特許第5955135号(P5955135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955135オキソカーボン酸の金属錯体を含むガス分離材及び炭化水素ガスの分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955135
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】オキソカーボン酸の金属錯体を含むガス分離材及び炭化水素ガスの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/12 20060101AFI20160707BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20160707BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20160707BHJP
   C07C 49/707 20060101ALI20160707BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20160707BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20160707BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20160707BHJP
   C07F 3/04 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   C07C7/12
   C07C11/04
   C07C11/167
   C07C49/707
   B01J20/22 A
   B01J20/34 H
   B01J20/34 Z
   B01D53/047
   B01D53/04 220
   B01D71/06
   B01D53/22
   B01D69/12
   !C07F3/04
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-150516(P2012-150516)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-12251(P2014-12251A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年4月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーンサステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】岸田 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢広
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−043702(JP,A)
【文献】 特開2012−031161(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/021345(WO,A1)
【文献】 特開2004−161675(JP,A)
【文献】 特開昭63−001422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
B01D 53/02−53/12
53/22
61/00−71/82
C07F 1/00− 5/06
C07B 31/00−63/04
C07C 1/00−409/44
JSTPlus(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(I):
【化1】
(式中、Mはマグネシウム、カルシウム、及びストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属であり、M+(2a+b)は2a+b価のMの陽イオンを示す。nはである。XはOH、F、Cl、Br、I、NO、PF、及びBFからなる群より選択される少なくとも一種を示し、YはHOを示す。aは1であり、bは0であり、cは1である。)
で示される金属錯体を含む、1,3−ブタジエン又はエチレンの分離材。
【請求項2】
前記組成式(I)において、Mがカルシウムである請求項1に記載の分離材。
【請求項3】
目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、前記目的の炭化水素ガスを前記分離材に選択的に吸着させる吸着工程と、その後、前記分離材に吸着された目的の炭化水素ガスを前記分離材から脱着させて、脱離してくる目的の炭化水素ガスを捕集する再生工程とを含む、混合ガスから目的の炭化水素ガスを分離する方法において、前記目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエン又はエチレンであり、分離材として請求項1又は2のいずれかに記載の分離材を使用することを特徴とする、1,3−ブタジエン又はエチレンの分離方法。
【請求項4】
前記目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンである請求項に記載の分離方法。
【請求項5】
前記目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンであり、かつ、前記混合ガスが1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む請求項に記載の分離方法。
【請求項6】
前記目的の炭化水素ガスがエチレンである請求項に記載の分離方法。
【請求項7】
前記分離方法が圧力スイング吸着法である請求項のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項8】
前記分離方法が温度スイング吸着法である請求項のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項9】
多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の表層部に付着した、組成式(I):
【化2】
(式中、Mはマグネシウム、カルシウム、及びストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属であり、M+(2a+b)は2a+b価のMの陽イオンを示す。nはである。XはOH、F、Cl、Br、I、NO、PF、及びBFからなる群より選択される少なくとも一種を示し、YはHOを示す。aは1であり、bは0であり、cは1である。)
で示される金属錯体の結晶とを含む、1,3−ブタジエン又はエチレンの分離膜。
【請求項10】
目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離膜に接触させ、前記目的の炭化水素ガスを前記分離膜を通して選択的に透過させることを含む、目的の炭化水素ガスを濃縮するガス分離方法において、前記目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエン又はエチレンであり、請求項に記載の分離膜を使用することを特徴とする1,3−ブタジエン又はエチレンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体を含むガス分離材、及びそのガス分離材を用いて混合ガスから炭化水素ガスを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素ガスを含む混合ガス中から、目的の炭化水素ガスのみを分離回収する技術がこれまでに知られている。
【0003】
分離回収したい炭化水素ガスの一例として、1,3−ブタジエンが挙げられる。1,3−ブタジエンは、例えば合成ゴム製造のための出発物質として、また、非常に多くの化合物の中間体としても有用な化合物である。1,3−ブタジエンは一般にナフサ分解やブテンの脱水素によって製造される。これらの製造方法では1,3−ブタジエンは混合ガスの一成分として得られる。したがって、混合物として得られる生成物中から、1,3−ブタジエンを選択的に分離回収することが必要となる。生成物中の炭素数4の成分としては、1,3−ブタジエン、イソブテン、1−ブテン、2−ブテン、ノルマルブタン、イソブタンなどが挙げられる。これらは、炭素数が同じであり、沸点も近いため、工業的に採用されている蒸留法では分離が困難である。
【0004】
他の分離方法の一つとして抽出蒸留法が挙げられるが、この方法は極性溶媒を用いた吸収法であるため、極性溶媒中から1,3−ブタジエンを回収する際に、非常に多くのエネルギーを使用する。したがって、より省エネルギーで1,3−ブタジエンを分離回収する方法として、吸着法による分離が望まれている。
【0005】
しかしながら、既存の多孔性材料(特許文献1)は分離性能が低いため、多段階で分離する必要があり、分離装置の大型化が不可避であった。非特許文献1には金属錯体として、[Ca(C)(HO)]が開示されているが、この金属錯体のガスの吸脱着性能については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−43702号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Christian Robl、Armin Weiss、Materials Research Bulletin、第22巻、373〜380頁(1987年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、炭化水素を含む混合ガス中から、目的の炭化水素ガスのみを分離回収することができる、従来よりも優れた分離材及び分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討し、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、炭素数3〜7のオキソカーボン酸とから形成される金属錯体を分離材として用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の[1]〜[13]の実施態様を含む。
【0010】
[1]組成式(I):
【化1】
(式中、Mはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム及びインジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属であり、M+(2a+b)は2a+b価のMの陽イオンを示す。nは1〜5の整数である。XはOH、F、Cl、Br、I、NO、PF、及びBFからなる群より選択される少なくとも一種を示し、YはHO、CHOH、COH、及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも一種を示す。aは0.5〜3の実数を示し、b及びcは0〜3の実数を示す。)
で示される金属錯体を含む炭化水素ガスの分離材。
[2]前記組成式(I)において、Mがベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウムのいずれかである[1]に記載の分離材。
[3]前記組成式(I)において、b=0である[1]又は[2]のいずれかに記載の分離材。
[4]前記組成式(I)において、n=2である[1]〜[3]のいずれかに記載の分離材。
[5]前記組成式(I)において、Mがカルシウム、n=2、a=1、b=0、YがHO、c=1である[1]に記載の分離材。
[6]目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、前記目的の炭化水素ガスを前記分離材に選択的に吸着させる吸着工程と、その後、前記分離材に吸着された目的の炭化水素ガスを前記分離材から脱着させて、脱離してくる目的の炭化水素ガスを捕集する再生工程とを含む、混合ガスから目的の炭化水素ガスを分離する方法において、分離材として[1]〜[5]のいずれかに記載の分離材を使用することを特徴とする炭化水素ガスの分離方法。
[7]前記目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンである[6]に記載の炭化水素ガスの分離方法。
[8]前記目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンであり、かつ、前記混合ガスが1,3−ブタジエン以外の炭素数4の炭化水素を含む[7]に記載の炭化水素ガスの分離方法。
[9]前記目的の炭化水素ガスがエチレンである[6]に記載の炭化水素ガスの分離方法。
[10]前記分離方法が圧力スイング吸着法である[6]〜[9]のいずれかに記載の分離方法。
[11]前記分離方法が温度スイング吸着法である[6]〜[9]のいずれかに記載の分離方法。
[12]多孔質支持体と、
前記多孔質支持体の表層部に付着した、組成式(I):
【化2】
(式中、Mはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム及びインジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属であり、M+(2a+b)は2a+b価のMの陽イオンを示す。nは1〜5の整数である。XはOH、F、Cl、Br、I、NO、PF、及びBFからなる群より選択される少なくとも一種を示し、YはHO、CHOH、COH、及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも一種を示す。aは0.5〜3の実数を示し、b及びcは0〜3の実数を示す。)
で示される金属錯体の結晶とを含む分離膜。
[13]目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離膜に接触させ、前記目的の炭化水素ガスを前記分離膜を通して選択的に透過させることを含む、目的の炭化水素ガスを濃縮するガス分離方法において、[12]に記載の分離膜を使用することを特徴とする炭化水素ガスの分離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、混合ガスから特定の炭化水素ガス、例えば1,3−ブタジエン、エチレンなど、特に1,3−ブタジエンを、従来よりも高い分離性能で分離回収することができる。
【0012】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様および本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】カルシウムと四角酸から形成される金属錯体の構造の模式図である。
図2】合成例1で得た金属錯体について、1,3−ブタジエン、1−ブテン及びノルマルブタンの25℃における吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図3】比較例1の吸着材について、1,3−ブタジエン、1−ブテン及びノルマルブタンの25℃における吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図4】比較例2の吸着材について、1,3−ブタジエン、1−ブテン及びノルマルブタンの25℃における吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図5】合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの25℃における吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図6】比較例3の吸着材について、エチレン及びエタンの25℃における吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0015】
<金属錯体>
本発明の分離材に使用される金属錯体は以下の組成式(I)で示される。
【化3】
(式中、Mはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム及びインジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属であり、M+(2a+b)は2a+b価のMの陽イオンを示す。nは1〜5の整数である。XはOH、F、Cl、Br、I、NO、PF、及びBFからなる群より選択される少なくとも一種を示し、YはHO、CHOH、COH、及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも一種を示す。aは0.5〜3の実数を示し、b及びcは0〜3の実数を示す。)
【0016】
本発明の金属錯体は、金属Mと、オキソカーボン酸を主たる構成単位とし、これにアニオンX、溶媒由来の分子Yが配位している。本発明の金属錯体はテレフタル酸に代表される従来の金属錯体の配位子に比べて、配位子自体が小さいため、自ずと細孔径が小さくなる。ここでは金属Mから選択される少なくとも1種の金属と、オキソカーボン酸とから形成される金属錯体の好ましい例として、組成式(II):
[Ca2+(C2−)(HO)] (II)
で表される2価のカルシウムカチオン、四角酸のジアニオンおよび溶媒由来の水分子からなる金属錯体(組成式(I)においてM:Ca、Y:HO、n=2、a=1、b=0、c=1)の構造を図1に模式的に示す。この金属錯体は、四角酸ジアニオン一分子が隣接する5つのカルシウム原子と結合し、架橋することにより、細孔径がおおよそ3.4Åの一次元細孔を形成している。この比較的小さな細孔径を利用し、ガス分子をそのサイズの違いで認識させて、比較的サイズの小さな分子を選択的に吸着することができる。より具体的には、炭素数4の炭化水素の中から、1,3−ブタジエンを選択的に吸着することができる。
【0017】
(金属M)
本発明の金属錯体を構成する金属Mはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム及びインジウムの中から選択することができる。これらの中でも形成される細孔サイズの観点から、適度な原子半径をもつベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムが好ましい。ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムは第2族の元素であり、二価であるオキソカーボン酸と錯体を形成しやすい。なかでもカルシウムが最も好ましい。
【0018】
(オキソカーボン酸)
本発明の金属錯体を構成するオキソカーボン酸は三角酸(n=1)、四角酸(n=2)、五角酸(n=3)、六角酸(n=4)及び七角酸(n=5)の少なくとも一種である。これらの中では、形成される細孔サイズの観点から、配位子自体のサイズが適度に小さいn=1〜3が好ましく、より安定な細孔構造を取ることからn=2が更に好ましい。aは0.5〜3の実数を示す。aは分離材のコストの観点からa=0.5〜2が好ましく、a=1が更に好ましい。
【0019】
(アニオンX
はアニオンであり、XはOH、F、Cl、Br、I、NO、PF、及びBFからなる群より選択される少なくとも一種を示す。Xの配位数を表すbは0〜3の実数を示す。Xは形成される細孔サイズの観点から、配位子自体のサイズが適度に小さいという理由でOH、F、及びClが好ましい。アニオンXは必須ではなく、bが0のときはXは存在しないが、本発明の分離材の効果は発現する。
【0020】
(溶媒由来の分子Y)
溶媒由来の分子YはHO、CHOH、COH、及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群より選択される少なくとも一種を示す。Yは本発明の金属錯体を製造する際に用いる溶媒分子が金属Mに配位したものである。Yは形成される細孔サイズの観点から、分子自体のサイズが適度に小さい、HO、及びCHOHが好ましく、HOが更に好ましい。Yの配位数を表すcは0〜3の実数を示す。cは分離材のガス吸着量の観点からc=0〜1が好ましい。溶媒由来の分子Yは必須ではなく、cが0のときはYは存在しないが、本発明の分離材の効果は発現する。
【0021】
<分離材>
(金属錯体を含む分離材の製造方法)
本発明の金属錯体は、オキソカーボン酸と金属Mの塩とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、溶媒に不溶な結晶として析出させ、これを分離、洗浄して回収することにより、製造することができる。
【0022】
本発明の金属錯体を製造する際には前記金属Mの塩を用いることができる。金属塩は単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0023】
本発明に用いられるアニオンXは、前記金属Mの塩のカウンターアニオンをそのまま使用することができる。あるいは、所望のアニオンXのアルカリ金属塩を反応時に添加してもよい。
【0024】
金属錯体を製造するときのアニオンXとオキソカーボン酸の混合比率は、アニオンX:オキソカーボン酸=1:5〜5:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜3:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えることがある。
【0025】
金属錯体を製造するときの金属Mの塩とオキソカーボン酸の混合比率は、金属塩:オキソカーボン酸=10:1〜1:5のモル比の範囲内が好ましく、6:1〜1:3のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になることがある。
【0026】
溶媒由来の分子Yは前記反応の際に使用する溶媒から金属錯体に取り込まれる。
【0027】
金属錯体を製造するときの金属塩、オキソカーボン酸及びアニオンXの混合比率は、製造される金属錯体中の組成比と異なっていてもよい。金属錯体は、その製造の条件下において熱力学的に安定な構造を取る傾向があるため、金属錯体中の金属M、オキソカーボン酸、アニオンX、溶媒由来の分子Yの比率は、各原料の濃度、反応温度、反応時間、pHなどによって制御することが出来る。
【0028】
金属錯体を製造するための溶液における金属Mの塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になることがある。
【0029】
金属錯体を製造するための溶液におけるオキソカーボン酸のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しないことがある。
【0030】
金属錯体を製造するための溶媒におけるアニオンXのモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しないことがある。
【0031】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水又はそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水又はこれらの混合溶媒を使用することができる。用いる溶媒としては水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒が好ましく、なかでも、水が好ましい。溶媒に酸又は塩基を添加して錯体形成に好適なpHに調節してもよい。
【0032】
反応温度は、−20〜150℃が好ましく、0〜120℃がより好ましい。反応時間は1〜48時間が好ましく、2〜24時間がより好ましい。
【0033】
反応が終了したことはガスクロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、溶媒による洗浄後、100℃程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。結晶性の高い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が優れている。結晶性を高めるには、酸又は塩基を用いて適切なpHに調整すればよい。
【0034】
金属錯体は一般的に成形した分離材として使用される。金属錯体を含む分離材は、例えばビーズ、リング、ストランド、若しくはタブレットに成形した不規則充填物として、又は規則構造体、例えば規則充填物、ハニカム体、若しくはモノリスとして使用することができる。
【0035】
<炭化水素ガスの分離方法>
本発明の一実施態様に係る炭化水素ガスの分離方法では、分離対象である目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを本発明の前記分離材と接触させ、目的の炭化水素ガスを前記分離材に選択的に吸着させ、その後、前記分離材に吸着された目的の炭化水素ガスを前記分離材から脱着させて、脱離してくる目的の炭化水素ガスを捕集する。
【0036】
目的の炭化水素ガスとしては、特に1,3−ブタジエンが挙げられる。混合ガスに含まれる他のガスは特に限定されないが、沸点が1,3−ブタジエンと近いため従来の分離材では分離が困難な、イソブテン、1−ブテン、2―ブテン、ノルマルブタン、イソブタン等の炭素数4の炭化水素を他のガスとして含む混合ガスから1,3−ブタジエンを分離する際に、本発明の分離材は特に有効である。
【0037】
その他の目的の炭化水素ガスとしては、エチレンが挙げられる。混合ガスに含まれる他のガスは特に限定されないが、沸点がエチレンと近いエタンを他のガスとして含む混合ガスからエチレンを分離する際に、本発明の分離材は特に有効である。
【0038】
混合ガスと分離材の接触は目的の炭化水素ガスのみが有効に分離材に吸着される温度、圧力条件を選択することが望ましい。
【0039】
分離方法は、目的の炭化水素ガスが分離材に吸着できる条件で、混合ガスと本発明の分離材とを接触させる吸着工程を含む。ガスが分離材に吸着できる条件である吸着圧力及び吸着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、吸着圧力は0.01〜0.99MPaが好ましく、0.05〜0.20MPaがより好ましい。また、吸着温度は−10〜100℃が好ましく、10〜50℃がより好ましい。
【0040】
分離方法は、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法とすることができる。
【0041】
分離方法が圧力スイング吸着法である場合は、目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、目的の炭化水素ガスをのみを分離材に選択的に吸着させた(吸着工程)後、圧力を、吸着圧力から吸着したガスを分離材から脱着させることができる圧力まで減圧する工程(再生工程)を含む。脱着圧力は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着圧力は0.005〜0.19MPaが好ましく、0.01〜0.1MPaがより好ましい。
【0042】
分離方法が温度スイング吸着法である場合は、目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、目的の炭化水素ガスをのみを分離材に選択的に吸着させた(吸着工程)後、温度を、吸着温度から吸着したガスを分離材から脱着させることができる温度まで昇温する工程(再生工程)を含む。脱着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着温度は0〜200℃が好ましく、20〜150℃がより好ましい。
【0043】
分離方法が圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である場合、ガスと分離材とを接触させる工程(吸着工程)と、ガスを分離材から脱着させることができる圧力又は温度まで変化させる工程(再生工程)を、適宜繰り返すことができる。
【0044】
上記以外の分離方法として膜分離も挙げられる。分離膜は金属錯体を多孔質支持体の表層部に結晶成長させることで得ることができる。多孔質支持体の材質としては、例えばアルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトなどのシリカ又はアルミナとその他の成分よりなる組成物、多孔質の焼結金属、多孔質ガラスなどを好適に用いることができる。また、ジルコニア、マグネシアなどの他の酸化物若しくは炭化珪素、窒化珪素などの炭化物若しくは窒化物等のセラミックス類、石膏、セメント等、又はそれらの混合物を用いることができる。多孔質支持体の気孔率は、通常30〜80%程度であり、好ましくは35〜70%、もっとも好ましくは40〜60%である。気孔率が小さすぎる場合にはガスなどの流体の透過性が低下するので好ましくなく、大きすぎる場合には、支持体の強度が低下して好ましくない。また、多孔質支持体の細孔径は、通常10〜10,000nm、好ましくは100〜10,000nmである。金属錯体を多孔質支持体の表層部に結晶成長させて得られる分離膜は、金属錯体の原料を含む溶液中に多孔質支持体を含浸させ、必要に応じて加熱することによって得られる。
【0045】
また、分離膜は本発明の金属錯体を高分子化合物と混練し、フィルム状に成形することによっても得ることができる。高分子化合物としてはポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ポリジメチルシロキサンなどのガス分離膜用高分子化合物が挙げられる。
【0046】
膜分離では目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離膜に接触させた場合、混合ガス中の各ガスの透過率Pは各ガスの膜への溶解度Sと膜中での拡散係数Dの積で表される。透過率Pが高いガスほど選択的に膜を透過するため、このようなガスを混合ガスから分離回収することが出来る。よって、目的の炭化水素ガスの選択性が高い、本発明の金属錯体を膜化することにより、目的の炭化水素ガスを選択的に透過させる膜を得ることが出来る。例えば、気体不透過性の外管と分離膜からなる内管とを備えた二重管の内管へ混合ガスを通気すると、目的の炭化水素ガスが選択的に内管を透過し、外管と内管の間に濃縮されるのでこのガスを捕集することで目的の炭化水素ガスを分離することが可能となる。
【0047】
目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンであり、他のガスが炭素数4の炭化水素である混合ガスの場合に本発明の分離材を用いて1,3−ブタジエンを分離する方法を述べる。
【0048】
分離する混合ガス中の1,3−ブタジエンの割合は様々な値を取ることができるが、この割合は混合ガスの供給源に大きく依存する。1,3−ブタジエンの他に、混合ガスは少なくともイソブテン、1−ブテン、2−ブテン、ノルマルブタン、イソブタン等の炭化水素を含み、さらに他の炭化水素を含んでもよい。混合ガスは好ましくは、混合ガス中にある1,3−ブタジエンと他の炭化水素(複数種であってもよい)の体積割合の合計に対して、1,3−ブタジエンを10〜99体積%含む。より好ましくは、1,3−ブタジエンの割合が20〜60体積%である。圧力スイング法の場合、吸着圧力は0.10〜0.99MPaが好ましい。脱着圧力は0.005〜0.1MPaが好ましい。また、温度は0〜100℃が好ましい。温度スイング法の場合、吸着温度は0〜50℃が好ましい。脱着温度は50〜150℃が好ましい。また、圧力は0.01〜0.3MPaが好ましい。
【0049】
次に、目的の炭化水素ガスがエチレンであり、他のガスがエタンである混合ガスの場合に本発明の分離材を用いてエチレンを分離する方法を述べる。
【0050】
混合ガスは好ましくは、混合ガス中にあるエチレンと他の炭化水素(複数種であってもよい)の体積割合の合計に対して、エチレンを10〜99体積%含む。より好ましくは、エチレンの割合が20〜80体積%である。圧力スイング法の場合、吸着圧力は0.10〜0.99MPaが好ましい。脱着圧力は0.005〜0.1MPaが好ましい。また、温度は0〜100℃が好ましい。温度スイング法の場合、吸着温度は0〜50℃が好ましい。脱着温度は50〜150℃が好ましい。また、圧力は0.01〜0.3MPaが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例における分析及び評価は以下のようにして行った。
【0052】
(1)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を423K、50Paで6時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
【0053】
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−18HT
平衡待ち時間:500秒
【0054】
<合成例1>
金属錯体(1):[Ca(C)(HO)](M:Ca、n=2、Y:HO、a=1、b=0、c=1)の合成
【0055】
室温大気下において、ナスフラスコ(300mL)に塩化カルシウム(2.26g、20mmol、5.0eq.)、酢酸(2.40mL、40mmol、10eq.)、酢酸ナトリウム(6.42g、80mmol、20eq.)を入れ、純水(100mL)を加えた。さらに、四角酸(0.45g、4mmol、1.0eq.)と水酸化ナトリウム(0.36g、9mmol、2.0eq.)を純水(40mL)に溶解させた溶液を滴下して加えた。混合溶液を室温(25℃)で8時間攪拌した後、得られた白色固体を桐山漏斗(登録商標)でろ過し、純水、メタノールで順に洗浄し、乾燥して、白色粉体(金属錯体(1)[Ca2+(C2−)(HO)])を得た(収量:0.40g)。
【0056】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体(1)について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテン及びノルマルブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を図2に示す。
【0057】
<比較例1>
代表的な吸着材として、NaY型ゼオライト(HS−320、和光純薬より入手)について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテン及びノルマルブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を図3に示す。
【0058】
<比較例2>
代表的な多孔性金属錯体として、Basosiv(商標)M050(アルドリッチ社製)について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテン及びノルマルブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を図4に示す。
【0059】
図2図3及び図4の比較より、本発明の金属錯体は室温において1,3−ブタジエンを選択的に吸着するので、1,3−ブタジエンの分離材として優れていることは明らかである。
【0060】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、25℃におけるエチレン及びエタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を図5に示す。
【0061】
<比較例3>
代表的な吸着材として、NaX型ゼオライト(ユニオン昭和(株)製モレキュラーシーブ13X)について、25℃におけるエチレン及びエタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を図6に示す。
【0062】
図5及び図6の比較より、本発明の金属錯体は室温においてエチレンを選択的に吸着するので、エチレンの分離材として優れていることは明らかである。
図2
図3
図4
図5
図6
図1