特許第5955166号(P5955166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955166溶接性に優れる高耐熱、高耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955166
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】溶接性に優れる高耐熱、高耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   B23K35/30 320B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-193003(P2012-193003)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-46358(P2014-46358A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100172269
【弁理士】
【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】日笠 裕也
(72)【発明者】
【氏名】多田 好宣
(72)【発明者】
【氏名】天藤 雅之
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−035988(JP,A)
【文献】 特開平04−141559(JP,A)
【文献】 特開平09−225680(JP,A)
【文献】 特開2004−160541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.030%以下、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下,S:0.030%以下,Cr:15.0〜25.0%,N:0.030%以下,Mo:1.0〜2.5%,Nb:0.2〜1.0%,Ti:0.002〜0.040%,Al:0.001〜0.005%,Ca:0.0001〜0.0070%,Mg:0.0001〜0.001%,O:0.0005〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物から構成され、(C+N)が0.035%以下であ、下記式(1)が0.01〜1.30、且つ下記式(2)が0.0090〜0.1700であることを特徴とする溶接性に優れる高耐熱、高耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
(C+N)/(Nb-4Ti)/Si・・・(1)
(S+5Al+5O+Ca+10Mg)・・・(2)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有質量%を意味する。
【請求項2】
介在物組成中のAl、Ca濃度が、共に、各々30質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接性に優れる高耐熱、高耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品、厨房機器、自動車排気機器部品等に使用されるフェライト系ステンレス鋼の溶接ワイヤに関し、過酷環境下(腐食、高温環境)においても、高耐熱性、耐食性に優れる溶接部を与え得るとともに、溶接時の溶接特性にも優れたフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤに関わるものである。
【背景技術】
【0002】
溶接構造物として適用されるフェライト系ステンレス鋼の溶接材料として、JIS Z 3321で規定されたY430が使用される。しかし、溶接時に高温となるためCr炭化物が析出し、溶接部の粒界腐食性が問題となっている。そこで、溶接部の耐食性低下を改善するため、溶接ワイヤの(Nb+Ti)/(C+N)やCu、Mo等の成分を規定するとともに、鋼線の表面性状、耐力を制御することで溶接部の耐食性低下を防止することが提案されている(特許文献1)。しかしながら、高温環境下で使用した場合、高い機械強度を得ることができないばかりか、過酷な腐食環境下では粒界腐食が起こり、耐食性を満足できていない。
【0003】
また、フェライト系ステンレス鋼は、熱膨張係数も小さく、耐高温酸化性も優れることから、高温腐食ガス環境下で使用される部品に多く使われている。
近年の環境問題の高まりから、熱効率の向上のための使用温度の高温化が検討されている。使用温度の高温化により溶接部では結晶粒が粗大化し、高温での機械強度が低下する。そこで、Nb量を増加させ、溶接時にB炭化物を結晶粒界に生成させ、微細な結晶粒を溶接部に与え得るとともに、B炭化物のピン止め効果により粗大化を抑制することが提案されている(特許文献2)。しかし、Nb量が高いと溶接時に高温割れが発生し、溶接時の作業性が低下してしまう。
【0004】
高いNb量においても、(C+N)量、Nb量、Si量の関連で10(C+N)/Nb/Siを或る範囲で制御することで溶接割れの発生を防止して、耐溶接割れ性を向上させることが提案されている。しかし、溶接後の温度が高温に維持されるような構造部へ溶接を行うと溶接割れが発生するため、生産性を落とす原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−132515号公報
【特許文献2】特開2012−11426号公報
【特許文献3】特開平9−192879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高温環境、腐食環境下などの過酷環境下においても、高い高温強度と溶接部で優れた耐粒界腐食性を合わせて有するとともに、優れた溶接性(耐高温割れ性、溶接作業性)を同時に有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、耐粒界腐食性、高温強度を向上させるためには、Nb、Mo等の成分規定が有効なことを見出した。また、溶接時の高温割れを抑制するためには、微量のTi量を厳密に制御すること、及び、(C+N)/(Nb-4Ti)/Siを特定の範囲に制御することが有効であることを見出した。また溶接性(耐スパッタ性)を向上させるためには、(S+5Al+5O+Ca+10Mg)を制御することが有効であることを見出した。以上のことで、溶接部の優れた耐粒界腐食性と高温環境下での高い高温強度を合わせて有するとともに、溶接時の耐高温割れ性、溶接作業性(耐スパッタ性)を同時に有する安価なフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤが得られることを見出した。本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
【0008】
(1)質量%で、C:0.030%以下、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下,S:0.030%以下,Cr:15.0〜25.0%,N:0.030%以下,Mo:1.0〜2.5%,Nb:0.2〜1.0%,Ti:0.002〜0.040%,Al:0.001〜0.005%,Ca:0.0001〜0.0070%,Mg:0.0001〜0.001%,O:0.0005〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物から構成され、(C+N)が0.035%以下であり、下記式(1)が0.01〜1.30であり、且つ下記式(2)が0.0090〜0.1700であることを特徴とする溶接性に優れる高耐熱、高耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
(C+N)/(Nb−4Ti)/Si ・・・(1)
(S+5Al+5O+Ca+10Mg) ・・・(2)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有質量%を意味する。
(2)介在物組成中のAl、Ca濃度が、共に、各々30質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接性に優れる高耐熱、高耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、高温環境下、腐食環境下などの過酷環境下においても、溶接部で高い高温強度と、優れた耐粒界腐食性を合わせて有するとともに、優れた溶接性(耐高温割れ性、溶接作業性)を同時に示すフェライト系ステンレス鋼用の溶接ワイヤを提供することができる。
【0010】
したがって、家電製品、厨房機器、自動車排気系部品などに使用されるフェライト系ステンレス鋼製構造体の信頼性を長期にわたって確保し、かつ溶接部のメンテナンス性改善による経済性効果など、本発明により民生分野の産業の発展に貢献するところは極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、先ず、本発明の請求項1記載の限定理由について説明する。なお、%の表記は、特に断りのない場合は質量%を意味する。
【0012】
C、Nは、耐食性に寄与するCrと結合してCr炭化物、Cr窒化物を析出し、その結果、Cr炭窒化物の近傍にはCr欠乏層が形成され、耐食性が低下する。そのため、CおよびNを出来るだけ少なくすることが必要である。そのため、本発明ではそれぞれの上限を0.030%以下とした。好ましくは、0.020%以下である。また、極度に低減させることは、製造コストアップにつながるため、下限を0.004%とすることが好ましい。さらに、C+Nを0.035%以下とした。好ましくは0.030%以下である。
【0013】
Siは、脱酸元素として添加されるとともに、溶接ワイヤの耐高温割れ性を向上させるのに有効な元素である。0.1%未満であると耐高温割れ性の向上が不十分であり、1.0%より多く含有すると溶接部の延性が劣化するため、0.1〜1.0%とした。好ましくは、0.2〜0.6%である。
【0014】
Mnは、脱酸元素として添加するが、その含有量が1.0%を超えて添加すると溶接部の延性が劣化するため、その上限を1.0%とした。好ましくは、0.2〜0.7%である。
【0015】
Pは、原料から不可避的に混入する元素であり、含有量が多いと溶接割れを生じやすくなるばかりか、溶接部の延性劣化や、耐食性を低下させるため、上限を0.040%とした。
【0016】
Sは、原料から不可避的に混入する元素であり、含有量が多いと溶接割れを生じやすくなるばかりか、熱間加工時に割れが発生しやすくなり、製造性を劣化させるばかりか、溶接部の延性劣化や、耐食性を低下させるため、上限を0.030%とした。
【0017】
Crはフェライト生成元素であり、不動態被膜を形成し、溶接部の耐食性を付与する主要元素である。しかし、15.0%未満では十分な耐食性は得られない。一方、25.0%より多く添加しても、効果の向上はさほど得られず、コストの上昇となるため、上限を15.0〜25.0%とした。好ましくは、16.0〜20.0%である。
【0018】
Moは、不働態被膜を安定化させ、高い耐食性を得るとともに、高い鋼管強度を得るのに有効な元素である。過酷環境下において、1.0%未満であると耐食性を維持できないばかりか、高温強度への寄与が小さい。しかし、2.5%を超えて添加するとその効果は飽和することばかりか、コスト上昇となるため、上限を2.5%とした。好ましくは、1.2〜2.2%である。
【0019】
Nbは、C、Nと結合して炭窒化物を形成し、C、Nを固定することでCr炭窒化物の析出を抑え、溶接部の耐食性を向上させるとともに、高温強度を上昇させる。0.2%未満であるとその効果は得られない。一方、1.0%超の添加は高温割れが発生するため、0.2〜1.0%とした。好ましくは、0.30〜0.80%である。
【0020】
Tiは、Nbと同様にC、Nと結合して炭窒化物を形成し、C、Nを固定してCr炭窒化物の析出を抑え、溶接部の耐食性を向上させる。また、炭窒化物を形成することにより、粗大なNb炭窒化物の析出を抑制し、高温割れを防止する。その効果は0.002%未満であるとTi窒化物の形成が少なく、効果が小さい。また、0.040%超添加すると、粗大なTi窒化物を形成し、線材製造時の表面疵発生の原因となる。そのため、0.002〜0.040%とした。好ましくは、0.003〜0.010%である。
【0021】
Alは、脱酸元素として添加される。0.001%未満であるとその効果は少ない。0.005%超添加すると溶接部の靭性が劣化するとともに、スパッタが発生し易くなり、溶接作業性が低下する。そのため、0.001〜0.005%とした。好ましくは、0.002〜0.004%である。
【0022】
Caは、脱酸元素として添加される。0.0001%未満であるとその効果は少ない。0.0070%超添加すると溶接時にスパッタが発生し易くなり溶接作業性が低下する。そのため、0.0001〜0.0070%とした。好ましくは、0.0002〜0.0020%である。
【0023】
Mgは、脱酸元素として添加される。0.0001%未満であるとその効果は少ない。また、Mgはその他の添加合金に微量に含有するため、0.0001%未満にするためには、高純度の合金を使用しなければならず、コストUPになる。したがって、下限を0.0001%とした。0.001%超添加すると溶接時にスパッタが発生し易くなり、溶接作業性が低下する。そのため、0.0001〜0.001%とした。好ましくは、0.0002〜0.0007%である。
【0024】
Oは、不可避成分であるため、0.0005%未満にするためには、精錬時間が長時間になり、製造性を低下させコストUPとなるため、下限を0.0005%とした。過剰な含有は多くの粗大な酸化物を生成させ、溶接部の靭性を低下させるため、上限を0.020%とした。好ましくは、0.0001〜0.0070%である。
【0025】
式(1)は、溶接時の高温割れ防止に関する指標である。つまり、上述したように本発明ではSiを適量添加することで、Nb炭窒化物の粒界析出を抑制し、さらに、Tiを微量添加することで、TiNを先に析出させ、Nb炭窒化物の粗大析出を防止し、微細に析出させることにより、高温割れが抑制できることを見出したことを特徴の1つとしている。
【0026】
例えば、Si量が少ないと高温割れの向上が十分でなく、Nb量が多いと耐食性は満足するものの、高温割れが発生しやすくなる。また、Ti量が多いと、高温割れは抑制されるものの、粗大なTi窒化物が形成され、表面疵等製造性に問題が発生する。このようなSi、Nb、Tiと(C+N)の関係を種々実験によって明確化した結果、(C+N)/(Nb-4Ti)/Siにおいて0.01〜1.30の範囲であれば高温割れを抑制できることを知見した。0.01未満であると、高温割れが発生する。また、1.30超でも、高温割れが発生する。好ましい範囲は0.05〜0.40であり、更に好ましくは0.05〜0.30である。
(C+N)/(Nb-4Ti)/Si ・・・(1)
【0027】
式(2)は、溶接時のスパッタ抑制に関する指標である。本発明者らは、Al、Ca、Mgを一定の割合で制御し、これらの元素と酸化物、硫化物を生成させるS、Oをある一定の範囲で制御することで溶接時のスパッタを抑制し、溶接作業性が向上することを見出した。式(2)の値が0.0090より低いと、精錬時間の増加により製造コストが高くなり、逆に0.1700より高いと、制御しきれずに、スパッタが発生してしまう。したがって、式(2)において0.0090〜0.1700の範囲であるようにすることが望ましい。好ましい範囲は、0.0100〜0.1000であり、更に好ましくは、0.0200〜0.0800である。
(S+5Al+5O+Ca+10Mg) ・・・(2)
【0028】
本発明の請求項2記載の限定理由について述べる。
先に述べたようにAl、Caはスパッタを発生させ、溶接作業性を低下させる元素である。また、Al、CaはOと介在物を形成し易く、介在物中のAl、Ca濃度が30%以上であれば、スパッタの発生を抑制することを見出した。
なお、本発明の溶接ワイヤの製造方法の一例として、請求項1または2を満たす熱間圧延材について1次伸線加工を行ったのち、1000〜1100度のストランド熱処理を行い、2次伸線加工を行うことが挙げられる。但し、本発明の製造方法はこれに限定されるものではなく、本発明の効果が得られる範囲で適宜設定することが出来る。
【実施例1】
【0029】
以下に本発明の実施例について説明する。
表1に実施例の、また表2に比較例の鋼の化学組成を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
これらの化学組成の鋼は、150kgの真空溶解炉にて溶解し、φ180mmの鋳片に鋳造後、熱間の線材圧延を行った後、φ3.15mmまで冷間伸線加工を施した。その後、1050℃で熱処理を行った後、再び冷間伸線加工によりφ1.2mmの溶接ワイヤを作製した。
【0033】
板厚2mmのフェライト系ステンレス鋼を母材とし、表1、2の溶接ワイヤを用いて突き合せMIG溶接を行った。溶接条件は、溶接電流:150〜200A、アーク電圧:23〜31V、溶接速度:30〜40cm/min、98%Ar+2%O2シールドガス流量:20リットル/minとした。
【0034】
表3に実施例の、また表4に比較例の結果を示す。
溶接性の評価は、溶接後割れ(高温割れ)が確認されるものを×、発生が無いものを○とした。また、溶接作業性についてスパッタの発生有無で評価し、スパッタが発生するものを×、発生しないものを○とした。
本発明例については何れの鋼種も高温割れ、スパッタの発生は確認されなかった。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
高温強度の評価のため、それぞれの溶接継手からJIS Z 3111溶着金属の引張試験方法に準拠し、溶接部から溶接方向に沿って試験片を切り出した。試験は900℃で15min保持後破断まで引張加工を行い、その時の引張応力が55MPa以上あるかどうかで評価を行った。また、耐食性評価はJIS G 0575ステンレス鋼の硫酸・硫酸銅腐食試験に従い、試験片を溶接部が試験片中央に位置するように採取し行った。曲げ加工後の試験片の断面を鏡面研磨した後、光学顕微鏡200倍で観察を行い、粒界腐食が観察されるものは×、観察されなかったものを○とした。溶接部の延性はJIS Z 3128の衝撃試験方法に従い、切り欠き位置を溶接金属とした2mmサブサイズ試験片を用いて常温でシャルピー試験を実施し、吸収エネルギーが10J以上を○、10J未満を×として評価した。
【0038】
本発明例では、何れの鋼種も55MPa以上の良好な高温強度が得られた。また、耐食性評価では、本発明例は何れの鋼種にも粒界腐食は観察されなかった。溶接部の延性についても何れの鋼種も10J以上の吸収エネルギーを示した。
【0039】
介在物の組成は素材の横断面について埋め込み・鏡面研磨を行ったものについて、任意に10個の介在物について走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のEDS分析により、組成を分析し、その平均値を以って評価を行った。
本発明例では何れの鋼種も30%以上のAl、Caが観察された。
【0040】
表2に示す比較例において、規定する成分などが外れた鋼は高温割れ、スパッタの発生により溶接作業性の低下、高温強度不足、耐粒界腐食性不足、溶接部の延性不足、製造性不足、コストアップのいずれかの項目で目標の抑制を満たしていなかった。即ち比較例では、製造性の劣化、コストアップ無しに、溶接部で高い高温強度と優れた耐粒界腐食性を合わせて有するとともに優れた溶接性(耐高温割れ性、溶接作業性)を満足できておらず、本発明鋼の優位性が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上の各実施例から明らかなように、本発明により、高温環境、腐食環境下などの過酷環境下においても、溶接部で高い高温強度と、優れた耐粒界腐食性を合わせて有するとともに、優れた溶接性(耐高温割れ性、溶接作業性)を同時に示すフェライト系ステンレス鋼用の溶接ワイヤを安価に提供することができ、産業上極めて有用である。