特許第5955125号(P5955125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955125タービンロータ及びその製造方法及び当該タービンロータを用いた蒸気タービン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955125
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】タービンロータ及びその製造方法及び当該タービンロータを用いた蒸気タービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20160707BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20160707BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20160707BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20160707BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20160707BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 9/235 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 33/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   F01D25/00 F
   C22C19/05 C
   C22C38/00 302Z
   C22C38/52
   C22C38/00 301A
   C22C38/46
   C22C30/00
   B23K9/04 H
   B23K9/167 A
   B23K9/235 Z
   B23K9/23 H
   B23K9/00 501E
   B23K33/00 Z
   B23K9/00 501G
   F01D25/00 L
   F01D25/00 X
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-140472(P2012-140472)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-5754(P2014-5754A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西岡 映二
(72)【発明者】
【氏名】村田 健一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 順
(72)【発明者】
【氏名】生田目 寿男
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−137042(JP,A)
【文献】 特開2008−215181(JP,A)
【文献】 特開2007−278064(JP,A)
【文献】 特開平3−237205(JP,A)
【文献】 特開2000−64805(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0081197(US,A1)
【文献】 特開2008−151013(JP,A)
【文献】 特開2008−50664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
B23K 9/00
B23K 9/04
B23K 9/167
B23K 9/23
B23K 9/235
B23K 33/00
C22C 19/05
C22C 30/00
C22C 38/00
C22C 38/46
C22C 38/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との熱伝導率の比は、2/3〜3/2の範囲であることを特徴とするービンロータ。
【請求項2】
前記高温側ロータ母材は、前記開先部の表面に全面バタリング部を有することを特徴とする請求項記載のタービンロータ。
【請求項3】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金であることを特徴とするービンロータ。
【請求項4】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材は、質量基準で、鉄(Fe)30〜40%、クロム(Cr)14〜16%、チタン(Ti)1.2〜1.7%、アルミニウム(Al)1.1〜1.5%、ニオブ(Nb)1.9〜2.7%、及び炭素(C)0.05%以下、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル−鉄基合金であることを特徴とするービンロータ。
【請求項5】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼であることを特徴とするービンロータ。
【請求項6】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.25〜0.35%、マンガン(Mn)0.5〜1%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)0.8〜1.5%、モリブデン(Mo)1.0〜1.5%、及びバナジウム(V)0.2〜0.3%を含むベイナイト組織を有する1%クロム−モリブデン−バナジウム鋼であることを特徴とするービンロータ。
【請求項7】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金よりなり、
前記低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼、又は、炭素(C)0.25〜0.35%、マンガン(Mn)0.5〜1%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)0.8〜1.5%、モリブデン(Mo)1.0〜1.5%、及びバナジウム(V)0.2〜0.3%を含むベイナイト組織を有する1%クロム−モリブデン−バナジウム鋼からなることを特徴とするービンロータ。
【請求項8】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金よりなり、
前記低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼からなることを特徴とするービンロータ。
【請求項9】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金、又は、鉄(Fe)30〜40%、クロム(Cr)14〜16%、チタン(Ti)1.2〜1.7%、アルミニウム(Al)1.1〜1.5%、ニオブ(Nb)1.9〜2.7%、及び炭素(C)0.05%以下、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル−鉄基合金よりなり、
前記低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼、又は、炭素(C)0.25〜0.35%、マンガン(Mn)0.5〜1%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)0.8〜1.5%、モリブデン(Mo)1.0〜1.5%、及びバナジウム(V)0.2〜0.3%を含むベイナイト組織を有する1%クロム−モリブデン−バナジウム鋼からなることを特徴とするービンロータ。
【請求項10】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、
前記高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金、又は、鉄(Fe)30〜40%、クロム(Cr)14〜16%、チタン(Ti)1.2〜1.7%、アルミニウム(Al)1.1〜1.5%、ニオブ(Nb)1.9〜2.7%、及び炭素(C)0.05%以下、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル−鉄基合金よりなり、
前記低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼からなることを特徴とするービンロータ。
【請求項11】
高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、前記高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、前記高温側ロータ母材の前記凹部と前記低温側ロータ母材の前記凹部とを対向配置してこれらの前記凹部の間に密閉空間部を形成し、前記高温側ロータ母材の前記開先部と前記低温側ロータ母材の前記開先部とを対向配置してこれらの前記開先部の間に溝部を形成し、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との間には、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、前記肉盛部は、前記密閉空間部側に裏波を有し、前記溝部には、溶接金属が充填されており、前記高温側ロータ母材と前記低温側ロータ母材との熱伝導率の比は、2/3〜3/2の範囲である、タービンロータの製造方法であって、前記高温側ロータ母材又は前記低温側ロータ母材の突き合せ部にバタリング肉盛を施すバタリング肉盛工程と、前記突き合せ部を溶融して前記裏波を形成する裏波形成工程と、前記溝部に前記溶接金属で埋める本溶接工程とを含むことを特徴とするタービンロータの製造方法。
【請求項12】
前記バタリング肉盛工程の後に前記高温側ロータ母材及び前記低温側ロータ母材に開先加工を施す開先加工工程を行い、その後、前記裏波形成工程を行うことを特徴とする請求項11記載のタービンロータの製造方法。
【請求項13】
前記高温側ロータ母材の前記開先部の表面に全面バタリング部を形成するバタリング工程を行い、その後、前記バタリング肉盛工程を行うことを特徴とする請求項11又は12に記載のタービンロータの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のタービンロータを用いたことを特徴とする蒸気タービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材溶接部を有するタービンロータ及びその製造方法及び当該タービンロータを用いた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンは、ボイラー、タービンロータ、動翼、発電機などで構成されている。
【0003】
大型のタービンロータは、軸長が長大になることに加えて、その高圧側には高温クリープ破断強度が要求され、その低圧側には引張強度と靭性とが要求される。そのため、一部材で蒸気タービンロータを形成する場合、これらの各要求を満足させる特性を得ることが困難であった。特に、蒸気温度の上昇に伴い、高圧側ロータの材料として、従来の鉄系合金では限界に近付いている。
【0004】
そのため、鉄系合金よりも耐熱性の優れるNi基超合金を用いることが検討されている。しかし、Ni基超合金は、大型ブロックの製造性、加工性、コスト、調達しやすさなどの点で鉄系合金に比べて劣る。
【0005】
そこで、高圧側ロータを耐熱性に優れたNi基超合金材料で形成し、低圧側ロータを引張強度及び靭性に優れた鉄系合金材料で形成し、これらの材料を溶接によって一体化する製造方法が知られている。
【0006】
ところが、ロータを溶接する際、溶接部の底部に位置し、最初に溶接する突き合せ部においては、溶接部の裏側に形成する溶接ビード、いわゆる裏波を形成する必要がある。裏波を形成しない場合、突き合せ部に未溶着部が残存することになり、これが運転中の破壊ポテンシャルを増幅するおそれがある。
【0007】
そのため、ロータを溶接する場合には裏波を形成する必要があるが、ロータ材料の組み合わせが異材、特に、Ni基合金材料と鉄系合金材料との組み合わせの場合、両者の熱的物性値の相違が問題となる。この場合、(1)添加元素の相違による元素の移動、(2)熱処理条件の相違による機械的特性の確保、及び(3)熱伝導性の相違による裏波の形成が課題となる。
【0008】
上記(1)及び(2)の課題については、特許文献1〜4に解決手段が記載されている。
【0009】
特許文献1には、ロータ母材として、全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%Cr系鋼と、ベイナイト組織を有するCr−Mo−V系鋼とを用い、これらの突合せ部を、溶接部を介して接合したタービンロータであって、突合せ部に設けたバタリング層の硬度分布が所定の範囲に収まるように構成されているものが開示されている。
【0010】
特許文献2には、水素ガス雰囲気中で長期間供用されたCr−Mo−Fe系耐熱鋼材に、新たなNi−Cr−Fe系耐熱合金材を溶接して接続する異材溶接方法において、Cr−Mo−Fe系耐熱鋼材の接続部近傍を所定の温度に加熱して脱水素処理を施す技術が開示されている。
【0011】
特許文献3には、ステンレス鋼製管を突合わせ溶接するにあたり、溶接部の内面または外面から所定の深さの範囲で溶融凝固層を形成する原子炉内部配管溶接部の応力腐食割れ防止方法が開示されている。
【0012】
特許文献4には、鋼材に対して2種類のNi基溶接材料を順次溶接する方法が開示されている。
【0013】
特許文献5には、凸部と凹部とを互いに嵌合させて一体化した低合金鋼であるロータ軸及びNi基超合金であるタービン翼車を芯出し状態でセットした後、ロータ軸の軸心周りに回転させながら、突き合わせ部分に全周にわたって溶接する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−215181号公報
【特許文献2】特開2000−254774号公報
【特許文献3】特開2000−254776号公報
【特許文献4】特開2009−248095号公報
【特許文献5】特開2012−61498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1〜4に記載された溶接部では、バタリングの事前施工する、板厚方向に化学組成の異なる溶接材料を積層するなどにより、異材溶接部の課題を解消している。
【0016】
しかし、溶接ロータでは、これらの課題を解決することに加えて、上記(3)の溶接ロータ特有の課題である裏波の安定形成が重要である。これは、溶接ロータの内部が中空になっていることが原因である。裏波の形成を失敗した場合、裏面から研削することはできず、断面で切除しなければならない。また、裏波が適正に形成できず、突き合せ部に未溶着部を生じた場合、それを起点とした破壊を引き起こすおそれがある。
【0017】
このような溶接ロータ特有の課題に加えて、ロータ材料がNi基合金材料と鉄系合金材料との組み合わせである場合、熱物性、特に熱伝導率が大きく異なるという問題がある。熱物性の違いから、両材料の溶融挙動に相違が生じるため、裏波を形成することが困難である。
【0018】
本発明は、二種類の合金材料を組み合わせた異材溶接ロータにおいて、その溶接部付近にロータの密閉空間部を有する場合に、亀裂が生じにくい裏波を確実に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備えたタービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、高温側ロータ母材の凹部と低温側ロータ母材の凹部とを対向配置してこれらの凹部の間に密閉空間部を形成し、高温側ロータ母材の開先部と低温側ロータ母材の開先部とを対向配置してこれらの開先部の間に溝部を形成し、高温側ロータ母材と低温側ロータ母材との間には、高温側ロータ母材又は低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、肉盛部は、密閉空間部側に裏波を有し、溝部には、溶接金属が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱物性の異なる二種類の合金材料を組み合わせた異材溶接ロータに安定した裏波を形成できるため、破壊の起点となる突き合せ部の未溶着部が生じることを抑制し、欠陥の発生頻度を低減することができ、大型溶接構造物であるタービンロータの強度信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】蒸気タービンの構成を示す模式図である。
図2A】ロータの形状を示す部分斜視図である。
図2B】二つのロータ母材の溶接部を示す断面図である。
図2C図2BのA−A断面図である。
図3】二つのロータ母材の熱伝導率の相関関係を示すグラフである。
図4】タービンロータの溶接に用いるタングステン−不活性ガス溶接装置を示す概略側面図である。
図5】実施例1の溶接工程を示すフロー図である。
図6】実施例1の溶接工程を示す連続断面図である。
図7】実施例2の溶接工程を示すフロー図である。
図8】実施例2の溶接工程を示す連続断面図である。
図9】実施例3の溶接工程を示す連続断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者は、Ni基合金材料と鉄系合金材料とを組み合わせた溶接ロータの突き合せ部において、裏波を形成するための方策を検討した。その結果、突き合せ部と、裏波を形成する際に熱が伝わる範囲とを、同種の材料で構成するアイデアを着想した。すなわち、突き合せ部を同種の材料とすることにより、2つのロータ母材の溶融挙動が同様になりやすい。熱が伝わる範囲を同種の材料とすることにより、2つのロータ母材の突き合せ部近傍の温度が一様になりやすい。
【0023】
この結果を基にして、二種類の異種材料を接合したロータ(異材溶接ロータ)を構成するNi基合金材料のロータ母材(高温側ロータ母材)と鉄系合金材料のロータ母材(低温側ロータ母材)との突き合せ部に、予め鉄系合金材料の溶接部を設け、二つのロータ母材を突き合わせることによって形成されるロータの中空部側に裏波を形成することにした。
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るタービンロータ及びその製造方法について説明する。
【0025】
前記タービンロータは、高温側ロータ母材と、低温側ロータ母材とを備え、高温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、低温側ロータ母材は、凹部及び開先部を有し、高温側ロータ母材の凹部と低温側ロータ母材の凹部とを対向配置してこれらの凹部の間に密閉空間部を形成し、高温側ロータ母材の開先部と低温側ロータ母材の開先部とを対向配置してこれらの開先部の間に溝部を形成し、高温側ロータ母材と低温側ロータ母材との間には、高温側ロータ母材又は低温側ロータ母材と同じ成分を有する肉盛部を有し、肉盛部は、密閉空間部側に裏波を有し、溝部には、溶接金属が充填されていることを特徴とする。
【0026】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材と低温側ロータ母材との熱伝導率の比は、2/3〜3/2の範囲であることが望ましい。
【0027】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、開先部の表面に全面バタリング部を有することが望ましい。
【0028】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金であることが望ましい。
【0029】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、質量基準で、鉄(Fe)30〜40%、クロム(Cr)14〜16%、チタン(Ti)1.2〜1.7%、アルミニウム(Al)1.1〜1.5%、ニオブ(Nb)1.9〜2.7%、及び炭素(C)0.05%以下、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル−鉄基合金であることが望ましい。
【0030】
前記タービンロータにおいて、低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼であることが望ましい。
【0031】
前記タービンロータにおいて、低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.25〜0.35%、マンガン(Mn)0.5〜1%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)0.8〜1.5%、モリブデン(Mo)1.0〜1.5%、及びバナジウム(V)0.2〜0.3%を含むベイナイト組織を有する1%クロム−モリブデン−バナジウム鋼であることが望ましい。
【0032】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金よりなり、低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼、又は、炭素(C)0.25〜0.35%、マンガン(Mn)0.5〜1%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)0.8〜1.5%、モリブデン(Mo)1.0〜1.5%、及びバナジウム(V)0.2〜0.3%を含むベイナイト組織を有する1%クロム−モリブデン−バナジウム鋼からなることが望ましい。
【0033】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金よりなり、低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼からなることが望ましい。
【0034】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金、又は、鉄(Fe)30〜40%、クロム(Cr)14〜16%、チタン(Ti)1.2〜1.7%、アルミニウム(Al)1.1〜1.5%、ニオブ(Nb)1.9〜2.7%、及び炭素(C)0.05%以下、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル−鉄基合金よりなり、低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼、又は、炭素(C)0.25〜0.35%、マンガン(Mn)0.5〜1%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)0.8〜1.5%、モリブデン(Mo)1.0〜1.5%、及びバナジウム(V)0.2〜0.3%を含むベイナイト組織を有する1%クロム−モリブデン−バナジウム鋼からなることが望ましい。
【0035】
前記タービンロータにおいて、高温側ロータ母材は、質量基準で、コバルト(Co)5〜15%、クロム(Cr)13〜15.5%、アルミニウム(Al)4.0〜5.5%、チタン(Ti)0.1〜2.0%、ニオブ(Nb)0.1〜1.0%、タンタル(Ta)0.1〜3.0%、モリブデン(Mo)0.1〜2.0%、タングステン(W)4.5〜10%、ハフニウム(Hf)0.1〜2.0%、炭素(C)0.05〜0.20%、ホウ素(B)0.001〜0.03%、及びジルコニウム(Zr)0.01〜0.1%、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル基合金、又は、鉄(Fe)30〜40%、クロム(Cr)14〜16%、チタン(Ti)1.2〜1.7%、アルミニウム(Al)1.1〜1.5%、ニオブ(Nb)1.9〜2.7%、及び炭素(C)0.05%以下、並びに残部のニッケル(Ni)及び不可避的不純物からなるニッケル−鉄基合金よりなり、低温側ロータ母材は、質量基準で、炭素(C)0.1〜0.2%、マンガン(Mn)0.3〜1.0%、ニッケル(Ni)1%以下、クロム(Cr)9〜13%、モリブデン(Mo)0.1〜1.5%、タングステン(W)0.2〜5.0%、ニオブ(Nb)0.02〜0.1%、及びコバルト(Co)3%以下を含む全焼戻しマルテンサイト組織を有する12%クロム鋼からなることが望ましい。
【0036】
前記タービンロータの製造方法は、高温側ロータ母材又は低温側ロータ母材の突き合せ部にバタリング肉盛を施すバタリング肉盛工程と、突き合せ部を溶融して裏波を形成する裏波形成工程と、溝部に溶接金属で埋める本溶接工程とを含むことを特徴とする。
【0037】
前記タービンロータの製造方法においては、バタリング肉盛工程の後に高温側ロータ母材及び低温側ロータ母材に開先加工を施す開先加工工程を行い、その後、裏波形成工程を行うことが望ましい。
【0038】
前記タービンロータの製造方法においては、高温側ロータ母材の開先部の表面に全面バタリング部を形成するバタリング工程を行い、その後、バタリング肉盛工程を行うことが望ましい。
【0039】
前記タービンロータは、蒸気タービンに用いることができる。
【0040】
図1は、蒸気タービンの構成を示す模式図である。
【0041】
本図において、蒸気タービン150は、タービンロータ51(蒸気タービンロータ)に高圧タービン54、中圧タービン55及び二つの低圧タービン56a、56bを取り付けた構成となっている。そして、タービンロータ51の端部には、発電機57が取り付けてある。
【0042】
高圧タービン54には、主蒸気配管52から蒸気が導入されるようになっている。高圧タービン54を回転させた蒸気は、ボイラー再熱器53にて加熱され、中圧タービン55に導入されるようになっている。そして、中圧タービン55を回転させた蒸気は、低圧タービン56a、56bに導入され、低圧タービン56a、56bを回転させるようになっている。発電機57は、タービンロータ51の回転エネルギー(運動エネルギー)を電気エネルギーに変換する。
【0043】
なお、高圧タービン54は、高中圧タービンであっても構わない。
【0044】
図2Aは、ロータの形状を示す部分斜視図である。
【0045】
本図において、タービンロータ20は、高温側ロータ母材21と低温側ロータ母材22とを突き合せ溶接により接合した部分である溶接部23を有している。
【0046】
図2Bは、図2Aのタービンロータの長手方向の断面を示すものであり、タービンロータの内部構造を示すものである。
【0047】
本図において、高温側ロータ母材21及び低温側ロータ母材22はそれぞれ、略円筒形状の凹部26、27を有する。そして、溶接後の凹部26、27は、タービンロータ20の中空部である密閉空間部24を形成する。この密閉空間部24は、タービンロータ20の外部との空気の流通等がない状態となる。溶接部23の密閉空間部24側には、裏波25が形成してある。裏波25は、溶接部23の接合強度の向上に寄与する。
【0048】
なお、破線部28は、後述の溶接工程の説明のために図示する部分である。
【0049】
本図においては、凹部26、27を略円筒形状としたが、凹部26、27の形状は、これに限定されるものではなく、半球形状、円錐形状、三角錐形状、四角錐形状その他の多角錐形状等であってもよい。
【0050】
図2Cは、図2BのA−A断面図である。
【0051】
本図においては、タービンロータ20の密閉空間部24の中心部に向かって裏波25が円環状に形成されている。
【0052】
図3は、二つのロータ母材の熱伝導率の相関関係を示すグラフである。横軸にロータ母材1の熱伝導率T1をとり、縦軸にロータ母材2の熱伝導率T2をとっている。
【0053】
本図には、予備試験において二つのロータ母材の突き合せ部が同一の入熱量で溶融可能であった領域を併記してある。当該領域は、二つのロータ母材の熱伝導率の比率が2/3〜3/2となるものである。
【0054】
一方、二つのロータ母材の熱伝導率の比率が2/3未満の場合又は3/2を超える場合には、同一の入熱量で突き合せ部を溶融することができなかった。
【0055】
本実施例における二つのロータ母材の組み合わせにおいては、熱伝導率の相違が約4.4倍あった。このことから、同一の入熱量で突き合せ部を溶融することが出来ないことになる。
【0056】
表1は、異材溶接ロータを構成するロータ母材の合金の種類及び組成範囲を示したものである。
【0057】
【表1】
【0058】
以下、実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0059】
本実施例は、表1に示すロータ母材のうち、Ni基超合金及び12%Cr鋼を採用し、これらを溶接する例に関するものである。
【0060】
図4は、タービンロータの溶接に用いるタングステン−不活性ガス溶接装置の概略を一例として示したものである。
【0061】
本図において、溶接装置40は、駆動装置43、溶接機構44、トーチ48及び制御装置47を有し、ガスホース52を介してガスボンベ49を接続してある。ガスボンベ49の不活性ガスは、ガスホース51を介してトーチ48に送られるようになっている。不活性ガスとしては、窒素又はアルゴン等が用いられる。駆動装置43と制御装置47との間には、信号を送受信する信号ケーブル45が設けてある。溶接機構44と制御装置47との間には、信号を送受信する信号ケーブル46が設けてある。
【0062】
タービンロータ41は、ロータ回転装置50に設置され、タービンロータ41の中心軸の周りに回転可能とすることができる。ロータ回転装置50は、信号ケーブル154を介して制御装置47に接続してあり、タービンロータ41の回転を制御装置47によって行うことができるようになっている。
【0063】
また、タービンロータ41には、アースケーブル53が接続してあり、溶接に際してタービンロータ41の電位が変化することを抑制することができる。
【0064】
溶接機構44は、駆動装置43によって少なくともタービンロータ41の軸方向に移動可能としてあり、トーチ48をタービンロータ41の溶接部42に接近させて溶接を行うことができるように構成されている。
【0065】
本図に示す駆動装置43は、溶接構造物(タービンロータ41)に密着して移動する自立型であるが、この他に、例えば走査アーム等の外力により駆動装置43が移動するようにしたものでもよい。
【0066】
本実施例においては、入熱量20kJ/cmのタングステン−不活性ガス溶接(Tungsten Inert Gas Welding:TIG溶接)を採用したが、例えば、サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding:SAW)、被覆アーク溶接(Shielded Metal Arc Welding:SMAW)、金属不活性ガス溶接(Metal Inert Gas Welding:MIG溶接)、レーザー溶接(Laser Beam Welding:LBW)、CMT(Cold Metal Transfer)のような他の方法を用いてもよい。
【0067】
図5は、本実施例のタービンロータの溶接工程を示すフロー図である。
【0068】
まず、一方のロータ母材を他方のロータ母材に組み込む(S101)。つぎに、溶接工程の開始を指示する(S102)。溶接における熱応力を緩和するためにロータ母材を予熱する(S103)。この予熱の際に用いる装置は、電気炉、ガスバーナ、高周波誘導加熱機等が挙げられるが、その他の装置でも構わない。
【0069】
そして、図4に示す溶接装置を用いて一方のロータ母材にバタリング肉盛を行う(バタリング肉盛工程S104)。その後、二つのロータ母材及びバタリング肉盛の一部に対して開先加工を施す(開先加工工程S105)。一方のロータ母材のバタリング肉盛と他方のロータ母材とを突き合せ、位置合わせをした後、一方のロータ母材のバタリング肉盛と他方のロータ母材との接触部分である突き合せ部に対してロータの外部から加熱することにより裏波溶接を行う(裏波形成工程S106)。
【0070】
その後、二つのロータ母材の開先の間に形成された溝部に本溶接を行い、溶接部を形成する(本溶接工程S107)。そして、本溶接で形成した溶接部の残留応力を除去するために焼鈍を行う(S108)。この際に用いる装置は、電気炉、ガスバーナ、高周波誘導加熱機等が挙げられるが、その他の装置でも構わない。
【0071】
その後、溶接部の溶接欠陥検査を行う(S109)。検査方法としては、浸透探傷試験(PT)、目視検査(VT)、超音波探傷試験(UT)、放射線透過試験(RT)、磁粉探傷試験(MT)などが挙げられるが、その他の方法でも構わない。
【0072】
欠陥の有無を判別し(S110)、欠陥を検出した場合、さらに、欠陥サイズが機械強度の面から許容可能か否かを判別し(S111)、許容できない場合、溶接部を切除し(S112)、ロータ端面に開先加工を施し(S113)、予熱工程(S103)に戻る。
【0073】
欠陥の有無の判別(S110)において欠陥を検出しなかった場合、又は欠陥サイズの判別(S111)において欠陥サイズが許容可能な範囲内である場合は、溶接工程を終了する(S114)。
【0074】
図6は、図5の溶接工程を連続的に示した部分拡大断面図である。
【0075】
本図は、図2Bの破線部28を拡大して平板状に変形して(A)〜(F)として表したものである。本図においては、高温側及び低温側で材質の異なる二つのロータ母材を溶接する場合を示す。
【0076】
(A)は、Ni基超合金からなる高温側ロータ母材61の溶接前の状態を表したものである。
【0077】
ロータ母材61の厚さは、ロータの回転力、遠心力及び自重に耐えうるように100mm以上が望ましい。ロータの直径は、タービンロータの出力等に依存すると共に、素材を製造する際の偏析、鍛造性などの制約から、500mm以上13000mm以下(500〜13000mm)であることが望ましい。
【0078】
(B)は、ロータ母材61の突き合せ部に低温側ロータ母材と同組成の溶着金属(溶接金属)を用いてバタリング肉盛によって肉盛部62を設けた状態である。肉盛部62は、ロータ母材61の中空部に接する部位にロータの周方向に形成されている。これは、図5のS104に対応する。
【0079】
本実施例における肉盛部62は、ロータの軸方向の厚さを10mmとしたが、それ以上の厚さ(10mm以上)であればよい。この厚さが10mm未満となると、次の開先加工S105において、肉盛部62の希釈率の高い部位が残存するので好ましくない。ただし、肉盛部62は、薄い方が好ましく、厚い場合であっても15mmあれば十分である。
【0080】
また、本実施例においては、ロータ母材61の半径方向に延びている肉盛部62の幅は、ロータ母材61の中空部に接する部位から10mmとしたが、開先加工S105の後に必要となる幅である、開先加工を施した低温側ロータ母材が突き合せによって接する面の幅(突き合せ部の幅)以上、例えば2mm以上であればよい。肉盛部62の幅が2mm未満となると、相手側の母材23と突き合わせて裏波を形成する際に、熱伝導特性に相違を生じ、安定な裏波を形成することができないため、好ましくない。ただし、肉盛部62の幅は、短い方が望ましく、最長でも5mmあれば十分である。
【0081】
(C)は、図5のS105の開先加工を施して母材20及び肉盛部62の一部を切除することにより、開先部63を形成した状態である。
【0082】
この工程により、開先加工を施した低温側ロータ母材の開先部と同じ形状に加工され、安定した溶接が可能となる。
【0083】
(D)は、高温側ロータ母材61と相手側である低温側ロータ母材64とを突き合わせした状態を示している。低温側ロータ母材64と肉盛部62とが接している。そして、高温側ロータ母材61及び低温側ロータ母材64の開先部63及び65により、溝部66が形成されている。
【0084】
(E)は、高温側ロータ母材61と低温側ロータ母材64とを突き合わせた状態で中空部側に裏波67を形成した状態である。
【0085】
(F)は、高温側ロータ母材61及び低温側ロータ母材64の開先部63及び65により形成された溝部66に溶接金属68を用いた突き合せ溶接を施した状態を示している。
【0086】
本実施例においては、高温側ロータ母材61に対して肉盛部62を設けた例を示したが、化学組成や熱処理条件によっては、低温側ロータ母材64に対して肉盛部を設けても構わない。この場合は、高温側ロータ母材61と同組成の溶着金属を用いてバタリング肉盛を施す。ここで、溶接金属68は、Co:12〜25%、Cr:10〜18%、Al:2.0〜3.6%、Mo+W:5.0〜10%、C:0.01〜0.15%、B:0.001〜0.03%、並びに残部がNi及び不可避的不純物からなるNi基合金である。
【実施例2】
【0087】
実施例1は、図6に示すように、ロータ母材61の表面に直接肉盛部62を施すものである。それに対して、本実施例は、高温側ロータ母材と低温側ロータ母材との化学組成、熱処理条件等の相違を解消するために高温側ロータ母材の開先部に予めバタリングを施すことを特徴とするものである。ここでは、実施例1と一致する点については説明を割愛し、実施例1との相違点のみを説明する。
【0088】
図7は、本実施例のタービンロータの溶接工程を示すフロー図である。
【0089】
本実施例において追加したフローは、実施例1と比較して、S201〜S203である。
【0090】
まず、S101及びS102を実施例1と同様に行う。
【0091】
バタリング工程S201においては、予め高温側ロータ母材に設けた開先部の全面にバタリングを施して全面バタリング部を設ける。これは、高温側ロータ母材と低温側ロータ母材との化学組成や熱処理条件の相違を緩和するためのものである。
【0092】
開先加工S202においては、全面バタリング部に開先加工を施す。その後、高温側ロータ母材及び全面バタリング部に対して熱処理S203を行う。熱処理S203は、高温側ロータ母材に適した強度を確保するためのものであり、低温側ロータ母材に対しては不利益なものである。そのため、熱処理S203は、高温側ロータ母材に低温側ロータ母材を溶接する前に行う必要がある。S103以降は、実施例1と同様である。
図8は、実施例2の溶接工程を示す連続断面図である。
【0093】
本図も、図6と同様に、図2Bの破線部28を拡大して平板状に変形して(A)〜(F)として表したものである。
【0094】
本実施例において実施例1と異なる点は、主に(A)に示す工程である。
【0095】
(A)においては、肉盛部72を施す前((B)の前)に予め高温側ロータ母材61に全面バタリング部71を形成している。
【0096】
全面バタリング部71の軸方向の厚さは、5mm以上15mm以下(5〜15mm)である。5mmよりも薄い場合、本溶接用溶着金属の希釈の影響を生じるおそれがある。また、15mmよりも厚い場合、本溶接用溶着金属の希釈の影響はなくなるが、施工時間の増加が懸念される。
【0097】
それ以降の工程は、実施例1と同様である。
【0098】
すなわち、図8の(C)において開先部73を形成し、(D)において高温側ロータ母材61と低温側ロータ母材64とを突き合わせて溝部76を形成し、(E)において裏波77を形成し、(F)において溝部76に溶接金属78を用いた突き合せ溶接を施す。
【実施例3】
【0099】
図9は、実施例3の溶接工程を示す連続断面図である。
【0100】
本図を用いて本実施例において実施例2と異なる点について説明する。
【0101】
実施例2においては、全面バタリング部71の一部に肉盛部72を設けている。これに対して、本実施例においては、低温側ロータ母材64に肉盛部91を設け(B)、開先部95を形成する(C)。そして、高温側ロータ母材61と低温側ロータ母材64とを突き合わせて溝部96を形成し(D)、裏波97を形成し(E)、溝部96に溶接金属98を用いた突き合せ溶接を施す(F)。
【実施例4】
【0102】
本実施例においては、実施例1とは異なるロータ母材として、表1に示すロータ母材のうち、Ni−Fe基超合金及び12%Cr鋼を採用した。すなわち、本実施例は、実施例1とロータ母材の化学組成のみ異なり、溶接工程その他については同じである。
【0103】
ロータ母材がNiを主成分とする合金の熱的特性は、鉄系合金材料のものとは異なり、実施例1と同様の課題が生じる。よって、実施例1と同じ手法にて、課題を解決することができる。
【実施例5】
【0104】
本実施例においては、実施例1とは異なるロータ母材として、表1に示すロータ母材のうち、Ni基超合金及び1%Cr−Mo−V鋼を採用した。すなわち、本実施例は、実施例1とロータ母材の化学組成のみ異なり、溶接工程その他については同じである。
【0105】
ロータ母材がNiを主成分とする合金の熱的特性は、鉄系合金材料のものとは異なり、実施例1と同様の課題が生じる。よって、実施例1と同じ手法にて、課題を解決することができる。
【実施例6】
【0106】
本実施例においては、実施例1とは異なるロータ母材として、表1に示すロータ母材のうち、Ni−Fe基超合金及び1%Cr−Mo−V鋼を採用した。すなわち、本実施例は、実施例1とロータ母材の化学組成のみ異なり、溶接工程その他については同じである。
【0107】
ロータ母材がNiを主成分とする合金の熱的特性は、鉄系合金材料のものとは異なり、実施例1と同様の課題が生じる。よって、実施例1と同じ手法にて、課題を解決することができる。
【符号の説明】
【0108】
20、41、51:タービンロータ、21、61:高温側ロータ母材、22、64:低温側ロータ母材、23:溶接部、24:密閉空間部、25:裏波、26、27:凹部、28:破線部、40:溶接装置、42:溶接部、43:駆動装置、44:溶接機構、45、46、154:信号ケーブル、47:制御装置、48:トーチ、49:ガスボンベ、50:ロータ回転装置、51、52:ガスホース、53:アースケーブル、54:高圧タービン、55:中圧タービン、56a、56b:低圧タービン、57:発電機、62、72、91:肉盛部、63、65、73、95:開先部、66、76、96:溝部、67、77、97:裏波、68、78、98:溶接金属、71:全面バタリング部、150:蒸気タービン。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9