(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954877
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】負荷率の改善が可能な抗癌剤送達ビヒクル
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20160707BHJP
A61K 47/48 20060101ALI20160707BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20160707BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20160707BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20160707BHJP
A61K 31/336 20060101ALI20160707BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20160707BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20160707BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20160707BHJP
A61K 33/24 20060101ALI20160707BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K47/48
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395
A61K31/336
A61K31/704
A61K31/7105
A61K48/00
A61K33/24
A61K31/337
【請求項の数】19
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-557010(P2012-557010)
(86)(22)【出願日】2011年3月11日
(65)【公表番号】特表2013-522189(P2013-522189A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】SG2011000100
(87)【国際公開番号】WO2011112156
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/312,885
(32)【優先日】2010年3月11日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】栗沢 元一
(72)【発明者】
【氏名】リャン, クン
(72)【発明者】
【氏名】タン, スシ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ジュ ウ
(72)【発明者】
【氏名】イン, ジャッキー ワイ.
【審査官】
山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/054813(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/124000(WO,A1)
【文献】
特表2009−534309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 47/00−47/48
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのフラボノイドと、前記フラボノイドと反応しコンジュゲートを形成するための遊離官能基を有するポリマーを含有する送達剤のコンジュゲートであって、
前記官能基が、遊離アミン基若しくはアミン基への転換が可能な官能基、又は、遊離スクシンイミド基若しくはスクシンイミド基への転換が可能な官能基であり、
前記フラボノイドが、コンジュゲーションの前に単量体形態又は二量体形態で存在し、コンジュゲーションの後に前記単量体形態又は二量体形態を維持する、コンジュゲート。
【請求項2】
2つのフラボノイドを含み、第1のフラボノイドが、第2のフラボノイドとの会合を受けない、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
フラボノイドが、カテキンベースのフラボノイドである、請求項1又は2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
フラボノイドが、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(+)−カテキン、(−)−没食子酸エピカテキン、又は(−)−没食子酸エピガロカテキンである、請求項3に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
フラボノイドが、(−)−没食子酸エピガロカテキンである、請求項4に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
ポリマーが、シクロトリホスファゼンコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、チオホスホリルコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、アミン末端ポリ(エチレングリコール)、又はスクシンイミド末端ポリ(エチレングリコール)である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
送達剤が、フラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位においてコンジュゲートされている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
ポリエチレングリコール及び(−)−没食子酸エピガロカテキン(PEG−EGCG)を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
遊離官能基を有するポリマーを含有する送達剤を、少なくとも1つのフラボノイドにコンジュゲートする方法であって、前記方法が、前記遊離官能基を有するポリマーを前記フラボノイドと反応させるステップを含み、
前記官能基が、遊離アミン基若しくはアミン基への転換が可能な官能基、又は、遊離スクシンイミド基若しくはスクシンイミド基への転換が可能な官能基であり、
前記フラボノイドが、コンジュゲーションの前に単量体形態又は二量体形態で存在し、コンジュゲーションの後に前記単量体形態又は二量体形態を維持する、方法。
【請求項10】
送達剤を2つのフラボノイドと反応させるステップを含み、第1のフラボノイドが、第2のフラボノイドとの会合を受けない、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
フラボノイドが、カテキンベースのフラボノイドである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
フラボノイドが、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(+)−カテキン、(−)−没食子酸エピカテキン、又は(−)−没食子酸エピガロカテキンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
フラボノイドが、(−)−没食子酸エピガロカテキンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーが、シクロトリホスファゼンコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、チオホスホリルコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、アミン末端ポリ(エチレングリコール)、又はスクシンイミド末端ポリ(エチレングリコール)である、請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
送達剤が、フラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位においてコンジュゲートされている、請求項9〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
フラボノイドが(−)−没食子酸エピガロカテキンであり、ポリマーがポリ(エチレングリコール)である、請求項9〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
抗癌剤送達ビヒクルを形成する方法であって、遊離官能基を有するポリマーを少なくとも1つのフラボノイドにコンジュゲートするステップを含み、
前記官能基が、遊離アミン基若しくはアミン基への転換が可能な官能基、又は、遊離スクシンイミド基若しくはスクシンイミド基への転換が可能な官能基であり、
前記フラボノイドが、コンジュゲーションの前に単量体形態又は二量体形態で存在し、コンジュゲーションの後に前記単量体形態又は二量体形態を維持する、方法。
【請求項18】
抗癌剤送達ビヒクルに抗癌剤を負荷するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗癌剤が、疎水性相互作用及び/又はΠ−Πスタッキング相互作用を介して抗癌剤送達ビヒクルに負荷される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は一般に、負荷率の改善が可能な抗癌剤送達ビヒクルに関する。
【0002】
本発明の背景についての以下の議論は、本発明の理解を容易にすることを意図する。しかし、この議論は、言及されるいかなる材料も、本出願の優先日に、任意の管轄内で公刊されていたか、知られていたか、又は一般的な共通の知識の一部であったことの承認又は容認ではないことを理解されたい。
【0003】
新規の薬物送達系の設計及び開発において、例えば、ポリマーミセルは、腫瘍組織を標的とする抗癌薬の薬物送達ビヒクルとして用いられるそれらの潜在的可能性のために、大きな注目を集めてきた。略述すると、ミセルとは、液体のコロイド中に分散させた両親媒性分子又は界面活性分子の凝集物である。両親媒性/界面活性分子の各々は、親水性の「ヘッド」端部及び疎水性の「テール」端部を有する。ミセルのテールは、炭化水素基を包含することが可能であり、ミセルのヘッドは、荷電基(アニオン性基又はカチオン性基)又は極性基を包含しうる。水性の液体など、極性溶媒では典型的に、親水性のヘッド端部が外側に延びて周囲の溶媒と接触し、ミセルの中心部に疎水性のテール端部を封鎖し、これにより、疎水性のコアを形成する、通常のミセルをミセル分子の凝集物が形成する。水性の環境では一般に、両親媒性のブロックコポリマーがセルフアセンブリーすることから、ポリマーミセルが形成される。ポリマーミセルは、腫瘍血管の漏出性から結果として生じる血管透過性滞留性亢進(EPR)効果のために、腫瘍部位における抗癌薬の蓄積の増強(すなわち、薬物負荷率の増強)が可能となることが知られている(H.Maeda、Adv.Enzyme Regul.2001、41、189〜207)。加えて、ミセルの外側の親水性殻は、タンパク質の付着を防止し、細網内皮系(RES)によるミセルの取り込みを低減し、これにより、体内でのミセルの血中循環を延長する(A.Lavasanifarら、Adv.Drug.Deliv.Rev.2002、54、169〜190)。
【0004】
過去20年間にわたり、多くの研究グループが、ポリ(エチレングリコール)(「PEG」と略記する)と疎水性ポリマーとの両親媒性ブロックコポリマー、例えば、ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロックコポリマー(「PEG−P(Asp)」と略記する)、ポリ(L−グルタミン酸)ブロックコポリマー(「PEG−P(Glu)」と略記する)、及びポリ(L−リシン)−スクシナートなどを含むポリマーミセルを開発してきた(N.Nishiyamaら、Langmuir、1999、15、377〜383、N.Nishiyaら、Bioconjugate Chem.2003、14、449〜457、及びA.A.Bogdanovら、Bioconjugate Chem.1996、7、144〜149)。ドキソルビシン、シスプラチン、及びタンパク質などの抗癌薬をミセルコア内に封入する異なる方法が開発されている(H.M.Aliabadi、Polymeric Micelles for Drug Delivery、2006、3、139〜162)。さらに、in vivoにおける研究は、ポリマーミセル内に封入された薬物が、遊離薬物自体より効果的に腫瘍組織内に蓄積されるため、これらのミセルが、より高度な抗腫瘍有効性を有することを裏付けている(N.Nishiyama、Cancer Research、2003、63、8977〜8983)。しかし、これらのポリマーミセル系において一般的な1つの問題は、このようなミセルにおける薬物負荷率が、しばしば、極めて低いことである。言い換えれば、薬物だけでポリマーミセルを占める重量比率は低い。
【0005】
上記の議論は、ポリマーミセルに重点を置いているが、マトリックスによる送達系及び薬物標的化系など、他の薬物送達系もまた、有効な薬物送達には薬物負荷率が低いという類似の問題に直面している。
【0006】
したがって、上述の問題のうちの1つを克服するか、又は少なくとも軽減する抗癌剤送達ビヒクルを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本文書の全体において、逆のことが別段に示されるのでない限り、「含む」、「からなる」などの用語は、非網羅的であるものとして、又は言い換えれば、「が含まれるがこれらに限定されない」を意味するものとしてみなされるべきである。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、化学的部分と少なくとも1つのフラボノイドとを含有する送達剤のコンジュゲートであって、前記フラボノイドが、コンジュゲーションの前に単量体形態又は二量体形態で存在し、コンジュゲーションの後に単量体形態又は二量体形態を維持するコンジュゲートが提供される。
【0009】
コンジュゲートは、2つ以上のフラボノイドを含み、各々のフラボノイドが、他のフラボノイドとの会合を受けないことが有利である。言い換えれば、フラボノイドは、互いに対して化学的に不活性であり、コンジュゲーション時にオリゴマーを形成しない。フラボノイドは、同一の場合もあり、異なる場合もある。
【0010】
フラボノイドは、カテキンベースのフラボノイドであるであることが好ましい。フラボノイドは、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(+)−カテキン、(−)−没食子酸エピカテキン、又は(−)−没食子酸エピガロカテキンであるであることがより好ましい。フラボノイドは、(−)−没食子酸エピガロカテキンであることがより好ましい。フラボノイドは、カルボキシル末端基、アミン末端基、スクシンイミド末端基、又は化学的部分とのコンジュゲート形成に適する他の任意の基を含有しうる。
【0011】
化学的部分は、ポリマーであることが好ましい。化学的部分は、遊離アルデヒド基又はアルデヒド基への転換が可能な官能基を有するポリマー、遊離カルボキシル基又はカルボキシル基への転換が可能な官能基を有するポリマー、遊離アミン基又はアミン基への転換が可能な官能基を有するポリマー、遊離スクシンイミド基又はスクシンイミド基への転換が可能な官能基を有するポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される化学的部分でありうる。ポリマーは、アルデヒド末端ポリ(エチレングリコール)、アルデヒド誘導体化ヒアルロン酸、ヒアルロン酸アミノアセチルアルデヒドジエチルアセタールコンジュゲート、アルデヒド誘導体化ヒアルロン酸−チラミン、ヒアルロン酸アミノアセチルアルデヒドジエチルアセタールコンジュゲート−チラミン、シクロトリホスファゼンコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、チオホスホリルコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、カルボキシル末端ポリ(エチレングリコール)、アミン末端ポリ(エチレングリコール)、又はスクシンイミド末端ポリ(エチレングリコール)であることがより好ましい。ポリマーは、アルデヒド末端ポリ(エチレングリコール)であることがより好ましい。
【0012】
送達剤は、フラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位においてコンジュゲートされていることが好ましい。C6位及びC8位が最も好ましいが、フラボノイドの他のコンジュゲーション位置(例えば、他の環における)もまた可能であることは、当業者に明らかであろう。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様のコンジュゲートを含む送達ビヒクルが提供される。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、抗癌剤と本発明の第1の態様のコンジュゲートとを含む抗癌剤送達ビヒクルが提供される。
【0015】
一実施形態では、抗癌剤が、タンパク質、核酸、低分子、薬物、ペプチド、抗体、ホルモン、酵素、増殖因子、サイトカイン、一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、短鎖ヘアピンRNA、siRNA、抗生物質、化学療法剤、又は血管新生阻害剤でありうる。
【0016】
別の実施形態では、抗癌剤が、ハーセプチン(トラスツズマブ)、TNP470、ドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセル、ダウノルビシン、又はこれらの混合物でありうる。
【0017】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第3の態様の抗癌剤送達ビヒクルを含む医薬組成物が提供される。
【0018】
上記医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含むことが有利である。
【0019】
本発明の第5の態様によれば、抗癌剤を、例えば、対象における細胞に送達するための、本発明の第3の態様の抗癌剤送達ビヒクルの使用が提供される。
【0020】
対象は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物でありうる。一実施形態では、対象がヒトである。
【0021】
別の実施形態では、抗癌剤送達ビヒクルが、注射、手術による植込み、又は局所投与のために製剤される。
【0022】
本発明の第6の態様によれば、化学的部分を含有する送達剤を、少なくとも1つのフラボノイドにコンジュゲートする方法であって、方法が、送達剤をフラボノイドと反応させるステップを含み、フラボノイドが、コンジュゲーションの前に単量体形態又は二量体形態で存在し、コンジュゲーションの後に単量体形態又は二量体形態を維持する、方法が提供される。
【0023】
本発明の第7の態様によれば、抗癌剤を細胞に送達する方法が提供される。
【0024】
一実施形態では、細胞がin vitroである。
【0025】
別の実施形態では、細胞がin vivoであり、方法が、抗癌剤送達ビヒクルを、抗癌治療を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0026】
対象は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物でありうる。一実施形態では、対象がヒトである。
【0027】
好ましくは、抗癌剤送達ビヒクルを投与するステップが、注射するサブステップ、手術により植え込むサブステップ、又は局所適用するサブステップを含む。
【0028】
以下の図面では、例示のみを目的として本発明の実施形態がスキームされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】ドキソルビシンを負荷したエチレングリコール/(−)−没食子酸エピガロカテキン(PEG−EGCG)コンジュゲートのセルフアセンブリーを例示するスキームである。
【
図2】PEG−EGCGの初期濃度を変化させるときの、ドキソルビシンを負荷したPEG−EGCGコンジュゲートの形成を示す図である。各ボトル試料の下方における数字は、mg/ml単位によるPEG−EGCGの初期濃度を表す。
【
図3】(a)PEG及び(b)PEG−EGCGそれぞれのエレクトロスプレーイオン化飛行時間質量分析スペクトルを示す図である。
【
図4】シスプラチン及び/又はハーセプチンを負荷したPEG−EGCGコンジュゲートのセルフアセンブリーを示すスキームである
【
図5】ハーセプチンを負荷したPEG−EGCGコンジュゲートを伴う、無胸腺Nude−Foxn1nu(n−6)に対する、in vivoにおいてHER2を過剰発現させたヒト乳癌細胞(BT−474細胞)異種移植片を示す図である。
【
図6】siRNAをトランスフェクトした24時間後において、核染色であるDAPI(青色)で対比染色した、Cy3で標識した陰性対照siRNA(赤色)についての共焦点顕微鏡法画像である。siRNA濃度は、50nMとした。重ね合せ画像は、siRNAが局在化したのは細胞質中に限られ、核内には局在化しなかったことを示す。(A)PEG−EGCGなし、(B)1.5μg/mlのPEG−EGCG、(C)3.0μg/mlのPEG−EGCG、(D)6.0μg/mlのPEG−EGCG、及び(E)PEG単独。
【
図7】PEG−EGCGを用いる、pGL3 DNAトランスフェクト細胞への、200nMのsiRNAの送達を示す図である。ホタルルシフェラーゼ活性対レニラ(renilla)ルシフェラーゼ活性の比は、pGL3 DNAだけをトランスフェクトした細胞集団に対して標準化した。対照は、siRNA単独で治療したpGL3 DNAトランスフェクト細胞を指す。siPORT(商標)とは、陽性対照として用いた、ポリアミンベースのトランスフェクション剤である。ルシフェラーゼ活性は、培地を交換せずに、トランスフェクションの48時間後に測定した。データは、3回の実験の平均である。S.D.を示す。
【
図8】GFP−22 siRNAをトランスフェクトした48時間後における、GFPの下方制御についての蛍光観察を示す図である。右側の顕微鏡画像は、左側の対照の顕微鏡画像と比較した、GFPの下方制御を示す。siPORT(商標)とは、陽性対照として用いた、ポリアミンベースのトランスフェクション剤である。(A)siRNAのトランスフェクションなし、(B)siPORT(商標)+GFP−22 siRNA、(C)PEG−EGCG+対照siRNA、(D)PEG−EGCG+GFP−22 siRNA。
図8E及びFは、siRNAをトランスフェクトした48時間後における細胞のフローサイトメトリー解析を示す。1000〜1200回の細胞イベントをカウントした。(E)PEG−EGCG+対照siRNA、(F)PEG−EGCG+GFP−22 siRNA。
【0030】
本発明は一般に、薬物負荷率の改善が可能な抗癌剤送達ビヒクルに関する。
【0031】
本発明者らは、以前の試みにおいて、抗癌剤送達ビヒクル及び送達法を開発した。国際公開第2006/124000号では、遊離アルデヒドと、フラボノイドと、を含有する送達剤のコンジュゲートであって、送達剤が、フラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位においてコンジュゲートされているコンジュゲートを提供した。国際公開第2009/054813号パンフレットでは、抗癌剤と、遊離アルデヒド及びフラボノイドを含有する送達剤のコンジュゲートとを含む送達ビヒクルであって、送達剤が、フラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位においてコンジュゲートされている送達ビヒクルを提供した。国際公開第2006/124000号及び国際公開第2009/054813号のいずれの内容も、参照により本明細書に組み込まれている。
【0032】
驚くべきことに、本発明者らは、化学的部分及び少なくとも1つのフラボノイドを含有する送達ビヒクルと、生体活性の抗癌剤との組合せが、単剤で用いられた場合の送達ビヒクル及び生体活性の抗癌剤の各々を組み合わせた効果を上回る相乗作用的抗癌効果を及ぼすことを見出した。したがって、抗癌剤を負荷したこのような送達ビヒクルは、送達ビヒクルのフラボノイド部分の抗癌活性と、抗癌剤の抗癌効果との相乗効果を利用して抗癌剤を細胞に送達する効果的な方法を提供する。相乗効果、及び、したがって、抗癌剤の負荷率の増大は、化学的部分とのコンジュゲーション後においても元の単量体形態又は二量体形態を維持するフラボノイドによると考えられる。
【0033】
本発明の一態様によれば、化学的部分と少なくとも1つのフラボノイドとを含有する送達剤のコンジュゲートであって、フラボノイドが、コンジュゲーションの前に単量体形態又は二量体形態で存在し、コンジュゲーションの後に単量体形態又は二量体形態を維持して、フラボノイドと、抗癌薬などの他の化学的実体との疎水性相互作用及び/又はΠ−Πスタッキング相互作用を可能とし、形成される単量体又は二量体のコンジュゲートによる薬物負荷率の増大を可能とするコンジュゲートが提供される。
【0034】
コンジュゲートは、2つ以上のフラボノイドを含み、各々のフラボノイドが、他のフラボノイドとの会合を受けないことが有利である。言い換えれば、フラボノイドは、互いに対して化学的に不活性であり、コンジュゲーション時にオリゴマーを形成しない。フラボノイドは、同一の場合もあり、異なる場合もある。
【0035】
フラボノイドは、コアのフェニルベンジルピロン構造に由来する分子の一般的なクラスに由来する任意のフラボノイドとすることができ、これには、フラボン、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバン−3−オール、カテキン、アントシアニジン、及びカルコンが含まれる。具体的な実施形態では、フラボノイドが、カテキン又はカテキンベースのフラボノイドである。カテキン又はカテキンベースのフラボノイドとは、カテキン(又はフラバン−3−オール誘導体)として一般的に知られているクラスに属する任意のフラボノイドであり、カテキンと、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキン、没食子酸エピカテキン、及び没食子酸エピガロカテキンを含めたカテキン誘導体とを包含し、これには、カテキン又はカテキンベースのフラボノイドのすべての可能な立体異性体が含まれる。
【0036】
具体的な実施形態では、カテキンベースのフラボノイドが、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(+)−カテキン、(−)−没食子酸エピカテキン、又は(−)−没食子酸エピガロカテキンである。(−)−没食子酸エピガロカテキン(EGCG)は、おそらく、トリヒドロキシB環及びこのフラボノイドのC3位における没食子酸エステル部分のために、カテキンベースのフラボノイドのうちで活性が最も高いと考えられる。加えて、EGCGは、その高度な活性のために、そして、例えば、PEG(後続の節中で論じる)とのコンジュゲーションを介してコンジュゲートを形成するように特に選択され、結果として得られるPEG−EGCGコ
ンジュゲートは、代謝又は分解がより緩徐であり、体内の半減期を延長することが可能である、安定的な組成物を形成する。さらに、EGCG部分は、薬物分子と共に、疎水性相互作用、π−πスタッキング相互作用、又は他の物理的結合若しくは化学的結合などの相互作用を形成することが可能であり、これにより、薬物分子を、送達ビヒクルの内部コア内に封入するか、又は閉じ込めることが可能である。
【0037】
特定の実施形態では、フラボノイドが、カルボキシル末端基、アミン末端基、スクシンイミド末端基、又は化学的部分とのコンジュゲート形成に適する他の任意の基を含有するEGCGでありうる。
【0038】
送達剤は、遊離アルデヒド基又はアルデヒド基への転換が可能な官能基を有するポリマー、遊離カルボキシル基又はカルボキシル基への転換が可能な官能基を有するポリマー、遊離アミン基又はアミン基への転換が可能な官能基を有するポリマー、遊離スクシンイミド基又はスクシンイミド基への転換が可能な官能基を有するポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される化学的部分を含有することが好ましい。特定の実施形態では、ポリマーが、アミン末端EGCGと反応してコンジュゲートを形成しうる、カルボキシル末端ポリ(エチレングリコール)又はスクシンイミド末端ポリ(エチレングリコール)である。代替的な実施形態では、ポリマーが、カルボキシル末端EGCG又はスクシンイミド末端EGCGと反応してコンジュゲートを形成しうる、アミン末端ポリ(エチレングリコール)である。
【0039】
送達剤は、送達ビヒクル内へと形成することが可能であり、これにより、フラボノイドの生物学的特性又は薬理学的特性を損なわずに、コンジュゲートしたフラボノイドを、送達ビヒクル内へと組み込むことが可能となる。送達剤はまた、生体適合性でもあるべきであり、一部の実施形態では、生体分解性でありうる。
【0040】
以下の議論は、フラボノイドがカテキンベースのフラボノイドであり、送達剤が、アルデヒド末端ポリマーである実施形態を指す。しかし、アルデヒドを含有する化学基とフラボノイドとのアルデヒド縮合反応は、送達剤に対する以下の酸処理を含め、上記で説明した官能基を有する任意の送達剤を、任意のフラボノイドとコンジュゲートするのに適用可能である。
【0041】
したがって、この反応は、遊離アルデヒド基又は遊離アルデヒド基への転換が可能な基を含有するポリマーを、例えば、酸の存在下において、カテキンベースのフラボノイドとコンジュゲートすることを伴いうる。
【0042】
カテキンベースのフラボノイドは、その単量体形態又は二量体形態で用いることができ、コンジュゲーションが、結果として、フラボノイドオリゴマーの形成をもたらさないように、コンジュゲーション時において、フラボノイドの単量体形態又は二量体形態を保持することが重要である。上記で言及した通り、ポリマーのフラボノイドとのコンジュゲーションは、結果として、フラボノイドの生物学的特性又は薬理学的特性の増強をもたらす。
【0043】
ポリマーは、カテキンベースのフラボノイドとのコンジュゲーションの前に遊離アルデヒド基を有するか、又は、酸の存在下においてアルデヒド基へと転換される基、例えばアセタール基、を有する、任意のポリマーでありうる。さらに、ポリマーは、非毒性であり、生体適合性であり、薬理学的使用に適するべきであることが理解されるであろう。ポリマーはまた、他の所望の特性も有しうる。例えば、ポリマーは、免疫原性が低く、例えば、体内の特定の部位において、カテキンベースのフラボノイド及び抗癌剤を制御放出するための組成物に望ましい生物学的適用に応じて、生体分解性の場合もあり、非生体分解性の場合もある。
【0044】
ポリマーは、その具体的な特徴、及び特定の種類の送達ビヒクルを形成するその能力に基づき選択することができる。例えば、ポリマーは、アルデヒド末端ポリ(エチレングリコール)でありうる。代替的に、ポリマーは、アルデヒド誘導体化ヒアルロン酸、ヒアルロン酸アミノアセチルアルデヒドジエチルアセタールコンジュゲート、アルデヒド誘導体化ヒアルロン酸−チラミン、ヒアルロン酸アミノアセチルアルデヒドジエチルアセタールコンジュゲート−チラミン、シクロトリホスファゼンコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、又はチオホスホリルコアフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)デンドリマー、でもありうる。ポリマーはまた、遊離アルデヒド基、又は酸の存在下においてアルデヒドへの転換が可能な基を含有するように修飾された、任意の生物学的ポリマーでもあり、例えば、アルデヒドで修飾されたタンパク質、ペプチド、多糖、又は核酸でもありうる。具体的な一実施形態では、ポリマーが、アルデヒド末端ポリ(エチレングリコール)(PEG−CHO)である。PEGは、薬理学的成分として広く用いられているポリマーであり、親水性で、非毒性で、非免疫原性で、生体適合性である良好な特徴を保有し、生体分解性が低いため、コンジュゲートを形成するのに特に選択される。
【0045】
ポリマーにおける遊離アルデヒド基は、ポリマーが、フラボノイド構造のA環のC6位又はC8位の一方又は両方と制御された形でコンジュゲートされることを可能とし、これにより、フラボノイド構造、特に、フラボノイドのB環及びC環の破壊を阻止し、これにより、フラボノイドの有益な生物学的特性及び薬理学的特性を保存する。C6位及びC8位が最も好ましいが、フラボノイドの他のコンジュゲーション位置(例えば、他の環における)もまた可能であることは、当業者に明らかであろう。
【0046】
ポリマーのアルデヒド基を、カテキンベースのフラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位と反応させることにより、ポリマーをカテキンベースのフラボノイドにコンジュゲートする。
【0047】
ポリマーのアルデヒド基の、カテキンベースのフラボノイドとの縮合反応に対する酸触媒を用いてコンジュゲートを合成する場合もあり、アルデヒド基を、カテキンベースのフラボノイドと縮合させる前に、酸を用いてポリマーにおける官能基を遊離アルデヒドへと転換してコンジュゲートを合成する場合もある。
【0048】
ポリマーとカテキンベースのフラボノイドとをコンジュゲートするには、ポリマー及びカテキンベースのフラボノイドを、適切な溶媒中で個別に溶解させることができる。遊離アルデヒドを伴うポリマーは、例えば、酸の存在下において、カテキンベースのフラボノイドを含有する溶液へと、滴下添加により添加する。反応は、完遂させることができる。コンジュゲーション反応の後、反応しなかった過剰なポリマー又はカテキンベースのフラボノイドを、例えば、透析又は分子篩法により、コンジュゲートした組成物から除去することができる。
【0049】
ポリマーを、フラボノイドのA環のC6位及び/又はC8位においてコンジュゲートした、遊離アルデヒドを含有するポリマーと、カテキンベースのフラボノイドとのコンジュゲートもまた意図される。
【0050】
ポリマーのコンジュゲーションはまた、カテキンベースのフラボノイドを、多様な組成物又はビヒクルへと組み込むことも可能とする。遊離アルデヒド基を含有する具体的なポリマーを、ポリマーの物理的特性に基づいて選択することにより、フラボノイドを、多様な異なる種類のビヒクルへと組み込むことが可能であり、別の状況において、高濃度のフラボノイドを、体内の多様な標的領域へと送達することが可能となる。
【0051】
したがって、上記で説明した反応から結果として得られるコンジュゲートを、このコンジュゲートのポリマー部分の性質に応じて、送達ビヒクルへと形成することができる。送達ビヒクルを用いて、その性質に応じて、体内の具体的な標的部位を含め、体内にカテキンベースのフラボノイドを送達することができる。
【0052】
コンジュゲート、送達ビヒクル、抗癌剤送達ビヒクル、又はこれらのうちのいずれかを含む医薬組成物は、ナノメートル寸法であり、この場合、化学的部分及び少なくとも1つのフラボノイドが、ナノメートル寸法である。
【0053】
抗癌剤は、細胞傷害性効果、アポトーシス効果、抗有糸分裂効果、抗血管新生効果、又は転移阻害効果などの抗腫瘍効果を含め、細胞に対して抗癌効果を及ぼす任意の薬剤でありうる。抗癌効果は、腫瘍細胞増殖の阻害若しくは低減、発癌性の阻害若しくは低減、腫瘍細胞の殺滅、又は腫瘍細胞を含めた細胞の発癌特性若しくは腫瘍形成特性の阻害若しくは低減を包含することを意図する。
【0054】
抗癌剤は、タンパク質、核酸、低分子、又は薬物を包含する。タンパク質である抗癌剤は、ペプチド、抗体、ホルモン、酵素、増殖因子、又はサイトカインでありうる。核酸である抗癌剤は、一本鎖若しくは二本鎖のDNA若しくはRNA、短鎖ヘアピンRNA、siRNAの場合もあり、抗癌生成物をコードする遺伝子を含む場合もある。抗癌剤の範囲内にはまた、化学療法剤又は血管新生阻害剤も包含される。抗癌剤は、腫瘍細胞の表面マーカーを指向する、モノクローナル抗体を含めた抗体、免疫制御性ペプチド、サイトカイン、又は増殖因子でありうる。抗癌剤は、ハーセプチン(トラスツズマブ)、フマジリンの類似体であるTNP470(N−(2−クロロアセチル)カルバミン酸(3R,4S,5S,6R)−5−メトキシ−4−[(2R,3R)−2−メチル−3−(3−メチル−2−ブテン−1−イル)−2−オキシラニル]−1−オキサスピロ[2.5]オクト−6−イルエステル)、ドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセル、ダウノルビシン、又はこれらの混合物でありうる。
【0055】
抗癌剤には、チロシンキナーゼ阻害剤、又はシスプラチン、白金、カルボプラチン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、ビノレルビン、トポテカン、若しくはイリノテカンが含まれうる。アポトーシスを誘導する酵素には、TRAIL−R1、TRAIL−R2、又はFasLが含まれうる。核酸による抗癌剤には、プラスミドDNA(治療用タンパク質をコードする)又はアンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)又は低分子干渉RNA(siRNA)が含まれうる。ODNとは、短い一本鎖DNAであり、転写されるmRNAと相補的であり(センス鎖)、したがって、このmRNAに結合し、このmRNAが、細胞内部でタンパク質へと翻訳されることを阻止する。代替的に、ODNを、プレmRNAのスプライシング部位に結合するように標的化し、mRNAのエクソン端を修飾するように指向させることもできる。これに対し、siRNAとは、短い二本鎖RNA又は一本鎖RNAであり、細胞内に侵入すると、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)としてもまた知られている、エンドリボヌクレアーゼを含有する複合体へとアセンブリーされる。次いで、これらのsiRNA分子は、RISCの内部で巻き戻され、細胞におけるそのmRNA標的鎖を認識及びスプライシングし、これにより、標的タンパク質の発現を下方制御するように活性化された複合体となる。同様に、アポトーシスを誘導することが可能なマイクロRNAは、特定のマイクロRNAにより誘発することができる。マイクロRNAには、MiR−15、MiR−16、MiR−99a/let7c/MiR−125b2、又は他の適切なアポトーシス促進性マイクロRNAが含まれうる。
【0056】
本送達ビヒクルへと組み込まれている間、抗癌剤の生物学的活性は、一時的に、部分的又は完全に遮蔽され、送達ビヒクル内でアセンブリーされている間、抗癌剤のアベイラビリティーも低下するが、これは、送達ビヒクル内に含有されている間、抗癌剤が抗癌活性を及ぼすか、又は他の分子と生体活性的な形で相互作用することが不可能であり、また、他の分子の活性から保護されてもいることを意味する。送達ビヒクルから抗癌剤が放出されると、抗癌剤の生物学的特性のアベイラビリティーが再度もたらされ、細胞へと送達されると、抗癌剤は、抗癌効果を及ぼすことが可能である。
【0057】
一実施形態では、抗癌剤が、コンジュゲート又は送達剤へと負荷される。抗癌剤は、フラボノイドとの疎水性相互作用及び/又はΠ−Πスタッキング相互作用を介して、コンジュゲート又は抗癌剤送達ビヒクルに負荷又は封入することができる。
【0058】
本発明の送達剤への抗癌剤の薬物負荷率は、送達剤における他の既知の薬物負荷率より高いことが好ましい。例で説明される通り、薬物負荷率が、送達ビヒクルにおける抗癌剤の重量百分率として定義されるのに対し、薬物負荷効率は、当初導入された遊離抗癌剤と比較した、封入抗癌剤の重量百分率として定義される。薬物負荷率は、報告された薬物負荷率の範囲の1.5〜5倍でありうる。薬物負荷率は、報告された薬物負荷率の範囲の1.75〜4.25倍であることが好ましい。薬物負荷率がそれほど十分に確立されていない抗体及びsiRNAの場合において、本発明者らは、ポリペプチド及び核酸が、送達剤への負荷に成功することが可能であるだけでなく、in vivo及びin vitroにおける送達にも成功しうることを実証した。
【0059】
薬物対コンジュゲート比は、6:1〜1:6の範囲でありうる。具体的な実施形態によるドキソルビシン対PEG/EGCG比は、6:1、4:1、2:1、1:1、及び1:2の比で成功した。抗癌剤が、フラボノイドとの相互作用を形成しうる限りにおいて、抗癌剤の量は、コンジュゲートの量より多い。
【実施例】
【0060】
緑茶の主要な成分である(−)−没食子酸エピガロカテキン(EGCG)は、多くの生物学的効果及び薬理学的効果を示す。以下の例では、酸触媒によるアルデヒドを介する縮合反応を用いて、ポリ(エチレングリコール)のEGCGとのコンジュゲートを合成した。
【0061】
実施例1:ドキソルビシン及びPEG−EGCGコンジュゲートを含む送達ビヒクルの形成
一実施形態では、薬物分子をドキソルビシン(「Dox」と略記する)とする。
図1は、Doxを負荷したPEG−EGCGコンジュゲートのセルフアセンブリーによる送達ビヒクルの形成を例示するスキームを示す。この実施形態では、送達ビヒクルが、ミセルの形態である。この送達ビヒクルは、水性環境において、PEG−EGCGコンジュゲートがミセルへとセルフアセンブリーすることに基づき、これは、PEG−EGCGコンジュゲートのPEG鎖が親水性であることから生じる。EGCG部分の多環構造とDoxの多環構造との類似により、EGCG部分が、疎水性相互作用及びπ−πスタッキング相互作用を介してDoxを封入するように設計する。単純な混合及び透析により、Doxを送達ビヒクル内に封入することに成功した。本送達ビヒクルが、当技術分野において知られる他の送達ビヒクル系(例えば、ポリマーミセル系)と比較して、例外的に高いDox負荷率を示すことが判明して有利である。動的光散乱(DLS)測定はまた、送達ビヒクルの大きさが、EPR効果を介する腫瘍のパッシブターゲティングに理想的であることも示した。
【0062】
この例では、有機溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解させたPEG−EGCGコンジュゲートとDoxとの混合物を、蒸留水に対して透析することにより、送達ビヒクルを調製した。異なる濃度のPEG−EGCGコンジュゲート(それぞれ、0、0.5、1、3、6、12、24mg/ml)を用いて、12mg/mlで濃度を固定したDoxを封入した。透析時には、有機溶媒が水で段階的に置換されることにより、送達ビヒクルのセルフアセンブリー及びアセンブリーされた構造へのDoxの封入が誘発された。
図2に示す通り、0、0.5、及び1mg/mlのPEG−EGCG濃度を用いたところ、透析時に沈殿物が得られたことから、送達ビヒクルの形成が有効でないことが示された。これに対し、PEG−EGCGの濃度を3、6、12、及び24mg/mlとしたところ、均一な溶液が達成されたことから、送達ビヒクルへのDox封入の成功が裏付けられた。この例は、Dox/PEG−EGCG送達ビヒクルが効果的にセルフアセンブリーされるには、Dox対PEG−EGCGコンジュゲートの適切な比を注意深く選択すべきであることを示す。
【0063】
実験
材料:アルデヒド末端PEG(PEG−CHO、分子量:5000)は、日油株式会社(日本)から購入した。EGCGは、栗田工業株式会社(日本)から購入した。塩酸ドキソルビシン(Dox・HCl)は、Boryung Pharmaceuticals Inc.、Koreaから購入した。
【0064】
PEG−EGCGコンジュゲートの合成:アルデヒド末端PEG(0.35g)と、EGCG(0.65g)とを、酢酸、水、及びジメチルスルホキシド(DMSO)の混合物中で個別に溶解させた。窒素雰囲気下、20℃(pH2)で、48時間にわたり、PEG−CHO溶液を滴下によって添加することで、反応を開始させた。結果として得られる生成物を透析し(分子量カットオフ(MWCO)=3500)、凍結乾燥させて、PEG−EGCGコンジュゲートをもたらした。
【0065】
送達ビヒクルの合成:1mlのDMF中に、Dox・HCl(12mg、21μmol)を溶解させた。次いで、この溶液に、トリエチルアミン(29μl、210μmol)を添加し、この塩酸塩を中和した。次に、この溶液に、DMF中に異なる濃度で溶解させたPEG−EGCGコンジュゲート(1ml)を添加し、結果として得られる混合物を、20分間にわたりボルテックスした。次いで、各試料溶液を、MWCOを3500Daとする透析チューブへと移した。このチューブを、12時間ごとに水を替えながら2日間にわたり、蒸留水に対して透析した。試料溶液を凍結乾燥させて、固体のミセルを得た。
【0066】
薬物負荷率の決定:乾燥させた試料をDMF中で溶解させた後、Hitachi U2810 UV−Vis分光光度計を用いて、480nmにおいて、試料溶液の吸光度を測定した。各試料におけるDoxの量は、Doxの基準物質と比較することにより推定した。薬物負荷率は、送達ビヒクル内のDox量と、乾燥させた送達ビヒクル試料の重量とから計算した。
【0067】
送達ビヒクルサイズの決定:Brookhaven 90Plus Particle Size Analyzerを用いるDLSにより、送達ビヒクル試料のサイズを決定した。蒸留水を用いて各試料溶液を調製し、10μg/mlのDoxをもたらしてから、25℃でDLS測定を実施した。
【0068】
結果:送達ビヒクルの特徴
実施例1の送達ビヒクルの特徴を、以下の表1にまとめる。薬物負荷率が、送達ビヒクルにおけるDoxの重量百分率として定義されるのに対し、薬物負荷効率は、当初導入された遊離Doxと比較した、封入Doxの重量百分率として定義される。PEG−EGCGの初期濃度を3mg/ml及び6mg/mlとする試料は、それぞれ、85重量%及び68重量%という、例外的に高い薬物負荷率を示した。達成された最高のDox負荷率は(85重量%)は、他の研究グループ(H.M.Aliabadiら、Expert Opinion on Drug Delivery、2006、3、139〜162)により開発されたブロックコポリマーによる送達ビヒクルにおける平均のDox負荷率(10〜20重量%)の4倍超に対応した。特定の機構に限定されるものではないが、このように高い薬物負荷率はおそらく、EGCG部分とDoxとの強力な疎水性相互作用及び/又はπ−πスタッキング相互作用によるものであり、おそらくこのために、EGCG部分は、報告された他のPEGブロックコポリマーの疎水性鎖よりはるかに小さいが、セルフアセンブリー工程におけるDoxの封入が増強されるのであろう。
【0069】
送達ビヒクルのサイズは、78.5〜192.4nmの範囲であった(表1を参照されたい)。薬物負荷率が増大するにつれてサイズも増大したが、PEG−EGCGの初期濃度が増大するにつれてサイズは減少した。EGCG部分は、Doxの封入において重要な役割を果たしたので、サイズの増大は、封入効率と相関しているはずである。したがって、サイズだけでなく、任意の標的化薬物送達系に重要な側面である、薬物放出プロファイル及び送達ビヒクルの安定性もまた、導入されるPEG−EGCGの初期濃度により制御することができるであろう。送達ビヒクルのナノメートル寸法(200nm未満)は、EPR効果を介して腫瘍組織を標的化する能力を付与した。同時に、このナノメートル寸法は、送達ビヒクルのオプソニン化及び腎によるクリアランスを回避する一助となったので、血中における貯留時間の延長を可能とした。
【0070】
【表1】
【0071】
(a)PEG及び(b)PEG−EGCGそれぞれのエレクトロスプレーイオン化飛行時間質量分析スペクトル(ESI−TOF MS)を、
図3に示す。2つのピーククラスター間におけるm/z差は、+5の電荷を考慮し、各ピーク間における0.2m/zの差から計算される、PEG及びPEG−EGCG両方についてのPEG反復単位=44(例えば、(1037.26−1028.43)×5=44.15)として観察された。しかし、PEG−EGCGのピークは、PEGのピークと比較して、EGCG 2つ分の分子量だけ(例えば、(1211.09−1028.65)×5=912.36)高値側へシフトしたことから、PEG−EGCGコンジュゲートが、PEG鎖の一方の端部に結合した、2つのEGCG反復単位を含むこと、すなわち、各EGCG反復単位が、コンジュゲーション後においても単量体を維持し、EGCGオリゴマーは形成されないことが裏付けられた。この実施形態では、化学的部分(PEG)の一方の端部に2つの単量体フラボノイド(EGCG)がコンジュゲートされていることが示されたが、化学的部分の一方の端部に3つの単量体フラボノイドがコンジュゲートされていること、又は化学的部分の一方の端部に1又は複数の二量体フラボノイドがコンジュゲートされていることなど、他のコンジュゲート構成もまた意図されることを了解及び理解されたい。
【0072】
実施例2:シスプラチン及びPEG−EGCGコンジュゲートを含む送達ビヒクルの形成
別の実施形態では、薬物分子をシスプラチンとする。
図4は、シスプラチンを負荷したPEG−EGCGコンジュゲートのセルフアセンブリーによる送達ビヒクルの形成を例示するスキームを示す。この実施形態では、送達ビヒクルが、キレート錯体の形態でありうる。シスプラチンとPEG−EGCGコンジュゲートとの相互作用はおそらく、EGCGのOH部分による、Pt(白金)のキレート化による。このキレート錯体は、PEG−EGCGコンジュゲートが、中央のシスプラチンの周囲にクラスター化し、これにより、クラスター内にシスプラチンを閉じ込めるキレート化の結果として形成される。
【0073】
本例では、(i)水、又は(ii)有機溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解させたPEG−EGCGとシスプラチンとの混合物を、蒸留水に対して透析することにより、シスプラチン/PEG−EGCG錯体を調製した。異なる濃度のPEG−EGCGコンジュゲート(1.2、2.4、6、及び/又は12mg/ml)を、1.2mg/mlで濃度を固定したシスプラチンに対して用いた。透析時には、PEG−EGCGコンジュゲートが、中央のシスプラチンの周囲にクラスター化し、クラスター内にシスプラチンを閉じ込める。
【0074】
実験
材料:アルデヒド末端PEG(PEG−CHO、分子量:5000)は、日油株式会社(日本)から購入した。EGCGは、栗田工業株式会社(日本)から購入した。シスプラチン[cis−ジクロロジアミン白金(II)、CDDP]は、Sigma−Aldrich Pte.Ltd.、Singaporeから購入した。
【0075】
PEG−EGCGコンジュゲートの合成:PEG−EGCGコンジュゲートは、実施例1で説明した通りに合成した。代替的に、ポリマーを、カルボキシル末端ポリ(エチレングリコール)とすることもでき、これを、アミン末端EGCGと反応させて、コンジュゲートを形成することもできるが、この合成は、当業者に明らかである。
【0076】
送達ビヒクルの合成:1mlの水又はDMF中に、CDDP(1.2mg、4μmol)を溶解させた。次いで、この溶液に、水又はDMF中に異なる濃度で溶解させたPEG−EGCGコンジュゲート(1ml)を添加し、結果として得られる混合物を、20分間にわたりボルテックスした。次いで、各試料溶液を、MWCOを1000Daとする透析チューブへと移した。このチューブを、12時間ごとに水を替えながら2日間にわたり、蒸留水に対して透析した。次いで、送達ビヒクルを回収した。
【0077】
薬物負荷率の決定:Hitachi U2810 UV−Vis分光光度計を用いて、280nmにおいて、PEG−EGCG含量について、試料溶液の吸光度を測定した。各試料におけるシスプラチンの量は、PelkinElmer SCIEX ICP Mass Spectrometer Elan DRC IIにより測定した。薬物負荷効率は、送達ビヒクル内に閉じ込められたシスプラチン量と、系に当初添加したシスプラチン量とから計算した。薬物負荷率は、送達ビヒクル中のシスプラチン量と、送達ビヒクルの重量とから計算した。
【0078】
送達ビヒクルサイズの決定:決定のプロトコールは、実施例1で説明したプロトコールと同じである。
【0079】
結果
(i)水中、及び(ii)DMF中に溶解させたシスプラチンを伴うPEG−EGCGコンジュゲートの特徴を、それぞれ、表2及び表3にまとめる。薬物負荷率が、送達ビヒクルにおけるシスプラチンの重量百分率として定義されるのに対し、薬物負荷効率は、当初導入された遊離シスプラチンと比較した、閉じ込められたシスプラチンの重量百分率として定義される。PEG−EGCG濃度を増大させたとき、試料は、薬物負荷効率の増大傾向を示した。
【0080】
動的光散乱(DLS)による測定はまた、送達ビヒクルの大きさが、153〜194nmの範囲であることも示した(表2及び表3を参照されたい)が、これは、EPR効果を介する腫瘍のパッシブターゲティングに理想的である。送達ビヒクルのナノメートル寸法(200nm未満)は、EPR効果を介して腫瘍組織を標的化する能力を付与した。同時に、このナノメートル寸法は、送達ビヒクルのオプソニン化及び腎によるクリアランスを回避する一助となったので、血中における貯留時間の延長を可能とした。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
実施例3:ハーセプチン及びPEG−EGCGコンジュゲートを含む送達ビヒクルを用いる試験結果
本発明者らはまた、上記の実施例2で概括した合成経路に従い、PEG−EGCGコンジュゲートにハーセプチン(Herceptinは、Roche、Switzerlandから購入した)を封入することにも成功した。
図5に示す通り、コンジュゲートは、BT−474 HER2/neuを過剰発現させた乳癌の異種移植片に対する抗癌効果の増強を示した。
【0084】
結果
in vivoにおける送達ビヒクルの抗癌効果:無胸腺(nu/nu)マウス(5〜6週齢)を、Harlan、UKから購入し、すべての動物実験を、Institutiona Animal Care and Use Comittee(IACUC)による手順及びガイドラインを順守して実施した。右脇腹にBT−474細胞(120μlのマトリゲル(matrigel)(BD Bioscience)を含む100μlのリン酸緩衝生理食塩液(PBS)中に1×10
7個)を注射する1日前、各マウスに、17β−エストラジオールペレット(Innovative Research of America)を皮下(s.c.)挿入した。説明される通りに(W.P.McGuireら、N.Engl.J.Med.1996、344(1)、1268)、長さl及び幅wを測定し、容量(V=lw
2/2)を計算することで、腫瘍容量V(mm
3)を決定した。腫瘍が250mm
3の平均サイズを達成したら、実験治療及び対照治療を実施した。マウスを異なる群(n=6)に無作為化してから、各治療を開始した。用いるハーセプチンは2.5mg/kgとし、用いるPEG−EGCGは100μMとした。治療は、毎週2回ずつ投与した。16日後、動物には、ビヒクル(PBS)(黒丸)、PEG−EGCG(黒三角)、ハーセプチン(黒四角)、(ハーセプチン+PEG−EGCG)ミセル(黒逆三角)を注射した。結果は、平均±標準偏差として報告した。
【0085】
BT−474 HER2/neuを過剰発現させた乳癌の異種移植片に対する抗癌効果の増強は、腫瘍部位における送達ビヒクルの蓄積により、このため、ハーセプチンだけで治療した動物群と比較して腫瘍サイズを顕著に減少させることが可能であった。送達ビヒクル内にハーセプチンを封入する機構は、実施例1において意図した機構と同様でありうる、すなわち、EGCG部分は、プロリン残基とEGCG部分との間の疎水性相互作用及びπ−πスタッキング相互作用を介して、ハーセプチンを封入する。
【0086】
結論として述べると、本送達ビヒクルは、前出の節で言及した、各種のブロックコポリマーを含む従来の薬物送達ビヒクル(ポリマーミセル担体)が直面していた、低薬物負荷率の難題を克服する。長い疎水性ポリマー鎖を用いる既存の先行技術による送達ビヒクルとは異なり、本送達ビヒクルは、EGCG部分を介する強力な薬物相互作用をもたらして、高薬物負荷率を達成する。本送達ビヒクルによる封入能又は閉じ込め能の増強はまた、それらの構造を改変することなく、他の抗癌薬に拡張することができ、したがって、これは、ハーセプチン及びドキソルビシン、又はパクリタキセル及びダウノルビシンなど、複数の抗癌剤を共送達するための潜在的な系となる。
【0087】
本送達ビヒクルを癌治療において用いるのに特に適したものとする、それらの独自の特性には、(i)それらのナノメートル寸法が、10〜200nmであること、(ii)水における可溶性の増大を付与するそれらの両親媒性構造、及び(iii)その内部コアに抗癌剤を封入するか又は閉じ込めるそれらの能力が含まれる。薬物負荷率の高い送達ビヒクルの設計は、効率的な癌治療を達成するのに重要である。また、送達ビヒクルの用量は低減しうるので、このような送達ビヒクルであれば、潜在的な非特異的薬物送達により引き起こされる副作用を最小化することも期待される。さらに、担体の抗癌薬負荷率が高ければ、注射の頻度が低下し、これにより、患者の服薬遵守が改善され、患者に対して引き起こされる外傷が軽減される。本送達ビヒクルは、このような独自の特性を提供するように設計されている。
【0088】
実施例4:in vitroにおけるsiRNA送達及び細胞内局在化の画像化
細胞を、Lab−Tek(商標)8ウェルチャンバーカバーガラス(Nunc、USA)内に、カバーガラス1枚当たり1×10
4個の密度で播種した。播種の2日後、培養培地を除去し、チャンバーカバーガラスにPEG−EGCG/siRNAトランスフェクション複合体を添加した。濃度を変化させながらPEG−EGCGを、50nMのSilencer(登録商標)Cy(商標)3−Labeled Negative Control #1 siRNA(Ambion、USA)へと添加することにより、上記で説明した複合体を調製した。インキュベーションの、それぞれ、1、4、及び24時間後、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩液(DPBS)により細胞を洗浄し、室温で20分間にわたり、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)で固定した。続いて、DPBSにより洗浄した後、細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニリン(DAPI、Invitrogen、USA)で染色してから、共焦点顕微鏡法により検討した。2つのレーザー[DAPIには、励起最大波長=345nm、発光最大波長=458nm、Cy3には、励起最大波長=547nm、発光最大波長=563nm]を用いるOlympus lx71レーザー走査顕微鏡を用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡法を実施した。画像は、FLUOVIEWソフトウェア(Olympus、Singapore)を用いて収集した。
【0089】
共焦点顕微鏡法によるsiRNA局在化の観察
siRNA担体としてのPEG−EGCGの能力を評価する前に、siRNAを細胞内に送達するPEG−EGCGの能力を調べた。異なるsiRNA対PEG−EGCG比がsiRNAの取り込みに対して及ぼす影響を、50nMのsiRNAに対して異なる濃度のPEG−EGCGを用いて検討した。トランスフェクションの1、4、及び24時間後において、共焦点顕微鏡法により、Cy3で標識した陰性対照siRNAの内部化をモニタリングし、PEG−EGCGを用いるsiRNAのトランスフェクションに最適な時間を決定した。Cy3で標識したsiRNAと関連する赤色の蛍光シグナルが検出されたのは、トランスフェクションの24時間後における細胞集団だけであった。
【0090】
共焦点顕微鏡画像(
図6)は、PEG−EGCGが、siRNAを細胞に送達しうることを示した。さらに、DAPIで染色した核の画像とCy−3で標識したsiRNAの画像とを重ね合せることにより認められる通り、画像は、siRNAの細胞質における部分的局在化を明らかにする。siRNAを、担体としてのPEG−EGCGなしで送達したところ(
図6A)、蛍光は観察されなかったことから、siRNA単独では、細胞に侵入できないことが裏付けられた。同様に、PEG単独を用いてsiRNAを複合体化させたところ(
図6E)、蛍光は検出されなかったことから、PEG−EGCG/siRNA複合体をトランスフェクトした細胞において観察される赤色の蛍光は、PEGポリマーによるものではないことが示された。
【0091】
実施例5:in vitroにおいてPEG−EGCGと共に送達されたsiRNAによる遺伝子サイレンシング
siRNAによるin vitroにおける遺伝子サイレンシング:Dual−luciferase(登録商標)レポーターアッセイ(Promega、USA)
ODM1誘導体により細胞質内に送達されたsiRNAが、機能的であったかどうかを決定するため、本発明者らは、Dual−luciferase(登録商標)レポーター遺伝子系を用いた。このアッセイでは2つのレポーター酵素であるホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ及びレニラ(Renilla reniformis)ルシフェラーゼを同時に発現させ、同じ細胞試料から、それらの活性を逐次測定した。pGL3ルシフェラーゼsiRNAの配列は、ホタルルシフェラーゼと完全に及び唯一相補的である。したがって、レニラルシフェラーゼの発現が、siRNAのトランスフェクションにより影響されるべきではない。このため、レニラルシフェラーゼは、二重の目的に用いられる。第1に、レニラルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼの活性を標準化するのに用いうる、トランスフェクション対照である。第2に、レニラルシフェラーゼの活性をモニタリングして、siRNA/PEG−EGCG複合体の任意の非特異的作用を検出することができる。
【0092】
pGL3プラスミドベクター及びpGL4.73プラスミドベクター(Promega、USA)をトランスフェクトした4時間後に、様々な濃度のPEG−EGCG/siRNA複合体(上記の通りに調製した)を、96ウェルプレートに播種した細胞に添加した。pGL3ルシフェラーゼのsiRNA(Promega、USA)及びAllstars陰性対照siRNA(QIAGEN、Singapore)により、トランスフェクションを実施した。48時間後、トランスフェクション培地を除去し、DPBSで細胞をすすいだ。50μlのパッシブ溶解緩衝液(Promega、USA)中で細胞を溶解させ、室温で15分間にわたり、オービタルシェーカー(Thermoscientific、USA)に取り付けた。製造元のプロトコールに従い、遺伝子の発現を測定するのに用いられる、Luciferase assay reagent II(LARII)及びStop & Glo(登録商標)(Promega、USA)を調製し、細胞溶解物に添加した。Lumat LB9507 luminometer(Berthold、Germany)を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。トランスフェクション効率は、レニラルシフェラーゼ活性に対するホタルルシフェラーゼ活性の比(相対光単位(RLU)で表される)として評価した。このアッセイではまた、200nM、50nM、及び10nMのsiRNAがルシフェラーゼ活性に対して及ぼす影響も調べた。
【0093】
いずれのルシフェラーゼの比も、それぞれ、ホタル及びレニラの相対光単位として表した(RLU1/RLU2)。両方のルシフェラーゼをトランスフェクトしたが、siRNAはトランスフェクトしていない細胞集団において得られる比を用いて、多様なsiRNAトランスフェクション条件から得られる比を標準化した。機能的siRNAは、ホタルルシフェラーゼタンパク質のレベルを低下させ、結果として、その活性を低下させると予測させる。活性の低下は、レニラルシフェラーゼ活性に対するホタルルシフェラーゼ活性の標準化比の低下に置き換えられる。この標準化は、トランスフェクション効率又は細胞生存率の差違により引き起こされる、実験のばらつきを最小化し、これにより、実験データのより信頼できる解釈を可能とする。
【0094】
2つのプラスミドDNAのトランスフェクション効率を検討し、それらの比を最適化するため、細胞に、1:10〜1:400の範囲の、レニラルシフェラーゼDNA対ホタルルシフェラーゼDNAの比でトランスフェクトした。実際、レニラルシフェラーゼ及びホタルルシフェラーゼを駆動するのに用いられる2つのプロモーター(それぞれ、SV40によるプロモーター及びサイトメガロウイルスによるプロモーター)は、互いに影響を及ぼし合うことが可能であったと報告されている。ホタルルシフェラーゼの量は、一定に維持した。それらの活性を測定し、相対比として表した。
【0095】
PEG−EGCGを用いて、200nMのLuci siRNAを複合体化させたところ、PEG−EGCGの濃度を5〜100μg/mlとしたとき、0.55〜0.62の範囲の標準化ルシフェラーゼ活性比の低下(
図7)が観察された。最も目立った低下は、PEG−EGCGを100μg/mlとしたときに観察された。Luci siRNAと混合したとき、PEG担体単独では、ルシフェラーゼ活性の下方制御が誘導されなかったことは、共焦点顕微鏡法から得られた結果と符合し、これより、PEG自体は、機能的siRNAを細胞内に送達することが不可能であったことが示される。
【0096】
蛍光顕微鏡法を用いた遺伝子サイレンシングの解析
PEG−EGCGにより細胞内に送達されたsiRNAの機能性及び効率を迅速に評価するため、細胞に、緑色蛍光タンパク質をコードするpEGFP−1プラスミドDNAをトランスフェクトした。4時間後、市販のトランスフェクション剤であるsiPORT(商標)又はPEG−EGCGとのGFP−22 siRNA複合体又は対照のsiRNA複合体を、HCT116細胞に添加した。蛍光顕微鏡法は、GFP発現細胞の迅速な視覚化を可能とした。GFP−22 siRNAによるGFPの下方制御は、緑色蛍光を発光する細胞の数の減少のほか、それらの強度の低下にも置き換えられた。GFP−22 siRNAは、GFP mRNAの配列における21bpと相補的である。
図8A〜Dは、GFP−22 siRNAをsiPORT(商標)により送達したときの陽性の下方制御を示した。この研究では、画像を、陽性対照として用いた。
【0097】
上記で説明した複合体を用いた4時間後において、pEGFP−1プラスミドベクター(Clontech、USA)をトランスフェクトした細胞に、GFP−22 siRNA及びAllstars陰性対照siRNA(QIAGEN、Singapore)をトランスフェクトした。48時間後において、Olympus lx71蛍光顕微鏡(Olympus、Singapore)を用いて、蛍光画像を撮像した。画像は、Image−Pro Plusソフトウェア(Media−Cybernetics、USA)を用いて収集した。
【0098】
フローサイトメトリーを用いる遺伝子サイレンシングの確認
蛍光顕微鏡により観察されるGFPの下方制御を定量化するため、Agilent2100 bioanalyzerを用いて、PEG−EGCG/siRNA複合体をトランスフェクトした細胞についてのフローサイトメトリーによる解析を実施した。
【0099】
pEGFP−1プラスミドベクター(Clontech、USA)を既にトランスフェクトした細胞にGFP−22 siRNAをトランスフェクトした48時間後に、トランスフェクション培地を除去し、ウェル1個当たり50ulずつのアキュターゼ(accutase)酵素細胞解離培地(PAA Laboratories GmbH、Austria)を添加した。細胞を5分間にわたりインキュベートし、細胞を解離させた後、ウェル1個当たり150ulずつのDPBSを添加し、ウェルの内容物を1.5mlの試験管に移し、3000rpmで3分間にわたりスピンダウンした。上清を除去し、細胞を、1ml当たり2.5×10
6個の密度で、Agilent Cell Fluorescent LabChip(登録商標)Kit(Agilent Technologies、Singapore)製の細胞蛍光緩衝液中に再懸濁させた。次いで、Agilent Cell Fluorescent LabChip(登録商標)Kitに備えられている試薬を用い、製造元のプロトコールに従い、細胞チップに試料を負荷し、調製した。Agilent 2100 bioanalyzer(Agilent Technologies、Singapore)を用いて、フローサイトメトリー解析を実施し、試料1例当たり約1000〜1200回の細胞イベントをカウントした。
【0100】
本発明者らは、PEG−EGCG+対照siRNAをトランスフェクトした細胞のうちの65.5%が、高蛍光領域にあることを見出した(
図8E)。PEG−EGCG+GFP−22 siRNAをトランスフェクトした細胞では、高蛍光を示す細胞の数が、46.4%へと減少した(
図8F)。したがって、GFP−22 siRNAを、PEG−EGCGを介して送達した場合、GFP発現の低下は、約19.1%であった。高蛍光強度領域から低蛍光強度領域への細胞イベントのシフトは、ヒストグラムから観察することができる。
【0101】
前出の発明を、例示及び実例を目的とし、1つ又は複数の実施形態に関して、理解を明確にする目的で、ある程度詳細に説明してきたが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲で説明される本発明の精神又は範囲から逸脱しない限りにおいて、本発明にある変化、変更、及び改変をもたらしうることが、当業者には容易に明らかである。さらに、個別の実施形態について論じているが、本発明は、これらの実施形態の組合せを包含しうる。
【0102】
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる、2010年3月11日に出願された、米国特許仮出願第61/312,885号の利益を主張する。