特許第5954911号(P5954911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5954911-丸編機における糸端末処理装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5954911
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】丸編機における糸端末処理装置
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/60 20060101AFI20160707BHJP
   D04B 9/46 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   D04B15/60
   D04B9/46
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-257550(P2015-257550)
(22)【出願日】2015年12月29日
【審査請求日】2015年12月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】394015497
【氏名又は名称】THKインテックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516004743
【氏名又は名称】兄弟機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137372
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 徳子
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 達雄
(72)【発明者】
【氏名】李 珍碩
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−094642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/58−15/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸端末押圧部を有する摺動部材と、
摺動部材を保持する支持部材と、
摺動部材を作動させる駆動部から構成される
糸端末処理装置であって、
糸端末押圧部を、シリンダの半径方向に外側から内側へ進退自在となるように配置し、
給糸開始と同時に糸端末をシリンダ回転方向に沿って編成点へと押圧し、押圧後は元の位置に復帰することを特徴とする、
丸編機における糸端末処理装置。
【請求項2】
上記糸端末押圧部がブラシ状部材で形成されている請求項1記載の丸編機における糸端末処理装置。
【請求項3】
駆動部によって押し出された摺動部材が復帰するように付勢された弾性体で摺動部材と支持部材を連結した、
請求項1または請求項2に記載の丸編機における糸端末処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下の編成時、特に丸編機を使用しての筒状編地編成工程中に生じる糸端末を編み込んで処理する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
丸編機を使用して筒状生地を編成するとき糸は、切断・クランプ装置から解放され、新たな編成ループを形成するためのニードルに取り上げられる前にニードルシリンダに引き込まれる結果、編目を形成しない当該糸の根元部分から糸先端まで(糸端末)が編み始めのところに10mmから30mm程度露出したまま残る。丸編機を使用した靴下等の製造工程において必ず発生する当該糸端末は美感上好ましくなく、仕上げの段階で人手によって取り除く、又は生地に編み込む等の処理作業が不可欠となる。その結果、処理工程が多くなってコストが嵩み、また糸端末処理後の仕上がりが必ずしも美麗とは言えない場合もある。
【0003】
このような糸端末は、丸編機を使用した筒状編地の編み始めだけでなくボーダー柄やアーガイル模様など、編成途中で給糸切替を行う際にも生じていた。
【0004】
人手による糸端末処理の他に機械的な処理としては以下のような工夫が従来行われている。
【0005】
糸端末をきれいに生地中に編み込ませるために位置的な拘束を受けない自由端となった糸端末にエアを吹き付けて浮かし、生地中へ編み込まれやすい状態を作り出している。
【0006】
また、シリンダ回転方向に沿って横長吸引口部を設けて吸引によるテンションを保持して直線状態を保ちながらシリンダの接線方向に給糸させる装置の発明がある(特許文献1)。
【0007】
さらに、糸端末の露出長さを可及的に短くする技術の提案もされている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−180508号公報
【特許文献2】特開平11−315454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
靴下編成後の工程である糸端末処理に係る労力軽減のために糸端末の露出長さを可及的に短くする技術があるが、たとえ短くてもゼロにすることはできない。糸端末処理を行わずにそのまま放置すると靴下の美感に影響を与え商品価値を損なうことになる。
また、糸端末にエアを噴射して浮かしながら生地に編み込む方法では糸を適正な位置に浮かせるためのエアの調整が難しく、微量な外気の影響を受けやすいなど不安定なものであった。
【0010】
また、エアによる吸引によってテンションをかけ糸端末を直線状態に保持する方法では、糸の種類によって変更しなければならない、吸引テンションの調整が難しい。例えばカバリングヤーンなどの弾性糸はその伸縮性により勢いよく解放されて編み込まれる結果糸端末の方向性が定まらず、かえって引き連れなどを起こし靴下の商品価値を著しく損ねて
不良品となるおそれがある。 そこで本願発明ではブラシ状の押圧部材で糸端末を編成点へ押圧する手段を採用し、糸端末の長さや糸の種類にかかわらず糸端末を靴下生地へ確実かつ美麗に編み込んで処理する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
糸端末押圧部を有する摺動部材と、摺動部材を保持する支持部材と、摺動部材を作動させる駆動部から構成される糸端末処理装置の糸端末押圧部をシリンダの半径方向に外側から内側へ進退自在となるように配置し、糸端末をシリンダ回転方向に沿って編成点へと押圧し、丸編機での編成工程で生じる糸端末を生地本体へと編み込むのである。
【0012】
また、上記糸端末押圧部をブラシや刷毛状部材で構成するのである。
【0013】
さらに、駆動部によって押し出された摺動部材が復帰するように、摺動部材と支持部材を弾性体で連結するのである。
【発明の効果】
【0014】
糸端末が靴下本体にきれいに編み込まれるため、今まで必要とされていた糸端末の処理作業が不要となり労力が省かれコストダウンが可能となる。
【0015】
糸端末の長さや糸の種類にかかわらず確実に編成生地中に編み込むことができ仕上がりが美麗である。通常の編成動作によって糸端末が生地へと編み込まれるので丸編機に負担をかけることがない。
【0016】
エアなどの吸引により無理なテンションをかけないため引き連れなどを生じさせることがなく、靴下の商品価値を下げることがない。
【0017】
エア噴射による糸端末の浮上などのように外気の影響を受けることがなく、糸端末を編成点へ押圧するため確実に靴下本体へ編み込み処理することができる。
【0018】
比較的簡易な機構で容易に目的を達成することができるので本願の装置を付加しても製品のコストアップにつながらない。
【0019】
丸編機による編み始めだけでなく、編成途中での色分け模様等給糸変更される場合であっても、生じた糸端末を確実に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】丸編機の概略図と本願に係る糸端末処理装置の取り付け場所を示す説明図である。
図2】本願の丸編機における糸端末処理装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本願発明の最適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は丸編機1の概略断面図であって、円筒形のシリンダ2とシリンダ2の上部に設けられた円盤状のダイヤル3を有する。回転軸4の駆動によって前記シリンダ2とダイヤル3が一体回転する。
【0023】
シリンダ2の外周にはその全周を取り囲んで多数のシリンダ針5が上下動可能に保持されており、一方、ダイヤル3の上面には多数のダイヤル針6が径方向に出退自在に備え付けられている。シリンダ2とダイヤル3の回転に伴い、シリンダ針5とダイヤル針6が交
差する箇所を編成点として靴下などの筒状生地が編成されていく。
【0024】
この実施形態では、シングルシリンダ機を使用しているが、本願の糸端末処理装置は、シリンダ上部にもう一つのシリンダを配置したダブルシリンダ編機にも適用可能である。このように構成された丸編機の給糸口付近に本願の糸端末処理装置を配置するのである。
【0025】
具体的には当該装置を円筒形シリンダ2の外周に設けられた鍔部7に取り付ける。丸編機1本体と一体形成することも可能であるが、編成する靴下のデザインによって編成途中で糸の切り替えを行う場合は、複数の糸端末処理装置を配置することもあり、各装置を適正な給糸口付近に適宜設置することを考慮すると、位置変更の容易な後付けタイプのほうが適している。
【0026】
また、シリンダ外周に形成された鍔部への取り付けに限定されるものではなく、シリンダ半径方向に外側から内側へと糸端末押圧部が移動し、糸端末を生地中へ編み込むことができる場所であれば設置場所はどこでもよい。
【0027】
続いて糸端末処理装置8の構造について図2を参照しながら説明する。
【0028】
糸端末処理装置8は先端に糸端末押圧部9を備えた摺動部材10と、摺動部材を保持する支持部材11と、摺動部材10を作動させる駆動部となるエアシリンダ12を主な構成要素とする。
【0029】
また、支持部材11には、丸編機1のシリンダ筒2の外周に設けられた鍔部7に固定可能な取り付け部13を下端に備えた円柱状部材14が取り付けられている。また、高さ調節部材15によって、円柱状部材14の高さ調整が行えるように形成されているので糸端末押圧部9の高さを容易に編成点と同一にすることができるのである。
【0030】
先端に糸端末押圧部9を備えた摺動部材10は板状素材であって、底面部には凸状部10aが形成されており、支持部材11の表面に設けた溝(図示せず)に当該凸状部10aを摺動自在に嵌合して支持部材11によって保持されている。
【0031】
摺動部材10の後方(糸端末押圧部9と反対方向)に立設した部材16と、支持部材11の後方に略直角に一体的に形成したエアシリンダ支持壁17との間に弾性部材18が係止されており、当該弾性部材18によって摺動部材10が後方へ引き戻されるように付勢されている。ここでは弾性部材としてつるまきバネを使用している。
【0032】
糸端末押圧部9は先端部にブラシ9aを有し、当該ブラシは、シリンダの接線方向に添うように水平に配置されている。この実施形態では押圧部材としてブラシを使用しているが、糸端末を確実に押圧して靴下本体に編み込むことが可能で、且つ、シリンダ針やダイヤル針の出退を妨げない素材であれば、例えば刷毛など、適宜応用が可能である。ブラシや刷毛は入手しやすい汎用品であるとともに、横長長方形状の押圧面で、緩やか且つ確実に糸端末を編成点へと押圧できるため押圧部材に適している。
【0033】
この実施形態における本願発明の駆動力としてはエアシリンダ12を使用するが、これに限定されるものではない。
【0034】
エアシリンダ支持壁17にはエアシリンダ筒を保持する孔(図示せず)が穿設されており、ピストンロッド19の先端部が摺動部材10の後方に設けた凸部20に当接している。この実施例で使用されるエアシリンダ12は単動型であって圧縮空気によって前方へ押し出された摺動部材10は立設部材16に係止された弾性部材18によって後方へと引き
戻されて元の位置へと復帰するのである。
【0035】
続いて本願の糸端末処理装置8の作用について説明する。
【0036】
給糸開始と同時にエアシリンダ12が作動し、ピストンロッド19の先端が摺動部材上に形成した凸部20を押し出し、摺動部材10が支持部材11の溝を摺動しながらシリンダ半径方向の外側から内側へと移動し、摺動部材10の先端部に取り付けたブラシ9aが、シリンダ針とダイヤル針とが交差する編成点へと接触し、発生した糸端末を靴下本体へと誘導するのである。その結果、糸端末は編成生地へと確実に編み込まれるのである。
【0037】
ブラシ9aが糸端末を押圧する時間はわずかであって、シリンダの回転方向の上流側で発生した、短い糸端末を押圧して生地本体へと編み込むに必要十分な時間である。すなわち、給糸が開始されて糸が解放されたとほぼ同時にエアシリンダ12が作動し、糸端末を押圧後、摺動部材10は弾性部材18によって速やかに元の位置に復帰するのである。
【0038】
迅速かつ確実に糸端末を編み込むためには本願の糸端末処理装置8はできるだけ編成点へと近づけて設置することが重要であるが、エアシリンダ12が作動しないときはブラシ9aがシリンダ針5の上昇を妨げない位置に配置することは勿論である。
【0039】
本願の糸端末処理装置は丸編機で編成される靴下の編み始めに生じる糸端末だけではなく、ボーダー柄などのような色分け模様を有する靴下や複雑な模様のある筒状生地の編成工程における給糸切替時に発生する糸端末の処理にも活用することができる。
【0040】
その場合は、シリンダ筒外周に設けられた鍔部に複数の糸端末処理装置を配置し、給糸切替点で作動させると、編成途中で発生した糸端末をその都度生地本体へと誘導・押圧して確実に編み込むことができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
丸編機の編み始めに生じる糸端末の処理だけでなく、ボーダー柄などの色分け模様やアーガイル編みなど給糸切り替えによって発生する引き出し糸の端末処理にも利用することができる。
【0042】
また、シングルシリンダ、ダブルシリンダを問わず、丸編機を使用して編成される靴下は勿論、サポーターや腕カバーなどの筒状生地一般の編成工程で使用することができるのである。
【符号の説明】
【0043】
1、丸編機
2、シリンダ
3、ダイヤル
4、回転軸
7、鍔部
8、糸端末処理装置
9、糸端末押圧部
9a、ブラシ
10、摺動部材
11、支持部材
12、エアシリンダ
18、バネ
【要約】
【課題】丸編機を使用して編成される筒状生地において、編み始めや給糸切替の際に生地に編み込まれない糸端末が発生していた。靴下本体から飛び出た糸端末は製品編成後に人の手によって切断するなどの後処理を必要とし、手間がかかり製品のコストアップにつながっていた。糸端末をできるだけ短くする方法でもゼロにはならないため、後処理を不要とすることはできない。またエアで糸を浮かせたり吸引したりする方法ではエア等の調整が難しく、確実に糸端末を生地へ編み込むことが不可能であった。また糸の種類によっては引きつれを生じさせ、かえって商品価値を下げるおそれがある。
【解決手段】ブラシ状の糸端末押圧部材を備えた糸端末処理装置をシリンダ外周に配置し、エアシリンダなどの駆動手段を用いて糸端末押圧部を編成点へと押し出して糸端末を誘導し、生地本体へと確実に編み込んで処理するのである。
【選択図】図2
図1
図2