(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954920
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】赤外分光法を用いた炭素繊維強化プラスチック材料の樹脂タイプの分類方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/35 20140101AFI20160707BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20160707BHJP
C08J 11/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
G01N21/35
B29B17/00
C08J11/00
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-275969(P2009-275969)
(22)【出願日】2009年12月4日
(65)【公開番号】特開2010-133963(P2010-133963A)
(43)【公開日】2010年6月17日
【審査請求日】2012年9月25日
【審判番号】不服2015-7005(P2015-7005/J1)
【審判請求日】2015年4月14日
(31)【優先権主張番号】12/327,826
(32)【優先日】2008年12月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー ジェイ. ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】ポール エイチ. シェリー
(72)【発明者】
【氏名】パナヨティス イー. ジョージ
【合議体】
【審判長】
三崎 仁
【審判官】
渡戸 正義
【審判官】
信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−285601(JP,A)
【文献】
特開2002−267601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスティック(CFRP)材料から炭素繊維を収集する方法であって、
(i)炭素繊維強化プラスティック材料上の高分子含有表面に一定のスペクトルの波長に亘る赤外エネルギーを放射するステップ、
(ii)前記スペクトルの波長に亘り前記表面から反射された前記赤外エネルギーの一又は複数のスペクトルを収集するステップ、
(iii)一又は複数の赤外スペクトルを含む一又は複数の波長において多変量処理を実行するステップ、
(iv)前記多変量処理の結果を、一又は複数のモデル材料表面から収集されたモデル材料の赤外エネルギースペクトルに基づく一又は複数の所定の材料分類モデルと比較するステップであって、前記一又は複数のモデル材料表面の各々が既知の高分子材料組成を含んでいるステップ、
(v)一又は複数の波長における前記多変量処理の前記結果と、前記所定の材料分類モデルとの類似性に基づいて、前記高分子含有表面を同定するステップ、
(vi)前記高分子含有表面の前記同定に基づいて、後で行われる温度処理ステップを決定するステップ、及び
(vii)前記炭素繊維強化プラスティック材料を、前記プラスティックの燃焼に十分な時間及び温度で加熱するステップ、を含む方法であって、
前記(i)ないし(v)のステップを、フーリエ変換赤外分光法による測定を行う機能を有する手持ち式携帯型赤外分光計により実行する、方法。
【請求項2】
前記一又は複数の赤外スペクトルの前記多変量処理が、前記一又は複数の赤外スペクトルの選択されたスペクトルピークを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(i)における波長が、2.5〜15.4ミクロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多変量処理が、導関数の取得、補整アルゴリズムの適用、及び主成分回帰分析の実行のうちの少なくとも一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、
前記燃焼の後で、再利用する前記炭素繊維を収集するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して赤外分光法による測定の方法と装置に関し、具体的には、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)材料中の樹脂の非破壊的赤外分光法による測定を実行することにより、CFRP材料に関する樹脂タイプを分類するための方法と赤外分光計に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外分光法による測定は、生物学的用途及び生物医学的用途だけでなく、航空宇宙産業、自動車産業及び産業的用途を含む様々な目的に有用でありうる。例えば、赤外(IR)線は、炭素、水素、酸素及び窒素などの一般的原子間の結合の相対的な動き(振動)と関連して材料により容易に吸収される。従って、赤外分光法による測定は、無機物質だけでなく、幅広い有機物の状態及び/又は正体を示すことができる。
炭素繊維強化プラスチック複合材料を含む繊維−樹脂ベースの物質のような高分子複合材料は、構造材料としての用途を含めて様々な目的で使用されている。高分子複合材料を含む高分子材料のリサイクルに対する需要が増大している。
【0003】
リサイクルプロセスを実行する際にまず必要なのは、特定のCFRP複合材料の化学的組成又は樹脂タイプを知ることである。例えば、最適熱処理を含むその後行われる処理ステップは、特定の樹脂系に基づいて決定される。
本出願人による特許文献1のような、樹脂材料の化学特性を決定するための従来技術による方法は、試料表面上に配置されるフィルタ及びATR結晶などの光学インターフェースを用いて、試料材料の正規化赤外線の吸光度を決定することを含む。加えて、赤外測定を行うために光源と検出器が別々に配置されている場合、例えば管理環境下においては、比較的大型の赤外分光計が使用可能である。
【0004】
比較的長時間を要するプロセスで赤外吸光度を個別に収集及び比較する管理環境下では、従来技術による方法及び赤外装置が使用可能であることが望ましいが、それに加えて、フィールド設定においては、比較的迅速且つ簡単に赤外分光法による測定を行えることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7145147号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、比較的迅速且つ簡単に赤外分光法によるフィールド測定を行うことを含む、従来技術の欠点の少なくとも一部を克服する赤外分光法による測定法と、赤外分光計とが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
携帯型の手持ち式赤外分光計が提供される。本分光計を使用することにより、CFRP複合材料中に存在する樹脂タイプを含む樹脂の化学特性を決定することを含め、近実時間多変量解析を伴うフィールド赤外分光測定により高分子材料を分類することができる。本方法を、リサイクルプロセスにおいて、リサイクルされるCFRP複合材料のソーティングに使用することにより、温度処理ステップを最適化することができる。
一実施例では、高分子含有表面の識別方法が提供され、本方法は、一定のスペクトルの波長に亘って表面反射された赤外エネルギーの一又は複数のスペクトルを収集するステップ、一又は複数の波長において多変量処理を実行するステップ、一又は複数のモデル材料の表面から収集されたモデル材料の赤外エネルギースペクトルから得られた一又は複数の所定の材料分類モデルと、前記多変量処理の結果とを比較するステップであって、一又は複数のモデル材料表面の各々が既知の高分子材料組成を有しているステップ、及び、一又は複数の波長における多変量処理の結果と所定の材料分類モデルとの類似性に基づいて、高分子含有表面を分類するステップを含む。
【0008】
別の実施例では、高分子材料は樹脂ベース複合材料を含んでおり、本方法は、前記高分子含有表面の前記分類に基づいて後で行う温度処理ステップを決定するステップと、前記樹脂ベース複合材料を十分な時間及び温度で加熱することにより前記樹脂を焼結するステップとを含む、リサイクルプロセスを含む。
別の実施例では、携帯型の手持ち式赤外分光計により樹脂ベース複合材料を識別する方法が提供され、本方法は、樹脂ベースの複合材料に対し、一定のスペクトルの波長に亘る赤外エネルギーを放射するステップ、一定のスペクトルの波長に亘って樹脂ベースの複合材料から反射された赤外エネルギーの、一又は複数のスペクトルを収集するステップ、一又は複数の赤外スペクトルを含む一又は複数の波長における多変量処理を実行するステップ、一又は複数のモデル材料から収集されたモデル材料の赤外エネルギースペクトルから得られた一又は複数の所定の材料分類モデルと、多変量処理の結果とを比較するステップであって、一又は複数のモデル材料の各々が既知の複合材料組成を含んでいるステップ、及び、一又は複数の波長における前記多変量処理の前記結果と、所定の材料分類モデルとの類似性に基づいて、樹脂ベースの複合材料を分類するステップを含み、これらの放射ステップ、収集ステップ、実行ステップ、比較ステップ、及び分類ステップは、携帯型の手持ち式分光計を用いて行われる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
後述の詳細な説明及び添付図面により、実施例をさらによく理解することができる。
【
図1】本発明の実施例による、赤外分光法による測定に使用するのに適した例示的な手持ち式携帯型赤外分光計の概略図である。
【
図2A】選択された赤外波長範囲に亘る、異なる樹脂ベースの複合材料試料の例示的赤外スペクトルを示す。
【
図2B】本発明の実施例により部分的多変量データ処理を行った後の、異なる樹脂ベース複合材料試料の例示的赤外スペクトルを示す。
【
図2C】本発明の実施例によりさらなる多変量データ処理を行った後の、異なる樹脂ベース複合材料の例示的な結果を示す。
【
図3】携帯型手持ち式赤外分光計を用いた一実施例による例示的プロセスのフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明は、例示的(説明的)性質を持つに過ぎず、記載される実施形態、又は記載される実施形態の用途及び使用法を制限するものではない。さらに、明示、暗示の区別を問わず本明細書に提示される理論に束縛されることはない。
【0011】
樹脂ベースの高分子複合材料の同定(分類)のような、高分子材料の化学的分類を非破壊的に決定する方法が提供され、本方法は、赤外分光計、好ましくは携帯型手持ち式フーリエ変換型赤外分光計を用いた赤外(IR)分光法による測定により行われる。多変量分類方法は、リサイクルプロセスの一部として行なわれる場合を含め、樹脂ベース高分子複合材料の分類(一又は複数の化学成分の同定)に使用することができる。
赤外分光を用いる本方法及び本装置は、リサイクルプロセスを目的として化学組成による樹脂ベース複合材料の分類に使用することができるが、化学的同定及び分類のプロセスは、携帯型手持ち式赤外分光計により高分子材料の近実時間定量及び比較的迅速な測定が行われる分野においてそのようなプロセスの実行が望まれるあらゆるプロセスにおいて使用することができる。
【0012】
本発明の実施例による赤外分光法を用いた測定を実行するために、携帯式又は非携帯式の赤外分光計を使用することができ、赤外分光法を用いた測定に使用される波長のスペクトルが約2.5〜15.4ミクロンの波長(波数4000〜650(cm−1))の全部又は一部を含みうることに注意されたい。
一実施例では、フーリエ変換赤外(FT−IR)分光法による測定を実施可能な手持ち式携帯型赤外分光計を使用して赤外分光法による測定を行う。
【0013】
手持ち式携帯型FT−IR分光計は、好ましくは、約30−約60度、最も好ましくは45度の所定の入射角で試料にソースIRエネルギーを供給し、入射角を含む広い範囲の角度で試料から反射される光を収集することができる。手持ち式携帯型FT−IR装置は、好ましくは、鏡面−拡散反射率の赤外分光法による測定を行うことができる。
別の実施例では、近赤外波長範囲(700−2400nm)に亘る拡散反射率の赤外測定を行うことができる携帯型手持ち式赤外分光計を使用して、赤外分光法による測定を行うことができる。
【0014】
図1は、一実施例による手持ち式携帯型赤外分光計10の上面図である。携帯型赤外分光計10は、FT−IR又は近赤外分光法による測定を行うことができるが、好ましい実施形態では、少なくともFT−IR分光法による測定を行うことができる。「手持ち式」という用語は、機器が、平均的な人がIR分光法による測定を行うために容易に持ち運び、持ち上げ、且つ動かすことができること、例えば、約8ポンド未満の重量と、約1平方フィート未満の大きさを有することを意味する。
別の実施例では、
図1に示される手持ち式携帯型FT−IR分光計10は、約2.5〜15.4ミクロンの波長範囲又は400〜600の波数(cm−1)に亘ってFT−IR分光法による測定を実行することができる。
【0015】
手持ち式携帯型IR分光計10は、コンピュータプロセッサ及びメモリ(例えば11)を含み、他の演算装置との(通信を行うように配置された)接続部(例えばUSBポート18)を有することができる。手持ち式携帯型赤外分光計10は、一又は複数のバッテリによって電力供給される。手持ち式携帯型赤外分光計10は、プログラム可能であり及び/又はFT−IR分光法による測定を実行するためのプログラムされた指令を受信、保存、及び実行することができる。手持ち式携帯型赤外分光計10は、さらに、入射IR光(エネルギー)を供給し、動作波長範囲(例えば、2.5〜15.4ミクロン)に亘って(例えば、一又は複数のIR透過エネルギー窓/ドーム、例えば12を介して)反射されたIRスペクトルをメモリに収集及び保存する機能を有することができる。
例えば入射IRエネルギーは、様々な入射角で試料に供給し、入射角を含む幅広い波長に亘って収集することができる。手持ち式携帯型IR分光計10は、収集されたIRスペクトルを保存し、多変量解析法を実行してスペクトルを処理することを含むIRスペクトル含有データの数学的操作を実行することができる。手持ち式携帯型IR分光計10は、対話式LCD又はLEDタッチスクリーン22上に、例えば20A、20Bのような対話式ボタン、及び/又はソフトキーを含むことができる。手持ち式携帯型IR分光計10は、現場での赤外分光法による測定を実行するために分光計を保持及び操作する際の携帯性及び容易性を向上させるために、適切な人間工学に基づく形状を有することができる。
【0016】
加えて、本発明の実施例による赤外分光法による測定の実行に先立って赤外分光計10を較正するために、適切な較正背景の参照標準材料と波長の参照標準材料を提供することができる。
手持ち式携帯型赤外分光計10、又は本発明の実施形態による赤外分光法を用いた測定の実行に使用される別の赤外分光計は、好ましくは、赤外スペクトルの多変量解析能を有するコンピュータプロセッサを含む。例えば、赤外分光計(又は付属コントローラ)は、好ましくは、複数の変数(例えば、複数の波長における反射率及び/又は吸光度を含む赤外スペクトル)の変化を数学的及び統計学的に相関させて定量することができる。
【0017】
例えば、多変量統計学的アプローチを使用して、複数の変数の、統計学的に定量された相対的な変化(例えば、一又は複数の波長における吸光度及び/又は反射率の相対的変化)を、一又は複数の第2変数又は別途定量された材料特性(例えば、一又は複数の化学的組成)の変化と相関させることができる。
本発明の実施形態による赤外スペクトルデータに使用できる適切な多変量分類技術が多数存在し、それらには、部分最小二乗、主成分分析(PCA)又は主成分回帰分析(PCR)、線形回帰分析、多重線形回帰分析、段階的線形回帰分析、ridge回帰法、ラジアルベーシス関数などの定量化方法論が含まれるが、それに限定されない。
【0018】
加えて、適切な多変量統計学的アプローチは、線形判別分析(「LDA」)、クラスター分析(例えば、k平均法、c平均法など、ファジー及びハード理論両方)、及びニューラルネットワーク(「NN」)分析などの追加的分類方法論を含むことができる。
さらに、補整、正規化、未加工の赤外スペクトルの第1及び第2導関数の取得、及びピーク強調法を含む適切な多変量統計学的アプローチと共に適切に使用することが可能な複数のデータ処理方法が存在することに注意されたい。
【0019】
加えて、収集された赤外スペクトルの多変量処理は、参照スペクトルに対する赤外スペクトル(例えば、反射率及び/又は吸光度)の対応する変化を定量化するために回帰分析法が実行される波長の組の選択及びクラスター形成を含むことができる。(例えば、一定の波長範囲に亘るマルチスキャン及び既知の平均化技術の使用により)複数の未加工赤外スペクトルから処理済みの赤外スペクトルが形成可能であることに注意されたい。
第1及び/又は第2導関数を取得し、補整及び/又はピーク強調法を実行し、更には回帰分析を実行することにより、未加工の赤外スペクトルはさらに第2赤外スペクトルに変換することができる。例えば、第1導関数の取得前又は後でアルゴリズムを補整することにより、未加工の赤外スペクトルを操作することができる。
【0020】
一実施例では、本発明の実施形態による赤外分光法を用いた測定を実行するために使用される赤外分光計、例えば携帯型赤外分光計10のメモリ内には、一又は複数の材料分類モデルを提供及び保存することができ、これらのモデルは、CFRP複合材料を含む例示的な参照(モデル)高分子材料に対して適用された一又は複数の多変量分類方法の結果を含む。この材料分類モデルは、現場で取得された試料のスペクトルを手持ち式携帯型分光計と近実時間で比較することにより、特定の材料分類モデルとの許容可能な相関又は一致があるかどうかを決定するために使用される。個別の化学分析の参照又は実行を含む、化学的組成及び/又はモデル材料中に存在する樹脂タイプの決定は、個別に決定することができる。
例えば、さらに後述するように、参照用試料の未加工の赤外スペクトルを、同様の又は異なる赤外分光計により収集し、多変量解析を行って、異なる種類の樹脂ベース高分子複合材料の材料分類モデルを作成することができる。一実施例では、次いで、手持ち式携帯型赤外分光計10のメモリに一又は複数の分類モデルを保存する。
【0021】
この場合、試料となる樹脂ベース複合材料の赤外スペクトルは、手持ち式携帯型赤外分光計(例えば10)によって収集され、この試料には、参照試料に実行されるものと同様の、近実時間他変数解析が行われる。その結果として、参照樹脂ベース材料の一又は複数の分類モデルを基準とする分類(参照分類モデルとの一致又は不一致)が、次いで手持ち式携帯型赤外分光計(例えば10)により近実時間で行われる。このようにして、CFRP複合材料の種類を明確に分類することができる。
【0022】
例示的な一プロセスにおいて、手持ち式分光計10と類似の手持ち式携帯型FT−IR分光計を使用して、6の異なるCFRP複合材料の各々に対し、5の赤外分光法による測定(読み取り)を行い、それらの赤外線シグネチャー(多変数処理されたスペクトル)を調査してそれらを異なる物質としてソートした。
例えば、
図2Aは、中赤外範囲の波長で収集された6の異なる樹脂ベース複合材料(パネル)の各々に関する例示的な未加工データ(例えば吸光度)を示している。ここでは、対応するパネルに関する各「読み取り」について、8cm
−1の解像度で128回のスキャンが行われた。
【0023】
図2Bは、第1導関数を取得し、7の補整点を用いてデータに補整アルゴリズムを適用した後で、最も類似していたパネル(1と5)を一緒にグラフ化したものを示す。ピークのいくつかは、未加工赤外データの類似性にも関わらず有意な差異があったことを示している。
図2Cには、3−PC回帰法(PCR)とも呼ばれる、例示的な3つの主成分(3−PC)分析(PCA)を行った後の三次元グラフを示す。パネル1と5の間の距離が最小であり、パネル4は、恐らくは表面粗さにより、散らばりが大きいことが分かる。パネル1と5に含まれる類似する二つの材料を分離するには、2PCモデルの適用は不十分であったことが分かる。
【0024】
このように、
図2Cに示す種々の材料パネルを囲む球(円で示す)により表わされる数値的空間は、炭素繊維強化樹脂成分(CFRPとも呼ばれる)、又は一般の高分子材料を含む未知の樹脂ベース複合材料を特定する、一致する数値的ドメインとして定義することができる。例えば、同様の多変量処理ステップ(例えば、第1導関数、7つの補整点、3PCA)を行った後に未知の材料がモデル材料のドメイン空間の上及び/又は内部に位置する場合、手持ち式分光計は、モデル材料に対する一致又は分類を報告するようにプログラムすることができる。
一実施例では、材料の種類の同定にかかる時間を含め、赤外分光法による測定にかかる時間は、約5秒〜約90秒、更に好ましくは約10秒〜約60秒である。
【0025】
参照試料の、特定の赤外分析法による測定又は分類モデル作成を行う際に、同じ又は異なる測定パラメータを使用することができることに注意されたい。例えば、行われるスキャンの回数(例えば、所定の範囲の波長に対する1回のスキャン)及びスキャンを平均化する位置を変えることができる。加えて、各材料試料に対して行われる「読み取り」の回数を変えることができる。しかしながら、好ましくは、未知の試料及び分類モデルについての多変量データ処理ステップ(例えば、第1導関数及び7つの補整点)は、概ね同様である。
さらに、一部の実施形態では、樹脂に対する手持ち式赤外分光計の方向が、赤外分光法による測定を行うときの一因子となりうる。例えば、複合材料の種類によって、好ましくは、入射赤外エネルギーは、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)とも呼ばれる炭素繊維強化材料のような例えば複合繊維樹脂材料の、複合繊維の方向に垂直な方向で供給される。
【0026】
一部の実施形態では、複合材料表面、(例えば、CFRPなどの樹脂ベース複合材料)は、エポキシなどの有機表面仕上げ製品を含むことができる。つまり、本明細書において樹脂ベース複合材料という場合、それにはさらに、表面上の有機材料のコーティングの存在も含まれる。
【0027】
図3には、手持ち式赤外分光計(例えば10)を用いて一実施例による未知の樹脂ベース複合材料の赤外分類(一又は複数の化学成分の同定)を行う例示的な一方法が示されている。
ブロック301において、(例えばリサイクル作業において)分類/同定される樹脂タイプが不明な複数の未知の樹脂ベース複合パーツが提供される。ブロック303では、メモリに一又は複数の赤外材料分類モデル(多変量分類モデル)が保存されている手持ち式分光計(例えば10)が提供される。ブロック305では、パーツの材料に対して手持ち式分光計を用いることで、未加工の赤外データを収集するために、一又は複数の赤外分光計による測定が行われる。ブロック307では、赤外分光計による未加工データの多変量処理が実行される。ブロック309では、赤外分光計により、特定のタイプの樹脂ベース複合材料として(材料モデルに一致する)、パーツの材料が同定される。ブロック311では、パーツがさらに処理される(例えば、さらなるリサイクルステップのために適切な処理ビンに保存される。)本方法は、ブロック305で別の樹脂ベース複合パーツに対して繰返すことができる。
【0028】
例えば、一実施例では、分類モデルによる手持ち式分光計を用いた樹脂ベース複合パーツの同定を行い、特定の樹脂ベース複合材料が含みうる樹脂タイプを決定する。例えば、樹脂ベース複合材料のリサイクルは、存在する既知のタイプの樹脂を判別することにより、材料の再生を最適化するための、材料処理に使用される炉の処理条件の最適化などの、後で行う適切な処理ステップを決定することに基づいている。
例示的な一方法では、樹脂ベースの複合材料は、既知の方法による再利用のために樹脂を燃焼(焼結)して炭素繊維を再生させた炭素繊維(例えばCRFP)を含む。適切な焼結温度は、複合材料に含まれる樹脂タイプに応じて決定することができる。
【0029】
例えば、リサイクル作業において一連のソーティングビンを形成し、所定の材料分類モデルを有する手持ち式携帯型赤外分光計を使用して樹脂ベース複合材料中の樹脂タイプを同定することができる。樹脂タイプの同定後、パーツの材料は、炉による燃焼処理などの次のステップに備えて、例えば対応するソーティングビンに入れて適切に保存することができる。
本明細書の実施形態について特定の実施例を参照して説明したが、これら個々の実施形態は説明を目的とするもので、限定を意図するものではなく、当業者であれば他の変形例を想起することが可能である。
また、本願は以下に記載する態様を含む。
(態様1)
高分子含有表面の同定方法であって、
前期高分子含有表面に一定のスペクトルの波長に亘る赤外エネルギーを放射するステップ、
前記スペクトルの波長に亘り前記表面から反射された前記赤外エネルギーの一又は複数のスペクトルを収集するステップ、
一又は複数の赤外スペクトルを含む一又は複数の波長において多変量処理を実行するステップ、
前記多変量処理の結果を、一又は複数のモデル材料表面から収集されたモデル材料の赤外エネルギースペクトルに基づく一又は複数の所定の材料分類モデルと比較するステップであって、前記一又は複数のモデル材料表面の各々が既知の高分子材料組成を含んでいるステップ、並びに、
一又は複数の波長における前記多変量処理の前記結果と、前記所定の材料分類モデルとの類似性に基づいて、前記高分子含有表面を同定するステップ
を含む方法。
(態様2)
前記一又は複数の赤外スペクトルの前記多変量処理が、前記一又は複数の赤外スペクトルの選択されたスペクトルピークを含む、態様1に記載の方法。
(態様3)
前記波長のスペクトルが、約2.5〜約16.7ミクロンである、態様1に記載の方法。
(態様4)
前記複数のステップを、フーリエ変換赤外分光法による測定を行う機能を有する手持ち式携帯型赤外分光計により実行する、態様1に記載の方法。
(態様5)
前記多変量処理が、導関数の取得、補整アルゴリズムの適用、及び主成分回帰分析の実行のうちの少なくとも一つを含む、態様1に記載の方法。
(態様6)
前記高分子材料が樹脂ベース複合材料を含み、前記方法が、
前記高分子含有表面の前記同定に基づいて、後で行われる温度処理ステップを決定するステップ、及び
前記樹脂ベース複合材料を、前記樹脂の焼結に十分な時間及び温度で加熱するステップ
をさらに含むリサイクルプロセスを含む、態様1に記載の方法。
(態様7)
前記樹脂ベース複合材料が炭素繊維を含み、前記方法が、
前記焼結の後で、再利用する前記繊維を収集するステップ
をさらに含む、態様6に記載の方法。
【符号の説明】
【0030】
10 手持ち式携帯型赤外分光計
11 コンピュータプロセッサ及びメモリ
12 透明な赤外エネルギー窓/ドーム
18 USBポート
20A及びB 対話式ボタン