(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に形成された凹部空間に、被検知対象ガスの濃度に応じた信号を出力する被検知素子を基板上に形成された絶縁膜により宙吊り状態で支持したマイクロガスセンサであって、
前記被検知素子は、前記絶縁膜における前記凹部空間と反対側の面に形成され且つ被検知対象ガスの濃度に応じて電気抵抗が変化する検知抵抗体と、前記検知抵抗体の近傍部位に設けられた前記絶縁膜の開口部を介して前記検知抵抗体の表裏に亘って周囲を覆う触媒層と、を有し、
前記絶縁膜は、前記被検知素子の側周を覆うように前記凹部空間上に形成されたアーチ部を有し、
前記触媒層は、前記絶縁膜の開口部を介して前記検知抵抗体の表裏に亘ると共に、前記アーチ部を覆った状態で前記検知抵抗体の周囲を覆い、
前記アーチ部は、パルス波形状に形成される前記検知抵抗体の立上り及び立下り方向と直交する方向に位置するものが、前記検知抵抗体の端部の立上り及び立下りの抵抗部から、隣接する立上り及び立下り間の距離であるパルス間距離よりも離れて位置している
ことを特徴とするマイクロガスセンサ。
平面視した状態において、前記アーチ部から前記検知抵抗体までの間に形成される開口部の大きさは、前記検知抵抗体の近傍部位に設けられた前記絶縁膜の開口部の大きさよりも大きくされている
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロガスセンサ。
【背景技術】
【0002】
従来、基板表面を刳り貫いて凹部空間を形成し、この凹部空間にガス検知素子を宙吊り状態で配置した接触燃焼式マイクロガスセンサが提案されている(特許文献1参照)。この接触燃焼式ガスセンサは、白金である検知抵抗体を保護膜及び触媒層で覆う構造となっており、検知抵抗体が通電されている状態で触媒層に被検知対象ガスが付着すると燃焼して検知抵抗体の抵抗値を変化させる。また、触媒層に付着した被検知対象ガスの分子量が多くなるほど燃焼熱が高くなることから、接触燃焼式ガスセンサは、抵抗値の変化量から被検知対象ガスの濃度を検出できることとなる。
【0003】
このような接触燃焼式ガスセンサでは、凹部空間にガス検知素子が宙づり状態となっているため、ガス検知素子の表裏に亘って被検知対象ガスが接触することとなる。故に、触媒層はガス検知素子の表面側だけでなく、凹部空間に面する裏面側にも形成されている必要がある。なお、触媒層は、セラミックペーストを圧膜印刷や定量吐出装置(ディスペンサ)により塗布し、塗布されたペーストを加熱焼結することにより形成される。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の接触燃焼式ガスセンサは、裏面側にセラミック焼結体を形成する工法が繊細かつ複雑であり、また裏面側である関係上、裏面側にセラミック焼結体が形成されているかを確認することが困難であった。そして、裏面側にセラミック焼結体が正しく形成されていない場合には、その確認も困難であり、接触燃焼式ガスセンサは感度が低下したものとなってしまう。
【0005】
そこで、感度の低下の可能性を低減させた接触燃焼式ガスセンサが提案されている。この接触燃焼式ガスセンサは、基板に凹部空間を形成し、宙吊り状態となるガス検知素子を支持する支持絶縁膜上に検知抵抗体となる白金及び保護膜が形成された状態において、支持絶縁膜に開口部を形成する。触媒層となるセラミックペーストは、支持絶縁膜の上方から検知抵抗体及び保護膜を包むように塗布される。これにより、セラッミクペーストは、支持絶縁膜の開口部から裏面側に膨出することとなり、比較的容易に裏面側にも触媒層を形成して感度の低下を防ぐことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載の接触燃焼式ガスセンサは、被検知素子の側端部において触媒層が薄くなった薄膜部が形成され易く、側端部の薄膜部では被毒や崩壊により早期に機能しなくなり、未だ感度の低下の懸念があるものであった。
【0008】
なお、この問題は、接触燃焼式ガスセンサに限るものではなく、同様の構成を有する半導体式ガスセンサについても共通するものである。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、感度低下を防止することが可能なマイクロガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマイクロガスセンサは、基板上に形成された凹部空間に、被検知対象ガスの濃度に応じた信号を出力する被検知素子を基板上に形成された絶縁膜により宙吊り状態で支持したマイクロガスセンサであって、被検知素子は、絶縁膜における凹部空間と反対側の面に形成され且つ被検知対象ガスの濃度に応じて電気抵抗が変化する検知抵抗体と、検知抵抗体の近傍部位に設けられた絶縁膜の開口部を介して検知抵抗体の表裏に亘って周囲を覆う触媒層と、を有し、絶縁膜は、被検知素子の側周を覆うように凹部空間上に形成されたアーチ部を有し、触媒層は、絶縁膜の開口部を介して検知抵抗体の表裏に亘ると共に、アーチ部を覆った状態で検知抵抗体の周囲を覆
い、アーチ部は、パルス波形状に形成される検知抵抗体の立上り及び立下り方向と直交する方向に位置するものが、検知抵抗体の端部の立上り及び立下りの抵抗部から、隣接する立上り及び立下り間の距離であるパルス間距離よりも離れて位置していることを特徴とする。
【0011】
このマイクロガスセンサによれば、被検知素子の側周を覆うように凹部空間上に形成されたアーチ部を有し、触媒層はアーチ部を覆った状態で検知抵抗体の周囲を覆うため、検知抵抗体からアーチ部までの部位においても触媒層が形成されることとなり、被検知素子の側端側の触媒層が薄膜とならない。このため、側端側の触媒層に被毒や崩壊が生じたとしても早期に機能しなくなる事態が生じず、感度低下を防止することができる。
【0012】
また、本発明のマイクロガスセンサにおいて、平面視した状態において、アーチ部から検知抵抗体までの間に形成される開口部の大きさは、検知抵抗体の近傍部位に設けられた絶縁膜の開口部の大きさよりも大きくされていることが好ましい。
【0013】
このマイクロガスセンサによれば、アーチ部から検知抵抗体までの間に形成される開口部の大きさは、検知抵抗体の近傍部位に設けられた絶縁膜の開口部の大きさよりも大きくされている。このため、検知抵抗体の側端側における触媒層の量を充分に確保できると共に、大きくされた開口による裏面側への触媒層の膨出についても好適に行うことができる。
【0014】
また、本発明のマイクロガスセンサにおいて、アーチ部は、平面視して円状に形成されていることが好ましい。
【0015】
このマイクロガスセンサによれば、触媒層が検知抵抗体の側端部を覆うように形成するため触媒層をアーチ端部まで形成した時に、アーチ部が平面視して円状に形成されていることで、触媒層端部の形状を均一にし、焼結後の応力を分散することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、感度低下を防止することが可能なマイクロガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】比較例となる接触燃焼式ガスセンサを示す平面図である。
【
図2】
図1に示したガス検知素子及びその周辺構成を示す平面図であって触媒層形成前の状態を示している。
【
図3】
図2に示したガス検知素子及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成前の状態を示している。
【
図4】
図2に示したガス検知素子及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成後の状態を示している。
【
図5】本発明の実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサのガス検知素子及びその周辺構成を示す平面図であって触媒層形成前の状態を示している。
【
図6】
図5に示したガス検知素子及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成前の状態を示している。
【
図7】
図5に示したガス検知素子及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成後の状態を示している。
【
図8】本実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサの製造方法を示す図であって、(a)は第1工程を示し、(b)は第2工程を示し、(c)は第3工程を示し、(d)は第4工程を示し、(e)は第5工程を示し、(f)は第6工程を示し、(g)は第7工程を示している。
【
図9】本実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサの被検知素子及びその周囲の変形例を示す平面図であって触媒層形成前の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るマイクロガスセンサの実施形態について説明するに先立って、比較例となるマイクロガスセンサを説明する。なお、以下ではマイクロガスセンサとして接触燃焼式ガスセンサについて説明するが、本発明はマイクロガスセンサに限られるものではなく、半導体ガスセンサであってもよい。
【0019】
図1は、比較例となる接触燃焼式ガスセンサを示す平面図である。比較例に係る接触燃焼式ガスセンサ100は、基板10と、同一基板10に形成されたガス検知素子20と参照素子20Aと、電圧印加用のパッドA,B,Cとを備えて構成されている。なお、ガス検知素子20側と参照素子20A側とは、ガス検知素子20が触媒を担持したセラミック焼結体でなる触媒層21を有するのに対し、参照素子20Aが触媒を担持しないセラミック焼結体層21Aを有する点で異なるだけである。よって、以下では、ガス検知素子20及びその周辺構成を詳細に説明し、参照素子20A側の構成の説明は省略する。
【0020】
図2は、
図1に示したガス検知素子20及びその周辺構成を示す平面図であって触媒層形成前の状態を示している。また、
図3は、
図2に示したガス検知素子20及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成前の状態を示し、
図4は、
図2に示したガス検知素子20及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成後の状態を示している。
【0021】
図2〜
図4に示す基板10は、所定の結晶方位を有するシリコン単結晶からなり、エッチングにより平面視して矩形の凹部空間11が形成されている。また、基板10の表面には、絶縁膜30が形成されている。
【0022】
絶縁膜30は、基板10の上面に対し物理蒸着(PVD)により形成された酸化アルミニウム膜でなっている。酸化アルミニウムは、電気的絶縁性を有すると共に、高い熱伝導率を有している。なお、酸化アルミニウム膜以外にも、酸化シリコンや窒化シリコン等の絶縁性を有し且つ熱伝導率の良い物質を用いてもよい。また、物理蒸着以外にも、例えば化学蒸着処理や他の方法を用いて絶縁膜30を形成してもよい。
【0023】
この絶縁膜30におけるガス検知素子形成領域には、検知抵抗体22が形成されている。検知抵抗体22は、絶縁膜30における凹部空間11と反対側の面に形成され、被検出対象ガスの濃度に応じて電気抵抗が変化するものである。この検知抵抗体22は、白金(Pt)で構成され、例えば
図2に示すようにパルス波形状(ジグザグ状)に形成されている。また、検知抵抗体22の両端部分は、延在されており、それぞれがパッド部A,Bに接続されている。
【0024】
また、検知抵抗体22が形成された島状の検知抵抗体支持部31(絶縁膜30の一部)は、凹部空間11上に配置されており、基板10から浮き上がるような宙吊り状態となっている。この宙吊り部位は、複数のアーム部32によって支持されている。複数のアーム部32は、検知抵抗体支持部31の四隅から伸びると共に、凹部空間11を跨いで基板10と一体的に設けられている。このように検知抵抗体支持部31が凹部空間11を介して基板10から浮いた構造となっているため、検知抵抗体22が形成された面の熱容量が小さくなる。
【0025】
また、検知抵抗体22上には保護膜23が形成されている。さらに、検知抵抗体22の近傍部位には、検知抵抗体22の長手方向に沿って、複数の矩形状の開口部33が間欠的に形成されている。この開口部33は、保護膜23及び絶縁膜30を貫通している。なお、
図1において開口部33はスリット形状であるが、特にこれに限らず、正方形状など他の形状であってもよい。
【0026】
このような構成において触媒層21を形成すると、
図4に示すようになる。すなわち、触媒形成にあっては、セラミックペーストを検知抵抗体22の表面側(凹部空間11と反対側)から塗布する。これにより、開口部33を介してセラミックペーストが膨出することとなり、検知抵抗体22の表裏に亘って周囲を覆う触媒層21が形成されることとなる。
【0027】
しかし、
図4に示すように、被検知素子21の側端部Xには触媒層21は形成されず、側端部Xの近傍部では触媒層21が極端に薄くなってしまう。このように触媒槽21の薄い部分が作成されてしまうと、薄膜部では被毒や崩壊により早期に機能しなくなり、接触燃焼式ガスセンサ100の感度の低下を招いてしまう。
【0028】
図5は、本発明の実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサのガス検知素子20及びその周辺構成を示す平面図であって触媒層形成前の状態を示している。また、
図6は、
図5に示したガス検知素子20及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成前の状態を示し、
図7は、
図5に示したガス検知素子20及びその周辺構成の断面図であって触媒層形成後の状態を示している。なお、
図5〜
図7において比較例と同様の構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0029】
図5〜
図7に示すように、本実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサ1の絶縁膜30は、被検知素子20の側周を覆うように形成されたアーチ部34を有している。
図4に示す平面視状態でアーチ部34は円状となっており、複数のアーム部32それぞれを橋渡す構造となっている。
【0030】
また、
図4に示すように、平面視した状態においてアーチ部34から検知抵抗体22までの開口部35の大きさは、検知抵抗体22の近傍部位に設けられる開口部33の大きさよりも大きくされている。
【0031】
次に、本実施形態に係る製造方法を説明する。
図8は、本実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサの製造方法を示す図である。まず、シリコン単結晶からなる基板10を用意し(
図8(a)参照)、この基板10の上面部に対して、PVD処理を施す。これにより、酸化アルミニウムの絶縁膜30が形成される(
図8(b)参照)。
【0032】
次に、フォトリソグラフィーによりエッチングから保護するパターニングを行う。ここで、パターニングされる箇所は、検知抵抗体支持部31、アーム部32、及びアーチ部34等が形成される箇所を除く箇所である。次いで、ドライエッチングを行い、パターニングされていない箇所の絶縁膜を取り除く(
図8(c)参照)。これにより、検知抵抗体支持部31、及びアーチ部34等が形成されると共に、開口部33,35が形成される。
【0033】
次に、基板10の表面側からスパッタリングを行って、白金膜を形成することにより抵抗検知体22を作成する(
図8(d)参照)。なお、このときフォトリソグラフィーでパターニングを行った後、ドライエッチングを施して不要な白金膜を取り除くようにしている。
【0034】
次いで、基板10の表面側からスパッタリングを行い、基板10上に酸化アルミニウム膜を形成する。次いで、フォトリソグラフィーでパターニングしたあと、検知抵抗体22以外の箇所における酸化アルミニウム膜をドライエッチングにより取り除く。これにより、検知抵抗体22上に保護膜23を形成する(
図8(e)参照)。
【0035】
その後、基板10の表面側から、水酸化カリウムを用いた異方性エッチングを施す。これにより、絶縁膜30で覆われていない部位から浸食が発生し、凹部空間11が形成される(
図8(f)参照)。
【0036】
次に、アーチ部34の内側に、触媒物質を混合したセラミック粉体のペーストを基板10の表面側から塗布する。これにより、開口部33,35を介して裏面側に触媒層21が形成されると共に、アーチ部34上にも触媒層21が形成されることから、側端部Xまで触媒層が形成され、その近傍部において触媒層21が極端に薄くならないこととなる。
【0037】
なお、上述の製造方法での薄膜形成や、薄膜(一部)除去において、PVD、スパッタリング、ドライエッチングの各方法を用いているが、上記と同等の処理が可能であれば、どのような方法を用いても良い。
【0038】
図9は、本実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサの被検知素子20及びその周囲の変形例を示す平面図であって触媒層形成前の状態を示している。
図9に示すように、被検知素子20の角度や複数のアーム部
32の形状等は、
図4〜
図6に示したものに限るものではない。
【0039】
具体的に説明すると、
図9において被検知素子20は平面視した状態において45度だけ回転させられている。このため、検知抵抗体支持部31の四隅から伸びる複数のアーム部
32についても形状が異なっており、
図4〜
図6に示したものでは直線状のアーム部
32であったのに対して、変形例ではその形状がL字状となっている。
【0040】
なお、このような構成を採用すると、検知抵抗体22の加熱時に検知抵抗体支持部31に対して、反りや捻じれが生じるが、アーム部
32をL字状にすることで反りや捻じれの応力を吸収しやくすなり、検知抵抗体支持部31やアーム部
32の破損を抑制できるという利点がある。またアーム部
32をL字状にする必要があるために、検知抵抗体支持部31の下部に形成される開口部11の開口面積が必然的に大きくなるため、ガス検知部と周囲基板との熱絶縁がより確実になるという利点もある。
【0041】
このようにして、本実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサ1によれば、被検知素子20の側周を覆うように凹部空間11上に形成されたアーチ部34を有し、触媒層21はアーチ部34を覆った状態で検知抵抗体22の周囲を覆うため、検知抵抗体22からアーチ部34までの部位においても触媒層21が形成されることとなり、被検知素子22の側端側の触媒層21が薄膜とならない。このため、側端側の触媒層21に被毒や崩壊が生じたとしても早期に機能しなくなる事態が生じず、感度低下を防止することができる。
【0042】
また、アーチ部34から検知抵抗体22までの間に形成される開口部35の大きさは、検知抵抗体22の近傍部位に設けられた絶縁膜30の開口部33の大きさよりも大きくされている。このため、検知抵抗体22の側端側における触媒層21の量を充分に確保できると共に、大きくされた開口による裏面側への触媒層21の膨出についても好適に行うことができる。
【0043】
また、触媒層21が検知抵抗体22の側端部Xを覆うように形成するため触媒層21をアーチ端部まで形成した時に、アーチ部34が平面視して円状に形成されていることで、触媒層21の端部の形状を均一にし、焼結後の応力を分散することができる。
【0044】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。