(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザ・アブレーションによって前記試料の表面から放出された前記試料の材料の少なくとも90%が、前記真空室の前記前駆体ガスの雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積しない、請求項1または2に記載の方法。
前記試料の表面から除去された前記試料の材料の大部分が、レーザ・アブレーションによって前記試料の表面から放出され、前記真空室の前記前駆体ガスの雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積しない、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
前記試料の表面から除去された前記試料の材料の少なくとも80%が、レーザ・アブレーションによって前記試料の表面から放出され、前記真空室の前記前駆体ガスの雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積しない、請求項4に記載の方法。
前記試料の表面から除去された前記試料の材料の少なくとも90%が、レーザ・アブレーションによって前記試料の表面から放出され、前記真空室の前記前駆体ガスの雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積しない、請求項4に記載の方法。
前記試料の表面から除去された前記試料の材料の10%未満が、前記レーザ・アブレーションによって前記真空室の前記前駆体ガスの雰囲気中へ放出されることなく、前記試料の表面上で前記前駆体ガスと反応する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
前記レーザ・システムが、Ti:サファイヤ・レーザ、ファイバ・ベースのレーザ、あるいはイッテルビウムまたはクロムがドープされた薄型ディスク・レーザを備える、請求項11に記載の方法。
前記レーザ・ビームが、放出された前記試料粒子に、前記前駆体ガスの粒子との反応を開始するのに十分なエネルギーを供給することが、前記レーザ・ビームが、前記試料の表面をアブレートするのに十分なエネルギーを供給し、その結果、前記前駆体ガスが、前記レーザ・ビームによって前記試料から放出されたアブレートされた高温の材料、前記レーザ・ビームによって前記試料から放出された光電子、前記レーザ・ビームによって前記試料から放出された高エネルギー光子(X線)、または前記レーザ・ビームによって生成された電界のある組合せによって解離することを含む、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
前記前駆体ガスが、少なくとも1種の反応性解離副生物に解離し、この少なくとも1種の反応性解離副生物が、前記アブレートされた材料に結合して揮発性化合物を形成し、この揮発性化合物を、前記試料上に再堆積させることなく、ポンプによって、ガスの形態で除去することができる、請求項21に記載の方法。
前記真空室に試料を装填するステップ、および前記真空室に、所定の濃度の前駆体ガスを充填するステップが、主試料室内のより小さな試料セルに前記試料を装填するステップ、および前記試料セルに、所定の濃度の前駆体ガスを充填するステップを含む、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
前記レーザ・ビームを前記試料に誘導するステップが、前記レーザ・ビームの波長にとって透明な前記試料セルの窓を通して、前記レーザ・ビームを前記試料に誘導するステップを含む、請求項23に記載の方法。
前記レーザ・ビームを前記試料に誘導するステップが、負の群速度分散を有するフォトニック結晶ファイバを使用して、前記レーザ・ビームを前記試料に誘導するステップを含む、請求項23または24に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
基板から材料を除去して、マイクロスコピックまたはナノスコピック構造を形成するプロセスは、マイクロ機械加工、ミリング(milling)またはエッチング(etching)と呼ばれる。レーザ・ビームおよび荷電粒子ビームは、マイクロ機械加工に対して使用される2つの個別技術である。これらの技術はそれぞれ、さまざまな用途において利点および限界を有する。
【0003】
レーザ・システムは、マイクロ機械加工に対していくつかの異なる機構を使用する。いくつかのプロセスでは、基板に熱を供給して化学反応を誘発させるために、レーザを使用する。反応は加熱された領域だけで起こる。この熱は、レーザ・ビーム・スポットよりも広い面積に拡散する傾向があり、それにより、プロセスの解像度が、レーザ・スポットのサイズよりも悪くなり、付随する熱損傷を近くの構造物に与える。レーザ・マイクロ機械加工において使用される他の機構が光化学エッチングであり、光化学エッチングでは、基板の個々の原子または分子(粒子)によってレーザ・エネルギーが吸収され、それにより、これらの粒子が、エッチング剤と化学的に反応することができる状態にまで励起される。光化学エッチングは、光化学的に活性な材料に限定される。レーザ機械加工において使用される他の機構がレーザ・アブレーション(laser ablation)であり、レーザ・アブレーションでは、小さな体積に急速に供給されたエネルギーによって、原子が、基板から爆発的に放出される。超短パルス・レーザ(ultrashort pulsed laser)(UPL)を使用するレーザ・アブレーションが例えば、Mourouの「Method for Controlling Configuration of Laser Induced Breakdown and Ablation」という名称の米国再発行特許第37,585号に記載されている。UPLアブレーション(UPLA)は、上述のプロセスの限界のいくつかを解決する。
【0004】
荷電粒子ビームにはイオン・ビームおよび電子ビームが含まれる。集束ビーム中のイオンは一般に、表面から材料を物理的に追い出すことによってマイクロ機械加工するのに十分な運動量を有する。電子はイオンよりもはるかに軽いため、電子ビームは一般に、エッチング蒸気と基板との間の化学反応を誘発させることによって材料を除去することに限定される。イオン・ビームは一般に、液体金属イオン源から、またはプラズマ・イオン源によって生成される。荷電粒子ビームのスポット・サイズは、粒子のタイプおよびビーム中の電流を含む多くの因子に依存する。低電流を有するビームは一般に、高電流を有するビームよりも小さなスポットに集束させることができ、したがって、高電流を有するビームよりも小さな構造を形成することができるが、低電流ビームでは、構造体をマイクロ機械加工するのに、高電流ビームよりも長い時間がかかる。
【0005】
レーザは一般に、荷電粒子ビームよりもはるかに高い速度で基板にエネルギーを供給することができ、そのため、レーザは一般に、荷電粒子ビームよりもはるかに高い材料除去速度を有する。
図1は、先行技術による表面のレーザ・アブレーションの概略図である。ビーム103を生成する高出力パルス・レーザ102の焦点がターゲット材料104に合わされ、レーザ・フルエンス(laser fluence)が材料のアブレーションしきい値を超えると、ターゲット材料中の化学結合が切れ、材料は、一般に中性原子、イオン、クラスタ(cluster)ならびにナノおよびマイクロ粒子の混合物である高エネルギー・フラグメントに分断され、これらのフラグメントは、材料表面の上方にプラズマ・プルーム(plasma plume)106を形成する。材料は、高エネルギーのプラズマ、ガスおよび固体破片の混合物として反応域を出るため、このアブレーション・プロセスは、レーザの焦点から上部へ、かつ遠くへ材料フラグメントを推進する、材料の爆発的蒸発にたとえられる。プラズマが冷えると、固体破片108の多くは加工物表面に再堆積し、したがって切削の質および切削効率が低下する。切削効率が低下するのは、ビームが加工物表面と相互作用する前に、この破片を再び除去しなければならないためである。
【0006】
レーザ・アブレーション中の望ましくない再堆積を最小限に抑えるさまざまな技法が知られている。例えば、Gua、Hongping他、「Study of Gas−Stream Assisted Laser Ablation of Copper」、218 THIN SOLID FILMS、274〜276頁(1992)に記載されているように、不活性ガス流を使用してアブレーション位置を冷却することが知られている。Foltz他の「Laser Ablation Nozzle」という名称の米国特許第5,496,985号は、切削位置の近傍における再堆積を防ぐために、ガスまたは流体ジェットを使用して、放出された材料を、切削位置の近傍から除去することを記載している。Robinson、G.M.他、「Femtosecond Laser Micromachining of Aluminum Surfaces Under Controlled Gas Atmospheres」、J.Mater.Eng.& Perf.、第15巻第2号、155〜160頁(2006年4月)は、不活性ガスを不活性ガス・シールドとして使用することを記載している。このような2次的技法はしばしば完全には有効ではなく、レーザ・アブレーション・システムにかなりの複雑さを追加し、同時に切削効率を低下させる。
【0007】
2008年10月2日に出願されたLi他の「System and Method to Reduce Redeposition of Ablated Material」という名称の米国特許出願公開第2008/0241425号は、レーザ・アブレーションを真空で実行するシステムを記載している。Liによれば、低コストで便利であることから、大部分のレーザ・アブレーションは(常圧の)空気中で実行されている。Liは、アブレートされた材料が、かなりの量の運動エネルギーを失い、表面に再堆積する前に、ミリング位置からより遠くへ移動するように、試料室の圧力を下げることを教示している。残念なことに、Liが記載している方法を使用しても、材料は依然として表面に再堆積し、材料の一部が、室圧が高い場合よりも遠くに移動するだけである。さらに、Liが記載している低圧システムは、後述するレンズ、磁極片などのシステムのさまざまな構成要素上に破片材料が堆積する可能性をより高くする。
【0008】
レーザと同様に、荷電粒子ビーム・システムでも材料の再堆積は問題である。再堆積を相当に防ぎ、材料除去速度を増大させるため、荷電粒子ビーム・システムはしばしば、ガス支援エッチング(gas−assisted etching)(GAE)を利用する。GAEでは、ガス粒子(ガスのタイプによって分子または原子)の単層が材料表面に吸着するように、エッチング・ガス(前駆体ガスとも呼ばれる)が材料表面に誘導される。荷電粒子ビームによって材料表面を照射すると、吸着粒子が解離して反応性フラグメントを生成し、これらの反応性フラグメントは、試料材料と反応して、ポンプによって除去することができる揮発性生成物を形成する。材料の除去速度における重要な因子は、ガス粒子が表面に吸着する速度である。集束イオン・ビーム(FIB)などの荷電粒子ビームが、1つの位置にあまりに長く留まる場合には、吸着粒子が全て解離または脱離し、ビームは、スパッタリングによって材料を除去し始め、その結果、材料の再堆積の問題が生じる。ミリングの間、イオン・ビームは一般に、長方形の上を、ラスタ・パターンを描いて繰り返し走査される。走査を完了した後、新たなラスタを始める前に追加のガス粒子を表面に吸着させる時間を与えるため、ビームは一般に、次の走査を始めるまでにかなりの時間、待機させられる。これにより処理時間が増大する。表面に単層を形成する粒子は、一度に比較的に少数しか材料の表面に吸着しないため、高濃度(高ガス圧)の前駆体ガスは一般に有用でない。
【0009】
長パルス連続発振レーザを使用する同様のガス支援エッチング・プロセスは、光化学エッチングとして知られている。光化学レーザ・エッチング(Photochemical Laser Etching)(PLE)は、加工物表面が前駆体ガスにさらされている間に、処理中の材料のアブレーションしきい値よりも低いエネルギー・レベルを有するビームを、加工物表面に誘導することを含む。上述の超高速熱アブレーション・プロセスによって材料を除去する代わりに、このレーザは、表面を化学的にエッチングする揮発性化合物の形成を引き起こすエネルギーだけを、吸着ガス粒子に供給する。PLEは再堆積アーチファクトを防ぐが、このプロセスを使用したときの材料除去速度は、熱アブレーションを使用したときの除去速度に比べて非常に小さい。
【0010】
レーザ支援化学エッチング(Laser−assistd chemical etching)(LCE)は、ナノ秒レーザと反応性ガスとを組み合わせて、塩素などの高圧ガスの存在下でシリコンなどのある種の基板をエッチングする、よく知られた他の技法である。このようなプロセスは例えば、Daniel Ehrlich他、「Laser Etching for Flip−Chip De−Bug and Inverse Stereolithography for MEMS」、SOLID STATE TECH.、2001年6月、145〜150頁(「Ehrlich」)に記載されている。しかしながら、Ehrlichが記載しているプロセスでは、レーザが、試料表面をアブレートするためではなく、融解するまでシリコンを加熱するために使用される。融解したシリコンは次いで塩素ガスと反応して、シリコンをエッチングする。Ehrlichによれば、塩素反応物の圧力を増大させると、エッチングは、しばらくの間(反応フラックスに正比例して)直線的に増大し、次いで、空乏「境界層」の形成により、ガス拡散の非線形効果が反応物ガスの長距離移動を制限するため、飽和する。その結果、エッチング速度(再堆積なし)は、熱アブレーションを使用することによって可能な除去速度に比べて、比較的に低い速度までしか増大しえない。
【0011】
求められているのは、レーザ・アブレーション中の材料の再堆積を防ぎ、材料を高い速度で除去することができる改良されたレーザ加工法である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
これらの添付図面は、尺度が一律になることを意図して描かれたものではない。これらの添付図面では、さまざまな図に示された同一のまたはほぼ同一の構成要素はそれぞれ、同様の符号によって示されている。分かりやすくするため、一部の図面の一部の構成要素に符号が付けられていないことがある。
【0020】
当業者は、多くの代替実施形態を、特に本明細書に提供された図解を考慮して容易に認識するが、この詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態を例示するものであり、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0021】
前述のとおり、レーザ・アブレーションは、大量の材料を表面から迅速に除去することができる。しかしながら、除去された材料の多くが同じ表面に再堆積し、それによって切削の質および切削効率が低下する。やはり上で述べたとおり、荷電粒子ビーム・システムでは、再堆積を低減させまたは排除するために、ガス支援ミリングが使用される。同様の技法が、レーザ・ビーム・システムでも使用されている。レーザ・アブレーション中には比較的に大量の材料が除去されるため、集束イオン・ビームを使用したガス支援ミリングのよく知られた機構は、ほとんどまたは全く役に立たない。試料表面に吸着したエッチング・ガスの単層は、レーザによって急速に除去されるため、ミリング速度に対する吸着ガス層の効果は最低限でしかない。エッチング・ガスが消費尽くされると、前述のとおり、レーザは表面をアブレートし始め、その結果、かなりの材料が再堆積する。
【0022】
本発明の出願人らは、表面に吸着させたガスに依存する代わりに、放出された粒子が試料室のガス雰囲気中のエッチング・ガスと反応するのに十分な圧力のエッチング・ガスを、試料室に充填することができることを発見した。反応が、試料の表面層と表面に吸着したガスの単層とに限定されるのではなく、本発明は、比較的に大きな体積の試料材料が、試料から放出され、試料室内の高濃度の前駆体ガスと反応することを可能にする。これにより、(レーザ・アブレーションによる)材料除去速度を大幅に増大させ、同時に、材料の再堆積に関連した問題を排除することができる。
【0023】
図2は、光ビーム103を生成し、試料104の表面をアブレートする本発明に基づくフェムト秒レーザ102の概略図である。真空ポンプ142によって排気された試料室140内に、レーザおよび試料が配置されている。この室はさらに、エッチング支援ガスを導入する手段144を有する。荷電粒子ビーム・システムでの先行技術のガス支援エッチングでは、試料室の真空圧が、約1.33×10
-5Pa(1×10
-7トル)から6.66×10
-2Pa(5×10
-4トル)に維持される。エッチング支援ガスが使用されると、この室の背景圧力は一般に約1.33×10
-3Pa(1×10
-5トル)に上昇する。対照的に、レーザ・アブレーション中の
図2の試料室140内の前駆体ガスの圧力は、これよりもはるかに高いことが好ましい。後により詳細に説明するとおり、使用される実際の圧力は使用されるガス種に依存するが、この圧力は、放出された粒子108の大部分が、試料室140の雰囲気中のガス粒子202(分子または原子)と衝突する十分に高いものであることが好ましい。レーザ・アブレーションの間に、ガス前駆体は、アブレートされた高温の材料、試料から放出された光電子、超高速パルス・レーザ・アブレーションに特有の高エネルギー光子(X線)、または集束レーザ・ビーム103によって生成された電界のある組合せによって解離する。次いで、この反応性解離副生物は、アブレートされた材料と結合して、新たな揮発性の化合物204を形成し、この揮発性化合物は、試料上に再堆積することなく、ガスの状態で、ポンプによって除去することができる。
【0024】
したがって、試料材料は、試料表面に吸着したガス粒子と反応するのではなく、気相中のガス粒子と反応する。たとえ、ガス粒子の一部が試料表面に吸着する可能性があるとしても、レーザ・アブレーション中に除去される材料の量は非常に大きく、そのため、吸着粒子は、除去対象の材料の小さな部分を揮発させることができるだけであると考えられる。一般的なガス支援エッチングの場合のように前駆体ガスの体積を低く保つ代わりに、本発明の好ましい実施形態は、放出された材料がガス粒子と衝突し、所望の揮発性副生物を生成する可能性がより高くなるように、はるかに高い圧力の前駆体ガスを利用する。
【0025】
先行技術のガス支援エッチングでさえ、ある比較的に少数の基板粒子(分子または原子)が基板表面から放出され、真空室の雰囲気中のガス粒子と反応する可能性があることを当業者は認識するであろう。当技術分野ではよく知られているように、一般に極めて低いとはいえ、全ての固体はある蒸気圧を有する。先行技術のガス支援エッチングにおいて、基板粒子が表面から放出され、室の雰囲気中のガス粒子と反応する速度は非常に低く、そのため、基板粒子が基板表面の吸着ガス粒子と反応する速度に比べれば問題にならない。
【0026】
対照的に、本発明によれば、基板とエッチング・ガス粒子との間の反応は主に、表面ではなく、室の雰囲気中で起こる。言い換えると、最初に、試料材料の大部分がレーザ・アブレーションによって試料表面から放出され、次いで試料室の雰囲気中のガス粒子と反応する。一般に、試料表面の一部の材料もエッチング・ガスと反応するが、除去される試料材料のうち、試料表面で揮発するよりも多くの材料がガス雰囲気中で揮発する。これは、本発明が、表面の基板粒子とこれらの表面粒子と接触したエッチング・ガスの単層との間の反応に限定されないためである。その代わりに、表面のレーザ・アブレーションおよびより高圧のエッチング・ガスの使用が、はるかに大きな体積の試料が同時にエッチング・ガスと反応することを可能にする。本明細書で使用されるとき、「ガス雰囲気中で(または真空室雰囲気中で)揮発する」という言い回しは、試料表面から放出され、試料上に再堆積する(またはシステム構成要素などの他の表面に堆積する)代わりに、反応して揮発性化合物を形成する試料材料を指すために使用される。本発明の好ましい実施形態によれば、除去された試料材料の80%超が、試料表面に再堆積することなくガス雰囲気中で揮発し、より好ましくは、除去された試料材料の90%超がガス雰囲気中で揮発する。
【0027】
さらに、試料表面でのエッチング・ガスの吸着単層の形成は、先行技術によって教示されているとおり、温度に依存する。付着係数(sticking coefficient)は、表面に吸着ないし「付着」する吸着原子(または分子)の数と、同じ期間中にその表面に衝突する原子の総数との比を記述するため、表面物理学において使用される用語である。この係数を表すために時に記号S
cが使用され、その値は、1.00(衝突する全ての原子が付着する)から0.00(原子は一切付着しない)である。この係数は、温度のべき指数に反比例する。ある温度(ガスの種類によって異なる)よりも高い温度でガスの付着係数は0.00に到達し、ガス粒子は一切試料表面に吸着しない。その代わりに、全てのガス粒子が雰囲気中へ戻される。このような条件下で、先行技術のガス支援エッチングは機能しない。しかしながら、本発明を依然として使用して、再堆積をあまり引き起こすことなく、このような試料をエッチングすることができる。これは、放出された材料が、表面に再堆積することなくガス雰囲気中で揮発するためである。
【0028】
前駆体ガスの圧力を高くすると、放出された粒子がガス粒子と衝突し、所望の揮発性ガス副生物を生成する可能性がより高くなることを当業者は認識するであろう。当業者は、再堆積を適当に減少させる最も低いガス圧を容易に決定することができる。レーザ・アブレーションの対象試料は、一般に13Pa(0.1トル)から6666Pa(50トル)、より典型的には133Pa(1トル)から1333Pa(10トル)の圧力を有する前駆体ガスの雰囲気中に配置されることが好ましい。ある好ましい実施形態では、放出された実質的に全ての材料が再堆積せずに揮発するように、十分に高いガス圧を使用することができる。この文脈において、「実質的に全て」という言い回しは、放出された材料の大部分が揮発し、その結果、試料材料が全く再堆積せず、またはほんのわずかな量の試料材料だけが再堆積することを指すために使用される。好ましくは放出された材料の80%超が揮発し、より好ましくは90%超が揮発する。
【0029】
同様に、「再堆積のかなりの低減」または同様の言い回しは、前駆体ガスなしのレーザ・アブレーションを使用したときの再堆積に比べて、適当な圧力の前駆体ガスの存在下でのレーザ・アブレーションによって生じる再堆積の量が、特にミリングされた領域において、はるかに小さいことを言うために使用される。好ましい実施形態では、試料領域における再堆積が50%超、より好ましくは80%超、よりいっそう好ましくは90%超低減する。
【0030】
一般に、圧力は高ければ高いほど望ましいが、この望ましい前駆体ガス濃度を制限する可能性がある因子が存在する。他の好ましい実施形態では、所望のガス圧の結果として、放出された材料のうちガス雰囲気中で揮発する材料の割合が小さくなることが起こりうる。例えば、ある用途では、前駆体ガスを使用しないアブレーションと比較した再堆積の低減が70%または50%であるなど、再堆積の低減がより小さいことが許容されることがある。ガス圧が高いほど物理的により多くのガスを使用することは明らかであり、それにより材料および保管のコストが増大する。このような用途に関しては、材料および保管のコストを引き下げるように働くであろう、より低い濃度のエッチング・ガスの使用が望ましいこともある。
【0031】
また、一般的に使用されているある種の前駆体ガスは、使用することができる濃度を限定する蒸気圧を有する。例えばXeF
2は、室温で約533.2Pa(4トル)の蒸気圧を有する。したがって、XeF
2を前駆体ガスとして使用する場合には、ガスが凝縮することを防ぐため、圧力を533.2Pa未満に保つことが望ましいであろう。他の前駆体ガスを、大気圧までまたは大気圧以上の圧力で使用することができるが、後述するように、より高い圧力のガスは、荷電粒子ビームによる画像化または処理のためにポンプによってガス圧を下げるのにより長い時間がかかる。処理対象の材料に応じて、さまざまな前駆体ガス、例えばSiに対するCl
2、I
2、SiF
4、CF
4、NF
3、またはCuに対するN
2O、NH
3+O
2、NO
2を使用することができる。
【0032】
さらに、より低いイオン化エネルギーを有する前駆体ガスに関しては、ガス圧を高くすると、十分に高いエネルギーのレーザ・ビームによってガスのイオン化が起こる可能性があり、このことが、レーザ・エネルギーが加工物表面に到達するのを妨害し、したがってアブレーション・プロセスを減速させることがある。しかしながら、前駆体ガスが、非集束レーザ・ビームのエネルギーよりも高いイオン化エネルギーを有する場合、前駆体ガスの圧力が高くても、前駆体ガスはそのビームと全く反応しない。超短パルスによって生成される極めて高い電界による非線形効果のため、集束ビームは、イオン化エネルギーの高いガスを解離させる。
【0033】
図3は、本発明の好ましい一実施形態に従って前駆体ガスとレーザ・アブレーションとを使用する効果を示す。
図3に示された長方形の3つのトレンチ(302、304および306)は、中心波長775nmの150フェムト秒Ti:サファイヤ・レーザを使用してSiO
2試料に機械加工したものである。トレンチ302は、約1.33×10
-1Pa(1×10
-3トル)の一般的な高真空中でミリングした。四角領域(box)302の側面および床に、かなりの再堆積アーチファクトがはっきりと見える。トレンチ304は、圧力266Pa(2トル)のXeF
2ガスを導入した後にミリングした。トレンチ304の再堆積アーチファクトは大幅に少ない。トレンチ302の大きく傾斜した側壁とは違い、トレンチ304の側面は実質的に垂直に見える。最後に、トレンチ306は、XeF
2ガスを除去し、室の圧力をポンプによって約1.33×10
-1Pa(1×10
-3トル)に戻した後にミリングした。当然ながら、トレンチ306は、トレンチ302に見られるものと同じ再堆積アーチファクトを示す。
【0034】
なお、トレンチ304をミリングする間に使用した前駆体ガス圧は、多くの用途に対して最適なガス圧に近い。トレンチ304の周囲の基板表面にはある程度の再堆積が見られるが、ミリングされている試料領域の内側の再堆積材料の量はそれよりもはるかに少ない。前駆体ガス圧をより高くすれば全体の再堆積をより少なくできる可能性もあるが、再堆積はすでに試料領域の外側で起こっているため、多くの用途に関して、前駆体ガスの量を増やすことによる追加の材料コストは正当化されないであろう。
【0035】
図4A〜4Dは、3段階の異なる前駆体ガス圧下での本発明に基づくレーザ・アブレーションの結果を示す。全ての画像に関して、送達レーザ・ビームの平均電力は1kHzで1.8mW、すなわちパルスあたり1.8μJとした。集束レーザ・ビームによって基板に形成されたフィーチャのサイズは、n>1000パルスに対して4.25±0.25μmであった。垂直に入射するようにレーザ・ビームを基板上へ誘導し、X(水平)方向に50μm/秒の等速でステージを走査した。それぞれの水平走査線と水平走査線の間で、ステージをY(垂直面)方向に1μmステップさせ、走査方向を逆にした。合計100本の線を機械加工して、100μm×100μmの呼び寸法を有する最終的なピット(pit)を得た。全ての画像において、走査は、左上隅から始め、水平方向に進み、左下隅で終了した。
【0036】
図4Aは、前駆体ガスを使用しないレーザ・アブレーションを使用して、高真空(約5.9×10
-3Pa)で基板にミリングした長方形の穴を示す。この画像から分かるとおり、アブレートされた材料のうちのかなりの量が穴402の中に再堆積した。
図4Aは、アブレーション中に放出された材料が、2πラジアンにわたってほとんど変動のない放射状分布として再堆積することを示す。走査方向に放出された材料は走査が進むにつれて除去され、それらの材料は、走査パターンの後方端に優先的に蓄積する。したがって、
図4Aに見られる再堆積は上縁部が最も顕著であり、アブレーション穴(pit)の下縁部にはほぼ全く見られない。
【0037】
図4B〜4Dは、それぞれ67、267および533Paの圧力でXeF
2を前駆体ガスとして使用したレーザ・アブレーションを使用して基板にミリングした長方形の穴を示す。これらの画像にはっきりと示されているように、XeF
2が存在すると、再堆積する材料はかなり低減する。
図4B〜4Dのミリングされた穴の底および側壁は、
図4Aに示した高真空で機械加工した穴とは対照的に、再堆積材料によってあまりひずんでいない。
【0038】
図4B〜4Dの上隅の距離Dは、再堆積の目安として使用される。走査パターンの後方端(すなわちそれぞれの穴の上端)の見かけの厚さ(それぞれD1、D2およびD3)を、再堆積の程度のおおよその目安として使用することができる。これらの画像では、XeF
2の圧力を増大させるにつれて、Dが低下するように見える。D1(
図4B)、D2(
図4C)およびD3(
図4D)の値はそれぞれ10.34、6.85および5.83μmである。この減少は、アブレーション中にSiF
x、O
2などの揮発性種に転化される放出材料の量の対応する増加、およびその後のポンピング・システムによるこれらのガス分子の除去によるものと考えられる。
【0039】
上で論じたとおり、XeF
2の圧力を低くしても、本明細書に記載された方法は、(放出された試料材料をガス雰囲気中で揮発させることにより)再堆積をかなり低減させるが、その低減の程度は小さくなる。例えば、XeF
2の圧力を、266Pa(2トル)から、66Pa(0.5トル)または33Pa(0.25トル)に低下させた場合、ガス雰囲気中で揮発する試料の量は10%または20%低減する可能性がある。言い換えると、再堆積の低減は前駆体ガス圧に比例する。
【0040】
図5は、レーザを、アブレーション・プロセスを監視するためまたは材料をさらに加工するための荷電粒子ビームと組み合わせた、本発明の好ましい一実施形態とともに使用されるシステム500を示す。レーザ502はビーム503を試料504に誘導する。試料504は例えば、単結晶Z切断SiO
2基板を含むことができる。レーザ502は、機械加工中の材料のアブレーションしきい値よりも高いフルエンスで操作することができることが好ましい。本発明の実施形態は、十分なフルエンスを供給する、既存のまたは今後開発される任意のタイプのレーザを使用することができる。好ましいレーザは、短パルス・レーザ・ビーム、すなわちナノ秒からフェムト秒のパルス・レーザ・ビームを供給する。適当なレーザには例えば、Ti:サファイヤ発振器または増幅器、ファイバ・ベースのレーザ、あるいは、イッテルビウムまたはクロムがドープされた薄型ディスク・レーザなどがある。
【0041】
例えば、好ましいレーザ・システムは、中心波長775nmの150fs、1mJパルスを、繰返し数1kHz、全平均電力1Wで送達することができるTi:サファイヤ・チャープ・パルス(chirped pulse)増幅システムを含むことができる。回転半波長板および固定線形偏光子によって有効電力変調が達成されることが好ましい。ニュートラル・フィルタが追加の減衰を提供し、ビーム直径を調整するために絞りが使用されることが好ましい。ビームは、Mitutoyo America Corporation社から販売されているものなど、NA0.40の無限遠補正20倍顕微鏡対物レンズによって基板上に集束することが好ましい。ビームの平均電力は、顕微鏡対物レンズと標本室との間に配置されたシリコン検出器を使用して読まれることが好ましい。好ましい一実施形態では、ビームが、Oリングでシールされた厚さ5mmのBK7ガラス光学窓を通して室に入る。好ましい一実施形態において使用される室は、約5×10
-3Paのベース圧力を有し、基板温度およびガス圧を制御するためにヒータ(必須ではない)、熱電対およびリーク弁を使用する。圧力は、ガス種に依存しないキャパシタンス・マノメータによって測定されることが好ましい。
【0042】
試料504は一般に精密ステージ509上に配置され、精密ステージ509は、X−Y平面上で試料を平行移動させることができることが好ましく、さらにZ軸上で加工物を平行移動させることができ、加えて、3次元構造を製造する際の融通性を最大にするために、試料を傾け、回転させることができるとより好ましい。ステージを、被加熱ステージとすることもできる。システム500は、任意選択で、別の加工作業または画像化作業のためのレーザ・アブレーション・プロセスを監視するため試料を画像化する目的に使用することができる、電子ビーム・カラムまたはイオン・ビーム・カラム、あるいはその両方など、1つまたは複数の荷電粒子ビーム・カラム530を含む。荷電粒子ビーム530は一般に、荷電粒子源532と、荷電粒子源からの荷電粒子のビームを形成し、その荷電粒子ビームを基板表面に集束させ、走査する集束カラム534と、試料504の像を形成するための、一般にシンチレータ−光電子増倍管検出器である2次粒子検出器536と、荷電粒子ビームの存在下で反応する前駆体ガスを供給するガス注入システム538とを含む。システム500はさらに、原子間力顕微鏡(ATM)(図示せず)を含むことができる。
【0043】
試料室501は、真空制御装置の制御下で、ターボ分子および機械ポンピング・システムを使用して試料室からガスを排出するための1つまたは複数のガス出口を含むことが好ましい。試料室501はさらに、所望の圧力のガスを室に導入することができる1つまたは複数のガス入口を含むことが好ましい。好ましい一実施形態では、レーザ・アブレーションを実行する前に、最初に、試料室501を、1.33×10
-1Pa(1×10
-3トル)以下の圧力まで排気する。次いで、室の圧力が何らかの所定の値に到達するまで前駆体ガスを導入する。例えば、試料室の圧力が少なくとも266Pa(2トル)に到達するまでXeF
2を導入することができ、より好ましくは、試料室の圧力が66.6ないし133.3Pa(0.5〜1.0トル)に到達するまでXeF
2の圧力を増大させる。
【0044】
次いで、基板のマイクロ機械加工する領域に向かってレーザを誘導することによって、レーザ・アブレーションを実行する。アブレーションしきい値は基板材料の固有の特性であり、当業者は、さまざまな材料に対するアブレーションしきい値を、経験的にまたは文献から容易に決定することができる。例えば、シリコン基板の単一パルス・アブレーションしきい値は約170mJ/cm
2であり、そのため、本発明に従ってシリコンをマイクロ機械加工するためには、レーザ・フルエンスが、この値よりもわずかに大きいことが好ましい。好ましいレーザ・ビームは、10nJから1mJのエネルギー、および0.1J/cm
2から100J/cm
2のフルエンスを有する。シリコン基板をミリングする好ましい一実施形態では、レーザ・ビームのフルエンスが190mJ/cm
2、パルス持続時間が150フェムト秒、スポット・サイズが2μmである。他の実施形態では、レーザ・ビームのパルス・エネルギーが50nJ、フルエンスが0.4J/cm
2である。
【0045】
前述のとおり、前駆体ガスの実際の圧力は使用されるガス種に依存するが、この圧力は、放出された実質的に全ての粒子が、ガス室の雰囲気中のガス粒子と衝突し、したがって、試料を出たときに、放出された材料を空中で揮発させる化学的に活性な種を発生させる、十分に高いものであることが好ましい。
【0046】
図5の好ましい実施形態では、荷電粒子ビーム・カラム530または2次粒子検出器536を使用するとき、基板は真空に維持されなければならない。後述するように、荷電粒子ビームを使用する前に、前駆体ガスはポンプによって排出され、試料室は真空に戻される。ある実施形態では、画像を形成するために、検出器536を使用して2次電子信号を検出することができ、この画像を使用して、レーザ・アブレーション・プロセスを監視することができる。コンピュータ520がシステム500を制御し、ディスプレイ522が試料の画像をユーザに対して表示する。ある実施形態では、機械加工プロセスの完了を判定するため、追加の検出器510が、試料504からのX線または他の光子などの放出物を検出する。レーザ機械加工とともに使用される終点決定(end pointing)プロセスが、2008年7月9日に出願された「Method and Apparatus for Laser Machining」という名称の米国特許出願第61/079,304号に記載されている。この文献は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0047】
再堆積材料の低減による切削の質の向上に加えて、本発明は、システム構成要素(レンズ、磁極片など)に対する汚染を低減させるという追加の利点を有する。この効果を担う2つの機構がある。第1に、反応性の解離副生物と結合することにより、アブレートされた材料の多くが揮発し、システム構成要素上に堆積する前にポンプによって排出される。第2に、含まれる比較的に高いガス圧のため、解離副生物と反応していないアブレートされた材料の平均自由行程が短くなる。その結果、問題の粒子が静止するまでに移動する距離がより短くなり、システム構成要素と接触することがなくなる。この効果の証拠は、
図3の四角領域304の周囲の堆積範囲(debris field)の増大に見ることができる。
【0048】
図5の装置の1つの欠点は、レーザ・アブレーション中に使用される高いガス圧が、一般的なデュアル・ビーム・システムまたはSEMなどの荷電粒子ビーム・カラムとともに使用するのには適さないことである。荷電粒子ビームを使用して例えば材料除去プロセスを監視するためには、ポンプによる排気によって試料室を適当な真空にしなければならないであろう。レーザに対して使用する圧力が高いほど、SEMまたはイオン・ビームを利用するためにその圧力をポンピングによって下げるのに、より長い時間がかかる。室をポンプによって排気し、再加圧するのに必要な時間は相当大きくなるであろう。
【0049】
好ましいある実施形態では、試料室全体を前駆体ガスで加圧する代わりに、2009年8月5日に出願された「High Pressure Charged Particle Beam System」という名称の米国特許出願第12/525,908号に記載されているように、主試料室内のより小さな試料セルの中に試料を置くことができる。この出願は、本発明の譲受人に譲渡されており、参照によって本明細書に組み込まれる。
図6は、このような試料セルを利用する本発明の好ましい一実施形態を示す。
【0050】
本発明の好ましい実施形態は、荷電粒子ビーム処理のために試料がその中に配置されるセルを使用する。圧力制限開口(pressure limiting aperture)が、セルの外側をより低い圧力に維持する。従来の高真空SEM室の内側にセルを配置して、より高圧の前駆体ガス雰囲気によって試料を取り囲み、同時に集束カラムおよび主試料室内を適当な真空に維持する能力を提供することができる。ガス粒子は1次電子ビームを散乱させる。そのため、圧力制限開口は、高圧領域内を電子ビームが移動する距離をできるだけ短くして1次ビームとの干渉を低減させ、同時に、後述するように2次電子信号が十分にガス増幅するだけの十分な移動距離を与えるように配置される。
【0051】
セルの容積は一般に、一般的な先行技術の試料室の容積に比べてかなり小さく、それにより、レーザ加工用の所望の圧力を達成するのに必要な前駆体ガスの量を低減させる。セル内のガス量は比較的に小さいため、従来の試料室を用いるよりも迅速にガスを導入し、排出し、セル内で分配することができる。ガスをセル内に入れることによって、処理ガスによる腐食などの不利な影響から試料室および電子集束カラムが保護され、セルは、ガスによる不利な影響を受けない材料から構築することができる。セルは使い捨てとすることができ、こうすると、極めて反応性のガスが使用されるときに有利なことがある。さらに、主試料室内でより小さな試料セルを使用することには、全体のガス消費量を減らし、腐食性の前駆体ガスおよび化学物質にさらされることからさまざまなシステム構成要素を保護するという追加の利点がある。
【0052】
図6の好ましい実施形態では、システム600が、レーザ502および荷電粒子ビーム540を含む。試料セル616は、より大きな試料室501の中に収まり、圧力制限開口(PLA)614を有する。試料セル316の内容積および表面積は、試料室501に比べて小さいことが好ましい。
【0053】
システム600はさらに、試料セル・ガス入口620、入口リーク弁622、試料セル・ガス出口624および出口リーク弁626を含み、出口リーク弁626の出口は、示されているように試料室501に開き、または粗引きポンプ(図示せず)に接続することができる。これは、セルの高速充填および排気を可能にする。セル内の圧力は、ガス入口を通したセルへ流入量、ガス出口を通したセルからの流出量およびPLAを通したガスの漏出の結果である。上PLA614は、試料セル616の内部から集束カラムへのガスの流入を制限する。PLA614の直径は800マイクロメートル以下であることが好ましい。
【0054】
試料室501内へ2次電子検出器640が延び、その末端はPLA614の上方のある位置にある。検出器640は針の形態を有し、比較的に高い圧力で使用するのに適している。先行技術の高圧SEMでは、2次電子が一般に、「ガス増幅」として知られるプロセスを使用して検出される。ガス増幅プロセスでは、電界によって2次荷電粒子が加速され、この2次荷電粒子が画像化ガス中のガス粒子と衝突して追加の荷電粒子を発生させ、この追加の荷電粒子が別のガス粒子と衝突して別の追加の荷電粒子を発生させる。このカスケードは、検出器の電極において、大幅に増えた荷電粒子が電気電流として検出されるまで続く。ある実施形態では、試料表面からの各2次電子が、ガス圧および電極構成に応じて、例えば20個超、100個超または1,000個超の追加の電子を発生させる。
【0055】
セル616を傾けまたは整列させて、PLA614を、荷電粒子ビーム530またはレーザ・ビーム503の軸と整列させることができるように、試料室501内で、従来のSEM試料ステージなどのハウジング・ステージ509が使用される。処理のために、試料504上の関心の領域を、電子ビーム530またはレーザ・ビーム503の軸の下に整列させるため、セル616内にさらに、セル試料ステージ608が含まれる。
図6の実施形態は、PLA614によって、レーザがセル616に入ることを可能にするが、他の実施形態では、別の方法によって、レーザがセル616に入ることができる。例えば、レーザの波長にとって透明な窓を通して、レーザはセルに入ることができる。この窓は例えばセルの上面または側面に配置することができる。レーザは、負の群速度分散を有するフォトニック結晶ファイバを使用してセル内へ誘導することもできる。
【0056】
図6に示した試料セルの使用は、試料室全体をポンプによって減圧することなく、電子ビームなどの荷電粒子ビームを使用して、レーザ・アブレーション・プロセスをリアル・タイムで監視することを可能にするであろう。
図6に示した好ましい実施形態では、試料セル内の2666Pa(20トル)という高いガス圧とともに、SEMを依然として使用することができる。試料セル内のガス圧が2666Paよりも高いときには、電子ビームを活動化する前に、ポンプによってガス圧を下げることが好ましいと考えられる。
【0057】
本発明の他の実施形態では、試料の上方の前駆体ガス環境内でビームを集束させることができる。集束レーザ・パルスによって生成される強い電界が、気相前駆体粒子を解離させて反応性副生物を形成する。これまでの説明と同様の方法で、これらの副生物は基板内の原子と結合して揮発性化合物を形成し、その結果、光子誘起性の化学エッチングが達成される。
【0058】
本発明の好ましい一実施形態は、レーザ・アブレーションによって試料から材料を除去し、同時に再堆積を低減させる方法であって、
・試料を保持する真空室と、前駆体ガス源と、真空室内の試料に対して作用するレーザ・システムとを有するレーザ・マイクロ機械加工装置を提供するステップであり、レーザ・システムが、試料をアブレートするのに十分な大きさのエネルギーを有するパルス・レーザ・ビームを生成する、ステップと、
・真空室に試料を装填するステップと、
・真空室に、所望の濃度の前駆体ガスを充填して、真空室内の試料の周囲に、前駆体ガス粒子の雰囲気を形成するステップであり、前駆体ガスが、反応を開始するのに十分なエネルギーが供給されたときに、試料の材料と反応して、試料の表面に再堆積しない揮発性化合物を形成するガスである、ステップと、
・レーザを試料に誘導して、表面をアブレートするステップであり、レーザ・システムが、試料材料のアブレーションしきい値よりも大きなフルエンスで操作され、その結果、真空室内の前駆体ガス雰囲気中へ試料粒子が放出される、ステップと
を含む方法において、
・レーザが、放出された試料粒子に、真空室内の前駆体ガス粒子の雰囲気中で前駆体ガス粒子との反応を開始するのに十分なエネルギーを供給し、
・所定のガス圧が、放出された材料の大部分が、再堆積する前に、真空室の雰囲気中で揮発するように十分な濃度のガス粒子を真空室に供給する
ことを特徴とする方法を提供する。
【0059】
本発明の好ましい実施形態はさらに、真空室からガスを除去するポンプを提供するステップと、放出された粒子が前駆体ガスと反応して揮発性化合物を形成した後に、ポンプによって、この揮発性化合物を、ガスの形態で、真空室の外へ排出するステップとを含む。
【0060】
好ましいある実施形態によれば、レーザ・アブレーションによって試料表面から放出された試料材料の少なくとも50%が、真空室雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積せず、レーザ・アブレーションによって試料表面から放出された試料材料の少なくとも80%が、真空室雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積せず、またはレーザ・アブレーションによって試料表面から放出された試料材料の少なくとも90%が、真空室雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積しない。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、表面から除去された材料の大部分が、レーザ・アブレーションによって試料表面から放出され、真空室雰囲気中で揮発し、その結果、再堆積しない。好ましいある実施形態によれば、除去された材料の少なくとも80%が、レーザ・アブレーションによって試料表面から放出され、真空室雰囲気中に揮発し、その結果、再堆積せず、除去された材料の少なくとも90%が、レーザ・アブレーションによって試料表面から放出され、真空室雰囲気中に揮発し、その結果、再堆積せず、または除去された材料の10%未満が、レーザ・アブレーションによって真空室雰囲気中へ放出されることなく、試料表面上で前駆体ガスと反応する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によれば、前駆体ガスの所定の圧力が13Paから6666Pa、または133Paから1333Paである。好ましい実施形態によれば、前駆体ガスを、XeF
2、Cl
2、I
2、SiF
4、CF
4、NF
3、N
2O、NH
3+O
2、WF
6またはNO
2とすることができる。
【0063】
レーザ・システムは、ナノ秒ないしフェムト秒パルス・レーザ・ビーム、Ti:サファイヤ・レーザ、ファイバ・ベースのレーザ、あるいはイッテルビウムまたはクロムがドープされた薄型ディスク・レーザを備えることができる。レーザ・システムは、10nJから1mJのエネルギーを有するレーザ、または0.1J/cm
2から100J/cm
2のフルエンスを有するレーザを備えることができる。レーザ・システムはさらに、中心波長775nmの150フェムト秒Ti:サファイヤ・レーザを備えることができる。
【0064】
好ましい実施形態によれば、レーザ・ビームのフルエンスを190mJ/cm
2、パルス持続時間を150フェムト秒、スポット・サイズを2μmとすることができる。好ましい他の実施形態では、レーザ・ビームのパルス・エネルギーを50nJ、フルエンスを0.4J/cm
2とすることができる。
【0065】
本発明の好ましい実施形態によれば、試料がシリコンまたはSiO
2を含むことができ、前駆体ガスがXeF
2を含むことができ、前駆体ガスの圧力を少なくとも266Paとすることができる。
【0066】
本発明の好ましい実施形態によれば、レーザが、放出された試料粒子に、前駆体ガス粒子との反応を開始するのに十分なエネルギーを供給することが、レーザが、試料表面をアブレートするのに十分なエネルギーを供給し、その結果、ガス前駆体が、レーザによって試料から放出されたアブレートされた高温の材料、レーザによって試料から放出された光電子、レーザによって試料から放出された高エネルギー光子(X線)、またはレーザ・ビームによって生成された電界のある組合せによって解離することを含む。さらに、前駆体ガスは、少なくとも1種の反応性解離副生物に解離し、この少なくとも1種の反応性解離副生物が、アブレートされた材料に結合して揮発性化合物を形成し、この揮発性化合物を、試料上に再堆積させることなく、ポンプによって、ガスの形態で除去することができる。
【0067】
本発明の好ましい実施形態によれば、真空室に試料を装填するステップ、および真空室に、所定の濃度の前駆体ガスを充填するステップが、主試料室内のより小さな試料セルに試料を装填するステップ、および試料セルに、所定の濃度の前駆体ガスを充填するステップを含む。さらに、レーザを試料に誘導するステップが、レーザの波長にとって透明な試料セルの窓を通して、レーザを試料に誘導するステップ、および/または負の群速度分散を有するフォトニック結晶ファイバを使用して、レーザを試料に誘導するステップを含む。
【0068】
本発明の好ましい実施形態はさらに、レーザ・アブレーションによって試料から除去された材料の再堆積を最小限に抑えるように適合されたレーザ・マイクロ機械加工装置であって、
・試料を保持する真空室と、
・真空室に前駆体ガスを所定の圧力まで充填する前駆体ガス源と、
・真空室内の試料に対して作用するレーザ・システムであり、試料をアブレートするのに十分な大きさのエネルギーを有するパルス・レーザ・ビームを生成し、その結果、表面から除去された材料がガス雰囲気中へ放出され、ガス雰囲気中で、放出された材料の少なくとも一部分がガス粒子と反応して、試料表面に再堆積しない揮発性化合物を形成する、レーザ・システムと
を備え、
・所定のガス圧が、放出された実質的に全ての材料が、再堆積する前に、真空室の雰囲気中で揮発するように十分な濃度のガス粒子を真空室に供給する
装置を含む。
【0069】
本発明の好ましい実施形態によれば、この装置がさらに荷電粒子ビーム・カラムを備えることができ、レーザ・システムがレンズを含むことができる。
【0070】
上記の本発明の説明は主に、レーザ・アブレーションによって試料から材料を除去し、同時に再堆積を低減させる方法を対象としているが、この方法の操作を実行する装置も、本発明の範囲に含まれることを認識すべきである。さらに、本発明の実施形態を、コンピュータ・ハードウェアまたはソフトウェア、あるいはその両方の組合せによって実現することができることも認識すべきである。これらの方法は、標準プログラミング技法を使用した、本明細書に記載された方法および図面に基づくコンピュータ・プログラムとして実現することができ、このようなコンピュータ・プログラムには、コンピュータ・プログラムを含むように構成されたコンピュータ可読記憶媒体が含まれ、そのように構成された記憶媒体により、コンピュータが、事前に決められた特定の方法で動作する。それぞれのプログラムは、コンピュータ・システムと通信する高水準手続き型言語またはオブジェクト指向プログラム言語で実現することができる。しかしながら、これらのプログラムは、希望する場合、アセンブリ言語または機械語で実現することもできる。いずれにせよ、その言語を、コンパイルされた言語または解釈された言語とすることができる。さらに、このプログラムは、その目的のためにプログラムされた専用集積回路上で動かすことができる。
【0071】
さらに、限定はされないが、荷電粒子ツールまたは他の画像化装置と一体の、またはこれらのツールまたは装置と通信するパーソナル・コンピュータ、ミニ・コンピュータ、メイン・フレーム、ワークステーション、ネットワークまたは分散コンピューティング環境、コンピュータ・プラットホームなどを含む任意のタイプのコンピューティング・プラットホームにおいて、方法を実現することができる。本発明の諸態様は、本明細書に記載された手順を実行するために記憶媒体または記憶装置がコンピュータによって読まれたときに、コンピュータを構成し、動作させるために、プログラム可能なコンピュータが読むことができるように、コンピューティング・プラットホームから取外し可能な、またはコンピューティング・プラットホームと一体の、ハード・ディスク、光学読取りおよび/または書込み記憶媒体、RAM、ROMなどの記憶媒体または記憶装置上に記憶された機械可読コードとして実現することができる。さらに、機械可読コードまたはその部分を、有線または無線ネットワークを介して伝送することができる。このような記憶媒体が、マイクロプロセッサまたは他のデータ・プロセッサと連係して上記のステップを実現するための命令またはプログラムを含むとき、本明細書に記載された発明は、これらのタイプのコンピュータ可読記憶媒体およびその他のタイプのさまざまなコンピュータ可読記憶媒体を含む。本明細書に記載された方法および技法に従ってプログラムされているとき、本発明はさらに、そのようにプログラムされたコンピュータを含む。
【0072】
コンピュータ・プログラムを入力データに適用して、本明細書に記載された機能を実行し、それにより入力データを変換して出力データを生成することができる。出力された情報は、ディスプレイ・モニタなどの1つまたは複数の出力装置で使用される。本発明の好ましい実施形態では、変換されたデータが、物理的な有形のオブジェクトを表し、物理的な有形のオブジェクトの具体的な視覚的描写をディスプレイ上に生成することを含む。
【0073】
本明細書において特に定義されていない限り、どの用語も、その普通の通常の意味を有することが意図されている。添付図面は、本発明の理解の助けとなることが意図されており、特に明記しない限り、一律の尺度では描かれていない。
【0074】
本発明の好ましい方法または装置は多くの新規の態様を有し、本発明は、目的の異なるさまざまな方法または装置として具体化することができるため、全ての実施形態に全ての態様が含まれる必要はない。また、記載された実施形態の多くの態様は、別々に特許を受けることができる。用語「加工物」、「試料」および「標本」は、本出願において相互に交換可能に使用される。本明細書で使用されるとき、用語「アブレーション」、「レーザ・アブレーション」および「熱アブレーション」は、レーザ放射による材料の除去を指すために使用される。「光化学的レーザ・エッチング」は、レーザによって活性化された化学反応による材料の除去を指すために使用される。本明細書で使用されるとき、用語「ガス粒子」は、分子と原子の両方を指すために使用される。
【0075】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された実施形態に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲が、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。