を参照すると、ラインガード2としての鋼の厚さは2mm程度となり、その場合の最大曲げモーメントは、ラインガード2を設けない場合の1/2になることがわかる。
【0028】
したがって、ラインガード2による曲げ剛性増加倍率を7倍強程度にすることにより、適用電線1の曲げモーメントを、ラインガード2を取り付けない場合の約1/2に軽減できることが期待される。
【0029】
図9は本発明の実施例を示す適用電線(硬アルミニウムより線150mm
2 )およびラインガード(アルミニウム覆鋼線)の構成図であり、
図9(a)はアルミニウム覆鋼線の素線を数本接着したラインガードの構成部材を示す図、
図9(b)は適用電線にラインガードを巻き付けた状態を示す正面図、
図9(c)はラインガードとして線径φ3.50mmのアルミニウム覆鋼線を用いた場合における
図9(b)のA−A′線拡大断面図、
図9(d)はラインガードとして線径φ4.50mmのアルミニウム覆鋼線を用いた場合における
図9(b)のA−A′線拡大断面図、
図9(e)はラインガードとして線径φ5.00mmのアルミニウム覆鋼線を用いた場合における
図9(b)のA−A′線拡大断面図である。これらのラインガードの仕様は表1に示す通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
これらの図において、10は適用電線、11はアルミニウム覆鋼線の素線を数本接着したラインガードの構成部材、12はラインガード、13は端末ゴムコーティング、14は中央色マークである。
【0032】
ここでは、適用電線が硬アルミニウムより線であることから、ラインガードの素線はアルミニウム覆鋼線を用いることにしている。
【0033】
図9(a)に示したラインガードとしてのアルミニウム覆鋼の素線11の端末には端末ゴムコーティング13が、中央には中央色マーク14が設けられている。したがって、中央色マーク14を適用電線の支持部に位置決めして適用電線10に巻き付けて、端末ゴムコーティング13でアルミニウム覆鋼の素線11の端末部分が適用電線10に傷を付けることを防止できる。なお、複数本の素線11を撚ってラインガード12とする際、素線11に形成される螺旋内面には研削材(摩擦増加材)を塗布するようにしている。
【0034】
図10は本発明の実施例を示す適用電線(硬アルミニウムより線300mm
2 )およびラインガード(アルミニウム覆鋼線)の構成図であり、適用電線の線径が異なる点以外は
図9と同様の構成となっている。また、これらのラインガードの仕様は表2に示す通りである。
【0035】
【表2】
【0036】
表3に適用電線であるHALの断面積150mm
2 と300mm
2 の曲げ剛性の算出表が示されている。
【0037】
【表3】
【0038】
表4に適用電線であるHALの断面積150mm
2 と300mm
2 へラインガードが設けられた場合のラインガードの曲げ剛性の算出表が示されている。ラインガードを構成するアルミニウム覆鋼の素線のアルミニウム部分を除外した鋼心部のみの計算値である。
【0039】
【表4】
【0040】
表3および表4において、断面2次モーメントの値はCAD作成図形を構造解析ソフトで算出したものである。表5に適用電線であるHALの断面積150mm
2 と300mm
2 +ラインガードの曲げ剛性の算出表が示されている。
【0041】
【表5】
【0042】
これらから、曲げ剛性増加率を7倍強程度にするためには、HAL150mm
2 ではアルミニウム覆鋼線φ3.5mmの15本構成(7.6倍)、HAL300mm
2 ではφ4.5mmの16本構成(7.1倍)が適当と考えられる。
【0043】
なお、上記実施例では、硬アルミニウムより線にアルミニウム被覆鋼線を巻き付ける例について述べたが、これに限定されるものではなく、硬銅より線に銅被覆鋼線を巻き付けるようにように構成してもよい。
【0044】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。