特許第5955043号(P5955043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955043湿式塗装ブース循環水の塗料ミスト処理剤及び湿式塗装ブース循環水回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955043
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】湿式塗装ブース循環水の塗料ミスト処理剤及び湿式塗装ブース循環水回収装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20160707BHJP
   C02F 1/54 20060101ALI20160707BHJP
   C02F 1/24 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 19/04 20060101ALI20160707BHJP
   B05B 15/04 20060101ALI20160707BHJP
   B05B 15/12 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   B01D21/01 109
   C02F1/54 F
   C02F1/24 A
   C02F1/24 D
   B01D19/04 B
   B05B15/04 104
   B05B15/12
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-55423(P2012-55423)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-188658(P2013-188658A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】391013106
【氏名又は名称】株式会社パーカーコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】391022658
【氏名又は名称】パーカーエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095245
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】須永 徹
(72)【発明者】
【氏名】野口 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大吾
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 宏章
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−071434(JP,A)
【文献】 特開平11−077061(JP,A)
【文献】 特開2008−119633(JP,A)
【文献】 特開2001−129309(JP,A)
【文献】 特公平05−029520(JP,B2)
【文献】 特開2002−079263(JP,A)
【文献】 特開2007−260594(JP,A)
【文献】 特開昭60−087813(JP,A)
【文献】 特開2005−329302(JP,A)
【文献】 特開昭49−079978(JP,A)
【文献】 特開2012−187482(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0245181(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/006678(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/018214(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C02F 1/52− 1/56
C02F 1/20− 1/26
C02F 1/30− 1/38
B05B 15/00−15/12
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水和硬化反応でエトリンガイト及び/又はモノサルフェートを生成する自硬性無機化合物粉末と水溶性高級脂肪酸アルカリ塩粉末との混合粉末であって、湿式塗装ブース循環水に混入した塗料ミストの分離に使用されることを特徴とする塗料ミスト処理剤。
【請求項2】
自硬性無機化合物粉末は、ポルトランドセメント又は鉄鋼スラグ又はフライアッシュと石膏と石灰又はペーパースラッジと石膏の粉末を含むことを特徴とする請求1に記載の塗料ミスト処理剤。
【請求項3】
高級脂肪酸の炭素数は12乃至16であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料ミスト処理剤。
【請求項4】
処理槽と、処理槽内の塗料ミストが混入した湿式塗装ブース循環水に請求項1乃至3の何れか一項に記載の塗料ミスト処理剤を混入させる薬剤混入装置と、処理槽内に配設された攪拌装置と、処理槽に接続した塗料スラッジ脱水装置とを備え、塗料ミストが混入した塗装ブース循環水に請求項1乃至3の何れか1項に記載の塗料ミスト処理剤を投入し、塗料ミストが混入した塗装ブース循環水と前記塗料ミスト処理剤とを処理槽内で攪拌混合し、自硬性無機化合物粉末と水との水和反応生成物微粒子の凝集体中に塗料ミストを取り込んで塗料スラッジを形成し、更に、水中に溶解した高級脂肪酸イオンと水中に溶解したカルシウムイオンとが結合して生成された金属石鹸を糊剤として、塗料スラッジ同士を結合させて粗大塗料スラッジを形成し、金属石鹸の浮力を利用して粗大塗料スラッジを浮上させると共に、金属石鹸微粒子を塗装ブース循環水中の泡表面膜に付着させ、泡表面膜を不安定化させて泡を消滅させることにより循環水を消泡し、浮上した塗料スラッジを塗料スラッジ脱水装置で脱水して回収し、塗料スラッジが除去された塗装ブース循環水を塗装ブースへ還流させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水回収装置。
【請求項5】
塗料ミストは水性塗料の塗料ミストであることを特徴とする請求項4に記載の湿式塗装ブース循環水回収装置。
【請求項6】
塗料ミストは溶剤系塗料の塗料ミストであり、湿式塗装ブース循環水回収装置に供給される塗装ブース循環水中の塗料ミストは、前処理槽と不粘着化剤投入装置と攪拌装置とを備える不粘着化装置で予め不粘着化処理されていることを特徴とする請求項4に記載の湿式塗装ブース循環水回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式塗装ブース循環水の塗料ミスト処理剤及び湿式塗装ブース循環水回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿式塗装ブース循環水に混入した塗料ミストを処理する塗料ミスト処理剤として、特許文献1、2等に記載されているように、有機系薬剤と無機系薬剤とが従来から使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−71434号公報
【特許文献2】特開平11−77061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機系薬剤には、当該薬剤を糊剤とする塗料ミストの凝集体である塗料スラッジが樹脂ポリマーで包まれるので、回収した塗料スラッジの脱水が難しいという問題があり、無機系薬剤には、当該薬剤が生成する不溶性微粒子の凝集力が弱いので、塗料ミストを取り込んだ不溶性微粒子凝集体である塗料スラッジの成長速度が遅く、塗料スラッジの高速回収が難しいという問題がある。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、塗料スラッジの高速回収と高速脱水とを可能にする湿式塗装ブース循環水の塗料ミスト処理剤と、当該塗料ミスト処理剤を使用する減容化された湿式塗装ブース循環水回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明においては、水和硬化反応でエトリンガイト及び/又はモノサルフェートを生成する自硬性無機化合物粉末と水溶性高級脂肪酸アルカリ塩粉末との混合粉末であって、湿式塗装ブース循環水に混入した塗料ミストの分離に使用されることを特徴とする塗料ミスト処理剤を提供する。
自硬性無機化合物粉末と水との水和硬化反応によってエトリンガイト及び/又はモノサルフェートを含む水和反応生成物微粒子が形成されると共に、水溶性高級脂肪酸アルカリ塩が水中に溶けて高級脂肪酸イオンとナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンとに解離し、高級脂肪酸イオンが自硬性無機化合物から水中に溶解したカルシウムイオンと結合して不溶性の金属石鹸を生成する。エトリンガイト及び/又はモノサルフェートを含む水和反応生成物微粒子は、凝集力と硬化力とを有しており、湿式塗装ブース循環水中の塗料ミストを取り込んで包接化合物、即ち塗料スラッジを形成することができる。前記水和反応生成物微粒子の凝集力は有機系処理剤に比べて弱いので、前記水和反応生成物微粒子だけでは粗大化した塗料スラッジを形成することはできないが、水中に分散浮遊する金属石鹸微粒子が糊剤となって、塗料スラッジ同士を結合させて速やかに成長させ、粗大化した塗料スラッジを形成する。粗大化した塗料スラッジは、金属石鹸の浮力により速やかに浮上する。
浮上した塗料スラッジを回収することにより、湿式塗装ブース循環水から塗料ミストが除去される。
投入された塗料ミスト処理剤も、金属石鹸を形成することなく水中に溶解する高級脂肪酸アルカリ塩の一部を除いて、塗料スラッジの一部を形成して回収除去され、循環水中には残留しない。従って、不溶性物質は塗装ブースに還流しない。
本発明に係る塗料ミスト処理剤を使用すれば、塗装ブース循環水中で生成された金属石鹸が糊剤となって、塗料スラッジの粗大化を促進させるので、塗料スラッジの高速回収が可能である。金属石鹸は凝集体同士を繋ぐのみで、有機系薬剤のように凝集体を包み込まないので、回収された塗料スラッジは多孔性であり、脱水性に富み高速脱水が可能である。
従って、本発明により、塗料スラッジの高速回収と高速脱水とを可能にする塗料ミスト処理剤が提供される。
また本発明に係る塗料ミスト処理剤を使用すれば、不溶性金属石鹸微粒子が塗装ブース循環水中の泡の表面膜に分散付着し、泡表面膜を不安定化させて泡を消滅させる。泡の消滅速度が泡の発生速度を上回って塗装ブース循環水が消泡される。水中に溶けた高級脂肪酸アルカリ塩の一部は、金属石鹸を生成することなく水中に溶けたままで塗装ブースに還流し、塗装ブースの循環槽内で、水中のカルシウムイオン、マグネシウムイオン等と反応して不溶性金属石鹸を生成し、塗装ブース循環水を消泡する。この結果、泡吸引に伴う塗装ブース循環水ポンプの作動不良や、循環槽の液面管理不能や、泡の飛散による塗装ブース排気ダクトの腐食等が防止される。
【0006】
本発明の好ましい態様においては、自硬性無機化合物粉末は、ポルトランドセメント又は鉄鋼スラグ又はフライアッシュと石膏と石灰又はペーパースラッジと石膏の粉末を含む。
ポルトランドセメント又は鉄鋼スラグ又はフライアッシュと石膏と石灰又はペーパースラッジと石膏の粉末は、水和硬化反応によってエトリンガイト及び/又はモノサルフェートを含む水和反応生成物を形成する。
本発明の好ましい態様においては、高級脂肪酸の炭素数は12乃至16である。
高級脂肪酸の炭素数が12乃至16であれば、当該高級脂肪酸が形成する高級脂肪酸アルカリ塩は、水中に溶解でき、水中で金属石鹸を容易に形成できる。
【0007】
本発明においては、処理槽と、処理槽内の塗料ミストが混入した湿式塗装ブース循環水に請求項1乃至3の何れか一項に記載の塗料ミスト処理剤を混入させる薬剤混入装置と、処理槽内に配設された攪拌装置と、処理槽に接続した塗料スラッジ脱水装置とを備え、塗料ミストが混入した塗装ブース循環水に請求項1乃至3の何れか1項に記載の塗料ミスト処理剤を投入し、塗料ミストが混入した塗装ブース循環水と前記塗料ミスト処理剤とを処理槽内で攪拌混合し、自硬性無機化合物粉末と水との水和反応生成物微粒子の凝集体中に塗料ミストを取り込んで塗料スラッジを形成し、更に、水中に溶解した高級脂肪酸イオンと水中に溶解したカルシウムイオンとが結合して生成された金属石鹸を糊剤として、塗料スラッジ同士を結合させて粗大塗料スラッジを形成し、金属石鹸の浮力を利用して粗大塗料スラッジを浮上させると共に、不溶性金属石鹸微粒子を塗装ブース循環水中の泡表面膜に付着させ、泡表面膜を不安定化させて泡を消滅させることにより循環水を消泡し、浮上した塗料スラッジを塗料スラッジ回収装置で脱水して回収し、塗料スラッジが除去された塗装ブース循環水を塗装ブースへ還流させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水回収装置を提供する。
本発明に係る湿式塗装ブース循環水回収装置においては、塗料スラッジを高速回収できるので、処理槽を減容化でき、ひいては湿式塗装ブース循環水回収装置全体を減容化できる。
【0008】
本発明の好ましい態様においては、塗料ミストは水性塗料の塗料ミストである。
本発明の好ましい態様においては、塗料ミストは溶剤系塗料の塗料ミストであり、湿式塗装ブース循環水回収装置に供給される塗装ブース循環水中の塗料ミストは、前処理槽と不粘着化剤投入装置と攪拌装置とを備える不粘着化装置で予め不粘着化処理されている。
本発明に係る湿式塗装ブース循環水回収装置は、水性塗料の塗料ミストを含む塗装ブース循環水の処理にも、溶剤系塗料の塗料ミストを含む塗装ブース循環水の処理にも使用できる。本装置を溶剤系塗料の塗料ミストを含む塗装ブース循環水の処理に使用する際には、処理槽に流入する塗装ブース循環水中の塗料ミストを、予め不粘着化処理しておくのが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、塗料スラッジの高速回収と高速脱水とを可能にする塗料ミスト処理剤と、当該塗料ミスト処理剤を使用する減容化された湿式塗装ブース循環水回収装置とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係る湿式塗装ブース循環水処理装置の構成図である。
図2】本発明の他の実施例に係る湿式塗装ブース循環水処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例に係る塗料ミスト処理剤と湿式塗装ブース循環水回収装置とを説明する。
図1に示すように、湿式塗装ブース循環水回収装置Aは、処理槽1を備えている。処理槽1は、薬剤混入部1aと、薬剤混入部1aに連通する凝集浮上部1bとを有している。
薬剤混入部1aの上方に、薬剤混入装置2が配設されている。
凝集浮上部1b内に攪拌装置3が配設されている。
凝集浮上部1bに隣接して、脱水スクリーンの無端ベルト4aと無端ベルト4a下方の水受け槽4bとを有する塗料スラッジ脱水装置4が配設されている。
【0012】
上述のように構成された、湿式塗装ブース循環水回収装置Aの作動を説明する。
湿式塗装ブースBの底部から、塗料ミストが混入した塗装ブース循環水が滓池Cに流入し、滓池Cの上部から吸い上げられた塗料ミストを多量に含む塗装ブース循環水が、処理槽1の薬剤混入部1aに流入する。
薬剤混入装置2から吐出した塗料ミスト除去剤が薬剤混入部1aに投入される。
塗料ミスト処理剤は、水和硬化反応でエトリンガイト及び/又はモノサルフェートを生成する自硬性無機化合物粉末と、水溶性高級脂肪酸アルカリ塩の粉末との混合粉末である。水和硬化反応でエトリンガイト及び又はモノサルフェートを生成する自硬性無機化合物粉末として、ポルトランドセメント、鉄鋼スラグ、フライアッシュ、ペーパースラッジ、石膏、石灰のうちの一種又は二種の粉末を含むものが望ましい。水溶性高級脂肪酸アルカリ塩の粉末として、水溶性を担保すべく高級脂肪酸の炭素数が12乃至16のものが望ましい。
塗料ミスト処理剤が混入された塗装ブース循環水は、薬剤混入部1aから凝集浮上部1bへ流入する。
凝集浮上部1bヘ流入した塗装ブース循環水は、攪拌装置3によって攪拌される。
凝集浮上部1b内で自硬性無機化合物粉末と水溶性高級脂肪酸アルカリ塩粉末と水とが攪拌装置3によって攪拌混合され、自硬性無機化合物粉末と水との水和硬化反応によってエトリンガイト及び/又はモノサルフェートを含む水和反応生成物微粒子が形成されると共に、水溶性高級脂肪酸アルカリ塩が水中に溶けて高級脂肪酸イオンとナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンとに解離し、高級脂肪酸イオンが自硬性無機化合物から水中に溶解したカルシウムイオンと結合して不溶性の金属石鹸を生成する。エトリンガイト及び/又はモノサルフェートを含む水和反応生成物微粒子は、凝集力と硬化力とを有しており、湿式塗装ブース循環水中の塗料ミストを取り込んで包接化合物、即ち塗料スラッジを形成することができる。前記水和反応生成物微粒子の凝集力は有機系凝集剤に比べて弱いので、前記水和反応生成物微粒子だけでは粗大化した塗料スラッジを形成することはできないが、水中に分散浮遊する金属石鹸微粒子が糊剤となって、塗料スラッジ同士を結合させて速やかに成長させ、粗大化した塗料スラッジを形成する。粗大化した塗料スラッジは、金属石鹸の浮力により速やかに浮上する。
浮上した塗料スラッジは、塗料スラッジ脱水装置4の脱水スクリーン無端ベルト4aによって水受け槽4b上を搬送され、搬送中に脱水された後、塗料スラッジ脱水装置4から取り出されて、産業廃棄物処理される。
塗料スラッジから除去された水は水受け槽4b内に溜まり、配管を介して滓池Cに戻され、滓池Cから配管を介して湿式塗装ブースBに戻される。
処理槽1に投入された塗料ミスト処理剤も、金属石鹸を形成することなく水中に溶解する高級脂肪酸アルカリ塩の一部を除いて、塗料スラッジの一部を形成して、湿式塗装ブース循環水から回収される。従って、水受け槽4bから滓池Cに戻された塗装ブース循環水には不溶性物質は含まれない。
処理槽1内で生成した金属石鹸微粒子が処理槽1内の塗装ブース循環水に含まれる泡の表面膜に分散付着し、泡表面膜を不安定化させて泡を消滅させる。この結果、泡の消滅速度が泡の発生速度を上回って処理槽1内の塗装ブース循環水が消泡される。水中に溶けた高級脂肪酸アルカリ塩の一部は、金属石鹸を生成することなく水中に溶けたままで滓池Cに戻され、滓池Cから湿式塗装ブースBに戻され、塗装ブースBの排水ピット内、或いは滓池C内で、水中のカルシウムイオン、マグネシウムイオン等と反応して金属石鹸を生成し循環水を消泡する。この結果、泡吸引に伴う塗装ブース循環水ポンプの作動不良や、泡の飛散による塗装ブース排気ダクトの腐食や、滓池Cから溢れ出た泡による塗装工場床の汚染等が防止される。
【0013】
上記説明から分かるように、本発明に係る塗料ミスト処理剤を使用すれば、エトリンガイト及び/又はモノサルフェートを含む水和反応生成物微粒子が有する凝集力と硬化力とによって、湿式塗装ブース循環水に混入した塗料ミストを取り込んで包接化合物、即ち塗料スラッジを容易に形成することができ、塗装ブース循環水中で生成された金属石鹸が糊剤となって、塗料スラッジ同士を結合させて塗料スラッジの成長を促進するので、粗大塗料スラッジの高速生成が可能であり、ひいては塗料スラッジの高速回収が可能である。金属石鹸は塗料ミストを取り込んだ水和反応生成物微粒子凝集体同士を繋ぐのみで、有機系薬剤のように凝集体を包み込まないので、回収された塗料スラッジは多孔性であり、脱水性に富み高速脱水が可能である。
本発明に係る湿式塗装ブース循環水処理装置Aは、処理槽1において塗料スラッジを高速回収できるので、処理槽1を減容化でき、ひいては湿式塗装ブース循環水処理装置全体Aを減容化できる。
本発明に係る塗料ミスト処理剤は、循環水中の水系塗料のミスト除去にも、溶剤系塗料のミスト除去にも使用できる。溶剤系塗料のミスト除去の場合には、予め塗装ブース循環水に不粘着化剤を投入して、塗料ミストを不粘着化しておくのが望ましい。塗料ミストの不粘着化は、塗装ブース循環水の流れに関して湿式塗装ブース循環水回収装置Aの上流側に、図2に示す不粘着化処理装置Dを配設すれば良い。不粘着化処理装置Dは、前処理槽5と、不粘着化剤投入装置6と、前処理槽5内に配設された攪拌装置7とを備えており、滓池Cから前処理槽5に流入した塗料ミストを含む塗装ブース循環水に不粘着化剤を投入し、攪拌して、塗料ミストを不粘着化する。不粘着化された塗料ミストを含む塗装ブース循環水は塗装ブース循環水回収装置Aへ送られる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、湿式塗装ブース循環水の処理に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0015】
A 湿式塗装ブース循環水回収装置
B 塗装ブース
C 滓池
1 処理槽
1a 薬剤混入部
1b 凝集浮上部
2 薬剤混入装置
3 攪拌装置
4 塗料スラッジ脱水装置
4a 脱水スクリーンの無端ベルト
4b 水受け槽
D 不粘着化処理装置
5 前処理槽
6 薬剤混入装置
7 攪拌装置
図1
図2