特許第5955079号(P5955079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955079
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】スピーカ装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20160707BHJP
   H04R 1/28 20060101ALI20160707BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   H04R1/02 102B
   H04R1/28 310Z
   B60R11/02 S
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-99960(P2012-99960)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-229730(P2013-229730A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秋雄
(72)【発明者】
【氏名】多田 新
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−287296(JP,A)
【文献】 特開2007−060529(JP,A)
【文献】 特開2012−015703(JP,A)
【文献】 実開昭61−117050(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
B60R 11/02
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背圧調整用のダクトが突設されたキャビネットと、このキャビネットの内部に収納されたスピーカユニットとを備え、前記キャビネットが設置される音響空間を外部空間と隔てている隔壁に開口部が設けられていると共に、この開口部を介して前記ダクトが前記外部空間と連通されているスピーカ装置において、
前記開口部に対向して延在する既設部材と前記隔壁との間の空間に中継空洞部材を配置し、この中継空洞部材に前記ダクトの先端部に連結される第1連結部と前記開口部に連結される第2連結部と設けられており、前記中継空洞部材の最小断面積を前記ダクトの断面積よりも大きく設定すると共に、前記中継空洞部材の容積を前記ダクトの容積よりも大きく設定したことを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記ダクトの断面積をA、前記中継空洞部材の最小断面積をBとしたとき、(B/A)≧(4/3)という関係式が成り立つようにしたことを特徴とするスピーカ装置。
【請求項3】
請求項1または2の記載において、前記キャビネットを自動車の車室内空間に設置し、且つ、前記中継空洞部材を介して前記ダクトを該自動車の車室外空間と連通させるようにしたことを特徴とするスピーカ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペース上の制約が大きい車室内等に設置される動電型のスピーカ装置に係り、特に、低音域の再生に好適なスピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低音域の再生に好適なサブウーファ等のスピーカ装置では、キャビネット内に収納されたスピーカユニットの背圧を調整することが重要なため、キャビネットに背圧調整用のダクトを突設することがある。この種のダクトは、スピーカユニットが再生音を放出する際に、振動板と一緒に振動するキャビネット内の空気の流路となるため、ダクトの付加質量(ダクト内の空気抵抗)がスピーカユニットの背圧に大きく影響する。したがって、ダクトの付加質量を適正に設定することで、所望の低音域の音圧が高まるように背圧を調整することが可能となる。例えば、ダクトを長くまたは細く形成して付加質量を増やすと背圧は高まり、逆にダクトを短くまたは太く形成して付加質量を減らすと背圧は低くなる。
【0003】
また、従来より、キャビネット内に背圧調整用の部屋を追加したスピーカ装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる従来のスピーカ装置では、キャビネット内が仕切り壁によって複数に分割されており、スピーカユニットを収納した部屋と何も収納していない別の部屋が仕切り壁に設けたダクトを介して連通されているため、背圧の調整を比較的容易に行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−523673
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャビネットに背圧調整用のダクトが突設されているサブウーファ等のスピーカ装置を車室内に設置する場合、このダクトは車室外と連通させておくことが好ましいため、車室内(音響空間)と車室外(外部空間)とを隔てている隔壁に既設または新設された開口部にダクトを連結することがある。しかしながら、車室内はスペース上の制約が大きく、隔壁と隣接する場所にダクト付きキャビネットを配置させることが困難な場合も少なくない。その場合、隔壁の開口部に連結できるようにスピーカ装置のダクトを延長することも考えられるが、ダクトを延長すると付加質量が増大し、振動板の振動時に空気の流れが過度に阻害されてしまうため、低音再生能力が大幅に劣化してしまう。
【0006】
また、特許文献1に開示された従来例のように、キャビネット内を複数に分割して背圧を調整しているスピーカ装置の場合、必然的にキャビネットが大型化してしまうため、車室内等のスペース上の制約が大きい場所に設置することは一般的に困難である。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、音響空間を外部空間と隔てる隔壁にダクトが直接連結できない場合でも、低音再生能力を損なわずにダクトと外部空間とを連通可能なスピーカ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、背圧調整用のダクトが突設されたキャビネットと、このキャビネットの内部に収納されたスピーカユニットとを備え、前記キャビネットが設置される音響空間を外部空間と隔てている隔壁に開口部が設けられていると共に、この開口部を介して前記ダクトが前記外部空間と連通されているスピーカ装置において、前記開口部に対向して延在する既設部材と前記隔壁との間の空間に中継空洞部材を配置し、この中継空洞部材に前記ダクトの先端部に連結される第1連結部と前記開口部に連結される第2連結部と設けられており、前記中継空洞部材の最小断面積を前記ダクトの断面積よりも大きく設定すると共に、前記中継空洞部材の容積を前記ダクトの容積よりも大きく設定した。
【0009】
このようにスピーカ装置のキャビネットに突設された背圧調整用のダクトと、音響空間を外部空間と隔てている隔壁に設けられた開口部との間に、ダクトに比して断面積および容積が大きい中継空洞部材を介在させると、振動板の振動に伴いダクト内を流動する空気にとって中継空洞部材の内部空間が擬似的な自由空間となるため、中継空洞部材を追加しても低音再生能力に悪影響が及ぶ可能性は低くなる。それゆえ、音響空間に設置されるスピーカ装置の取付位置にスペース上の制約があり、隔壁と隣接する場所にサブフレーム等の既設部材が延在していてダクト付きキャビネットを配置させることが困難な場合でも、これら既設部材と隔壁との間の空間に中継空洞部材を配置させることにより、ダクト付きキャビネットを別の広い場所に配置させた状態で使用できることになる。
【0010】
上記のスピーカ装置において、ダクトの断面積をA、中継空洞部材の最小断面積をBとしたとき、(B/A)≧(4/3)という関係式が成り立つようにしてあると、中継空洞部材の追加による低音再生能力の劣化の程度が実使用上問題とならなくなって好ましい。
【0011】
また、上記のスピーカ装置において、キャビネットを自動車の車室内空間に設置し、且つ、中継空洞部材を介してダクトを自動車の車室外空間と連通させるようにすれば、隔壁に既設された開口部(例えばベンチレーションホール)を利用してダクトを車室外空間と連通させることが容易なスピーカ装置となるため、後付け可能で適用車種の制約が少ない車載用サブウーファなどとして使用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスピーカ装置は、キャビネットに突設された背圧調整用のダクトと、音響空間を外部空間と隔てている隔壁に設けられた開口部との間に、ダクトに比して断面積および容積が大きい中継空洞部材を介在させてあるため、音響空間に設置されるスピーカ装置の取付位置にスペース上の制約があり、隔壁と隣接する場所にサブフレーム等の既設部材が延在していてダクト付きキャビネットを配置させることが困難な場合でも、これら既設部材と隔壁との間の空間に中継空洞部材を配置させることにより、ダクト付きキャビネットを別の広い場所に配置させた状態で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態例に係るスピーカ装置を車室内に取り付けた状態を示す断面図である。
図2】該スピーカ装置の取付手順を示す説明図である。
図3】該スピーカ装置の取付完了状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1図3に示すように、本発明の実施形態例に係るスピーカ装置1は、自動車の車室内空間S1に設置されるサブウーファであり、背圧調整用のダクト2をトランクルーム等の車室外空間S2と連通させるために中継空洞部材3が追加されている。すなわち、このスピーカ装置1は、背面側にダクト2が突設されたキャビネット4と、キャビネット4の内部に収納されたスピーカユニット5と、ダクト2に着脱可能に連結された中継空洞部材3とによって主に構成されている。
【0015】
車室内空間S1と車室外空間S2は車体フレームである隔壁20によって隔てられており、本実施形態例では、スピーカ装置1の設置場所として、隔壁20に既設された開口部21を利用してダクト2を車室外空間S2と連通可能な場所が選定されている。既設の開口部21としては例えばベンチレーションホールなどが好適であるが、適当な既設開口がない場合には新たに開口部21を穿設しても良い。ただし、車室内空間S1には隔壁20の近傍に開口部21と対向するサブフレーム30が延在しており、このサブフレーム30と隔壁20との間の狭隘空間S3にダクト2付きのキャビネット4を配置させることができなくなっている。つまり、このスピーカ装置1は、ダクト2を開口部21に直接連結させることができない場所に設置する必要がある。そのため、図2に示すように、狭隘空間S3に中継空洞部材3を配置させた後、この中継空洞部材3にダクト2を連結させるという取付手順で、車室内空間S1の所望位置にスピーカ装置1を設置している。
【0016】
スピーカ装置1の構成について詳しく説明すると、キャビネット4とその背面側に突設されている背圧調整用のダクト2は共に合成樹脂材からなり、これらキャビネット4とダクト2はネジ止めなどの手段を用いて予め一体化されている。ダクト2は断面略半円形の筒状体として形成されており、また、キャビネット4の前面側には、車室内空間S1へ向けて再生音を放出するための第1発音開口部4aと第2発音開口部4bが設けられている。本実施形態例の場合、第1発音開口部4aにダクトを付けて開口状態としているが、第2発音開口部4bには蓋が付けられて閉塞態塞となっているため、第1発音開口部4aのみから再生音が放出されるようになっている。ただし、これとは逆に第2発音開口部4bにダクトを付けて開口状態とすると共に、第1発音開口部4aに蓋を付けて閉塞状態とすることにより、第2発音開口部4bのみから再生音が放出されるようにしても良い。あるいは、第1発音開口部4aと第2発音開口部4bの両方共にダクトを付けず、いずれか一方を開口状態にして他方を塞いだり、両方共に蓋を付けずに開口状態として使用することも可能である。
【0017】
スピーカユニット5は、図1に示すように、磁気ギャップGを有する磁気回路6と、磁気ギャップGに配置されて通電時に電磁相互作用で駆動されるボイスコイル7と、このボイスコイル7に連動して振動する略円錐形状の振動板8と、ボイスコイル7と振動板8を弾性的に支持している円環状のダンパー9とによって概略構成される。磁気回路6は、磁路を形成するマグネット10と外側ヨーク11と内側ヨーク12とからなり、キャビネット4に固定されている。そして、外側ヨーク11の開口端側の内周面と内側ヨーク12の外周面との間に磁気ギャップGが形成されており、磁気回路6の磁路を流れる磁束はこの磁気ギャップGを横切っている。ボイスコイル7は円筒状のボビン13に巻装されており、図示せぬリード線を介してボイスコイル7に音声電流を通電できるようになっている。ボビン13の一端側(反磁気ギャップG側)の端部には、振動板8の内周部とダンパー9の内周部がそれぞれ接着固定されており、ボビン13の該端部は防塵キャップ14によって蓋閉されている。振動板8はコーン紙等からなり、振動板8の外周部はエッジダンパー15を介してキャビネット4に保持されている。また、ダンパー9の外周部もキャビネット4に保持されている。
【0018】
なお、本実施形態例では、振動板8が図1の右側へ向かって末広がりな形状となっており、この振動板8を磁気回路6の周囲に配置させているため、スピーカユニット5が薄型化されている。ただし、振動板8を図1とは逆向きの配置(同図左側へ向かって末広がりな形状)にすることも可能である。また、ボイスコイル7を円筒状に成形してボビン13を省略することも可能である。
【0019】
中継空洞部材3は、外形が略直方体で内部が空洞の合成樹脂材からなる箱状体である。中継空洞部材3の前面側の上部には、ダクト2の先端部を嵌入させて連結可能な第1連結部3aが開設されている。また、中継空洞部材3の背面側の下部には、隔壁20の開口部21に嵌入させて連結可能な第2連結部3bが開設されている。図1から明らかなように、中継空洞部材3の最小断面積はダクト2の断面積よりも十分に大きく、且つ、中継空洞部材3の容積はダクト2の容積よりも十分に大きくなっている。また、隔壁20の開口部21の断面積はダクト2の断面積よりも若干大きくなっている。ただし、開口部21とダクト2の断面積が同等であっても良い。
【0020】
このように構成されたスピーカ装置1において、磁気ギャップGに配置されているボイスコイル7に音声電流が通電されると、公知の電磁相互作用によってボイスコイル7が図1の左右方向に駆動されるため、ボイスコイル7に連動する振動板8によってキャビネット4内の空気が振動し、再生音が第1発音開口部4aから車室内空間S1へ放出される。その際、キャビネット4内では振動板8の背面側でも空気が振動するが、振動板8の背面側の空間はダクト2を介して大容量の中継空洞部材3と連通されており、この中継空洞部材3が開口部21を介して車室外空間S2と連通されているため、振動板8の振動時に背圧が過度に高まることはない。それゆえ、このスピーカ装置1は、30〜100Hzの低音域における音圧を高めたサブウーファとして使用できる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態例に係るスピーカ装置1は、背圧調整用のダクト2と着脱可能な中継空洞部材3を備えているため、車室内空間S1に設置されるスピーカ装置1の取付位置にスペース上の制約があっても、中継空洞部材3を追加することで柔軟に対応できる。つまり、このスピーカ装置1は、キャビネット4に突設されたダクト2と、車室内空間(音響空間)S1を車室外空間(外部空間)S2と隔てている隔壁20の開口部21との間に、ダクト2に比して断面積と容積が十分に大きい中継空洞部材3を介在させた状態で使用できるようにしてある。そのため、隔壁20と隣接する場所にダクト2付きキャビネット4を配置させることが困難な場合でも、その場所に中継空洞部材3を配置させることにより、ダクト2付きキャビネット4を別の広い場所に配置させた状態で使用できることになる。勿論、取付位置にスペース上の余裕があり、隔壁2の開口部21にダクト2を直接連結できる場合には、中継空洞部材3を省いてスピーカ装置1を設置すれば良い。したがって、このスピーカ装置1は設置場所の自由度が大幅に高まっている。
【0022】
また、図1に示すように、中継空洞部材3を追加して車室内空間S1に設置されたスピーカ装置1では、振動板8の振動に伴いダクト2内を流動する空気にとって、中継空洞部材3の内部空間が擬似的な自由空間となる。そのため、中継空洞部材3を追加しても低音再生能力に悪影響が及ぶ可能性は低くなっている。つまり、ダクト2は予め所定の付加質量に設定されており、且つ、中継空洞部材3の付加質量はダクト2の付加質量に比して十分に小さいため、中継空洞部材3を追加してもスピーカ装置1の低音再生能力はほとんど変わらない。それゆえ、このスピーカ装置1は、設置場所の自由度が高くて後付け可能な車載用サブウーファとして好適である。
【0023】
なお、本発明者らの実験によると、ダクト2の断面積をA、中継空洞部材3の最小断面積をBとしたとき、(B/A)≧(4/3)という関係式が成り立てば、中継空洞部材3の追加による低音再生能力の劣化の程度が実使用上問題とならないレベルであると確認されている。
【0024】
また、上記の実施形態例では、スピーカ装置1が車室内に設置されるサブウーファである場合について説明したが、本発明は車載用サブウーファに限定されるわけではなく、キャビネットが音響空間に配置されて背圧調整用のダクトが外部空間と連通される他のスピーカ装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 スピーカ装置
2 ダクト
3 中継空洞部材
3a 第1連結部
3b 第2連結部
4 キャビネット
5 スピーカユニット
6 磁気回路
7 ボイスコイル
8 振動板
9 ダンパー
20 隔壁
21 開口部
30 サブフレーム
S1 車室内空間
S2 車室外空間
S3 狭隘空間
G 磁気ギャップ
図1
図2
図3