【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、溶液の調製、または測定に用いた水はすべてイオン交換水を用いた。
【0045】
〔実施例1〕
<1,3−ビス(ベンゾイミダゾール−1−イル−メチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン(m−bbitb)の合成>
H. K. Liu, C. Y. Su, C.M. Qian, J. Liu, H. Y. Tan, B. S. Kang, J. Chem. Soc., Dalton Trans., 2001, 8, 1167.に記載の合成方法に従い、1,3−ビス(ベンゾイミダゾール−1−イル−メチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン(m−bbitb)を合成した。
【0046】
<カプセル型化合物([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4)の合成>
下記反応スキーム1に従い、カプセル型化合物([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4)を合成した。
【0047】
【化5】
【0048】
以下、反応スキーム1の詳細について説明する。
まず、CuSO
4・5H
2O(37mg,0.15mmol)を水(30mL)に溶かし、CuSO
4・5H
2Oの水溶液を得た。
次に、m−bbitb(110mg,0.30mmol)をエタノールに溶かしたm−bbitb溶液を調製し、得られたm−bbitb溶液をCuSO
4・5H
2Oの水溶液に添加し、室温(25℃)で1週間程静置したところ青色固体が生じた。
得られた青色固体をろ過して集めて乾燥させて、
図1に示す構造の[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4を得た(収量98.1mg(収率66.4%))。
[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4の構造は、下記元素分析及び下記結晶学データ(単結晶X線構造解析)により確認した。
元素分析は、Euro Vector社製Euro EA3000を用いて行った。
単結晶X線構造解析は、(株)リガク製の構造解析装置(マーキュリー二次元検出器システム)を用い、室温(25℃)でモリブデンKαの線源を用いてX線の反射データを収集し、収集した反射データを(株)リガク製の Crystal Structure プログラムを用いて解析することにより行った。
【0049】
〜元素分析結果〜
Calcd for C
100H
110Cu
2N
16O
15S
2: C, 61.05; H, 5.64; N, 11.39.
Found: C, 60.66; H, 5.21; N, 11.07.
【0050】
〜結晶学データ〜
分子式: C
100H
110Cu
2N
16O
15S
2, M
r = 1967.28, monoclinic, space group C2/m (No.12), a = 19.508(15)Å, b = 24.484(19)Å, c = 13.377(11)Å, β = 126.072(7)°, V = 5164(7) Å
3, Z = 2, D
c = 1.265 gcm
-3, μ(Mo Kα) = 0.521 mm
-1, T = 293 K, λ = 0.7107Å, ω scan. Of a total of 5935 reflections collected, 3450 were independent (R
int = 0.065). 362 parameters. The structure was solved by direct methods and refined by full-matrix least squares on F. Final R1 [I>2σ(I)] = 0.0892 and wR = 0.1177 (all data); GOF = 1.174.
【0051】
<カプセル型化合物([SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4)の合成>
下記反応スキーム2に従い、ニッケルイオンを用いてカプセル型化合物([SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4)を合成した。
【0052】
【化6】
【0053】
以下、反応スキーム2の詳細について説明する。
まず、NiSO
4・6H
2O(39.4mg,0.15mmol)を水(30mL)に溶かし、NiSO
4・6H
2Oの水溶液を得た。
次に、m−bbitb(110mg,0.30mmol)をエタノールに溶かしたm−bbitb溶液を調製し、得られたm−bbitb溶液をNiSO
4・6H
2Oの水溶液に添加し、およそ40℃で数時間撹拌した。反応溶液中に生成した沈殿をろ過して除いた後、ろ液を減圧下で徐々に濃縮し、緑白色固体を得た。得られた緑白色固体をろ過により集め、減圧下で乾燥させ、[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4を得た(収量 80mg、0.044mmol;(収率58%))。
[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4の生成は、下記元素分析により確認した。
元素分析は、Euro Vector社製Euro EA3000を用いて行った。
【0054】
〜元素分析結果〜
Calcd for C
100H
96N
16Ni
2O
8S
2: C, 65.58; H, 5.28; N, 12.24.
Found: C, 65.65; H, 5.12; N, 12.36.
【0055】
<[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターの作製>
[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4(0.20g、0.10mmol)を40mLの水に懸濁させた。この懸濁液を、シリンジに取り付けたシリンジフィルター(ラボラボカンパニー(株)製、フィルターの直径40mm、フィルターの細孔サイズ0.2mm)を通過させ、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4をシリンジフィルターに固定した。次いでこのシリンジフィルターを室温、減圧下で24時間乾燥させ、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4が固定されたシリンジフィルター(以下、「[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルター」ともいう)を得た。
【0056】
〔実施例2〕
<カプセル型化合物([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4)によるアニオン(陰イオン)の除去>
過塩素酸ナトリウム(61.2mg,0.5mmol)、臭化ナトリウム(51.5mg,0.5mmol)、硝酸ナトリウム(42.5mg,0.5mmol)、硫酸ナトリウム(71.0mg,0.5mmol)、をそれぞれ正確に量り取り、水温30℃の超純水(500mL)に溶解させ、各アニオン(ClO
4−、Br
−、NO
3−、SO
42−)の濃度が1mMのアニオン水溶液Aを調製した。
続いて100mLコニカルビーカーに[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4(0.1967g,0.1mmol)を正確に量り取り、上記で調製したアニオン水溶液A100mLを加えて水系試料1とし、この水系試料1を恒温装置で30℃に保ち静置した。
上記アニオン水溶液Aの添加後10分以内においては2分ごとに、上記アニオン水溶液の添加後10分を超えて30分以内においては10分ごとに、上記アニオン水溶液の添加後30分を超えて180分以内においては30分ごとに、水系試料1から20μLを量り採り、量り採った20μLの水系試料1を超純水4800μLで25倍に希釈し、希釈された水系試料1中における各アニオンの濃度をイオンクロマトグラフィーを用いて測定した。イオンクロマトグラフィーはメトローム社製のMetrohm Compact IC 861 ion chromatographyを用いて行った。測定結果から、水系試料1中におけるアニオン濃度の推移を求めた。
水系試料1におけるアニオン濃度の推移を表1及び
図2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1中の「Time(min)」欄及び
図2中の横軸は、上記アニオン水溶液Aの添加からの経過時間(単位:分)を表す。表1中の「Br
−(mM)」欄、「NO
3−(mM)」欄、「SO
42−(mM)」欄、及び「ClO
4−(mM)」欄、並びに
図2中の縦軸は、水系試料1における各アニオンの濃度(単位:mM)である。
【0059】
表1及び
図2に示すように、アニオン水溶液Aの添加から2分経過後に、Br
−、NO
3−、及びClO
4−の濃度の顕著な低下が確認された。アニオン水溶液Aの添加から30分以内に、Br
−の濃度は0.8mM程度まで、NO
3−の濃度は0.5mM程度まで、ClO
4−の濃度は0.03mM程度まで低下した。
【0060】
実施例2において、特にClO
4−については濃度低下が著しく、1mM(約100,000ppb)であったClO
4−濃度が経過時間1時間以内に0.02mM以下(約2,000ppb以下)にまで低下した。
【0061】
また、アニオン水溶液Aの添加からの経過時間に従いSO
42−が増大していることから、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4中の対イオンとしてのSO
42−と、Br
−、NO
3−、及びClO
4−と、の対イオン交換が起こっていることが確認された。
【0062】
〔実施例3〕
<カプセル型化合物([SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4)によるアニオン(陰イオン)の除去>
実施例2において、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4を[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4に変更したこと以外は実施例2と同様にしてアニオン(陰イオン)の除去の実験を行ったところ、実施例2と同様に、[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4が水系試料中のアニオン(陰イオン)濃度を低下させることが確認された。
【0063】
〔実施例4〕
<[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターによるアニオン(陰イオン)の除去>
1000ppbの過塩素酸イオンを含む過塩素酸ナトリウム水溶液(0.010mM)6mLを調製し、この水溶液を上記で示した[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過させた。
[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過する前と通過した後とについて、それぞれ、過塩素酸ナトリウム水溶液中に含まれる過塩素酸イオン(ClO
4−)の濃度をイオンクロマトグラフィーを用いて決定した。
図3に、過塩素酸ナトリウム水溶液([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過する前)のイオンクロマトグラフィーのチャートを示し、
図4に、過塩素酸ナトリウム水溶液([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過した後)のイオンクロマトグラフィーのチャートを示す。
図3及び
図4の結果より、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過する前は1000ppbであったClO
4−の濃度が、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過した後では12ppbとなっていることがわかった。
また、
図4に示すように、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過した後では、SO
42−の強いピークが確認された。この結果から、このフィルターを通過させることで、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4中の対イオンとしてのSO
42−と、ClO
4−と、の対イオン交換が起こっていることが確認された。
【0064】
上記のとおり、実施例4では、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4−固定フィルターを通過させるだけで、ClO
4−の濃度を、1000ppbから12ppbまで減少させることができた。現在、米国環境保護庁(EPA)では過塩素酸イオンの安全基準濃度の目標値が24.5ppb以下と設定されているが、本実施例4ではこの安全基準濃度を極めて短い時間で達成できた。
【0065】
〔実施例5〕
<カプセル型化合物([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4)によるヨウ化物イオンの除去>
ヨウ化ナトリウム(150mg,1mmol)を正確に量り取り、水温30℃の超純水(1000mL)に溶解させ、濃度が1mMのヨウ化物イオン水溶液Bを調製した。
続いて100mLコニカルビーカーに[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4(0.1967g,0.1mmol)を正確に量り取り、上記で調製したヨウ化物イオン水溶液B100mLを加えて水系試料2とし、この水系試料2を恒温装置で30℃に保ち静置した。
上記ヨウ化物イオン水溶液Bの添加後30分以内においては10分ごとに、上記ヨウ化物イオン水溶液Bの添加後30分を超えて180分以内においては30分ごとに、水系試料2から20μLを量り採り、量り採った20μLの水系試料2を超純水4800μLで25倍に希釈し、希釈された水系試料2中におけるヨウ物イオン濃度をイオンクロマトグラフィーを用いて測定した。測定結果から、水系試料2中におけるヨウ化物イオン濃度の推移を求めた。
水系試料2におけるヨウ化物イオン濃度の推移を
図5に示す。
【0066】
図5に示すように、ヨウ化物イオン水溶液Bの添加から30分以内に、I
−の濃度は0.2mM程度まで低下し、ヨウ化物イオン水溶液Bの添加から180分では、0.08mMまで低下した。
【0067】
〔比較例1〕
<イオン交換型樹脂による過塩素酸イオン(ClO
4−)の除去>
実施例2において[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4(0.1967g,0.1mmol)を同質量のイオン交換樹脂(Purolite製SR601188A530E(強塩基性陰イオン交換樹脂))に変更したこと以外は実施例2と同様にして水系試料3を調製し、実施例2と同様にして水系試料3中の各アニオンの濃度の推移を測定した。更に引き続き、アニオン水溶液Aの添加後10000分(約1週間)まで、水系試料3中の各アニオンの濃度の推移を測定した。
水系試料3におけるアニオン濃度の推移を
図6(アニオン水溶液Aの添加後180分まで)及び
図7(アニオン水溶液Aの添加後10000分まで)に示す。
【0068】
図6及び
図7の横軸は、上記アニオン水溶液Aの添加からの経過時間(単位:分)を表す。
図6及び
図7の縦軸は、水系試料3における各アニオンの濃度(単位:mM)である。
【0069】
図6及び
図7に示すように、比較例1では各アニオンの濃度を低下させるのに、実施例2よりも長時間を要した。
例えば、Br
−の濃度を0.8mM程度まで低下させるのに180分以上、NO
3−の濃度を0.6mM程度まで低下させるのに150分以上、ClO
4−の濃度を0.1mM程度まで低下させるのに1000分以上を要した。
【0070】
上記実施例2、4及び5では、一般式(1)中のM
1及びM
2がCu
2+であるカプセル型化合物([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4)を用いた陰イオン除去の例を示し、上記実施例3では、一般式(1)中のM
1及びM
2がNi
2+であるカプセル型化合物([SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4)を用いた陰イオン除去の例を示した。
しかし本発明はこれらの例に限定されることはなく、例えば、一般式(1)中のM
1及びM
2がCu
2+やNi
2+と同様に、平面四配位、正方錐配位、及び八面体配位が可能な、Fe
2+、Co
2+、又はZn
2+であるカプセル型化合物についても、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4や[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4と同様にして合成でき、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4や[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施例1〜5では、一般式(1)中のR
1〜R
13が水素原子であるカプセル型化合物([SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4又は[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4)を用いた例を示したが、一般式(1)中のR
1〜R
13の少なくとも1つがメチル基であるカプセル型化合物についても、出発物質(配位子)の変更により[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4又は[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4と同様にして合成できる。得られたカプセル化合物は、配位子の基本骨格が[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4中又は[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4中の配位子(m−bbitb)の基本骨格が同じであることから、[SO
4⊂Cu
2(m−bbitb)
4]SO
4又は[SO
4⊂Ni
2(m−bbitb)
4]SO
4と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施例2及び3ではClO
4−、Br
−、及びNO
3−の除去を行い、上記実施例4ではClO
4−の除去を行い、上記実施例5ではI
−の除去を行ったが、本発明のカプセル型化合物を用いることにより、ClO
4−と構造や性質が類似するBF
4−についてもClO
4−と同様に除去できる。
【0071】
日本出願2011−016235の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。